IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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十一話

 ケーキバイキングで糖分を多量摂取した後、蘭ちゃんの買い物にしばらく付き合ってから、蘭ちゃんを家まで送った。送る途中に弾の事について忘れずに言っておく。約束もしたし、これから少しでも弾の負担が減ったらいいな。

 蘭ちゃんを家に送り届けてから、俺はすぐラウラと楯無さんに連絡して開口一番に謝る。二人は許してくれた。

 その後、俺はラウラと楯無さんに合流してから寮に戻り、寮に到着したら二人と別れて、自販機に飲み物を買うために素早く歩いていると、曲がり角で簪さんとぶつかった。

 尻餅ついた簪さんに謝りながら手を差し出すと、簪さんは手を掴んで立ち上がるが、俺と目が合った瞬間に顔を赤くして、尋常じゃない速度でこの場を去っていった。

 どうやら俺は避けられているらしい。なるほど、だから簪さんを一回も見掛けなかったのか。何か事情がありそうだから、協力する件はノーカンかな。

 

 自販機へ向かう道を反転して、俺は楯無さんがいるであろう自室に戻る。

 部屋に戻ってくると、楯無さんは俺のベッドに寝っ転がっていた。

 

「すみません、楯無さん。ちょっと聞きたい事があるんですけど」

 

「なーに?」

 楯無さんはむくりと起き上がる。

 

「簪さんの事なんですけど、簪さんって俺について何か言ってました? さっき廊下で会ったんですけど、俺を見たら逃げてしまったので」

 

「んー……何も言ってなかったと思うけど、それって恥ずかしかったんじゃない?」

 

「恥ずかしい?」

 

「ほら、私が簪ちゃんと向き合った日に、夕君と簪ちゃんは何かしてたでしょ? それ関係かなと、お姉さんは推理する。私の占いは当たる」

 それは三割りの方なのか、それとも的中する方のどちらなんだろう?

 

「恥ずかしい……」

 喋りながら楯無さんの隣に座って、思い当たる事考える。簪さんの平手打ち? それとも俺が軽率で、知らず知らずの内に踏み込みすぎた?

 

「何なら私が直接確かめてくるけど、どうする?」

 

「お願いします」

 これから楯無さんに、簪さんの事をお願いしようと思っていたから、ありがたい。

 

「簪ちゃんから上手く聞き出せたら、お姉さんのお願い事を一つ叶えてくれる?」

 

「はい。約束します」

 俺が小指を立てたら楯無さんも小指を立てたから、俺達は指切りをした。

 

「約束だからね? 絶対だよ?」

 

「念を押さなくても大丈夫ですよ」

 何をそんなに心配しているのだろうか? 破るつもりは毛頭無いんだけど。

 

「わかった。じゃあ、行ってくるね!」

 楯無さんは返事をしながら立ち上がり、俺の頭を軽く撫でてから部屋を出た。頭を撫でられたのって、結構久しぶりな気がする。最後はいつだっけ?

 部屋で一人になった俺はシャワーを浴びようと着替えの準備を始める。そういえばまだ鈴ちゃんがいないんだけど、何をやっているんだろう? 友達と遊んでるのかな?

 

 

 シャワーを浴びて髪を乾かしてから脱衣所を出るが、楯無さんと鈴ちゃんの二人はまだ帰ってきてない。

 楯無さんを待つ間暇なので、ワックスを使用してバンシィを丁寧に磨くが、慣れているのですぐに完了してしまった。

 次は教科書を引っ張り出して読み始める。だが、集中力が切れているらしく、いつもより内容が頭に入ってこない。

 今度はテレビを見ると丁度ニュースがやっていたので、チャンネルを変えずに画面を見つめる。特別興味を引く内容は無かった。

 時計を見てみるともうすぐ晩飯の時間だけど、楯無さんや鈴ちゃんがいないから、食事も後に回す。

 自分のベッドに仰向けになって、天井をぼーっと見つめる。

 

「何となく懐かしく感じる天井だ。何だよ、懐かしい天井って。天井はどこも天井だろ。天井という単語に点を一つ追加すると天丼になる。今日は丼物にするか」

 独り言を呟きながら、今日の晩飯のメニューが決まった所で、部屋の扉が開く音が聞こえた。

 

「ただいまー! 聞いてきたよー!」

 楯無さんが帰ってきた。

 

「おかえりなさい。どうでした?」

 上体を起こすと、楯無さんは隣に座って俺の膝に頭を乗せる。

 

「それがね。あの手この手を使ってみたんだけど、布団にくるまったまま教えてくれなかったのよ」

 

「そうですか」

 

「私にも秘密なんて、簪ちゃんも隠し事をする年頃になったのね」

 言葉の内容とは裏腹に、楯無さんは嬉しそうに話す。

 

「で、夕君。心当たりは?」

 

「……無いとお……いや、ありました。ありましたけど、それが原因ならその時に逃げてると思います」

 簪さんの平手打ちが原因という事は無いだろう。もし平手打ちなら、あの場所で会った時に逃げているはずだ。それ以外なら、頭を撫でた事か? いや、それも逃げるはず。

 

「何をしたのかな?」

 楯無さんの笑顔が少し怖い。笑顔は本来攻撃的云々。

 

「自然と手が伸びてしまい、簪さんの頭を撫でてしまいました。それですかね?」

 

「もう、夕君ったら手が早いのね」

 

「やめてくださいよ。事故ですよ、事故」

 

「事故で人の頭を撫でちゃうの?」

 

「普段なら撫でませんが、あの時はレアケースです。だから致し方ないんです」

 

「そっかー」

 これで突破口を見失ってしまった。直接会って原因を聞き出そうとしても逃げるだろうし、謝るとしても原因がわからないと謝れない。これは詰んだ。日を改めるしかなさそうだ。

 

「聞き出す事に失敗はしましたが、聞きに行ってくれたのでサービスです。お願いは何ですか?」

 

「頭を撫でて」

 

「え? 撫でるだけでいいんですか?」

 

「慎ましいアピール」

 

「わかりました」

 楯無さんの頭を撫で始める。

 

「あ゛ー、癒されるー」

 

「おっさんみたいな声を出さないで下さい」

 

「もしも、夕君の膝におっさんが乗ってたらどうする?」

 

「何ですか。そのありえないシチュエーションは」

 おっさんを膝枕するって、どうやったらそんな流れになるの? ちっとも想像出来ないんだが。

 

「じゃあ、一夏君なら出来る?」

 

「何故おっさんの次に一夏が出てくるのか理解しかねますが、出来ますよ。俺から溢れる父性で癒やします」

 

「そこは母性じゃないかな?」

 

「適当に言っただけなんで、掘り下げなくていいです」

 俺と楯無さんが会話をしていると、扉の開閉音がした。鈴ちゃんが帰ってきたっぽい。

 

「ただいまー疲れたー」

 若干ふらふらしながら部屋に入ってきた鈴ちゃんは、楯無さんの上に勢いよく倒れ込んだ。

 

「うっ」

 鈴ちゃんが楯無さんの腹に乗っかった衝撃で、楯無さんが少し呻いた。

 

「ゆーうー」

 

「お疲れ。どうした?」

 元気の無い声で、鈴ちゃんは俺の名を呼ぶ。

 

「一夏ってどうなったの?」

 

「一夏ねぇ。成功したんじゃない? 楯無さんは知ってますか?」

 

「私達は一夏君達が家に入った所で切り上げたから、結末はわからないわ」

 

「ですよね」

 一夏には予め家の中で無線機は外せと言ってあるから、結果を知るのは一夏と箒だけになる。一夏はちゃんと告白したんだろうか? 後で報告を聞こう。

 

「かいちょー、一緒にお風呂入りにいこー」

 

「ここらで汗を流しましょうか」

 鈴ちゃんの言葉に楯無さんが頷くと、二人はベッドから移動して着替えの準備を始めた。

 

「夕も来る?」

 

「ナチュラルに俺を誘うな。行く訳ないだろ。わかりきった事を聞くんじゃない」

 俺に背中を向けて、ごそごそと荷物を準備をしている鈴に話し掛けられた。大浴場に入らなくても、外で二人を待つだけでも危険だ。何て事を言うのか。

 

「だよね」

 

「行ってくるわね」

 楯無さんは着替えを持ったまま、俺に小さく手を振る。

 

「はい。いってらっしゃいませ」

 鈴ちゃんも俺に手を振るから、俺も片手を上げた。

 二人が部屋を出たら、この部屋で俺はまた一人になる。無音が寂しい。

 部屋でやる事が無いので、俺は飲み物を買いに行くがてら、散歩をする事にした。外に出ちゃいけない縛りなんてしてないのに、どうして外に出る考えがなかったのか、結構不思議と首を傾げるが楯無さんを待っていたからと気付く。それか。

 

 

 寮の廊下を歩いていると、時折薄着な女子生徒とすれ違う。やっぱりここは無菌室だな。

 自販機の前に到着して何を飲むか考える。たまには炭酸を選ぼうかなと、気紛れで購入。

 

「あ、夕」

 名を呼ばれたので、誰なのかを確認するために横を向くと、シャルロットだった。

 

「おー、シャルルか。シャルルも飲み物を買いに?」

 

「うん。ゲームに夢中で、しばらく何も飲んでなかったから喉が渇いちゃって」

 

「そうかそうか。熱心だな。じゃあ、ジュースを奢ってやろう」

 

「うん、ありがとう」

 

「お、おう」

 普通に返されてしまったので、ちょっと寂しい。ラウラなら対応出来そう。

 

「何飲む?」

 

「夕と同じやつで」

 

「はーい」

 自販機で俺と同じ飲み物を買い、それをシャルロットに渡す。

 

「密かに振ってないよね?」

 普通に飲み物を渡したのに、何故か疑われてしまった。

 

「俺の行動を見てただろ。隠して振れないっての」

 

「高周波を出してるかも知れないよ?」

 

「そんな器用な真似が出来るか!」

 手品師なら出来るかも知れん。

 

「ねぇ、ボクの練習に付き合ってよ」

 

「話の流れを無視しないで。いいけどさ」

 

「うん。なら、行こう?」

 シャルロットは飲み物を持ってない手で、俺の手を掴んで引っ張る。

 

「俺がうんと言う前に引きずられてるんですけど」

 

「気にしない気にしない」

 強引だけど、嫌いじゃないわ!

 

 

 やってきたのは一夏とシャルロットの部屋。

 

「果たして、調査兵団の立体機動に勝てるかな?」

 

「こっちだってピョン格があるよ!」

 二人でテレビの前に座って早速対戦を始める。

 

「お、昨日より上達してるじゃあないか」

 

「今日は朝から今までやり込んでたもん」

 画面に映る二機の機体をそれぞれ操作しながら、俺とシャルロットを会話を始めた。

 

「少しは休めよ。廃人になるぞ」

 

「二人に追い付くには、まだまだ時間が足りないからボクは続けるよ」

 

「いや、時間ならまだあるから休めよ。一日二日で追い抜かれるの嫌だから」

 

「心が狭いんだね」

 

「精神的にダメージを与えてくるのはやめろォ」

 凡人が何年もの時間を費やして積み上げてきた物を、天才は軽々と乗り越える。だから天才は嫌われるんだよ!

 

「あっ……拘束コンはやめるめう! 大事な覚醒なんだめう!」

 

「さっき覚えたんだ」

 

「一日で覚えるとは凄いな。なら、今度はゲーセンデビューしてみる?」

 

「もっと練習したらね」

 

「おう。行く時は俺と一夏のどちらかを、必ず誘うんだぞ?」

 

「わかった。その時に声を掛けるよ」

 話が一旦終わると、俺とシャルロットは無言で機体を操作する。

 数分で勝負が決まり、結果は俺の勝ち。ISでの勝負なら負けるかもだが、ゲームなら俺は勝てる。

 

「やっぱり夕は強いなぁ」

 

「何、シャルロットも昨日より成長してるぞ。追い付かれるのも時間の問題だ」

 シャルロットはずっとやり込んでいたから、昨日とは動きが全然違う。これが天才か。

 

「うん、頑張る、けど……もう限界……」

 シャルロットは立ち上がり、ふらふらと移動して自分のベッドに俯せで倒れ込む。ずっとゲームをやっていたから、今の対人戦で集中力が無くなったんだろう。

 ゲーム機とテレビの電源を切って、シャルロットに近付く。

 

「シャルロットはお疲れの様子だから、俺は帰るぞ」

 自室に戻る前に、シャルロットに一言掛けていく。

 

「ひとりにしないでー」

 

「ここにいろと?」

 

「相談したい事があるから」

 シャルロットは起き上がり、ベッドの上で座る。

 

「何かね?」

 

「ボクはこれからどうすればいいのかな?」

 疲れ切った表情のシャルロットが、俺を見つめる。

 

「行動の指針か?」

 

「うん」

 

「早い内にバラした方が傷は浅いし、今後の学園での行動に制限が無くなるぞ?」

 俺は答えながら、シャルロットの方を向きつつベッドに座らせてもらう。

 

「でも、今一踏ん切りがつかないというか……最後まで隠し通すべきなんじゃないかって、悩むんだよ」

 

「そうか。シャルロットはどうしたい? 何をするべきかじゃなく、シャルロット個人が望む事だ」

 

「性別をバラした方が色々と楽になるんだけど、その踏み出す勇気が無くて」

 

「なるほど。でも、二組の俺に相談されても、バラす日に何も手助け出来んよ? 一夏なら直接手が出せるから、相談するなら一夏じゃない? 今更だけどな」

 

「頭が回らなくて、相談相手を間違えちゃった」

 シャルロットはてへ、っと笑った。かわいい。

 

「この話は一夏が帰ってきたらまた話せ。必ず協力してくれるから、何の心配もいらん」

 

「うん。そうするよ。話を聞いてくれてありがとう」

 

「おう」

 俺は返事をすると同時に腰を上げ、体を伸ばす。

 

「あ、そうだ。これからはボクの名前をシャルって呼んで」

 

「お?」

 

「この方が呼びやすいでしょ?」

 

「おー、確かに。短縮したら呼びやすいな。でも俺はシェロって呼ぶ」

 

「またボクの名前で遊ぶの?」

 

「冗談冗談。個人的にシャルじゃなくて、シャロって呼んでみたい気もする。何か、その人だけに呼ばれる名前って、いいと思わない?」

 

「うん。思う」

 シャルロットが俺に同意して頷く。

 

「そうか。んじゃ、今度からはシャルって呼ぶわ。ロだと言いにくい事に気が付いたから」

 

「もう! 弄りがいがあるからって、人の名前で遊んじゃダメだよ!」

 優しくだが、注意されてしまった。

 

「すんませんっした。けどさ、俺の名前って遊ぶ余地が全く無いから、別の呼び方に憧れてるんだよ」

 

「言われてみれば、確かに夕を別の呼び方をしようとすると、特に思い付かないね」

 

「もう一文字だけあれば、ゆっきーとかゆりになるのになぁ」

 まあ、夕という名のお陰で、名前でいじめられる事が無かったのが幸いだ。名字は別だがな!

 

「じゃ、そろそろ帰るよ。またな、シャル」

 

「うん。また来てね」

 

「はいよー」

 シャルに手を振られ、俺も歩きながら手を振り返して部屋を出た。

 さて、シャルはシャルロットになるのか、それともシャルルのままなのか、明日になればわかるだろう。それまで少し楽しみだ。

 後は一夏と箒も気になるな。これもまた楽しみの一つかな? 早く帰ってきてくれ。

 俺は自分の部屋に戻る道を進んだ。

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