IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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裏十三話

 俺は一夏の後ろを歩いて束さんのラボに到着。

 

「ただいま帰りました」

 機器だらけの部屋に入った一夏は、背を向けている束さんに挨拶。

 

「おかえりー。IS学園はどうだったかなー?」

 背中を向けていた束さんが振り返る。束さんの服装は前と変わらず、色が違うだけだ。色違いでも似合ってます!

 

「潜入任務が楽しかったです。胸がドキドキしましたけど」

 サングラスを外してから、ギターケースを部屋の隅に下ろす。

 

「いい経験をしたね」

 

「はい。後は夕達に接触も出来ました」

 

「おー、結果は?」

 

「どちらも問題無しです」

 楯無さんと俺の件か?

 

「それなら後は、向こうさん次第だね」

 束さんは腕を組んでから二回頷く。かわいい。

 

「夕君はどうしてる?」

 

「俺の隣にいますよ」

 残念……前だ! この位置は邪魔か。

 

「存在しているのに見えないのが不思議だね」

 

「不思議ですね」

 俺も不思議。

 

「とりあえず、夕君は隣の部屋でISを起動させてよ!」

 束さんの言葉通りあの広い部屋へと行き、ISを起動させる。

 俺の体を閃光が包んでISの起動に成功。

 

「おかえり、夕っ!」

 ISを装着したままの俺に、一夏が飛びついてきた。かわいい。というか、前にもこんな事あったような?

 

「ただいま」

 一夏を優しく受け止める。やっぱりこの状態だと俺の姿が見えるんだな。簪との飛行時に警戒しといて正解だった。

 

「遠い世界で親友と再会なんてロマンチックだな!」

 俺はお前の言葉の発想にドラマチックさを感じる。

 

『おかえり、夕君!』

 束さんからの通信が入った。

 

「ただいまです」

 

『再会のハグは後にして、先に夕君の機体をチェックするよ!』

 

「はい。お願いします」

 そういえばこの世界に来てから、メンテ無しに飛んだりしていたな。実は危険だったするのか? いやでも機体を見てくれる人がいないし、整備室に置けないしで無理だったな。

 

「一夏。危ないから離れてくれ」

 

「わかった! また後でな!」

 一夏が離れて束さんの部屋に戻っていった。また後でって何するの?

 

 

 ISのどこかに異常があるか、一つ一つの動きや火器を点検。操縦者の俺的には何も問題は無い。でも、ISの中身となると俺は素人だから、餅は餅屋という言葉通りに束さんに任せよう。

 

「なぁ、一夏」

 現在同じ部屋で離れた位置にいて、俺の様子を見守る一夏に声を掛けた。

 

「何だ?」

 

「一夏はシールドファンネル使ったか?」

 正直俺はファンネルに対して、トラウマを抱き始めていた。理由は痛いの嫌いだから。誰だよ……ファンネル除いた六十六機もビット積んだ奴は…………僕だ! ビットにはまだ手を出してないけど、ファンネルがこの調子なら、ビットに触った瞬間頭がパーンしそう。

 俺は屈伸したり跳ねたりする。今更だけど積むんじゃなかったなぁ。ビット無くても遠中近と一応揃ってるから。でもなぁ……一つ一つの小さいビットに細工を施しており、操作して特殊な反応を探るようにしてるから、必要と言えば必要。でも、もしかしてシールドファンネルだけで十分だったり? マジかよ、アホじゃないか。知ってた。

 

「……触った。頭痛が痛い」

 笑顔だった一夏が苦虫を噛み潰した表情をした。

 

「俺もだ。何で痛いんだろうな?」

 疑問が源泉みたいに吹き出してくる。絶対防御があるのに中身が痛むとかISにあるまじき不具合。いや、束さんの技術云々が未熟とかじゃなく。

 

「……情報量が膨大で処理し切れないとか?」

 

「俺は一つでだぞ?」

 ビット複数ならともかく。シールドファンネルが怖ろしい。

 

「俺も一つだった」

 

「俺が凡才だからだな」

 盆栽弄る才能はあるだろうか?

 

「俺は天才だ」

 

「うるせぇ。残悔積歩拳食らわすぞ」

 

「どうかお許しを」

 いやぁ、一夏との会話は打てば響いて素晴らしい。最初からISを起動させとけばよかったか? いや、簪と出会えた方がデカいからやっぱ無し。残念だったな、一夏……俺は友情より愛情が好きなんだよっ! 嘘だよ、どっちも大切。これでも皆に愛情を振りまいてるつもりなので、友情はどうでもいいか。

 

『いっくんのみならず、夕君までもかー。Iフィールドの再現にナノマシンを組み込んだだけなのになぁ』

 ナノマシンて……明らかにそれが原因じゃないですか。Iフィールドを再現するべきではあるけど。

 

「…………理由が特定できました」

 

『ごめんね』

 

「いえ、束さんは悪くないです。もっと早くに知るべきでした」

 扱いきれないとか言わずに、全武装に触れとけばよかった。今更文句言っても仕方無いし、これから頑張ろう。クラスリーグマッチまでに間に合えばよし。日数はそれなりにあるから、時間が余っている俺は打ち込める。簪に許可とるか。

 

 

 俺はISを起動したまま二人と過ごしていた時、ふとした瞬間にとある事に気付いた。

 

「……もしかしたらファンネルを操作出来るかも知れん」

 一夏もISを起動させて機体が赤く発光している中、俺と二人でサーベルを使ってチャンバラごっこ中。一夏の雪片弐型は床に置いてあり、俺は沢山のビットをさっき仕舞った。

 

「え!?」

 

「俺って幽霊みたいなもんじゃん?」

 

「うん。そうだな」

 

「何と、念力みたいに物を遠隔で操れるんだ!」

 

「本当か!?」

 俺と一夏はチャンバラを中断した。また今度やろうぜ。

 

「嘘じゃないぞ。ちょっと雪片弐型を借りるがいいか?」

 

「壊さないなら使ってよし」

 

「乱暴に扱わないし、そもそも破壊しにくいだろ」

 ISの武器はそんなに柔じゃない。

 

「いくぞ?」

 一夏の近くにある雪片弐型に掌を向けて、俺は自分の手を伸ばすようにイメージして掴む。

 すると、雪片弐型が俺の手元に引き寄せられた。

 

「おぉぉぉぉ! すっげーっ!」

 俺の手にある雪片弐型を見ながら、一夏が興奮し始めた。

 

「ちょっと練習してみたんだ。幽霊ならポルターガイストぐらいお手の物だろう?」

 レフトで雪片弐型をくるんくるんさせる。もっと刀身が短くて黒なら様になった。

 

「マジ半端ねぇ!」

 

「この力があれば、ファンネルを飛ばせるかもって事」

 範囲が凄く狭そうだ。オールレンジで攻めると一つ一つぶっ壊されるから、都合はいいんだけどね。

 

「やってみようぜ!」

 一夏に言われた通りにするため、雪片弐型を少し離れた位置に置いて、片側のシールドファンネルを取り外して掴む。

 

「それじゃ、やるぞ?」

 

「お、おう……」

 何で一夏が緊張してるんだ。

 手を傾けてシールドファンネルを落とし、落下中に掌を向けると空中で停止した。

 

「ま」

「やった! 成功したぞ!」

 俺より先に一夏が叫んだ。おい、まだやる事残ってる。喜んでくれるのは素直に嬉しいが。

 

「待て待て。気が早い」

 手で指示を出すと、ファンネルは従ってくれる。

 

「パージする!」

 一夏は自分のシールドファンネルを三つ切り離した。

 

「おい! 遊ばんでくれ!」

 いつもより力強く念じて、シールドファンネル三つを掬った。

 

「やれば出来るじゃないか!」

 

「待て! 話し掛けんな!」

 俺は合計四つのファンネルを操作中だから、今は何も聞きたくないしされたくない。

 自分がコントロールするファンネルを、俺の周りに浮かせてみた。

 

「僕のファンネル返して!」

 

「うるさいよ! ファンネル系飛ばすお前が悪い! ゲームで知ってるだろ! 俺ユニコーンじゃないけど!」

 俺の叫びに一夏はそれっきり黙り、四つのファンネルを操作。すぐに扱い方に慣れてきたが、この状態で機体を動かせるかと問われたら、NOと即答する。これがセシリアさんが言っていた無防備云々か。

 調子に乗った俺は、もう片方の腕に装備されている五枚目を投入した。

 

「うん。問題無いな」

 

「シールドファンネルがシールドファンネルしてる……!」

 一夏は少年のように輝いた目をしながら、シールドファンネルを見つめて小さく呟く。俺よりハマってる。

 

「束さーん。試射する場所ってありますか?」

 俺は束さんにシールドファンネルのガトリングを、撃つ場所が無いか尋ねる。

 

『そこらの壁に向かって撃っていいよ。壊れないよう壁を強化して、シールドも張ってあるから、遠慮無くバンバンやっちゃって』

 許可を貰ったので、全ファンネルの銃口を壁に向ける。

 

「てーっ!」

 俺は奥の壁に向かって叫んだが、射撃が行われなかった。

 

「…………どうやって撃つの?」

 ISを通して撃つ事は可能だが、別の力を使用しての射撃をやってない。この世界にいて初めて使える能力なんだから、細かいやり方がわからない。財布をかぱかぱしたりお札を出し入れ出来るようになったら、撃てるようになるんかな?

 

「どうやら無理っぽいな。テンション上がって一気にやりすぎたか」

 

「そうだね。うんうん」

 俺は頭を掻く。どうやら張り切りすぎたらしい。ここは冷静になるべきだ。

 

「なら、今日はここまでにするか?」

 

「そうする。一朝一夕じゃダメだ」

 今度からここにちょくちょく通わせてもらえるよう、更に強く簪にお願いしてみるか。

 

「さて、そろそろ帰るよ。簪も待ってるだろうし」

 

「そうか。また遊びに来てくれ。いつでも歓迎するぞ」

 

「簪に許可とったら、そうさせてもらうよ」

 

『自由に行き来しちゃっていいからねー』

 

「はい。今日はありがとうございました」

 俺は二人に向かって頭を下げた。

 

 

 

 

 束さんと一夏に別れを告げて学園に戻ってきたら、お昼頃になっていた。遅くなったから簪に謝ろう。

 

『簪はどこかなー?』

 生徒達が歩いていたり立ち止まって会話している廊下を歩いている最中、俺は簪がいそうな場所を考える。今の時間帯なら教室、食堂、整備室のどれかか。この三つ以外に簪が他に行きそうな所の見当が付かない。まさかまさかのアリーナ? 楯無さんが一緒だろうから、全部外れかも知れん。

 とりあえず、一つ一つの場所を回ろうと結論を出した時に誰かにぶつかった。

 

「痛!?」

 こっちの一夏だった。箒と鈴とセシリアさんも一緒だ。

 

『悪い。わざとじゃないんだ』

 考え込んでいたので、すり抜ける意識がどこかにいってた。そして廊下のど真ん中を歩いていた俺が悪い。本当にすまんな。

 

「どうかしたか?」

 急に一夏が声を出して立ち止まったので、こっちの箒が一夏に声を掛ける。

 

「今肩に何かぶつかった」

 一夏は肩を擦っている。

 

「ここは何の変哲もない廊下で、私達には人も障害物も映らなかったが?」

 

「俺にも見えなかった。もしかしたら、最近誰もいないのに肩を叩かれたりしてるから、それかも?」

 

「それって最近噂になってる幽霊の仕業じゃない?」

 何か見当があるらしい鈴が会話に加わってきた。妖怪のせいじゃないのは確か。

 

「まさか。そんなものは迷信だ。幽霊の正体枯れ尾花」

 箒が鈴の言葉を真っ向からバッサリ切り捨てた。流石お侍はんやで。

 

「でも、クラスや寮で皆が噂してて、あたしも聞いたよ?」

 

「どんな噂だ?」

 鈴の情報に一夏が食いついた。フィッシュ!

 

「寮や学園の廊下を一人で歩いていると、もう一つの足音が聞こえるんだって」

 きっとそれ俺だわ。でも簪からあまり離れた覚えは無いんだけどなぁ。

 

「自分の足音が反響して、そう聞こえてしまっただけだろう」

 箒は頑なに信じませんね。俺は……ここにいる!

 一夏を中心としたグループの会話を、もう少し聞いていたいがそろそろ簪を探しに行く事にする。

 

「箒は昔っから夢が無いなぁ」

 さらばだ諸君。クラスリーグマッチ当日に会おう。

 所でセシリアさんの顔面が、瞳の色と同じで真っ青なんですけど、誰か心配してあげて。

 

 

 俺はまず四組の教室を覗くが簪はいなかった。教室に残っている生徒はいくつかのグループを作って、お弁当を食べている。おい、俺も混ぜろよ。

 

 

 次に向かったのは整備室。簪を発見出来ず。お昼時だが生徒達がISの整備を行っていた。ちゃんとご飯食べた? もしダイエットなら食事抜きだけはやめようね。だから結果にコミットしてもらおう!

 

 

 最後は大本命の食堂。辺りを軽く見回すと簪と楯無さんを発見した。

 俺は二人が食事する席に近付く。

 

「あ、帰ってきた」

 簪が俺に気付いて首を向けてくれた。

 

(ただいま)

 

「おかえり」

 今の簪はまるで、仕事帰りの夫を笑顔で出迎える妻。新婚さんか。いいね! 楯無さん! 簪さんを僕の妻に迎えたいです!

 

「簪ちゃんから新妻の雰囲気が漂ってくる……」

 俺と同意見の楯無さんが、簪の横顔を見つめてうっとりし始めた。簪も楯無さんもかわいい。皆かわいいとかパラダイスやん! でも楽園ロストしないで! 子供達の笑顔が曇っちゃう。

 

「お、お姉ちゃんっ」

 楯無さんが自然に呟いた言葉に、簪は反応して顔を赤らめる。かわいい。

 

「簪ちゃんが最っ高に可愛い……!」

 人目がある食堂で息が荒くなった楯無さんは、堪えきれずに簪を押し倒して覆い被さった。簪の事を愛しすぎィ!

 

(ちょっと失礼しますねー)

 俺は楯無さんの両肩を掴んで、簪から引っ剥がす。

 

「あっ」

 

(おもちゃを取り上げられた子供ですか)

 

「そ、そうね。私は生徒会長で生徒達の模範になる者」

 楯無さんは冷静さを取り戻して居住まいを正す。遅いです。向こうの楯無さんより危険。いや、向こうの楯無さんと簪が仲直りしたら同じ過ちを犯しそう。

 

(場所を選ばない姉さんは嫌いだ)

 

「場所を選ばない、姉さんは嫌いだ」

 簪は上体を起こしてから表情をムスッとさせ、俺のセリフを真似た。

 

「がーん……」

 まさかの言葉に落雷を受けた楯無さんは、座っているソファーに俯せで倒れ込む。簪の方に。そろそろ食事を再開させるべき。

 

「お、お姉ちゃんっ」

 

「簪ちゃんに嫌われたら……もう生きる希望が無くなっちゃう……」

 先ほど楯無さんが寄り掛かったのは簪という希望。つまり、楯無さんは自分で希望を押し潰した事になる。そりゃあ、嫌われてもしゃーない。

 

「簪ちゃんに変な事吹き込む人物は一人しかいない。白雪君ね」

 楯無さんは俺を睨んでいるらしい。楯無さんがメンチを切ってる方向に、俺はいないです。

 

 

 

 

 今日の授業を全て終わらせて、簪と楯無さんは仲睦まじく肩を並べて廊下を歩く。俺はその二人の後を追う。

 俺は足を進めながら、窓から見える空と雲を見上げる。今日もいい天気ですな。

 簪と楯無さんに視線をやる。簪と楯無さん、束さんと一夏がいるなら、クラスリーグマッチまで退屈しないだろう。これも簪のお陰だ。

 だから、俺がこの世界に存在し続ける限り、簪の笑顔を曇らせる悪い奴は許さないゾッ! あれ? だったら俺達との別れの時に、もし簪の笑顔が曇ったら俺が悪い奴じゃん。前言撤回。やめよう。

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