IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

7 / 87
七話

 今日は学園に来て二日目。そしていい朝だ。ベッドから上半身だけ起こして、日差しで明るくなった、部屋の壁にかけてある時計を見た。六時か。いつ寝たんだっけ? うっ……頭が……。

 隣を見ると、会長さんは自分のベッドに寝ず、俺の隣に寝ていた。やはり来たか。定番かも知れないカッターシャツ姿で。はい。知ってた。

 ふと気付いた事がある。俺のファンネルちゃんどこ行ったの? とりあえず、会長を起こさないようにベッドから抜け出して、捲れた布団を会長にかけた。風邪引いたらダメだからね。普通の状況じゃないけど、普通の対応をしとく。いや、普通に考えたら普通じゃなかった。

 

 ベランダを見ると、壊れたまんまだった。夢だけど、夢じゃなかった! ちょとsYレならんしょこれ……。

 ファンネルを探すと、俺の布団の上に置いてあった。何故重みで気付かなかったし。俺の愛がまだ足りないのか。踏んづけたりしないよう、テーブルの下に置いておこう。

 そういえば、昨日はいつ寝たんだっけ? 服も着替えてないし、風呂入ってない。きちゃないな。ばっちいぜ。衛生面でよくない俺の隣に会長さんは寝るという事は、俺のオイニーがいいかほりだったり? それなら遺伝子的に相性いいのよ。お父さん臭い! 私の服と一緒に洗濯しないで! そんな娘さんの発言に傷付くでしょうが、大丈夫です。遺伝子が近いから臭いんです。あ、DNA検査はして下さい。

 

 そう、頭の中で一人ぶつぶつと呟く。精神安定のためだ。前の学校ならここまで弾けてない。ここでは俺が俺じゃなくなってしまう。おセンチの年頃ね。

 さぁ! よからぬ事を始めようじゃないか! 今からお風呂に入ろう! 部屋の邪魔にならない場所に置いてある、隅のダンボールから着替えを出して、タオルも静かに取り出す。

 あれ? このまま俺の他の着替えを出しとくと、会長さんがよからぬ事をしそう。残念ながら会長さんに対して、好感度と信頼度は低いです。まぁ、低いなら後は上がるだけだからね。実はマイナスになる可能性もあるがな。ハッハー。

 タオルと着替えを持って、脱衣所かと思って静かにドアを開くと、トイレだった。洋式でそこそこスペースがあり、ウォシュレット付き。トイレットペーパーを見ると、二重で香り付きのやつかな? トイレに芳香剤が置いてあるから、そっちの香りかもな。

 後、もう一つ確認。使用中のトイレットペーパーが三角になっていない、便座が閉まっている。うん、いいんじゃない? 便座を開ける派開けない派がいるけど、別にどっちでもマナー違反にはならない。ちなみにトイレットペーパーの三角折りの名前って、ファイヤーホールドだって。

 やーい! お前の家のトイレ! ファイヤーホールド! とか、お前の家のトイレファイヤーホールドにしちゃうぜ! なんだ、この嫌がらせにもならん嫌がらせは。

 

 おっと、そろそろ閉めよう。よくない事したな。さぁ、風呂だ風呂。後、二つ知らないドアがある。

 こっちだぽん! あ、ここもクローゼットや。会長さんの制服や私服がある。すぐに閉めた。こんな場面見られたら、絶対攻めてくる。ちょっとかーいちょー! 時間と場所を弁えなよー! アグレッシブも困るなぁ。ま、好意を向けられるのは悪くない。嫌いより好きな方が楽だから。

 

 扉がっ! 最後の扉がっ! こいつ、いっつも羅生門開いてんな。

 ついに脱衣所に入り、あるのは洗面台と洗濯機。ドラム式だぁ。家のはもみ洗いです。これって乾燥機付きの洗濯機かな? 干すの面倒だからね。女性なら絶対乾燥機あった方がいいよ。外に下着が干してあると、盗んでくる奴がいるからね。なら、男の下着を一緒に干して対策! いやいや、むだだから。ヤバい奴は興信所レベルだから……。 そういう仕事を選べよ、ストーカーの諸君。泣かせるより笑わせる方がいいだろう?

 

 さて、風呂を見よう。風呂場の扉を開いた。見事なシャワーだな。シャワーヘッドもいいやつなのだろうか。女性はこういう道具にも気を遣うからね。美肌の秘訣なの。そこまで知らんけど。

 あ、シャンプーとか忘れたわ。ここに置いてあるシャンプー類は、会長のだろう。使うとかなりヤバい。だから一旦、部屋に戻って持ってこよう。あ、今まで持っていた着替えは洗濯機の上に置く。ぬいぐるみのように抱いてたわ。

 会長が起きてないのを確認して、ささっと忍者みたいに行動。ヤリザ殿! そしてシャンプー類を脱衣所に持ってきた。さて、使ったらどうするか。風呂場に置きっぱなら、会長は使いそう。夕君の匂いがするって。多分、それはストーカー思考です。精神科医じゃないから正確な診断は無理ッスよ、沢渡さん!

 

 脱いだ服を余っている籠にシューッ! あ、これ会長のやつならどうしよう。匂いが付着するかも。篭持ってスンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎそう。こっわ。俺、会長にどんなイメージを抱いてるんだ……。ま、どっちでもいいよ、もうっ!

 そして俺はフル・フロンタルになった。つまり、風呂に入る時は男女関係なく、皆フル・フロンタルになる。どうせみんなフル・フロンタル。

 さっむ。やっぱり朝はまだ冷えちゃうな。風呂場に入って扉を閉めた。鍵がなかったら、会長さん入ってきそうだけど、鍵は閉められるようだ。まぁ、どうせ入ってきても水着だろ? 知ってる知ってる。

 シャワーを出して頭から体にかける。

 

「あっつ!」

 温度確認するのを忘れてたわ。HAHAHA! ついでに髪も縛ったままだった。俺の縛り方だと、そのまま仰向けに寝ても痛くないから気付きにくい。箒ちゃんはポニーテールだから絶対痛い。鈴ちゃんはツインテールだから横向きだと痛い。そのまま寝なければいいんだよ!

 

 

 

 

 風呂から出て、服を着てから髪を乾かすために、ドライヤーを勝手に借りてスイッチオン。自然乾燥だと頭皮に雑菌が繁殖しちゃうので注意。ははははは禿げちゃうわ! タオルで頭を覆って、その上からドライヤーが一番いいのだが、俺は好きじゃない。髪が長いから余計に時間がかかっちゃう。会長さんの長さなら、比較的すぐ乾く。

 

 

 物を片付けたり元に戻してから、ジャージを着て脱衣所を出る。そういえば、ここってレオパレスレベルの壁の薄さなら、シャワーに絶対気付くよね?

 俺はゆっくりと、リビングから会長が起きてないか覗く。起きてなかった。ふぅ……昨日よっぽど疲れたんだろうなぁ。うっ、また頭がペインペイン。

 そして隙間所じゃない風が入ってきた。湯冷めしちゃう。ので、私は携帯を持って廊下へと出た。

 

「あ、おはよう」

 

「おはようございます」

 朝早くから起きてる女子生徒一人に出会った。まだパジャマで、相手の学年やクラスが判別出来ないから、敬語で挨拶。初日に全てわかる訳ないだろ!

 

「いい匂いだね。お風呂上がり?」

 

「はい。昨日は初日だったので、汚い事にいつの間にか寝ちゃってました」

 この人との距離が、約二か、三メートル付近だから匂いが漂ったらしい。なんか探ろうとしてる? それは警戒し過ぎか。

 

「白雪君も大変だね」

 

「はい。覚える事や、やる事もあって忙しいです」

 彼女は優しく笑ってくれたので、俺も笑顔で返した。

 

「今からどこかに行くの?」

 

「はい。自販機に飲み物でも買おうかと」

 

「そっか。私は部屋に帰るね。頑張ってね!」

 彼女が手を振るから、俺もひらひらと振り返す。そうして彼女は去っていった。

 薄めの生地のパジャマで恥じらいがないとかちょっと心配。ここって無菌室かな? 俺が心配する事じゃないがね。

 廊下を歩いて自販機の前に辿り着き、マッカンを買って昨日と同じ所定の位置へ。これ超落ち着く。

 

 

 自販機の隙間で背中から入ってしゃがみ、壁に背を預けながらマッカンをゆっくり味わっている。

 すると、時間帯的に人が通って行く事が多くなった。

 挨拶されたら返し、相手が気付かなかったら自分から挨拶をした。隙間にいるんだ、ビビられる事も結構あった。しかし、皆さん無防備ですね。パジャマが可愛い。

 

「おぉ! おはよう。夕」

 箒が来た。袴姿だ。これから朝練だろうな。しかし、朝早めなのに元気な様子。

 

「はい。おはようございます」

 

「どうした? そんな狭い所に挟まって」

 そりゃ、疑問に思いますわな。

 

「落ち着くんだよ、こういう隙間」

 過去にクローゼットや押し入れの中で、生活する事が結構な頻度であった。

 

「そうか。さぁ、来い!」

 

「両腕広げてどうしたの?」

 

「何。ただのハグだ 」

 禿げてないって言ってんだろ! いいかげんにしろっ! うん。

 さて、急にどうしたんだろうか?

 

「いやいや、年頃の乙女がそんな簡単に、男を抱いちゃいかんよ」

 

「そうか……昔は皆で抱き合ったもんだ。あれから皆、成長してしまったんだな……」

 広げた手を下げて腕を組みながら、箒が急に過去の事を語り出した。あの時は子供だったからね。今はもう変わってしまった。

 

「だからヘイ! ヘイカモン!」

 

「どうしてそんなに抱きしめたいんだよ」

 箒はまた両腕を広げ始めた。今言った言葉はなんなの? 似合ってないよ、セイラさん。

 

「一夏は無理だが、お前になら出来る! だからハリーハリー!」

 広げた両腕を前に出し、両手をプロレスラーみたいなクイクイっと挑発的な動き。なんか、男らしい。

 

「そこまで言うなら……」

 自販機の間から出て、マッカンを零さないように、手でしっかり掴みながら、ゆっくりと箒に抱きついた。マッカンで袴を汚さないように慎重に。

 

「ああ……この感覚だ。この感触だ。懐かしいなぁ」

 箒がしみじみと呟く。確かに懐かしいな。もう、過去の出来事になってしまった。

 

「まぁ、何年も会ってないからね」

 箒がどこかに行っちゃって、それから何年も経ってしまった。でも、どこに行ったのかは、俺は自分から問わない。時が来たら、話してくれると思う。

 

「ありがとう。夕」

 突然お礼を言われた。そして俺の名前を呼ぶ。気持ちが込もっている言葉だ。そしてなんだか、くすぐったい。

 

「私は一夏と夕のおかげで、私と姉さん、父さんと母さん、皆の仲がよくなった」

 その頃は、箒の家庭内の空気がギスギスしていた。その光景は俺にとって、とても悲しかった。会話なんてものはなく、ただ義務を果たす必要最低限のやりとり。

 

「転校する時、私はすごく悲しかった。一夏に夕に千冬さんに会えない。姉さんもどこかに行ってしまった」

 これは当時、箒が感じた事なんだろう。俺達も悲しかった。

 

「けどな……それでも温かくて素晴らしい、たくさんの思い出を胸に抱き……お前達の思い出と共に生きてきた」

 それは嬉しい事だ。俺達の思い出が役に立てたなら、一夏もすごく喜ぶだろう。

 

「名前が変わったとはいえ、素性がバレた事が何度もあった。でも、どんな言葉がこようと、どんな事をされようと、私は自分を見失わずに済んだ」

 俺の背中に手を回し、両手で抱きしめる箒の力が、段々と強くなってきた。懐かしくて心地いい感触だ。

 

「だからこうして今、お前が教えてくれた方法で、たくさんの感謝を示しているんだ」

 これは俺達流の箒の恩返し。

 

「お前達がいてくれたから……今まで荒れずに、腐らずに、私は生きていけた」

 想いを吐露する箒は、きっと笑顔なんだろう。顔や表情は見えないけど、なんとなくわかる。

 

「お前達が好きだから、いつかまたどこかで会いたい。私はそう想って…………私の願いは叶ったよ」

 箒の一つ一つの言葉に、胸がいっぱいになってきた。視界が歪み体が震える。

 

「だから……ありがとうな、夕。大好きだ。愛してるぞ」

 箒の言葉には、温かな優しさが含まれている。それが心に沁みる。

 

 俺はその想いをしっかり受け取った。だが、必死に耐えていた涙が、我慢出来ずに溢れてしまった。

 

「っ……」

 すぐに返そうと思ったが、上手く言葉に出来ない。

 自分の涙が邪魔をして、言葉が詰まったから、何も言えなくなってしまった。

 でも、箒は自分の気持ちを俺に伝えてくれたんだ。だから……しっかりと言うんだ。箒にちゃんと応えるんだ。

 

 そう、心の中で何度も繰り返す。

 そして俺は精一杯の言葉を伝える。

 

「俺も大好き……愛してる……箒」

 

「ああ、わかっているさ」

 

「………………」

 

「泣くぞ。すぐ泣くぞ。絶対泣くぞ。ほら泣くぞ。これを言う前に、もう泣いていたな」

 

「…………」

 

「あ、鼻水出てたら、髪に付けるなよ。汚いからな」

 

「擦り付けてやる……」

 俺は箒を強く抱きしめた。鼻水が引っかからないように、マッカンを垂らさないように、ちゃんと気を配りながら。

 

「お前はいつまで経っても昔と変わらない……私の知っている泣き虫な夕だ」

 箒が背中を、赤ん坊をあやすように背中をポンポンと優しく叩く。一夏も同じ事をしてくれた。やり方が似ている。

 

「…………」

 

「よし! 私は朝練を遅刻するかサボるぞ! 一夏が来るまでこのままだ!」

 

「……」

 

「うん。周りなんかどうでもいい。そんな事は重要な事じゃない」

 

「私はこの状態からなら、自分の気持ちをごまかさずに、あいつに想いの全てをぶつけられる」

 箒は俺より強いな。思い出だけで、真っ直ぐに前を進み続けるなんて。どれだけ悲しくて、どれだけ苦しい思いをして、ここまで辿り着いた。本当にすごい。

 

「私は肝心な時に何も言えないからな。だから、お前にこうしてもらって、一夏にぶつけるための勇気を貰うんだ」

 

「……」

 

「恋する乙女は猪と全く変わらん。黄金の鉄の塊で出来ている乙女のハートが、皮装備の猪に遅れをとるはずは無いのは、確定的に明らか」

 

「…………」

 

「よし。計画を変更しよう。私にいい考えがある」

 

「…………」

 

「ふふ。分かっている。だから手を絡め合おう。そう、恋人繋ぎだ。そうすれば、頑張れる……気がする」

 

「…………」

 

「よし。一旦離れよう。今考えたら、周りに迷惑だからな! 全く……恋する乙女とは、難儀なもんだな!」

 

「ん……」

 廊下のど真ん中で抱き合っていた俺達は、抱き合うのを中止し、その場を離れてから近くの壁に寄りかかる。

 そして箒が言ったやり方で、俺達は手を繋いだ。箒の望む通りに。俺は箒から貰った気持ちを、この繋いだ分しか返せないから、箒の言う事に従った。

 マッカンは今までずっとあったが、既に繋いでない手に避難させている。

 

「しかしだ、この時間帯でよく人が来ないな」

 箒とは繋いでない手を使い、俺は涙をジャージの袖で拭った。

 

「……運がよかったんだよ。きっと」

 

「そうだといいんだが……」

 なんだかんだで、意外と気にしていたらしい。

 

「事情を知らない人から見れば、私達は愛の告白をした。抱き合いながら寮の廊下で交わした。そんな風に見えるな。いかんいかん」

 箒は今頃冷静になったのか、空いている手を使い、自分の頭を軽くぺしぺしと叩いた。

 

「ははは。猪じゃなかったの?」

 

「人の嫌がる事言うとか、さてはお前は絶対忍者だろ……」

 

「はっ。そんな訳ないって。 もっと謙虚に生きろよ」

 忍者に失礼だろ!

 俺達は笑いながら、ひたすら一夏を待った。

 マッカンはちゃんと飲みきって、空き缶用のゴミ箱に捨てたぞ。

 

 

 

 

 俺と箒は手を繋いだまま、寮の廊下を歩いてく。この状態をかなりの人数に目撃された。交際してると勘違いすると思う。恋の話は女の子のデザート? メインディッシュ? まぁ、どんな噂が流れようと、俺達二人ははっきりと否定出来る。俺達は大切な家族なんだって。

 

 

 そして箒は重大な事を忘れていた。

 一夏の起床時間は、普通の人より早くない。

 

「そういえばだが、一夏はいつも七時以降に起きるんだ。それを私はすっぽり忘れていた。もー、私ってばドジっ子ねっ」

 それ、なにかがぴったりハマってそうだ。

 箒は軽く、頭をコツンと拳でぶつけた。今の箒にその性格は似合わんな。最初からこのキャラを作っていたら、まだよかったのかも知れない。いや、一日で化けの皮が剥がれそう。

 

「今なら朝練に間に合うぞ? まぁ、何時から開始か知らんが」

 時刻は七時過ぎ。さっき携帯で確認した。

 

「既に始まっている。だが、私は優等生だからな。多少のサボりの一つや二つはどうって事ない。私は優等生だからな!」

 

「リピートして強調しなくていいよ。言いたい事はわかったから」

 それは果たして、優等生と言えるのだろうか? 本人がそう言ってるんだ。多分優秀なんだろう。まぁ、箒の言葉を信じよう。騙されたらその時はその時だ。

 

「私は本当にドジだな。はっ!? 私って天然なんじゃ!?」

 

「天然の人は自分を天然だと、そもそも言わない」

 寧ろぶりっ子なんじゃないの?

 

「そうか。私はその節があるとばかり」

 残念というかがっかりした表情だ。悲しさもあるっぽい。

 

「残念だったな」

 

「トリックだよ」

 人の言葉を勝手に繋ぐな。

 

「ほら、ここが私と一夏の部屋だ」

 箒が扉の前に立ち止まって、今まで共に繋いでいた手を離した。

 

「ん? んぅ?」

 箒が袴のあっちこっちを触りだした。なにかあったの?

 

「やった! やっぱり私はドジっ子だ!」

 

「急にどうした?」

 

「部屋の鍵落とした!」

 

「なにしてんの!?」

 とんでもない事しちゃってるよ。この人。

 

「いや、大丈夫だ。まだ慌てるような時間じゃない」

 

「はいはい」

 流しとく。箒は一人でも、ずっと喋り続ける事が出来そう。というか、人の話をあまり聞いてない気がする。

 箒は期待してか、部屋のドアを開けてみた。そしたら開いた。

 

「開いてますやん」

 

「うむ。ささ、中へ入るがよい。私の後に続け」

 誘われたので、俺はドアを閉めてから、箒の後ろをついていった。

 

「あ。テーブルに鍵が置いてあった」

 部屋に入った箒が、ベッドの足側の広いスペースにあるテーブルの上に、自分の鍵を見つけた。

 

「ちっ」

 近くにいるから小さくても聞こえた。舌打ちすんな! どんだけ悔しがっているのか。ドジっ子で可愛さアピール? なら、敵を作りやすいタイプになっちゃうぞ?

 

「それよりだ。夕」

 

「なによ?」

 

「久々に一夏を二人で起こそう!」

 キラキラした目で前のめり気味な箒に、見つめられた。箒のはしゃぎようが、少年のようでちょっと微笑ましい。

 

「昔みたいにか?」

 

「そうっ!! 小学生の時みたいにだっ!!」

 

「うるせぇよ、箒! 起こすならもっと普通にしてくれって、毎回言ってるだろ!」

  箒の少年っぷりに、一夏が薄く目を開き、上半身を起こして怒鳴った。まぁ、うるさいのはわかる。

 

「勝手に起きるなっ!! 今から夕と二人で、お前を起こそうとしたんだぞっ!?」

 なんで箒が逆ギレしているのか。言い返したい気持ちは、なんとなくわかっちゃうけどさ。

 

「えっ!? 夕じゃないか!? おはよう! いらっしゃい!」

 俺が朝から部屋に来たのが不意打ちだったのか、今の衝撃で一夏の眠気が吹っ飛んだみたい。今まで一夏がかけていた布団が、床に落ちた。そして一夏が犬と言っても過言じゃないほど、嬉しそうな表情をしている。マジ可愛い。思う存分撫で回したい。人面犬? ちょっとそれは勘弁。

 

「ああ、おはよう。お邪魔してるよ」

 俺は片手を挙げて、挨拶をした。ジャージ姿の一夏に。なんかジャージ流行ってんの? 着やすいだけだよね?

 

「それなら、まだ寝てればよかったなぁ。惜しい事をした……」

 

「だから私が言っただろ。また、次の機会だな」

 

「という訳で、また今度ね」

 

「楽しみにしとく」

 昔は箒と俺の二人が、寝ている一夏を運んでテーブルに乗せる。その後、俺達二人はどこかの民族みたいな踊りをしながら、一夏を中心にしてぐるぐる回った。簡単に言えば、生け贄を捧げる儀式……の真似。タンバリンや他の楽器を使ってそれっぽさの演出も忘れない。

 

「さて、部屋戻って制服着てくる。食堂に集合だ」

 そういえば、俺って昨日晩飯食ったっけ? 覚えてないや。他の出来事が霞むレベル。

 

「おう」

 

「私も着替えるぞ」

 二人の声を背にして、振り返らずに手を振って、俺は部屋を後にした。

 

『おっ、おい!? お前どこで着替えてんの!?』

 

『い、一夏の前だっ!』

 二人の声がかなりでかいのか、それともドア自体が薄い? 哀れなほど薄っぺらな扉なのか? もし、鉄の意志に鋼の強さが加わったドアだったら、重くて開けにくそう。どうでもいいか。

 

 

 部屋に戻ると、会長さんは既に起きていて、制服姿だった。時間的に今辺りの時間じゃないと、教室に間に合わなさそう。朝飯食わないといけないし。抜いていくなら話は別だが。

 

「あら、おはよう。夕君の寝顔は可愛かった」

 テーブルに座って、マグカップでなにかを飲んでいる会長さん。

 あ、そう。なにを言われるのか知ってた。定番定番。

 

「おはようございます」

 一言だけ返して、俺はクローゼット前でジャージから制服に着替えよう。それと同時に、ある事を一応確認する。

 俺はジャージをゆっくり脱いだ。

 

「ちょっ!? あ、なんだ……下にTシャツとハーフパンツ履いているのね……」

 そりゃ、パンツ姿を好んで見せたくはない。俺にも羞恥心ぐらいあるんだよ。でも、いきなりジャージ脱いだらフル・フロンタルとか上級者過ぎる。

 はい。これで俺は理解した。この人は耐性があまりない。よかった……風呂場にアクセルシンクロしてきそうだったから。ベッドにはアクセルシンクロしてきたけど。そして薄くてぶかぶかのカッターシャツで寝てたが。

 

「ちょっと急いでるんで、すみません」

 埃を飛ばさないよう気を使い、制服に着替え終わって廊下に向かう。

 

「それではまた」

 

「頑張って。またね」

 会長に背を向けながら、軽く手を振って廊下に出た。

 

 

 俺は一夏と箒が待つだろう食堂に到着し、探すまでもなくすんなりと、二人を見つけられた。

 あっ、生徒会長の名前や学年とかを、俺はまだ知らないや。忘れていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。