IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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三話

 現在、アリーナ? みたいな広い場所で一組と二組が合同で授業を行っている。数に限りある打鉄とラファールというISに、生徒達が一定の時間だけ搭乗するという決まりで。タイムリミットが過ぎると、ISから降りて別の女子生徒達に交代する。

 彼女らのISが持って扱う武器は、刀や銃などの基本的な武器だ。教官の立場なのか、一夏と鈴ちゃんが一人一人の女子生徒に、ISの使い方を丁寧に教えている。なんか青いISに乗る人も、一夏達と同じ教官の役割らしい。自分の位置から遠いし、人が重なって見にくい。まぁ、多分二組じゃ見ないから、一組の人だろう。

 

 そして今更だが、自分の想像より嫌な光景が俺の瞳には映っている。なんなのこの肌の露出度……。下手したら水着よりヤバいじゃないですか、やだー。

 俺の目の前にいる千冬さんは全然問題ない。上下ジャージで後ろ姿だもの。でも、千冬さんとは違う眼鏡をかけた一組の先生と、俺のいる二組の先生はスーツ姿だ。特に眼鏡かけた先生だ。なんだよ、あのダイソン。これが俺じゃなかったらシンディ……じゃなかった死んでる。こら! 俺の方を向くんじゃない。ああ! 凶器が!

凶器が!

 だから、これは仕方ないのだ。そう、一夏を見るしかないのだ。いや、寧ろ一夏を見たい。なんなんだよ、あの一夏のIS。かっこいいじゃねぇか。機体の全体が白で統一されて、ちょっとしたワンポイントの青色が綺麗だ。あ、言い忘れてた。一夏も綺麗よ。千冬さんも綺麗だよ。だから誰か、千冬さんを貰ってあげて。多分、出会いがないの。

 

「どうだ? 人が操るISを、間近で見た感想は」

 体育座りをして見学している俺の前に、背を向けたままの千冬さんが感想を求めてきた。千冬さんの後ろの髪が、なんとなく気になる。俺の方が長いぜ。髪の量は少ないが。また髪の話してる……。

 

「悲しい情景ですね……。ISがあれば、人類は宇宙(そら)へと上がって、新たな可能性が開けたのに……。人間はすぐ新しい技術を兵器にしたがる。理性があっても、獣のような本能を忘れられない、愚かな生き物だ」

 だから、人類に鉄槌を下すためにアクシズを落とさなきゃ。誰もやらないなら、俺が知らせてやるんだ。

 僕の将来の夢は、アムロを倒せる迷いを捨てたシャア・アズナブル大佐になる事です。全裸さんは嫌だ! 全裸さんは嫌だ! スリザリンは嫌だ!

 

「なかなかいい視点だな。その言葉を博士が聞いたら、泣いて喜んでハグしてペロペロしてくれるぞ。ちなみに後先考えずに開発した、博士の落ち度でもある。つまり、その発言は博士にも刺さるって事だ」

 

「構いませんよ。聡い人ですからね。自分のやった事を、ちゃんと理解してますよ」

 あの人は自分のやった事を後悔している。愚かと見下した世界を興味がないと切り捨てて、歴史を学ばなかった事を。

 

「冗談はそれぐらいにしておけよ。いつまでもお前に付き合っていると、私まで巻き添えで怒られるからな。これでは、生徒に示しがつかん」

 

「はい」

 言葉だけを聞くと厳しい印象を受けるが、背を向けたまま表情が隠れていても、その声色は優しかった。

 

「これは教師としてのお前に対するケアと、私個人からのファンサービスだ」

 

「ありがとうございます」

 千冬さんは大層、ファンサービスの単語をお気に入りの様子だ。

 

「それにしても、ファンサービスって言葉をよく言いますね」

 

「汎用性高すぎるのが悪い。現役時代だったら、負けた対戦相手に悔しいでしょうねぇと、煽りまくって確実に問題起こして敵を作っただろうな」

 どうやら、当時知っていれば使っていたらしい。知ったのが、引退後でよかった。

 

「握手を求めてくる客には、君も私のファンサービスが欲しいのかな? っと言うんだ。どうだ? この破壊力。笑顔もセットで倍プッシュだ」

 

「先生に面と向かって言われたら、イチコロですね」

 でも、ファンに対してファンサービスした所で意味ないんじゃないかな? 大事なのは笑顔です!

 脱線し過ぎて、何の話をしているんだ俺達は。俺は悪くねぇ! 千冬さんがファンサービスとか言って広げるから、広げない訳にはいかないだろ! 無視するの可哀想やんけ!

 

「おふざけが過ぎたな。また今度、じっくり話そう。いや、今日の夜でもいいぞ。一夏や箒も交えて酒の肴にな」

 

「その誘い受けます。もう、既に色々と疲れました……」

 IS学園の特殊な状況に、精神が悲鳴を上げている。ただでさえ、新しい場所に移る事は大変なのに。まるで女子高が来年度から共学校になるぐらいのレベルなのだ。わからんが。

 

「だろうな。声が少し震えているぞ。さすが泣き虫」

 

「すいませんねぇ! 俺みたいなのが一夏の友人で」

 くそっ! 何て時代だ!

 

「お前の馬鹿みたいな明るさに、私達は救われているんだ」

 だって、織斑家を中心とした人達がなんだか暗いんだもの。見てしまったのなら、放っておける訳がないじゃないか。いや、低学年だから感覚で動いただけだ。多分。

 

「自分じゃあ、そんな事わからないです」

 確かに首を突っ込んだが、それが果たしてよかったのか、自分が物事を考えられる年齢になってから、今も悩む事がある。感謝の言葉を貰っても、それが本心と言われても、俺はどこか信じきれていない節がある。

 千冬さんの背中を見ていた俺は、地面に視線を落とした。グラウンドの土をツンツンする。

 

「少なくとも、私はお前を買っている。束に箒に一夏も、どこかしらよく思っているさ」

 

「……ありがとうございます」

 

「個人としての私ではなく、教師としての私が、話を中断しようとしているのに話が弾む。久々に会えて、知らない内に私も嬉しいんだろう」

 

「…………」

 この感覚はなんだろう。こういう事を言われると、何故か心苦しく感じてしまう。

 

「こういう時は、昔からお前は黙り込むんだ。よくない傾向だぞ」

 

「……今は授業中ですよ。織斑先生」

 

「悪い……踏み込み過ぎたな。だが、最後に一つだけ言わせてくれ」

 

「……なんでしょうか」

 何を言われるんだろう。

 

「私達は家族だ。だから辛くなったり苦しくなったら、私達の中の誰に絶対相談しろ」

 なんだ。普通の事じゃないか。

 

「またな」

 千冬さんの姿を見るために顔を上げると、後ろ姿のまま小さく手を振ってくれていた。かっこいい。

 そして交代の頃合いなのか、千冬さんホイッスルだけで、次の指示を伝える。

 俺は千冬さんの背中を見ながら、千冬さんが言ってくれた言葉の意味を考えた。

 

 

 

 

 やったよ! 俺のISが全て要求通りになるらしい。

 そんなお知らせを、昼休みの時間になってから、俺のクラスの先生が教えてくれた。ごめんなさい先生。あなたの名前を、僕はまだ覚えてないの。キャパシティーオーバー、どうぞ。

 

「あんた……だらしない表情しちゃって、そんなに嬉しかったの?」

 授業が終わってお知らせ貰い、これから鈴ちゃんと少しだけなら話せる。

 

「そりゃ、全て叶ったんだ! 嬉しくないはずがないじゃないか! せめてこれぐらいはしてもらわんと、精神に異常を来すからな。特別乗りたかった訳じゃないけどさ……はぁ……マジはぁ……」

 鈴と同じように席に座って、鈴と一対一で喋っている内に、段々テンション下がってきた。

 うん、本当に乗りたかった訳ではない。だが、俺の意志関係を全部無視して、ISに乗れと言われたのだ。だったら、皆乗るしかないじゃないっ! でも、乗らなければ帰れと言ってほしかったよゲンドゥさん。黒服サングラスのSPはたくさんいた。如月修史はいなかった。皆って誰だよ。

 

「そ、そう」

 鈴ちゃんが引き気味で頷いた。誰だよ! 鈴ちゃんにこんな表情させる奴は! 私だ。お前だったのか。

 

「で、どんな武装を積んだのよ?」

 

「聞いちゃう? それ聞いちゃう? ははは! こ奴め! ならば、教えてしんぜよう!」

 ガタッと席を立ち上がりながら、両手を上げて日輪よ! 笑覧あれぇ!

 

「わかったわかった。聞かせてみなさい」

 おお、引かずにちゃんと聞いてくれるってさ! 一夏のファンやめて、鈴ちゃんのファンになります! 俺ってマジちょろいな。結婚しよ。

 

「コンセプトから話そう。まず、俺って男達の特別じゃん? 俺にはどうにも出来ないけど」

 

「そうね。一夏に続いてね」

 

「それって、凄いじゃん? 俺にはどうしようもないけど」

 

「うん。一夏に続いてね」

 

「それ即ち、男達の期待を背負ってるじゃん? 特に俺の機体が。一夏は人として重要だけど、俺は他の誰かでもいいんだよっ」

 

「あー、はいはい。期待と機体ね。凄いね。一夏に続いて」

 

「機体が重要なので、あらゆるレンジに対応する武装が積み込んであるんだ。それのデータ収集したりするの」

 

「へぇ」

 

「といっても、遠隔無線誘導型の武器が主ね」

 

「……遠隔って事は、それってもしかしてビット系?」

 

「あれの正式名称がビットと呼ぶのか知らんけど、多分それだと思う。うん」

 なんか、座った状態の鈴ちゃんが、急にガタガタ震えだしたぞ。なにがあかんのや。ビットやファンネルが好きなんや。特にシールドファンネルが好きなんじゃ。

 

「あんた! バッッッッッカじゃないのっ!?」

 勢いよく立ち上がり、軽く罵倒された。怒った鈴ちゃんも可愛いよっ!

 さっきまで大人数の人達が喋っていた教室内が、静まりかえった。静まれい! 静まれい! 鈴ちゃんが話すんだ、その口を閉じよ。さぁ、話を聞こうじゃないか。

 おいおい、でもさ……何を言ってくれても構わんが、せめてボリュームだけは下げよう。俺が悪いけど。ごめんなさい。俺の謝罪は、心の那珂ちゃん……中だけで言ってるけど、安くなっちゃった。なんでも謝るよ!

 

「ビット系って言ったら玄人向けなのよ!? IS初心者が易々と操れるような武器じゃないの!」

 

「ニュータイプか強化人間にしか扱えないのは知ってる。でも、親の会社のためにやらなきゃ」

 

「あぁ。あんたの家の会社って、色々な国と繋がってるんだっけ?」

 繋がるとか、暗部みたいなネガティブな印象を与える言い方はやめて。技術提携と言ってほしい。

 まさか、黒い事してないよね? ね?

 

「うん。日本の技術は変態として、各国が知ってるからね。会社の実績もあって、ほいほい話が舞い込んでくるのよ。もちろん、自国と各国の情報は秘密厳守よ」

 俺は外側の話しか聞いてないから、どこの国と何をするのかという、中身までの事は知らん。一階のフロアの特定の場所にしか行かんから、上の階はわからん。行った事ない。

 

「そういえば、あんたはいい所の息子だったわね」

 

「こう見えてもな。ハハッ」

 周囲からどういう風に見られているか、全く把握してない。ただ、バカとか変人だと思われている事だけは、わかっているつもりだ。おう。

 

「うんうん、それで?」

 鈴が歩いて来て俺の隣に立ち、肩と机に手を乗せてきた。思い……出した……からといって急にボデータッツ、色仕掛けの真似をするのやめて。猫なで声もやめて。鈴ちゃん猫っぽいから似合うけどさ。やだ、抱きしめたいほど可愛い……。

 けど、鈴ちゃんのファンやめちゃうよ? いいのかなー? 俺の中のザーツバルム卿は待たれよ! と言ってくれず、クルーテオ伯爵が俺の手の平というスレインをくるくるしちゃうぞ? この現実を受け入れよ。あ、あなたは! ウルガル第二皇子のジアート様! あ、ゼハート様にはぶぶ漬け出しときますねー。

 

「だから、色んな国の男達にとって希望なの。俺って。一夏の方が重要だけど」

 ……マジかよ。たった今口にして気付いたけど、俺の立場って意外ととんでもねぇな。暗殺やハニトラとかを、真面目に気を付けないと。誰か俺を守って下さい。

 ま、個人的に良解釈したポジティブな視点だし、正解不正解はわからんが、多分へーきへーき。俺バカだから十中八九間違いだろう。外れてもいいんだ!考える力が大事なんだ!

 そういえば、一夏の立場はどうなんだろうか? 俺が今思い出せるのは、一夏は千冬さんの弟で、初めての男性のIS起動者。各国は一夏の遺伝子情報を欲しがる。兎さんの知り合いというか、もう家族? 後は……思い付かないな。

 

「そう……わかったわ。さっきはバカにしてごめんなさいね」

 鈴が今度は俺の机の上に座って、片手でねっとりと首から顎を優しく撫でてきた。往復するんじゃあないッ!

 鈴との接触に気を取られてて、周囲の様子がわからなかったけど、このクラスのうら若き乙女達が机の上で足を組み、下着をギリギリ見えないようにちらちらさせたり、なんか女豹のポーズしてたり、普通に立ってはいるが見せ付けるように舌なめずりしたりと、露骨にアッピルする女子がたくさんいた。那珂ちゃん……じゃなくて、中には今日の教室熱いよねー、そうだねーと友達と喋りながら制服を脱いで、薄いシャツ姿で胸元をパタパタしてたりする人もちらほら。

 ちなみに、男はここまで露骨だと普通だったら逆に引く。友人の弾でも絶対引く。これ、お豆さんね。豆柴かも知れない。

 

 助けて一夏!

 というか、君ら昼飯食えよ。食事抜くと大変よ? 失礼だけどダイエット中なら、炭水化物は避けるとよし。炭水化物類がどうしても食べたいなら、必ず先に野菜を食いなさい。

 

 そして打開する方法は浮かばず、考えなしでは身動き出来ない状況で、俺が求めていた救世主は現れた。

 その救世主さんは教室の黒板側のドアにもたれて、腕を組んでてかっこつけて立って、何故か制服とシャツを脱いで上半身裸だった。

 僕の求めていた救世主じゃなかった人違いでしたあんな人僕ぁ知りませんッス。

 

 さて、どうしようか。この状況は全く頭になかった。バカだからね。仕方ないね。

 どうやって脱出するかを悩んでいると、エスカレートした行為が教室中に起こり始めた。鈴ちゃんは俺を後ろから抱きしめており、机に乗っていた人達は制服脱いでシャツ姿。救世主さんは服を着た。

 そして救世主さんは、満足顔でこの教室を出て廊下に消えていった。なんでやっ!

 

 

 この状態が数分続いた。これはもう、言うしかない。というか、皆それを待っているのだろうか? もし、そうだったら、嬉しいし悲しいけどやるしかあるめぇ。

 

「あー……俺ってさー、淑女がー……好きなんだよねぇ。ほら、あそこからこっちを覗いてる金髪のいかにもお嬢様系の人。俺超ドストライク! そこの麗しいお嬢さん! 交際を前提に結婚して下さい!」

 よく見たら、金髪の人と一緒に一夏と箒が覗いていた。二人共いたのか。

 あの金髪の人は一組二組の合同授業で、遠くでだけど見た事あるよ!

 ガタガタっと大きな音を発てて、鈴を含めたクラスの女子達が、俺の言葉を信じて瞬時に自分の席に座った。口元に手を当てて笑顔を見せて、お嬢様を、装っていた。面白いな、この人達。俺、なんだかここでやってけそうな気がする。

 だから俺はある事を言うために、机をバンっと叩いて起立した。

 

「君たちの姿は素晴らしかった!」

 両腕を広げる。

 

「手段を選ばぬその姿勢も、恥も外聞もない薄い服装も!」

 片方の手を胸の前に持っていき、開いていた手を閉じる。

 

「だが、しかし、まるで全然!」

 何もしていないもう片方の手で、もう一度机を強く叩いた。

 

「この俺を落とすには程遠いんだよねぇ!」

 俺は言ってやったぞ、一夏! 箒ちゃんに言わせる予定だったセリフをなッ!

 そして俺は、制服のポケットに両手を入れて、スタスタと歩いて教室を出た。俺はクールに去るぜ。

 教室を出た俺は、上半身だけ教室に入れて叫んだ。

 

「皆、ありがとう! 俺、頑張るよ! これからたくさん迷惑をかけると思うけど、精一杯頑張るから!」

 もしかしたら、自意識過剰なのかも知れない。だけど、俺は信じてみた。人の心の温かさを。

 

「じゃあ、俺は昼飯食ってくるから!」

 皆に手を振ってから、俺は廊下に出る。残っているクラスメイトも、俺に手を振ってくれた。

 そしてすぐ冷静になった。なんだこれ。いや、うん。なんだこれ。別の方法にしてほしかった。ありがたいけどさ。ノリがいいんだな。

 教室の入口付近で突っ立っていた俺に、一夏と箒と金髪の人が近付いてきた。

 

「あなたを方便にして、すいませんでした。協力してくれて、ありがとうございました」

 俺は先ほど会話で出しにした金髪の人に、謝罪とお礼のために頭を下げた。

 

「親友が困っているから助けてほしいと、一夏さんにお願いされまして、わたくしはただそれを了承しただけですわ」

 頭を上げて、声の主を目に映す。

 その人は口元に手を当てて微笑んだ。話し方や一つ一つの動作が上品だ。鈴ちゃんのファンやめて、この人のファンになります! やめてくれよ……もうクルーテオ卿はお呼びじゃあないんだ。

 

「一夏もありがとう」

 礼を言っておく。あの行動は意味不明だったけど。

 

「俺達、親友だろ?」

 

「ああ、最高の親友だ!」

 一夏に近付いて抱きしめた。やっぱ、俺の帰る場所はここだな、うん。でも、なんで上半身裸だったり、スルーして帰ったのか疑問だ。

 

「一々くっ付くなよ! いや、嬉しいけどさ」

 笑いながら、背中をポンポンと叩いてくれる。やっぱ、時代はイケメンやな!

 一夏から離れ、今度は箒を見る。

 

「私は何もしてないぞ」

 

「うん。でも、見守ってくれてありがとう」

 腕を組んでいる箒にも礼を言っておこう。

 

「どうせその場に居合わせただけだ。気にするな」

 いや、でもありがたかったのは確かよ? それは本心だ。

 でも、なんで不満顔なの? 箒ちゃん。

 

「おっと、そろそろ行こうぞ! ぞ!」

 俺の言葉を合図にして、俺達四人は長い長い廊下を、歩き始めた。そして目的地は食堂。昼休みだし。

 

「おお! 忘れていた事があったわし」

 歩きながら、やるべき事をやっていない事に気付いて、俺は立ち止まった。

 俺が止まったから、三人は少し先で止まって振り返る。

 

「俺、白雪夕って言います」

 自己紹介をしてから、握手を求めるために手を差し出す。

 

「そういえば、まだ自己紹介が済んでいませんでしたね。わたくしはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ。よろしくお願い致します、夕さん」

 嫌な顔をせず何の躊躇もなく、俺の手を握ってくれた。

 

「はい、セシリアさん」

 俺とセシリアさんは、互いに微笑みながら握手した。

 

「最初に会ったセシリアを思い出すと、あれからずいぶん変わったよなぁ」

 一夏がしみじみと腕を組ながら呟いた。なんかあったの?

 

「あの頃のわたくしは、なかった事にして下さい! わたくし、未だに恥じているんですよ!?」

 俺はセシリアさんの手を離して、これから繰り広げられるだろう、二人の会話に耳を傾ける。

 なんだろう、両手を上げてぷんぷんしているのが見える。いや、実際は一夏に食いかかってる風に見えただけだが。

 

「夕。あの時のセシリアは凄かったんだぞ。なんと!一夏に向かって猿呼ばわりしたんだ! これが笑わずにいられるかっ!」

 さっきまで黙っていた箒が、突然俺に向かってセシリアさんの過去を暴露し、力強く説明し出した。そして箒ちゃんは、俺の肩をバシバシと力強く叩き始めた。え? なら、セシリアさんのファンや……やっぱ、まだやめないです。

 

「箒さんも! 勝手にバラさないで下さい!」

 セシリアさんがぴょんぴょんするんじゃー。

 この三人のやりとりを見て、大変仲がよろしいと理解した。こうして見ると、俺も一組がよかったなぁ……。でも、二組に鈴ちゃんいるから、一人にして置いてけないよ。だから俺の首を置いてこう。デュラハンになるんだ!

 

「セシリアがこの猿ゥ! と俺に啖呵を吐いた後、クラス代表を決めるために、俺とセシリアは争ったんだ。試合は俺の負け。装備をよく知らなくて自爆した」

 一夏がホールドアップした。

 

「一夏さん!」

 

「でも、セシリアは一夏に勝ったのに辞退したんだぞ。今では一夏がクラス代表だ。負けたのにな! はっはっはっ!」

 

「箒!」

 

「セシリアさんは、一夏と戦ったんだよね?」

 

「はい。圧勝ではなく僅差ですが、わたくしがなんとか勝ちました」

 なるほどなるほど。これは聞くべきで、あのセリフを言うべきだな。

 

「勝利おめでとうございます。そしてセシリアさん」

 俺は頭を軽く下げて、すぐ上げた。

 

「はい。なんでしょうか?」

 俺は一夏を指差す。

 

「こいつ雑魚だったろ?」

 

「え……えぇっ?」

 俺の口調の変化に戸惑うセシリアさん。あの初期の蟹さんは、性格がまだ決まってなかったらしいね。あるある。

 

「夕!」

 一夏は俺の名前を叫んだ。セシリアさんをからかうお前が悪い。

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