束さんは道中に色々と買い物をして、一夏が待つラボに帰ってきた。束さんの背中が見えないほどの荷物の多さだったので、俺は少しでも手伝いたかったが、何がどうなるかわからなくて断念。ごめんなさい、束さん。見ているだけでした。
「ただいま! いっくん!」
「おかえりなさ……」
背中を向けて辺りを軽く拭き掃除していた一夏が振り返り、言葉が途中で止まった。
「……そ、そんなに荷物を持って大丈夫ですかっ!?」
ほんの一瞬だけフリーズしていた一夏が、束さんに駆け寄って荷物に手を伸ばす。
「大丈夫大丈夫。パワー勝負なら、いっくんにも負けないよ!」
「そんなバカ……なっ!?」
束さんの荷物を一つ持った一夏だが、重くて腕がぶるぶると小刻みに震えてた。
「これで格の違いが理解出来たかな……っ?」
ドヤ顔の束さん。
「認めます……」
一夏が荷物を床に置いて、両手を上げて降参。
「じゃ、色々やっちゃおう!」
「はい!」
生活用品、食料、衣類、その他諸々を閉まっていく。ここで俺は閃いた。ちょっと実験してみよう。
中身の無い袋をデコピン。
「!?」
一夏が反応して勢いよくこちらを向いた。
「た、束さん! 何か袋が勝手に動きました!」
「え? 生き物は連れてきてないよ? 風じゃない?」
「閉め切ってある部屋に、ピンポイントで風が発生しますか?」
「しないねぇ」
今気付いたんだが、視点を変えたらこれってポルターガイストじゃない? マジか。
俺は袋を摘まんで持ち上げる。
「たたたたたたばねさん! 袋が! 袋が!」
一夏が束さんの背に隠れた。すまんな一夏。出掛ける前に挑戦するべきだったわ。
「見事に浮いてるねー」
束さんは興味津々な様子で袋を観察。
「これって幽霊の仕業……?」
「幽霊が実在するかどうか、世の中人々が議論してるけど、もしかしたらそうかもね」
「束さんは否定しないんですか?」
「確かに束さんは科学者と呼べる存在だ。でも、リアリストとロマンチストの二種類いるからね。私はロマン派」
「へぇ……」
とりあえず、俺は袋を落とすと、束さんが携帯を取り出した。
「映らない」
どうやら携帯のカメラ機能を使用して、俺の方に向けているらしい。もし映ったら大問題だろう。何で肉眼じゃ見えないのって、今頃絶対に騒がれてる。
「害は無いんじゃないかな? もしあったら、とっくに襲われてると思うよ」
「そうですか……でも存在だけで既に怖いです」
一理ある。
「束さんの近くにいていいから、作業を進めよう」
「助かります」
さっきから束さんの背中に隠れている一夏かわいい。
一夏と束さんが掃除を始めたりしている中、俺は中身の無い袋を遠隔操作出来ないか試す。物に触れるなら、物を動かす事も可能なんじゃないかと。どういう理屈だよ。
二人を尻目に、俺は掌を袋に向ける。動けー。
少しだけ挑戦してみて出来なかった後、俺は一旦休憩するために壁に凭れる。そういえば、この幽霊の体で飲み食い出来るんだろうか? 今の所は腹も空かないし喉も渇いてないから何とも言えないな。ま、もう少し経ってから判明するだろう。いや、理解しかけている方が正しいか。
「そういえば、いっくんにお願いがあるんだ。無理なら断ってもいいけど」
掃除をしている束さんが、一夏に話し掛けた。
「何ですか?」
一夏は袋から物を取り出して、種類別に分けている。
「クラスリーグマッチの日にさ、ちょっと世界に顔見せしてみない?」
「え?」
一夏の手が止まり、束さんに目を向けた。
「実はクラスリーグマッチ当日に、もう一人の私が何かすると思うんだよね」
「もう一人の束さんが?」
「うん。それを止めるためにさ」
束さんは一夏とは違って手を進めている。
「えーと?」
「ごほん。えー、クラスリーグマッチ当日に、もう一人のいっくんの試合中で、もう一人の私が何かをやろうと企んでいる。いっくんにはそれを止めてもらいたいなって」
「怪我人とか出る規模ですか?」
「多分だけど、度が過ぎた事はやらないんじゃないかな? だから先手を打っておきたいんだ」
「事前に察知している、俺と束さんにしか出来ない事なんですよね?」
「そうだね。私達二人だけ」
「わかりました。やります。知ってしまったからには、見過ごせないです」
「本当に?」
「はい。でも実はこういうシチュに憧れていたんですよ。目の前にもう一人の自分が!? って」
わかるわ。最後に意味深な言葉を残して去っていく、みたいな?
「褒められた行為じゃないけどね」
「そうですね」
一夏と束さんは笑った。
「それまで一緒に頑張ろう!」
「おー!」
こうして話し合いは終わり、一夏は作業に戻った。
やった! 壁を通り抜ける事に成功したぞ! 昼から数時間練習し続けて、ようやく可能になった。今まではもう自由に移動出来る。物を操作するのはまた明日かな?
という訳で、自分の家にレッツゴー!
俺の家はありませんでした。ですよねー。何となくそんな気はしていたんだ。でもまだ可能性は残っている。この世界の一夏の家にレッツゴー!
一夏の家に到着した。今日は平日なので一夏と千冬さんの二人は学園だ。一応誰かの気配がないか確認したが、いない事をしっかり把握。いや、人がいても通れるんだけどね。物に触るのが危険なだけ。
『すみません、お邪魔します』
俺は家に不法侵入して二階に上がり、織斑一夏の部屋へと失礼します。織斑一夏の部屋は、向こうの一夏と変わらず同じ家具の配置だ。だから物を散らかさず、目的の物を長々と探さなくて助かる。用事を早く済ませよう。
小中のアルバムを棚から取り出して、中を拝見させてもらう。
やっぱり小中と俺はいなかった。悲しいね。
用は済んだので、アルバムを棚に戻して織斑一夏の家を出た。お邪魔しました。
今度はゲーセンに到着。店内をぐるっと一周してみた。いや、これ、ISのゲーム多すぎでしょ。どんだけIS好きなんだよ、メーカーさん達。まぁ、男はゲームで我慢って事なんだろうね。俺達がよく遊んでいたゲームがないし、きっとISを強いられているんだろう。
今度はISのゲームをプレイしている人達の画面を覗く。皆上手だなぁ。でも、ゲームなら俺だって負けないぞ。実際にISを動かすのとは、全然違うんだから!
意外にもプレイするのは男ばかりじゃなく、女性もプレイしてるのがちらほらと。珍しい。それにしても、プレイに夢中になっている皆が楽しそうでいいなぁ。僕もやりたい!
歩きながら画面を眺めていると、見知った背中を発見。
『弾君やっほー』
五反田弾を発見。声を掛けるが、もちろんこの声は弾に届かない。例え聞こえたとしても、プレイに熱中してるから反応は難しいと思う。
弾の横顔を見つめる。何だか野性味に溢れている感じだ。ワイルドかっけー! こっちの弾はもう少し押さえ気味かな? いや、初めて出会った時の弾もこんな感じだったかも?
友人によく似た人という括りになるが、遠慮無く弾の後ろでゲームを観戦。いいぞー!
しばらく画面を見ていると、弾の連勝がストップした。
「くそっ! 負けたっ!」
頭を抱えながら立ち上がる。今のプレイはミスが目立っていた。多分集中力が切れたんだろう。もういい! 休めっ!
しばらく飲み物を飲んで休憩していた弾が帰るみたいなので、俺もゲーセンから出る事にした。
『さらばだ弾。もう会う事は無いだろう』
ゲーセンを出た弾の背中を、俺は少しの間立って見送った。さて、俺はこれからどうしよう? やれる事無いからなぁ。幽霊ってこんなに暇なのか。おまけに寂しい。
次はIS学園に行こうかな。寮には近付かない行かない見ない方向で。
色々と適当に寄り道をした結果、夜になってからIS学園の屋上に着いた。屋上には自分だけしかおらず、物音一つしない静かな世界が目の前に存在している。ここは自分の通うIS学園とは、何かが違う気がすると感じたが、錯覚しているだけかも知れない。
俺は落ちないように気を付けながら、柵に腰掛けた。強めの風に煽られて、髪がファサーと大きく揺れる。髪の柔らかさを表現させるには、意外とコツが必要。髪の話……。
夜空を見上げると、明るい月と影を生む雲と煌めく星達が、黒いキャンバスみたいな空に描かれていた。向こうの空と、ここの空との違いはあまりない気がする。
俺は少しの間、同じ姿勢を保っていた。何かする事ないかなぁと……悩んでいると、ある事を思いつく。そして同時に前言撤回。俺はこれから寮に向かう。
人通りがそこそこある寮の廊下を歩いていると、一つの自販機を発見した。自販機の前を通って一瞥すると、マッカンが無かった。まぁ、世界が違うんだから、こういう変化もあるさ。
そして俺はとある部屋の扉の前にどっしりと立つ。目の前にある部屋は、向こうと同じであるならば、一夏と箒の部屋になる。どんな性格なのか気になったから、ちょっと見ておこうと思った。
俺はただ扉を見つめた。すり抜ける事は可能ではあるが、そんな気は全く起きない。確かにこの能力は凄いが、悪用しても楽しくない。実行してもきっと心は満たされないだろう。
とりあえず、扉の正面の壁に凭れてから腕を組む。出てくるのか、帰ってくるのかわからないけど、時間が経てばお留守かご在宅か判明する。一夏達を待つ時間は、別に苦痛じゃない。それ以上にわくわくが止まらないんだ。
ちょっと遅すぎやしませんかね? 何の変化も無いまま、約二十分経ちました。時間は携帯で確認済み。いつの間にかポケットに入っていた。
俺は痺れが切れたため、凄く失礼だが、モウガマンデキナイ!
俺は扉に近付き、部屋の様子を音で知ろうと耳を当てる。あれ? 何も聞こえない。
心中で謝りながら後退しようと数歩下がったら、轟音と共に扉が倒れ、そして俺の頭に直撃。
『いってぇ!?』
不意打ち過ぎるだろっ! 意識してなかったから、回避は無理だった。この体で痛みがあるのも悪くない。
そして俺がいて邪魔になっている状態なのに、向こう側から扉を押された。
俺は扉と壁に挟まれマスタードピクルス抜きのハンバーガーが完成。挟まっちまった!
「俺が悪かった! だからやめてくれ箒っ!」
「問答無用だっ! ノックをしろと何度も何度も言ってるだろっ!」
うわ……箒の叫ぶ内容にすげー違和感。ノックがどうとか言っていたから、脱衣所の事だろうか? それなら向こう側の箒だったらウェルカムな出来事だと思う。だから取り替えようぜ! それで丸く収まるはず。
「今度からはちゃんと気を付けるってっ!」
「はぁっ!」
おい、話を聞いてやれよ。
「グハッ!」
鈍い打撃音が耳に入った。超痛そう。
「全く……」
「はぁ……」
だが、お前が確実に悪い。
「またドアが壊れた……」
また? またって何だよまたって。え? そんなに頻繁に壊れてるの? だったら頑丈な扉に変えるべきでしょ。
「あー……」
扉が少し軽くなったから、俺はその隙に壁とドアから無理矢理抜け出す。
そのせいで扉が壁にぶつかった。
「何だ?」
不思議に思った一夏が、壁と扉の間を覗く。
「……何も無いな」
上下に首を動かして、何かないか確認している。
「はぁ……また申請しないと……」
一夏は溜め息を吐いて部屋の扉があった部分まで、壊れた扉を運んでいる。かなり疲れてるっぽいな。
『何か知らんが頑張れよ』
俺は一夏の傍に寄って肩を軽めに二回叩いた。
「ん?」
そこに誰もいませんよ。
さて、ここからは適当にぶらぶらしよう。束さん達の所は、また明日にする。片付けや整理で忙しいだろうし。俺には全く関係無いんだが。
俺は寮内を徘徊していると、時折女生徒が通り過ぎていく事があった。女子寮なんだから当然だけど。その時は真っ直ぐ見ているだけで、前から来る女生徒が自然と視界内に入ってくる。服装が向こうと変わらず、やっぱり無防備だった。大学行ったら気を付けてね。だって男は皆ギガトノサウルスなのよ!? ティラノだってパックンチョなんだから! もしくは鬼の篭手みたいに、色々な魂(心)を吸っちゃうなの! 新作来ないかな? ロスカラR2も待ってます。
ふらふら歩き回ってから食堂に到着して、俺は入口から食堂内を見渡す。ここは向こうと変わらぬ光景で、生徒達は談笑しながら、食事を進めていた。
俺はメニュー表を確認すると、これも向こうとは変わらなかった。全部が全部違う訳じゃないんだな。当然でもある。
せっかく食堂に来たんだから、すぐに別の場所に行くのはやめた。
とりあえずメニューを睨んでいると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「鈴はまたラーメンか。よく飽きないな」
「うっさいわね。好きで頼んでるのよ」
俺は声のした方へ首を向けた。あれま。一夏達が食堂にいるじゃないか。
「へいへい。そうですか」
鈴と箒とセシリアさんと一夏が、同じ席で晩ご飯をいただいていた。箒と鈴に挟まれた一夏が、何だか大変そうに見える。
「返事は、はい!」
「はいはい」
「一回!」
「俺のおかずやるから許してくれ。はい、あーん」
「ちょっ!? 死ねぇいっ!」
「ぐっ!?」
鈴が横にいる一夏に腹パンしましたよ、奥さん。鈴の顔が赤くて、息が急に荒くなった。もしかして照れ隠し? やるならもっと徹底的にやれよ! 中途半端だろうがっ! 顔を狙ってまっくのうち! まっくのうち!
しかし一夏君かわいそう。でもね、一夏。あーんは突然やっちゃダメだ。びっくりしちゃうからね。そして鈴も反射的に一夏を殴るのはやめなさい。まずは物を殴るべき。それから口で拒否しなさい。拳で愛が伝わる訳ないだろっ!
「ったく!」
鈴は食事を再開し、けろっとした顔で一夏も食事を再開した。聖人か何かかな? 俺だったら絶対に泣いてるわ。でも、どことなく楽しそう。幸せって人それぞれなんだね。
俺はしばらく、食堂で何かを見る訳じゃなく、ただ壁に背を預けて立っていた。俺は一体何をやってるんだろうか? あ、今の俺って賑やかな場所が好きなのか。なるほど。
ただ、人がいようともこれ以上は、食堂で時間を潰すのは限界だと思い、他の場所へと向かう。
俺はただ目的も無く廊下を歩く。あー、暇だなぁ。誰かと一緒にいたいなぁ。寂しいなぁ。でも兎は死にません。