IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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八話

「バカな……この僕が……僕達が負けた……だと……っ!?」

 ISを待機形態に戻していた俺はアリーナに倒れ伏した。

 

「私達四人が手を出せない、あの綺麗で密度のある弾幕は凄かったよ」

 ISを待機形態にした楯無さんは、しゃがんでから俺の頭を撫でてくる。疲れた体に心地良い。もっとやって下さい。

 

「でも、私達が更に上だった。それだけの事」

 

「エネルギーさえ……っ! エネルギーさえ切れなければっ……! 僕らは負けないんだ……っ! 負ける事なんてありえないんだ……っ!」

 

「絢爛舞踏の回復が追いつかないとか、夕のバンシィはとんでもないな」

 俺に見せつけるように肩を竦める箒。褒め言葉として受け取っておこう。だって、無尽蔵にエネルギー供給可能な絢爛舞踏を越えたんだぜ? なかなかできることじゃないよ。

 

「自滅してくれて助かったわ……」

 大の字になって倒れている鈴ちゃんは、素直に吐露した。女の子がはしたない姿を見せちゃいけません。

 

「もし姫のエネルギーが底を突かなければ、敗北者は私達だったな。いい戦法だったぞ」

 本物の軍人からありがたい言葉を頂いた。

 

「サンキュー」

 とりあえず礼を言っておく。

 

「さて、反省会しましょうか」

 

『はーい』

 俺達は適当に横一列に並び、楯無さんは皆を見渡せる位置に移動した。

 

「じゃあ、まずは一夏君から」

 

「夕がダウンしたからです」

 

「箒ちゃん」

 

「夕がダウンしたからです」

 

「セシリアちゃん」

 

「夕さんが……」

 

「鈴ちゃん」

 

「夕がダウンしたから」

 

「シャルル君」

 

「夕がダウン……」

 

「ラウラちゃん」

 

「姫がダウンした」

 

「という、皆の意見が一致してるんだけど、夕君はどう思ってるかな?」

 

「俺が悪い」

 コントかよ。

 まぁ、実際に俺が戦線に居座っていれば、俺達のチームは勝ちを拾えただろう。この専用機持ちが集う中で、手数だけなら一番なのは俺だ。箒がいたから今回は火力も一番だった。この戦場を支配していたのは! そう! この俺なんだよ!

 

「所で、夕はいつの間にいくつものビットを使えるようになったの? 私が知る限りじゃ、飛ばしてるのを今日初めて見たんだけど」

 隣にいる鈴ちゃんは、俺が何の苦もなくビットを操っている事に気付いた。

 

「イメトレの成果だよ。授業じゃ触れないし、前々からちょっとだけやってたんだ。そしたら今日初めて出来た!」

 イメトレの部分だけは嘘だ。向こうの世界に行って自由時間があったから、その時に練習しただけ。就寝起床の短い時間の流れ的に、ダイオラマ魔法球に近い感じだ。いや、特殊ではあるけど逆行とカウントするならカシオペアか? どうでもいいな。

 

「本当に?」

 

「嘘を言ってどうするんだ。何の意味も無いよね?」

 

「……わかった。何か引っかかるけど信じる」

 見えない何かを感じる女の勘やべぇ。

 

「はい。反省会終了」

 楯無さんは手を二回叩いて反省会を閉めた。俺が槍玉に挙げられただけじゃないか。ま、目立ったミスがあったのは俺だけだったから、別に不服じゃない。

 

「まだ時間は残っているけど、根を詰めすぎるのもよくないから今日はもう解散! それでいいよね、一夏君?」

 

「はい」

 そんな訳で解散となり、俺達は男女に別れて更衣室に向かった。まだシャルロットが女だってバレてないから、俺と一夏と一緒だ。ナチュラルに女の子連中に混ざったら、自分から性別を話さない限り変態になってしまって、今後の学園生活が危うくなる。いや、普通に伝えるチャンスかも知れんな。本人次第だけど。

 

「夕」

 

「何だ?」

 

「負けちゃったな」

 

「そうだな」

 

「次は勝とうな」

 

「そうだな」

 

「アイスは?」

 

「スーパーカップ」

 

「そこは爽だろ」

 歩きながら下らないやり取りをした。

 

 

 服を着替えて部屋に戻ろうと廊下を三人で歩いてる途中、ジャージ姿のセシリアさんが俺達に駆け寄ってきた。

 

「あの! 一夏さんと夕さんに、是非ビットと自機を同時に動かす方法をご教授して頂きたいのですが……」

 

「皆まで言うな。俺は構わないぞ。夕もいいだろ?」

 

「もちろんですとも」

 

「ありがとうございますわ!」

 お礼を言いながら、セシリアさんは頭を深く下げた。そんな訳で俺と一夏は、セシリアさんにビットの扱い方を教える事となった。以前はセシリアさんに教えてほしかったんだが、まさか逆に教える事になるとは不思議な話だ。

 

 

 セシリアさんを引き連れて向かった先は、一夏とシャルロットの部屋だ。

 最初に一夏が部屋に入り、続いてセシリアさんが入っていった。その瞬間、シャルロットは眉間に皺を寄せて口をへの字にした。人様に見せられない顔になってますけど。

 

「何か表情に出てるけど、どした?」

 

「え゛!? いや、何でもないよ!」

 シャルロットは表情を戻して愛想笑いをする。確実に何かあるだろ。内心は知らんけどさ。

 

「ま、見られないよう気を付けよう」

 

「そ、そうだね……」

 俺が気付いた事に若干へこみながら、シャルロットは部屋へと入っていくので俺も後に続いた。

 

「一夏さんはビット……ではなく、ファンネルを、自由自在に扱えておりましたが、どのような習練を重ねられたのですか?」

 

「うーん……ひたすらに動かせるよう練習したぐらいだと思う」

 部屋に入ると、一夏のベッドに一夏とセシリアさんが座っていて、シャルロットは自分のベッドに腰掛ける。俺は……床に座るか。

 前に座った事がある位置に腰を下ろそうとしたら、シャルロットに手招きされたので近付く。

 

「何か用ですかい?」

 

「一人だけ床に座らせるのも可哀想だから、ボクのベッドに座っていいよ」

 

「おぉ! ありがとう! 失礼します」

 頭を下げながら、言われた通りにシャルロットの隣にお邪魔した。シャルロットはんは天使ちゃんやでぇ。かわいい。

 

「なぁ、夕は自分とファンネルをどうやって同時に操ってるんだ?」

 向こうのベッドにいる一夏から声が掛かった。

 

「俺か? まずはアニメかゲームの機体を頭の中に浮かべます。で、自機とファンネルとビットが動き回る姿を想像して、それを反映させてる」

 特別難しい事じゃない。ファンネルやビットの挙動を知っていれば誰だって出来る事だろう。慣れれば。

 

「ね? 簡単でしょ?」

 

「え!? 各ビットの動作を緻密な計算の果てに、操作を行っているのではなくて!?」

 セシリアさんは驚愕しながら立ち上がった。計算って凄いな。俺が計算して動かしたら本当に頭が弾けてしまう。元から性格が弾けているのにこれ以上弾けるとか勘弁して。周りの人に迷惑だから。

 

「え? はい」

 

「な、何てアバウトな……!」

 叫びながらセシリアさんは頭を抱え始める。アバウトちゃうわ! アニメやゲームでしっかり勉強してんねんで!

 

「セシリアさんはこう仰られておりますが、一夏はどうなん?」

 

「夕みたいなビットは無いから、俺は予め型を用意しておいて、それをすぐに形成出来る配置にさせてるだけだな。だから自分も簡単に動ける」

 

「なるほど」

 結構楽そうに感じる。

 

「で、セシリアは何か参考になったか?」

 俺達が話してる間、セシリアさんは未だに立ったままで、頭を悩ませている。多分、俺達の単純な操作方法にショックを受けているんだろうな。計算とか言ってたし。

 

「……は!? え、は、はい。既存の考えとは全く異なる視点で、そう易々と会得出来る物ではないと理解致しましたわ」

 捉え方によってはバカにしてる風にも聞こえてしまう。だとしても、俺は気にしないけどね。思考をフルに使用した操作ではなく、感覚を頼りにしているからな。

 

「ビットの扱い方もそうですが何故夕さんは、先ほどのチーム戦でオールレンジ武器本来の使い方をなされなかったのですか? 遠隔無線誘導型の兵器とはそういう物だと、わたくしは認識をしておりますの」

 さっきから突っ立っていたままのセシリアさんは、ここでようやく冷静さを取り戻して座った。

 

「破壊されるのが嫌だからです」

 

「……え?」

 

「ぶっ壊されたら激おこですよ」

 ちょっと言い直してみた。特に意味は無い。

 

「セシリアさん」

 

「はい? 何でしょうか?」

 

「確かにビットは遠隔で操作可能ですが、実はこれ一種の固定武装なのですよ。自分は手を出さずにビットで相手への攻撃を行う。これはビットの性質故に気付きにくい事です」

 ビットと名を聞いたら、まずは射出してビュンビュン飛ばす発想をしてしまうが、実際には何通りかの使い方がある。行けよ、ファングゥ!

 

「例えばですが、ビットを使う敵と射撃武装が一切積まれてない、近接型のISに乗るセシリアさんがいます。敵はビットを使うため遠くにいて、自分の近くに敵のビットがあります。この時セシリアさんはどう対処しますか?」

 

「その場合、まずは……ビットを優先的に破壊してから、相手に接近するのがベターですわね。四月に行われた一夏さんとわたくしの試合でも、同じ方法で接近されましたわ」

 

「え? 一夏ってセシリアさんのビット壊したの?」

 

「破壊したな。雪片弐型のみで戦う事になったから、間合いに入るために切り捨てた」

 

「お前! セシリアさんのビットに何て事を!」

 俺はベッドから腰を上げて一夏に力強く指差す。何たる非道!

 

「この外道めっ!」

 

「あ、はい。すみませんでした」

 一夏は素直に頭を下げた。

 

「俺のビットじゃないから許す!」

 謝罪を受け取った俺は手を下ろしてから、すぐに座り直す。

 

「許された」

 

「そんな訳で、相手の近くにビットを配置したら破壊されるのがオチです」

 

「切り替え早いね」

 今まで黙って話を聞いていたシャルロットがこのタイミングで口を開いた。

 

「人のだからな」

 そう、俺じゃなく他の人だから熱が冷めやすい。これがもし自分のならば、破壊した人間に天誅を下す。そして末代まで祟ってやる。

 

「そもそも、遠隔無線誘導機は相手の死角から狙う武器だと思っている事は先入観なんです」

 ISのハイパーセンサーに死角はありません。

 

「では、敵が一夏の白式と想定します。次に、セシリアさんはビットを周囲に停滞させます。さて、ここで問題です。一夏さんや」

 

「普通のビットと違って、断然近付きにくいな。雪片弐型を当てにいくなら、どうしても間合いを詰めなきゃ当たらないし。この場合は被弾覚悟で狙うしかない。当ててもダメージレースで確実に負けるけど」

 名を呼んだだけで一夏は応えてくれた。この一夏すごいよぉ! さすが俺のお兄さん!

 

「シャルルの考えはどうだ?」

 俺ではなく、一夏がシャルロットに尋ねた。

 

「近付く事が容易じゃないから、凄く困る相手かな。持久戦に持ち込んで、集中力の切れを待つぐらいしか勝ち目はなさそう」

 シャルロットは一夏の振りに即答する。答えを用意していたのだろうか?

 

「と、実力があるお二人がこう言っております」

 

「……その様な扱い方があるとは……わたくしもまだまだですわね……」

 セシリアさんは頬に手を当てながら落ち込み始めた。美人さんだから、どんなポーズでも絵になっちゃうなぁ。

 

「なぁなぁ、セシリア!」

 テンションがダウンしたセシリアさんに、一夏は元気よく話し掛ける。そのテンションは見てるこっちが鬱陶しいからやめろォ!

 

「……はい」

 

「ビットを更に四つ、レーザーライフルをもう一丁、両腕にシールドを追加して、ミサイルをレールガンに変更すれば、セシリアも俺達みたいなガンダムになれるぞ!」

 言いたい事はわかるが無理を言うんじゃない。気軽に武装を変えられる訳ないだろ!

 

「……本国に具申してみますわ」

 真に受けちゃったよ。ヤバいって! 絶対怒られるからやめた方がいいって!

 

「ガンダムって何?」

 疑問を感じたシャルロットは、一夏にガンダムという単語が何なのかと尋ねる。アニメを見ないなら知らなくても不思議じゃない。

 

「その言葉が聞きたかった!」

 ここから一夏は布教のために、シャルロットにガンダムが何かと懇切丁寧に語り始めた。

 おい、シャルロット。その先は地獄だぞ。

 

 

 

 

 あれから一時間ほど経過した。一夏は口頭だけで、ガンダムの世界観や設定などを、シャルロットに教えた。セシリアさんもこの場にいるので、結果的に巻き添えだ。

 シャルロットは時折質問して、一夏の話を理解しようと努力しているが、興味の無いセシリアさんは難しい表情をしている。この部屋から出るタイミングを逃した、金髪の子かわいそう。

 

「次は実際に映像を見せよう」

 今まで一夏は口で解説していたが、今度はアニメを見せるためベッドから移動して、クローゼットの中にある自分の荷物を漁り始めた。

 ガンダムの予備知識を、シャルロットに仕入れておいて損は無いだろうけど、宇宙世紀とアナザーの作品では、ガンダムの意味が変わってくるので、最初に見せる作品は重要になる。後のシリーズを視聴する時に、影響が出るかも知れないからだ。

 一夏はシャルロットに何を見せるのだろうか? 各作品が独立しているアナザーか、ある程度繋がりがある宇宙世紀か。

 

「俺やる事あるから帰るわ」

 本当は何も無いけど、セシリアさんを逃がしたいので、この場を抜け出すなら今が頃合いだろう。興味の無い話は拷問に等しい。

 

「そっか。久々に対戦したかったなぁ」

 対戦という事は、アニメじゃなくてゲームか。ゲームで気に入った機体をシャルロットに見つけてもらい、その機体が登場する作品を見せれば間違いは無いと思う。流石は一夏。いい発想だ。

 

「何も無かったら夜にまた来るよ」

 予定は特に入ってないので、今夜と約束しておいて大丈夫だろう。

 

「わかった。じゃあな、夕」

 

「おう」

 俺は頷いてベッドから立ち上がった。

 

「シャルルもまたな」

 

「うん。またね」

 シャルロットに別れの挨拶を言いながら、俺は手を振って歩き始める。

 

「あ、セシリアさん。少し話したい事があるので、途中まで一緒に帰りませんか?」

 セシリアさんの前を通るタイミングで、俺は足を止めて話し掛けると、さっきから困惑していたセシリアさんが、神様を見たような表情になった。俺がガンダムだ。

 

「は、はい! 大丈夫ですわ!」

 勢いよく返事をしてベッドから腰を上げる。

 

「一夏さんにシャルルさん。わたくしも、この辺りで失礼しますわ」

 セシリアさんの声を聞きながら、俺は部屋の扉を開いた。お家に帰ろう。

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