今日は臨海学校一日目。正に夏といった感じの気温に、天気は雲一つ無い見事な快晴だ。
太陽が爛々とした晴れなんだが、今の俺はIS学園から出発した二組のバスに乗っている。なので、車内だと夏の暑さを全く感じない。冷房が効いてるから。
「そういえば、鈴は本国から新しい装備が送られてくるんだっけ?」
窓側に座る俺は隣に座っている鈴に話し掛けた。
臨海学校二日目には校外実習として、ISの新装備のテストを行う。専用機は専用装備で訓練機は一般装備だ。
「うん。夕はどうなの?」
「何の連絡も無いから俺に新装備は来ないと思う。最近装備が追加されたばかりだし。でも、もう少しだけ欲しいな」
「私から見れば夕の武装はそのままでも、十分に見えるよ? 一つか二つこっちに分けてほしいぐらい」
「……んまぁ、確かに色々あるよ? あるけどさ。それだけじゃ一夏に勝てないから、正直まだまだ足りない」
「装備を欲しがる理由はそれか。あんたの中じゃ一夏が基準なのね」
「たりめぇよ。自分の機体とほぼ同じ機体がいるんだから、意識するのは当然の事」
「じゃあ、例えばだけど私と夕の機体が一緒だったら、夕のライバルは私になってたの?」
「性別関係なくそうなってたと思う。鈴だって、同型の機体ならそう思うでしょ?」
「うーん……同じ機体が相手なら、負けたくないって気持ちが湧いてくる……かも?」
「だから俺は一夏が基準なんだ。角の生えた白いガンダム死なねーかな」
俺と鈴が会話をしていると、明るかった外の景色が急に暗くなった。車内の明かりで窓ガラスに俺達の姿が映る。
どうやらバスがトンネルに入ったみたいだ。という事は、このトンネルの先に海が待ちかまえている。
「そろそろね」
「そろそろだな」
さっきまで隣に座っていた鈴が、窓を見つめながら俺の膝の上に移動してきた。いきなり乗ってきたから、思わず抱きしめそうになる。食虫植物かよ。
鈴の行動を咎めずに俺達は真っ暗な窓の外に注目すると、クラスメイト達の話し声がいつの間にか消えていた。
『……………………』
クラスメイト全員が静かに窓へ近寄り、光を求めて外を見つめる。
そしてバスがトンネルを抜けた。
『海だー!』
クラスメイト一同が声を揃えて叫んだ。太陽の光が波立つ海面に反射してキラキラと輝いている。
今日から二泊三日の臨海学校が始まった。
青い空の下、青い海に白い浜辺。そこには様々な水着を着ている女子生徒が沢山いて、皆楽しそうにはしゃいでる。
『ウェミダー!』
俺と一夏は声を上げながら、砂浜に勢いよく飛び込んでヘッドスライディング。
『あっつ!?』
思っていたより砂に熱が籠もっていて、俺と一夏は体に付着した砂を払いながら即座に起き上がった。
「やべぇよ。何だよこの熱さ。砂風呂出来るぞ、一夏」
「砂風呂か。確か美容とダイエットとデトックスの効果があるんだっけか?」
一夏が砂風呂の効果を上げていくと、周囲で耳を傾けていた女子達が、鬼気迫る表情で一斉に穴を掘り始めた。
「施設で調節する熱や砂と違うから効果はあまり期待出来ないんじゃない? 知らんけど」
俺が少し否定すると、既に頭以外を砂に埋めて満足げな顔をした女子達が、顔色を変えて助けてーと叫ぶ。なんなのこの子達……。
「待たせたな」
女子の行動に対して俺達が引いていると、後ろから箒が声を掛けてきた。
「ほう……」
一夏が振り返る。箒の名前を呼ぶ最中に声が止まった。
どうしたのかと思い、一夏に続いて俺も箒の姿を視界に入れたら、一夏の行動に納得。
箒は白のビキニを着ていた。水着の縁が所々赤色で、自身のISスーツの色をそのまま水着に反映させた形だ。
ビキニという事は、当然胸元が開いているので、この箒の水着姿は普段とのギャップが凄い。水着のデザインも個人的に好みだ。
そして最後は髪型。箒の髪型はいつものポニーテールと変わらない。だが、今日はいつものリボンではなく、紅椿の待機形態で髪を縛っている。俺も紅椿の待機形態みたいなやつで、髪を結いたくなってきた。実際にはやらないけど。
だから俺は、羨望の眼差しを向けて箒に言う。
「いいセンスだ」
「だろ?」
選んだ水着に自信満々な箒は、両腕を腰に当てて胸を張った。箒の胸は同年代、成人女性と比較しても余裕で勝るほど胸が大きい。その箒が胸を張るという事は、自然と大きな胸が強調されてしまう。
「そのポーズはやめてあげて。一夏が直視出来ないから」
隣にいて顔を真っ赤にしているだろう一夏に、俺は目をやった。
「いねぇ」
「さっき海に向かって全力疾走していったぞ」
箒は片腕を腰に当てたまま、一夏が走っていった方向を指差す。あ、背中見つけた。
「お待たせー」
「お、来たか」
声が聞こえた方に俺は向くと、箒の後ろ側からいつもの面子が歩いてきた。一部パラソルとシートと小さいカバンとボールを持ってる人がいる。一部というかセシリアさんだ。
ラウラは何故かバレーボールを持ってきていた。何でビニール製のボールではなく、公式球なのか。硬いボールをレシーブすると、腕が内出血して小さな斑点がたくさん出来るから注意しないと。
「あれ? 一夏は?」
「一夏はあっち」
シャルの疑問に答えながら、俺は箒と同様に指を差した。
「大方箒の水着姿に赤面して逃げたんだろう」
ラウラは知ってたと笑う。
「それより夕! 水着姿の私を見て一言!」
「似合うぞ、鈴。ばっちりだ」
鈴の水着は前に選んだのと少し形が違うタンキニだ。色は焦げ茶。スポーティーな感じに纏まっている。やはり俺の目に狂いは無かった。俺が選んだやつじゃないけど。
おまけで砂浜に太陽の光が照りつけて、いつもより肌の色が白く見えている。最新式のプリクラかな?
「じゃあ、ボクは?」
「是非わたくしもお願いしますわ」
一夏がいないので代役が俺なんだろう。仕方無いね。
「シャルも似合ってるし、セシリアさんも凄く似合ってます。うん。一人を除いて。いや、疑問と言った方がいいか」
シャルは黄色の水着で、トップが普通のビキニでボトムがボーイレッグ。鈴とほぼ同じ印象を抱く。
セシリアさんは青の水着で、ボトムがローライズ。トップが布地の少なめな三角タイプで、大胆というかかなり際どい感じだ。この年齢でここまで攻めてる人はいないと思う。一人一人深く観察してないから、もしかしたらお仲間もいるかも知れんが。
「私か」
「そう。ラウラ。何でウェットスーツなん?」
ラウラのウェットスーツは、肘から先と膝から下の部分のみ肌が露出していて、色は全体が黒で腕や膝の側面が灰色だ。うん、似合ってる。凄く似合ってるが普通は着ない。ラウラ一人だけがウェットスーツで周囲から浮いている。今浜辺にいる人達を含めても、ウェットスーツを着用しているのは目の前にいるラウラだけだ。ウェットスーツじゃないが、よくわからない黄色の服を着ている人もいるけど、その人は除く。
「潜水の自主訓練だ。普段とは違う環境だからこそ出来るのさ」
「そうか。頑張れよ」
そういえばあなた軍人でしたね。
「そっけない姫も悪くない……」
「……んじゃ、一夏でも捜しに行くかな。ついでに少し泳ぐけど、皆はどうする?」
俺は視界から皆を外して海へ振り返った。
「私も付き合うわ」
「ボクも」
「私も行く。セシリア……ハロを預かってくれ。必ずセシリアの元に帰る」
おい、ラウラ。荷物持ってるセシリアさんにこれ以上荷物を持たすな。
「は、はろ……?」
「ボールは私が預かろう。セシリアも、こっちにパラソルを貸せ」
「箒がオードリー……つまり篠ノ之束がドズル中将なのか」
その配役やめろ。箒はともかく、束さんは掠りもしてないぞ。いや、待て。箒の方もやめて。リディさん役に割り当てられてる俺が振られるがな。バナージ役の一夏と敵対しちゃう。
「それじゃ、行ってくるわ」
「うむ」
鈴とラウラが俺の背中を押し始めたので、二人に抵抗せずに前へと歩き出す。
「またね、箒とセシリア」
「ああ、行ってこい」
「また後ほどお会いしましょう」
俺達は二手に別れた。
「はっ!?」
背中をぐいぐい押されながら、少し歩いてから俺はある事に気付いた。俺が荷物持った方がよかったんじゃないかと。気が利かなくてすいませんでした。
海に向かう途中、グループに分かれて遊んでいる女子に、一夏がどこに行ったかを尋ねていく。理由はすれ違う可能性があるからだ。
何人かに聞いた情報だと、まだ上がってきてないらしい。まだ海で頭を冷やしているのだろうか?
「いいか、お前達。海に入る前には準備運動が必要だ。私は訓練を受けているから救助は可能だが、それでもリスクを避けるべきだ。わかるな?」
『は!』
ラウラが前に出て、横に並ぶ俺達三人に声を掛ける。ちょっと楽しい。
「まずは腕立て腹筋を十回ずつやれ」
「おい、これ筋トレが目的じゃねぇから。しかも回数が優しいし」
「軍隊ってちょろいなと慢心してもらおうかと」
「慢心させてどうするんだよ」
「そんな事はどうでもいい」
「お遊びはいいから」
隣にいる鈴とシャルを見ると、二人共とっくに準備運動を開始していた。マジかよ。取り残されてるじゃん。
「律儀に付き合ってくれる姫は優しいなぁ」
「おう、感謝しろ」
俺とラウラも準備運動を始める。入念に関節を回してから筋を伸ばしていく。溺れた経験は無いが、別に経験する必要は皆無だろう。
四人共黙々と準備運動をこなしていった。波の音と近くの女子が楽しそうに話す声が聞こえる。凄く平和だ。
「はぁ、終わったー」
「こっちも終わったよ」
二人はもう済んだみたいだ。
「先に入っちゃっていいぞ」
「お先ー」
「探してくるね」
鈴とシャルは軽く走ってから、足を水の中に入れた。
「おぉー! まだ少し冷たいっ!」
「わっ! 本当だ! 冷たい!」
冷たいと言いながらも、二人はどんどん進んでいく。夏の気温ではあるが、まだ本格的な暑さじゃないから海が冷たいのは致し方なし。
「シャルロット! あそこまで競争よ!」
「いいよ! 受けて立つ!」
二人はブイを目指して泳ぎ始めた。そこら辺に一夏もいれば捜す手間を省けて楽なんだが、そう都合よくは見つからんだろう。どこに行ったんだか。
「姫は終わったか? 私は終わったぞ」
準備運動を済ませたラウラが話し掛けてくる。皆準備運動をしっかりやったか不安だ。もうちょいやってもいいんじゃない? 鈴とシャルはこの場にいないから今更だけど。
「しばし待たれよ」
ラウラに声を掛けながら、俺は準備運動を続ける。
数分だけ待ってもらって準備運動を済ませた。もうそろそろいいかな?
「出来たぞ。ずっと待っててくれるなんてラウラは優しいなぁ」
「感謝するといい」
「ありがとうごぜぇやす」
「よし、我々も泳ぐとするか」
「いや、まず先にやる事がある」
俺は水着のポケットに手を突っ込みバンシィを取り出す。
「バンシィ、手伝ってくれ。一夏を捜してほしい」
取り出した待機形態のバンシィに協力を求める。
バンシィは俺の手から離れて、鈴達とは違う方向に飛んでいった。
「んで、次はこれだ!」
別のポケットからバレッタを二つ取り出す。
「ラウラ。髪を上げるから、こっちに来て背中を向けてくれ」
「わかった」
近付いてきたラウラがくるりと反転して、俺に背中を向けた。
俺はラウラのサラサラしている髪を優しく手に持つ。
まずは後ろの長い髪をひとまとめにして捻る。次に後頭部の根元部分を中心に、髪を螺旋状に形作ってからバレッタで留めた。
「手慣れてるな。いつも誰かに髪を縛ってやったりするのか?」
「いや、あんまり。頼まれたらやるけど、基本的に自分を専門にしてるかな」
今度は自分の髪を巻いていきバレッタで留める。
「ほい、完了。じゃ、行こうか」
「ありがとう。では、行こう。あの海へ。王を捜しに!」
「おう!」
俺とラウラは同時に駆け出して、青き海へダイナミックエントリー。
鈴とシャル、バンシィ、俺とラウラはそれぞれ違う場所で一夏を捜す。
「見つからんな」
体感時間で十数分ぐらい泳いだが、一夏の姿はどこにも見えない。
「これは逆に、私達が迷子になった可能性が無きにしも非ず」
「一夏を捜すのも目的の一つだが、泳ぐのが本来の目的だから問題無い」
「逆になってないか?」
「泳ぐの楽しいからいいじゃないか」
「一理ある」
俺とラウラは喋りながら平泳ぎで進む。俺達みたいに泳いでる女子もいるが、一夏らしき人影は見当たらない。
「この泳ぎ方をしてると、無性にブリッツボールがやりたくなるな」
「ブリッツボール? それは何だ?」
「ゲーム内の競技だよ。水中でラグビーとサッカーを混ぜたスポーツ」
「水中版の水球か」
「うん」
「楽しそうだな」
「楽しいよ。ゲームだけどな」
俺達は雑談で時間を潰した。
一通り泳ぎ回り、途中で鈴とシャルに合流して四人で競争した。三人共速くて、俺は格の違いを知る。流石代表候補生。運動神経は伊達じゃない。
水泳を堪能した俺達は海から上がり、箒とセシリアさんのいる場所へ帰ってくると、尋ね人の一夏がシートに体育座りをしていた。水着の上からラッシュガードを羽織る簪さんも座っていた。
ラッシュガードとは、簡単に言えば低温や紫外線などを防ぐ上着だ。着たまま水に入っても大丈夫な素材で作られている。
「こんにちは、簪さん」
「こん、にちは……」
俺が挨拶をすると、簪さんはおずおずと挨拶を返す。
「これ……」
簪さんが俺に向かって手を出すと、その掌の上にはバンシィが乗っていた。
「バンシィが、迷子に……なってた」
「そうなのか。ありがとう、簪さん。バンシィも手伝ってくれてありがとう」
「……うん」
顔を赤くした簪さんは俯きながら返事をする。
バンシィは浮き上がって俺の周囲を回り始めた。かわいい。
「ねぇ、一夏はいつ戻ってきたの? ボクら捜しにいったんだからね」
シャルが一夏に話し掛けた。
「悪い。さっき戻ってきたばかりだ」
「そっか。まぁ、いいけどね」
「じゃ、じゃあ……私は、これで……」
簪さんは立ち上がりどこかへ帰ろうとする。
「何だ、帰っちゃうのか。別に気を遣わなくていいんだぞ、簪」
それを一夏が引き留めた。二人の空気的に、簪さんは一夏を許したみたいだ。
「少し、泳ぎ疲れた……から……」
「その割りには羽織ってる物が濡れてないわね。薄いから透けてないし肌に張り付いてもないよ?」
鈴がラッシュガードについて指摘する。簪さんの着るラッシュガードは白で、濡れるとうっすら透けるタイプだからだ。
俺も簪さんの状態を確認すると、確かに濡れたような様子は無い。正直、濡れていてくれたら文句無しに最高だった。超惜しい。
「……もう、乾いた……」
簪さんは鈴の瞳を見つめるが一瞬で逸らした。これは性格なのか、それとも嘘なのか、俺には判別出来ない。
「そう。ま、無理に引き留めないわ。またね、簪」
「う、うん……また」
鈴は追求をやめ、手を振って簪さんを見送った。
「鈴は簪さんの事知ってたの?」
俺は疑問に思って尋ねる。
「知らないよ」
「え?」
「会長から名前は聞いてたし、今夕が名前を呼んであー……って」
コミュ力の化け物かよ。あまりに気安かったからてっきり知り合いだと思った。
「そうか」
「それより一夏も戻ってきた事だし、皆で何やる?」
「ここは私が持参したボールでビーチバレーをだな」
「ビーチバレーか。他の皆はやりたい事ある?」
仕切る鈴と提案したラウラ以外の皆が首を横に振る。
「それじゃあ、決まりね」
そんな訳で、これから皆でビーチバレーをやる事に決定した。
それぞれ役割を決めて、ネットの準備とコートのラインを引く。
審判はセシリアさんに決まった。理由は凄く単純で、運動に適してない水着だからだ。ラッシュパーカーを着ればいいんじゃないかな?
ルールは三対三で先に10ポイントを取った方が勝ち。三回までボールに触れるという単純なルールだ。
俺達六人は用意したくじを引いて、Aチームは俺と箒とシャル。Bチームは一夏と鈴とラウラとなった。
最初のサーブはジャンケンで相手チームに勝った俺。
移動を開始して、それぞれ配置について試合の準備が整った。二人の足手まといにならぬよう頑張ろう。
セシリアさんはネットと同じセンターラインに立って、俺達と一夏達を確認してから笛を鳴らした。
「岡ひろみから学んだサーブをくらえ!」
エンドライン後方にいる俺は、力加減に注意してボールを前方に投げた。
自分が投げたボールを見つめながら駆け出し、助走の勢いで高くジャンプ。足がライン内に入らず、そして踏まないように気を配る。
タイミングを合わせてボールの中心に目掛けて手を強く振った。
俺が打ったボールは真っ直ぐ飛んでいき、ボールの下部がネットの上部に接触。
勢いが死んだボールは相手のコートに入り、小さな放物線を描いて落下。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
一夏は片手を前に出しながらヘッドスライディング。
伸ばした手はボールに触れたが、立て直せるほど高く上がらずに地へと落ちる。
審判のセシリアさんが笛が鳴らす。
「Aチーム。フィフティーンラブ!」
「やった! 夕が先制点を取った!」
「よくやったぞ、夕!」
「もっと褒めてもいいのよ?」
俺はシャルと箒に近付いて二人にハイタッチ。
「夕、セシリア。それバレーちゃう。テニスや」
一夏は上体を起こし、体に付着した砂を払いながら突っ込みを入れてきた。
「知ってる」
「承知ですわ」
「言いたかっただけか」
一夏は自分の近くに落ちていたボールを手に取り、箒に向かって優しく投げる。
箒は両手で受け取り、コートの外に出た。途中まで箒を目で追っていた時に、俺はある事に気付く。いつの間にか周囲にギャラリーが出来ていた。そして意外と多い。専用機持ちのスポーツ対決だからだろうか? まぁ、何にせよ観客がいようがいまいが、やる事は変わらない。
笛が鳴り、箒はジャンプサーブを放った。
ボールはネットの上部を通過して相手コートに入る。
「私に任せろ!」
まずはラウラがレシーブで、ボールを受け止める。
次に鈴がトスしてボールの位置調整行う。
「はぁっ!」
最後は一夏が高くジャンプしてスパイク。ボールを相手コートに叩き込む。
「ほっ!」
ラインの内側ギリギリを狙ったスパイクは、俺が飛び込んで防いだ。
低めに上がったボールは、シャルが上手くトスで拾って更に高く上がった。
ネットの近くにボールが来ると、箒は走りながらジャンプと同時に体を大きく後ろに反らす。
「せぃっ!」
弓なりの体勢から力を込めてスパイク。ボールを相手コートに打ち込んだ。
少し高めだったのか、相手チームの三人はボールを見送る。
ボールはコートの外で落ちた。
「Bチーム! 一点!」
「よっしゃあ!」
「よくやったわ、一夏!」
「お手柄だな」
一夏達はハイタッチを行い、終わった後に鈴がボールを拾いに行った。
「すまん。少し狙いすぎた」
『ドンマイ』
相手チームを見ると、最初のサーブは鈴が打つみたいだ。
笛が鳴ると、鈴はジャンプサーブを打った。
放物線を描いてコートに入ってきたボールを、俺がレシーブで受けて箒がトスで上げる。
「よっ!」
俺はボールに駆け寄ってジャンプ。三人は俺のスパイクに警戒したのか、腰を低く落として身構えた。
ボールは俺を通り過ぎていく。ボールが向かう先にはシャルがいる。ちょっとしたフェイントだ。
「やぁっ!」
ボールの軌道と俺の位置を予測していたシャルがスパイクを決めた。
鈴はレシーブで難なく防ぎ、ラウラがトスでボールをネットに向かって上げる。
「もう一度!」
一夏がボールに向かって飛び、力を込めてからスパイクを打つ。
後方にいた箒がレシーブで止め、シャルの方にボールが向かう。
シャルがトスしてボールが俺の方に来た。
タイミングを見計らってジャンプし、指だけでボールを優しく相手コートに落とす。
一夏は反応出来ず、鈴は後方にいて間に合わない。
「甘いっ!」
ラウラが読んでいたらしく、ラウラ一人がボールに迫る。
俺の軽く触れたボールを、ラウラはスパイクで押し返してきた。
ボールはシャルのいる方向に向かって飛んでいく。
シャルはレシーブで止めて、上がったボールに近付いた俺がトスで拾い上げ、箒がスパイクを放つ。
ここから交互に攻守が入れ替わるだけで、互いに点が入らなくなった。
レシーブ、トス、スパイクと一連の流れを維持して、ラリーが続いていく。両チーム共動き方を把握したせいで、スパイクが決まらないのだ。
いかにして点を入れるのかという勝負ではなく、先にどちらが音をあげるのかという我慢比べの勝負に移行していた。バレーは比較的点が入りやすいスポーツだと認識していたが、これは改めなければいかんな。
俺達が一進一退の攻防を繰り広げている最中に、終わりは突然やってきた。つまり笛が鳴った。
俺はボールを掴み、何かあったのかとセシリアさんを見る。
「そろそろ昼食の時間になりますわ」
「え? もうそんなに経ったのか?」
セシリアさんの言葉に一夏は問い返す。
「はい」
「マジか。それじゃ、昼飯食いに行くか」
そんな訳で、皆で宿泊施設の旅館に帰ってお昼ご飯を食べる事にした。
旅館に戻った俺達は浴衣に着替えて昼食を頂いた。メニューは海が近いだけあって、豪華海の幸。新鮮な刺身に炊き立てふっくらホカホカご飯。これを携帯のカメラで撮って弾に送ろう。夏休み中の夜中に。
食後の休憩として、俺達は一時的に別行動となった。なので、俺は一人で旅館内を散歩している。
「剣持った白いIS消えないかな」
俺は旅館の通路を歩いていると、そんな言葉を耳にした。
聞き覚えのある声だと思いながら、俺は立ち止まって辺りを見回す。
発生源は壁際のベンチに座って、両手で缶を包むように持っている、浴衣を着た一人の女子生徒だった。
「こんにちは、簪さん。今日は二度目だね」
「……う、うん」
「隣に座っても?」
「……どうぞ」
「では、失礼します」
簪さんの許可を得た俺は、簪さんの隣に腰掛けた。
「簪さんはお昼食べた?」
まずは無難な話題を振る。
「……うん」
「俺は美味しかったけど、簪さんはどうだった?」
「……美味しかった」
「だよね。旅館と言えば山の幸か海の幸。簪さんは海と山どっち派?」
「……海」
「海かぁ。海の理由は?」
「……虫が、少ない……」
そっちか。流れ的に料理の方を聞きたかった。
「確かに海だとあまり虫はいないね」
「……うん」
「……さっきから元気が無いように見えるけど、もしかして楽しくない?」
俺は話題を変えて少し踏み込む。
「……あまり」
「そっかー」
「でも……」
「うん?」
「……水着を、選んだりするの……楽しかった」
もしかして、買って満足するタイプなのだろうか? いや、さっき着てたな。どんな水着か知らんけど。
「それに……バッグに、荷物を詰め込む……のも」
「わかるわかる」
「……あの準備期間が……一番のピーク、だったりする……」
「わかるわ」
「ゆ……ゆ、夕……は?」
おぉ、簪さんが歩み寄ってきたぞ。
「俺は前日より当日が一番かな。皆と一緒にいるのが楽しいからね」
「……チッ」
率直な感想を述べたら何か舌打ちされた。
「簪さんはこの後予定とかある?」
「嫌味……?」
予定を尋ねたら、何故か嫌味と言われてしまった。何かごめんなさい。
「いやいや、嫌味じゃなくて。暇だったら俺達と遊ばないかなー、って」
「……暇、だけど」
「それじゃあ、どう? 誘いを受けてくれるか?」
俺は前に体を傾けて、簪さんの方に首を向ける。
「……夕……だけ、なら……」
俯いている簪さんは、首を小さく縦に振った。俺一人か。まぁ、親しくない人達の中に入っていくのは、簪さんじゃなくてもかなり難しい。
「了解。んじゃ、ここでちょっと待っててくれ」
ベンチから立ち上がり皆の所へ向かう。皆のいる場所は多分だが、俺達の部屋かな。
自分の部屋に戻ると、そこには案の定皆がいた。トランプや携帯ゲーム、読書をしていたりと各々好き勝手に過ごしている。楽しそう。
俺は手短に用件を伝えてから部屋を出て、簪さんの元に向かう。そういえば何をするのか決めてなかったな。
足早に廊下を進むと、簪さんが座って待っているベンチに辿り着いた。
「はい、お待たせ。まずは何をする?」
待っていてくれた簪さんに声を掛ける。
「……水着」
「水着?」
「……………………」
単語を単語で聞き返すが、何の返事も無かった。簪さんが俺に何を伝えたいのかわからない。ただ、顔を見ると赤くしている。これから言う事が恥ずかしいのだろうか?
「……外、で遊びたい」
「あ、なるほど。だから水着なのか。わかった。途中まで一緒に行こう」
「うん」
簪さんが立ち上がったのを見て、更衣室に向かって歩き始める。
ついてきてるのか確認するために、俺は歩きながら後ろを振り返ると、簪さんと目が合う。
「み、見ないでっ」
「うぇ!?」
顔を押されて、後ろから前へと戻されてしまった。いや、足音聞こえなかったから確認しただけなんだが。
「すいません」
俺は簪さんに背を見せながら、声だけで謝罪をした。
浴衣から水着に着替えて、再び浜辺へとやってきた。午前中より遊んでいる女子生徒は少ないが、それでもまだ結構な人がいる。
着替えるのに時間が掛かると簪さんは言っていたので、時間を潰すために俺はしゃがんで砂を弄って待つ。
五分ほど砂と戯れていると簪さんがやってきた。
俺は立ち上がり、簪さんの姿を視界に入れる。
「……に、似合う……?」
頬を朱に染める簪さんは身を小さくして、体をもじもじさせながら両腕で胸元の水着を隠している。更に水着の上には白のラッシュガードを羽織っており、チャックも閉めているからガードは完璧だ。
ガン見する気は無いが、それでは水着が見えないじゃあないか。少し透けているので、辛うじて水着の色が黒だと判別出来るが。
俺はこの場をどう対処するべきか悩む。簪さんの水着が見えないから、その腕を退かして見せてと頼むのも何か違う。というか、おかしい。この言葉を異性に対して使うと大問題だ。
失礼ではあるが、ここは無難な言葉を使わせてもらおう。
「うん。似合ってるぞ」
「ほ、本当に……?」
「もちろんですとも。いいセンスだ」
「あ、あり……がとう」
礼を言いながら、簪さんは安堵の溜め息を零した。すまんな。
「さて、早速だけど何しようか?」
「……お城を……作りたい」
「おー、お城か。定番だねぇ」
定番と言ったが、実は俺は一回も作った事が無い。芸術より運動派だからだ。
「よっしゃ、なら作るか!」
「うんっ!」
俺と簪さんは波打ち際に向かってダッシュ。迷惑にならない場所を選んで、波打ち際に到着。
簪さんは大きなバッグを持ってきており、バッグを置いて荷物を取り出し始めた。
バケツ、底をくり抜いたバケツ、スコップ、麺棒、ペインティングナイフ、スプーン、ヘラ、左官用コテなど道具が揃っている。凄く本格的だ。
作り方の手順を簪さんに教えてもらってから、作業に取り掛かった。
最初に底の無いバケツに砂を入れる。ある程度砂を入れたら、普通のバケツに水を汲んで、砂が詰まったバケツに水を流し込む。次に砂と水が入ったバケツに麺棒を突っ込み、砂を押して固める。
この一連の作業を反復して、大きな砂の塊を作った。どんな城を作るのか聞いてないが、簪さんの指示通りに動けば問題無いだろう。
作業を続けていくと、砂の塊はどんどん巨大化していった。その大きさは縦横共に約一メートル。でっけぇ。
ここからはバケツなどを使わない作業に移る。まずは砂の塊を四角にするため、道具の左官用コテを使用して形を整えた。簪さんがやってくれるので、俺は道具を渡したり受け取ったりする助手役だ。
四角に仕上げたら、何種類かの道具を使って少しずつ砂を削り始める。この大きさなら大抵の物が作れそうだ。何が出来るのか楽しみだなぁ。
結構な時間を費やして、砂のお城が完成した。
「お、おぉ……!」
俺は出来上がった作品に驚愕する。お城じゃなくて砂像だったから。
「ふぅ……完璧」
簪さんは袖で汗を拭い、達成感に満ちた表情で砂像を見下ろす。
記念写真を撮りたい所だが、携帯は持ってきていなかった。ここから取りに戻るとしても、旅館が結構遠い。時間が掛かりそうなので、今回は自分の目にしっかり焼き付けておこう。
「こいつは赤く塗らねぇのか?」
「貴様……塗りたいのか!?」
俺が何となくセリフを吐くと、簪さんがきっちり返してくれた。知ってるのか。
「へっ、冗談だよ」
砂像は完成した。次は何をするのだろうか。
「おおぅっ!? これネオングか!」
背後から大声が聞こえて、俺と簪さんは一緒に振り返る。
「一夏じゃん。どうしたん?」
「一泳ぎに来た。午前中にちょっとしか泳いでなかったからな」
「なるほど」
「それより、凄いなこれ! 二人で作ったのか!?」
一夏が話を戻しながら砂像に近付いて、全体を観察し始めた。
「いや、全部簪さんがやった」
「夕は足手まといだったのか」
「しっつれぇな。助手だよ」
何て言い草だ。俺の心は深く傷付いた。法廷で会おう。
「……夕のお陰で……スムーズに、作れた」
「それって時間を掛ければ、俺がいなくても問題無く作れたって事だよね。事実、俺は一切手を加えて無いもん」
「夕と、一緒だったから……作れたんだ……」
自虐的に言ったら簪さんからフォローが入った。一つ一つの言葉が身に染みる。ありがてぇ。けど、何かマッチポンプっぽい。そんなつもりは全く無いんだけど。
「ありがとう、簪さん! 一夏、お前はダメだ。後で箒に言いつけてやるから覚悟しとけよ」
「小物臭が半端ないぞ」
「使えるものは使うって言う大佐の事ディスってんのか。大佐が目の前にいるんだぞ」
俺は目の前の砂像に手を向ける。
「ただの器……ですな、議長」
「はい」
一夏から回ってきたパスを、何故俺が受け取ったんだろう。
「そういえば、他の皆は何してるんだ?」
この場には一夏一人しかいないので、鈴達がどうしているのかを尋ねる。温泉でも入ってるのかな。
「ラウラとシャルと鈴は昼寝で、セシリアと箒は緑茶でティータイム」
「で、一夏は一人で泳ぎに来たと」
「そういう事」
「寂しい奴だな」
「おう、意趣返しやめろや」
俺と一夏が会話をしていると、簪さんが道具を片付け始めていた。
「あれ? もう仕舞うの?」
「……うん。今から、別のを作る時間は……無い……と思う」
「一夏。今何時だ?」
簪さんの言葉を聞いて、俺は一夏から時間を聞く。
「時計は持ってきてないけど、旅館を出る頃は四時だったはず」
四時という事は、俺達は約三時間ぐらい作業を続けていた計算になる。次の作品もネオジオングみたいな砂像を作るのなら、確かに時間が無いし足りない。ここらでやめた方がいいだろう。
「俺はこれから泳ぐけど、お前達もどうだ? せっかくだから一緒に泳ごうぜ!」
「一夏はこう言ってるけど、簪さんはどうする?」
誘われたので、どうするか簪さんに尋ねてみる。
「夕は……どうなの?」
「ここで断ったら一夏が一人寂しく大海原を遊泳する事になって、可哀想で見てられない悲惨な光景になっちゃうから、付き合おうかなと考えてる」
「死体蹴りやめろォ」
「じゃあ……私も、付き合う」
「ありがとう、簪! 夕、後で鈴に報告するからな。覚えておけよ」
「もし言ったら千冬さんに泣き付くぞ。それでもいいなら、やりたまへ」
「くっそ!」
「勝った!」
「……終わった、けど」
一夏は地団駄を踏んで悔しがり、俺はコロンビアのポーズで勝ち誇っている最中に、簪さんは道具の片付けを終えていた。
「よし。なら入るか」
「いざ、参ろうぞ」
「うん……大丈夫」
俺達は足並みを揃えて海に飛び込んだ。
そして三人でゆっくり泳ぎ回る。うん。競争も悪くないが、のんびり泳ぐのも結構いい。負けが無いし。
今更だけど、こうしていると浮き輪とかが欲しくなってきた。波に揺られて漂うのは気持ちよさそうだ。
鈴と水着を買いに行った時に、そこで買っとけばよかったかなと少し後悔。だが、まだ夏休みじゃないから、チャンスはいくつかあるはずだ。その時を楽しみにしとこう。
俺達は三十分ぐらい泳いでから、休憩するために陸へ上がった。
「はぁ、疲れたー」
一夏は体中が砂まみれになるのもお構い無しに寝っ転がった。砂が体に付着しまくっている。不快感は無いのかね?
簪さんの方を見ると、普通に座っていた。まぁ、一夏みたいに寝転ぶ真似はしないだろう。見なくてもわかってたけど。
そしてすぐに簪さんから視線を外す。水に濡れているせいで、ラッシュガードが肌に張り付き体のラインが露わになっている。お陰でどんな水着か判明した。
トップがホルターネックのビキニだ。胸元の小さなリボンが可愛らしさを際立たせてる。ボトムは見えなかった。多分だがショートパンツ。なるほど、簪さんはそういう水着が好みなのか。
しかし、チラッと一瞥しただけだが、やっぱり肌に張り付いて肌色が見えるラッシュガードは最高だ。袖も少し余ってるし、ボトムの水着が隠れる程度に丈が長くてグッド。
濡れている女性って、どうしてこう魅力的なのか。しっとりした髪が、いつもとは違う一面を演出。これが水も滴るいい女ってやつ? 直接的な表現だな。
「……何?」
「うぇ?」
海の方を見ていた俺は簪さんに視線を向ける。何故バレたし。
「……何か、不穏な視線を……感じた」
「それ一夏じゃない?」
俺は一夏の方を見ながら擦り付けた。女性は自分に向けられる視線に敏感だから、一瞬覗いただけでも気付かれたのだろう。
「いや、簪が着てるそれを箒が着たらよさそうだなって。日焼けとか心配だし」
マジで見てたのか。結果オーライだったな。まぁ、誤魔化す方法はいくらでもあるから、視線の元が俺だとバレても構わんかったが。
「なら、買ってあげればよかったじゃん。箒と一緒に水着を買いに行ったんだろ?」
「水着売り場に入る勇気が無かったから無理だった」
「スポーツショップに売ってるぞ?」
「え? そうなのか?」
「うん。元々サーフィン用の服だから。水着売り場に置いてる所もあるけど」
「……今日はもう無理だから今度にするか」
「買いに行かなくても、ネットの方が種類は豊富で楽に見つかるよ」
「ネットだと俺名義で女性用の服が届くんだぞ? 名を知られてるからあまり頼みたくない」
そういえばそうだったな。変に誤解されるのも困るし、普通の店で箒と一緒に選んだ方が問題無いだろう。
「そうか。ま、何かあったら相談くれ」
「その時は頼む」
話が一段落したタイミングで、尻が砂まみれになるのを覚悟で俺は座った。
「これからどうするの? まだ泳ぐ感じ?」
「俺はまだ泳ぐつもりだけど、二人はどうしたい?」
どうやら一夏はまだ泳ぎ足りないらしい。俺ももう少し泳ぎたいかな。
「私も……まだ、泳げる」
「俺も俺も」
「それじゃあ、また泳ごうぜ」
もう少し休憩を挟んでから、俺達は海へと再び入った。
海と陸を何度も往復してると、太陽は赤くなり空も同時に赤く染まっていた。俺達はビスト神拳でネオングを破壊。そのままにしておくと、きっと迷惑になるからだ。仕方無い。
旅館に戻って簪さんと更衣室で別れ、俺と一夏は簡素な男子用更衣室で服を着替えた。服を着る途中、少し体が怠いと感じる。流石に泳ぎ過ぎた気もするが、明日からは海に入れず明後日は学園へと帰らなければならない。日を跨いで考えると、別に泳ぎ過ぎではないと気付く。若いし鍛えてるから、明日にはこの疲れが消え去っているだろう。というか消えて下さい。明日ハードなんです。
一夏と二人で部屋に戻ると、皆はまだいた。まぁ、いてくれて全然構わない。
晩御飯まで時間があるから、俺達は部屋の風呂に入る事にした。食後の入浴は健康上よくないからだ。実際は暇潰しも含めてるが。
俺達が交代して風呂に入る間、鈴達は大浴場へ向かった。お達者でー。
風呂から出るとちょうど食事の時間を迎えた。大広間に向かうと、膳がずらりと綺麗に並んでいる。俺と一夏は鈴達のために、すぐ埋まりそうにない席を見つけて座った。
そこで一組の生徒の、のほほんさん達がやってきた。のほほんさんは、一夏をおりむー、俺はしろー、と呼んだ。自分の呼ばれ方に、俺は犬の名前みたいだなぁと感想を抱く。
それと同時に、俺は正義の味方を目指す事に決めた。だからラプラスの箱を消すために、一夏とユニコーンを東京湾に沈しなくちゃ。祈りだったラプラスの箱が呪いに変わっちゃったからね。誰かが人柱にならないといけないからね。仕方無いね。
少しお話してのほほんさん達が去っていくと、入れ替わりで鈴達がやってきた。
皆で会話をしながら食事を済ませた後、俺と一夏は部屋に戻ってきた。鈴達も一緒だ。
部屋へ帰ると既に布団が敷かれており、二つの布団がぴったりとくっ付いてた。ちょっと待って。距離がおかしいだろ。部屋も狭い訳じゃないし。
そう思って布団と布団の間に隙間を作る。これで大丈夫だ。
布団を離した後、俺達はトランプをやったりゲームで遊ぶ。今回は修学旅行ではなく臨海学校だが、普段とは違ったテンションでかなり盛り上がる。
しばらく続けていると、消灯時間となって女子は自室へと帰っていく。このままいると千冬さんに怒られるからだ。でも酒飲んでて酔ってそうだから、もしかしたら許されるかも知れんな。許されようとも、こちらから自主的に帰すけど。
部屋の電気を消して布団に入った。疲れてるけど、興奮してて目が冴えている。眠れないからといって、このまま起きてたら明日がキツい。下手したら今日以上の体力を消耗するだろう。
とりあえず目を閉じると、意外にあっさりと眠気が襲ってきた。すんなり眠れる事に感謝した瞬間、意識が落ちかける。
俺は声にせず、おやすみと心の中で言った。