IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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十三話

『優勝は――――――――一年二組、白雪夕!』

 アナウンスの人が勝者の名を叫んだ瞬間、アリーナは地を揺るがすほどの歓声に包まれた。

 

「な……」

 

「ふふん」

 全身の装甲が赤と金に染まっていた、ユニコーンとバンシィの色が元に戻り、展開していた装甲部分の光も消えたが、装甲は閉じずに開いたままだ。おー! 色が無くてもやっぱりかっけぇな!

 

『いやー、凄かったですねー! 赤と金の光がアリーナ中を縦横無尽に駆けていく高速機動! 軌跡を追うのがやっとでした』

 

「俺のエネルギー切れか……」

 一夏は姿勢を戻し、雪片弐型を背中にマウントしてから、視線を俺へと向けた。

 

「うむ」

 俺は前に伸ばしていた腕をゆっくり下げる。

 

「試合が終わったから、とっとと自分のピットに戻るぞ。おっと、今の試合について話があるから、後で部屋に来てくれ」

 

「わかった、また後でな。優勝おめでとう」

 

「ああ、サンキュ」

 別れ際に一夏から祝いの言葉を貰って、俺達はそれぞれのピットに向かう。

 

(今日もありがとう。バンシィ)

 ピットに戻る途中、心の中でバンシィにお礼を呟くと、バンシィはほんの一瞬だけ装甲の隙間から緑の光を漏らす。かわいい。

 

 ピットに降り立つと、鈴と楯無さんが笑みを見せながら出迎えてくれた。

 

「お疲れ。そんでもっておめでとう、夕!」

 

「優勝おめでとう。そしてお疲れ様、夕君」

 二人から祝いと労いの言葉を掛けられ、俺はISを解除する。今までの試合を振り返ると、今回が一番集中力を使っただろう。決勝だし、当たれば一発で不利になる射撃戦と格闘戦だったし、それに一夏との対戦だから当然。

 

「ありがとうございます。楯無さんもお疲れ様です」

 まずは色々と忙しいであろう楯無さんに頭を下げた。

 次は鈴に向けて一言報告しようとしたら、胸に飛び込んできたので、優しく受け止める。

 

「私の教えがよかったんだね。敬ってもいいんだよ?」

 鈴は俺の背中に手を回してから、俺の胸元に頭をぐりぐりと強く擦り付けてきた。

 

「痛い痛い」

 

「ほれほれー」

 

「戻らなきゃいけないから、離れてくれませんかね?」

 

「えー」

 自分の下にいる鈴から不満の声が上がった。下なのに上とはこれ如何に?

 

「はよ、はよ」

 

「もうちょっと、勝利の余韻に浸りたいんだけどなー」

 

「俺にはそんな余裕はぬぁい。これでも疲れてんの」

 普通に行動するだけなら特に支障は無いが、それでもこれから起こる出来事のために、体力は温存しときたい。

 

「鈴ちゃん。今はその辺にしときましょう」

 楯無さんが止めに入ってくれたが、何故か腰を低くして前傾姿勢になっている。これから変身でもするのかな?

 

「はーい」

 鈴は楯無さんの言葉に返事をして、俺から離れてくれた。

 俺は背筋を伸ばし、この後の予定を予想しながら歩き始める。

 

「決勝で勝って優勝する…………楽な仕事じゃないよっ!」

 ピットから出た瞬間に駆け出して、俺はそう言った。

 

「夕。そっちじゃない、こっち」

 

「あ、うん」

 道を間違えた。

 

 

 

 

 学年別個人トーナメントは何事も無く無事終了。色んな人達から声援を浴びたし、何故か取材も受けたし、久々に両親とも会えた。よしよし、これからも頑張るぞ。

 

 全てを終えた俺はジャージ姿で自分のベッドに飛び込む。あー、気持ちよくてこのまま寝ちゃいそう。

 

「今日は本当によく頑張ったわ。いい子いい子ー」

 楯無さんもジャージ姿でベッドに腰掛け、俺の横に座りながら頭を優しく撫でてくれた。

 やめてくれ……疲れた体に、それは効く。言葉を適当に思い浮かべたら、勝手に五七五になった。ふへへ……俺天才だわ!

 

「所で、夕君の試合を見ていて気になっていたんだけど、一夏君との試合でリミッターは解除してないんだよね?」

 

「はい。してませんよ。勝手に解除したら怒られちゃうじゃないですか。そもそも許可がないと解除出来ません」

 

「……そう。リミッター付きで全身装甲になった途端、あの機動力……新世代の機体は恐ろしいわ……」

 楯無さんは身を震わせて戦慄した。束さんの科学力は世界一ィィィイイイイ!

 

「今からキャノンボール・ファストが楽しみになってきちゃった」

 俺がベッドで横になっていると、楯無さんは喋りながら俺の背中に覆い被さってきて、十字の形が作られた。南斗鳳凰拳奥義、天翔十字鳳!

 

「……キャノンボール・ファストって何ですか?」

 

「キャノンボール・ファストって言うのは、簡単に説明するならISの速さを競うレースよ」

 楯無さんは俺の背中に乗っかったまま、簡潔に説明してくれた。

 なるほど、そういう催しもあるのか。バンシィに触れていても、IS自体に興味が無かったから、知らない事がまだまだありそうだ。

 

「へぇ、それで楽しみなんですね。開催はいつですか?」

 

「まだまだ先。夏休みを越えてからのお話」

 

「それはまだまだ先の話ですね」

 俺と楯無さんが会話をしていると、部屋の扉がノックされた。

 

「私が行ってくるね」

 

「お願いします」

 楯無さんは俺から退いて、扉に向かった。

 

「あら、一夏君。夕君に?」

 

「はい」

 

「どうぞ」

 

「お邪魔します」

 来客は一夏だった。

 俺はベッドに寝たまま、頭と足の位置を入れ替える。

 

「へい! らっしゃい!」

 俯せのまま、ジャージ姿の一夏に向かって片手を上げた。頬が若干赤く水気で髪が少し寝ているから、風呂上がりみたいだ。

 

「試合の話を聞きに来たぞ」

 

「絶命勝利!」

 

「説明しろよ」

 

「だから絶命勝利っつってんだろ!」

 一夏はクッションの上に座ってから俺と向かい、楯無さんは再度ベッドに座った。

 

「一夏がビームからバズーカなどの実体弾に切り替えた時、お前のエネルギー、尽きそうだったろ?」

 お前の家、天井低くね? という言葉に似たニュアンスで尋ねる。

 

「あまり残ってなかったな」

 

「その時、俺はまだまだ余裕だった」

 アームド・アーマーXCのお陰で、ダメージ以外の消費するエネルギーがかなり抑えられた。糞とか役立たずとか言ってごめんなさい。

 

「で、俺が勝負の提案したでしょ? 一夏があの提案に乗った時点で、俺の勝利はほぼ決まったも同然。何故なら、一夏は零落白夜を使わなくちゃいけないから」

 

「…………それって、夕の策にまんまと引っ掛かったって事か?」

 

「その通り」

 

「ぐあーっ! 乗らなきゃよかった!」

 一夏は頭を抱えながら床に転がった。

 

「まぁ、零落白夜が当たればほぼ終わってたから、正直賭けだったけどね」

 

「余裕があるうちにお願い零落白夜しとけばよかったなぁ……」

 

「やめろよ。開幕早々に格闘戦仕掛けられたら、俺が勝てなくなっちゃうだろ」

 

「夕がそう言うって事は、やっぱり零落白夜が怖いか?」

 

「当たり前だろ。防ぎようがないんやで?」

 一夏に零落白夜を発動されてしまったら、シールドは紙も同然。サーベルなどは一瞬は防げるが、無意味に等しい。零落白夜と切り結ばずに回避重視で攻撃も出来なくはないが、そのまま零落白夜で防御に回られたら攻める手立ては無くなる。逃げながらの射撃は追いつかれて無理だし、格闘で攻撃しようにもビームが消されて無理。エネルギーか集中力の切れを待つしかない。詰んだ。

 

「ワンオフ欲しい……」

 

「夕のワンオフか……」

 

「夕君のワンオフ……」

 

『……………………』

 俺の愚痴めいた短い呟きに一夏と楯無さんが続き、二人が考え始めたら室内が静かになってしまった。

 

「ただいまー! って、何か静かだけど、どうしたの?」

 

「おかえ鈴」

 薄着で肌の露出が多い鈴ちゃんが、部屋に帰ってきた。

 

「いやね、俺がワンオフ欲しいなぁって言ったら、二人が黙っちゃって。どんなワンオフか考えてるんじゃない? わくわくするっしょ?」

 

「あー、夕のワンオフねぇ。まだ無いんだっけ?」

 鈴ちゃんは喋りながらベッドまで歩いて、ベッドに上がり俺の体に乗っかってきた。亀かよ。

 

「うん。まだ。そもそも持ってないかも知れんが」

 

「夕のバンシィが第三世代機以降なら、必ずあるはず。私の龍砲とセシリアのビットがそれに該当するよ」

 

「え!? 龍砲とビットってワンオフなの!?」

 

「一応そうなってるよ。普通の武器みたいに使用してるから、気付かなかった?」

 

「はい。知りませんでした」

 ワンオフはISの形態が一次から二次移行して、ISと操縦者が最高の相性になった時に発現するという、かなり限定された条件がある。その極めて難しいワンオフの条件をクリアせずに、最初から誰でも扱えるようにしてあるのが、第三世代のISと習った。そう習ったが、まさか龍砲とビットがそれに該当するなんて、全然思ってなかった。ビット自体の扱いが難しいという、わかりきった事は抜き。

 

「まだまだ勉強不足ね。わからない事があったら、私に聞きなさい」

 

「そん時はよろしく」

 

「……龍砲とビットがワンオフってマジか」

 考えていると思ったら、一夏は俺達の話を聞いていた。

 

「一夏も知らないの? あんたも勉強不足」

 

「専用機の標準装備っぽいものを、普通ワンオフと思わないだろ」

 んだんだ。

 

「もしかしたらだけど、一夏君は何々世代のIS云々って、習ったのは入学して間もない頃でしょ?」

 楯無さんも俺達の話を聞いていた。俺のワンオフの話どこいったの?

 

「はい。そうです」

 

「それなら仕方無いわ。パルスのファルシのルシがコクーンでパージ状態だもの」

 

「一応入学前に簡単な用語ぐらいは頭に入れておきましたが、それでも全然足りませんでした」

 

「一夏はいいよなぁ。それなりに時間があってさ。俺なんてすぐだぜ? 用語なんてちょっとしかわからんかったわ。突然古代文字を解読しろと言われるようなもんよ」

 

「古代文字は言いすぎ」

 鈴からツッコミが入った。確かに少し大袈裟だったか。

 

「それより夕のワンオフが何か考えたぞ。俺の零落白夜という攻撃、箒の絢爛舞踏という回復。アタッカーとヒーラーだから、それに関連したワンオフはタンクかバファーだと俺は睨む」

 区切りがあまり悪くない所で一夏は話題を戻し、ワンオフについて切り出した。

 

「タンクはまだわかるがバファーは何するの? ISが状態異常を起こす想像がつかないんだが」

 

「電子回路の麻痺でスタンとか、同じく電子回路を内部から破壊して燃焼とか?」

 

「それがもしワンオフなら、競技用ではなく軍用の兵器よ。お姉さんはシールド関連かなーと思ってる」

 

「会長のシールドってシールドバリアと何が違うの?」

 

「ワンオフがシールドなら、シールドバリアとは確実に違う物のはずよ」

 

「ふーん。それよりちょっと前から疑問に思ってたんだけど、夕のバンシィと一夏のユニコーンが光ると、どんな効果があるの?」

 各々好き勝手に話すから、話題の内容が定まっていない。辛うじて繋がってはいるけど、とりあえず皆落ち着け。

 

「先日聞いたんだけど、一次移行と二次移行に匹敵する機動力が得られるだけ。条件はスパロボみたいな気力かな」

 確か箒の絢爛舞踏も気力で発動出来たはず。だから俺達三人は戦闘の開始時点で発動が可能だ。戦いの前に気力が減退するような事が起こらなければの話だが。

 

「へぇ、光る順番は決まってるの?」

 

「うん。決まってる。ユニコーンは赤のラインから全身が赤で、バンシィは金のラインから全身が金。そこからもう一段階があって、二機共同じで緑のラインから全身が緑。全身装甲じゃない場合は赤と緑のラインだけ」

 NT-D本来の発動条件とは違い、NT-Dの発動が気力だけで済むというお手軽軽設定。発動条件を元に戻したら、ニュータイプがいないので発動は絶望的だ。

 運がよければ自分がニュータイプに覚醒するかも知れないけど、もしニュータイプに覚醒してしまったら、人体改造という明らかな違法に突っ込むから、そんな機能はISに搭載されてないだろう。やめろー! ジョッカー! ぶっとばすぞぉ!

 いや、ISって謎が多くて束さんもわからない所があるから、絶対とは言い切れない。宇宙の心は彼だったんですね……と、一度言われたい気もする。

 

「色で一次と二次って、明確な違いがあるんだ」

 

「わかりやすいだろう? 」

 

「……マジか」

 一夏は一言喋った。

 

「お前聞いてなかったの?」

 

「そ、そんな事は無いぞ……」

 言葉を詰まらせながら、一夏は目を逸らす。

 

「箒といちゃついて、それなりに大事な話を聞き逃すとかマジ色ぼけ」

 

「……ちょっと用事を思い出した」

 多分鈴ちゃんと楯無さんが静かに笑って、一夏を見つめてるっぽいから、居心地が悪くなったんだろう。後、俺の言葉。

 

「おう、またなー」

 この場から逃げるように去っていく一夏の背中に向けて、俺は小さく手を振った。こりゃ、今度から箒関連で弄られちゃうな。大変ですなぁ。

 

「そろそろ眠くなってきたから、鈴ちゃん退いて」

 

「えー、ここで寝ればいいじゃない」

 

「別に嫌じゃないんだけど、今日はクローゼットで静かに寝たい気分。だから退いてくれたまへ」

 

「はいはい、退きますよ」

 俺の背中に乗っかる鈴ちゃんが横に転がって退いてくれた。

 体を起こしてベッドから下りて、体を伸ばす。

 

「では、二人共おやすみなさい」

 

「おやすみー」

「おやすみ、夕君」

 二人に軽く手を振ってからクローゼットの中に入り、布団の中に潜って目を瞑る。

 次は臨海学校か。その前に、鈴ちゃんに新しい水着を買いに付き合わされそうだ。買い物か。久しぶりでちょっと楽しみ。

 

(バンシィもおやすみー)

 枕元に置いてあるバンシィに声を掛けると、タイミングよく意識が薄れていき、そして俺は眠りについた。

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