IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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三話

 授業を終えてお昼になり、一夏が箒とセシリアさんと鈴の三人に昼食を誘われていたのを目撃。その後、お前達も一緒にどうだと一夏に誘われたが、丁重にお断りをしておく。それ、俺ら三人が行っちゃアカンやつや。

 俺達三人が行かないなら俺も行かないと一夏がゴネたので、仕方無く同行する事になって、屋上へとやってきた。学食行きてぇなぁ。

 

「で、これは?」

 座って弁当を広げている箒が眉間に皺を寄せ、俺達……というより一夏一人に問う。セシリアさんと鈴も弁当を用意しながら頷いている。やだ、やっぱり帰りたい。

 

「皆で食った方が、食事って美味くなるだろ? だから三人にも来てもらった」

 

「こんな所にいられるか! 俺は食堂に行かせてもらう!」

 使い古されたネタを使い、俺が屋上を去ろうとすると一夏に手を掴まれた。

 

「待つんだ、リディ! 遠慮せず一緒に食べようぜ!」

 

「阿呆! 遠慮ちゃうわ! 三人が作ってくれた弁当だけで、足りる訳ないだろ!」

 例えこの場に残っても、嫌な視線を向けられても、絶対的に量が足らない。この場には合計七人もいる。三人の弁当は多く見積もって四人前。人数に対して弁当の数が明らかに少ない。それなら皆食堂に行くしかないじゃないっ!

 

「それは全く考えてなかった」

 

「それに、だ! 彼女達は料理上手な一夏に味見をしてもらいたいんだ! でしょう?」

 俺は勢いに任せて三人に同意を求めると、三人はこくこくと大きく頷く。いよし! 読みが当たった。

 

「なら、バナージも料理が上手だから参考になるだろ? 俺と同じだって、バナージ自身から前に聞いたぞ」

 

「えっ」

 唐突に巻き込まれたバナージが、声を短く上げる。そうはい神崎!

 

「違うな、間違っているぞ! 俺とバナージは彼女達の弁当の件を知らなかった。彼女達も俺とバナージとシャルルの事を知らなかった。それはつまり! 一夏のみを想定して作った弁当って事なんだよ! バナージが一夏と同じ味覚を持っているなら、二人も必要無い! もしバナージが違う味覚だったとしても、欲しいのは一夏の評価だ! だから、お前一人が食うべき!」

 力説すると一夏とシャルルを除いた四人から拍手を貰った。シャルルは状況がよくわかってないらしい。転校初日だから、理解出来ないのも仕方無し。

 

「そんな訳で、俺達三人は今から食堂に行く。食べ終わったらまたここに戻るから、待っててくれよ。生徒に捕まったら悪い」

 

「……わかった。なるべく早く来てくれ。待ってるからな……」

 一夏は悲痛な面持ちで俺の手を離した。見捨てられた子犬みたいな雰囲気を漂わせるとか、どんだけ男に飢えてるんだ。でも運命は一夏を一人にしたいらしいから、仕方無いね。

 

「善処する。あ、この場合は考えるだけという意味じゃないからな? 俺達転校生だから、そこの所を勘違いすんなよ?」

 シャルルとバナージの手を掴んで屋上の扉に向かう。

 

「じゃ、また後でなー」

 俺は最後に言い残してから、屋上から屋内へと移動する。扉を潜る直前、俺達の方を向いた箒、鈴、セシリアさんから親指を立てた礼を頂いた。一夏から仕草が見えない位置だったから、意図がバレる事はまず無いだろう。

 廊下に出ると女子生徒が出歩いているのを、ちらほらと見掛ける。時間帯的に移動中みたいだ。食堂かそれとも違うクラスの友人と共に、食事を取るのだろう。真相はわからんが。

 二人から手を離して、食堂に向かう。話し掛けてくる女子生徒は皆無だ。お昼だから、空腹を満たすのが先決なんだろう。助かります。

 

「僕には何が何だかわからないから、よければさっきの事を説明してほしいな」

 

「弁当の量を見たっしょ? あれを皆で分けたら、中途半端な腹の状態で午後の授業を過ごす事になる。初日は疲れるから、食事はしっかり食っとくべき」

 疑問符を浮かべているシャルルに、別の説明を行う。きっと数日中に、一夏達の関係に気付けるはずだ。

 

「確かにあれじゃ少なかったね。リディの言う通りかな」

 

「まぁ、食堂に行ってもゆっくり落ち着いて食えそうにないけどな」

 

「それってバナージと一夏が話してた新聞部の取材?」

 

「うん。後は生徒達からの質問攻め」

 

「そっか。男の子って大変なんだね」

 

「女子校だからな」

 シャルルがちょっとボロを出したが、俺はスルーしておく。事情を知るこちら側は、シャルルの性別を積極的にバラすつもりは無い。

 

「食堂に向かいながら、ついでに学園内を案内しよう。早めに慣れておいて損は無い。シャルルも俺や一夏、リディさんに頼ってばかりじゃ心苦しいだろ?」

 

「うん。なら、二人共案内よろしくね」

 

「何だかんだで先輩の俺とリディさんに任せとけ」

 そんな訳で俺とバナージは、食堂に向かいつつシャルルに案内を始めた。

 

 

 多少の時間を費やして食堂に到着。やはり空席は無い。

 

「ひゃー、見事に混んでるねぇ」

 

「これは待たないと無理そうだな」

 

「いつもこんな感じなの?」

 

「これがいつもの光景よ。生徒の数は一学年に百二十人前後。三学年合わせれば約三百六十人。当然その分食堂は広いけど、これで混まない方がおかしい。待つのが面倒なら、弁当を持参した方が快適だよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 シャルルは食堂をきょろきょろと見回しながら、俺の話に相槌を打つ。

 迷惑にならない場所を陣取って、俺達は席が空くのを待った。時折女子生徒が話掛けようと近付いてくるが、何故か肩を落として去っていく。遠慮無く話し掛けてもええんやで?

 

「はいはーい! 新聞部でーす! 今や学園中の話題を謎の転校生達が独占! そんなスクープを独占しに来たよー!」

 突然現れた人物はそう告げる。この人が黛って人か。脚色捏造何でもござれって感じだ。適切に迂闊な発言をしなくても、適当に過度な発言に書き換えられてしまうだろう。ドン千かな?

 

「あ、新聞部副部長で整備課のエース、二年の黛薫子さんだ」

 

「えっ!? な、何で私の事を知ってるのっ!? 初対面なのに……まさかストーカー……?」

 バナージの先制攻撃が決まり、先ほどの威勢はどこへやらの黛さんが顔色を青くして引いた。いきなり気勢を削いだな。

 

「あれ? 聞いてませんか? 俺と俺の隣にいるリディさんは別世界出身って」

 

「……は?」

 

「俺の顔を見て一言下さい」

 

「え? えっと、髪が伸びて雰囲気がちょっと違う織斑君……?」

 

「おー、正解です」

 黛さんの答えにバナージが拍手を送った。遊んでるのが見え見えだ。でも新聞部を手玉にするのって、なかなかできることじゃないよ。

 

「元の世界で俺と黛さんは何回か会ってるから、基本的な情報を知ってるだけです。向こうとここじゃ大きな違いはありませんからね。それが通用しただけです」

 

「何だ……スリーサイズや体重を知られて、脅されるかと思った……ふぅ……」

 黛さんは安堵の溜め息を漏らす。脅迫という単語が新聞部の発想っぽい。脅して何の利益が発生するんだろうか。そもそも弱味にはならないと思う。言い触らされたら嬉しくはないだろうけど。

 

「いや、俺彼女いるんで他の女性に興味無いです」

 周囲で聞き耳を立てていた生徒達が、ガタッと立ち上がる。やはり他の人達も、話の内容が気になっていたようだ。

 

「彼女!? そこの所を詳しく!」

 ボイスレコーダーを刺突しそうな勢いで、バナージに突き付ける。新聞部にとっては、ある意味凶器だから対象者に突き刺しても別に間違っちゃいない。

 

「おぉ、食い付いてきましたね。でも、ちょっとだけですよ?」

 

「是非!」

 

「そうですね……彼女は普段元気一杯で忙しないですけど、時折落ち着いた時とのギャップが凄くて、ふとした瞬間に見せる笑顔がお淑やかで魅力的ですね。ありのままの全てが可愛いから、二人っきりじゃなくてもついその場で抱きしめたくなって困ります。それが目下の悩みです」

 

「……惚気?」

 

「いや、情報ですよ」

 

「私はそういうのが聞きたいんじゃないんだけどなぁ」

 

「名前はオードリー・バーンです」

 

「オードリー? もしかして外国の人?」

 

「いえ、純粋な日本人ですよ。俺がバナージ・リンクスと名乗れば、彼女はオードリーになるんです」

 

「俺がリディ・マーセナスなら、彼女はミネバ・ラオ・ザビになります」

 俺はバナージを援護射撃。楽しいぃぃぃぃぃ! ミネバァァァァァ! 闇堕ちしちゃうぅぅぅぅぅ! バナァァァジ!

 

「……どういう事?」

 

「そういう事です」

 新聞部の取材を煙に巻くの超楽しい。いやぁ、別世界ならではのカードですね。

 

「……では、リディ君は彼女いるの?」

 黛さんが話の矛先を俺に変えてきた。バナージの取材を続けていても、埒が明かないと判断したんだろう。この状況で楯無さんがここに来たらやべぇな。面倒な事になりそう。

 

「いないです」

 

「好きな人は?」

 

「いないです」

 

「気になる人は?」

 

「いないです」

 

「はぁ……」

 俺が同じ回答を繰り返すと、黛さんは露骨に落胆してから溜め息を吐いた。立ち上がっていた周囲の生徒達も座り直して食事を再開。興味を引く情報が出なくなり、熱が冷めたのだろう。温かい料理と某ファーストフードのポテトだけは冷やしちゃダメだぞ。

 

「……じゃあ、好きな異性のタイプは?」

 

「好きになった人がタイプです」

 

「……ホモ?」

 周囲の生徒が再び音を発てて立ち上がる。ホモが嫌いな女子はいませんってか? じゃあ、百合が嫌いな男子はいないよっ!

 

「何故そこでホモが出てくるんですか。ホモじゃないです。まぁ、同性なら遠慮無く抱きつきますけど」

 

「それならホモでしょう?」

 

「許可さえ頂ければ、黛さんも抱きしめますよ?」

 

「それをフレームに収めるのが私の役目だから、そういうのはいらないかな」

 

「それは残念で――――」

 肩を竦めてから、俺は黛さんに笑いかけようとした。

 

「――――あうちっ!?」

 出来ませんでした。理由は俺の視界外から、何かがぶつかってきたからだ。痛みは全く無いが、衝撃自体は結構大きめで、思わず一歩後退する。

 黛さんから視線を外して自身の体を見ると、俺の体を強く抱きしめるIS学園の制服を着た者が一人。誰かから抱きしめられている関係上、相手の顔が見えない。だけど、匂いでわかった。いつも一緒にいたから覚えている。

 

「よう、簪。その様子だとそれなりに元気みたいだな」

 

「鐘が鳴りシンデレラは去って、白雪姫は眠る」

 

「うん?」

 お互いこれが久々の会話だが、何故か受け答えが成立してない。俺は首を傾げた。そして疑問と同時に何か嫌な予感を察知。見える!

 

「だから、私が……」

 

「私が?」

 

「目覚めさせる」

 簪は俺の体から離れると、自然と見つめ合う形になった。ミツメアーウトー。

 次に簪は両手で俺の顔を優しく包んでから、目を閉じて顔を近付ける。素直じゃねぇか!

 

「待てい!」

 俺は咄嗟に掌で簪の唇を塞ぐ。ナイスファインセーブ!

 

「その行動から会えて嬉しいのは伝わってくるけど、これ以上の踏み込みはご遠慮下さい。死んでしまいます」

 

「ふぁんねん」

 簪の両手が離れるのを確認してから、俺も手を退けた。手を戻した時に、掌が若干スースーする。もしかして塞いでる間に舐められた?

 少し視線をズラすと黛さんがカメラを構えており、シャッターチャンスを狙っているのに気付く。

 

『ちっ』

 

「新聞部や他の人達に、特上の餌を与える行為はやめようねー」

 視線を再び簪に向けながら、頭を撫でる。この撫で心地は懐かしい。

 

「ちなみに、二人はどういったご関係で?」

 黛さんがカメラからメモ帳に切り替えてから、俺達の関係を尋ねてきた。

 尋ねてきたタイミングで、遠くの方で食事を終えた生徒が席を立つのが見えた。これでようやく昼飯が食える。つまり、黛さんとはここでおさらばという事だ。

 

「すいません。席が空いたので今回はこれで失礼します」

 

「あ、うん。取材の協力に感謝……は、私好みの答えが返ってこないから出来ないかな。お礼にある事ない事書いとくね」

 

「じゃあ、今後の取材は残念ながら協力出来ませんね。それ取材の意味無いですもん。いやぁ、残念ですわー」

 

「いや! 嘘! 冗談だから! 今後共よろしく! それじゃまたね!」

 黛さんは必死に否定してから足早に去っていった。早いな、おい。記者は足が命的な?

 

「バナージはシャルルをお願い。俺と簪は席を確保しておく」

 

「了解。そっちは任せた。メニューは何がいい?」

 

「あー、メニューは日替わり定食で。簪は?」

 

「私は、とろろ蕎麦で」

 

「日替わりにとろろ蕎麦な。わかった。んじゃ、行くぞシャルル」

 

「うん」

 バナージはシャルルは連れていき、俺と簪は並んで空いた席へと向かう。移動しているからか、先ほどより強い好奇な視線を間近に感じるが、元から覚悟はしていたから別に何とも無い。簪が来た事によって倍プッシュだけど、それでも大丈夫だ。俺も少しは成長したという事だろうか? そうだったら嬉しいな。

 

「改めて久しぶり。元気にしてたか?」

 

「うん、大丈夫。でも、急にいなくなったから驚いた」

 

「まぁ、そうだろうな。突然で悪かった。ごめんな、簪」

 隣を歩く簪の頭に手を置き、謝罪の意味を込めて優しく髪を撫でた。

 

「ううん。最初に夕が言ってたのをちゃんと覚えてたから。それにこうしてまた会えた。だからチャラ」

 

「そっか。ありがとう」

 俺がお礼を言うと簪が腕を絡めてきた。それと同時に指も絡めてくる。恋人同士でも、ここまで密着する事はまず無いだろう。いや、詳しく知らんけど。少なくとも街中で見掛けるカップルは、腕を抱くか手を繋ぐかのどちらか片方だけなのは確か。

 

「近い近い近い」

 

「夕に会えたのが嬉しくって、つい」

 そう言って簪は、俺を見上げながら嬉しそうにはにかむ。ハニカムううううう!

 

「こうやって、一緒に並んで歩ける日が来ると思ってなかった。まるで夢を見てるみたい」

 

「ところがぎっちょん…………夢じゃありません…………!」

 

「うん、夢じゃない。ちゃんと温かい」

 簪が笑顔のまま俺の腕を強く抱きしめ、絡め合った指を強く握った。正直この状態は、思っていたより無茶苦茶恥ずかしい。これは全くの想定外だ。

 

「簪ちゃんが……っ! メスの顔をしている……っ!」

 ある意味最悪なタイミングで、一人で席に座って顔が赤い楯無さんと出会った。どうやら簪の姿を見て興奮しているらしい。本当に何というタイミング。あと少しで席に着くのに。

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「ハロー、簪ちゃんにリディ少尉。お取り込み中?」

 

「そう、見える?」

 ここで完全に足が止まってしまった。動こうにも簪が腕をホールドしているので、無理矢理引きずる訳にはいかない。せっかく空いた席なのに、また席が埋まっちゃうよ。だからなるべく早めに済ませてね。

 

「それはもう食後のデザートが喉を通らないぐらいには」

 

「バイバイ」

 

「ちょちょちょちょちょ! ちょっと、話はまだ途中!」

 

「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に食べる?」

 

「何を? リディ少尉?」

 そこでナチュラルに俺を出す時点で、楯無さんの思考が染まっているのが見て取れる。やっぱ変態やな! 状況を見ると俺も変態っぽくなるが、自ら望んだ訳じゃないのでノーカン。嬉しいけど。

 

「バイバイ」

 

「待って!」

 楯無さんが座っていた席から接近してきて、ガッと腕を掴んだ。俺の空いてる腕を。

 

「ナズェオレノテヲツカムンディス」

 

「何か、寂しそうだったから?」

 

「それより、楯無さんの席ボックスやんけ。そこガラガラですやん。もしかしてお一人様でっか? 相席してもよろしいどす?」

 

「大丈夫……でありんす」

 

「なかなか苦しいでありんすね」

 

「そうでありんしょうか」

 

「二人が何を言ってるのかわからない……」

 

「つまり、一緒に座らせてもらえるって事。他に二人いるんですけど大丈夫ですか?」

 

「二人増えても余裕で座れる。さぁさぁ、こちらへおいでませ」

 楯無さんに掴まれたままの腕を引っ張られて、俺は抵抗せずに従う。抵抗しないという事は、自然と腕を抱かれる形になった。いやいや、抱く必要は無いから。引っ張るだけでいいんだよ。

 案内通りに席へと座り、ようやく一息つける。少しだけだが。二人が腕を離さないから少しだけ。

 

「はなせ! はなせ!」

 

「口振りの割に体は正直なのね。振り解こうと手を動かさないんだもの」

 

「乱暴に動かせる訳ないですよ。肘が当たったりして痛みを与えたくありませんから」

 

「既に当たってるんだけど?」

 

「抱き込むからです」

 

「胸に」

 

「抱き込むからでしょう。それより食事を続けて下さい。料理が冷めますよ」

 

「仕方無いわねー」

 柔らかく圧迫されていた腕を解放して、楯無さんは食事を再開する。

 

「これでいい?」

 

「はい」

 

「お姉ちゃん、いつもより楽しそう」

 簪が楯無さんの様子を口に出した。そうなの? 個人的にいつもと感じが変わらない気がする。よく知らないけど。

 

「リディ少尉やバナージ君との会話は、私にとって貴重な栄養源よ。皆このノリに付き合ってくれないんだもの」

 

「無理矢理持ち込むお姉ちゃんが悪い」

「出荷よー」

 

「そんなー」

 俺は簪と楯無さんの会話を静かに聞きながら、バナージとシャルルを待った。

 

 

 バナージとシャルルが料理を運んできたので、頼んだ料理を受け取る。これから食事をする前に、シャルルに簪と楯無さんの紹介を済ませた。その後、俺達は食べ終わっていた楯無さんを抜きで食事を始める。

 

「あーん」

 

「ニンジンいらないよ」

 日替わり定食のメニューの一つ、きんぴらごぼうのニンジンを摘まんで、俺の口元に突き付けてくる簪に言った。

 

「好き嫌いは、めっ」

 

「お姉ちゃんも簪ちゃんにめっ、てされたい……」

 

「いや、別に嫌いじゃないから。とあるパイロットを真似ただけだから。それより自分の蕎麦を食え。伸びるぞ」

 

「蕎麦は硬くなるけど、伸びはしない。あーん」

 

「お姉ちゃんも簪ちゃんにあーんされたい……」

 

「も、もしかしてリディと簪って……付き合ってるの?」

 俺と簪のやり取りに、シャルルは顔を赤らめながら尋ねてきた。

 

「いや、付き合ってないけど」

 

「そ、そうなの? 堂々としてるし、てっきり恋人同士なのかと……」

 

「違います」

 

「うん」

 

「簪ちゃん……」

 ちょっとした一幕もありながら、食事を進めた。

 

 

 食べ終えた俺達は楯無さんと食堂で別れて、まだ時間に余裕があるから一夏が待つ屋上に、俺達四人は向かった。先ほどと同じように簪が俺の腕を抱きながら。お陰で道中、視線が痛いほど刺さってきた。でも、俺自身は色々と気にならないので、簪の好き放題にさせている。お詫びも含んでいるからだ。せめてその日まで一緒にいてあげたい。

 屋上に到着すると、そこには想像を絶する光景があった。四人が地面に伏している。

 

「どういう……ことだ……」

 この光景を目の当たりにしたバナージは、迫真の声音で呟いた。

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