IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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裏六話

 俺は今、女子更衣室にいて簪の隣に立っていた。簪が入らなきゃ許さないと発言したので、俺は天井を見上げて何とか過ごす。

 時折だが、スーツの着替えの終わりを待ってる俺に、簪が頭を掴んできて自分の体に振り向かせようと努力していた。やべぇよ、この子。意味がわからんぞ。

 

「やめてよね。簪が本気を出しても、僕に敵うわけないじゃない」

 この体の俺にパワー勝負を挑むとは。

 

「いいから着替えなさい」

 

「……うん」

 簪は短く返事をしてから着替えを進める。楯無さんと同じような事をしてくるから、やっぱり姉妹だわ。妹の方が大胆だだけど。

 

「終わった」

 言葉と共に使用して開いていたロッカーを、優しく閉めた。

 

「おし、行こう」

 俺は視線を少し下げながら、簪の姿はまだ見ないようにしている。いや、何か今の簪に視線をやったら危ない気がして。

 

「見ないの?」

 

「見ないよ」

 

「残念」

 簪は俺の手を掴んで歩き始めた。普通に手を引かれるだけで助かったぜ。しかし何がしたいのかわからないな。

 

 

 学園内の廊下を歩く途中、今朝と同様に簪の肩に手を乗せていた。この時間帯はどこの組でも授業中だが、油断は出来ない。

 

 

 保健室に着いてすぐ、簪は空いているベッドに潜り込み、俺はそのベッドに腰掛けた。

 今は大きな動きが出来ないので、横向きに寝ている簪の頭を優しく撫でる。

 

「凄く、落ち着く」

 頭を撫でられている簪が、目を細めながら感想を漏らす。

 

「ゆっくり休め。簪が眠っていようと俺は傍にいるから。約束したろ?」

 

「うん」

 俺の手を簪の頭から離して、掛け布団の中にある手を握った。

 

「おやすみ」

 

「……おやすみ、なさい」

 目を瞑った簪はすぐに寝息をたてた。今日は朝から頑張ったから、普段の生活と変わって疲れていたんだろう。休めるきっかけがISの射撃って所か?

 簪の手を握る俺は移動が不可能になった訳だが、何をしようか? 簪が目を覚ました時に傍にいたいから、片手だけしか使えない。

 俺はある事を思いついた。それは何かあった時のための手段、ポルターガイストだ。俺自身が誰にも見えないので直接物に触れるが、簪から離れずに何かをするには物を遠隔で操る必要がある。だから是非とも習得しときたい。

 

 ポケットから携帯を取り出して自分の横に置き、掌を携帯に向けて念じてみるが、どういうやり方が効果的なんだろうか? 知り合いに超常現象を起こす人や霊とか当然いないので、手本になるものが全く無い。ここはドラマとかアニメを参考にしよう。

 

 

 

 

 昼まで練習して持ち上げる事は不可能だが、引きずるくらいは可能になった。かなり楽しい。

 

「ん……」

 簪の方に視線をやると、目をゆっくり開いた。どうやら目覚めたらしい。

 

「おはよう、簪」

 俺は簪に微笑む。

 

「……おはよう、夕」

 起きたばかりの簪だが、意識がはっきりしているらしくて、俺を見た瞬間に笑みを浮かべた。

 

「眠れたか?」

 

「……うん、ぐっすりと」

 

「昼休みだがどうする?」

 携帯で時間を確認してから、携帯をポケットに仕舞った。

 

「食堂に行く」

 簪は俺と繋いでいる手を離してから起き上がり、俺の隣に座って肩に身を任せてきた。残念。また後でな。

 

「じゃ、行こうか」

 

「うん」

 俺と簪は一緒に立ち上がり、肩を並べて保健室を後にした。

 

「……夕は、私が眠っている間……暇だったりしなかった……?」

 簪は俺に首を向けて心配してくる。

 

「いや、全然。その場でやる事があったから大丈夫」

 今は昼休みの時間帯だが、普通に喋れる程度に人通りは無い。

 

「本当に……?」

 

「疑り深いなぁ。あったから気にするなって」

 俺は簪の頭を優しく撫でる。こうでもしないときっと引きずる。ごまかす方法だ。

 

「ほれ、とにかく食堂に急ぐぞ」

 簪を撫でていた手を肩に乗せ、俺達は食堂に歩を進めた。

 

 

 

 

 食堂に着いた時間が遅めだったから、空いてる席がそこそこ目立つ。俺は簪の肩から手を離して、空席に先に座った。

 俺が座ってから少しの時間が経ち、簪は自分の食事を運んできて隣に座る。

 

「……いただ、きます」

 簪は両手を合わせてから、食事を始めた。

 

「召し上がれ」

 俺は座ったまま窓から空を見上げて、時間を潰す。ソラガアオイナー。

 

 

 

 

 簪は今日の授業の全てを終えて、向かった先は整備室。人が結構いて簪とは落ち着いて会話が出来そうにない。

 

「ま、俺は近くにいるから作業しちゃって」

 俺に背中を見せて、簪は自分の専用機のISを整備を始めた。その後、簪は無言で作業する。

 俺は簪の邪魔にならないよう少し離れて辺りを見回した。

 

 

「さっきの……武器は、荷電粒子砲?」

 近くでISを整備していた生徒がいないので、簪が作業しながら話し掛けてきた。

 

「もしかしたらそう呼べるかも知れないけど、一般的にあれはビームと呼称されている」

 ビームとは何か、と尋ねられても答えられない。設定に詳しくないからだ。俺は科学者じゃないし、まだまだ知識不足。

 

「気になる感じ?」

 

「……私が求める、理想の……武器」

 

「そっか。なら、実物を渡すから解析でもしてくれ。分解は無しで」

 周囲を確認してから再びバンシィに頼んで、ビームマグナムを簪の近くに出現させた。

 

「……うん。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 別に悪用する訳じゃないし、解析ぐらいいいよね?

 俺が渡したビームマグナムを、簪は調べながら自身のISにデータを入力している。

 

「これ作った人……誰? 携行性に優れていて、小型なのに火力もある、から」

 

「篠ノ之束」

 

「え……?」

 簪が手を止めて振り返る。

 

「向こうのね」

 

「き、貴重な物なのに……いいの?」

 大事な物を勝手に調べてもいいのか? といった感じの、不安そうな表情をしている。

 

「いいよ。簪の役に立つなら是非に」

 束さん、ごめんなさい。

 

「ただ、このデータは誰だろうと絶対に渡さず、秘密にしてくれ。俺は簪だけに使ってもらいたい」

 

「私、だけに……?」

 簪の頬が赤く染まった。かわいい。

 

「そう、簪だけだ。あれだよ、刀とか流派の技を、他の流派に知られたくない感じ?」

 

「……何となくわかる」

 

「だからこれは約束だ」

 俺は簪に近付き、小指を差し出す。

 

「……わかった」

 簪も小指を差し出してきて、指と指を絡ませる。

 

「これでOKだ」

 

「うんっ!」

 簪は満面な笑みで頷き、俺達は指を離した。

 

「さぁ、作業に戻りな」

 

「あ、ありがとうっ」

 簪は感謝の言葉を述べて、俺に背を向けてビームマグナムを再び調べ始めた。

 

「……他に何かあるか? 発想ぐらいなら俺でも協力出来るぞ」

 沢山アニメを見てきたんだ。そこからヒントぐらいは出せるはず。

 

「……自分だけで、やってみせたい」

 俺に背中を見せている簪は断った。

 

「そうか。何かあったら言ってくれ」

 

「うん……ありがとう」

 断られちゃったー。

 

 

 

 

 簪がしばらくISを弄っている間、俺は人がいないかを確認してからバンシィを自由に飛ばす。かわいい。

 

「それ夕の?」

 終わったのか休憩するのかわからないが、簪が俺の方を見て尋ねてきた。

 

「うん。俺の大切なIS」

 大切とか言ってる割には、窮屈なポケットに押し込めたままだ。いつもごめんよ。

 

「起動した所……見てみたい」

 

「うん、俺も起動させたいんだけど、そもそも起動出来るのか。可能だとしても誰の目にもつかない場所が無い。後は他の人に見えるかどうかと、疑問が山積みでね」

 束さん達の拠点に行くのはアウト。簪から離れる訳にはいかないし、簪を拠点に連れて行く事も出来ない。計画は後々簪に話すつもりだ。

 

「だったら、アリーナは……? 時間帯によっては人がいない……怒られない」

 

「うーん……わかった。行ってみようか」

 まぁ、お願いされちゃあね。やるしかないでしょ! 色々試さないと。計画に俺も加われるかも知れないしな。黙って指を咥えてるとか赤ん坊かよォ! おしゃぶり昆布下さいな。

 

「うん」

 簪はISを待機形態に戻して、アリーナに向かう準備が完了。俺もバンシィにビームマグナムの回収を頼んで回収してもらう。これでアリーナを目指せる。

 

「準備完了しやした」

 

「わかった」

 俺は簪の肩を掴んで、一緒に整備室を出た。

 

 

 アリーナに到着したら、奇跡的に人がいなかった。夕日が眩しいけど、俺は太陽にほえない。

 

「先……行くね」

 簪がISを出してからカタパルトで発進する。未完成と聞いていたが、基本動作ぐらいは大丈夫と言っていた。

 

『大丈夫。誰も、いないよ』

 簪から通信が入る。

 

「了解。ありがとう」

 俺は返事をして、バンシィを構える。

 

『来てくれ、バンシィ!』

 俺はバンシィの名を呼んで起動させる。

 起動時の独特の光が俺を包んで、装甲が体に装着されて準備完了。何だか凄く懐かしい気がする。

 

『ありがとう! さぁ、簪の後に続くぞ!』

 俺はカタパルトで、懐かしく感じるあの空へと飛翔して、簪の傍に寄って話し掛ける。

 

『これが俺のISだ。起動に成功したぞー!』

 俺は万歳した。

 

『わ、私の予想していた……ISじゃ、ない……』

 簪が口元を手で覆って、目を大きく開く。いきなり否定された。

 

『そう言うと思いました。今は光ってないけど、金色に発光するんだぞ? かっこいいんだぞ?』

 俺は簪に説明する。一夏なら常に赤く光ってんのにな。

 

『ダーク……』

 

『くっそ! 人が気にして……ないな。別にいいんだ。かっこよければ全てよし。可愛いは正義だよ』

 

『冗談だから……』

 

『大丈夫。わかってるって』

 俺は簪と契約したんだ。だからクーリングオフは出来ません。

 

『俺はスペシャルじゃないから、あまり上手じゃないけど、俺と一緒に飛んでくれるか?』

 俺は簪に手を差し出す。飛行だけなら、複雑な操作は必要無い。

 

『うん、わかった』

 簪が俺に手を伸ばして掴んでくれた。

 

『じゃ、エスコート頼んだよ』

 

『任せて』

 簪が笑ってくれたので、俺も笑顔になった。簪ちゃんかわいい。

 

 

 簪と手を繋いだまま、同じスピードで空を飛ぶ。アリーナ内を何周もしていると、久々な気がする飛行にも慣れてきた。誰かが俺を見てないか、頻繁に確認する事を怠らない。楯無さんが見ていそうなんだもん。

 

『心配?』

 一緒に飛んでくれている簪に、話し掛けられた。

 

『そりゃあ、ね。ちょっとした計画があるんだ』

 俺は簪にちょっとだけ理由を話す。

 

『時がきたらある事をするんだよ。人を脅かして回るとか、小さな事じゃない。もっと大きな事だ』

 

『内容を、聞いても?』

 

『もう少し後になったら必ず話すよ。ごめんね』

 

『ううん。私こそ、ごめん』

 

『気にしないで。ただ一言だけなら伝えられる。それは人を守る事だ』

 

『……守る?』

 

『そう。皆を守るんだ。ついでに別の思惑もあるけど、目的は守る事だ』

 

『……皆を、守る』

 簪は守るという単語に反応した。

 

『後で簪にちゃんと説明する』

 

『……わかった。日付が近くなったら教えて』

 

『了解。じゃあ、もうちょっと飛んだ後で、俺の武器をテストしたいから、付き合ってくれるか? 一度も触った事ないんだよ』

 ついにシールドファンネルを使う事に決めた。今までずっと装備しているだけだったから楽しみ。

 

『うん。最後まで、夕に付き合う』

 

『ありがとう』

 

『どういたしまして』

 

 

 

 

 俺達は夜になる前に簪の部屋に戻ってきた。

 

「ふぅ」

 先ほどのアリーナでの出来事を、俺は一生忘れないだろう。実はシールドファンネルを使ったら、滅茶苦茶頭が痛くなった。それもたった一つ操作しただけでだ。偏頭痛に悩まされた事は無いけど、もしかしたら偏頭痛ってあんな痛みが毎日襲ってくるのか。偏頭痛怖すぎ。だから今度、コツとかをセシリアさんに教えてもらおう。

 

「……大丈夫?」

 現在の俺は部屋着に着替えた簪に、ベッドの上で膝枕をされている。超幸せ。思わず抱きしめたくなるほどだ。今度皆にもやろう。

 

「大丈夫だ。問題無い。シールドファンネル超痛かっただから」

 しかし何だ、あの痛さ。セシリアさんってあの痛みに耐えてるの? 流石代表候補生だ。スペシャルやね。

 

「ビット兵器は……誰でも扱える武器じゃない」

 

「はい。とても身に染みました」

 俺は簪の膝を掌ですりすりと撫でる。服がスベスベしていて、肌触りがグッド。おほー。

 

「く、くすぐったい」

 お返しにと簪が頭を撫でてきた。あ、これはもう成仏出来ますわ。計画とか忘れちゃうレベル。いや、ちゃんと覚えてますよ。

 

「このこのー」

 今度は人差し指で膝を撫でる。

 

「ダメ」

 簪は俺の頭を更に優しく撫でてきた。俺もう簪と結婚するわ。一夏と合体したい。あれって一万二千年でいいよね? オサレ感を演出するために一万と二千年前を分けてるの?

 

「俺は今、凄く幸せだ」

 この幸福感に包まれて永眠したい。それ死んどるがな!

 

「……私も、幸せ」

 心が通い合ってますね。だ、ダメよ! 私には鈴ちゃんと楯無さんがいるのよ! でも、快楽に屈しそう。

 

「今この瞬間を……私は大事にしたい……」

 

「うん」

 俺は簪の膝を撫でるのをやめたが、簪は継続して俺の頭を撫で続けている。俺に死因があるなら、幸福死だったりして。凄い死に方だ。

 

「昔の私が……今の私を見たら……何て言うのかな?」

 

「くそったれとか思うんじゃない? 昔の簪を一切知らんけどな」

 俺が簪と出会った時の様子から想像してみた。いや、思わなさそうだ。

 

「口汚い……」

 

「わからないから仕方が無い」

 

「……私も、わからない……かな」

 

「だろうな」

 情報が少なすぎて絞り込めない。

 

「所で今日、クラスメイトと話してどうだった?」

 話題を変えて、感想を聞く。

 

「……大変、だったけど……夕のお陰でちゃんと話せた」

 俺は側頭部を簪の膝に乗せてるから、簪の表情は見えないけど、きっと笑顔だろうと予想する。

 

「そうか。次の目標は俺が何も言わなくても、自分で考えて自分の言葉で話せるように頑張ろう」

 いつまでもここにいられる訳じゃない。

 

「だけど、今はまだ俺が手伝うから安心していいぞ」

 

「……うん。頑張って、みる」

 

「よし、いい子だ」

 俺は再び簪の膝を撫でた。撫でてから気付いたんだが、この手つきってセクハラ親父みたいなもんやんけ。俺はおっさんになってしまったのか。

 

「ふふふ……くすぐったい」

 膝をすりすりしている俺の手を、簪がまた退かした。

 

「ああん、いけずぅ」

 

「また、後で……」

 よっしゃ。後でまたやろう。

 

「それより、晩ご飯の支度を」

 

「そうだな。そろそろ作るか」

 簪の膝から俺は体を起こして、簪の隣に座った。残念だ。

 

「一緒に……作ろう?」

 

「おう」

 俺は簪と家庭を築く事に決めたわ。俺ってちょろすぎ。それでいいんだよ!

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