IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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七話

 ラウラが転校してきた初日の放課後。俺とバナージと簪の三人は、簪が予約しておいたアリーナにいた。簪のIS打鉄弐式の荷電粒子砲が、ビームマグナムのデータを使用して、つい先ほど完成した。そして実際に見せてもらい、再現度が高かったと俺とバナージは驚く。天才って凄いわ。

 

「ありがとう、夕。あなたのお陰で無事に完成した。まだまだ未調整の部分もあるけど、本当にありがとう」

 ISを解除した簪からいきなり抱きしめられた。

 

「いやいや、こっちこそありがとう。簪に助けてもらったから、俺は問題無く過ごせている。心身共に健康だ」

 感謝の気持ちを込めて、俺は包み込むように簪を優しく抱きしめ返す。

 

「うん」

 

「お取り込み中の所悪いけど、せっかくだから炭酸しようぜ!」

 横にいるバナージから声が掛かり、俺と簪は首を向ける。

 

「……あぁ、模擬戦か。俺は構わないぞ。簪はどうだ?」

 

「私も大丈夫」

 簪と俺は体を離して、バナージと向かい合う。

 

「でも、三人だと個人戦もチーム戦も中途半端だよな。三つ巴?」

 

「三つ巴なら、互いに狙う相手を最初に決めないか? 例えば、俺がバナージを狙って、バナージは簪を狙い、簪は俺を狙う。こんな感じにさ」

 

「おお、それは結構いい案だな」

 

「うん、変則的で面白そう。じゃあ、それプラス射撃オンリーがいいと思う。格闘戦になると、ぐだぐだになりそうだから」

 

「あー、確かに。三人でこの形式だと輪になっちゃうもんな。犬なら自分の尻尾を追い掛けても可愛いけどね」

 

『確かに』

 バナージと簪は俺を見て頷いた。いや、俺がやっても全然可愛くないだろ。人間なんだぞ。耳と尻尾があればワンチャン……無いな。あ、今自然と上手い事言った。

 

「その前に二人のISが一回見たいな。四組まで話が伝わってたから、気になって」

 

「そうなのか。俺は構わんよ。な?」

 

「おう。俺も簪からの感想は是非欲しい」

 バナージと意見が一致した俺は、簪との距離を少し空けてISを起動。

 

「バンシィ!」

「ユゥニコォォォォォォン!!」

 何故この何でも無い場面でセリフを消費しちゃうのか、気になりながらも全身が光に包まれて、一瞬の内に装甲を全身に纏った。装甲、武装、システムに異常無し。いつでも戦える状態だ。

 

「これが本当のバンシィだ。かっこいいだろ?」

 

「こうしてみると、貴婦人と一角獣のタピスリーに似てる気がするなぁ」

 

「え?」

 背後から聞こえた声に反応して振り向くと、一夏とシャルルがISスーツ姿で立っていた。ハイパーセンサー仕事しろ……というより、俺の注意力が働いてないだけ。

 

「簪が真ん中で、左にリディのバンシィ、右にバナージのユニコーン。うん、やっぱりそうだ」

 

「ちょっと待って。それって貴婦人と一角獣の事だよな? 俺、バンシィが獅子って言った?」

 

「何も聞いてないよ。ただ、頭の角が獅子の鬣に似てる気がして、そうなんじゃないかなって」

 NT-Dを発動してないのに、ほぼ初見で見抜くとかニュータイプかよ。ああ、なるほど。納得だ。子供はみんなニュータイプじゃなく、女性はみんなニュータイプって事なのか。なるほどね。女の勘が鋭い理由が判明した。そうなると、世の女性達が凄くヤバい事態になってしまう。

 NT-Dというのは、ニュータイプ・ドライブの略称。でも、真の意味はニュータイプ・デストロイヤーとなっている。ニュータイプ・デストロイヤーは、ニュータイプを抹殺するために作られたシステムだ。似て非なるEXAM(エグザム)は省く。

 女性がニュータイプであるならば、NT-Dで女性をデストロイしてしまう。だが、直接のデストロイは問題がありありなので、束さんはISという女性にしか扱えない兵器の方を滅ぼすため、男でISを扱える俺達にこの機体を送ったのかも知れない。あれ? 何かズレてね?

 やべーな。この真相に辿り着いた俺は、近々消される可能性が出てきてしまった。君のような勘のいいガキは嫌いだよって。ヤメロー! シニタクナーイ!

 

「……え? 鹿かトナカイの角、鶏とか雉の鶏冠のどれかだと思ってた……」

 一夏は自身の思い違いにショックを受けていた。一見した限りだと確かに見えるが、俺も間違われてた事にショックだわ。いや、何も説明してないから仕方無いんだけどさ。

 

「それよりね。たった今、シャルルの発言で気付いちゃったんだけどさ……」

 

「急にどうしたんだ? リディさん」

 

「ねぇ、バナージ。NT-Dってさ、ニュータイプ・デストロイヤーだよね?」

 

「そうだけど。それが?」

 

「え? 何その物騒な単語」

 一夏が反応して口を出してきた。

 

「一夏、しず蟹にしてくれ。今は真面目な話をしているんだ」

 

「あ、うん。悪かった」

 

「で、ユニコーンとバンシィにはNT-Dが搭載されている。ここで俺はシャルルのお陰で気付いた事があった」

 ここではシャルルの性別が男となっているので、そこに触れない方向で話を進めていこう。

 

「女性ってさ、大体勘がいいじゃん?」

 性別の話をしたら、シャルルの肩が微かに跳ねた。あ、ごめん。そういう事じゃないんだ。本当にごめんよ。

 

「そうだな。隠し事が見透かされてるような時がある。一夏は?」

 

「どうしてあんなに鋭いのか、俺も時々疑問に思う」

 

「そこで結論として、女性は皆勘が鋭い。そこで次へ移ろう。バナージ君、君はニュータイプがどんな人種か知っているかね?」

 何か、話し方を変えると声のイメージが、リディさんからフロンタル大佐になった気分になる。実際はいつもと変わらぬ地声のままなんだが。

 

「ニュータイプは、宇宙に進出した人々が見せた可能性……ですよね? 時代や人の解釈で違った捉え方もありますけど」

 

「ああ。諸説あるが、概ねその通りの認識だと私も考えている。では、次に進もう。ニュータイプとは、一体どんな事が可能なのだろうか?」

 

「えっと、人と人が誤解無く分かり合う力を持っている」

 ちょっと待って! 話がズレてきたぞ。これでは女性=ニュータイプという話に持っていけないじゃないか!

 

「時に、その力は戦いに利用され、人殺しの道具へと用いられてしまう。誠に遺憾ながらね。そこで問おう。何故、ニュータイプを戦争の道具として扱うのか」

 

「並み外れた直感に洞察力があるから?」

 

「そう、動物的直感に空間認識力。つまりニュータイプを有り体に表現するならば、常人より遥かに勘がいい人間という事だ」

 よしよし、この調子だ。

 

「だから女性はニュータイプとなる」

 

「え?」

 

「女性はニュータイプなんだよ」

 

「ちょっと待って下さい。結局、あなたは何が言いたいんです?」

 

「私が伝えたいのは、女性は人並み外れた勘を有する人。女性は皆ニュータイプだと、今からたった数分前に気付いたのだ」

 ミッションコンプリート! ここまでやれば、そう簡単に軌道を修正出来ないはずだ。

 

「それが何なんです?」

 

「では、女性がニュータイプという話は、ひとまず置いておこう」

 俺は楽しいけど、バナージと簪を除いた二人が、つまらなさそうにしながら首を傾げている。待たれよ。もうちょっとの辛抱じゃ。

 

「ユニコーンとバンシィには、NT-D……ニュータイプ・デストロイヤーが備わっている。この意味が君にわかるかな?」

 

「………………まさかっ!?」

 

「私の言いたい事がわかるだろうか?」

 

「女性がニュータイプなら、俺達はNT-Dでニュータイプを殺してしまうって事ですかっ!?」

 殺すという言葉に、一夏とシャルルの表情が強張った。でぇじょうぶだ。ISで人をころころするなんて、色々と不可能だから。後、これ演技ね。

 

「そうだ。この機体は、そのために作られたのだよ。前々からおかしいと感じていた何かが、今ようやく理解出来た。何故、ユニコーンだったのか。目的が復興であるなら、別の機体でも問題は無いはずだ。主役級のガンダムタイプはいくらでもいるのだから」

 

「言われてみれば……」

 

「ま、大体の理由はバナージ繋がりなんですけどね。主に声。白の反対は?」

 

「黒?」

 

「ユニコーンと対になる機体は?」

 

「二号機のバンシィ」

 フェネクスは装甲の色が金なので除く。バイバイ、不死鳥。

 

「……そのNT-Dってやつが、女を殺すって話は本当なのか?」

 会話や場の雰囲気を真に受けたのか、一夏は真剣な目つきで確認してきた。

 

「いやいや、冗談だから。そもそも女性がニュータイプな訳ないじゃん。ニュータイプだったら、今頃世界の全てが女性の物になってるよ。今よりもっとね」

 シロッコが喜びそうな世界だ。

 

「何だ、嘘なのか……」

 

「はい」

 緊張していたのか、一夏は地面に転がって息を深く吐いた。嘘を嘘と見抜けない云々。変な演技力があった可能性も、無きにしも非ず。

 

「んで、簪。さっきの続きだけど、どうよ?」

 

「バンシィもユニコーンも凄くかっこいい。主役級って感じがする」

 

「そうかそうか。そう言ってもらえて嬉しいよ」

 自分のかっこいいと思うセンスを、簪に肯定されて嬉しくないはずがない。

 

「所で、二人はどうしたんだ? 何か用でも?」

 

「バナージ達がアリーナにいるって聞いたから、色々と見てもらいたくて」

 バナージが二人に聞くと、一夏は起き上がって理由の説明を始めた。

 

「箒達にISの使い方を教わってるんだけど、感覚だけだったり計算尽くしでわかりづらくて。バナージも雪片弐型を持ってるから、一番適切だと思ってな」

 

「俺だってまだまだだから、教えられる事は何も無いぞ?」

 

「お願いします! 何でもいいので、教えて下さい!」

 一夏は場の空気を読まず唐突に土下座して、頼み込んできた。何故こんなにも必死なんだろう。

 

「教える事は特に無いけど、訓練に混ざるぐらいなら。いいか、簪?」

 

「うん」

 

「ありがとうございます!」

 

「どうして一夏はそんなに必死なん? 何か目標でもあるの?」

 

「あるけど、それを目指すには箒とかでは……」

 俺は理由を聞いてみたが、この場に名を出された本人達はいないのに、一夏は目を逸らして言い淀む。非常に言いにくそうにしている。

 

「感覚とか計算とか言ってたけど、それが理由かね?」

 

「あぁ……」

 言いづらそうに頷いた。

 

「……教え方ってそれなりに色々あるだろ? 三人共言ってる事が自分の基準で、どう見ても教える気がさっぱりなんだよ」

 

「ふむ、例えば?」

 

「一つ目はズバッ、ザッ。二つ目は体を右に十三度傾ける。三つ目は直感に頼れ。な?」

 一夏を除いた俺達四人は察した。一つ目はざっくりしすぎ。二つ目は細かすぎ。三つ目は論外。なぁにこれ。内容が天才の領域すぎるでしょ。素人に理解させる配慮が全く出来ていない。感覚や計算尽くめで動くから、具体的な事はあまり言えないのかも知れない。三人は指導者として、他人に教える事に関して確実に向いてない事がわかる。

 

「ひっでぇ……」

 俺の呟きに三人は首を縦に振った。

 

「教えてくれようとしてるのはありがたいだけど、それでももうちょっとこう……」

 

「皆まで言うな。今日からその日まで俺達が付き合うぞ」

 

「バナージの言う通り、俺も手伝う」

 

「私も手伝う」

 

「僕も手伝うよ。不憫だし」

 

「皆……!」

 感極まったのか、一夏は目に涙を浮かべた。泣くほど嬉しいのか。

 

「じゃ、俺達で一夏に教えよう!」

 

『おー!』

 俺達四人は拳を天に向かって挙げた。

 

 

 まずは一夏とバナージが一対一で模擬戦を行う事になった。まずは一夏がどう動くのか、実際に目にしないとわからないから、動きを知るためにだ。

 俺は一旦ISを解除して、地面に座って見学だ。隣にシャルルも座っている。簪は俺の太ももに頭を乗せて、横向の体勢だ。ISスーツと、綺麗な肌が汚れちゃうぞ。

 

「一夏は正眼か?」

 

「ああ、これが一番しっくりくる」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 二人は雪片弐型を中段で構えた。ISの形は違えど、構え方が同じだ。

 

「んじゃ、行くぞ!」

 

「お願いします!」

 やり取りがまるで兄弟みたいだ。同一人物だし、ある意味間違っちゃいない。前にも言った気がするな、これ。

 

「はぁっ!」

 バナージは地面をしっかり踏みしめてから、一夏へと真っ直ぐに突っ込む。

 雪片弐型を大きく振りかぶったバナージに対し、一夏は雪片弐型を横にして受け止めようと待ち構える。

 防御の姿勢になった一夏を見たまま、バナージは雪片弐型を振り下ろす。

 雪片弐型同士がぶつかり合い、金属音が響き火花が散る。

 

「くぅっ!」

 互いに押し込もうと、鍔迫り合いをしたまま睨み合い、バナージは片足を上げて一夏を蹴っ飛ばした。いつの間にか俺の足癖が移ったみたいだ。

 

「っこの!」

 一夏はバランスを崩しながら後退して、転ばないように踏ん張る。

 その隙を逃さず、バナージは追うように接近。体を屈めて居合いの構えをした。

 両手で雪片弐型をしっかり握ったまま、一夏も同じ姿勢で待ち受ける。

 間合いに入った瞬間、バナージは居合いからの逆袈裟を繰り出し、一夏がそれを薙ぎ払う。

 一夏は水平に振り抜くと、刃が接触してバナージは振り抜けずに雪片弐型の軌道が変化した。

 バナージの雪片弐型での攻撃を払われたが、打ち上がった勢いを利用して逆手に持ち替える。

 零落白夜を発動させてから、一夏の首近くで雪片弐型を止めた。

 正確に言えば勝負では無いが、これはバナージの勝ちだろう。一夏が負けた原因は、横に大きく振りすぎた事だと思う。バナージはこの先を予測していたから、可能な限り力を抜いていたため柔軟な対応が出来た。

 

「自分の敗因が何かわかるか?」

 零落白夜を解除したバナージは、一夏の首を狙っていた雪片弐型を退かした。

 

「……多分、力が入りすぎていた?」

 

「大体当たりだ。力みすぎで大振りだから、振った後の隙が大きい。力を抜いて切り返していれば、俺はそれを防いで勝負はまだ続いていたぞ。時間はまだあるから、もう一回やるか?」

 

「ああ、もう一回やらせてくれ。次は気を付ける」

 

「よし、来い!」

 二人は元の位置についてから構え、再び雪片弐型で切り結ぶ。

 一夏は手首を返して逆へと振り抜くと、雪片弐型が明後日の方向に飛んでいった。飛距離を出す競技かな?

 

『……………………』

 変な沈黙が空間を支配した。

 

「さっきより動きの硬さが無くなったけど、今度は逆に抜きすぎだ。手や腕じゃなく小指だけに力を入れて柄を握る。OK?」

 

「……それはわかってる……けど、悪い」

 頭を下げて謝りながら、一夏は雪片弐型を回収しに行った。

 

「緊張してるのか?」

 戻ってきた一夏に、疑問を持ったバナージは尋ねる。

 

「何て言うかその……バナージと向き合うと、焦ってくるというか……」

 

「別に小難しい事は考えなくていいんだぞ? 今はただ自身の判断に任せて、剣を振るえばいい」

 

「……わかった。もう一度頼む」

 

「了解」

 三度目の戦闘が開始された。先ほどより攻防が長く続いたが、勝者は変わらずバナージだ。

 

「結構よくなってきてるぞ。長引いてるのがその証拠だ」

 

「ちょっとの時間だけど、久々に充実してるって感じたよ。俺が求めていたのはこれなんだって」

 

「それは何より。次に進もうと思うけど、体力は残ってるか?」

 

「まだまだ大丈夫だ! ガンガン頼む!」

 活力に満ち溢れている返事をして、一夏はやる気があるとアピール。同性のライバルがいないからか、ここぞとばかりにがっついている。欲望が足りててイイネ!

 

「剣の振り合いの次は、射撃を回避する訓練にしよう」

 

「どんと来い!」

 座っていた俺達は立ち上がり、各々ISを起動させる。

 

「ちなみにだが、雪片弐型と零落白夜は防御にだって使えるんだぞ。まずは手本を見せよう。リディさん、頼む」

 

「あいよ」

 ビットを一つだけ呼び出し、バナージに向けて一発撃った。

 ビームが飛んでいき、バナージは冷静に零落白夜で切り払うと、零落白夜の性質によってビームは掻き消された。

 

『おー!』

 

「こんな感じに。まぁ、実戦向けじゃなくて魅せ技だけど。切れるぐらいなら普通に避けられるって事だからな」

 一夏とシャルルが揃って声を上げてから、バナージは一応解説した。この動きは、俺が自身のビットを使ってキラさんごっこしていたら、バナージが真似して出来るようになったのだ。当然、ミヒロ少尉は習得済み。しかもエネルギー系だけに留まらず、実弾まで防いじゃうんだからブリュンヒルデは凄い。

 

「さて、次は俺達が射撃で一夏を狙うから、当たらないように目的地まで進め。目的地はアリーナの端っこに俺の雪片弐型を刺しておくからそこだ。やれるか?」

 

「俺達って事は四人が相手なんだろ? いきなりハードルが高すぎじゃないか?」

 

「確かに高いけど、それが出来なきゃ相手に一太刀浴びせるのは難しいぞ。それに俺達側も全力じゃない。全力ならリディさん一人で済むから加減はしてある」

 

「はぁ……やるだけやってみるよ……」

 俺達四人が相手とわかって、一夏は既に諦めかけている。これが出来れば、大体の相手は伸しやすくなるんだから頑張れ。

 

 

 数分で準備は完了した。一夏が目指すのは、アリーナの端に突き刺さっているバナージの雪片弐型だ。スタート地点はその反対側。

 

『準備は出来たか?』

 

『大丈夫だ。気が進まないけど……』

 通信でバナージの問いに、一夏は弱々しく答えた。数分前の威勢はどこへやら。

 

『念のため、もう一回ルールを確認するぞ。一夏が被弾してエネルギーが尽きたら俺達の勝ち。目的地に辿り着いたら一夏の勝ち。俺達はその場から一切動かずに射撃。一夏は零落白夜の使用あり。何か質問は?』

 

『無いから始めてくれ』

 

『了解。三人も準備はいいか?』

 

『おう』

『うん』

『いつでもいいよ』

 それぞれ別の言葉で返した。

 

『んじゃ、始めるぞ! スタートだ!』

 バナージはスターターピストルの代わりに、ビームマグナムを天に向かって放った。アリーナのバリアが割れないようにフィールド張っているから、撃っても問題は無い。

 空に浮いていた一夏が動き始め、俺達はそれぞれの武器を持って迎撃を開始する。

 俺はビームマグナム、リボルビング・ランチャー、アームド・アーマーBS。バナージはビームマグナム、リゼルライフル。簪は速射荷電粒子砲の春雷二門、八連装ミサイルポッドの山嵐。シャルルは手心を加えて、五五口径アサルトライフルのヴェント一丁のみ。ヤシャシーン。

 まずは俺がビームマグナムとアームド・アーマーBSの射撃で進路を塞ぐが、ビームマグナムの太いビームを一夏は難なく横に避けた。

 

『うわぁっ!? 何だこれっ!?』

 だが、一夏はアームド・アーマーBSによる無軌道の攻撃に驚愕して、急に方向転換するが片足に掠るようにヒット。損傷は軽微だろう。

 続いてバナージが参加して、ビームマグナムとリゼルライフルの二種類のビーム攻撃が追加された。リゼルライフルの連射と照射を交互に切り替える。

 

『くっ!』

 ビームの雨の中、一夏は零落白夜を振るってリゼルライフルの攻撃だけを防いでいく。リゼルライフルはギリギリ防げる攻撃だと、この短時間で見抜いたみたいだ。

 

『あの観察眼羨ましいィィィィィッ!!』

 俺は叫びながら、瞬光式徹甲榴弾やポップミサイルを混ぜた。

 

『リディさん、うるさいぞ!』

 

『うるせぇ! 戦いの中で成長しやがって! 成長すんじゃねぇよ! 俺が勝てなくなるだろっ!』

 

『無茶言うな……ってぇっ……!』

 小物なセリフで叫んでいると、一夏から返事がきた。いや、別に返答は求めてないんで。

 一向に前へと進めず、一夏は同じエリアをうろうろと逃げ回っている。苦しめー、もっと苦しめー。

 憎しみを込めては一夏に向かって吐き出し、込めては空に流し込む。単純な作業を繰り返す。

 時折攻撃を切り払っていた白式が突然急加速して弾幕を潜り、次のエリアに到達した。あれは瞬時加速(イグニッション・ブースト)か。一気に限界速度へ到達する俺のバンシィには縁の無い技術だ。いや、もしかしたら常時瞬時加速が行われているのかも知れない。その割にはエネルギーの消費はそんなに無いけど。

 新しいエリアへとようやく進めた一夏は、シャルルと簪の攻撃が加わったのを見て、顔を強張らせた。

 

『げっ!?』

 絶え間ないビームに実弾が混ざり始め、ヴェントと荷電粒子砲が追加された事で、弾幕は更に厚くなって苛烈さを増す。

 途絶える事を知らない射撃は、一夏を徐々に追い詰めていき、苦しめた。

 零落白夜をがむしゃらに振って一部の攻撃を無効化するが、一夏のささやかな抵抗は虚しく、攻撃の密度が上がりどんどん被弾していく。足を止めている訳じゃ無く、動き回っているが限界は近い。

 

『降参だ! これ以上は続けられそうに無い!』

 

『そうか。お疲れー』

 射撃を止め、回避訓練は終わりを告げた。俺なら攻撃をNT-Dで振り切るが、装備やNT-Dが使用不可なら一夏と同様で多分無理だ。他の三人なら完遂しそう。

 一夏は地上へと降り立ち、俺と簪とシャルルは近付くが、バナージは雪片弐型を取りに向かった。

 

「あれって……本当に避けられるのか……?」

 息を切らせながら、一夏は問う。

 

「僕が見た感じだと、抜け道が少しはあったから不可能じゃないと思う。難しいのは確かだけど」

 

「全然そんな風には見えなかったぞ……」

 一夏はISを身に着けたまま、地面に大の字で寝っ転がった。横になるの好きなの?

 話をしていると、雪片弐型をバトンのように振り回しているバナージが戻ってきた。これも俺が教えた魅せ技だ。

 

「今日はこのぐらいにしておくか?」

 バナージは喋りながら、雪片弐型を器用に操作している。危ないからやめろォ。

 

「いや、まだまだやれる。次は別のを頼む」

 

「おー、やる気だねぇ」

 

「こんな機会は滅多に無かったんだ。今やらないでいつやる――――」

 

『――今でしょ!』

 俺とバナージの声がハモった。つい、条件反射で言いたくなったんだよ。

 

「そんな訳で、またよろしく」

 

「んじゃ、次は大会に向けての連携訓練といくか。一夏は誰と組みたい?」

 

「俺が選ぶのかよ。皆がどんなタイプか知らないから何も言えん」

 バナージは四人の中で選ばせようと、一夏に酷な選択を尋ねた。

 

「なら、ここで大会のペアを決めちゃおうか。早く決めておいた方が、練習も捗るだろ」

 

「おお、いいねいいね。じゃ、俺は簪と組むから」

 

「え……」

 バナージはフリーズして雪片弐型を落とした。

 

「バナージとはいつでも組めるからな」

 これが最後になるかも知れないから、俺は簪と組みたい。

 

「簪は嫌か?」

 

「ううん、そんな事無い。私も組みたかった」

 

「よっしゃ。ワンペア成立だ。一夏はシャルルがいいんじゃない? 同じ部屋だし、日頃から意識しておけば大会には間に合うよ」

 

「確かに、リディの言う事も一理ある。俺と組んでくれるか?」

 

「うん、いいよ。よろしくね」

 

「おう、頑張ろうな」

 

「俺は……?」

 ツーペアが決まって、一人取り残されたバナージ。

 

「ラウラと組んだら? あの様子じゃ絶対フリーだから」

 

「んー…………知らない訳じゃないし、そうするか……」

 

「今朝叩いてきた相手だろ? バナージはいいのか?」

 

「俺の席が一夏より後ろなら、ラウラの狙い通りに一夏がやられてた。些細な勘違いだからノーカン」

 

「逞しいな」

 

「二度目だからな」

 

「二度目?」

 

「それより、今からちょっとラウラの所に行ってくる。早めに行動しておいて損は無いからな。カードもあるし」

 意味深な事を呟いたバナージは、話を切り上げようとISを解除した。

 

「頑張れよ」

 

「おう。じゃーなー」

 俺が励ますと、バナージは返事をして走って去っていった。

 

「さてさて、人数的に二対二になったけどやるかね?」

 

「そうだね。ぴったりだし、僕も一夏の動き方を間近で見ておきたいかな」

 

「なら、まずは作戦タイムを設けよう。二人共、それでいいか?」

 

「わかった。向こうに行こう、一夏」

 

「おう」

 シャルルと一夏は、ここから少し離れた位置で話し合いを始めた。

 

「簪、こっちについてきてくれ」

 

「うん、わかった」

 簪を連れて一夏達から離れた場所で、作戦を話し合う。

 

「俺が機動力で攪乱するから、簪は相手の隙を突いてほしい」

 

「うん。私が山嵐を使用したら、夕は追い掛けて追撃をお願い」

 

「了解。今の所はこんなもんか。他に何かあるか?」

 

「……出来る限り被弾を防ぎたいから、シールドを一つ借りてもいい?」

 

「いいぞ。一つと言わず二つ持ってけ。片方を攻撃に回せて、もう片方は防御に使えるからな」

 

「うん。じゃあ、ありがたく借りるね」

 シールドファンネルを三つ呼び出し、ロックを解除してから二つ渡す。

 

「壊しちゃったらごめんね」

 

「別に気を遣わなくても構わんよ。破壊を気にして勝負に負けたら本末転倒だからさ。それに今なら直せるから大丈夫だ」

 

「わかった。でも、なるべく壊さないようにする」

 

「はいはい、わかったわかった。気を付けてね」

 即席の作戦会議としては、これで十分だろう。ここから大会の開催期間まで余裕があるから、現時点で粗があろうと今後詰めていけばいい。

 

『こっちは終わったぞ。そっちは?』

 通信を入れて、二人に尋ねる。まだ時間が掛かりそうなら、俺は簪と更に話し合うつもりだ。

 

『こっちもOKだ。いつでも始められるぜ』

 

『わかった。合図はこっちでやる』

 

『任せた』

 お互いに向き合って、俺は武装を取り出す。アームド・アーマーDEを背中に、シールドファンネルを左腕に、ビームマグナムを右手で握る。射撃戦が主になるだろうから、簪は無手だ。

 一夏は雪片弐型のみで、シャルルは六二口径連装ショットガンのレイン・オブ・サタディを二丁。近接戦狙いか?

 

『よーい、スタート!』

 ビームマグナムを天に向けて撃った。連携訓練の始まりだ。

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