IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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裏五話

 今日は三日目の朝だ。簪は俺の横で寝ているから、今回は自由に行動が出来る。今日も晴れてるな。

 

「よいしょっと」

 ベッドから下りて、伸びをした。簪が仮病を使った昨日、あれから簪と一緒に少し早い晩ご飯を食べて、アニメの視聴を再開した。が、鑑賞中に簪のお見舞いに来た人がいた。確か……えっと……一組の……何かぽわぽわした子。向こうじゃ話をした覚えが無いし、名前も知らない。一夏がのほほんさんとか言ってたけど、それはきっとあだ名だろう。

 

「ほら、簪。朝だぞー、授業あるぞー」

 俺は朝食の下拵えを済ませ、俯せで眠る簪の肩を揺すって起こす。

 

「ん……」

 

「起きろー、起きろー」

 今度は両手を使って簪の髪を、優しくわしゃわしゃと撫で回した。

 

「早く起きないと髪の毛にいたずらしちゃうぞー」

 お前の髪を三つ編みにしてやろうか! ヘアスプレーでがっちがちにしちゃうぞ! ヘアスプレーあるのか知らんけど。

 

「……起きる」

 髪の毛を弄ろうとした瞬間、簪がタイミングよく起き上がった。

 

「おはよう、簪。今日は登校しなさい。行くよな?」

 

「……おはよう、夕。うん」

 目を擦っている最中だが簪の頭を撫でる。さらさらで綺麗な髪だ。また髪の話してる……。

 

「うんうん。簪はいい子だ。褒美をやろう」

 俺は簪を抱きしめる。やる気を引き出させるコツは、飴と鞭をバランスよく使いわける事だ。でも以前の行動を思い返すと、飴しかやってないかも知れないな。なるほど、これが親バカか。バカ親じゃなければいいなぁ。

 

「……うん。頑張れる……」

 

「よし。じゃあ、服を着替えてきなさい。俺は朝食の準備してるから」

 俺は簪から離れて、台所に向かった。よーし、ママ頑張っちゃうわよー!

 

 

 

 

 俺と簪は黙って学園の廊下を歩く。現在の俺は片手で簪の肩を掴んでいる。その理由は、手を繋ぐと簪の手の振り方や、手の形が不自然になるからだ。次にどこも触れずに隣を歩くと、簪は泣きそうになった。という訳で、簪の肩に手を置いている。かわいい。いや、これはヤバいでしょ。俺も簪の事言えないけどね。

 

「かーんちゃーん。おはよー」

 一組の教室を通ったら、昨日お見舞いに来た子が簪に挨拶してきた。

 

「おはよう、本音」

 なるほど。この子は本音さんというのか。記憶したぞ。

 

「かんちゃん、珍しく笑顔だけど何か嬉しい事でもあったのー?」

 本音さんが簪の表情を指摘した。俺は背後霊やってるから、簪の顔が何にも見えない。ただ俯いておらず、その目を正面に向けている事はわかる。人は変わるんだよ!

 

「ちょっと」

 何? 表情を変えるなと約束したのではないのか!?

 

「そっかー。元気になってよかったよー」

 しっかし、本音さんはにっこにっこしてんな。これが心のオアシスか。

 

「心配してくれて、ありがとう」

 

「ううん、当然の事をしたまでだよー。またねー」

 

「また」

 本音さんと簪が手を振り合って別れた。気になったんだが、本音さんの制服は袖で手を隠せるほど長い。それって暗器が隠せるって事じゃないか! 何だか強キャラ臭がしてきた。

 

(表情は変えちゃダメって言ったじゃないか。肩の手離しちゃうよ? だから今度から注意な)

 俺は簪に伝えると、周りに注視されない限りわからない程度に、小さく頷いた。

 

(よし。頑張れ)

 注意はしたけど、今度簪が泣きそうな顔をしたら、俺が耐えられるか心配だ。いやぁ、簪には甘いッスね。今なら楯無さんの気持ちが凄く理解出来ちゃう。楯無さん! 妹さんを僕に下さい! 鈴ちゃんェ……。

 四組の教室に到着して、一緒にドアを潜る。

 

「おはよう簪さん」

 クラスメイトの一人が、簪に気付いて挨拶。

 

「……おは、よう」

 簪はクラスメイトの目をしっかり見て、ちゃんと挨拶を返した。

 

(よし! よくやった! 後で撫で撫でしちゃうぞ!)

 

「簪さん、おはよう。熱は下がったんだね」

 

「おはよ簪さん」

 

「体は大丈夫?」

 一人の生徒の挨拶に答えた簪に、クラスメイトから続々と声が飛んできた。

 

(やめてあげて! 家の子まだそんなに慣れてないの!)

 俺は簪の肩を掴んだまま、言葉のみで制止する。周囲には聞こえないけどな。

 

「……う、ん」

 

(ほらー! 簪俯いちゃったじゃん!)

 

「あ、ごめんね! 病み上がりなのに」

 一人の生徒が簪の様子に気付き、謝罪した。

 

「……気に……してない」

 

(いいぞー! ここでお礼を言うんだ! はい! ありがとう!)

 

「……あ、あり……がとう」

 俯いたままだが、簪はちゃんとお礼を言えた。感動した!

 

(よく言った! 後でジュースを奢ってやろう)

「おうふ……」

 

「グサッときた……」

 

「か、かわいい……」

 クラスメイトが変な息を吐いたり、自分の胸を押さえたり、顔を赤らめながら簪を見つめ始めた。君達、俺とあんまり変わらんね。俺はあまり口にしないけど。

 

(顔は下を向いたままでいい! 次は手を振ってバイバイだ! はい! バイバイ!)

 俺は指示を出す。

 

「……ば……」

 

『………………』

 簪の様子を察して、クラスメイトは固唾を呑んで見守っている。数人だけ簪を気にかけてると思ったら、クラス中が簪に注目していた。

 

「……ば、バイ……バイ」

 簪はクラスメイトに向けて、小さく手を振った。

 

「神……」

 

「悪魔……」

 

「マジンガー……」

 今はキャッチフレーズ関係ないでしょ!

 簪はクラスメイトの横を通って、窓際の奥にある自分の席に座った。

 

(よく頑張った。今は無理だから、それまで我慢してくれ)

 

「……ん」

 俺は肩を優しく叩くと、簪は小さな声で答えてくれた。

 

(ありがとう。ちなみにだけど、俺も二組の教室じゃ簪と同じ場所だぞ)

 

「……っ!?」

 簪が勢いよく俺に視線を向けた。

 

(前! 前!)

 俺は簪の頭を掴んで、頭を教壇側に戻す事に成功。これって下手したら、アサシンみたいに首をゴキッとやっちゃ可能性もあった。ごめんなさい。

 

(ごめんね。不意打ちで言っちゃってさ)

 周りにバレない程度に、簪の頭に手を置いた。

 

(これで許してくれ)

 手を乗せるくらいなら、わかりにくいだろう。

 

「……ん」

 

(ありがとう)

 

 

 

 

 今日は三組四組合同の授業がある。ISわっほーい! が、困った。どうやら簪は、俺に離れてほしくなくて、離れたくないらしい。それはつまり、女子更衣室に入れと言う事だ。やべぇよ、やべぇよ。

 

「大丈夫! ちゃんと待ってるから!」

 俺は必死に説得する。何故女子更衣室へ入らねばならんのだ! 行った所で面白いものなんか何一つ無いぞ!

 

「……一緒に、いないとダメ」

 皆が先に更衣室に入ったから、俺と簪は周囲を気にせず会話している。この状況で問題なのが、簪の声は小さいから気付かれにくいが、俺の手を引っ張っている姿だ。今の所、俺は簪以外に見えないから、傍から見たら簪がパントマイムをしている事に、なってしまう。

 

「後で抱きしめるから! 沢山一杯強く強く長く長く抱きしめるから!」

 つまりだ。これは俺の体で払うって意味なる。やだ、安い体……。

 

「……約束」

 

「お、おう。絶対だ」

 

「……またね」

 簪は俺の手を名残惜しそうに離し、手を伸ばしたまま更衣室へと向かった。どれだけ離れ離れが嫌なんだ。かわいい。

 

 

 俺は女子更衣室の出口で、他の生徒達から目を背けて、簪が来るまで待機。

 すぐにISスーツを着た生徒達がぞろぞろと、出始めた。簪は更衣室に入るのが最後だったから、着替えも最後だと思っていた。だが、背中に何かを擦り付けられたから振り返ると、簪がもうスーツを着ていた。

 

「…………」

 俺の立ち位置から簪を見ると、横を向いた状態になっている。ISスーツはスク水と同じノースリーブスなので、肌が露出した肩か二の腕で擦ってきた事になる。全く躊躇が無いな。かわいい。

 

「…………」

 俺は簪の隣をただ歩いた。

 

「…………」

 簪は無言のまま肩を掴めと、自分の肩をぺちぺちと叩いて仰る。

 俺は遠慮無く触った。

 

「……ふふ」

 簪はくすぐったかったのか、小さく笑いを漏らして俺の手を払う。なんでさ。

 だから俺は、もう一度簪の肩に手を乗せる。

 

「ふふふ……ダメっ……」

 再度弾かれた。な゛ん゛でだよ゛ぉ゛!

 再挑戦。

 

「……だ、ダメっ」

 簪が自分の手で肩を覆ってガード。今の俺って無理矢理触ろうとする変態じゃないか。誰彼構わず体を密着させようとする、変態なのは既に知られているから今更だな。

 

(隣にいるから安心してくれ)

 俺は簪の肩の代わりに、頭に手を乗せ一緒に歩いた。その綺麗な髪をもじゃもじゃにしてやるぜ。

 

 

 アリーナに到着し、三組四組綺麗に分かれて整列。俺は簪の隣にいるから、他の生徒達より身長が高いため、頭が約一つ分飛び出ている。男だからとかじゃなく、統一感が無いから嫌な感じ。

 先生が生徒達にそれぞれ指示を下し、ISが置かれた場所まで生徒を誘導。向こうとは何も変わらない授業風景だ。

 

 

(刀を正眼……中段……剣道の竹刀を持つように構えて)

 

「……か、刀を、剣道の竹刀を、持ってるみたいに、構えて……」

 俺は簪のISの腰辺りのリアスカート部分に足を置き、前屈みで簪の頭に両腕を乗せている。ちなみに俺は、ビーム系の武器しか使った事が無い。つまりビームがオ ンリーワン! 一夏の白式ほどではないが、燃費はあまりよくない。無くなりかけたら、徒手空拳とシールドファンネルを突撃させるだけに鳴る。まぁ、アリーナの狭さとバンシィの速さで接近すれば、何とかなる。近付くまでが大変だが。

 

「こう……かな?」

 打鉄に乗る生徒が、刀を正眼に構えた。

 

(そんな感じ)

 

「う、うん」

 上段、中段、下段、八相、脇構えぐらいしか知らん。

 

 

 次はラファールの射撃だ。

 

(ライフルで一丁の時は、必ず片腕を伸ばして構えちゃダメ。撃った時の銃口の跳ね上がりを最小限に押さえるため、両手で銃をしっかり持って銃床を脇に押しつけて固定)

 

「……ライフルは、両手でしっかりと、持って…………撃った時のリコイルを、押さえる……」

 先生き質問した方が早い。

 

 

 今度は簪が射撃をする番になり、簪は的の正面に立った。簪のISに乗っている俺は、左右のアンロックユニットを掴んでいる。俺の体勢がどこかで見たような気がして、少し頭を悩ませてから思い出した。トマトがオッドアイズに乗ってる時だ。

 

(俺の武器貸そうか?)

 

『ど、どんなの?』

 俺は簪のISに乗ったまま、尋ねてみる。

 

(先生に怒られる威力)

 

『じゃ、じゃあ……ちょっとだけ』

 よし、言ったな? 今の俺はヒーローではなく、まるで悪魔みたいだ。あ、悪魔たん……。

 俺はバンシィに頼んで、専用武器のロックを解除してもらい、簪の手にビームマグナムを持たせた。

 

(必ず両手で構えて撃ってね。きっと反動凄いから。じゃ、俺は一旦下りるよ。傍にいるから安心して)

 

『う、うん』

 俺は簪の返事を聞いてISから下り、少し離れたら、簪がビームマグナムを両手で構え、的に狙いを定めて引き金を引いた。

 銃口にエネルギーが球状に形成され、アリーナに響き渡る轟音と同時に、ビームが放たれる。命中した的が消えて、的を貫通したビームはアリーナの壁に当たり、大きなクレーターが発生。

 

『っ!?』

 簪はビームマグナムを撃ち切った後の反動で、バランスを崩して背中から勢いよく倒れた。ビームマグナムって普通の機体だったら、ここまでヤバかったのか……。

 簪を見守っていた教師や生徒達が簪に駆け寄った。

 

「簪さん、大丈夫!?」

 ISに乗ってない先生が、倒れている簪に声を掛けて無事かどうかを確かめる。先生……アリーナなへこましちゃってすいません。

 簪が上体を起こした。

 

「だ、大丈夫……です……」

 

「凄い音だったよ!」

 

「かっこいい!」

 

「こいつは威力がありすぎる!」

 クラスメイトが簪の射撃に感想を告げている。

 

「……は、はい……何とか……」

 簪は立ち上がり、即座にISの異常が無いか確認した。マジでごめんなさい。

 

「念のため、簪さんは保健室で休みましょう。付き添いは? 一人で行けそう?」

 

「……一人で……大丈夫、です……すみません……」

 謝りながら簪はISを待機形態に戻し、俺もバンシィに頼んでビームマグナムを回収してもらう。

 集まる生徒達の中を簪は歩くが、少しだけ足取りが安定していない。

 簪から離れていた俺は、走って簪に近付いてから、周りの視線に気取られない程度に体を支えた。今回は完全に俺が悪い。

 

(ごめんな、簪。もう少し教えておけばよかった)

 可能性が俺の頭にあったが、伝え損ねてしまっていた。

 

「……気にしないで……もう限界、だったから」

 なるほど、口実か。

 

(保健室行ったらお詫びするよ)

 

「いい、タイミング」

 簪が俺の目を見て優しく笑った。楯無さんすみません。俺は簪をお嫁さんにします。結婚したら毎日世話するんだ。ハッ!? 俺は今、簪の世話をしている……つまり、もう結婚してるって事か!?

 

「そっか、ありがとう」

 

「うん」

 さて、保健室までなんマイル?

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