授業には何とかギリギリ間に合いました。本当にギリギリだ。呼吸をする度に肩も上下に動いてしまう。授業前でこれって体力削られすぎ。
一組二組が綺麗に整列して、千冬さんの言葉をしっかり聞く。
「今日も各自専用機持ちや、見回る教師に教えてもらえ。白雪はまたこっちに来い」
知ってた。
授業が終わって更衣室へ。射撃楽しいね。ビームマグナムにビームガトリング、アームド・アーマーのメガキャノン照射。ロマンがあって楽しかった。
ちなみにビームマグナムは威力が高くて一発しか撃てなかった。今度からどこに撃ち込もう?
「夕はいいよなぁ……ビームマグナム使えて」
ロッカーで着替えていると、一夏が羨ましそうにこちらを見つめる。
「ビームマグナムって……もしかして、夕が撃ったあの大きな音がしたビーム?」
何故か着替え始めないシャルルが一夏に尋ねる。
「それそれ。あー……撃ちたかったなぁ」
一夏が自分の頭をロッカーに当てる。テンションだだ下がりじゃないか。そして着替えのペースも遅くなった。
「アリーナの予約しろ。そうすれば好き放題撃てるぞ」
「もうやった」
「早いな。いつだ?」
「今週の休みの午後」
つまり、一夏はそれまでお預けって事か。キツいな。
「ラストシューティングすればいいんじゃない? 空に向けてズキューン」
「やってもいいけど、結局他の皆に迷惑だろ」
そこは冷静なんだ。
「確かに。千冬さんにも怒られちゃうな」
実は俺もちょっとだけ叱られた。ごめんなさい。
「だから最初から撃たない」
説教されるのが目に見えているから、一夏はまだ我慢出来ると。
「シャルル。俺達外で待ってるからゆっくり着替えてくれ」
俺も制服を着て一夏も着替えが完了。
一夏に肩を組まれて俺達は更衣室を退出。
「ごゆっくりー」
俺は扉が閉まる前に、最後にそう言い残した。
一夏が更衣室の入口から少し離れた場所まで、肩を組んだまま俺を連れていく。
(どうした?)
何となく小声にしとく。
(シャルルってさ、女じゃない?)
一夏が突然、シャルルの性別を疑い始めた。
(何で?)
(さっきあいつの腰を抱いた時があってさ、男とは思えない柔らかさがあった)
え? セクハラ?
(後、男じゃありえない匂い)
何嗅いでんだよ。
(それで?)
(骨格も男の部分があまり見当たらない。顔喉仏肩肋骨くびれ骨盤)
ちょちょちょちょちょこわいこわいこわい。どこまで分析してるんだ。観察というかお触り?
(よくある男装キャラの特徴が結構)
色々な事を調べた結果か。
(なるほど……で、どうするの?)
(とりあえずこのまま様子見。本当に男で属性が男の娘な可能性もあるし)
こいつは何を知ろうとしているんだ。まぁ、シャルルは確かに怪しげだが。
(別に俺は三人目の男がいる事は構わない。俺達のデータが役に立ったって事だからな。でも、今のシャルルは疑わしい部分ばかりあるから、俺はその真実を知りたいんだ)
俺達のデータが世界をまた一つ変えたかもだから、それが良いか悪いかは別の話として、真相を知りたいんだろう。ま、俺は別に何だろうと構わん。ご自由に。
(そうか。俺はクラスが違うから、あまり関われないが頑張れよ)
(おう! 無理矢理じゃない範囲で調べてみる)
こいつは新たなわくわくを見つけたらしい。よかったな、一夏。日々の楽しみが増えたぞ。
俺と一夏は離れて、シャルルが更衣室から出てくるのを待った。
「ごめん一夏、夕」
数分待ったらシャルルが出てきた。
「いや、全然待ってない」
俺と一夏は歩き始め、シャルルがそれに追いつく。そしてシャルルは一夏と腕を組んだ。
ちょっと待って。性別を偽ってるんだとしたら、それ本当に偽ってるの? というか、一夏の言葉で皆腕に抱きついていた事を思い出した。これがイケメンというブラックホールか。やべーな、俺も吸い込まれたい。
「お好きにどうぞ」
俺には全く関係ないからどうでもいいね。
お昼になりました。さぁ、昼食だ。
「夕! 食堂に行こ!」
笑顔で寄ってきた鈴に手を掴まれてから、そのまま腕に抱きついてきた。これももう恒例だ。
「よしよし」
空いてる手で鈴の頭を撫でる。俺、鈴と結婚します。守りたい、この笑顔! マモレナカッタ……俺の理性……。
廊下に出て歩きながら鈴の頭を撫でていると、その手を誰かに持っていかれた後、抱かれた。
「余ってる方いただき!」
楯無さんだ。珍しいな、ここに来るなんて。
「こんにちは楯無さん。珍しいですね」
鈴は楯無さんを睨み、楯無さんはどこ吹く風。今日は風が騒がしいな。
「たまには遊びに来ないとね」
そうですか。でも楯無さんが手に持っている扇子が、俺の腕に押しつけられて痛い。
「生徒会のお仕事はいいんですか?」
いつやってるんだろう、この人。
「仕事は常に片付けてきてるよ。想いが力を与えてくれるの」
「恋は盲目なんだから盛大にミスればいいのに……」
二人の時間を邪魔されたからか、不満な鈴ちゃんは小さく呟く。
「これが地の力よ」
あなた想いが云々とか言ってませんでした?
「痔ですか。汚い会長ですね」
鈴ちゃん!? 何て事を!
「蒙古斑がある子供は下がりなさい」
あなたも何を言い出すんだ!?
周囲の女子生徒達が、この二人のやり取りにクスクスと笑っている。ま、聞いている分には楽しいもんな。
「年寄りなんですね会長。もう肌年齢がお年寄りなんじゃないですか?」
「大丈夫。この前夕君にアドバイス貰ったから」
勝ち誇った顔で、鈴にそう告げた。
「へぇ……それってつまり、夕がいなきゃおばさんになってたって事よね?」
鈴も負けじと反撃。
「ハッ、何とでも言いなさい。この事実は揺るがない。消せない」
「くぅ……!」
鈴の初敗北か。見てる分には楽しい。だが後の事を考えると、くっそ辛い。やめてくれ。
食堂に着くと、一夏、箒、セシリアさん、シャルル、ラウラが一緒の席だった。居心地良くて悪そう。
セシリアさんと箒が、一夏の両端をガード。箒の隣がシャルル。ラウラの隣がセシリアさん。楽しそう。
「やぁ。これはこれは白雪ではないか。王と同様、早速捕らわれの身か姫よ?」
ラウラがこちらに気付いた。何だその言い回し。
(鈴ちゃん、この娘は……?)
楯無さんが俺の背中から鈴に話し掛けた。え? 生徒会長なら知ってそうだけど。
(確かラウラ・ボーデヴィッヒって名前。一夏と夕の両方を手に入れようとする猛者よ)
鈴も楯無さんと同じように、俺の背中で情報を渡す。
「やれやれ……姫も王も災難だ。人の自由を奪う看守が多いな……この学園は」
肩を竦めて挑発をするラウラ。こいつこそ性別が男なんじゃ?
「だから私は、お前達二人をプリズンブレイクさせてみせよう」
片手を背もたれに乗せ、もう片方の手は天に掲げた。ちょっとこの人……この場の誰よりもヤバい。脱獄用の穴の中に沢山ネジを置いてきてしまったらしい。こんな人だとは思わなかった。
「本当に自由時間すら自由にされないとは。姫と王から給料は貰っているんだろう? 看守共よ。全く精が出るな」
多分、皆言い返せない。一応事実だからだ。
「さぁ、去れ看守共。これ以上は王や姫の身に負担が掛かるだけだ。そのままでは、お前達の大好きで大事な王と姫は、いずれ倒れるやも知れぬぞ?」
ラウラが席を立つ。言ってる内容はまともっぽい。
そしてラウラの言葉通りに、女性達皆が食堂から去っていった。残されたのは、俺と一夏とシャルル。皆さんまた後で。
「ほら、この手を取るんだ姫。来ないならこちらから行くぞ?」
ラウラが手を差し出したが、動かない俺に接近してきた。
「はいはい。行きますよ」
俺はラウラの隣を通る。
そして殴られた脇腹に、ラウラは手を添える。
「すまなかったな。もう少し優しくやるべきだった」
いや、最初からやるなよ。
「ほら、先に座れ」
ラウラを一夏の隣に押し込む。
「いい気遣いだ。感謝する」
俺がラウラの隣に座ると、そう言われた。
一夏とシャルルの顔を見てみると苦笑していた。意外と楽しんでるのね。
「さて。これで一時的とは言え追い払った」
腕を組んでふんぞり返っている。
「別にあのままでもよかったぞ」
一夏がそう言った。
「何を言う。疲労という物は、いつの間にか蓄積されていくんだ。たまには一人の時間を確保しないと潰れるぞ?」
あら、心配してくれてる。
「言いたい事はわかるけど、俺は気にしないのに」
「王の意志がどうこうではないのだ。倒れればあの看守は王と姫を必ず心配する。それだけの事だ」
なるほど……一理あるかも?
「そうか。サンキュー、ラウラ。心配してくれて」
「私は王と姫を必ず手に入れる。だから、それまで看守達の事を耐えてくれ。それが私への礼になる」
ありがとうを言いたいなら、私の物になれって事? そんな解釈が可能だ。飛躍しすぎ?
「そういえばシャルルは対象外なのか?」
ラウラの話題を変えて、シャルルの話に一夏は変えた。
「そこの王子か。悪くは無いが、私にはピンと来ない」
ラウラはシャルルを視界内に入れながら、ばっさり切り捨てた。
「ボクは対象外か。嬉しいやら悲しいやら」
シャルルは苦笑いだ。
「まぁ、それはそれで複雑だよな」
シャルルと一夏が笑い合う。
「何だ? 構ってほしそうだな姫よ」
いや、別にほっといてくれてもいい。というか、そもそも姫って何だよ。
「ラウラ。唐突でさっきから気になったんだが、俺が王で夕を姫って呼ぶのは何でだ?」
俺は特別気にはならないし気に入っているが、一夏は気になったらしい。一応感謝しよう、一夏さんや。
「織斑一夏は始まりだからだ。そして白雪夕はお前の名を一文字変えただけだ。王子に一回そう名乗っただろう?」
「あぁ、あれか」
白雪って聞いたら真っ先に白雪姫を浮かべるんじゃない?
「それも一つだが、後もう一つだけ理由はある。姫の髪は長い」
あ、それね。少し納得。
「それで姫って呼ぶ訳だ。嫌いじゃないだろ?」
「うん」
「さて、話はこのぐらいにして食事だ。姫よ、私が奢るから好きな物を頼め。今日は豚箱の臭い飯より豪勢にしてやろう」
「失礼な言葉だねぇ」
「そんな設定も嫌いじゃないだろ?」
「ん」
という訳で、高い肉頼みました! 人の金最高!
昼食が終わり俺達四人は教室へ。三人と別れて二組の教室へと入った。
「あら、夕君」
「あ、夕」
俺の席で会長が座り、鈴は自分の席で座っている。飯はどうした?
「夕君の席を温めておきました」
猿飛かよ。いや、秀吉か。いや、どちらでもいいからどいておくれ。
口には出さず、俺は楯無さんと鈴の間に立つ。
「ラウラはどうだった?」
どうやら鈴は気になったらしい。そりゃ気になるか。
「姫と王を手に入れるって言ってた」
重要な部分だよな?
「やっぱり逆ハー狙いなんだ」
「逆ハーって?」
楯無さんが聞き慣れない単語に反応し、鈴の方を向く。
「夕と私と会長、それぞれの性別を変えた物が逆ハー。つまり逆ハーレム」
鈴がわかりやすく楯無さんに説明。多分わかるだろう。
「一番茨な道ね」
理解した楯無さんが、閉じてある扇子を口元に当てながら呟く。
「ま、確実に二人は靡かないでしょうね。片方手に入れるのも一苦労なのに」
鈴が肩を竦めている。ラウラとは違う印象を受けるなぁ。
「つまり私達の共通の敵って事でいいんだよね?」
「そうなるわ。これで夕君の守りは強固になった」
第三の敵が出たから手を組む。よくある話だが、そのままでも君ら結構仲良かったやん。
「頑張ろう鈴ちゃん!」
「会長もね!」
そして楯無さんと鈴は握手を交わした。俺、この二人の仲を裂くかも知れないのかよ……。
放課後。鈴ちゃんは部活。
俺は一組の教室に向かった。
「箒っ! 俺……お前の事、絶対に忘れないからっ!」
ん?
「一夏っ! 私もお前の事は絶対に忘れないぞっ!」
一組の教室から一夏と箒の叫び声がした。廊下まで丸聞こえじゃないか。
「だから……だから、困った時があったらすぐ駆けつけるっ!」
「私もだ! 何かあったら、私もお前の元へ駆けつけるっ!」
「またなっ! 箒っ!」
「またなっ!一夏っ!」
俺は後ろの入口から教室内を覗く。
箒と一夏が教室で抱き合っていた。他の生徒もそこそこ残って、二人の事を静かに見守っている。
「元気でな。いつでも来い」
「ああ、いつでも遊びに行ってやる」
なるほど。何かあったらしい。
「じゃあな、箒。また明日」
「また明日だ。一夏」
そしてキスはしなかった。おい、頑張れよ箒。勢いに任せてガッとやってチュッチュッすればいいのに。鈴とかガンガン攻めてくるぞ。
「あ、夕」
「うん。どうした?」
気付いた一夏に声を掛けられた。箒を抱いたまま。そして横顔が幸せそうな箒。
「実は箒と部屋が別々になってな」
「聞いてくれ夕。これが権力ってやつだ」
箒は一夏の胸に顔を埋めたまま喋る。顔をこっちに向けろ。
「そうか、残念だったな。ま、いつでも俺の部屋に来い。そしたらきっと会えるぞ」
『ああ!』
結婚しちゃえよ。
「部活にいってきます!」
箒が一夏から離れて教室の入口に向かう。
「いってらっしゃい!」
一夏は手を振って見送った。もう夫婦じゃん。
そして一夏から詳細を聞いた。シャルルと同じ部屋になるんだって。で、箒はラウラと一緒。へぇ、作意を感じる!
俺とラウラと一夏とシャルルは、部活が無い者同士一緒に寮へと向かう。
「さぁさぁ、王に姫に王子よ」
何だよ? 一夏と俺の子がシャルルみたいになってんじゃん。やだ、一夏に愛人がいる。
「私と共に茶でもどうかな?」
何でこの人いつも気障なの?
「ボクは遠慮しておくかな。これから寮に行って荷物を整理しないといけないし」
人差し指を顎に当て、上に視線をやりながらシャルルは断る。
「それなら王に手伝ってもらえばいい。黙って指をしゃぶる王ではないだろ?」
「おう。手伝うぞ」
「んー…………わかった。後にするよ」
少し考えて、シャルルは後回しにする事に決めた。
「では、行くぞ」
俺達三人はラウラの誘いを受けた。
行き着いた先は俺の部屋だった。なんでやっ!