IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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裏八話

『勝利の女神が微笑んだっ!』

 ゲームが開始されてから十数分が経ち、簪達のチームは連勝していた。

 他三人は敵四体を簪の元へ行かせないようラインをしっかり形成。

 簪は味方のライン一歩手前で敵四体に同時攻撃を行う。

 

 相手の四人も、こちらの味方も実力はあるが、実力が最も飛び抜けているのは簪だ。

 簪は敵機全てが画面内に入る位置を常にキープし、射程内の機体だけに狙いを定めて射撃。

 

 相手全員もただではやられないが、味方の三人は士気が上がっているため、この戦いはただ強いだけじゃ勝利を掴む事は不可能。しっかし長い間プレイしてきた俺より、短時間で上位プレイヤー並みになる簪は凄い。だから俺は超ショック。ぐぎぎぎ……。

 俺は画面から目を離し簪の表情を見てみると、無表情だがよそ見をせずに集中してプレイしているのを確認した。

 ゲームと言えども、夢中になってくれて俺は嬉しい。寮に帰ったら更に褒めようそうしよう。

 

 

 簪達は二十数分もプレイしていたが、味方三人は集中力を切らして次々と散っていき、簪一人になった所を相手四体に囲まれて敗北した。どんなに強いプレイヤーでも、四方八方から狙われたらやられてしまう。簪の機体性能の低さもあり、負けてしまうのは必然だ。

 プレイを終えた簪達は椅子から立ち上がり、後ろに並ぶ客の邪魔にならないよう筐体から離れる。

 弾達三人が簪の近くに集まってきた。俺もいるぞ!

 

「わりぃっ! 俺達が先に倒されたばっかりに……」

 弾が頭を下げてから他二人も弾に続いて頭を下げる。

 

「あ、あの……わ、私も……まだまだ、で……」

 簪は俯きながらもしっかりと声を出して三人に返答した。俺がアストラルの真似をしなくても、簪一人で大丈夫みたいだ。

 

「そんな事ねぇって! え、えっと……」

 三人が頭を上げて簪の言葉に弾が否定。他二人もこくこくと何回も頷く。

 

(白雪)

 

「し、白雪……」

 俺は弾の言葉を察して、簪に俺の名を伝えた。簪の雰囲気が儚そうで、白雪という言葉が俺より似合ってるな。白雪簪……超グッときちゃう。他に俺の名字が似合う人は千冬さんかな? 白雪千冬……チョーイイネ。二人共、俺と結婚して!

 

「白雪さんの援護が正確で、俺達三人が動きやすかった! 俺達三人が保証する!」

 

(これはお世辞じゃないぞ。俺もこの三人と同じように感じた。だから素直に受け取って、礼を言うんだ)

 

「……あ、ありが、とう……ござい……ます……」

 簪はお礼の言葉と同時に会釈。かわいい。

 

「本当に楽しかったぜ!」

 

「こ、こち、ら……こそ……」

 簪は俯いたままだが相手に聞こえるよう、声が相手に届く程度に大きい。このゲーセンは静かな方だからだ。

 

「俺達はまだやってくけど、白雪さんもまだやるか?」

 

(俺は見てるだけで楽しいから、俺の事は気にせず簪がやりたいようにやればいい)

 俺と弾の言葉に、簪は首を縦に振った。

 

「わかった。順番は……」

 弾が周囲を見回してゲームに並んでいる人を確認している。

 

「このまま進めば俺達とまた一緒だ。よろしくな」

 

「は、はい……」

 簪が短く返事をすると弾達は隣の列に並んで、簪も先ほどプレイしていた筐体の列に並び、携帯を触り始めた。

 

(機体を変えるのか?)

 俺の問いに簪は電話で会話している真似をする。

 

「夕の機体、使ってみたい」

 

(わかった。頑張ってね)

 

「うん」

 携帯を仕舞って簪は画面を見つめた。ファイトだ。

 

 

 

 

 ゲームを夕方までやり、俺と簪は寮に帰ってきた。簪が俺の使う機体を操作したら、勝ち確を連発。ただ火力が異常に低すぎるので、味方が三人撃墜されると詰む。

 

「疲れたけど……楽しかった」

 俺はベッドで制服姿の簪に膝枕をして頭を撫でていた。簪が目を細めながら俺を見つめている。あっ、このシチュどこかで……。

 

「見知らぬ人と交流するのも悪くないだろ?」

 話題があるなら特に話しやすい。

 

「……少しだけ」

 

「そっかそっか。まぁ、これから徐々にな」

 

「……うん」

 疲労の色を見せている簪は、目を閉じてから俺に手を伸ばす。

 伸ばすその手を俺は何の迷いなく握ると、簪は安心したのかすぐに眠ってしまい、俺は身動き出来ない状態になってしまった。かまへんかまへん。

 だから携帯を自分の横に置き、遠隔操作の練習を開始。今回の目標は磁石のように、対象物を手元に引き寄せる。これがあれば何かしら役に立つだろう。

 

 

 

 

 簪が起きたのは二十一時過ぎだった。簪が寝ている間に俺は物を引き寄せる事に成功する。次は有効範囲を調べるため、携帯を使われていないベッドに放り投げるが、俺の力は届かなかった。もっと練習時間が必要だ。

 

「おはよう、簪。良い子は眠る時間だぞ」

 目が覚めた簪に挨拶。

 

「……うん。おはよう」

 俺に膝枕されていた簪は起き上がる。

 

「起きて早々に悪いが、晩ご飯はどうする?」

 

「お腹は減ったけど……すぐに作れるの?」

 簪が俺の体に寄りかかった。本当に密着するのが大好きね。俺も大好き。

 

「可能ですも。こんなこともあろうかと! とはいかんが、朝食のアレンジなら」

 

「それでいい」

 

「わかった。ちょっと準備しているから、晩飯の前にお風呂入ってきなさい」

 俺は立ち上がって台所に向かう。

 

「……凄くいい」

 

「何が?」

 簪がいきなり呟いたから、俺は立ち止まって振り返った。

 

「シャワー……浴びてこいよ。いい……」

 

「ゑ? なんだって?」

 ちょっと何言ってるかわかんないです。

 

「浴びてくる」

 

「お、おう」

 俺が返事をしてから、簪は脱衣所に入っていった。何が言いたかったのかしら? 俺の言葉に変な所は無い……よな?

 

 

 簪が風呂に入っている間に、俺はエプロンを借りて台所に立っていると、後ろから誰かに抱きつかれた。この部屋には俺と簪しかいないので、自分を除けば犯人は一人しかいない。

 

「髪の毛が尻尾、みたいに……ふりふり揺れてる」

 いきなり何なの? 猫なの?

 

「それで?」

 

「このままでいたい」

 

「構わんが、俺が動く時は一緒に移動してくれよ?」

 

「……わかった」

 簪が俺の背中にすりすりしてきた。やだ、かわいい。

 しばらくしてから晩ご飯が完成して、料理を運ぼうとしたけど、簪は俺の背中に引っ付いたままだ。ひっつき虫かよ。いや、簪は厄介ではなく、寧ろやってくれって頼みたいぐらいだけどね。言わないが。正直、台所に立つ誰かに背中から抱きしめたかった側だが、逆にやられる側になるとは思わなかった。最高に幸せ。

 

「ほら、完成したから食べようぜ」

 テーブルの前に座ったのはいいんだが、簪が俺から離れてくれない。

 

「うん」

 簪は俺から離れて、対面に座った。

 

『いただきます』

 互いの声が重なり、一緒に食事を始める。うん、普通に食えるな。

 

「……美味しい」

 俺の料理! を、一口食べた簪が、笑顔と感想をくれた。かわいい。

 

「ありがとう」

 やっぱり人と一緒に過ごす時間は幸せだ。もし一人だったらどうなっていた事か。

 

 

 食事が終わり、簪と一緒に食器を片付けてアニメを鑑賞中。この部屋にゲームは無いと簪は言っていた。こっちにも面白いゲームはありそうだ。最初はISばかりが目に付くだろうけど。あ、久々にギャルゲーか乙女ゲーやりたいな。

 

「もう……眠くなってきた」

 俺はベッドに腰掛けて簪を膝枕中。大層お気に入りの様子で。俺も膝枕をしてもらうのが好きだから、簪と同じ気持ちを持っている。落ち着くから仕方無い。

 

「んじゃ、そろそろ寝るか。一人で寝れそう?」

 

「……一緒がいい……かな。ダメ?」

 

「ダメじゃないぞ。さぁさぁさぁ、入るがよい」

 簪が自力で起き上がってベッドに入り、俺も続いて一緒に入った。

 

「おやすみ、簪」

 

「……おやすみ。夕」

 俺と簪はお互いの顔が見えるように向き合って横になる。

 そして俺は目を閉じた。明日も休日だから何をしようか。起きたら簪と考えよう。おやすみなさい、簪。

 

 

 

 

 二日目の休日、そして最後の休み。俺達は朝食を食べてから、整備室に来ていた。簪はゲームからヒントを得たみたいで、機体性能と装備とシステムを現段階で可能な範囲で、一時的に完成させる。どうやら簪は今まで焦りを感じていたらしく、機体の全てを一人で作り上げようとしていた。そりゃあ、どんなに優秀でも同時進行は難しいだろう。束さんは別次元なので除外。

 一旦手を休めた簪は、時計を見てから食堂に向かう。午前中ずっと作業をしていたが、午後からも引き続きやるみたいだ。

 

 

 昼食後再び整備室で調整を始めた。今日は人が多めなので、俺とのお喋りは一切無し。別に寂しくはない。部屋に帰れば沢山話しが出来るからな。うんうん。

 俺は壁に凭れて簪の作業を見守っていると、楯無さんが壁に隠れて簪の様子を覗いていた。あらやだ家政婦が見ているわ。

 簪は楯無さんに気付いてないらしく、黙々と手を動かしている。そういえば楯無さんが妹に嫌われてると言っていたが、簪と何があったんだろう? もしかして姉より優れた妹はいねぇ! 的な事でも言っちゃった感じ?

 

 俺は腕を組みながら、休日を満喫していた思考を働かす。動け! このポンコツが! 動けってんだよ! 非番だからって許さんぞぉ!

 目を閉じてからしゃがむ。後は一夏だな。簪からかなり恨まれているみたいだ。何が原因なのか、ノンオイルドレッシングのさっぱり感ぐらいわからん。一夏は人当たりはいい方なので、きっと外的要因だろうな。もしや……男……白式……簪の未完成な機体……ここから導き出される結論は……わかるわけないだろっ! 問題すらわからないのに、答えを出せるはずがない。

 俺は床に体育座り。兎が一匹……兎が二十……兎が三百……兎が四千……兎が五万……増えすぎィ!

 

 

 長い間、簪のISを眺めて待っていると、簪が俺に近付いて隣に体育座り。

 

(おい、人がまだ沢山いるんだぞ)

 俺は注意した。これはい神崎。

 

「……もう……疲れたから」

 

(喋るのもアカン!)

 休憩を挟まないのが悪い。そんな事はどうでもいい! 重要な事じゃない。

 

(とりあえず口を閉じよう。そして俺の体に寄りかかるのも無し)

 簪が変な子になっちゃう。開き直るのもありっちゃありだが、今はまだその時ではない。一週間ぐらいは隠しときたい。まぁ、俺の存在がバレても気にしないけど。

 

「……うん」

 俺は簪の様子を伺う楯無さんを見ると、見ちゃいけないものを見た表情をしていた。簪の声は聞こえない距離だが、口の動きでわかったんだろう。勘のいい人は嫌いだよ!

 そして簪は眠ってしまい、俺の肩に頭を置いてしまった。

 だから俺は簪の頭を普通の姿勢を維持する。恋愛において男女が秘密の共有をすると、二人の距離が比較的縮まりやすい。まぁ、俺は恋愛感情を持ち合わせてはいないから、秘密の共有だけで好きになったりはしないだろう。簪の方は依存気味なだけかな? 多分。

 

 寝息を立てる簪に、そろりそろりと楯無さんは近付く。

 俺の位置からだと、楯無さんのスカートの中が見えてしまう可能性があるので、俺は立ち上がった。女の子の下着が見たかったら床に寝そべったり、更衣室に突撃すればいい。俺は絶対にやらん。

 簪の目の前で足を止めた楯無さんは、前屈みになって簪の頭にゆっくりと手を伸ばす。いいぞー! 頑張れー!

 

 そして真剣な表情をした楯無さんは、簪の頭に手を置いた。やりましたね! 楯無さん! ここで簪が起きたらヤバいけどな。

 頭を撫で始めた楯無さんの表情が、微笑みに変わってから、静かに手を往復して髪を撫でた。簪の寝顔も可愛いが、楯無さんの微笑も可愛い。思わずキュンとしちゃったじゃないか! 責任とって下さい!

 楯無さんは頬に手を当てにっこり。いきなりフラッシュバンはやめてくれ! 眩しいだろ!

 

「簪ちゃんの寝顔可愛い……」

 グレネードッ! お願いだからやめて! 追加しないで! くらくらしちゃうのー!

 こうなったらやるしかないので、俺は簪の頬を人差し指でぷにぷにした。指にもっちり吸いついてきて、やあらかーい。簪が化粧水使った所を見た事な……あ、脱衣所か。一度も入った事が無いから、真相は不明だけど、これがもし何もしてない自前の肌だとしたら、世の中の女性が嫉妬しそう。

 

「ん……」

 簪が小さな声を上げた。

 

「ふふ」

 楯無さんは笑っとる場合かァーッ! はよ逃げんしゃい! 簪が起きたらきっとデンジャラス! でも俺はデリシャス!

 そしてその時は訪れてしまった。

 

「……夕……?」

 簪が寝ぼけ眼で楯無さんを見つめる。俺の名を言ってみろと、簪に言った覚えは無い。

 

「……ゆう?」

 そりゃ、聞き覚えの無い単語が簪の口から出てきたら、わけがわからないよ状態。

 

「……確かにもう夕方ね」

 違うんだよ! そうじゃないんだ! 一刻も早く簪の頭から手を退けて逃げるんだ! 間に合わなくなってもしらんぞーっ!

 

「……お、姉……ちゃん?」

 

「ハッ!?」

 あーあ、出会っちまったか。

 楯無さんが自分の行動に気付き、緊急離脱しようとしたが、俺はその引っ込める手を優しく掴んだ。悪いね。ここまできたら、地獄を見てもらおう。というか、いい加減話し合え! 人は……分かりあえるんだっ!

 

「な、何!?」

 

「どうして、ここに姉さんが……?」

 簪ちゃんの言葉に棘がある。やだ、こわい。

 

「え、いや、あの、その……」

 楯無さんがあたふたとして、自分の手首にある俺の手を外そうとしている。残念だけど、俺の体は一方通行なんだ。つまりバグルオーみたいな量子化状態。やめろっ!

 

(それはね、簪の事が好きで好きで、簪が大好きだからだ。機体を整備している時からずっと、お前の事を星明子ばりに見守っていたんだぞ)

 簪は俺の言葉を耳にして、楯無さんには見えない俺を見上げる。まぁ、向こうの楯無さんの言葉と、こっちの楯無さんの行動でしっかりと理解出来たんだ。楯無さんに感謝。

 

「か、簪ちゃん……?」

 

(ま、選ぶのは簪だ。このまま手を離しても俺は全然構わないよ。今の簪が抱く想いを、これから先ずっと、その心を抱えたままで日々を過ごす事になっても、俺は簪の傍にいるから、そこは心配無い。さて、何度も選ばせて悪いがどうする?)

 これはショック療法に等しい行為だ。わざわざ介入したくなかったが、偶然機会が巡ってきた。なら、いつやるの? 今でしょ!

 

「私、は……」

 簪が顔を臥せて悩み始めた。

 

「も、もう、行くねっ! くっ!」

 楯無さんがぐいぐいと腕を引っ張り、俺の拘束から逃れようとするが、すみませんが簪は考えているんでまだ離せません。本当にごめんなさい。

 

(すぐに答えが出そうに無いなら、参考にするためのヒントを上げよう)

 ここが一つの別れ道だろうな。

 

(向こうじゃ、俺の部屋の同居人で、ボディーガードをしてくれているのが更識楯無さんだ)

 俺の言葉に驚いた簪は、俺を再び見上げる。

 

(楯無さんは超いい人だぞ? 料理を作ってくれる。勉強を教えてくれる。俺のシャンプーを使う。俺のベッドに潜り込む。すっぴんの方が肌に優しいのに、肌年齢を老化させて大人の女性を演出する)

 一つ一つの事を思い出しながら、俺は簪に告げていく。

 

(俺に笑顔をくれる。俺を構ってくれる。俺の傍にいてくれる。俺を好きだと言ってくれた。一部の行動を除いて、大体の人が簡単に出来る事だ)

 シャンプーやベッドは、普通ならやらない。

 

(今の楯無さんや普通の人と一緒……いや、それ以上に簪のみが可能な事があるんだ)

 俺のバンシィと同じ。

 

(簪は俺を見つけてくれた。簪は俺の声を聞いてくれた。簪は俺の隣にいてくれた。これって目の前にいる楯無さんに出来る事か?)

 不可能だ。

 簪は無言で頷いた。

 

「……簪……ちゃん……?」

 簪が見ている方向を、楯無さんが怪訝な表情で視線をやるが、何も見えない。見えたら困ります。

 

(そう。無理なんだ。だから誇っていいぞ。世界で私一人だけの……幽霊が見えるってさ)

 こんなセリフ恥ずかし……くない。寧ろバンバン吐ける。

 

(もっと必要か?)

 俺は簪に問う。

 

「……うん」

 

(そうかそうか。もっと言っちゃうぞ)

 後は……あの朝の事もだな。

 

(楯無さんって実は攻められるのが弱いのよ。だが、簪は攻守完璧隙が無い。俺の言葉に楯無さんが顔を赤くして逃げる。でも簪はセリフや行動をカウンターで切り返してきた)

 あれはヤバかった。

 

(ま、小さな事だけどな。でも楯無さんに勝る部分が簪にはある。あなたより私の方が彼を好きな気持ちは勝ってるのよ! 云々は全く関係無いぞ)

 全然重要じゃあない。

 

(後は俺よりも凄い部分が簪にはあるぞ。俺の得意なゲームじゃPS抜かれたし、一人でISを整備している。アニメの情熱も俺よりある)

 なかなかできることじゃないよ。

 

(まだ必要か?)

 

「もう、十分」

 

(そうか。じゃ、最後に一つだけな。特化型簪の事をまとめると、完璧超人の万能型楯無さんに地を這わせる武器が沢山あるって事だ。特に俺の件。後は特に俺の件)

 大事だから二回言った。

 

(これにて終了でございます)

 正直、この状況で思いつくのはこれぐらいだ。だが、ちょっと待ってほしい。今まで話した事って、簪が求めている答えなのか? 凄いズレてると気付いた。ホーリーシット!

 

「ありがとう」

 簪は笑顔になりながら、感謝の言葉をくれた。

 

(どういたしまして。さぁ、言ってこい)

 

「お……お姉、ちゃん」

 簪が楯無さんを見上げる。

 俺は楯無さんを掴んでいた手を離す。手形が残ったらすいません。

 

「か、簪ちゃん大丈夫!? 何か見えないものが見えてない!?」

 楯無さんは簪から向けられる視線が、平行になるように座ったから、俺は二人から少し後退。

 

「だいじょうぶ」

 楯無さんからガクガクと肩を揺すられて、簪は何とか答えた。

 俺は簪に背を向けてから、腕を横に伸ばして親指を立てながらこの場を去る。一度やってみたかったんだ。簪にしか見えなくて、目立たないから残念。ヒューッ!

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