IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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十話

 現在俺は学園外の街にいて、我が親友である五反田弾の妹、五反田蘭に手を引っ張られている。とある事情があって、お詫びに何かを奢ると言ったら、蘭ちゃんは目の色を変えてしまい、俺はこんな事になってしまった。仕方無いね。

 さっきから蘭ちゃんに並ぶために、体勢を整えよう試みているのだが、蘭ちゃんの歩行速度が速くてなかなか体勢を直せない。周囲の通行人には、俺が無理矢理引きずられているように見えるだろう。たすけてー、ひとさらいー。

 

「俺は逃げないから大丈夫だ。帝王に逃走はないのだ」

 

「いえ、逃げる心配をしているのではなく、早く行きたいだけです。この時間帯だとこれから混んできちゃいますし」

 

「なるほど。一理ある」

 蘭ちゃんの言葉に俺は頷く。

 

「でも、それって俺も一緒に走ればいいよね? 凄く目立ってるよ?」

 

「これでいいんです。私は気にしませんから」

 そういう問題じゃないんですけどね。

 

「きゃー、あの五反田蘭が男を連れてるー! しかもその男は二人目のIS適合者よー! と、友達に目撃されて騒がれて、後日学園で根掘り葉掘り聞かれても俺は知らんぞ」

 

「今の私は恥も外聞もありません。スイーツがあるなら、それに一直線なんです」

 目の前に人参をぶら下げられている馬かよ。

 

「……親友の妹、そして後輩に手を引っ張られている……ありだな。今の学園じゃ巡り会えない、青春の一ページって感じがして、凄く幸せ」

 

「夕さんではなく、相手が一夏さんなら、私は幸せだったんですけどね」

 

「今から奢ろうとしている俺じゃ、幸せが無いのか。市民、幸福は義務です。だからその手を離すんだ」

 

「一度掴んだ手を、私は二度と離しません」

 

「そんなようなセリフをゲームで聞いた事がある」

 

「奇遇ですね。私もあります」

 今の俺は、鈴ちゃんや楯無さんとは違った楽しさを感じている。その楽しさと同時に、ときめきも感じる……もしやこれが恋か!?

 

 

 十数分の時間を費やして、ケーキバイキングがあるカフェに到着した。同じ姿勢のままだったから体が少し痛い。初めてだよ……俺にこの痛みを与えた人間は。

 

「やっぱり人気があるお店は、昼前でも混んでますねー」

 店内はそれなりに広く、床や天井などが木目調でシックな感じを醸し出しており、静かにゆったりと過ごせる空気が流れている。

 そしてケーキバイキングという事で、女性客だけで席が全て埋まっていた。男は俺一人。あ、これ、俺死んだわ。

 カウンター席もあるが、店の雰囲気的にぼっちに対して殺意を向けている。これは確実に殺すつもりだ。もう少しハードル下げてもいいんじゃないんですかね? 最近は一人用の焼き肉や鍋などは珍しくないから、もう少し配慮してはいかが? お客さんが更に来て利益上がるよ?

 

「休日なら昼前じゃなくても、どこも混むよ」

 

「もう……無粋です!」

 

「へい、すいやせんした」

 怒られちった。

 制限時間は九十分なので、俺達は待合い椅子に座って誰かの時間切れを待つ。俺達以外にも待っている客がいるから、結構な時間待たされそうだ。

 しかし、九十分で食べ放題とか女性の天敵だ。太る覚悟がある奴だけ来いと、挑発しているのかな? マジかよ。スタバに通うのやめます。

 

「夕さん、凄く見られてますね」

 蘭ちゃんが話題に出したのは、女性の方々が俺に視線を向けている事だ。俺の美貌に酔いしれな! ヒューッ! 寒い!

「有名人だもん。これはお店にサイン入り色紙と、写真を置いてもらわなくちゃ。蘭ちゃんは俺のサイン入り色紙と、俺とのツーショット写真いる?」

 

「いらないです」

 

「知ってた」

 俺達は適当な会話をして、席が空くのを待った。

 

 

 タイミングがよかったらしく、少しの時間を待っただけでかなりの席が空いたから、俺達は二人用の席に向かい合って座る。料金は先払いなので、既に会計は済ませた。

 

「さぁ、好きな物を持ってきて食べたまへー。ドリンクも飲み放題だよー」

 

「夕さんも何か食べますよね?」

 

「食べますよ。二人分の料金払ったからね」

 俺と蘭ちゃんは同時に立ち上がり、各々好きなケーキを探す旅に出た。

 トレーを手に取り、俺は一角にある色とりどりのケーキを眺める。このエリアのケーキは、赤緑黄色などのカラフルなフルーツがトッピングされているケーキがあり、そのケーキ自体の並びも綺麗だ。

 うん。綺麗ではあるんだけど、全体から俯瞰するように見てみると、正直美味しそうに見えない。一個だけトレーに乗せてみると、途端に美味しそうに見えてきた。芸術で食欲は刺激されないよ。

 蟹歩きをしながらトングを使って、トレーに種類別のケーキを一つ一つ乗せていく。最初は好きなケーキを選ぶより、色んな種類のケーキを選ぶ方がいい。理由は簡単。同じケーキだけをいくつも選ぶより、種類が豊富な方が楽しめるからだ。蘭ちゃんが。

 

 これ以上はトレーに乗らないので、ケーキを落とさないよう慎重に歩いて席に戻ると、蘭ちゃんはまだ旅立ったままだった。早くしないと時間が切れるよー。

 

「お待たせしました!」

 フォークを準備していると、蘭ちゃんがトレーにケーキを乗せて戻ってきた。

 

「全然待ってないよ」

 一分も経ってないし。

 

「選り取り見取りで悩んじゃいます!」

 蘭ちゃんがそう言うので、俺は選んできたケーキを見てみると、一種類のケーキしかトレーに並んでない。おいィ。

 

「わっ! 夕さんは色々な可愛いケーキを選んでるんですね!」

 蘭ちゃんの方が可愛いよ。略してらんかわ。かわいい。

 

「あっち行ってきてみ。綺麗すぎて食欲湧かないから」

 

「いえ、まずは食べないと! いただきます!」

 さっきから元気一杯だな。女の子は恋と甘い物がエネルギー源だからね。しょうがないね。

 

「でも、これだけ食べると腹周りが気になってくる……」

 まだケーキに触れてもいないのに、いきなりお腹を触って太る心配かよ。逆にストレスで太るぞ。

 

「後でダイエットのやり方教えるから食べな」

 

「ほ、本当ですか!? 絶対ですよ!」

 

「おう、生まれ変わっても覚えておく」

 

「絶対ですからね!?」

 必死になりすぎィ。でも女は美の探求者だから、当然と言えるだろう。だから人の血を飲んだり浴びたり、とある肉を食べて永遠の若さを手に入れようとする。ひゃー、恐ろしい。

 

「うん」

 

「じゃ、改めていただきます!」

 ここでようやく、蘭ちゃんはケーキを小さく切り分けてから口に運ぶ。

 

「ん~! おいし~!」

 ケーキを頬張り、甘さと共に幸せを噛み締めているご様子。そりゃよかった。

 

「いただきまーす」

 俺もケーキを口に運ぶ。

 

「あらやだなにこれ美味しいわ」

 とりあえず、頬に手を添える。特に意味は無い。

 

「このケーキ凄く美味しいので、私ここの常連になります! だからその都度奢って下さい! 夕先輩!」

 

「先輩という単語を使うんじゃない。青春を感じちゃって惚れるだろ!」

 

「ちょろいですね」

 

「表面はな」

 根っ子は腐ってるんじゃないかな?

 ケーキを食べて、しっかり噛んでから飲み込む。このケーキ美味しいから、テイクオフ出来たら皆に持って帰ろう。飛んでどうする。いや、ISで飛べるけどアウトだから。今の言葉はリテイクで。リテイクアウト……何かが違う。

 

「まぁ、来年まで待たれよ。蘭ちゃんが寮に入ったら、食堂で簡単に奢れるから」

 

「約束ですよ!?」

 

「奢る事は可能だけど、奢るとは言ってない」

 

「……明確に言ってないですね。そうやって子供を騙す大人は汚くて嫌いです」

 俺の言葉に蘭ちゃんは数秒だけ考え、別方向に結論を出した。

 

「俺も年齢的に子供だから、その言葉は適用されないな。やったぁ!」

 

「たった一年でも、中学三年と高校一年じゃかなりの差があるんで、私的に当てはまるんです」

 

「わかるわかる。俺もそう思った」

 一年違うだけで凄く巨大な壁を感じる。その感覚は何なんだろうか? 響き?

 

「でも、身近な人だと遠いと感じませんね。特に夕さん」

 何故本人を目の前にして名指しで? 俺って一年下の中学生に、同列とカウントされるほど子供だったのか。大人の振る舞いを心掛けなきゃ。ミルクでも貰おうか。

 

「夕さんは……何て言うか……うーん……」

 蘭ちゃんは一旦ケーキを食べる手を止め、視線を斜め上に向けながら腕を組んで悩み始めた。何も考えて無かったのか、それとも言葉を選んでる最中? かまへんかまへん。どんと来い。

 

「あっ! 世界で一番頼れる兄です!」

 

「君には実の兄貴がいるじゃあないか」

 

「私に兄はいません。一人っ子です」

 存在を消された弾君かわいそう。

 

「やだねぇ、最近の妹君達は兄君達を毛嫌いしちゃってさぁ。反抗期? 雌伏の妹、叛逆の翼翻しちゃう感じ?」

 

「ただ存在が鬱陶しいんです。目障りです」

 ボロクソに言われてるな。

 

「欲しい物をお願いすれば、買ってくれる機械だと思えばいいんじゃないかな?」

 

「そこまではちょっと……」

 何故か引かれてしまった。線引きがよくわからん。

 

「兄弟のいない俺からすれば、兄がいるって羨ましいけどなぁ。だって兄か弟なら一緒に遊べるやん?」

 

「どこを基準にしてるんですか」

 

「一緒に遊べるかどうかだね。姉か妹なら……どうなんだろ?」

 買い物に付き合うとか? 何か想像が出来ない。でも確実なのはシスコンの属性が付与される事だな。

 俺が喋っている間、蘭ちゃんは一つ二つと、ケーキを食べ進めていく。

 

「まぁ、いないからいいや。今の俺には血の繋がりがなくても、義理の兄と姉がいるし」

 

「夕さんって、よく家族が云々って言いますよね? 何かあるんですか?」

 

「何も。仲がよければ一方的な家族認定するだけ。君も僕と家族になろうよ……ってさ。何か宗教臭いな」

 本当は両親が仕事で家にいないのが原因。でも俺のお父ちゃんとお母ちゃんは悪くねぇ。

 

「では、兄と仲がいい夕さんの中で、私のポジションはどうなんでしょうか?」

 

「……それ、普通なら凄く聞きにくい事だよね?」

 躊躇無く言えるとは、やっぱり蘭ちゃんは度胸があるな。流石、日頃から弾をサンドバッグにしている事だけはある。

 

「夕さんは特別なんですよ」

 

「…………まぁ、普通に親友の妹かな?」

 だって、ねぇ? 蘭ちゃんとは直接的な繋がりが無いから、勝手に巻き込むのも失礼だし?

 

「知ってました」

 

「理解が早くて助かoh……」

 ケーキを食べながら頷こうとしたら、マンゴーが物凄く酸っぱかった。これ収穫時期間違えてんじゃないの? それともそういう品種?

 

「じゃあ、今日一日だけ夕さんの妹になります! これは私だけが可能な役ですから!」

 マンゴーの酸味に震えていると、蘭ちゃんが変な事を言い出していた。どういうことなの……?

 

「別に無理しなくてもええんやで? もう蘭ちゃんの気持ちは十分もろたで工藤」

 

「夕さんの周囲に妹キャラっています?」

 

「妹キャラ? んー……」

 妹キャラか。妹と言われて最初に思い浮かぶのは箒と簪の二人だが、俺との接し方は全く妹キャラじゃないな。簪さんは知らない。

 

「妹は数人いるけど、妹キャラは誰一人としていないな」

 

「そこで私の出番です!」

 わけがわからないよ。いや、本当に。

 

「気持ちは嬉しいけど、実の兄がいるんだからそっちでやればいいじゃないか」

 

「……何故か嫌悪感があるんですよね。兄だからこそ近寄りたくない、好ましくない感情を抱くというか……殺意が芽生える?」

 蘭ちゃんはケーキを飲み込んでから、自分の心中を語る。そういえば、前に千冬さんが言っていた言葉があったな。いや、関係無いかも。

 

「そこで先ほど思い付いたのです。外で兄を作ればいいのだと。だからです!」

 兄という部分が、言葉の流れ的に愛人と勝手に変換してしまう。これは変に捉えちゃう俺の耳がおかしいのかな。

 

「やだよ。だってそういう趣味な人だと思われるでしょ? 俺と蘭ちゃんが。特に俺」

 

「義理か幼なじみという事にしておけばいいんですよ!」

 

「俺達の中で義理とか幼なじみとか設定しても、他の人達からすれば中身は関係無いんだよ」

 

「何故拒むんですか! 一人っ子なら憧れでしょう!?」

 

「勝手に憧れと思ってもらっては困る」

 いや、若干呼ばれてみたいと思わなくもないけどね。

 

「もしかして、引くに引けない感じ?」

 

「自らの意志です!」

 

「……楽しい?」

 

「はい! 凄く!」

 どうやら、このやり取りで遊んでいるらしい。そして半ば本気でもありそうだ。

 

「俺のケーキ食う?」

 ここで話題を変えるために、俺は口を付けてないケーキを差し出す。

 

「食べます」

 落ち着いたようだ。

 蘭ちゃんがケーキを食べてる間に、俺はちょっと考えてすぐ結論が出た。前述の通り弾に対して甘えられないので、気軽に甘えられる俺が選ばれたのかも知れないと。

 そうであるならば、今日一日は蘭ちゃんに付き合う必要があるかも知れないから、今の内に覚悟しておこう。皆、ごめんよ。

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