今日は学園に来て二日目。そしていい朝だ。ベッドから上半身だけ起こして、日差しで明るくなった、部屋の壁にかけてある時計を見た。六時か。いつ寝たんだっけ? うっ……頭が……。
隣を見ると、会長さんは自分のベッドに寝ず、俺の隣に寝ていた。やはり来たか。定番かも知れないカッターシャツ姿で。はい。知ってた。
ふと気付いた事がある。俺のファンネルちゃんどこ行ったの? とりあえず、会長を起こさないようにベッドから抜け出して、捲れた布団を会長にかけた。風邪引いたらダメだからね。普通の状況じゃないけど、普通の対応をしとく。いや、普通に考えたら普通じゃなかった。
ベランダを見ると、壊れたまんまだった。夢だけど、夢じゃなかった! ちょとsYレならんしょこれ……。
ファンネルを探すと、俺の布団の上に置いてあった。何故重みで気付かなかったし。俺の愛がまだ足りないのか。踏んづけたりしないよう、テーブルの下に置いておこう。
そういえば、昨日はいつ寝たんだっけ? 服も着替えてないし、風呂入ってない。きちゃないな。ばっちいぜ。衛生面でよくない俺の隣に会長さんは寝るという事は、俺のオイニーがいいかほりだったり? それなら遺伝子的に相性いいのよ。お父さん臭い! 私の服と一緒に洗濯しないで! そんな娘さんの発言に傷付くでしょうが、大丈夫です。遺伝子が近いから臭いんです。あ、DNA検査はして下さい。
そう、頭の中で一人ぶつぶつと呟く。精神安定のためだ。前の学校ならここまで弾けてない。ここでは俺が俺じゃなくなってしまう。おセンチの年頃ね。
さぁ! よからぬ事を始めようじゃないか! 今からお風呂に入ろう! 部屋の邪魔にならない場所に置いてある、隅のダンボールから着替えを出して、タオルも静かに取り出す。
あれ? このまま俺の他の着替えを出しとくと、会長さんがよからぬ事をしそう。残念ながら会長さんに対して、好感度と信頼度は低いです。まぁ、低いなら後は上がるだけだからね。実はマイナスになる可能性もあるがな。ハッハー。
タオルと着替えを持って、脱衣所かと思って静かにドアを開くと、トイレだった。洋式でそこそこスペースがあり、ウォシュレット付き。トイレットペーパーを見ると、二重で香り付きのやつかな? トイレに芳香剤が置いてあるから、そっちの香りかもな。
後、もう一つ確認。使用中のトイレットペーパーが三角になっていない、便座が閉まっている。うん、いいんじゃない? 便座を開ける派開けない派がいるけど、別にどっちでもマナー違反にはならない。ちなみにトイレットペーパーの三角折りの名前って、ファイヤーホールドだって。
やーい! お前の家のトイレ! ファイヤーホールド! とか、お前の家のトイレファイヤーホールドにしちゃうぜ! なんだ、この嫌がらせにもならん嫌がらせは。
おっと、そろそろ閉めよう。よくない事したな。さぁ、風呂だ風呂。後、二つ知らないドアがある。
こっちだぽん! あ、ここもクローゼットや。会長さんの制服や私服がある。すぐに閉めた。こんな場面見られたら、絶対攻めてくる。ちょっとかーいちょー! 時間と場所を弁えなよー! アグレッシブも困るなぁ。ま、好意を向けられるのは悪くない。嫌いより好きな方が楽だから。
扉がっ! 最後の扉がっ! こいつ、いっつも羅生門開いてんな。
ついに脱衣所に入り、あるのは洗面台と洗濯機。ドラム式だぁ。家のはもみ洗いです。これって乾燥機付きの洗濯機かな? 干すの面倒だからね。女性なら絶対乾燥機あった方がいいよ。外に下着が干してあると、盗んでくる奴がいるからね。なら、男の下着を一緒に干して対策! いやいや、むだだから。ヤバい奴は興信所レベルだから……。 そういう仕事を選べよ、ストーカーの諸君。泣かせるより笑わせる方がいいだろう?
さて、風呂を見よう。風呂場の扉を開いた。見事なシャワーだな。シャワーヘッドもいいやつなのだろうか。女性はこういう道具にも気を遣うからね。美肌の秘訣なの。そこまで知らんけど。
あ、シャンプーとか忘れたわ。ここに置いてあるシャンプー類は、会長のだろう。使うとかなりヤバい。だから一旦、部屋に戻って持ってこよう。あ、今まで持っていた着替えは洗濯機の上に置く。ぬいぐるみのように抱いてたわ。
会長が起きてないのを確認して、ささっと忍者みたいに行動。ヤリザ殿! そしてシャンプー類を脱衣所に持ってきた。さて、使ったらどうするか。風呂場に置きっぱなら、会長は使いそう。夕君の匂いがするって。多分、それはストーカー思考です。精神科医じゃないから正確な診断は無理ッスよ、沢渡さん!
脱いだ服を余っている籠にシューッ! あ、これ会長のやつならどうしよう。匂いが付着するかも。篭持ってスンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎそう。こっわ。俺、会長にどんなイメージを抱いてるんだ……。ま、どっちでもいいよ、もうっ!
そして俺はフル・フロンタルになった。つまり、風呂に入る時は男女関係なく、皆フル・フロンタルになる。どうせみんなフル・フロンタル。
さっむ。やっぱり朝はまだ冷えちゃうな。風呂場に入って扉を閉めた。鍵がなかったら、会長さん入ってきそうだけど、鍵は閉められるようだ。まぁ、どうせ入ってきても水着だろ? 知ってる知ってる。
シャワーを出して頭から体にかける。
「あっつ!」
温度確認するのを忘れてたわ。HAHAHA! ついでに髪も縛ったままだった。俺の縛り方だと、そのまま仰向けに寝ても痛くないから気付きにくい。箒ちゃんはポニーテールだから絶対痛い。鈴ちゃんはツインテールだから横向きだと痛い。そのまま寝なければいいんだよ!
風呂から出て、服を着てから髪を乾かすために、ドライヤーを勝手に借りてスイッチオン。自然乾燥だと頭皮に雑菌が繁殖しちゃうので注意。ははははは禿げちゃうわ! タオルで頭を覆って、その上からドライヤーが一番いいのだが、俺は好きじゃない。髪が長いから余計に時間がかかっちゃう。会長さんの長さなら、比較的すぐ乾く。
物を片付けたり元に戻してから、ジャージを着て脱衣所を出る。そういえば、ここってレオパレスレベルの壁の薄さなら、シャワーに絶対気付くよね?
俺はゆっくりと、リビングから会長が起きてないか覗く。起きてなかった。ふぅ……昨日よっぽど疲れたんだろうなぁ。うっ、また頭がペインペイン。
そして隙間所じゃない風が入ってきた。湯冷めしちゃう。ので、私は携帯を持って廊下へと出た。
「あ、おはよう」
「おはようございます」
朝早くから起きてる女子生徒一人に出会った。まだパジャマで、相手の学年やクラスが判別出来ないから、敬語で挨拶。初日に全てわかる訳ないだろ!
「いい匂いだね。お風呂上がり?」
「はい。昨日は初日だったので、汚い事にいつの間にか寝ちゃってました」
この人との距離が、約二か、三メートル付近だから匂いが漂ったらしい。なんか探ろうとしてる? それは警戒し過ぎか。
「白雪君も大変だね」
「はい。覚える事や、やる事もあって忙しいです」
彼女は優しく笑ってくれたので、俺も笑顔で返した。
「今からどこかに行くの?」
「はい。自販機に飲み物でも買おうかと」
「そっか。私は部屋に帰るね。頑張ってね!」
彼女が手を振るから、俺もひらひらと振り返す。そうして彼女は去っていった。
薄めの生地のパジャマで恥じらいがないとかちょっと心配。ここって無菌室かな? 俺が心配する事じゃないがね。
廊下を歩いて自販機の前に辿り着き、マッカンを買って昨日と同じ所定の位置へ。これ超落ち着く。
自販機の隙間で背中から入ってしゃがみ、壁に背を預けながらマッカンをゆっくり味わっている。
すると、時間帯的に人が通って行く事が多くなった。
挨拶されたら返し、相手が気付かなかったら自分から挨拶をした。隙間にいるんだ、ビビられる事も結構あった。しかし、皆さん無防備ですね。パジャマが可愛い。
「おぉ! おはよう。夕」
箒が来た。袴姿だ。これから朝練だろうな。しかし、朝早めなのに元気な様子。
「はい。おはようございます」
「どうした? そんな狭い所に挟まって」
そりゃ、疑問に思いますわな。
「落ち着くんだよ、こういう隙間」
過去にクローゼットや押し入れの中で、生活する事が結構な頻度であった。
「そうか。さぁ、来い!」
「両腕広げてどうしたの?」
「何。ただのハグだ 」
禿げてないって言ってんだろ! いいかげんにしろっ! うん。
さて、急にどうしたんだろうか?
「いやいや、年頃の乙女がそんな簡単に、男を抱いちゃいかんよ」
「そうか……昔は皆で抱き合ったもんだ。あれから皆、成長してしまったんだな……」
広げた手を下げて腕を組みながら、箒が急に過去の事を語り出した。あの時は子供だったからね。今はもう変わってしまった。
「だからヘイ! ヘイカモン!」
「どうしてそんなに抱きしめたいんだよ」
箒はまた両腕を広げ始めた。今言った言葉はなんなの? 似合ってないよ、セイラさん。
「一夏は無理だが、お前になら出来る! だからハリーハリー!」
広げた両腕を前に出し、両手をプロレスラーみたいなクイクイっと挑発的な動き。なんか、男らしい。
「そこまで言うなら……」
自販機の間から出て、マッカンを零さないように、手でしっかり掴みながら、ゆっくりと箒に抱きついた。マッカンで袴を汚さないように慎重に。
「ああ……この感覚だ。この感触だ。懐かしいなぁ」
箒がしみじみと呟く。確かに懐かしいな。もう、過去の出来事になってしまった。
「まぁ、何年も会ってないからね」
箒がどこかに行っちゃって、それから何年も経ってしまった。でも、どこに行ったのかは、俺は自分から問わない。時が来たら、話してくれると思う。
「ありがとう。夕」
突然お礼を言われた。そして俺の名前を呼ぶ。気持ちが込もっている言葉だ。そしてなんだか、くすぐったい。
「私は一夏と夕のおかげで、私と姉さん、父さんと母さん、皆の仲がよくなった」
その頃は、箒の家庭内の空気がギスギスしていた。その光景は俺にとって、とても悲しかった。会話なんてものはなく、ただ義務を果たす必要最低限のやりとり。
「転校する時、私はすごく悲しかった。一夏に夕に千冬さんに会えない。姉さんもどこかに行ってしまった」
これは当時、箒が感じた事なんだろう。俺達も悲しかった。
「けどな……それでも温かくて素晴らしい、たくさんの思い出を胸に抱き……お前達の思い出と共に生きてきた」
それは嬉しい事だ。俺達の思い出が役に立てたなら、一夏もすごく喜ぶだろう。
「名前が変わったとはいえ、素性がバレた事が何度もあった。でも、どんな言葉がこようと、どんな事をされようと、私は自分を見失わずに済んだ」
俺の背中に手を回し、両手で抱きしめる箒の力が、段々と強くなってきた。懐かしくて心地いい感触だ。
「だからこうして今、お前が教えてくれた方法で、たくさんの感謝を示しているんだ」
これは俺達流の箒の恩返し。
「お前達がいてくれたから……今まで荒れずに、腐らずに、私は生きていけた」
想いを吐露する箒は、きっと笑顔なんだろう。顔や表情は見えないけど、なんとなくわかる。
「お前達が好きだから、いつかまたどこかで会いたい。私はそう想って…………私の願いは叶ったよ」
箒の一つ一つの言葉に、胸がいっぱいになってきた。視界が歪み体が震える。
「だから……ありがとうな、夕。大好きだ。愛してるぞ」
箒の言葉には、温かな優しさが含まれている。それが心に沁みる。
俺はその想いをしっかり受け取った。だが、必死に耐えていた涙が、我慢出来ずに溢れてしまった。
「っ……」
すぐに返そうと思ったが、上手く言葉に出来ない。
自分の涙が邪魔をして、言葉が詰まったから、何も言えなくなってしまった。
でも、箒は自分の気持ちを俺に伝えてくれたんだ。だから……しっかりと言うんだ。箒にちゃんと応えるんだ。
そう、心の中で何度も繰り返す。
そして俺は精一杯の言葉を伝える。
「俺も大好き……愛してる……箒」
「ああ、わかっているさ」
「………………」
「泣くぞ。すぐ泣くぞ。絶対泣くぞ。ほら泣くぞ。これを言う前に、もう泣いていたな」
「…………」
「あ、鼻水出てたら、髪に付けるなよ。汚いからな」
「擦り付けてやる……」
俺は箒を強く抱きしめた。鼻水が引っかからないように、マッカンを垂らさないように、ちゃんと気を配りながら。
「お前はいつまで経っても昔と変わらない……私の知っている泣き虫な夕だ」
箒が背中を、赤ん坊をあやすように背中をポンポンと優しく叩く。一夏も同じ事をしてくれた。やり方が似ている。
「…………」
「よし! 私は朝練を遅刻するかサボるぞ! 一夏が来るまでこのままだ!」
「……」
「うん。周りなんかどうでもいい。そんな事は重要な事じゃない」
「私はこの状態からなら、自分の気持ちをごまかさずに、あいつに想いの全てをぶつけられる」
箒は俺より強いな。思い出だけで、真っ直ぐに前を進み続けるなんて。どれだけ悲しくて、どれだけ苦しい思いをして、ここまで辿り着いた。本当にすごい。
「私は肝心な時に何も言えないからな。だから、お前にこうしてもらって、一夏にぶつけるための勇気を貰うんだ」
「……」
「恋する乙女は猪と全く変わらん。黄金の鉄の塊で出来ている乙女のハートが、皮装備の猪に遅れをとるはずは無いのは、確定的に明らか」
「…………」
「よし。計画を変更しよう。私にいい考えがある」
「…………」
「ふふ。分かっている。だから手を絡め合おう。そう、恋人繋ぎだ。そうすれば、頑張れる……気がする」
「…………」
「よし。一旦離れよう。今考えたら、周りに迷惑だからな! 全く……恋する乙女とは、難儀なもんだな!」
「ん……」
廊下のど真ん中で抱き合っていた俺達は、抱き合うのを中止し、その場を離れてから近くの壁に寄りかかる。
そして箒が言ったやり方で、俺達は手を繋いだ。箒の望む通りに。俺は箒から貰った気持ちを、この繋いだ分しか返せないから、箒の言う事に従った。
マッカンは今までずっとあったが、既に繋いでない手に避難させている。
「しかしだ、この時間帯でよく人が来ないな」
箒とは繋いでない手を使い、俺は涙をジャージの袖で拭った。
「……運がよかったんだよ。きっと」
「そうだといいんだが……」
なんだかんだで、意外と気にしていたらしい。
「事情を知らない人から見れば、私達は愛の告白をした。抱き合いながら寮の廊下で交わした。そんな風に見えるな。いかんいかん」
箒は今頃冷静になったのか、空いている手を使い、自分の頭を軽くぺしぺしと叩いた。
「ははは。猪じゃなかったの?」
「人の嫌がる事言うとか、さてはお前は絶対忍者だろ……」
「はっ。そんな訳ないって。 もっと謙虚に生きろよ」
忍者に失礼だろ!
俺達は笑いながら、ひたすら一夏を待った。
マッカンはちゃんと飲みきって、空き缶用のゴミ箱に捨てたぞ。
俺と箒は手を繋いだまま、寮の廊下を歩いてく。この状態をかなりの人数に目撃された。交際してると勘違いすると思う。恋の話は女の子のデザート? メインディッシュ? まぁ、どんな噂が流れようと、俺達二人ははっきりと否定出来る。俺達は大切な家族なんだって。
そして箒は重大な事を忘れていた。
一夏の起床時間は、普通の人より早くない。
「そういえばだが、一夏はいつも七時以降に起きるんだ。それを私はすっぽり忘れていた。もー、私ってばドジっ子ねっ」
それ、なにかがぴったりハマってそうだ。
箒は軽く、頭をコツンと拳でぶつけた。今の箒にその性格は似合わんな。最初からこのキャラを作っていたら、まだよかったのかも知れない。いや、一日で化けの皮が剥がれそう。
「今なら朝練に間に合うぞ? まぁ、何時から開始か知らんが」
時刻は七時過ぎ。さっき携帯で確認した。
「既に始まっている。だが、私は優等生だからな。多少のサボりの一つや二つはどうって事ない。私は優等生だからな!」
「リピートして強調しなくていいよ。言いたい事はわかったから」
それは果たして、優等生と言えるのだろうか? 本人がそう言ってるんだ。多分優秀なんだろう。まぁ、箒の言葉を信じよう。騙されたらその時はその時だ。
「私は本当にドジだな。はっ!? 私って天然なんじゃ!?」
「天然の人は自分を天然だと、そもそも言わない」
寧ろぶりっ子なんじゃないの?
「そうか。私はその節があるとばかり」
残念というかがっかりした表情だ。悲しさもあるっぽい。
「残念だったな」
「トリックだよ」
人の言葉を勝手に繋ぐな。
「ほら、ここが私と一夏の部屋だ」
箒が扉の前に立ち止まって、今まで共に繋いでいた手を離した。
「ん? んぅ?」
箒が袴のあっちこっちを触りだした。なにかあったの?
「やった! やっぱり私はドジっ子だ!」
「急にどうした?」
「部屋の鍵落とした!」
「なにしてんの!?」
とんでもない事しちゃってるよ。この人。
「いや、大丈夫だ。まだ慌てるような時間じゃない」
「はいはい」
流しとく。箒は一人でも、ずっと喋り続ける事が出来そう。というか、人の話をあまり聞いてない気がする。
箒は期待してか、部屋のドアを開けてみた。そしたら開いた。
「開いてますやん」
「うむ。ささ、中へ入るがよい。私の後に続け」
誘われたので、俺はドアを閉めてから、箒の後ろをついていった。
「あ。テーブルに鍵が置いてあった」
部屋に入った箒が、ベッドの足側の広いスペースにあるテーブルの上に、自分の鍵を見つけた。
「ちっ」
近くにいるから小さくても聞こえた。舌打ちすんな! どんだけ悔しがっているのか。ドジっ子で可愛さアピール? なら、敵を作りやすいタイプになっちゃうぞ?
「それよりだ。夕」
「なによ?」
「久々に一夏を二人で起こそう!」
キラキラした目で前のめり気味な箒に、見つめられた。箒のはしゃぎようが、少年のようでちょっと微笑ましい。
「昔みたいにか?」
「そうっ!! 小学生の時みたいにだっ!!」
「うるせぇよ、箒! 起こすならもっと普通にしてくれって、毎回言ってるだろ!」
箒の少年っぷりに、一夏が薄く目を開き、上半身を起こして怒鳴った。まぁ、うるさいのはわかる。
「勝手に起きるなっ!! 今から夕と二人で、お前を起こそうとしたんだぞっ!?」
なんで箒が逆ギレしているのか。言い返したい気持ちは、なんとなくわかっちゃうけどさ。
「えっ!? 夕じゃないか!? おはよう! いらっしゃい!」
俺が朝から部屋に来たのが不意打ちだったのか、今の衝撃で一夏の眠気が吹っ飛んだみたい。今まで一夏がかけていた布団が、床に落ちた。そして一夏が犬と言っても過言じゃないほど、嬉しそうな表情をしている。マジ可愛い。思う存分撫で回したい。人面犬? ちょっとそれは勘弁。
「ああ、おはよう。お邪魔してるよ」
俺は片手を挙げて、挨拶をした。ジャージ姿の一夏に。なんかジャージ流行ってんの? 着やすいだけだよね?
「それなら、まだ寝てればよかったなぁ。惜しい事をした……」
「だから私が言っただろ。また、次の機会だな」
「という訳で、また今度ね」
「楽しみにしとく」
昔は箒と俺の二人が、寝ている一夏を運んでテーブルに乗せる。その後、俺達二人はどこかの民族みたいな踊りをしながら、一夏を中心にしてぐるぐる回った。簡単に言えば、生け贄を捧げる儀式……の真似。タンバリンや他の楽器を使ってそれっぽさの演出も忘れない。
「さて、部屋戻って制服着てくる。食堂に集合だ」
そういえば、俺って昨日晩飯食ったっけ? 覚えてないや。他の出来事が霞むレベル。
「おう」
「私も着替えるぞ」
二人の声を背にして、振り返らずに手を振って、俺は部屋を後にした。
『おっ、おい!? お前どこで着替えてんの!?』
『い、一夏の前だっ!』
二人の声がかなりでかいのか、それともドア自体が薄い? 哀れなほど薄っぺらな扉なのか? もし、鉄の意志に鋼の強さが加わったドアだったら、重くて開けにくそう。どうでもいいか。
部屋に戻ると、会長さんは既に起きていて、制服姿だった。時間的に今辺りの時間じゃないと、教室に間に合わなさそう。朝飯食わないといけないし。抜いていくなら話は別だが。
「あら、おはよう。夕君の寝顔は可愛かった」
テーブルに座って、マグカップでなにかを飲んでいる会長さん。
あ、そう。なにを言われるのか知ってた。定番定番。
「おはようございます」
一言だけ返して、俺はクローゼット前でジャージから制服に着替えよう。それと同時に、ある事を一応確認する。
俺はジャージをゆっくり脱いだ。
「ちょっ!? あ、なんだ……下にTシャツとハーフパンツ履いているのね……」
そりゃ、パンツ姿を好んで見せたくはない。俺にも羞恥心ぐらいあるんだよ。でも、いきなりジャージ脱いだらフル・フロンタルとか上級者過ぎる。
はい。これで俺は理解した。この人は耐性があまりない。よかった……風呂場にアクセルシンクロしてきそうだったから。ベッドにはアクセルシンクロしてきたけど。そして薄くてぶかぶかのカッターシャツで寝てたが。
「ちょっと急いでるんで、すみません」
埃を飛ばさないよう気を使い、制服に着替え終わって廊下に向かう。
「それではまた」
「頑張って。またね」
会長に背を向けながら、軽く手を振って廊下に出た。
俺は一夏と箒が待つだろう食堂に到着し、探すまでもなくすんなりと、二人を見つけられた。
あっ、生徒会長の名前や学年とかを、俺はまだ知らないや。忘れていた。