IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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五話

 一夏に手を掴まれ引きずられて着いた場所は、一夏の部屋だった。この時間帯にシャルルっているの?

 部屋に入った瞬間、一夏は俺の手を解放して脱衣所の扉をノックせずに開く。その迅速な行動力は素晴らしいが、手段を選ぼう。何とでもなるだろ。

 扉を開いた先にはシャルルが服を脱いでる最中らしくて、女性らしい胸と下着が見えている。本当にシャルル君じゃなくてシャルロットちゃんなんだ。

 

「ワァッ!? ゴメン!」

 一夏は謝りながら慌てて扉を閉めた後、扉に背中を向けて凭れる。鍵を掛けてないなんて隙がありすぎでしょ。これならこちら側が何もしなくても、数日中にバレるだろうな。多分。

 

「……本当に女だった。夕も見たよな?」

 一夏は顔を赤らめた状態で俺に確認してきた。恥ずかしいなら別のやり方にすればよかったのに。

 

「うん」

 

「だよな」

 扉に背中を預けていた一夏は頷いてから、部屋の奥へ進んでベッドに腰掛けたので、俺も続いて一夏の隣に座った。

 

「……ヤバい。意識しなくてもあの姿が目に焼き付いて離れん……」

 一夏は両手で顔を覆い始める。先ほどのシャルルの姿を消そうと努力しているらしいが、現在の一夏の格好は思い出そうと尽力してる様に見えてしまう。

 

「箒の事を考えるんだ」

 俺は意識を逸らす魔法の呪文を唱えた。

 

「……今度は箒の下着姿が頭に浮かんできた……」

 

「良くはないがそれだけを考えてろ」

 煩悩多すぎィ。

 そんなアホなやり取りをしていると、シャルルがジャージ姿で脱衣所から出てきた。その表情はとても暗く、余命を宣告された病人に似ている。ドラマとかでしか見た事ないけど。

 

「この世の終わりみたいな顔をしてるけど、お楽しみはこれからだ」

 扉の開閉音を耳にして顔を上げた一夏は、シャルルに向けて優しく声を掛ける。

 

「意味不明な事を言ってる一夏は無視してここに座りなさい」

 俺は隣に座る一夏の膝の上を叩く。

 

「普通は俺か夕の隣だろ? 何で俺の膝?」

 

「そこに膝があるからだ」

 

「そんな登山家みたいな事を言われても」

 一夏辺りの年頃特有の想像を打ち消す事に成功。少年よ。日曜まで待たれよ。

 シャルルは俺達のやり取りに反応しないので、俺は立ち上がってシャルルの背中に回ってから押し、一夏の隣に無理矢理座らせた。俺の行動にシャルルは何の抵抗も無い。捕虜かな?

 

「シャルロッテ! 君の事はまるっと全てお見通しだ!」

 俺は語感が似てる名前でシャルルを呼んで、髪をわしゃわしゃと掻き回す。風呂上がりにすまんな。いや、湿ってないからジャージに着替えただけかな。

 

「……沢山練習したのに、こんなに早くバレるなんて思わなかったなぁ」

 顔を俯かせて、自嘲気味な口調で呟き始めた。出会った当初は大人しそうな男の子だと思っていたが、女の子だと知った今なら理解出来る。ボロを出さないために派手な動きを見せなかったんだろう。

 

「一夏は最初から怪しいと睨んでいたぞ」

 

「……そっか。やっぱり性別を偽るなんて、ボクには無理だったんだよ……」

 

「そんな事は無い。俺は別に特別に全然に気にしてなかったし」

 性別なんて些細な事だ。互いの名前を知れば、それはもう友達なんだよ! ちなみに、同性か異性かで今後の俺の対応が変わる。シャルルは女の子だったので、俺からはもう抱きしめられん。くそっ! 割りと本気で一夏が羨ましい! まだ男の時に抱きしめやがって! いや、食堂で俺も抱いてたわ。

 

「つまり、全ては一夏が悪い」

 俺は悪くない。

 

「だから一夏! はやく! はやくあやまっテ!」

 一夏に視線を向けて謝罪を催促。

 

「えと、色々悪かった。ごめんなシャルロット」

 

「……ううん」

 謝る一夏にシャルルは首を横に振った。

 

「最初に嘘を吐いたのはボクだから……」

 弱々しく笑うシャルルは、今にも消えてしまいそうな儚さを纏っている。抱きしめたい、この子を。

 

「……女だって二人に知られちゃったから、もうIS学園にはいられないな……」

 

「あいや待たれい! 任務が失敗したから戻らなきゃって考えてるのかも知れんが、この学園は君を守ってくれる。明日から普通の学園生活を楽しむが良い。僕と一緒に、青春をエンジョイプレイしよう!」

 とりあえずいきなり畳み掛けていくスタイル。

 

「特記事項に記述されてるんだ。えんがちょって」

 一夏さん。外国の方にえんがちょは通じにくいと思います。

 

「つまり如何なる者でもIS学園に干渉は不可能なんだ。社長の手はシャルロットに届かないから安心してくれ」

 俯くシャルルに一夏はやんわりとした話し方で、言葉を述べていく。

 

「制限時間は三年もあるし、シャルロットには沢山の味方がいるから、皆でどうするか考えようじゃないか。なぁ? 夕」

 

「うんむ。困っている友人がいれば放っておけんよ」

 

「……数日間だけど、一夏と夕は騙していたボクを怒らないの? 嫌ったりしないの……?」

 

「シャルルはやむを得なく加害者になって、完全なる被害者。もしかして……居酒屋みたいな返事で任務を引き受けたの? はい、喜んでー!」

 だとしたら俺達の行為は意味を無くす。

 

「ボクは望んでなかったっ!」

 シャルルは語気を荒げて俺を睨みながら言葉を否定した。シャルルの頭をわしわししてたので、立ち上がられたら顔が接近してしまう。しまうというか、既に近距離だ。事故でも起きたら大変なので、警戒しておこう。

 

「だったら、事情を知っている俺達はシャルロットに手を伸ばせる。拒んでも無理矢理掴んでやるからな」

 やだ、一夏ってばイケメン! 知ってた。

 

「一夏……」

 シャルルは一夏の言葉で落ち着きを取り戻し、もう一度ベッドに座る。落ちたな。知らんけど。

 

「さぁて、最初からクライマックスを迎えたし俺帰るわ。後は任せたよ一夏」

 シャルルの頭から手を退けて、部屋の扉に向かって足早に歩き出す。俺達は協力すると伝わっただろうから、後は言い出しっぺの一夏に任せる。

 

「……夕にもボクの話を聞いてほしいんだけど、ダメかな……?」

 背後から声が掛かったので振り向くと、シャルルは若干上目遣いで首を傾げながら両手を合わせていた。何だ急にちょっとあざとくなっちゃって。やめろよ! 惚れちゃうだろ! かわいい!

 

「お願いされてしまったので聞こうじゃあないか」

 俺はシャルルと一夏から少し離れて床に座ると、自然と二人を見上げる形になった。

 

「……二人はどこまでボクの事を知ってるの?」

 

「シャルロットがどうして男として転校してきたのか。それを遡れる程度には把握してる」

 

「……ボクが社長の愛人の娘だって事も?」

 ナ、ナンダッテー!? いや、複雑だと既に理解してるので別に驚くほどじゃない。現実は小説より奇なり、とね。アニメじゃないんだよ!

 

「ああ。母親が亡くなってから父親に引き取られた事も、ISの適性が高かったからデュノア社のテストパイロットになった事もな」

 

「……一夏は全部わかってるんだ……凄いね」

 観念した様な笑みで、シャルルは一夏を褒める。皮肉では無さそう。

 

「俺って天才だろ?」

 一夏が自慢気に笑った。大半が束さんのお陰でしょ?

 

「お二人さん。なんだかんだでこれからいい雰囲気になりそうな所悪いけど、ちょっと待って」

 疑問が湧いてきたので俺は二人の会話に割り込んだ。

 

「何だ?」

 

「シャルルに頼まれたからいるけど、俺いらないよね? 一夏がシャルルの身の上を既に知ってるから、シャルルが話すとしたら心情ぐらいで、他に話す事ある?」

 シャルルに失礼ではあるが、俺がいてもいなくても進む話だ。

 

「うーん……あ、夕がそこにいてくれるだけで、ボクは安心出来るんだ」

 一瞬だけ悩んだシャルルが俺に晴れやかな笑顔を向けて、取って付けた理由を話す。

 

「俺は観葉植物じゃないんですけど」

 何勝手にリラックスしてんの? そしてさり気なく一夏をディスってるぞ。

 

「じゃあ、帰っていいよ」

 

「その物言いは追い出された気がして、逆に帰りたくない」

 

「じゃあ、いてもいいよ」

 

「その言葉は、俺がわがまま言ってるみたいになるじゃん」

 

「天の邪鬼なんだね」

 

「誰のせいだと思ってんの?」

 

「ボクかな?」

 彼女はきっと女神にも小悪魔になれる才能を持っている。

 

「それと、もう女だってバレちゃったから、遠慮無くシャルロットって呼んで」

 

「おーけーその言葉を待っていた。じゃ、改めてよろしくシャルロット」

 人の呼び名を変えるタイミングは難しいから助かった。

 

「よろしく。一夏もよろしくね」

 

「よろしくな」

 俺達は頭を下げあった。何だこの空気。

 

「他人がいる時はシャルルでいいんだよな?」

 俺は忘れずに確認しておく。

 すると、シャルロットは片目を閉じて人差し指を顔の手前に持ってきた。

 

「うん。ボクが女だって事は皆に内緒にしてね?」

 かわいい……ハッ!? だ、騙されんぞ! 俺には鈴ちゃんと楯無さんがいるんだから!

 

「了解。さて、話も一区切りついたから本当に帰りますわ。何かあったら同居人の一夏に相談にして」

 ゆっくり立ち上がって伸びをしながら、今度こそ部屋の扉に向かう。

 

「わかった。またね、夕」

 

「また来てくれ」

 

「うーい」

 二人の言葉に返事をして、俺は部屋から廊下へと移動した。少し疲れたが悪くない。これでシャルロットも多少でも神経を尖らせる必要は無いだろう。

 俺は何をしようか数秒考えてから、シャワーを浴びて着替えようと自分の部屋に足を向ける。

 これからの時期は汗が大量に流れるので、俺が臭いと言われない様に気を付けよう。何回シャワーを使用しても水道代とガス代が掛からないから遠慮せずに済む。寮って最高やな!

 

 

 自室の前に到着して扉を開き、奥に進んでいくとまだ誰も帰ってきてなかった。楯無さんはともかく鈴ちゃんは遅いな。まぁ、友人との付き合いもあるだろうから気にしない。寂しくなんかない。

 着替えを準備して脱衣所に入る前に一旦ノック。少しだけ待つが声も物音もしないけど、一応ゆっくりと扉を開く。

 明かりが点いておらず誰もいなかった。シャルロットみたいにならなくて安心。女性と一緒に暮らすのって、楽しいけど大変ね。

 鍵を掛けてから着替えを置いて服を脱ぐ。今日はちょっとだけ長く入ろう。

 

 

 風呂から上がって脱衣所から出ると、部屋には誰もいない。楯無さんも鈴ちゃんもおっそーい!

 何をしようかと若干悩み、自販機でマッカン買って通りがかる人に挨拶でもしてようと、脳内で結論が出されたので部屋を後にして廊下へと出る。

 今の時間帯は廊下を歩く生徒達が多いので、前から歩いてくる生徒達に挨拶していると寂しさを感じない。これで肌の露出が低ければ文句無しだ。季節的に仕方無い部分もあるけど、それでも下着は隠そう。言葉通りの意味で、頭隠して尻隠さずの状態だから。やっぱ女子校って色々な危険がダンチだわ。

 足を動かしながら通り過ぎる女生徒に笑顔で挨拶するが、俺は頭の中で説教を繰り広げていた。親御さんに怒られて泣くぞ、と。

 

「こんば……し、白雪君?」

 前からやってきたクラスメイトに名前を呼ばれた。だが、何か様子がおかしい。

 

「こんばんは! どうかした?」

 俺は立ち止まって挨拶をした後、尋ねる。俺にどこかおかしい部分でもあるのだろうか? チャック開いてるとか? ジャージのズボンにチャックはありません。いや、上着にチャックあるけど。

 

「髪解いてる所を初めて見るから、びっくりしちゃって」

 

「なるほど。普段縛ってるからね」

 変な所でもあったのかとビビった。

 

「白雪君の髪って、長いのに女顔負けなほどサラサラしてるよね。何かコツでもあるの?」

 

「あるぞ。普通に説明すると凄く長くなるから、簡単に説明しよう。まずはシャンプー選びが大事。リンスインはアウト。次に泡はちゃんと洗い流す。意外と残ってたりするから、しっかりと落とすように。次は乾かし方。ドライヤーの熱で髪がちょー痛むんですけどー、とか言ってドライヤーを使わずに自然乾燥は絶対NG。しっかりとタオルで髪の水気を取って、ドライヤーを少し離して地肌と髪を乾かす。あまりやりすぎると熱で地肌が痛んだり髪がパサつくから、そこは程々に。んで、ある程度乾かせたらブラシで整える」

 結局長くなっちゃったよ。

 

「まぁ、今教えられる範囲だとこんなもんかな」

 普通なら女性の方が詳しいはずなのに、何で男の俺が説明しているのだろうか。別に構わんけどさ。

 

「へぇ~ためになるなぁ」

 

「そりゃよかった。今暇だから時間はあるし、ついでに何か聞きたい事は?」

 人と話すのってやっぱり楽しい。

 

「洗顔のやり方!」

「化粧品の選び方!」

「下着の選び方!」

 目の前にいるクラスメイトの声ではなく、後ろから数人の声が聞こえた。男が一番加わっちゃいけない質問があるけど、対応は一応可能だ。

 女性の話題に詳しい俺って、実は女に生まれてきた方がよかったんじゃ? いや、ダメだ。そうしたら幼なじみの一夏に惚れそう。箒と修羅場になっちゃうよ。あかんあかん。

 でも、別の可能性を考えるのは正直楽しい。自分が女に生まれた世界に行ってみたいな。誰に惚れたりするかわからんけど、俺が私の恋愛を応援してやんよ!

 

「わかる範囲でお答えしましょう」

 俺は喋りながら振り返る。人数的に話す事が沢山あるから晩飯の時間までいい暇潰しが出来そうだ。

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