IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

31 / 87
三十話

 今日もきっといい朝だろう。クローゼットの扉の隙間から、微かに光が入り込んでいるからそう判断した。

 上半身だけ起こして、枕元にある携帯で時間を確認。いつもと変わらぬ朝の六時だ。

 ジャージを脱いで制服に腕を通したり足を通す。やっぱりクローゼット楽だわ。床は程良く広くて、空間は程良く狭い。引きこもるには絶好の穴場的な? 穴場では無いけど。

 

 扉に耳を当てて部屋の内部の気配を探り、二人がお着替え中か確認。気配とかよくわかんないからわからん。まぁ、時間的には問題無いだろう。二人が着替える場所は脱衣所だし。俺がいるからね。見られたいならその場でご自由にどうぞ。

 

 片膝立てて扉をゆっくり開けると、目の前に制服姿のラウラがいた。

 

(え?)

 

(やぁ、おはよう姫。昨夜はいい夜だったかな?)

 満面の笑みで朝の挨拶。 ちょっと待って! どうやってこの部屋に入ってきたの? いや、何かそういう訓練でも受けたんだろう。軍人だし。でも日常的に使っちゃいけないタイプなはず。

 

(おはようラウラ。もちろんいつもと変わらないさ)

 俺は笑顔で冷静に対処した。別に幽霊とかじゃないから平気だもん。日が昇ってるから全く怖くないし。もしこれが夜ならヤバかった。

 

(入ってもいいか?)

 

(まぁ、別に)

 俺は音を発てないよう静かに後退して、ラウラをクローゼットの中に入れた。そして扉を閉める。

 

(で、何用?)

 俺は胡座で布団に座って壁に背も任せながら、立ったままのラウラに問う。

 

(いや、ただのお宅訪問なだけだ)

 ラウラはクローゼット内を、キョロキョロ見回している。

 

(そうか)

 この状況で何て言葉を返せば良いのかわからず、少しだけ戸惑ったが一言頷いておいた。

 

(いい隠れ家だな)

 ラウラは腕を組んでから頷き、そのまま背を向けてから俺の足の上に座る。おい、この場で楽にしろと許した覚えは無いよ。かまへんかまへん。

 

(ここは暗くて狭くて、敵が一方向にしか現れないから落ち着く。今度から私もクローゼットを使うか……)

 何か悩み出したぞ。とりあえず、ラウラの小柄な体を包むように抱きしめる。僕この子飼うー!

 

(これが噂のあすなろ抱きか)

 独り言のように呟いてから、俺に身を任せてくれる。今度一夏にもやってあげようかしら?

 

(箒の腕の中もよかったが、これもまたいい物だ)

 早速一緒の布団で寝たのか。ま、誰かと一緒に眠ると安心するから仕方無いね。人間ホッカイロさいこー! 夏は熱いからやらない方がいい。でも人と一緒にいた方が、涼しいらしい。どっちだよ! 後、岡崎はさいこーじゃないよ。

 

(姫よ。抱きしめたついでに頭も撫でてくれ)

 

(了解)

 頼まれたので、ラウラの頭を優しく撫でる。言われなくてもきっとやったと思うけど。

 

(たった今撫でろと言っておいてあれだが、二人に見られてしまってもいいのか?)

 

(その時はその時。寧ろやってくれって言われるはず。いいですも)

 基本的に鈴と楯無さんは俺の行動に寛容だから、きっと何の文句も無いだろう。節操無くてごめんなさい。

 

(そうか。もしその時がきて怒ってしまったら、私も一緒に怒られよう)

 

(ありがとう、ラウラ)

 

(どういたしましてだ)

 

 

 

 

「起き……って、夕君。何やってるのかな?」

 クローゼットの扉が全開で開かれ、制服を着ている楯無さんが起こしにきた。そして笑顔が怖い。

 

「この子飼いたいです」

 俺はラウラを撫で撫でしながら、楯無さんにお願いした。

 

「ダメ。元の場所に返しましょう」

 

「その器の小ささじゃ、お前に姫はやれんな」

 普通の返しなのにいきなり煽るなよ。さっきの言葉はどうした?

 

「は?」

 笑ったままの楯無さんが首を横に傾けた。

 

「あぁ、貴様はダメだな。ダメだダメだ更識楯無。凰鈴音ならこれぐらい許容出来るぞ?」

 ここぞとばかりに比較要素の鈴の名を出す。

 

「は? は?」

 この人の顔こわい。何で笑ったままなの?

 

「おい! 凰鈴音はいるかっ!?」

 ラウラは鈴を召喚するらしい。

 

「何よ……ってラウラか。どうしたの?」

 制服姿の鈴が楯無さんの脇から姿を現し、俺達の状況を目撃した。平常運転ですな。

 

「凰鈴音。この勝負、どうやらお前の勝ちらしいぞ?」

 

「待ってちょうだい! 取り消す! 取り消すから!」

 楯無さんが両手の掌をこちらに向けながら慌て始めた。

 

「お前は自分の発言をすぐに撤回出来るほど、軽い立場じゃないだろう?」

 更に煽っていくラウラ。もうやめてあげて!

 

「女は愛にい――――」

 

「――――あかーん! それ以上はダメ!」

 両手を握りしめて何かを叫ぼうとする楯無さんに、俺は急いでストップを掛けた。このままだと楯無さんはとんでもない事を口走りそうだったからだ。

 

「ほら、ラウラはお行きなさい。君にも王がいるだろう?」

 ラウラの両肩を俺の両掌で優しく触れる。これがソフトチェストタッチ! これでホッカイロ要らず! これは一夏がやるべき。

 

「ふむ、仕方無い。王の寝顔でも拝みに行くとするか」

 ラウラは俺の足から退いて、楯無さんの横を通って部屋の出口へと歩いていった。

 

「悪かった、更識楯無。だが、少しは煽りに耐える訓練でもしておけ。日常限定だろうと損は無い」

 ラウラはそう言い残してから、この部屋を出ていった。

 

「鍛えましょう」

 立ったままの楯無さんは肩を落として俯く。鈴は楯無さんの肩を二回叩いてから、クローゼットの視野内からフレームアウト。

 そして鈴に続いて楯無さんも消えた。

 俺もクローゼットから離れて自分のベッドに移動して腰掛ける。そろそろ朝食の時間だろう。

 

 

 

 

 朝食を終えて教室に向かう途中、鈴と楯無さんは俺の両手を引いていく。もしかして、昨日のラウラの件で自重してる?

 

「今度でいいから私もラウラみたいにやって」

 引っ張りながら俺を見る鈴。やはり羨ましかったのだろう。

 

「私もされたい」

 楯無さんも俺を見ながら便乗してきた。

 

「了解しました」

 もちろん断らない。理由は楽しいし安心するからね。人との触れ合いってさ。

 

 

 

 

 楯無さんと別れて俺達二人は手を繋いだまま教室に到着。それぞれの席に座った。

 

「夕!」

 名を呼ばれたので、教室の後ろ側の入口に首を向けるとまた箒だった。

 

「何だあの可愛い生き物はっ!?」

 箒が興奮しながら大股で俺に近付いてきた。

 そして鈴の横を通り過ぎるはずだった箒は、椅子に座っている鈴に抱き付く。おい。

 

「もしかして同部屋のラウラ?」

 鈴を力強く抱きしめている箒に聞き返す。

 

「そうだっ! 私が抱いているラウラみたいな鈴だっ!」

 眉間に皺を寄せながら箒は叫ぶ。

 

「今の言葉でお前が何を言っているかわからなくなった」

 

「ラウラみたいな鈴って言ってるだろ?」

 

「鈴関係無いじゃん」

 箒が鈴の頭を撫でており、鈴が気持ちよさそうに目を細めた。

 

「まぁ、とにかくラウラが可愛いんだ。超可愛い。これから私が飼うんだ」

 これは箒も可愛いよ、と言うべきなんだろうか? うん、かわいい。

 

「そうか。よかったな」

 

「だからお前に鈴はやらんっ!」

 どういう事なの……?

 

「だってさ。鈴ちゃん」

 

「今日は箒の部屋に泊まってくるね」

 箒にされるがままだが、鈴は普通に笑顔だった。落ちたな。

 

「いってらっしゃい」

 気が早いが手を振った。

 

「では、今日の夜に迎えに行くぞ」

 

「うん、また夜に」

 箒と鈴が離れ、一言やり取りしてから箒はこの教室を出ていった。

 

「嫉妬した?」

 箒の背中を見送った鈴は、頬杖をついて俺を笑顔で見つめる。

 

「箒にどう嫉妬しろと?」

 

「はぁ……夕とはそんな仲じゃないから、まだ無理みたいね……」

 いや、恋人だったとしても嫉妬する要素が何一つ無い。

 

「ほら、溜め息吐かずに授業の準備しなさい」

 

 

 

 

 お昼になって俺と一夏とシャルルは、食堂で一緒に座って食事中。

 楯無さんを含む女性陣は俺達から離れた席に座り、ラウラをペット扱いしていた。かわいいからちかたないね。

 

「微笑ましいね」

 俺と一夏の間に座るシャルルが女性陣達を見て一言。

 

「そうだな。皆の仲良いのは嬉しいな」

 一夏はシャルルに同意した。

 

「うん。でもボクが好きなのは男だから、今は遠慮したいかな」

 

『っ!?』

 シャルルの発言に、耳を傾けていたであろう周囲の女子生徒達が息を呑んだ。中には咳き込む子もいた。全く興味無くとも不意打ちだから驚くのも当然。

 

「え……」

「ゑ……」

 俺と一夏はシャルルから離れた。

 

「? あっ!? いや、その、これは違うのっ! 誤解だよ誤解!」

 シャルルがテーブルに手を突きながら立ち上がって、俺達を引き止めようとする。

 

「大丈夫だ。俺はどんなシャルルでも気にしないぞ」

 一夏は笑顔で気持ちを告げた。言葉とは裏腹にシャルルから徐々に距離を離しているが。

 

「ち、違う違う! ボクはちゃんと女の子が好きだからっ! おっ、女の子の同士の……か、絡みが特にねっ!」

 一夏の方を見ながら、シャルルは言葉を重ねていく。どう考えても今しちゃいけない発言。不慣れな環境で一杯一杯なんだろうなぁ。儂にも覚えがある。

 

「シャルルって百合なのか……」

 一夏は小さく呟く。

 

「ち、違うっ! 今のは間違い! ボクはノーマル! 至って普通のノーマルだからっ!」

 こういうのって強く否定すると余計に怪しくなっていくんだよな。言わないなら言わないでそのままレッテルが貼られるし、否定したら否定したで別のレッテルが貼られてしまう。悲しいね。

 

「わかったわかった。シャルルが言いたい事はわかったから」

 一夏はシャルルを宥める。でも何か演技臭い。

 

「ほ、本当に!? わかってくれた!?」

 シャルル必死すぎる。いや、わかるけど。

 

「ああ、大丈夫だ。シャルルがどんな嗜好でも、俺は気にしないから」

 優しい眼差しをした一夏。そう言うと思ってた。

 

「それ絶対にわかってないよね!? だったらさっきから黙ってる夕は!? 夕はボクの事を信じてくれるよね!? ねっ!?」

 一夏を諦めたシャルルは、今度は俺に狙いを定めた。

 俺は座ったままシャルルの肩を掴んで座らせ、とりあえず抱きしめておいた。

 

「まぁまぁ。こういう時は落ち着いて対処するんだ」

 シャルルの耳元で囁きながら、俺は背中を優しく叩く。

 

「ゆうぅ……」

 

「よしよし。一夏怖いねー」

 

「俺が悪者みたいになってるじゃないか」

 いや、実際悪じゃんか。弄りすぎはよくないなぁ……織斑一夏。

 

「え? 今のお前にヒーローと呼べるファクターが一つも無いんだが?」

 事実を解き放つ。

 

「はっ!? ごめんなーシャルルー」

 一夏はシャルルの頭に手を伸ばして、優しく撫で始めた。時既に遅し。

 

「くくく……これでシャルルは我が手中に……計画通り……!」

 再度シャルルの耳元で囁く。

 

「もう何も信じられない……」

 俺の言葉を聞いて、シャルルは俺の拘束から逃れた。正直楽しいです。ごめんな、シャルル。

 

 

 

 

 午後の授業が全て終わり放課後になった。鈴は部活の後で箒の部屋に向かうらしい。いってらっしゃい。

 一夏とラウラとシャルルと俺は一緒に寮まで帰り、それぞれ自分の部屋に帰る。今日は集まらないんですね。いいけど。

 部屋に着いた俺は脱衣所で服を全部脱ぐ。そして今から風呂に入る事に決めた。楯無さんも生徒会で遅くなりそうだし、今すぐやるべき事は無いから早めにと思ったのが理由だ。

 

 

 風呂から出て自販機でマッカンを購入。今日は挟まって飲む。

 通り過ぎる人達に挨拶しながら、マッカンを味わう。実はこれって儀式なんじゃないかな? 糖分を捧げよ的な? わけがわからないよ。

 

 マッカンを啜っていると、楯無さんが通りかかった。

 

「あら、夕君」

 

「こんばんは、楯無さん」

 立ち止まった楯無さんに挨拶。どうやら生徒会が終わったらしい。ただ普通に仕事が早いのか、それとも日頃から消化しているからすぐ終わるのだろうか? どちらだろうと有能なのは確実だ。

 今更だけど俺って凄い人に惚れられているんだなぁ……と、実感した。もっと他に魅力的な殿方がいそうな気がするんだが。まぁ、仕事上の付き合いからプライベートまでの関係に延長するのは、きっと難しいのだろう。出会い方が悪いというやつだ。リディとミネバかな?

 

「うん、こんばんは。鈴ちゃんから話は聞いてるよ。今日は箒ちゃんとラウラちゃんの部屋にお泊まりするって」

 昼食の時に話したんだろうか?

 

「私は行かないから、今日は久々に夕君と二人きり!」

 グッと拳を胸の前で握り、バッと拳を天に向けて振りかざした。変身でもするの?

 

「あ、別に鈴ちゃんが鬱陶しいとかじゃないよっ? あくまで懐かしいねってだけで」

 楯無さんの挙動がおかしくなった。

 

「言いたい事は理解出来ますよ」

 静めるために一言返す。

 

「そっ、そっか。ならよかった」

 楯無さんは胸を撫で下ろす。この人なら、俺の思考ぐらい簡単に読めそうなもんだが。それは過剰な期待か?

 

「はい。ちょっと待ってて下さい」

 残り少ないマッカンを一気飲みして、ゴミ箱にぽいした。

 

「行きましょうか」

 

「うん!」

 楯無さんが歩くのを見て、俺も歩き出して肩を並べた。

 

「えへへ」

 軽く笑ってから俺の腕を抱く。

 

「楽しみですか?」

 

「うん! とっても!」

 満面の笑みでそう答える。楽しそうな楯無さんを見て、俺も少し楽しくなってきた。

 

「俺もですよ」

 俺達二人は部屋へと向かった。

 

 

 

 

 部屋に戻り、楯無さんは制服からジャージに着替えた。

 

「夕君はもうシャワー浴びたんだよね? さっきからいい匂いがしてたから」

 ベッドに座る俺に、たった今ジャージに着替えてきた楯無さんが尋ねてくる。

 

「はい。たまには早めもいいかなって」

 

「そっか。私のボディーソープ使ってみる? 私と同じ香りが堪能出来るよ?」

 へ、変態だぁぁぁぁ! 俺自身は興味無いが、行動を理解出来てしまうのが辛い所。

 

「いや、自分のがあるんで必要無いです。楯無さんが俺のを使えばいいんじゃないですかね?」

 自分がその道を走るより、相手に走らせた方が楽。その気が全く無い人なら、そもそもストーカー行為に走らないし。例を言えば鈴ちゃんとか。鈴ちゃん普通だもん。

 

「もう使っててごめんね」

 知ってた。

 

「構いません。無くなったら買えばいいんですよ」

 楯無さんが隣に座って、俺の肩に抱きつく。

 

「くんくん」

 そして鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。やっぱり変態だわ、この人。ま、これぐらいのレベルなら許容範囲内だ。食い物に自分の髪の毛や爪を混ぜたり、自分の血液や体液を混ぜたり、そして媚薬を混ぜたりしないだけ良しとしよう。してないよな……?

 

「夕君の香り……」

 今日は鈴ちゃんいないからって、全力出し過ぎじゃないですかね? 今週末にデートッスよ?

 

「あ」

 楯無さんが腰を上げて、俺の正面に移動してから見下ろす。

 

「どうかしましたか?」

 何かやりそうな気配が漂ってくる。

 

「ちょっとある事を思い付いてね。それを試そうかと。えい」

 両肩を押されて俺はベッドに倒れた。

 そして楯無さんは俺の上に跨がる。これアカンて。

 

「えと……これが何か?」

 

「うん。夕君はどうしてこう……受け身なのかなって」

 行動とは別に、楯無さんの表情は真剣だった。いやだって、こちらから女の人に抱くのは完全にアウトでしょ。ん? お巡りさん俺です! 俺がやったんだ……!

 

「それと私が抱きついたり、こうやって押し倒しても何一つ文句を言わない」

 文句を言うほど怒りの感情が無いもん。

 

「それが不思議」

 流石に中身まではわからないか。あれ? そんな事無い? 知らんな。

 

「前にも答えたと思いますが? 人と一緒にいるのが嬉しいって」

 似たような事を既に教えたはずだ。色々あってあまり思い出せないけど。

 

「それだけ?」

 

「はい。それだけですよ」

 誰かと一緒にいるのが楽しく感じる。見知らぬ人とはちょっと遠慮したい。人見知りとかでは無く。

 楯無さんは何かを悩んでいるのか、俺から視線を外さないまま黙っている。そこまでガン見されると、ついつい他の場所に目を背けたくなった。原因は俺の体に力が入りすぎかも知れないので、意志を持って全身の力を抜く。あ、出来た。

 

「うん。今の夕君の言葉で、私は決めた」

 少しの間、沈黙を保っていた楯無さんが、真剣な顔つきになってから何かを決意したらしい。

 

「これから私、更識楯無は白雪夕の傍で共にいる選択肢を選びます」

 え!? とんでもない事を言いはりましたよ!

 

「あなたがどんな選択をしようとも、ずっとずっと一緒に」

 えぇっ!? 内心驚いたが、外側には出なかった。

 

「この先、あなたを絶対に一人にはさせない」

 言葉と同時に俺の頭を撫で始めた。やっぱり皆撫でてくるよなぁ。もしかして、俺って一夏や弾達より子供と思われてるのか? まぁ、実際子供だから怒らないぞ。

 

「あなたの笑顔を、私は曇らせたくない」

 

「……プロポーズに聞こえなくも無いんですけど?」

 いや、理解出来るけど。

 

「これはプロポーズというより、あなたに仕えますって事かな」

 

「え? 楯無さんって確かロシア代表ですよね? 勝手な事していいんですか?」

 今の楯無さんはとんでもない事を言っていると思う。

 

「いいの。これは国じゃなくて私個人への依頼だし、いざとなればどうとでもなっちゃうの」

 

「代表を辞めるって事ですか?」

 

「もしかしたらだけど、そんな感じになっちゃうかな? うん。そしてその覚悟が無ければ、私は依頼を受けなかったよ」

 そうだったのか。変態とか言ってすいません。でも変態ですよね?

 

「いくら夕君が好きでもね。それにもしもの場合は夕君のご両親の会社から、バックアップを受ける事が可能なんだ」

 よくわからんが、親の会社が凄い事を再認識した。

 

「多分……契約破棄? 要求を受け入れなければ、今後一切あなた達の国とは取引しません。我々には他に必要としてくれる国があるんですよ、げへへ」

 何か屑臭がする。そういえば、束さんもいたな。何とかなるのならいいか。

 

「まぁ、私も夕君の会社側の事は詳しくないから、やり方とかは何とも言えない。だけど、会社側が何故そこまでするのか」

 でも仕事に私情を持ち込んでもいいの? 普通ならよくない事だ。そういえば色んな事が普通じゃなかった。

 

「それは夕君がご両親や社員さん達から凄く愛されているから」

 それは理解しているつもりだ。

 

「大丈夫ですよ。ちゃんとわかってます」

 楯無さんの国云々という言葉の内容は、理解したくない。ま、本人に任せよう。俺は何も知らなかった。良し、これでいい。

 

「そっか。それならいいんだ」

 楯無さんの真剣な瞳が、俺の目でも捉える事が出来た。

 

「後、先に伝えておくけど、私も自分の事は自分で何とかする。だから心配しないで」

 この人やっちゃう人だから、きっと成功するだろう。

 

「そっか。それならいいんだ」

 楯無さんは目尻を下げた。

 

「はい」

 

「うん。じゃあ、まだ仮だけど私は夕君に仕えるって事で」

 俺が止めた所で楯無さんは止まる人じゃないし、本人がそうしたいと言っているんだ。俺は黙って頷くしかない。

 

「よろしくね」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 飛びっきりの笑顔の楯無さんに、俺も笑顔で返す。

 

 

 

 

 父さん、母さん。今日、俺に従者が出来ました。でも、今週のデートの最後に言った方がロマンチックだと思いました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。