IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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八話

 毎日何事も無く普通の授業を受けて、アリーナが使える時に各々連携の練習。そんな日々を送っていると、あっという間に土曜日となった。やはり時の流れは早い。

 俺と簪の連携は、順調というより既に万全と言っていいだろう。お互いにどういう機体で、どういった思考で行動をするのかを、知り尽くしているからだ。それでも可能な限り、大会当日を迎えても万全の状態を保つ必要がある。怪我や体調を崩さないように注意しておこう。

 一夏とシャルルは前より仲良くなった。同時に戦闘での連携も慣れてきた感じだ。今までシャルルが一夏のフォローをしていたが、一夏もシャルルの動きを気にするようになって、シャルル側の負担が減少傾向にある。このまま調子が右肩上がりだと、大会の開催日までにかなりの練度になっているだろう。

 そして最後はバナージだ。俺がラウラと組めと提案したものの、教官以外には全方位に敵を作る態度をしていて、組めるのは当分先だと俺は思っていた。が、案を出した次の日から共に行動を始める。ラウラの態度自体は狂犬みたいにツンツンしていて、仕方無くって感じだ。

 俺も周囲の人達もどうやって組めたのかと首を傾げて、方法は何かとバナージに聞いてみたが秘密だと言って教えてくれなかった。そりゃそうだ。親しい仲とはいえ、一から十まで教える必要は無い。相手から話す時を待とう。

 

 現在、大会に向けて複数あるアリーナの全てを解放中であり、予約しなくても誰でも好きに使えるようになっている。お陰で人がわんさかいて、観客席がそこそこ埋まる程度な状況だ。男の俺達が使用するアリーナは特に多い。ワッショーイ!

 そして今、俺と簪は昼食後の休憩としてアリーナの観客席に座っている。休憩が終わり次第すぐ練習出来るようにISスーツでだ。お陰で粘着質な視線が複数、俺の体に向けられている。面倒くさがらずに制服着とけばよかったと後悔中。俺達の世界とダンチだわ。

 嫌な視線に耐えながら辺りを見回すと、ISを身に纏う一夏とシャルルの二人が、フィールドの端っこで何かを話しているのを発見。ここからでは話の内容は聞こえないが、一夏が銃を構えている様子からして、シャルルが銃に関する事を教えているみたいだ。多分。

 このアリーナにいる他の生徒達も、遠巻きに二人に視線を向けているが、極一部の集団から腐臭を感じる。あれが世界一臭いと言われるシュールストレミングかな? でも残念。あれは男と男装女子という至って普通なカップリングだ。いや、男装の部分は普通じゃないな。

 

「簪。あそこにいる一夏の顔見てみ」

 俺は指を差して簪に、一夏達の居場所を指し示す。

 

「……笑ってる?」

 

「俺もそう見える。シャルルの教え方が一夏に合ってるんだろうな。理解出来るから笑って出来る。もしかしたら、一夏は違った意味で笑ってるのかも知れんがね」

 

「夕はどうだったの?」

 

「俺か? 楽しかったよ。皆優しく教えてくれたからね」

 

「へぇ……それはあたし達が厳しいって事?」

 会話に突然入ってきたのは鈴の声だった。俺は振り返って後ろを見ると、ISスーツ姿の鈴と箒とセシリアさんの三人が不満そうな表情をしている。何だかんだで君達仲良いよね。

 

「実際に厳しいか知らんけど、わかりにくいのは確か。一夏で理解出来ないなら俺は絶対に無理。俺が無理でも一夏なら出来る」

 

「どの道あんたじゃ何もわからないって事ね」

 

「まぁね。ただ、相手のレベルに合わせるのも重要だぞ」

 

「具体的には?」

 俺の意見に反発してくると思ったが、違ったらしい。印象を改めるべきだな。正直当たり散らすと思っていた。ごめんなさい。

 

「言葉だけじゃなくて実演すればいいんだよ。何故そこでその行動なのか、その行動をした理由は何かって。例えば、攻撃が来たから右に避ける。じゃあ、何で右に避けるの? 右手に武器を持っているから。みたいな感じでさ。この例えに理があるか知らんけど」

 

「……つまり、口頭だけで全てを教えようとしたのが間違いって事か?」

 話を聞いていた箒が口を開いた。

 

「うん。勉強だってノートに書きながら覚えるでしょ? それと一緒」

 

「これは全くの盲点でしたわね……」

 セシリアさんが頬に手を当てて呟く。この人達はマジで口だけで説明してたのか。簡単な問題でも見落とす事もあるから仕方無いね。

 

「後は君らが一斉にじゃなく、一人ずつ順番に教えるだけ。現国と英語を同時進行で教わっても頭に入らんでしょ?」

 

「入る」

「入るぞ」

「入るわよ」

「入りますわ」

 三人だけかと思ったら簪まで頷いた。こいつら化け物かよ。

 

「ま、まぁ……普通の人は無理なの。だから当番制にしよう。一人が十五分教えたら五分休憩で次の人、といった感じに」

 

「当番制……そういえば最近小耳に挟んだのですが、リディさんが一夏さんのペアを決めたって話……お二人はご存知かしら?」

 話題を急に変えたセシリアさんが、笑顔になりながら横を向いて箒と鈴に尋ねる。あ、怒ってますわ。

 

「犯人はお前か……!」

「あんたが……!」

 二人が俺を睨んできた。おお、こわいこわい。てめぇらなんかこわかねぇ!

 

「もしもだけど、この中で一人一夏と組む事になったら隣にいるために争うだろ? 感謝しろとは言わんが、いい落とし所だと考えてよ。逆に考えてみて。一夏と組めば大変と」

 ハブられた二人は一夏と組んだ相手じゃなくて、何故か一夏が責められそうだ。そんな事態を引き起こすなら、同性となっているシャルルの方が一夏も楽なはずだ。

 

「そもそも三人は一夏の看守でもやってんの? なら、たまには釈放してあげなよ。君達と仲が良いとはいえ、一夏にとってここは四六時中異性に囲まれたアルカトラズなんだぞ? 知らず知らずの内に小さな疲労が少しずつ積み重なって、その果てに一夏がぶっ倒れたらどうするん?」

 

「そ、それは……」

 三人は怒気を潜めて焦り出した。アイディアをありがとう、ラウラ! 帰ったら一緒にどこかへ遊びに行こう!

 

「んじゃ、立場を逆にして想像してみよう。とある理由で、君達三人は自分一人だけが男子校に放り込まれた。君達は美少女だ。美少女という事は可愛くて、そしてふつくしい。それは否が応にも学校中の男子の視線を、その身に全て集めてしまう事。しかもその学校、当日まで知らなかったが実は全寮制だった。おまけに二人部屋。でも、幼なじみの男子が私と同じ部屋だった。この空間は彼と私の二人きり。大好きなお風呂にゆっくり浸かりたくても今はシャワーのみ。次の日には全て夢であってほしいと、願って眠る。でも、一度目が覚めればすぐにここは地獄だと思い出して、涙が自然と零れる。現実逃避をしても、時間は待ってくれない。辛くて嫌になり全てを投げ出したくなっても、そう……彼がいる」

 語っている内にちょっとテンション上がってきた。気付けば近くにいた女子生徒達も、黙って俺の話を聞いている。話の内容が気になったんだろう。別に聞いても得する事は何一つ無いよ。

 

「彼は目覚めた私を見て柔らかく微笑む。大丈夫か? 辛かったら休んでいいんだぞ? 誰もお前を怒らない。私を気遣ってくれる優しい声に、優しい言葉。ううん、大丈夫だよ。私は彼の笑顔に応えるために、笑顔でそう返す。うん、彼がいるなら私は頑張れる。彼だけが唯一無二の救い。私の光。私の――――」

 男女を演じ分けるために声色を変えながら、次に進もうと言葉を重ねていく。

 

「――――あんたは結局何が言いたいのよ!?」

 鈴から頭をスパンと一発叩かれ、流れが途切れてしまった。加減してくれたらしく、痛みは全く無い。懐かしい痛みだ。

 

「話聞いててわからんのか。辛いって言ってんだよ」

 

「無駄に長いの! 要約しなさい!」

 

「だから一夏が辛いっつってんだろうが!」

 

「一夏のいの字も出てこなかったじゃない!」

 

「立場を逆にしてって、俺言ってますー!」

 

「なら、三行でまとめなさい!」

 

「一夏! 辛い! そっとしておこう!」

 

「放っておいてどうすんのよ! そこは助けるべきでしょうが!」

 

「エゴだよ、それは!」

 

「どこが!?」

 

「君は彼を見てるんじゃない! 彼に自分を見せたいだけだ! それを分かるんだよ、アムロ!」

 

「アムロって誰!?」

 

「そんな事はどうでもいい! いいから分かれよ!」

 懐かしいやり取りだ。小学校の頃に、こうやって鈴ちゃんとよく遊んでいた。今じゃ全く相手にしてくれない。もう……あの頃の僕達はいないんだね。

 この話が一夏に聞こえたりしてないか確認するため、鈴と向き合った状態からシャフ度で後ろに振り返った。

 そしたら一夏より前に出たシャルルと、ISを起動させているラウラが揉めているのを目撃。

 直後スピーカーから教師の怒鳴り声が聞こえ、二人に対して戦闘をやめるように呼び掛ける。確かにあれは訓練の雰囲気じゃなく、私闘といった感じで止めるべきだ。ストッパーのバナージはどこに行ったのだろう。トイレ?

 

 戦闘行動を中断したラウラはカタパルトへと向かって、そのまま奥に消えていった。最近隙あらばとラウラが一夏に突っかかる事が多い。よくわからないが、一夏に対して何か許せない物があるんだろう。何があったのか気になるけど、素直に話してくれなさそうだ。俺達側のラウラなら、揉め事なんて絶対に起こらなかった。怒った顔が全然想像出来ない。

 

「簡単に言えば、一夏に優しく接してやってくれって事だ。顔や微塵の素振りも見せないけど、一夏はきっとこの状況にストレスを抱えている。同性のバナージが言ってたから間違い無い。うんうん」

 

「……あんたはどうなの?」

 今度は俺の事に関して鈴が尋ねてきた。

 

「今じゃすっかりココアにソーダにクエン酸だよ。毎日がお泊まり会で凄く楽しいぞ? 皆と皆と過ごす日々を愛してるといっても過言じゃない!」

 本心から笑って見せると、顔を知らない数人の女子が頬を赤くしていた。臆面無く放った愛って言葉が恥ずかしかったのだろうか? この年頃じゃ言われ慣れてなさそうだもんな。元の世界じゃ皆照れていたが、そろそろ耐性が出来てきた頃だ。だから今の状況は新鮮な気分。

 

「ばっ……! 愛って、そんな軽々しくっ!」

 

「嘘偽りのない心が生み出し、溢れてしまった愛を叫んで何が悪い! 好意をダイレクトに伝えてこそ、相手に初めて気持ちが伝わるんや!」

 今の俺は、暗に気持ちを伝えろと三人の背中を押しているが、告白するまでの道のりは絶対険しいだろう。ならせめて、後々の一夏に対する接し方を改善してもらえるように仕向ける。これが現状でベストの選択なはずだ。

 

「相手を思いやってこその愛だよ! ケンシロウ、愛はいいぞー!」

 

「うるっさいわねっ!」

 鈴は顔を赤くしている。叫んでいるからなのか、恥ずかしいからなのか、それとも両方なのか判断が難しい。

 

「とにかくだ。この環境で優しさを見せれば、男は結構グッときますぞ!」

 

「……嘘じゃないわよね?」

 

「バファリンの半分が嫌いな奴なんていない。だが今は、シャルルがいるから我慢の時だ。ペアが解消されるその日まで、自分なりの想いを考えときなよ。あ、後もう一つ」

 

「……何?」

 

「怒りの矛先を間違えるなよ? 素直であるならば、絶対に起こらない問題だ」

 

「………………まぁ、一理あるし考えておくわ」

 少し沈黙が長かったけど、何とか納得してくれたみたいだ。聞き分けが悪い訳じゃないんだよね、この三人。ただ、自分本位が過ぎて押し付けになっているだけで。その気持ちを上手に抑えられれば、きっと一夏の良きパートナーとなるだろう。一夏が好意に気付くかは別の話だが。

 

「そろそろ行こうか、簪」

 

「わかった」

 先に立ち上がった俺は手を差し出すと、簪はその手を掴んで立ち上がる。

 

「それじゃ、俺達は向こうに移るから。何かあったらいつでも受け付けるぜよ。またなー」

 空いている手をひらひらと振って、簪と手を繋いだまま観客席を後にした。今までの自分の発言を振り返ると、凄い説教臭かったと気付く。もう少し他の言葉を選んだ方がよかったなと反省。

 観客席から外へ続く通路を歩き、突き当たりを右に曲がった瞬間に声を掛けられた。

 

「その年で教師の真似事か、マーセナス?」

 

「織斑先生。今の聞いてたんですか?」

 曲がった所に、スーツ姿の織斑先生が腕を組んだまま壁に寄りかかっていた。これは絵になるぐらいかっこいい。キャー、サイン下さい!

 

「アリーナを見回りをしていたら、偶然聞こえてな」

 

「そうですか。別にそんなつもりは無かったんですけどね。自分と似た立場の人間がいたから、つい」

 一夏に近い人間で原因を知っている俺は、このまま黙って見過ごす事が出来なかった。気付かない一夏にも多少問題はあるが、それにしてもだ。

 世話になったのに、はいさよなら後は知りませんは嫌だから、そのお礼も含めている。いつになるかわからないから、この巡ってきた機会を利用した。

 

「私は一教師として、一個人に肩入れは出来ないからな。でも、これで問題が少なくなるだろう」

 

「だといいんですけどねぇ」

 

「具体的に言えば、一つはISの無断展開」

 

「oh……」

 

「もう一つは学園の備品を破壊」

 

「うわぁ……」

 結構やらかしてるな、おい。これなら言っといてよかったと思う。

 

「問題の大半の原因が身内だと、更に気が重くなるぞ?」

 

「それは大変そうですね」

 

「教師だからな。だが、お前達の束がくれた泡盛が先生方に好評だ。これで幾分か当たりが柔らかくなった」

 気を抜いたのか、織斑先生の口元が少し緩んだ。普段笑わない人が笑うと素敵です。これがギャップか。

 

「分けたんですか?」

 

「あれだけの量を一人じゃ飲みきれん。貰い物だ。別に私の好きにしていいだろう?」

 

「いや、ダメとかじゃないです。黙っていれば独り占め出来たのにって思いまして」

 

「美味しい酒を共有するのは普通の事だと思うが?」

 

「確かにその通りです」

 織斑先生の言う事は何も間違ってない。寧ろ、同意出来る。

 

「さて、私はそろそろ見回りに戻る。勤務中だしな」

 壁から離れた織斑先生は、俺達に背を向けて片手を上げながら通路の奥へと歩いていった。

 

「行こう」

 俺達は織斑先生とは反対の方向へ歩き始めた。

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