IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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四話

 あの後、四人での会話に夢中で昼飯を食ってない事に気付き、急いで食堂へと来た。

 それぞれメニューを選んで、空いてる席を箒とセシリアさんに確保してもらい、俺と一夏で二人の分を運ぶ段取りだ。料理が出来るまで、邪魔にならない場所で少し待つ。

 

「うん。そりゃあ、見られますよねー」

 

「え?」

 一夏に聞こえる程度に呟く。

 今まで全く周囲を気にしていなかったが、ここは二年や三年の人もいる場所だ。無意識に一年だけかと思っていた。

 なにか嫌な予感がする気がする。今日は初日だから、余裕を保ちたいためにジャンクフードを選んどいた。

 

「そういえば、こうやってこの場所に二人で立ってるけど、IS学園って女子高だったな。気を付けろよ。そろそろ新聞部の人が来ても、おかしくない頃だ。もしかしたら、既にスタンバってるかも知れないぞ」

 

「マジか」

 これは確実に記者が飛んできますわ。

 

「頑張れよ。俺は経験済みだから、出来るだけサポートするぞ」

 

「マジかよ。ここに神様が降臨している」

 神は俺の隣にいた。

 

「崇めよー」

 

「ははー」

 言葉だけのやり取りで済ます。ここは人目がありすぎる。

 料理が乗ったトレーを受け取り、一夏は箒達二人の料理を運び、俺は一夏と自分の分を運ぶ。そこから一夏の後ろを付いていって箒達を探した。

 どこもかしこも満席みたいに見えてくる。果たして座る場所はあるんだろうか? 二人が確保出来ていればいいんだが。

 

 

 一夏が箒とセシリアさんを見つけて、俺達は席に着いた。どうやら心配事は杞憂だったみたいだ。

 まぁ、それはいいんだけど、やけに周囲の視線が気になる。なんか、探られているような目だ。その目だれの目?

 

 

「どうかされましたか?」

 きょろきょろと辺りを見回す俺に、対面のセシリアさんが反応した。

 

「いやぁ、なんだか落ち着かなくて。初めての場所ですからね」

 わざわざ言う事じゃないから、無難な返答をしておく。

 

「そのお気持ち、とてもよくわかりますわ。わたくしも入学時は、ゆとりが全くありませんでしたから」

 

「夕にセシリア。私もその会話に混ぜろ」

 

「おい、箒。お前だけ量が多くて食い終わってないんだから、終わったらな」

 俺とセシリアさんが話していたら、箒が突っ込んできて、一夏が箒を弾いた。

 

「な……一夏は私を否定するのか……?」

 

「そういう事じゃねぇよ」

 

「そうですわ、箒さん。少々大袈裟でしてよ」

 

「セシリアまでもか。私の味方は夕だけだな」

 黙ってただけなのに、勝手に仲間にされても困る。

 

「こうなったら、一夏が食べさせてやるんだよ。そしたら箒は黙る」

 俺、ナイス提案。

 

「ありがとうございます!」

 

「俺を使うな! 箒もなに準備してるんだ!」

 箒が俺に対して礼を言って、一夏のトレーに箸とおかずとご飯を置いていく。

 

「三人はとても仲がよろしいのですね」

 まるで子供を優しく見守る、母親のようなセシリアさん。お嬢様だとここまで魅力が違うものなのか。お母様!

 

「箒と夕は小学校からのの付き合いだからな。箒とは家族ぐるみで夕は単体だ」

 単体とは嫌な言い方だ。

 一夏はセシリアと喋りながら、箒の口におかずとご飯をバランスよく運んでいる。箒はされるがままだ。めっちゃいい笑顔してはる。

 

「もちろん、セシリアも友達だ」

 

「はい!」

 なんだかいい雰囲気ッスね。さすがイケメンやで。

 

 

 少し時間が経って箒が食事を終えた時に、俺はとある事を一夏に聞かれた。

 

「さっき二組の教室で、鈴とISの話をしてたよな?」

 

「そうだけど、俺のISの話が聞きたいのか?」

 まぁ、あの場にいたのなら耳に入ったのだろう。

 

「わたくしも興味がありますわ。同じ武器を持つ者として、どんな風になるのか楽しみです」

 セシリアさんもビットを積んでいるのか。

 

「ただ、本当に扱いが難しいので、正直オススメ出来ません。ビットを操作する間、どうしても無防備になるという欠点がありますし」

 鈴が玄人向けと言ったのは、こういう事だったのか。そりゃ、鈴がバカというのも頷けるわ。俺のばーかばーか。

 

「実際にセシリアと戦った俺からしたら、かなり厄介だったぞ。上下左右前後と、どこからでも攻撃が飛んでくるし、接近しようにもルートを塞がれたら為す術なし。俺のISが近距離専門だったから、もう縛りプレイに近いレベル。初見殺しの技がない限り勝ちはない」

 なるほど。どんな武器でも、自分からしたら鬱陶しいというやつだろう。自分が使ってもあまり強くない。相手が使ってきたら何故か強く感じる不思議現象。強い敵が味方になったらぽんこつになるやつ。

 

「大変だったな。一夏も」

 腕前が天と地の差があるセシリアさんと一夏。一夏が負けても仕方ない。

 

「これからビット兵器を使うと思うので、よかったら教えて下さい」

 

「わたくしでよかったら、アドバイスしますわ。同じビット使いですもの」

 セシリアさんは優しいなぁ。

 

「ありがとうございます! ISが届いたら真っ先に連絡します」

 深々と頭を下げる。鈴やセシリアさんが言うんだ、俺には扱いきれないだろう。頭を使うの苦手だし。なんで選んじゃったのか。

 だってビットやシールドファンネル可愛いじゃん。僕はビットとシールドファンネルが大好きです! 囲まれながらも抱き枕にして寝るのが至高。それぐらい好き。一夏より好きかも……。

 

「はい。その日を心からお待ちしておりますわ」

 にこやかに応対してくれるセシリアさん、マジで天使ですなぁ。女神かも知れん。結婚しよ。

 

「私だけ専用機がないとか、会話に入れないじゃないか! 疎外感。姉さんは何をしているのか。欲しい欲しいとお姉ちゃん作ってと強請ったのに……」

 頬をリスかハムスターのように膨らませて、箒のが不満ありますよと表情で語る。

 

「束さんだって、今は忙しいんだろう」

 すぐにくれないであろう理由を一夏が言った。

 

「夕。ちょっとEMF貸してくれ」

 

「はい」

 制服を着るときに制服のポケットの方に移しておいた。今必要でなにに使うか知らんが、一夏に渡す。

 

「サンキュー」

 一夏がスイッチをONにして、辺りを警戒する。セシリアさんは疑問、箒の顔には残念な奴を見る目だ。

 

「よし。皆、顔を前に出してくれ」

 スイッチをOFFにした一夏が身を乗り出し、四人がテーブルの中心に集まった。場所やその探し方はどうなんだ?

 

(実はな……)

 一夏が可能な限り、声のボリュームを下げた。

 

(こいつ、直接脳内に!?)

 

(人の心を感じた気がする。これがニュータイプ)

 

(二人共遊ぶな。いいか? 実は束さんが、結構前からコアを作り始めた)

 

(それって、大スクープじゃありませんか!?)

 

(あぁ、そうだ。それでコアを量産して、そのコアをいくつかやるから宇宙用のISを作ってと、どこかに取引を持ち出した)

 

(なんでお前がそれを知ってるんだ? 私に何も連絡しないのに)

 

(箒だったらテンション上がって、それ以上束さんの話を聞かずに、ぽろっと周りに触れ回りそうだからだってさ。いくら束さんが好きでも)

 

(信用ないのか……)

 

(その代わりに箒のISをすぐ作るから、俺から伝えろってさ)

 

(だったら直接言えばいいだろうに……)

 

(箒の顔を見ちゃうと、甘えられて全て投げ出しそうだからって言ってた)

 

(束さんも大変なんだろうねぇ)

 しかし、それに気付くのに随分時間がかかったな。天才とはいえ彼女も人だったのだろう。知らんけど。

 

(博士は博士で苦労なされてるのですね)

 

(この事は絶対に内緒だぞ。特に箒がだ。秘密を漏洩させたらIS作るのやめるって)

 

(はい)

 

 最後に一夏が箒を脅して、座席に腰を下ろした。俺を含めた三人は、それに倣って元に戻った。

 

「そうかそうか。姉さんが……」

 にへらっと箒がだらしなく静かに呟いて、顔を変に歪めながら笑った。ああ、これは一夏というワンクッションがないと、バラしそうだわ。束さんは正解だったな。でも、既にヤバい雰囲気が滲み出ている。束さんは判断を間違えたな多分。

 

「さ、これ片付けてそろそろ教室に戻ろう」

 一夏が切り出して食器を下げようと提案。その言葉に俺達は従った。

 

 

 

 

 俺は一夏達と別れ、教室の自分の席にどっしりと腰を据えた。おっさんか。

 隣に鈴ちゃんはいない。行き違いかな。

 

 結局視線を浴びただけで、取材は来なかった。見事な肩透かし。一つだけ力強い視線をこちらに向けていたのなんだったのか。

 しばらくゆっくりしてると、何人かのクラスメイトが話しかけてきた。さぁ、どんとこい。

 

「白雪君のオススメのゲームって何がある?」

「ちょっと男の子について聞きたい事があるの」

「白雪君の好きなタイプ教えて」

 同時に話すんじゃあない。ちゃんと付き合うから。

 

「乙女ゲーならホストを攻略する奴だな。有名な声優さんがいるし、フリーターの主人公が、早よ結婚しろと母親に急かされて、ホストにハマるのがよかった。ホストの裏側を多少知る事も出来る。正しいかはわからんけどね。比較的新しいゲームだから、ネットを探せばすぐあるよ」

 好みにあうかは知らん。

 

「ありがとう。探して見るね」

 

「次に何を聞きたいのかわからないけど、一緒の時間を過ごせば印象に残りやすいよ。さり気ない気配りに、聞き上手であるならよし。男は自分語りが好きらしいからね。キャバクラに通うおっさんとか過去の武勇伝をよく語るもん」

 これは成功した女の子に聞いた事だ。交際経験のない俺なんかが、多く知る訳ないだろ。だから正直ふわっとした答えしか返せない。俺は聞く方だから、今述べた事は俺に当てはまらない。別に言う事ないし。

 

「わかった。アドバイスありがとう」

 

「次に俺の好きなタイプは、好きになった人がタイプだよ。好きになった人が自分の好みと違うとか、一目惚れパターンとかあるあるだから。俺はそもそも好になった事は一回もないけど」

 一夏は親友で精神安定剤だ。鈴ちゃんはただの友人。小動物的で、たまにおかんみたいに世話焼き成分が入ってる。雷みたいなロリおかん属性とか、なかなかあるもんじゃないよ。

 

「教えてくれてありがとう」

 同時に尋ねたからか、それとも察してくれたからなのか、三人は意外と早く去っていき、ちょっとした交流が終わった。一人で来てくれるならじっくり話せるよ。今回はタイミングが悪かった。

 

「話かけてくれてありがとう。またね」

 ひらひらと手を振って、自分の席に行くのを見送った。

 俺は窓の外を見た。今日は時間の流れが遅く感じる。多分、なかなか落ち着けないから、集中出来ないんだと思う。見る物全てが新鮮だから、退屈ではないんだけどね。

 

 

 昼休みが終わり、授業に入った。意外とISの勉強ばかりじゃないんだな。先日まで通っていた高校と同じだ。でも、授業の進みの早さが違うみたいで、俺がまだ習っていない所を今やっている。応用とか教科書に書かれていても、基本知らないからわかんねぇ。今日の夜の内に勉強しないと……。

 あ、千冬さんの所に行かないとダメだった。でも千冬さんのスイッチが切れるから、教えてと言ってもきっと教えてくれないだろう。一夏か、同じ部屋になる人に聞くしかない。

 とりあえず、やってない部分をやろう。何事も基本が大事なんだ。世の中のメシマズの嫁さん方、まずは基本を覚えてよ! 下手したら旦那さん死ぬから。 大抵自覚がないらしいけど、それ殺人だよ?

 

 

 

 

 いつの間にか放課後になっていた。勉強に集中していたら、気付いた時には時既に遅し。なんで誰も教えてくれなかったんだ! もしかしたら、百面相をしていて放っておかれたのかも知れない。が、結果的にサボりになっちゃったじゃん。

 

「あんたはこれからどうするの? 私は部活があるけど」

 隣の鈴に尋ねられた。

 

「帰るしかなかろうて。余裕ない」

 部活に入るなら、もう少し後にしたい。初日なんだぞ?

 

「そうだと思った。じゃ、またね」

 

「また明日」

 鈴を見送り、俺も席から立ち上がった。

 一夏も鈴みたいに部活入っていたりするのかな? 入るとしたら箒と剣道部? それとも調理部とか?

 

「夕! 一緒に帰ろうぜ!」

 声がした方を向くと、一夏が迎えにきてくれていた。

 

「わかった。ちょっと待ってくれ。じゃ、またねー!」

 残っているクラスの人達に、別れの挨拶をしてから廊下に立つ一夏の元へ近付く。

 

「お待たせ」

 

「いや、全然待ってない」

 なんだこの会話。待ち合わせ場所に着いて、これからデートするカップルかよ。へぇ、デートかよ。

 

「寮の部屋まで案内するよ」

 

「ありがとさん。頼んだ」

 一夏と肩を並べて歩く。

 

「夕ってどこの部屋になるんだ?」

 

「はい」

 前日に渡された、部屋番が書いてある寮の鍵を渡す。一々口頭で伝えるより、見てもらった方が早い。

 

「なんだ……やっぱり俺と違う部屋か。期待してたのに。部屋に荷物が着いてないから、なんとなく察してたけどな」

 何? 男が二人なら男同士の部屋になるのではないのか!? 一夏ァ! 俺とお前で超融合か、オーバーレイしようぜ!

 

「マジかよ。また精神すり減らすのか……」

 出来れば知り合いがいいなぁ。でも、誰も何も言ってこないなら、多分知らない人なんだろう。やだ、お家に帰ってビットとシールドファンネルの形をしたレプリカと一緒に寝たい。ここの規則じゃ、寮と学園では許可なくISを展開出来ないからな。つまり、武器も無理だ。屁理屈を言うなら、IS本体じゃないからとゴネるがね。俺が持ってきたのはレプリカで、モノホンじゃないから絶対大丈夫。

 

「大丈夫だ。俺も部屋まで一緒に行ってやるから」

 一夏から後光が見える。何の光!?

 

「ありがとう。本当に助かる。お礼にキスしちゃうぞ」

 学園も地獄で部屋も地獄なら、俺の休まる場所は一夏の隣か、俺のISの隣。ビットとファンネルも一緒なら、もう最高。女性が何人いようとやっていける。嘘です!

 俺は一夏に何度も感謝しながら、寮へと向かった。

 

 

 

 

 時は来た。俺の目の前には部屋に繋がる扉がある。そしてロックを解除した。

 

「……開けるぞ?」

 

「……おう」

 ドキがムネムネしてきた。嫌な予感がする。昼休みのあの感じに似た誰かの目。

 俺、ここに来て勘が鋭くなったのかも。何かと警戒してるからか? これはニュータイプか、イノベイターになったのか。なるならあの宇宙(そら)がよかったな。

 ドアを三回ノック。俺と一夏は目をあわせ、覚悟を決めて深く頷いた。

 

「失礼します!」

 少ししてから、地獄への道を開いた。

 

「おかえりなさい! あ――」

 

『――チェンジ!』

 俺と一夏は同時に叫んだ。

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