IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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二十八話

 授業には何とかギリギリ間に合いました。本当にギリギリだ。呼吸をする度に肩も上下に動いてしまう。授業前でこれって体力削られすぎ。

 一組二組が綺麗に整列して、千冬さんの言葉をしっかり聞く。

 

「今日も各自専用機持ちや、見回る教師に教えてもらえ。白雪はまたこっちに来い」

 知ってた。

 

 

 

 

 授業が終わって更衣室へ。射撃楽しいね。ビームマグナムにビームガトリング、アームド・アーマーのメガキャノン照射。ロマンがあって楽しかった。

 ちなみにビームマグナムは威力が高くて一発しか撃てなかった。今度からどこに撃ち込もう?

 

「夕はいいよなぁ……ビームマグナム使えて」

 ロッカーで着替えていると、一夏が羨ましそうにこちらを見つめる。

 

「ビームマグナムって……もしかして、夕が撃ったあの大きな音がしたビーム?」

 何故か着替え始めないシャルルが一夏に尋ねる。

 

「それそれ。あー……撃ちたかったなぁ」

 一夏が自分の頭をロッカーに当てる。テンションだだ下がりじゃないか。そして着替えのペースも遅くなった。

 

「アリーナの予約しろ。そうすれば好き放題撃てるぞ」

 

「もうやった」

 

「早いな。いつだ?」

 

「今週の休みの午後」

 つまり、一夏はそれまでお預けって事か。キツいな。

 

「ラストシューティングすればいいんじゃない? 空に向けてズキューン」

 

「やってもいいけど、結局他の皆に迷惑だろ」

 そこは冷静なんだ。

 

「確かに。千冬さんにも怒られちゃうな」

 実は俺もちょっとだけ叱られた。ごめんなさい。

 

「だから最初から撃たない」

 説教されるのが目に見えているから、一夏はまだ我慢出来ると。

 

「シャルル。俺達外で待ってるからゆっくり着替えてくれ」

 俺も制服を着て一夏も着替えが完了。

 一夏に肩を組まれて俺達は更衣室を退出。

 

「ごゆっくりー」

 俺は扉が閉まる前に、最後にそう言い残した。

 一夏が更衣室の入口から少し離れた場所まで、肩を組んだまま俺を連れていく。

 

(どうした?)

 何となく小声にしとく。

 

(シャルルってさ、女じゃない?)

 一夏が突然、シャルルの性別を疑い始めた。

 

(何で?)

 

(さっきあいつの腰を抱いた時があってさ、男とは思えない柔らかさがあった)

 え? セクハラ?

 

(後、男じゃありえない匂い)

 何嗅いでんだよ。

 

(それで?)

 

(骨格も男の部分があまり見当たらない。顔喉仏肩肋骨くびれ骨盤)

 ちょちょちょちょちょこわいこわいこわい。どこまで分析してるんだ。観察というかお触り?

 

(よくある男装キャラの特徴が結構)

 色々な事を調べた結果か。

 

(なるほど……で、どうするの?)

 

(とりあえずこのまま様子見。本当に男で属性が男の娘な可能性もあるし)

 こいつは何を知ろうとしているんだ。まぁ、シャルルは確かに怪しげだが。

 

(別に俺は三人目の男がいる事は構わない。俺達のデータが役に立ったって事だからな。でも、今のシャルルは疑わしい部分ばかりあるから、俺はその真実を知りたいんだ)

 俺達のデータが世界をまた一つ変えたかもだから、それが良いか悪いかは別の話として、真相を知りたいんだろう。ま、俺は別に何だろうと構わん。ご自由に。

 

(そうか。俺はクラスが違うから、あまり関われないが頑張れよ)

 

(おう! 無理矢理じゃない範囲で調べてみる)

 こいつは新たなわくわくを見つけたらしい。よかったな、一夏。日々の楽しみが増えたぞ。

 俺と一夏は離れて、シャルルが更衣室から出てくるのを待った。

 

 

「ごめん一夏、夕」

 数分待ったらシャルルが出てきた。

 

「いや、全然待ってない」

 俺と一夏は歩き始め、シャルルがそれに追いつく。そしてシャルルは一夏と腕を組んだ。

 ちょっと待って。性別を偽ってるんだとしたら、それ本当に偽ってるの? というか、一夏の言葉で皆腕に抱きついていた事を思い出した。これがイケメンというブラックホールか。やべーな、俺も吸い込まれたい。

 

「お好きにどうぞ」

 俺には全く関係ないからどうでもいいね。

 

 

 

 

 お昼になりました。さぁ、昼食だ。

 

「夕! 食堂に行こ!」

 笑顔で寄ってきた鈴に手を掴まれてから、そのまま腕に抱きついてきた。これももう恒例だ。

 

「よしよし」

 空いてる手で鈴の頭を撫でる。俺、鈴と結婚します。守りたい、この笑顔! マモレナカッタ……俺の理性……。

 

 廊下に出て歩きながら鈴の頭を撫でていると、その手を誰かに持っていかれた後、抱かれた。

 

「余ってる方いただき!」

 楯無さんだ。珍しいな、ここに来るなんて。

 

「こんにちは楯無さん。珍しいですね」

 鈴は楯無さんを睨み、楯無さんはどこ吹く風。今日は風が騒がしいな。

 

「たまには遊びに来ないとね」

 そうですか。でも楯無さんが手に持っている扇子が、俺の腕に押しつけられて痛い。

 

「生徒会のお仕事はいいんですか?」

 いつやってるんだろう、この人。

 

「仕事は常に片付けてきてるよ。想いが力を与えてくれるの」

 

「恋は盲目なんだから盛大にミスればいいのに……」

 二人の時間を邪魔されたからか、不満な鈴ちゃんは小さく呟く。

 

「これが地の力よ」

 あなた想いが云々とか言ってませんでした?

 

「痔ですか。汚い会長ですね」

 鈴ちゃん!? 何て事を!

 

「蒙古斑がある子供は下がりなさい」

 あなたも何を言い出すんだ!?

 周囲の女子生徒達が、この二人のやり取りにクスクスと笑っている。ま、聞いている分には楽しいもんな。

 

「年寄りなんですね会長。もう肌年齢がお年寄りなんじゃないですか?」

 

「大丈夫。この前夕君にアドバイス貰ったから」

 勝ち誇った顔で、鈴にそう告げた。

 

「へぇ……それってつまり、夕がいなきゃおばさんになってたって事よね?」

 鈴も負けじと反撃。

 

「ハッ、何とでも言いなさい。この事実は揺るがない。消せない」

 

「くぅ……!」

 鈴の初敗北か。見てる分には楽しい。だが後の事を考えると、くっそ辛い。やめてくれ。

 

 

 

 

 食堂に着くと、一夏、箒、セシリアさん、シャルル、ラウラが一緒の席だった。居心地良くて悪そう。

 セシリアさんと箒が、一夏の両端をガード。箒の隣がシャルル。ラウラの隣がセシリアさん。楽しそう。

 

「やぁ。これはこれは白雪ではないか。王と同様、早速捕らわれの身か姫よ?」

 ラウラがこちらに気付いた。何だその言い回し。

 

(鈴ちゃん、この娘は……?)

 楯無さんが俺の背中から鈴に話し掛けた。え? 生徒会長なら知ってそうだけど。

 

(確かラウラ・ボーデヴィッヒって名前。一夏と夕の両方を手に入れようとする猛者よ)

 鈴も楯無さんと同じように、俺の背中で情報を渡す。

 

「やれやれ……姫も王も災難だ。人の自由を奪う看守が多いな……この学園は」

 肩を竦めて挑発をするラウラ。こいつこそ性別が男なんじゃ?

 

「だから私は、お前達二人をプリズンブレイクさせてみせよう」

 片手を背もたれに乗せ、もう片方の手は天に掲げた。ちょっとこの人……この場の誰よりもヤバい。脱獄用の穴の中に沢山ネジを置いてきてしまったらしい。こんな人だとは思わなかった。

 

「本当に自由時間すら自由にされないとは。姫と王から給料は貰っているんだろう? 看守共よ。全く精が出るな」

 多分、皆言い返せない。一応事実だからだ。

 

「さぁ、去れ看守共。これ以上は王や姫の身に負担が掛かるだけだ。そのままでは、お前達の大好きで大事な王と姫は、いずれ倒れるやも知れぬぞ?」

 ラウラが席を立つ。言ってる内容はまともっぽい。

 そしてラウラの言葉通りに、女性達皆が食堂から去っていった。残されたのは、俺と一夏とシャルル。皆さんまた後で。

 

「ほら、この手を取るんだ姫。来ないならこちらから行くぞ?」

 ラウラが手を差し出したが、動かない俺に接近してきた。

 

「はいはい。行きますよ」

 俺はラウラの隣を通る。

 そして殴られた脇腹に、ラウラは手を添える。

 

「すまなかったな。もう少し優しくやるべきだった」

 いや、最初からやるなよ。

 

「ほら、先に座れ」

 ラウラを一夏の隣に押し込む。

 

「いい気遣いだ。感謝する」

 俺がラウラの隣に座ると、そう言われた。

 一夏とシャルルの顔を見てみると苦笑していた。意外と楽しんでるのね。

 

「さて。これで一時的とは言え追い払った」

 腕を組んでふんぞり返っている。

 

「別にあのままでもよかったぞ」

 一夏がそう言った。

 

「何を言う。疲労という物は、いつの間にか蓄積されていくんだ。たまには一人の時間を確保しないと潰れるぞ?」

 あら、心配してくれてる。

 

「言いたい事はわかるけど、俺は気にしないのに」

 

「王の意志がどうこうではないのだ。倒れればあの看守は王と姫を必ず心配する。それだけの事だ」

 なるほど……一理あるかも?

 

「そうか。サンキュー、ラウラ。心配してくれて」

 

「私は王と姫を必ず手に入れる。だから、それまで看守達の事を耐えてくれ。それが私への礼になる」

 ありがとうを言いたいなら、私の物になれって事? そんな解釈が可能だ。飛躍しすぎ?

 

「そういえばシャルルは対象外なのか?」

 ラウラの話題を変えて、シャルルの話に一夏は変えた。

 

「そこの王子か。悪くは無いが、私にはピンと来ない」

 ラウラはシャルルを視界内に入れながら、ばっさり切り捨てた。

 

「ボクは対象外か。嬉しいやら悲しいやら」

 シャルルは苦笑いだ。

 

「まぁ、それはそれで複雑だよな」

 シャルルと一夏が笑い合う。

 

「何だ? 構ってほしそうだな姫よ」

 いや、別にほっといてくれてもいい。というか、そもそも姫って何だよ。

 

「ラウラ。唐突でさっきから気になったんだが、俺が王で夕を姫って呼ぶのは何でだ?」

 俺は特別気にはならないし気に入っているが、一夏は気になったらしい。一応感謝しよう、一夏さんや。

 

「織斑一夏は始まりだからだ。そして白雪夕はお前の名を一文字変えただけだ。王子に一回そう名乗っただろう?」

 

「あぁ、あれか」

 白雪って聞いたら真っ先に白雪姫を浮かべるんじゃない?

 

「それも一つだが、後もう一つだけ理由はある。姫の髪は長い」

 あ、それね。少し納得。

 

「それで姫って呼ぶ訳だ。嫌いじゃないだろ?」

 

「うん」

 

「さて、話はこのぐらいにして食事だ。姫よ、私が奢るから好きな物を頼め。今日は豚箱の臭い飯より豪勢にしてやろう」

 

「失礼な言葉だねぇ」

 

「そんな設定も嫌いじゃないだろ?」

 

「ん」

 という訳で、高い肉頼みました! 人の金最高!

 

 

 

 

 昼食が終わり俺達四人は教室へ。三人と別れて二組の教室へと入った。

 

「あら、夕君」

「あ、夕」

 俺の席で会長が座り、鈴は自分の席で座っている。飯はどうした?

 

「夕君の席を温めておきました」

 猿飛かよ。いや、秀吉か。いや、どちらでもいいからどいておくれ。

 口には出さず、俺は楯無さんと鈴の間に立つ。

 

「ラウラはどうだった?」

 どうやら鈴は気になったらしい。そりゃ気になるか。

 

「姫と王を手に入れるって言ってた」

 重要な部分だよな?

 

「やっぱり逆ハー狙いなんだ」

 

「逆ハーって?」

 楯無さんが聞き慣れない単語に反応し、鈴の方を向く。

 

「夕と私と会長、それぞれの性別を変えた物が逆ハー。つまり逆ハーレム」

 鈴がわかりやすく楯無さんに説明。多分わかるだろう。

 

「一番茨な道ね」

 理解した楯無さんが、閉じてある扇子を口元に当てながら呟く。

 

「ま、確実に二人は靡かないでしょうね。片方手に入れるのも一苦労なのに」

 鈴が肩を竦めている。ラウラとは違う印象を受けるなぁ。

 

「つまり私達の共通の敵って事でいいんだよね?」

 

「そうなるわ。これで夕君の守りは強固になった」

 第三の敵が出たから手を組む。よくある話だが、そのままでも君ら結構仲良かったやん。

 

「頑張ろう鈴ちゃん!」

 

「会長もね!」

 そして楯無さんと鈴は握手を交わした。俺、この二人の仲を裂くかも知れないのかよ……。

 

 

 

 

 放課後。鈴ちゃんは部活。

 俺は一組の教室に向かった。

 

「箒っ! 俺……お前の事、絶対に忘れないからっ!」

 ん?

 

「一夏っ! 私もお前の事は絶対に忘れないぞっ!」

 一組の教室から一夏と箒の叫び声がした。廊下まで丸聞こえじゃないか。

 

「だから……だから、困った時があったらすぐ駆けつけるっ!」

 

「私もだ! 何かあったら、私もお前の元へ駆けつけるっ!」

 

「またなっ! 箒っ!」

 

「またなっ!一夏っ!」

 俺は後ろの入口から教室内を覗く。

 箒と一夏が教室で抱き合っていた。他の生徒もそこそこ残って、二人の事を静かに見守っている。

 

「元気でな。いつでも来い」

 

「ああ、いつでも遊びに行ってやる」

 なるほど。何かあったらしい。

 

「じゃあな、箒。また明日」

 

「また明日だ。一夏」

 そしてキスはしなかった。おい、頑張れよ箒。勢いに任せてガッとやってチュッチュッすればいいのに。鈴とかガンガン攻めてくるぞ。

 

「あ、夕」

 

「うん。どうした?」

 気付いた一夏に声を掛けられた。箒を抱いたまま。そして横顔が幸せそうな箒。

 

「実は箒と部屋が別々になってな」

 

「聞いてくれ夕。これが権力ってやつだ」

 箒は一夏の胸に顔を埋めたまま喋る。顔をこっちに向けろ。

 

「そうか、残念だったな。ま、いつでも俺の部屋に来い。そしたらきっと会えるぞ」

 

『ああ!』

 結婚しちゃえよ。

 

「部活にいってきます!」

 箒が一夏から離れて教室の入口に向かう。

 

「いってらっしゃい!」

 一夏は手を振って見送った。もう夫婦じゃん。

 

 

 そして一夏から詳細を聞いた。シャルルと同じ部屋になるんだって。で、箒はラウラと一緒。へぇ、作意を感じる!

 

 俺とラウラと一夏とシャルルは、部活が無い者同士一緒に寮へと向かう。

 

「さぁさぁ、王に姫に王子よ」

 何だよ? 一夏と俺の子がシャルルみたいになってんじゃん。やだ、一夏に愛人がいる。

 

「私と共に茶でもどうかな?」

 何でこの人いつも気障なの?

 

「ボクは遠慮しておくかな。これから寮に行って荷物を整理しないといけないし」

 人差し指を顎に当て、上に視線をやりながらシャルルは断る。

 

「それなら王に手伝ってもらえばいい。黙って指をしゃぶる王ではないだろ?」

 

「おう。手伝うぞ」

 

「んー…………わかった。後にするよ」

 少し考えて、シャルルは後回しにする事に決めた。

 

「では、行くぞ」

 俺達三人はラウラの誘いを受けた。

 

 

 

 

 行き着いた先は俺の部屋だった。なんでやっ!

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