IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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裏十一話

 朝。俺が起きた時間は六時。昨日は女装姿の一夏が訪問してきて、とある事情で簪の部屋に泊まり、二人は朝方までアニメを鑑賞した。俺が何度も注意して、ようやく就寝。だが、睡眠時間的に二人はなかなか起きないだろう。簪はともかく一夏がヤバい。簪が登校する時間になってもきっと起きなさそう。なので、今日は俺が一夏をサポートしよう。簪に説明すればわかってくれるはずだ。

 

 簪と一緒に寝ていたベッドから抜け出して、俺は伸びをした。もう簪と同じベッドで眠るのが普通になってきたな。あ、向こうで鈴ちゃんや楯無さんと一緒に寝ておけばよかった。

 さて、遠隔操作の練習でもやろう。

 

 

 俺はクッションに座って携帯と財布を飛ばしていると、簪が上体を起こして目を擦った。

 

「おはよう、簪。眠いだろ?」

 

「……まだ」

 

「だから言ったんだ」

 一夏はこの世界じゃ永眠出来るが、簪は授業を受けなくちゃならない。

 

「……ごめんなさい」

 顔を俯かせて謝ってきた。

 

「いや、怒ってないから。ごめんごめん」

 財布と携帯をポケットに仕舞い、簪に近付いて抱きしめる。かわいい。

 

「とっとと起きて準備しよう」

 

「……そうする」

 

「あ、そういえば後で一夏が見つからないように、協力したいんだけどダメ?」

 

「いってらっしゃい」

 

「ありがとう。後でいってきます」

 簪を抱きしめたまま撫でる。超いい子。

 

「着替えてくる」

 簪が俺から離れて脱衣所に向かった。

 俺は普段使われないベッドに寝ている一夏に近付き、頬をぺちぺちと優しく叩く。

 

『おっきろー』

 どうせ声は届かないが、呼び掛けながら起こしてみる。ウィッグ外せ。気に入ってんの?

 

「うー……」

 

『ほれほれ』

 頬をツンツンと突っつく。なかなか起きんな。まぁ、一夏の寝起きの悪さを利用して、箒と一緒に遊んでたからそこは感謝。

 とりあえず、もう少し寝かせておこう。寝ぼけた状態で移動しても危ないしな。

 

 

 簪と俺が朝食を作っていると、扉がノックされた。

 

『簪ちゃーん! 一緒に朝食を食べよー!』

 このタイミングで楯無さんがっ!? そういえば簪と仲直りしたから、来てもおかしくない。

 

(簪! 俺は一夏をクローゼットに押し込んでるから!)

 

「足止めをするっ」

 

(了解したっ! 出来る限り自然になっ!)

 簪が表情を引き締めて頷き、俺はエプロンを脱ぎ捨てながら一夏の元へダッシュ。

 

『失礼するっ!』

 一夏を抱え上げ、俺はクローゼットに突入。

 そしてクローゼットの扉にぶつかった。

 

『やっべぇ! 一夏抱いたままだった!』

 いつも自分だけなら扉をすり抜けられるので、一夏を抱いているこの状況を全く考えていなかった。ごめんよ、一夏。でも、これで起きない一夏凄い。

 今度は一夏を担いでから片手で扉を開き、クローゼット内に入って一夏を優しく下ろし、扉を閉めた。大きな物音がしたから、楯無さんに怪しまれなきゃいいんだが。いや、確実に気付くか。

 俺は時間稼ぎをしてくれている簪の元へ走り、肩を叩いて問題無いと知らせる。

 

「簪ちゃん。大きな物音がしたけど、何か飼ってるの?」

 簪は扉を小さく開き、体を使って楯無さんをブロックしている。何かありますよと、言外に教えてるようなもんじゃないか。すまん、簪。

 

(最近背後霊を飼い始めたの)

 

「さ、最近背後……え?」

 楯無さんに首を向けていた簪が、俺の方に向いた。戸惑う事なく言っちゃえよ。

 

「簪ちゃん? もしかして、時間稼ぎ?」

 

「ち、違うっ……これは、その……」

 楯無さんならわかっちゃいますよねー。そして簪は必死すぎ。気持ちわかる。

 

「まぁまぁ、何が出てこようと怒らないから、ね?」

 にっこり笑顔の楯無さんが、扉の隙間に体をねじ込んでくる。セールスマンがドアに足を入れて挟んでくるテクニックかよ。確かフットインザドアだっけ? あれ? これは交渉や心理とかに使われる用語か?

 

「も、もう少しっ……待ってっ」

 楯無さんは攻めるが簪は守りに徹している。アタック側が有利だな。

 

(いや、もう時間稼ぎは大丈夫。うるさくて一夏が起きてきた方がヤバいから、とっとと済ませよう)

 

「わ、わかった……どうぞ」

 俺の言葉を聞いた簪が力を抜き、楯無さんを部屋に入れた。

 

「簪ちゃんの勇気にありがとう。それじゃ、お邪魔するね」

 楯無さんが礼を言ってから、部屋の中央へと向かう。

 

「何か……簪ちゃんとは違う匂いが……?」

 部屋の中央に向かう途中に、楯無さんをボソッと呟く。そういえばこの人変態だったわ。

 

「あ、おはようございます。楯無さん」

 一夏がベッドに腰掛けていた。

 

(えぇぇぇぇぇぇっ!?)

 おいバカ何故今起きているっ!? もしかして、ぶつけた時に目覚め掛けていた? 俺が悪い。

 

「え……?」

「な、んで……?」

 先頭を歩いていた楯無さんは体が固まり、後尾にいた簪は目を見開く。

 

「…………あっ」

 一夏が現状に気付いて小さく声を漏らしながら、勢いよく立ち上がった。おせーんだよ!

 

「……君は?」

 あーあ、俺知ーらない。だからここからは傍観させてもらいますわ。これが傍観者か。

 

「お、わ、私は……織斑夕一ですっ!」

 ゆうひ……人の名前使ってんじゃねぇよっ! 簪はいいのよ。俺が言ったんだから。

 

「織斑……? 確かに織斑先生や一夏君に似てるわね……」

 いえ、こいつ織斑千冬の皮を被った別世界の織斑一夏です。しかし裏声上手ですね。

 

「それで、その織斑夕一さんは何故ここに? この学園の生徒でない者は、誰であろうと敷居を跨ぐ資格はないわ」

 

「私も生徒ですっ」

 向こうの世界のな。

 

「いいえ。それは違う。生徒会長である私は、全生徒の名前を把握している。あなたの名を、私は記憶していない。それに織斑先生と一夏君は二人姉弟で、他のご家族はいないはず」

 

「じ、実は千冬姉さんと一夏兄さんとは、幼い頃に別れて私を覚えてないんですっ。だから昔から覚えていた私は、二人の顔を自分の目で見ようと、決心してここに来ましたっ」

 一夏がどう言おうと、必ず論破される未来が見える。そもそも、女装姿で他の事をごまかすために奮闘するのが間違い。

 

「……あなたがここへ来た理由は、ちょびっと理解したわ。でも、不法侵入は許されない行為よ?」

 

「わかってますっ! だから簪さんに匿ってもらっていたんですっ」

 夕一ちゃんの言葉に、楯無さんは振り返って簪を睨む。ヒエッ。

 

「その話……本当?」

 いるよね。怒らないと言いながら怒る人。大人は嘘つきなんだっ!

 俺は怯える簪の隣に立って、肩に手を置いてから言葉を伝える。

 

(彼女がいたから私は変われた。夕一がいなかったら、私はお姉ちゃんを憎んだままだった)

 

「か、彼女が……いたから、私は……変われた……。夕一がいなかったら……お姉ちゃんを、憎んだままだったっ!」

 簪は楯無さんを睨み返す。こっわ。

 

「!?」

 楯無さんが、簪の言葉に衝撃を受けた。ナイスアシストだ! よくやったぞ俺! 簪もナイス!

 

(だからお姉ちゃんの顔を見つめられるようになった)

 

「だから……お姉ちゃんの顔を、見つめられるようになったっ」

 

「……そっか。それじゃ、夕一さんに感謝しないとね」

 楯無さんの態度が360°回転した。それ変わってへんやんけっ!

 

「いえ、私も困っている所を助けられたので、お互い様です」

 夕一ちゃんが簪の言葉に乗っかる。よっ! 名演技!

 

「今までの発言は、全てミステリアスレイディに流してもらって」

 自分のISを水洗便所扱いしないで下さい。もしくはダム決壊。ユダ様は本当に頭の良いお方。

 

「ありがとう。夕一ちゃん」

 一夏に笑顔で頭を下げる楯無さん。そりゃ、簪と楯無さんの仲を修復する切っ掛けを与えた人物に、お礼をするのは当然ですよね。でも生徒会長の対応としては確実に間違ってます。

 

「こちらこそ、ありがとうございます」

 一夏も楯無さんに頭を垂れた。さて、これからどうなるのか? 一夏はこのまま束さんの元へ帰るだろう。楯無さんは簪と一緒に住む事は確実だな。特に異常は無い。

 

「じゃ、夕一ちゃんも一緒に朝食を食べましょう。感謝の気持ちにしては、まだまだ小さいけど今日の所は朝食で」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「簪ちゃんもごめんね。思わず怒っちゃって」

 楯無さんが、簪に向き直って謝罪。

 

「お姉ちゃんは、当然の事をしたまで」

 

「本当にごめんね!」

 

「うん」

 イイハナシダナー。

 

「所で簪ちゃん。背後って言いかけた言葉の続きは、なーに?」

 覚えていらっしゃったか。

 

(スタンド)

 

「す、スタンド……?」

 

「スタンド?」

 俺の言葉に簪は呟き、楯無さんは聞き返す。

 

「スタープラチナ! オラァ!」

 一夏……お前なんで地声出した。

 そして今の地声に楯無さんが反応して、ゆっくりと一夏の方へ振り返る。

 

「い、今の……夕一ちゃん?」

 

「はい。似てますか?」

 今度は裏声で返事をした。こいつ訓練していたな。

 

「ちょっと……わかんないかな……?」

 なるほど。一夏はそれでごまかす気か。だとしたら声バレのリスクが高い。まぁ、真実を伝えても楯無さんなら冗談だと……受け取りそうになく、根掘り葉掘りと聞いてきそう。俺はバレても構わないけどね。

 

「それより食事の支度を手伝います!」

 一夏は勢いで会話を流すつもりだ。

 

「お客さんは座って待っててね」

 

「はい」

 一夏はベッドに座って、楯無さんと簪は台所へ。全体的に悪くない結果だろう。あー楽しかった。

 

 

 食後の休憩。時間に余裕があるので楯無さんと簪はベッドに座る。一夏は床のクッションで正座。そのクッションじゃ座りにくいだろ。

 

「あの、お姉ちゃんに伝えたい、事があるんだけど……」

 

「なーに? 告白? ダメよ、簪ちゃん! 姉妹なのにそんな……」

 俺は使われていないベッドに腰を下ろして、三人の会話を黙聴。

 

「簪さん。もしかして、クラスリーグマッチの件ですか?」

 一夏が楯無さんの言葉をカットして、簪の援護。楯無さんに構うと話が逸れると、一夏は熟知している。ま、脱線事故になるよね。

 

「そう、それ」

 

「クラスリーグマッチがどうしたの?」

 

「試合中に、無人機が来襲してくる、らしくて」

 

「無人機? 誰にそんな話を?」

 

(アリス・キャロビット!)

 俺はその場で叫んで簪に伝える。束さんのデフォ衣装がアリスみたいだし、人参と兎をセットにしてみました!

 

「アリス・キャロビットって、人から」

 

「アリス・キャロビット……? 聞き覚えが無いわね……」

 楯無さんが横に倒れて、頭を簪の膝に乗っける。膝枕いいよね。心が洗われる。

 

(ドアに手紙が挟まっていて、読んでから燃やした。だから手元に無い)

 

「ドアに手紙が挟まってて、内容を読んで焼却処分。手紙は無くなった」

 

「んー……怪しい手紙ね。今の所、デマの可能性が高いかなー?」

 ま、普通なら疑うよな。

 

「既に織斑先生に、注意を呼び掛けたみたい」

 

「織斑先生に? なら、織斑先生に確認をとるのは後にして。他の情報は?」

 

(篠ノ之束が犯人)

 

「篠ノ之束が、犯人」

 

「篠ノ之博士?」

 

(アリスはこの世界で、唯一篠ノ之束と渡り合える人間)

 

「アリスは、篠ノ之束と同等の力がある。だから篠ノ之束の情報を掴んだ」

 

「同等?」

 

(最近現れたから、知る人はいない)

 

「裏で活動していた人。世間では名を知られてない」

 

「ますます嘘臭くなってきたわね……。何故、このタイミングでアリスが?」

 

「私はアリスさんと共にいました」

 簪と楯無さんの会話に、一夏が加わる。

 

「だから私はここにいます。無人機云々の話は、手紙で知りましたけど」

 今思ったんだけど、楯無さんに隠す意味あるの? 普通に真実を話した方がいいんじゃない? バラすような人ではないし。もし織斑先生以外にこの件を口外したら、秘密をバラす人間として簪から嫌われる可能性大。

 

「うーん……今までの話をまとめると、無人機が襲来するから私に動いてほしいって事?」

 

「うん」

 

「もっと信憑性がないと難しいかな? 私はアリスって人を知らないから、踊らされてる気がしてしまう」

 ですよねー。

 

「では、これでも?」

 一夏がついにウィッグを外す。最初からやれよ。回りくどいなぁ。

 

「えっ!?」

 

「初めまして! 織斑日夏です!」

 今度は地声で自己紹介。だが、待ってほしい。お前、確実に変態になるぞ?

 

「いやぁ、実は俺って一夏と双子でして。嘘ですけど」

 こいつ遊ぶ気満々や。少しカタルシスがありそう。

 

「実は俺の名前、本当は織斑一夏って言うんですよ!」

 

「え? え?」

 楯無さんが一夏の言葉についていけてない。流石の楯無さんも、これでは思考が働かんでしょ?

 

「別世界から来ました!」

 一夏は敬礼。何に対してだよ。

 

「居場所が無くて困った困った。何せ、もう一人の俺が存在しますからね。はっはっは」

 もっとやれー!

 

「この世界の俺に会って確かめてみては?」

 

「簪ちゃん。ちょっと私のほっぺたを抓ってくれる?」

 楯無さんのお願いに簪は頷いて実行した。

 

「現実ね……」

 まだ思考回路がショートしているらしい。仕方が無いね。

 

「お姉ちゃん。行ってみたら?」

 

「そうする」

 簪の言葉に頷いた楯無さんは、ふらふらした足取りでこの部屋を出ていった。さてさて、楽しくなって参りました!

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