現在、一組の教室ではHRが行われており、シャルル・デュノアが二人目の男性操縦者と自己紹介をしている最中だ。教室内がキャーキャー騒がしくて、俺達のいる廊下まで響いてかなりうるさい。でも、クラスの一体感を肌で感じた。この状況に俺の隣に立つ一夏が入ったら、どうなるんだろうか。ふむん、興味深い。
「いいか。今だけ許すが、これ以降はくれぐれも問題を起こすなよ。私達の手を煩わせないでくれ」
『はい』
俺達は織斑先生に向かって返事をした。既に目の前で大問題が発生してるという事実は黙っておく。口に出すと話の腰が折れるので。腕の骨が折れた。
「面倒事は私達が全て引き受けるから、代わりにあいつを頼んだ。私の立場では一から十まで面倒見切れんからな」
「わかりました」
織斑先生の言葉に一夏が頷く。俺は無言で頷いた。
「別世界の話はどうしましょう?」
「今更問題が一つ増えた所で、対処のやり方は変わらん。だから今だけ好きにしろ。寧ろまとめて起こしてくれた方が、こちらとしては手間が掛からず助かる。断続的に問題を起こされるよりは、遥かにマシだからな」
「了解しました」
「他に何かあるか?」
「特に無いです。夕は?」
一夏が今まで黙っていた俺に話を振ってきた。
「何もありません」
「そうか。もし何かあったら私の所に来い。これでも教師だ。可能な限りお前達二人の力になろう」
「織斑先生こそ、何かあったら俺達に言って下さい。普通の立場とは全く違うんで、何か手伝う事ぐらい出来ます」
気休めにしかならないと思うけど、それでも俺達は普通と違う存在。だから何かやれる事があるはずだ。貴重な情報提供者としての何かを。
「……その時は遠慮無く扱き使うから、覚悟しとけ」
『はい!』
正直自分達の力だけで何とかしたかったが、俺と一夏は学生だ。そして別世界の人間だから、いつも以上に無力な立場になっている。後ろに誰もいないままじゃ、俺達は立ち回れない。だからこの学園に頼った。その結果がこれだ。感謝感激雨霰。
「私が先に入るから、名前を呼んだら入ってこい。ああ、耳を塞ぐ準備を忘れずにな」
シャルルの自己紹介が終わり、クラス内の声が落ち着いた頃に、織斑先生は教室へと入っていった。
『喜べガキ共。今日はデュノア以外にも二人の転校生がいる。姿を見て腰を抜かすなよ?』
(そういえば、シャルがいるのにラウラはいないな)
(あー、確かにラウラがいないね。こっちじゃ来ないのかな?)
(さぁな。何とも言えん)
(気にはなるけど、いない人物の事を話してもしょうがないか)
(そうだな)
『おい、入って来ていいぞ』
俺達がひそひそと話していると、織斑先生に呼ばれた。結構緊張している自分がいる。何て思われるのだろう。俺はともかく、一夏が気になった。
「覚悟はいいか? 俺は出来てる」
「俺より自分の身を心配しろ。織斑一夏」
「……そうだったな」
「行くぞ、バナージ」
「はい。リディさん」
名前を切り替えて、俺達は一組の教室へ堂々と踏み込んだ。教室のドアを順番に潜ると、そこには驚きで口と目が開いた生徒達の顔が待っていた。
シャルルの隣に立って俺は女子生徒の顔を見渡す。一組の面子を全て覚えている訳じゃないから、何とも言えない部分が多かったりするが、少なくとも専用機持ちを除いた数人は見覚えがある。
「とある事情で、別の二組から一組に転入する事になりました。リディ・マーセナスです。短い間かも知れませんが、これからよろしくお願いします。基本的な呼ばれ方はリディさんか、リディ少尉です。少尉とついてますが、軍人じゃないです」
「リディさんと同じく、とある事情で別の一組から転入します。バナージ・リンクスです。遠慮無くバナージと名前で呼んで下さい。これからよろしくお願いします」
俺達交互に自己紹介をしてから、同時に頭を下げた。少ししてから顔を上げると、未だに誰一人として反応する者がいない。俺の隣に立つシャルルも含まれている。
「ば、バナージ……か?」
皆よりいち早く声を出したのは、皆と同じ表情をしている織斑一夏だった。
「ああ。前に会ったバナージだ。これからよろしく」
「お、織斑君が二人……!?」
「生き別れた双子の兄弟かなっ!?」
「織斑君二人に挟まれる……凄くいい……」
「あの綺麗な髪の艶……美しい!」
「こ、これで今年の夏コミは私の物だっ!」
「……捗る!」
「やったね、織斑君! 男が増えたよ!」
「おいやめろ」
一夏の発言を皮切りに、女子生徒が喜びの末に狂乱した叫びが、鼓膜に鋭く突き刺さる。声の洪水が教室を満たした。ここまで騒がしいと、隣のクラスまで届いていそうだ。向こうのシャルが転入した時は、静かだった覚えがある。壁に防音処理でもしてあるのだろうか?
「ちなみに別世界から来ました」
『……………………』
バナージが素性を告白すると、教室が静まり返った。今度は耳鳴りがうるさい。
「織斑先生。証明としてISの武器を展開しても?」
「構わん」
「ありがとうございます。一夏、雪片弐型出せるか?」
「……あぁ、出せる……けど」
「俺に続いてくれ」
バナージが部分展開を行って腕と雪片弐型を取り出して、逆手に持ち替え雪片弐型の切っ先を床に向ける。
一夏が立ち上がり、バナージと同じように腕と雪片弐型を展開した。
「雪片弐型は白式の専用装備で、この世で二つも存在しない。証拠として弱いと思いますが、どうでしょう?」
雪片弐型を持つバナージの行動に、クラスの人達はひそひそと静かに騒ぐ。何を喋ってるか聞こえないが、内容は何となく察せる。
「本名も家族構成も一緒。つまり同一人物です。ですが、区別のために俺をバナージと呼んで下さい」
「あ、あの! 見分け方、とかは……?」
一人の生徒が手を上げて、バナージに質問した。他の生徒達も無言で首を縦に振っている。確かに双子ならほんのちょっとの違いがあるけど、同一人物なら判別はかなり難しい。というか、適応早いな。
「落ち着いている方が一夏で、落ち着いてない方がバナージ」
バナージが自分で答えた。何だその違い。個人的にはわかりやすいと思うけど、バナージを知らない人からすればかなりの難問だろう。今の所は。
「……他は?」
「髪が短い方が一夏で、長い方がバナージ」
「声の軽い方が織斑で、声の重い方がリンクスだ。慣れろ」
生徒達の様子に見兼ねたのか、織斑先生が支援してくれた。声の軽さと重さという表現が斬新だ。
「これでHRは終わりだ。この後は二組と合同でISの模擬戦を行う。各人速やかに着替えて来い。以上だ」
織斑先生が手を叩いて場を閉めた。これは遅刻出来ないな。する気も無いけど。
話が終わった後、一夏とバナージはISを解除した。
「リンクス、マーセナス、織斑。右も左もわからん転校生の世話をしてやれ」
『はい!』
「は、はい……!」
先に俺とバナージが返事をした。その後、一夏が少し遅れて返事する。
返事をし終わった一夏が、俺達の元に急いで近付いてきた。
「え、えっと……あの」
「色々気になるけど、話は後だ。まずは移動するぞ」
シャルルが戸惑いの声を上げたが、一夏がそれを遮る。言わせてあげて。
一夏がシャルルを引っ張って先に教室を出ていき、俺とバナージもクラスの皆に手を振りながら廊下に移動した。
先に教室を出た二人が走っているのが見えて、俺達も走り出す。本当なら廊下を走っちゃいけないんだが、今回は許されるだろう。何せ、今から外で授業を行うのに、クラスに残って女子生徒に対応していたら、確実に遅れる。初日から遅れるの嫌だ。
前を走る一夏とシャルルに追いつく。全速力じゃないから、追いつくのは容易だった。
「織斑一夏だ。同じ男同士、これからよろしくな」
「一夏だね。よろしく」
「俺がバナージ・リンクスだ。似てるけど別人だからな」
「うん、バナージ……だね。が、頑張って見分けるよ!」
「リディ・マーセナスだ。サポートは任せてくれ」
「リディ……少尉?」
「別に少尉と呼ばなくても構わんよ。好きなように呼べばいい」
「じゃあ、リディで」
「了解した」
「僕の事はシャルルでいいよ。色々と迷惑掛けちゃうと思うけど、これからよろしくね」
俺達は横一列に並んで、走りながら自己紹介を済ませた。
「いたぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
後ろから獲物を発見した女子生徒の叫ぶ声が聞こえた。
「目標を発見! 全軍突撃ィィィィィ!」
「やっぱりだ! 急ぐぞ!」
一夏がペースを上げたのを見て、俺達は更にペースを上げた。
「何か二人増えてる!?」
「見て見てあのブロンドの髪! 黒もいいけど、やっぱりブロンドだよね!」
「長くて綺麗な髪……でも、誰?」
「これこそが神の祝福!」
「私、今日は何もいらない!」
背後から重低音と振動が響いてくる。これは一種の波だ。これに飲まれてしまったら、きっと人生が終わる。そんな恐怖を抱かせる音。
「何が起こってるの?」
「見ての通りだ!」
「他の組や学年の生徒だよね? どうしたんだろう?」
「二人が世にも珍しい男だからだよ。男でISを動かした者は、織斑一夏とシャルル・デュノアの二人。俺とリディさんは除外」
シャルルの疑問に一夏が簡単に答えたが、理解出来ていなかったらしいので、バナージがわかりやすく説明した。シャルルは女だから、今の自分の立場に気付いてないのだろう。
「……あー! そうだねっ! 僕達、男だもんねっ!」
「当たり前だろ? 何言ってるんだ?」
「あはは……」
シャルルは笑って誤魔化した。今の俺とバナージはシャルルの性別を知っているから、シャルルの反応の理由がわかるけど、一夏にしてみれば訳がわからないだろう。
走りながら会話をしていると、更衣室が近付いてきた。速度を維持したまま中へと入る。
「ここまで来れば一安心。疲れてしにそう……」
「休んでる暇はないぞ、リディ……さん?」
「リディで構わない」
「じゃあ、リディ。とっとと着替えちゃおうぜ」
「へーい」
適当なロッカーを選んで制服を脱いでいく。そういえば、昨日風呂入ってないや。でも仕方無し。拠点を出る前に入っとけばよかったなぁ。
服を全て脱ぎ終わるとISスーツが露わになった。昨日からずっと着っぱなしだ。きちゃないけど、これも仕方無し。
「なぁ、三人共。ISスーツを着る時って引っかからないか?」
喋り掛けられたので一夏の方を見ると、穿き終わった下のISスーツを少し掴んでいる。どこ触ってんの。
「えっ!?」
シャルルの驚く声が聞こえたから、一夏を視界に入れたまま視線を横にズラすと、シャルルの顔が真っ赤になっていた。しかもまだ制服のままだ。あ、着替える所を見られたくないのか。
「競泳水着みたいなもんだから、仕方無いだろ」
バナージは既に着替えを終えていた。ISスーツが白になっていて、以前……というか目の前にいる一夏のスーツと違って、へそが出てない。色合いは箒とおそろで、形は俺とおそろのスーツになっている。こいついっつも新調してるな。
「確かにそうだけど、もう少し改良してほしい所だ……って、あれ? シャルルはまだ着替えてないのか?」
「うぇっ!? あ、いや、着替えるよ! うん!」
「んじゃ、着替え終わった俺達は外で待ってるから。なるべく早めにね」
俺はバナージと共に外へと向かう。
「え? シャルルを待たないのか?」
「多分シャルルは人目があると着替えにくいのよ。俺も同じタイプ。今回は下に着てたから大丈夫だったけどね」
「何でだ? 男同士だから別に平気だろ?」
「ふむ……一夏は全裸で街中を歩ける?」
「全裸は無理だ」
「何故?」
「何故って……犯罪じゃないか」
「もし犯罪じゃなかったら?」
「……特別な理由があれば、恥ずかしくてもやると思う」
「そう、その恥ずかしいってやつだ。それが今のシャルルに該当するんだよ。人数に関わらず、同性でもね」
「そういう物なのか……?」
「納得しにくいなら別の例えを出そう。自分の裸が見知らぬ誰か、不特定多数の人間に盗撮されてました。どう思う?」
「……恥ずかしいな」
「その感情だ。忘れるなよ?」
人差し指で一夏の胸をトントンと、軽めに二回叩く。なかなか手強いな。まぁ、同性の仲間が出来てきっと飢え……嬉しいのだろう。一夏はバナージと違って、今まで一人だった訳だし。洒落にならんレベルで可哀想。
「んじゃ、また後でな。シャルル」
「うん、またね」
シャルルに手を振られて、俺達三人は外へと移動した。
「さてさて、今日は模擬戦らしいがどうやるんだろうか?」
「今日も二対二のチーム戦らしいぞ」
俺が何となく零した言葉を、一夏が拾い上げた。
「へぇ、二対二か。俺達の方はまだだから、進んでるねぇ」
確か二人組の戦闘訓練は大分先だと、楯無さんから聞いた覚えがある。
「先月に無人機騒動があったの覚えてるか? そのせいで今月末の学年別トーナメントが個人からタッグに変わった」
「マジかよ。すっげー尾を引いてるやん……」
あれ? これってもしかして、俺達のせいだったりしちゃう感じ? ごめんなさい。ほんの出来心だったんです。許して下さい。
「まぁ、俺達も自主訓練で四対四の勝負はしたけどね。へっへー」
「四対四? それだけ人数が多いなら、連携とか難しくなかったか?」
「いや、俺達のチームは簡単だったぞ。作戦の立案はリディさん。でも負けた」
「どんな感じに?」
「リディさんがいの一番にエネルギー切れ。そこから順番に各個撃破されたよ」
「え? バナージじゃなくて?」
「射撃戦だったからな。それでもエネルギーの消費が激しかったけど」
「何をしてエネルギーが切れたんだ?」
「俺にビットがあるじゃん? 出力を最大にして全問照射してたら、エネルギーがゼロになって敗北よ。情けなさすぎィ」
「それはそれは……ご愁傷様」
「これはご丁寧に……痛み入る」
「遅れてごめんね! 終わったよ!」
俺と一夏が手を合わせて頭を下げあっていると、シャルルがISスーツに着替え終わって出てきた。前からちょっと思ってたんだけど、そのスーツ凄いよな。だって胸が平らになっちまうんだもん。
「これで揃ったな。走るぞ」
一夏に言われて俺達は走り出す。既に結構な人数が集まっている頃だろう。
走って数分、一組と二組の生徒達がクラス別で縦に整列してるのが見えた。横じゃないんだ。
「リディさん。こっちこっち」
「あー……悪い悪い。あっはっは」
三人から離れて二組に足が向いていた俺を、バナージが引き留めてくれた。
一夏、シャルル、バナージ、俺という順番で列に並んだ。
「そういえば俺って一組だったね。面子が変わんないから、思わずいつもの列に並びそうになっちゃったよ」
「ん? どういう事だ?」
バナージと俺のやり取りに、一夏が反応して首を傾げた。シャルルも首を傾げている。
「いやね、俺って元の世界じゃ二組に所属しててさ。だから癖で、向こうに行きそうになったって事」
「へー、リディは二組なのか」
「不幸な事に、な。女神がいるから救われたよ、本当にね」
理由を一夏とシャルルに聞かせる。二人は俺の話に頷く。
「え? 増えてる?」
「誰あの二人?」
「男が四人……いいね!」
会話をやめると、後ろにいる二組の生徒が騒いでいるのに気付く。
「三人共注目の的だな。これは黛先輩が黙っちゃいない」
「黛さんって、確か新聞部の副部長さんだっけ?」
「うん。バナージも取材されたか?」
「されたな。根掘り葉掘りと聞かれたよ。マスコミはもううんざりだ……」
「同感。人の事を騒ぎ立てても、少し前までただの学生だったから、何も出てこないのに……」
『はぁ……』
二人が疲労に満ちた溜め息を吐いた。どちらも大変そうだ。
「全員揃ったな。これより学年別トーナメントに向けての実習を開始する。リンクス、マーセナス。前に出ろ」
織斑先生が生徒全員を見渡せる位置に立って、俺とバナージを呼んだ。いきなりですか。
クラスメイトに声を掛けて、退いてもらいながら俺達は織斑先生の前に到着。
「お前達の実力が知りたい。見せてくれるな?」
「はい。俺とリディさんが戦えばいいんですか?」
バナージが尋ねた直後、背後から悲鳴が聞こえて衝突音が鳴った。微かな地響きから、何かが地面に激突したという事を察する。
俺は振り返ってどういう状況か把握した。ISを装着した山田先生が操作を誤り、整列していた生徒達の場所に落ちたみたいだ。逃げた生徒達が小さいクレーターを見て、キャーキャーと声を上げている。怪我人は出ていないが、これから怪我人が出そうな雰囲気。
山田先生の上に覆い被さっている一夏が、その手で胸を掴んでいるからだ。わお。これがもしリトさんなら、ISスーツの中に手を突っ込んで直に触っていた。
「あんな事になっているが、山田先生がお前達の相手だ」
「相手が誰なのかわかりましたが、あのまま放っておいて大丈夫ですか?」
「事態は自然と収束する。それまで待ってろ」
「織斑先生がそう言うのなら」
もしかして、織斑先生って放任主義なのだろうか?
何が起こったのか理解していない一夏が、状況を確認するために体を起こす。山田先生に跨がり胸に手を置いたまま。あっ、気付いたのに二回揉んだ。何故揉んだし。
一発のレーザーが一夏の真横を通り過ぎていった。セシリアさんが一夏に向かって銃を突き付ける。鈴も二振りの双天牙月を、連結させて突き付けていた。なぁにこれぇ。
「そういえば、ISの形態が昨日のままなんですけど」
「そのままで構わん。ついでに別のデータが取れるからな」
「わかりました」
バナージが頷き、一夏達に視線を戻す。さっきから俺喋ってないや。
山田先生が一夏を守りながら、鈴とセシリアさんの攻撃を捌く。操作をミスした人とは思えないほど凄い。一夏を片手で抱いて自分の胸に押し付けてるから、かっこいいとは言い難いけど。
鈴とセシリアさんの二人を一回ダウンさせた所で、山田先生が自分の状況に気付いた。顔を赤らめながら一夏を突き飛ばす。さっきから一夏が振り回されっぱなしだ。近々しにそう。
突き飛ばした事に対して、山田先生が何度も頭を下げて謝っている。地面に突っ伏した一夏が、大丈夫だと手を振った。
最後に一謝りして、山田先生がISを解除してから俺達の方へと走ってくる。
「すいません! すいません! 私のミスで!」
山田先生が織斑先生に向かって謝りながら、頭を何度も下げた。
「織斑先生。お耳をちょっと」
「何だ?」
バナージが織斑先生に耳打ちをして、何かを吹き込んでいる。この場面だと……まさか、あのセリフを織斑先生に言わせる気か?
「どうです?」
「悪くない」
耳打ちが終わり、織斑先生はニヤリ笑った。あら、いい笑顔。
「山田先生」
「は、はい! 何でしょう……?」
怒られるのではないかと山田先生はビクビクして、織斑先生の言葉を待つ。
「過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ」
言わせちゃったよー。
「あ……あっ、ありがとうございますっ!」
これで織斑先生の評価が鰻登りだな。
「さて、予定を変更する。元気が有り余っているようだからな。凰、オルコット! 前に来い」
織斑先生に呼ばれた二人は、ISを纏ったまま前に出てきた。
「前に出た四人で二対二の戦闘を行ってもらう」
「ちょっ!? 待って下さい! それってもしかして、あたしがセシリアと組むって事ですかっ!?」
「わたくしは鈴さんと組みたくありません!」
「それはあたしのセリフ! あんたみたいな粗撃手はこっちがお断りよ!」
「何ですって!? 戦略と戦術も備わっていない脳筋のくせに!」
「何よ! やろうっての!?」
二人が顔を近付けガンを飛ばし合っている。こっちの二人は犬猿の仲なのか。見ていて愉快じゃないな。別に不愉快でも無いが。こういう関係もありえたんだなぁ……と、純粋な感想を抱く。
「静かにしろ馬鹿共!」
織斑先生が一喝して二人の頭に拳を落とす。
「ったぁ~……」
「うぅ~……」
二人は涙目になりながら、殴られた頭を押さえる。
「リンクス、マーセナス。ISを起動しろ。今の内に伸せ」
『はい!』
二人を軸にして俺達は移動を開始。
「ユニコーン!」
「バンシィ!」
織斑先生や生徒達から離れた位置でISを起動させて纏う。
「あれがバナージ君とリディ少尉のIS……」
「綺麗な黒と白……」
「闇に輝く純白!」
「光を拒む漆黒!」
「混ぜたら灰色!」
ユニコーンとバンシィの姿を見た生徒が、思い思いの感想を呟き始めた。それより何故混ぜたし。
「悪いけど、終わらせる!」
雪片弐型を構えたユニコーンが、喧嘩している最中の二人に接近して、零落白夜を順番に叩き込んだ。
「いやぁっ!?」
「きゃあっ!?」
命中した結果、二人のISはシールドにダメージを受けてISが自動的に解除された。俺達は悪くねぇ! 織斑先生がやれって言ったんだ! 手を出してない俺だけは絶対に悪くねぇ!
「ちょっと!? いきなり何すんのよ!? 卑怯でしょ!」
「そうですわ! 横から割って入るだなんて、信じられませんわ!」
二人が文句を言いながらバナージに詰め寄っていく。俺はバナージの前に移動して、庇うように立った。
「邪魔なんだけど!?」
「邪魔しに参った」
腕を組んで言い放つ。いやだって、バナージに非は一つも無いし。
「リンクス、マーセナス。よくやった」
『ありがとうございます!』
いつの間にか俺達の傍らにいた織斑先生が、褒めてくれたので会釈する。言われた通りの事をしただけだもん。授業を真面目に受けなかった自分達を恨んでほしい。
「オルコット、凰の二人はグラウンドを三十週走れ。教師の話を聞かなかった罰だ。授業の終わりまで走らされるよりはいいだろう。どうだ?」
「あ、ありがとうっ……ございますっ……」
「か、感謝しますっ……」
鈴とセシリアさんの笑顔が凄く引きつっている。怒りを吐き出したいが、先生に向かっては無理なので溜めているのだろう。
二人が走って俺達の脇を通る時に、ボソッと呟く。
(後で覚えておきなさいよっ!)
(この屈辱は忘れませんっ!)
逆恨みの言葉を。あーあ……目を付けられちゃった。これは早くも僕らの学園生活は終了を迎えますね。
「戻るぞ」
指示に従い、織斑先生の後ろをついていき、先ほどまで立っていた場所に戻ってきた。
「これよりツーマンセルの実習を行う。一組二組は問わない。出席番号で奇数の者は私の前に並べ。偶数は山田先生の前だ」
どうやら、これからが本当の授業の始まりらしい。よし、気合いを入れるぞ!