IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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六話

 シャルルの性別バレが起こって、女子生徒達にちょっとした講義みたいな物を開き、楯無さんからお礼をもらった日から簪さんを見掛ける事はなかった。

 そして意外と簪という面影に引きずられず、別人として捉える事が出来ている。うん。瓜二つの他人なだけ。ここまであっさりしているのもちょっと複雑な気もするかもだけど。

 そして、あれから特別な出来事が無いまま、最初の休日を迎えた。つまり今日はアリーナを使用可能な日。

 

「ユニコォォォォォォン!」

 ISスーツを着ている俺はアリーナの中心で叫んだ。この場所で一夏を何かしらの手段で気絶させて、誰か助けて下さいってセリフを言った方がいいのか? 楽しそう。

 

「夕が叫ぶのか」

 隣に立ってスーツを着用している一夏に、呆れられながらもツッコミが飛んできた。

 

「だって、テンション上がるじゃん? 授業じゃ自由行動が不可能でも、休日のアリーナなら制限ナッシング」

 

「んまぁ、確かにな」

 腕を組ながら一夏はこくこくと頷く。今日は他の皆に用事があって後から来るので、現在は俺と一夏の二人っきりだ。やだ嬉しい。そうでもないけど。

 しっかし、皆が同じタイミングで用事とは怪しい。何かを企んでたりするのだろうか? いやいや、そんなまさか。今日は休みの日だから偶然だ。フラグじゃない事を祈ろう。

 

「でも、自由時間はそれなりに沢山あるけれども、今の俺にファンネルにビットとNT-Dって扱えるのかな?」

 向こうではそこそこの日数を費やしてから使用可能になったが、こちらではまだ二つの意味で一回も使用していないので不明だ。

 おまけにここでは身体能力も普通で特殊能力も無いから、色々と勝手が違う。

 

「俺は使えるぞ」

 一夏はお手本を見せるためか、三枚の黒いシールドファンネルだけを展開。前々からちょっと考えていたけど、俺の白いシールドファンネルを一夏と交換するべきかな?

 

「おお! 流石は一夏だ。きゃーいけめんよー」

 

「棒読みだから本心がわからない」

 

「言い方はともかく、誠だよ」

 

「誠氏ね」

 

「やめたまへ。全国の伊藤さんと誠さんとまこちーは関係ないやろ! 悔い改めなさい」

 

「貴様、牧師砲を撃つ気か」

 

「お別れです!」

 

「やめるんだ……! そんな事をしてしまったら、俺の腹筋がお別れしてしまう……!」

 

「肉離れか」

 適当な掛け合いを繰り広げる。やっぱり俺は、向こうよりもこっちだね。か、簪の事は忘れてないよ……。

 

「さて、最初に何をしよう。一夏はビームマグナム撃って満足しただろうし、他にやりたい事はあるか?」

 

「うーん……特にこれといって無いけど、何かしないと勿体ないよな?」

 

「勿体ないおばけが出ちゃうからね」

 俺達二人は顔を見合わせて悩んだ。これといって特別しなきゃいけない事が無い。

 この世界に闇の組織的な奴らが実在しているのなら、束さんが真っ先に潰すはずなので今後の俺達は実戦を経験する事は無い。

 

「うむ。うー…………じゃあ、俺もシールドファンネルを出してみるか」

 怖いな。経験というレベルがリセットされてそうだから、迂闊にNT-Dも発動出来ない。昼寝とかしたかったら、きっと丁度いいと思う。

 

「ファンネル!」

 バンシィに向かって叫び、白のシールドファンネル三枚呼び出す事にまずは成功。

 次に掌を突き出してファンネルに指示を飛ばして、自分の正面に風車の形を作る。

 

「大丈夫みたいだ。後はNT-Dとフィールドバリアという名のナノマシン散布か」

 ナノマシンを凝縮すればサイコフレームが完成しそう。ナノマシン万能だな。

 

「それにしても、あの世界に行けたのが本当に不思議だよな」

 やるべき事がないので一夏はISそっちのけで、新しい話を俺に振ってきた。

 

「うん。これも全部ISって奴の仕業なんだ」

 

「そうだな。束さんならタイムマシンとかも、密かに開発してそう」

 でも束さんは原因がわからないって言ってたから、別の方法というか他の要因が多分ある。それともただ隠してるだけ?

 

「それか理由なんて無く、何故か別世界に行けちゃった系。よくあるよくある」

 

「いや、待て。実は宇宙人が絡んでるかも知れない!」

 全く別の説を一夏は唱える。

 

「あー、結構耳にするこの地球を宇宙人が観察しているとか、宇宙人の実験場とかの奴か」

 

「そうそう。それで俺達がたまたまひょいって掴まれて、別世界という名の他のガラスケースに囲まれてる地球に行けたのかも。何らかの変化を与えて、その影響のデータを収集するために」

 

「うっわ、凄くありそう」

 宇宙人が全ての黒幕か。本当にその説が正しそうで困る。宇宙人万能すぎ。

 

「……俺から言い出しといてあれだけど、この話はまた今度にするか。アリーナに来てまでする話じゃない」

 

「ああ。そうしよう」

 ただ、何をしようか思い付かない。

 

「……勝負してみるか?」

 恐る恐るといった様子で一夏は一つの案を切り出す。

 

「やだよ。一夏に零落白夜がある分、俺が物凄く不利だもん」

 同機体の戦闘は腕の差も関係してくるが、一夏にシールドファンネルを前面に展開されたら、ビームマグナムもビームサーベルも効かないので、俺は絶対勝てない。全ビットを使用したとしても、大したダメージにならず無視されるので、どう足掻こうが結果は変わらないだろう。そもそも、雪片弐型が無かろうと一夏は天才なので勝てない。俺は凡人なのです。

 

「それにファンネルとビットを破壊されたら、あいつさえいなければ……っ! って、俺はリディさんみたいになっちゃうぞ?」

 

「よし、やめよう」

 俺が暴走するぞというセリフから察した一夏は、提案を取り下げてくれた。ファンネルやビットが真っ二つにされた光景を、頭に浮かべるだけでも腸が煮えくり返そう。後、専用装備だから簡単に補充が出来ない。雪片弐型が故障するのと同じだ。

 

「最初から勝てない勝負は嫌だが、殺陣なら構わんぞ?」

 

「それって、前に夕が再現したいとか言ってたやつか?」

 

「そう、それそれ。俺がバンシィを扱える様になったんだから、この時間を利用してやろう!」

 観客がいないのは少々残念だが、別に今やっておいて損は無いし、将来のためにもなる。

 

「誰も見てないのが物足りないけど、一丁やってみるか!」

 一夏の言葉を皮切りに、俺達は同時に

ISを起動させてから、互いが無言で距離をとってアリーナの中央付近で立ち合う。

 その後、俺と一夏はサーベル以外の全武装を仕舞った。これで準備は完了だ。

 

「じゃあ、始めよう!」

 俺は地を踏み締め前傾姿勢で構えてから、一夏を見据える。

 

「どこからでもかかってこい!」

 一夏の返事を合図に俺は素手のままスラスターを全力稼働させて突撃。殺陣をする前から、初手にやる事は決まっている。

 俺の動作と一夏の動作がぴったりと噛み合い、俺達はぶつかり合って手四つの状態になった。

 お互い睨み合いながら相手の機体を押さえ込もうと、スラスターを噴かせると機体が軋み始める。

 この瞬間に俺はNT-Dを発動させると、一夏も同様にNT-Dを発動させて、機体の各部位の装甲から光が生まれ、機体の装甲が開いていく。展開された装甲から金と赤の輝きが機体を包み、その後に緑の光が俺達を球体状に囲む。

 

 俺達二人はNT-Dを発動したが、相手をどうこうする力は変わらず均衡を保ったままだ。だから俺は、言葉通りに押して駄目なら引く。

 俺が力を弱めると、一夏は更に押し込もうと馬鹿正直に直進してきたので、俺は後ろに向かって倒れながら一夏の腹部に片足をそっと添える。

 そして一夏の力を利用して巴投げをすると、手を離さない一夏は背中から地面に叩きつけられた。

 倒れた衝撃で一夏の掴む力が一瞬弱まり、その隙を突いて立ち上がって即座に反転して、一夏を視界内に収めながら後ろに下がる。

 大の字に倒れている一夏はすぐに起き上がり、俺の顔を見つめながら無言で肩のサーベルを抜刀したので、倣うように俺も肩のサーベルを抜いて出力した。

 

 俺と一夏は同時に接近してすれ違いながらサーベルを振り抜くと、一瞬だけサーベルが擦れ合う。

 足を止めずに通り過ぎた俺は、背後の相手に振り向かないまま高度上げていく。

 一定の高度に達して後ろにいるであろう一夏の方を向くと、俺と同じ高さでサーベルを構えて立っていた。

 一夏と俺はもう一度距離を詰めて、サーベルを振りかぶりながら、角度や力の入れ所を調整してサーベルを接触させ、相手を押し込もうとせずに力を受け流すと、俺達は鍔迫り合いをしながら渦の様に回った。

 数秒経ちクリンチに似た状態からブレイクして、視線を一夏に固定したまま離れる。

 

 同じ呼吸で俺と一夏は真っ正面から近付き、一夏と俺はサーベルを同時に袈裟で振って受け止め合う。

 ここから別のやり方に移行しようとした刹那、ロックオン警告が表示された。

 俺と一夏はお互い離れてシールドファンネルを呼び出し、下方から放たれた攻撃を防ぐ。

 

『何二人でいちゃついてんだっ! 羨ましいっ! 私も混ぜろよっ!』

 真剣な表情をした箒から通信が入る。そういえば、箒のそのセリフをお借りしました。使用料は明日払います。

 

『箒か。用事は終わったのか?』

 一夏が返事をしながら、シールドファンネルを退かして周囲に待機させた。

 

『愚問だな、一夏。だから私はここにいる』

 箒は紅椿を身に纏って腕を組み、堂々した姿でアリーナの地を踏んでいる。かっこいい! 箒は絵になる。

 

『そりゃそうか。それは悪かった』

 理解していても、一応確認しちゃうのは人の性だよな。相手が何かをボソッと呟き、自分は今何か言ったかと聞き返し、相手は何でもないと答えたので、実は聞こえていたという、やり取りも含む。

 

「とりあえず、箒の所に行くか」

 

「うん」

 先に下降し始めた一夏に声を掛けられて、俺は頷きながら一夏の後に続く。

 

『他の皆はまだなのか?』

 空から地へと移動して箒の傍に降り立った一夏は、まず皆の事を尋ねた。

 

『知らん。ここに来る途中、誰にも会わなかった』

 二人の会話を耳にしながら、俺は下りる最中にシールドファンネルを自機周辺に待機させて地面に着地。やっぱりバンシィの機動力凄い! 束さんの科学力は世界一だな。知ってる知ってる。

 

「……ん? 待てよ……? 遠かったからわかりにくかったが、会長が誰かの腕にくっ付いている姿は目撃したな……」

 

「もしかして、それって楯無さんの妹さんじゃないか?」

 

「え? 会長に妹がいるのか? 初耳なんですけど」

 俺は二人の会話を静聴する。

 

「いるぞ。一年四組に所属してて、名を更識簪っていうんだ」

 

「そうか。会長に妹がいるのか。なるほど。遠目からしか見てないが、何だか似てる気がしてきたぞ」

 それは妹だと情報を得て補正が入ったからや。いや、見ればちゃんと似てるけど、箒の距離的に多分わからんだろ。

 

「だが、会長の妹がいるならば、何故今まで私は気付かなかったんだ?」

 知らんがな。まぁ、簪さん側が目立たないために、専用機持ちなどから避けていたと考えるのが自然かな。

 

「箒にも束さんという姉がいるだろ?」

 

「それはつまり、姉がみかんで妹はみかんの汁で、あぶりださないと出てこないのか」

 

「ちょっと何を言ってるかわからない」

 箒の例え話を、一夏は理解出来なかったらしい。俺もちょっとわからないかな。

 

「一夏はバカだなぁ」

 

「箒に言われたくないなぁ」

 

「私がバカだと……? 夕の方がもっとバカだろ!」

 何もしていないのに無関係な俺に飛び火した。火を使ってあぶるだけに。今上手い事言えたか、頭の中で審議中。

 

「夕は関係ないだろ!」

 

「いいや、あるね! 夕はパンケーキとホットケーキの違いがわからないんだぞ!?」

 料理もスイーツも一応作れるが、確かにパンケーキとホットケーキがどう違うのかはわからんな。甘さとか?

 

「違いがわからなくっても夕は関係ないだろ!」

 

「違いがわからないバカだから関係あるんだ!」

 

「だったら、箒はご飯とライスの違いが何かわかってるか!?」

 

「一言で表すなら炊き方だ!」

 へぇ、ご飯とライスって別物なのか。器が違うだけだと思っていた。今日はちょっとだけ賢くなったよ!

 

「一夏はウインナーとソーセージとフランクフルトの違いはわかっているのか!?」

 

「羊豚牛と詰められている中身がそれぞれ別! 因みに日本は太さで分けられている!」

 この人達料理に関する知識が深くて凄い。二人のどちらかにパラパラな炒飯の作り方を聞けば、教えてくれるかな? いや、炒飯なら鈴ちゃんが一番か。今度教わろう。

 

「夕はバカって言われて悔しくないのか!?」

 このまま知識勝負を続けても簡単に終わらないから、一夏は話を逸らすため俺に聞いてきた。多分だが。

 

「聞くなッッ」

 

「ほら、バカだって夕自身が認めてるじゃないか!」

 

「嘘だと言ってよ、夕!」

 夫婦喧嘩は犬も食わないという言葉を、この場で実感した。俺犬だし、仲裁する必要は皆無だな。

 でもそろそろ面倒なので、俺はお約束のセリフを二人にぶつけるとしよう。これがジョーカーだ!

 

「お前ら仲良いな。もう結婚しちゃえよ」

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