『は、はぁ!?』
俺の口から吐き出された何の変哲もないありふれた冗談を、不意打ちで聞いた一夏と箒は驚愕しながら声を上げた。
思った通り息ピッタリだ。これは結婚待ったなし。祝儀袋が安定して立つほどの金額入れてやるよォ!
「別に驚く事じゃないと思うが? 喧嘩という喧嘩じゃなく、ただちょっと言葉の戦争している幼なじみに向けて、第三の幼なじみがお決まりのセリフを言っただけじゃん」
この先の展開をいくつか計算しているので、二人の反応がどうであろうと大丈夫だ。私にいい考えがあるから問題無い。
「まぁ、そんな事はどうでもいい。重要じゃない。それより他の皆を待つ間、俺達三人で何をする?」
とりあえず、お茶を濁す。選ばれたのは綾鷹でした。
「あ、箒も加わった殺陣の続きは無しな。よく考えたら、皆が集まる前にエネルギーを減らしすぎると、何かのイベントに参加出来なくなっちゃうし」
「待て。私の紅椿には絢爛舞踏祭というワンワンがあるから、ISのエネルギーが空になったら充電してやる」
俺が一人で喋り続けていると、一夏より先に箒が冷静さを取り戻した。それ、ゲームのタイトルや。
「箒の申し出はありがたいけど、今度は俺達側の体力や集中力が切れる。これだけはワンワンじゃどうにもならないって」
「だから紅椿には仮面舞踏会があるから、大丈夫だって言ってるだろっ!」
「舞踏会とか余計疲れるやないかいっ!」
「私の掌の上で踊れよっ!」
「さっきからワンワンの名称間違えすぎ! 豪華絢爛でしょうがっ!」
「箒に夕も間違ってるぞ。絢爛舞踏だろ?」
俺と箒が適当なやり取りをしていると、通常に戻った一夏が冷めてしまうツッコミを入れてきた。
「わかっとるわっ!」
「水を差すなよっ!」
俺と箒の声が被る。
「何一人だけ常識人気取ってるんだ! 私達がアホだって言いたいのか!?」
「そこまで言ってない!」
「俺達二人とお揃いになるために、お前もアホにしてやろうか!?」
「やめろ! アホが移る!」
「一夏だって俺の事をバカだと思ってるじゃん! さっき庇ってくれた行動は何だったんだ!?」
「天才からの慈悲に決まってるだろ!」
「くそったれぇ!」
一夏の言葉に俺は地団駄踏む。超楽しい。
俺達は昔の様に全力の掛け合いをしながら、皆が来るまで時間を潰した。
一旦ISを解除して三人で背中合わせに座って昔話を広げていたら、午前中に誘った全員が揃った。この話はまた次の機会にやるとしよう。
「こうして眺めると、今年の一年生は豊作ね」
扇子を片手に持つ楯無さんは、横一列に整列している俺達七人を一人一人見ながら、そう感想を漏らした。簪さんはいない。
「各国からの専用機持ちが集い、世界で三人だけの男性操縦者が登場するだなんて。在学中に見れてよかった」
「急にどうしたんですか?」
変に酔ってる楯無さんに、俺は何かあったのかと尋ねる。
「特にこれと言った事は無いわ。夕君達を目の前にして、改めて感動しただけ」
「そうですか」
確かに上級生の専用機持ちを数えてみると、俺達一年より少ない。本来、それが普通であって今年が異常なだけなんだけどね。
「そんな事はどうでもいいわ。今日は人数が多いから、滅多に出来ないチーム戦でもやりましょう」
俺の言葉を切り捨てて、楯無さんは話を進め始めた。これは比較的真面目ですわ。
「他にやりたい事があったら、遠慮無く手を挙げてね」
楯無さんは手を挙げて俺達全員に問うが、誰も挙手しなかった。皆チーム戦で問題無いみたいだ。チーム戦をそんなにやりたいのか、それともやる事が浮かばないのか。
「えーと……チーム戦はいいんですけど、この人数だと組分け方はどうするんですか? 二人か四人になりますけど」
俺は楯無さんに質問する。二人ならともかく一チーム四人となると、集団戦になって連携の難易度が無茶苦茶高くなる。今日限りのチームで他の皆はともかく、俺は上手く戦えるのだろうか?
「アリーナの使用時間はたっぷりと言っても、二人組ずつじゃ時間に終われちゃうから四人ね。一年生の授業じゃあまり触れないから、貴重な経験になるよ?」
「なるほど」
楯無さんの言葉に俺は納得する。でも、一夏と俺は一応集団戦を経験してるんだよね。特殊な事情で練度不足だし、連携といえる連携じゃなかったけどさ。
「部隊で経験済みとはいえ、国すら違う即席の編成は組んだ事は無い。あぁ……新たなる試みが為されるとは、思わず心が踊り狂ってしまうな!」
突然喋り始めたラウラがこの場にいる全員の注目を浴びる。今日のラウラは口調が弾んでいて、いつもと雰囲気が違う。主人以外の全てに噛みつこうとする狂犬的な雰囲気が溢れている。かわいい。
だから不意に撫で回したくなってしまう。静まれ俺のライトハンド! ダルシムみたいに手を伸ばさないと、離れた位置にいるラウラには届かんぞ! もしくはゴムゴムの実。
「落ち着けラウラ。私もよーくわかるが、まだ細かいチーム分けすら出来ていないぞ」
「……少々急いていたか」
隣にいる箒がラウラに優しく話し掛けながら頭を撫でる。くっそ! どっちも羨ましい!
「楯無さんは四人二組と提案しましたが、俺は抜けますね」
空気が読めていない発言をしながら俺は堂々と手を挙げた。場に流されない人間を目指してます!
「あら? 抜けちゃうの?」
「はい」
「訳を聞きたいな」
咎める様な語気ではなく、純粋な疑問を抱く楯無さんが理由を尋ねる。
「皆が来る前に準備運動をしてたんですが、その運動の疲れが残ってます。お荷物になりたくないので」
手を下ろしながら話す。実は嘘だ。確かに疲労は少し溜まっているけど、戦闘に支障を来すほどのレベルじゃない。組んではいけないメンバーがいるから、辞退したかっただけ。
「それも含めたチーム戦よ?」
楯無さんは逃がさないと、素敵な笑顔を俺に見せながら言った。おうふ……これは逃げられない。ここから仮病を装うには遅すぎた。
「……わかりました」
「うん。よろしい」
うへぇ。
「皆でジャンケンしてチームを決めましょう」
楯無さんは再び皆に視線をやった。どうか、バランスよく組まれますように……っ!
結果は、俺、一夏、箒、セシリアさんになった。何だこの組み合わせ……。
組分けが決定したので、俺達四人と楯無さんチームは自然と輪を作る。
「あーあ……夕と組みたかったなぁ」
向こう側にいる鈴ちゃんは肩を落として、俺を見ながら残念そうに呟く。俺も鈴ちゃん達と組みたかったよ……。
「夕君と組めないのは残念だけど、お姉さんを先輩だと再認識してもらうにはいい機会ね」
楯無さん! 今からでも遅くないです! 俺をそっちのチームに入れて下さい! でも、決まってしまった事は覆せないのよね。あ、はないちもんめをやりましょう! メンバーをトレードするんです!
「わたくし、場違いではありませんでしょうか……?」
「ん? セシリアは何を気にしてるんだ?」
俺達三人を見て暗い表情をしているセシリアさんに、一夏は何の迷いもなく話し掛ける。
「一夏さんに箒さんに夕さん。お三方は距離を選ぶ事なく戦闘を行えますが、わたくしは射撃一辺倒なので編成的に不利で……」
「大丈夫だ、何も心配する事は無いぞセシリア。私達がセシリアを守るように、セシリアも私達を守ってくれればいい。この場にいる誰よりも精密射撃が得意なセシリアがいれば、安心して背中は任せられる」
きゃー! 箒さんイケメン!
「箒さん……!」
箒の発言にセシリアさんの表情が晴れた。これはキマシタね。
「俺さぁ……一番組んじゃいけないパーティーが完成したと思ってるんだよねぇ……」
ネガティブなセリフに聞こえるように、俺は手で顔を覆いながら喋り出す。
『え?』
予想外の言葉に一夏達三人が俺に注目する。
「だってさぁ……俺と一夏と箒とセシリアさんだぜ? だから抜けたかったんだよ……」
顔から手を退けて、わざとらしく肩を竦めながら三人の視線を受け止めた。
「……理論上だと俺達は絶対に勝てるから」
そう……この四人が揃ってしまったのなら、勝ち確なんだよっ!
「やるからには勝たなきゃダメだろう? という訳で、ブリーフィングを始めようか」
かっこつけたセリフを、俺は三人に向かって言い放った。
俺の作戦を三人に詳しく説明して皆が苦笑しながらも納得した所で、タイミングよく楯無さんに開始すると告げられた。
『準備はいい?』
全員ISを起動させて、アリーナの上空で楯無さんは俺達に問う。楯無さん達は横一列に並んでいるが、俺達は菱形のワントップ。
それにしても相手チームの機体はカラフルだなぁ。いや、俺達側もカラフルだが。
『はい。準備万端です』
何故か俺がリーダー役になってしまったので、他三人の代表として返事をする。正直リーダーとか無茶苦茶嫌なんですけど。敵味方全員の状態を常に把握しながら味方に的確な指示を飛ばして、更にファンネルとビットを扱って自分も動かなきゃいけないとか、頭が弾けるんですけど。助けて簪! 君ならどう立ち回る?
『これを戦闘開始の合図にするわ』
楯無さんはどこからかコインを取り出して俺達に見せる。
あ、あれは……旧五百円玉!? 古代ではないし世界は滅んでないけど、ある意味ロストロギアじゃないですかー! 後で両替して下さい!
『このコインが地面に落ちたら始めましょう』
楯無さんは口を動かしながら、掴んでいたコインを落とした。
俺は落下していくコインを見つめながら、地面に到達する瞬間を待つ。
次にチラッと相手チームの四人を一瞥する。全員違う国の代表が相手とはレアな模擬戦だ。一生に一度で二度も無さそうな、本当に貴重な経験になるだろう。今後に活かせる時があるかわからんけど。
コインが時間を掛けて地面に落ちた。戦いの幕開けだ。
『全機、全速力で後退!』
戦闘開始の合図と同時に、三人に指示をする。一応先に説明を済ませておいたが念を押してだ。
俺達はシールドファンネルを盾にして、最初は牽制射撃を行わずに地上に向かって下降していく。殿は俺。
フォーメーションを崩して攻撃を行いながら散開するのではなく、固まって後退という選択肢に相手チームの面々は驚いて、開幕の数秒間攻撃が飛んでこない。
だが、そこは流石の専用機持ち。思考を切り替えて、すぐに俺達を追って射撃を始めた。鈴は龍砲、シャルロットはアサルトライフル、ラウラはレールカノン、楯無さんはガトリング。
弾幕はそれなりにあるが、避けずとも六枚のシールドファンネルが全てを防いでくれる。シールドを抜けるとしたら、ラウラのレールカノンぐらいだろう。
セシリアさんをカバーしながら地上に着いた俺達は、向かってくる相手チームを見上げながらアリーナの壁を背にして、身を寄せ合った。
まずは俺と一夏がNT-Dを発動。その後、俺達周辺にフィールドバリアーを二人で張り、シールドファンネルも前と左右に配置。
仕上げとして箒に絢爛舞踏を発動してもらい、俺と一夏に触れてもらう。これで守備は完璧。
次は俺とセシリアさんが全てのビットを、フィールドバリアーとシールドファンネルの守備範囲をオーバーせずに、この場の一人一人の近くに停滞させる。
俺と一夏は片手でビームマグナムを構え、セシリアさんはレーザーライフルを両手で構えた。準備完了。
「全機、一斉射撃!」
俺が叫ぶと、シールドファンネルの隙間から俺と一夏のビームマグナム二丁、セシリアさんのレーザーライフル一丁、一夏のリゼルライフル照射、俺のアームド・アーマーDE照射、セシリアさんのビット四、俺のビット六十六を合わせた全ての攻撃が、色とりどりの光を生み出して空へと向かう。
今回は箒がいるから、俺はエネルギーを気にせず、一機一機のビットを最大出力で照射が可能。
「乱れ撃つぜ!」
ちょっと言ってみたかった。でも現在のビットによるビーム攻撃は、射撃じゃなくて長いサーベルみたいな状態だ。だからビットを一カ所に纏めたらライザーソードの出来上がり。でも、今はやらない。
相手チーム四人は射撃を中止して、回避に専念し始めた。クソゲーの始まりだ。GNイスが飛んでくるレベルだな。
「ファンネル追加入りまーす!」
弾が飛んでこないなら、こちらは更に手数を増やせる。ので、一旦守りに徹していてもらったシールドファンネルも、攻撃に参加してもらう。
自分がやっててあれだが、凄まじい弾幕だ。これならブライトさんも納得してくれるだろう。
「勝ったな。風呂入ってくる」
俺はほくそ笑んだ。