IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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裏十二話

 一夏の提案と簪の後押しがあって、楯無さんは部屋を後にした。いってらっしゃい。

 

「バラしても、よかったの?」

 

「詳細を説明するより、実物を見てもらった方が早いだろ? それに、この秘密を楯無さんは絶対に漏らせない。簪が関わっているからな。騙す形になっちゃったけど」

 楯無さんは立場よりも簪の好感度を気にするから、一夏や俺の事を広める事は無いと読んだんだろう。でも、男と同棲の件は俺が関わる。やだ、怒られちゃう

 

「お姉ちゃんが困惑する姿を見れて、私も少しだけ楽しかった」

 

「そうか。後で一緒に謝ろうな」

 

「うん」

 君らの表情が笑顔で、これから謝罪する気が欠片も見て取れない。かわいいからOK。

 

「夕も一緒にな」

 当然、俺もだよな。

 

(了解)

 

「了解、だって」

 

「よし! これで当日まで持ち堪えられそうだ……」

 悲しい言葉だ。

 俺達が会話をしていると、楯無さんが戻ってきた。必死な形相をして、肩が上下に動くほど息を切らしている。

 

「め、目の前に存在するっ……一夏君の話は事実みたいねっ……」

 部屋の扉から離れた楯無さんは、簪の隣に座って息を整え始めた。

 

「騙してすいませんでした」

「……ごめんなさい」

(楯無さん、すみません)

 俺達三人の声が重なりながら、頭を下げた。俺の場合は簪にしか聞こえないが、せめて形だけでも。

 

「と、とりあえずっ……受け取っておくわっ……それより先にっ……全て説明して頂戴っ」

 

「わかりました。まず、俺の事から話します」

 まだ登校までに余裕はあるけど、長くなりそうだなぁ。時間大丈夫?

 

「一年一組、織斑一夏。別世界のIS学園に通っています。寮でいつものように寝ていたら、何故かこの世界にいました」

 俺もいつものように寝ていましたよ! よ!

 

「後、俺以外に二人もいます」

 束さんと俺だね。

 

「続けて」

 楯無さんの息が整って、腕を組んで閉じたままの扇子を口元に当てている。目つきが鋭くてかっこいい。惚れちゃいそう。

 

「一人は篠ノ之束さん。さっきのアリスって人が束さんになります」

 普段の服装的に似合う名だと俺は思う。

 

「もう一人は俺の親友、二人目の男性操縦者で一年二組の白雪夕。現在の種族は幽霊。いや、職業か?」

 俺もヒューマンなのかゴーストなのか、クラスが何なのか悩んでいる。

 

「今は私達が座るベッドとは違う、隣のベッドで座っている」

 

「へ? 幽霊?」

 楯無さんの視線が俺の方に向いたので、とりあえず手を振る。

 

「はい。普通の人や俺と束さんは何故か見えません。簪にしか見えてないんです」

 

「それって簪ちゃんが何も無い場所を見つめてたり、私の手首を掴んだりしたのが、その白雪君って子の仕業?」

 

「うん」

 楯無さんの思考回路どうなってんの? ロシア代表で生徒会長だから当然の早さか。はらしょー。

 

「簪ちゃん……何かえっちぃ事されなかった?」

 簪を心配するのは当たり前ではあるが、すっげぇ心外。俺の怒りが有頂天になった。この怒りはしばらくおさまる事を知らない。

 

「私が更衣室や、トイレに引っ張ろうとしたけど、逆に拒否された」

 一夏は簪の行為に苦笑している。なにわろてんねん。

 

「同じ男として心配になるぐらい、欲がありません」

 やめてくれよ……何かクソ恥ずかしいだろっ!

 

「それに、私とは毎日一緒のベッドで寝ている」

 

「ダメよ、簪ちゃん! 女の子なんだから、自分の体は大事にしないと! 安い女になっちゃダメ!」

 いつの間にか扇子を仕舞った楯無さんが、簪の肩に手をやって揺すった。

 

「実は俺と夕の世界の楯無さんは、夕に惚れています」

 それ、目の前の楯無さんに言わなくてもいい情報だよね?

 

「えっ!?」

 一夏の言葉に楯無さんが反応して、簪の肩を掴んだまま一夏に首を向ける。

 

「告白済みです」

 

「えぇっ!?」

 そりゃ、楯無さんも戸惑いますわ。自分と違う別の自分には慕う人がいるなんて。

 

「楯無さんの仕事関係で、まだISを起動していない夕を見かけて、それから段々と気になって好きになったと、向こうの楯無さんが教えてくれました」

 いやいやいやいや、本当に必要無い内容だよね? これは目の前の楯無さんで遊んでますわ。

 

「…………どんな子なの?」

 簪の肩から手を離して、一夏に体を向けて前のめりになった。食いつかなくていい! 今は流せよ! まぁ、好奇心が湧き出ちゃったんだろうな。ただの日常では味わえない、世界で一つだけの珍味。楯無さんが犬になって、涎が垂れてる光景を幻視した。実際に垂らしてはいない。

 

「子犬みたいな奴です」

 だよな。俺っていつも誰かの後ろをついてくからね。しかし、見えないけど俺がいるのに、容赦無いな。もしもーし。

 

「尻尾もある」

 

「……尻尾?」

 結んである髪が尻尾を彷彿させるんですね、わかります。また髪の話……。

 

「後ろの髪が長くて本当にわんこです」

 やめろー! こんなの犬じゃない! 楯無さんの脳内では人面犬になってそう。グロい。

 

「へぇ……子犬。そして別世界の私が、ね」

 楯無さんは何故か勝ち誇った顔をしている。向こうの楯無さんを貧弱とでも思ってんの? いずれ誰かに恋するんですから、それはやめといた方がいいです。何年かしたらブーメランが帰巣本能みたいに帰ってきますよ?

 

「別世界の自分がどんな感じか知りたいですか?」

 

「今後の参考のために」

 

「わかりました。まずは……一緒の部屋で寝食を共に」

 一夏は軽いジャブにすらならないジャブを繰り出す。

 

「それで?」

 見事にガードされた。

 

「夕が寝ているベッドに潜り込みます」

 

「ふんふん」

 

「そういう事を……しちゃってます……」

 一夏は楯無さんから顔を背けて、言葉を濁して気まずそうな演技をしている。こりゃ遊ぶ気満々だわ。俺は苦手な話題だが、今回だけは割って入らずに黙って耐えよう。

 

(実際は何もしてないし、何も無いからな? してたら簪も危ない。これは全て一夏のでっち上げ)

 一応簪に伝えておくと、俺の言葉に簪は小さく頷いてくれる。やっぱり信じてくれた。ホンマええ子やで。

 

「ちょっと、そこら辺を詳しく」

 そういうお年頃なんですね、わかります。

 

「そりゃ……好きな人と一緒のベッドになれば……きしきしと……ねぇ?」

 一夏は顔を背けたまま、察してくれと言っている。

 

「……激しい?」

 楯無さんの頬に赤みが浮かぶ。簪の顔に変化は無い。

 

(楯無さんの話の広げ方にクソワロタ。一夏は何の迷いもなく答えるけど、普通に考えて一夏が知る訳ないだろ。楯無さんなら気付きそうなんけどなぁ)

 

「隣の部屋から苦情が……」

 レオパレス疑惑。金あるんだから、もう少し部屋を広くして防音にしよう! 狭いし物の配置が違うんだよ、この世界の寮って。

 

「……どんな風に?」

 

「あの……深夜に……その……物音と声が、聞こえる……って、もじもじしながら言いに来ます」

 UNOならよかったのにな。

 

「そう……私も気を付けないと」

 嘘なのに反面教師にしても意味無いよ。

 

「でも、情熱的な部分がお姉さんらしい」

 楯無さんがうっとりしながら、自分の体を強く抱きしめる。そっすか。

 

(それは情熱じゃなくて、ただ変態なだけだよ)

 

「ふ……」

 俺の言葉に簪が小さく笑いを零す。生徒会長が寮で真っ先に風紀を乱すとか、一番やっちゃいけない。学園外ならまだ許されるんじゃない?

 

 

 それから少しの間、楯無さんは自分の事を細かく一夏に尋ねてベッドで転がったり、簪を押し倒したりしていた。なんでや! 簪関係あらへんやろ!

 

「では、次の説明に移ります」

 一夏が本題に入る。

 

「この世界には現在、俺と同じく束さんが二人存在します。俺達の世界の束さんは、この世界の束さんの情報を知り、行動を読んでいます。ここの束さんに生身の部下がいません」

 

「だからクラスリーグマッチに、無人機が攻めてくると警告したのね?」

 楯無さんは簪の肩から手を離し、自分の体を一夏に向け直す。真剣な表情だ。いや、この部分はふざけられん。

 

「はい」

 

「これは信じるしかないかな? 目の前にもう一人の一夏君が存在しちゃうし」

 

「信じてもらえて助かります」

 

「で、無人機云々の情報をお姉さんに渡して、何をしてほしいの?」

 

「楯無さんには、アリーナの外周部を警戒してほしいんです。俺達はアリーナの内周で、敵を迎え撃ちます」

 

「私がアリーナ内部の警護じゃなくて?」

 

「はい。楯無さんがアリーナ内で素早く鎮圧する間、俺と夕が外で引き付けても周囲に被害が出ると思います。でも、そんな俺達でもアリーナ内で戦闘を行うなら、専用機持ちが四人。俺と夕で合計六人になります。この人数なら押さえつける事ぐらいは可能です」

 

「お姉さんなら外側で交戦しても被害ゼロで無力化出来るって事?」

 

「この学園の頂点に君臨する最強のIS乗りの生徒会長、更識楯無に不可能は無いですよね?」

 

「焚き付けるわねぇ」

 楯無さんは扇子を広げて口元を隠す。でもポーカーフェイスって文字が書かれています。

 

「事実ですから。後は、俺達が現れた時の皆の反応を見たくないですか? 楯無さんって、人をからかうの大好きですよね?」

 

「そちら側の私である程度の性格は把握していると。ええ、とっても大好物よ」

 扇子で口元が見えないよう楯無さんは一夏の視線を切っているが、目を細めている時点でバレバレだ。後ポーカーフェイスって書かれてる。

 

「映像を録画するために、誰かに頼めばいつ何時でも再生が出来ますよ?」

 

「わかりました。その計画に更識楯無が乗りましょう」

 

「ありがとうございます」

 楯無さんは一夏に目礼し、一夏は楯無さんに会釈。これで下準備は完了だ。

 

「ちなみに無人機の数は判明してる?」

 ポーカーフェイスってまだ書かれてる。いい加減一回閉じるべき。意味ないよ? 俺は好きだけど。

 

「まだ不明ですが、俺達側の束さんがちらちらとちょっかい出して、煽っているみたいですから数は多めになるでしょう」

 気持ちは理解出来る。でも十体でも投入されたらキツいなぁ。まぁ、一日一体を作り上げるのは流石に無理だろうから、もっと少なめかも? ただ心構えだけはしとこう。

 

「なるほど……胸が躍るイベントね。たまには体を動かさないと鈍っちゃう」

 口元で広げていた扇子が閉じられた。ようやく閉じたか。

 

「衰えても誰も追いつけないと思いますよ?」

 

「んもぅ、煽てても差し出す物無いよ?」

 楯無さんは嬉しい表情を見せている。褒められてイラッとする事はあまり無いだろう。

 

「肩書きが実力を表してます。流石に千冬姉には敵わないでしょうけど」

 

「持ち上げて落とすのやめてくれない?」

 

「上には上がいるんです。しっかり直視して下さい」

 

「一夏君……何がしたいの?」

 

「いえ、目標を決めとかないと足を掴まれて、その地位から引きずり下ろされると思って」

 

「いい度胸ね。私相手に物怖じせず、直球を投げつけるなんて」

 楯無さんは気に入った! と、いう表情をしている。楽しそうですね。

 

「別世界とはいえ、楯無さんに最強であり続けてほしいんです。だって皆の憧れなんですから」

 

「落としてからまーた持ち上げる。腕疲れない?」

 

「言葉だけなら軽いです」

 

「今までの一夏君の発言は、中身が無いと?」

 

「それ浮き上がって、どっかいってるじゃないですか」

 

「まるで風船のようね」

 

「もうそろそろ教室に行った方がいいんじゃないですか?」

 一夏が時計を見た。ここで終了させるのか。

 

「そうね……遅刻なんてしたら、生徒会長の示しがつかなくなっちゃうー。簪ちゃんはもう少しここにいる?」

 先ほどから二人のやり取りを、笑顔で見つめていた簪に声が掛かる。

 

「私も行く。鍵は夕に預ける」

 

(了解。後で返すよ)

 俺は立ってから簪に近付き、鍵を受け取った。

 

「わっ……何も見えないのに本当に浮いてる……」

 楯無さんが驚愕の表情を見せる。

 

「俺はしばらくここに残って、他の生徒にバレないよう帰りますね」

 

「わかった。またね」

 簪が一夏に向けて手を小さく振った。かわいい。

 

「かわいい……」

 楯無さんもか。

 

「あ、連絡先の交換を忘れていました。俺は普段の外出が難しいので、携帯で連絡を取り合いましょう」

 

「そうしましょうか」

 一夏は楯無さんと簪の二人と連絡先を交換。おい、俺も混ぜろよ。そういえば、携帯で会話した事無かったな。使えるんだろうか? 繋がっても声は届くのか?

 

「じゃ、白雪君。頼んだわよ」

 

(はい)

 

「はい。だって」

 

「それじゃ、一夏君に白雪君。また会おうね」

 

「はい!」

(はい)

 

「行こうか、簪ちゃん」

 

「うん」

 会話を打ち切って、二人は部屋を出た。

 二人が教室に向かったのを見て、俺は携帯を取り出して一夏に掛ける。

 そして一夏が手に持つ携帯が鳴った。

 

「その手があったか!」

 一夏は電話に出たのを目の前で確認して、俺は声を出してみる。

 

『聞こえる?』

 

「………………」

 一夏が携帯を耳に当て、俺の言葉を待っている。が、やっぱり聞こえんみたい。何となく知ってた。

 

「ダメか……」

 電話切って肩を落とす一夏に近寄って、肩を二回叩く。

 

「俺を励ましてどうするんだよ」

 少し暗くなった空気を一夏は笑顔で吹き飛ばす。

 

「しばらくナビよろしく」

 

『おう』

 俺は一夏に聞こえない返事をした。

 

 

 

 

 俺と一夏はしばらくサインのやり方を練習して過ごし、授業が始まったと同時の時間に部屋を出る事にした。

 ウィッグを被り直した一夏と俺は、廊下に生徒や教師が歩いてないか確認。誰も歩いてない事を視認してから、部屋を出て廊下を素早く歩く。

 そのまま何事も無く寮から脱出して、学園の敷地外へと踏み出す。

 

 途中で普通の服を回収して、一夏は茂みに隠れて着替える。明るい時間帯じゃ制服は目立ち過ぎるから、当然の行動だ。

 しばらく時間を費やした一夏が茂みから出てくると、サングラスを掛けてV系の格好をしていた。上はライダースジャケットでファスナーの金具があちこちにある。下はカーゴパンツで両方の膝上辺りにベルトが三つずつ並んでいた。正にV系だ。

 最後に一夏は髪を掻き上げてオールバックにした。うん。この姿じゃ絶対に織斑一夏と気付かれない。そしてイケメンが更にイケメンになっていた。こいつ楽しんでんな。元の世界に帰ったら皆に披露しよう!

 

 最後にギターケースを持って歩き始めた。お前やりたい放題だな。

 

 

 街中を歩いていると男女共に視線が一夏に集中している。ここらじゃ見かけないバリバリのV系だから、きっと珍しいんだろう。

 一夏が周囲の視線を浴び続けていると、段々動きが気障ってきた。お前絶対気持ちよくなってるだろ? だからカフェなどに寄り道して絵画になってしまえ。写メパシャパシャされろ! 見てて超面白いから!

 

 

 

 

 そして一夏は束さんの待つラボに真っ直ぐ帰ってきた。寄ってくれよ!

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