IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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十話

 外出した休日を経て今日は授業のある月曜日。特に何も無く、至って平和な授業を終えて放課後を迎えた。

 一組のSHRが終わった俺は四組の教室まで簪を迎えに行き、一緒にアリーナへと向かう。先週と同じく、今日からまた訓練漬けな日々の始まりだ。

 

「また後でな」

 

「うん、また後で」

 女性用更衣室の前で簪と別れて、俺は使える更衣室まで走り素早くISスーツに着替えた。

 更衣室から出て簪と合流した後、俺達は混雑の具合を知ろうとアリーナの観客席に向かう。

 観客席へ来ると、アリーナの中央では鈴とセシリアさんの二人が、ラウラ一人を相手に戦っていた。だから観客席に人はいるが、アリーナは三人が独占中。

 三人の動きを観察すると、一見ただの模擬戦のように見えるが、その割には三人の攻撃に容赦が無いように感じる。これは前回の一夏達の時みたいに、ラウラがまた喧嘩をふっかけたのだろうか? ありえる。

 

 まぁ、状況が何であろうとこのまま知らん振りする訳にはいかない。言い方は悪いが、集中出来ないしスペースの取りすぎで邪魔だ。

 それにISでドンパチしているので、織斑先生を呼ばない訳にはいかないだろう。自分だけで問題を治めたい所だが、きっと困難を極めそうだから。

 

「あのままだと訓練出来ないから、あれに介入してくる。その間、簪は織斑先生を呼んできてほしい。頼めるか?」

 

「うん。わかった」

 

「ありがとう。行こう」

 礼を言った後、俺達は走り出した。観客席には不可視のシールドが張られており、最短距離で突入するにはシールドを破壊しなければならない。だから些か面倒ではあるが、迂回して現場を目指す。

 途中で簪と別れ、俺はアリーナ内部を走り回ってピットに到着。足を動かしたままバンシィを起動させ、律儀にカタパルトから真っ直ぐに飛び出す。

 

「頼むから当たるなよ!」

 飛行しながらビームマグナムを構え、動き回る三者に当たらない射線を狙う。

 狙いを定めている最中、反対側に白いISが同じ銃を構えているのが見えた。どうやら俺達は同じ事を考えてるらしい。

 引き金を引くと、二つのビームは地面に命中。三人の戦闘行動を停止させた。後は話をして織斑先生が来るまで時間を稼ごう。

 

『……邪魔しないでくれる?』

 行動とは裏腹に鈴の声音が冷たい。相当ご立腹の様子だ。

 

『悪いけど見過ごせない』

 

『放っておいて。これはあたしとセシリア……一夏の問題なんだから』

 

『うん? 一夏?』

 何故ここで一夏の名前が出てくるのだろうかと、俺は地面に降りながら考えてみたが、さっぱりわからない。時間を掛けても難しそうだ。

 

『百歩譲ってあたし達の事だけならまだいいわ。腹が立つだけで済む。けど、この場にいなかった一夏まで馬鹿した。好きな人を悪く言われたままじゃ、引き下がれない』

 

『じゃあ、この戦いは一夏のために?』

 

『ええ、だからあんたは下がってて。じゃないと、巻き込まれても知らないよ』

 これはラウラが喧嘩を売ってきたから、鈴とセシリアさんが買ったみたいだ。予想通りだった。

 

『ヤシャシーンだな』

 

『は?』

 

『何故その優しさの一部を一夏に分けない?』

 

『べっ、別にいいでしょっ! あんたには関係無いじゃん!』

 真っ赤な顔をした鈴が、双天牙月の一振りを俺に向けてきた。他人のために怒れるほど優しいのに、どうして一夏の前だとアレなのか不思議だ。うむ、俺には一生理解出来ない領域だろうな。

 

『確かに関係は無いし、全く掠りもしない。でもな、ISを持ち出されたら別だよ。どこまでやろうとした?』

 

『泣いて謝っても、絶対に許さない! あいつ何て言ったと思う?』

 

『…………見当も付かないな』

 思考を少しだけ張り巡らしながら、俺はラウラとバナージの方を見る。あちらもあちらで揉めている最中だ。

 

『あいつ一夏を種馬って言ったのよ! 種馬よ種馬!? 最低だと思うでしょ!?』

 

『連呼しなくても聞こえてる!』

 年頃の乙女が何度も口に出す単語じゃない。しかし、なるほど。理由はわかった。

 

『バナージがそう言われたら、あんたはどう思うの?』

 

『俺なら迷わずブチ切れるね。マジで親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴る程度に』

 そして相手が泣くまで殴るのをやめない。

 

『……ん?』

 いや待て。一夏が貶されたという事は、ほぼ同一人物のバナージが間接的に罵倒されたも同義……かも。うん、これ以上考えるのはよそう。俺は二人を止めにきたのに、加勢して事態が悪化するかも知れない。

 

『……だけど、今は堪えて下がってほしい。このまま続けても、きっと望んだ結果は手に入らない』

 頭に過ぎる物騒な思考に飲み込まれないよう、意識して振り払いながら話を続ける。集中集中。意識を割くな。

 

『それは無理な相談……という物ですわ』

 

『セシリアさん……』

 今まで静かにしていたセシリアさんが口を開いた。

 

『この戦いはわたくし達の戦いです。申し訳ありませんが、部外者のリディさんこそ引いて下さいませ。わたくしは敵を狙い撃つ者であって、味方に銃口を向けるような愚か者ではありませんわ』

 言動からして、セシリアさんの怒りが如実に表れている。

 

『自分が今何をやってるか理解出来るでしょう?』

 

『全て承知の上ですわ。ですけれども、わたくしが慕う殿方を侮辱されたまま引き下がる事は、淑女として……オルコット家当主としての名折れに値します』

 

『……全部とは言えませんが、あなたにはあなたの誇りがあると理解しました』

 

『一端でも理解して頂けたのなら、下がって静観をお願い致します。流れ弾まで、今のわたくしは気を配れませんので』

 

『今のセシリアさんが、ラウラ相手に勝てると?』

 

『……リディさんは、わたくしの敗北に賭けると?』

 

『このままだと前の時と変わらない』

 俺達がこの学園に来て最初に受けた授業の件を言っている。バナージが鈴とセシリアさんを倒したあれだ。

 

『あの時のわたくし達と、今の状況はまるっきり別物ですわ。打倒すべき敵は目の前にしか存在しませんので』

 

『分からず屋ですね』

 

『それはお互い様でしょう?』

 話し合いは平行線のままで、状況に一進一退すら無い。こうなったら、ちょっと前の鈴の時みたいに一夏を使って気を逸らす事にしよう。それがいい。真面目な空気も壊せる。

 

『所でセシリアさん』

 

『はい、何でしょう?』

 

『観客席に一夏がいますよ』

 箒とシャルルも一緒だ。俺と簪がアリーナに来た時はいなかったので、多分途中から俺達のやり取りを見始めたのだろう。シールドが張ってあるので、俺達側と一夏側のどちらの声も届かない。

 

『それが何か?』

 

『いいんですか? さっきの言葉、もしかしたら聞こえてたんじゃないですかねぇ』

 

『…………?』

 首を傾げるセシリアさん。物の弾みで言ったみたいだから、俺の発言がどういう事なのか考えているみたいだ。

 

『何て言ってましたっけ……確か、殿方の前に……慕う? んぅ? 慕うぅ?』

 

『……あっ!』

 気付いたセシリアさんの頬が見る見る赤くなっていく。わかりやすい反応だ。

 

「おーい、一夏! セシリアさんがお前の事し――」

 

『――わーっ!? わーっ! やめて下さい、リディさん!』

 俺が一夏に向かって叫ぶと、セシリアさんが叫んで言葉を遮ってきた。計画通り! 続けて行くぞォ!

 

「一夏ァ! 鈴がお前の事す――」

 

『――わーっ! わーっ! 何勝手に言おうとしてんのよ!』

 セシリアさんと同じように鈴の事を叫んだら、これもまた遮られてしまった。だが安心してほしい。本気で教えるつもりは無いし、おまけで観客席に声は届かないんだ。

 

「今回は何があったんだ?」

 後ろから声がしたので振り向くと、スーツ姿で腕を組む織斑先生と、ISスーツのままで息を切らした簪がいた。待ってましたぁ!

 

「おっ、織斑先生!?」

 

「凰、説明しろ」

 

「ええっと……ちょっと手合わせをしていただけです……」

 先ほどとは打って変わって、語気が弱まりおどおどし始める鈴。まるで借りてきた前川さんみたいだ。にゃー。

 

「オルコット」

 

「わたくしも鈴さんと同様に、手合わせを願い出ました」

 名前だけを呼ばれたセシリアさんは、織斑先生の意図を組んで説明をした。

 

「ボーデヴィッヒ」

 

「はっ! ISという兵器を扱う国家の代表候補生の実力を試しておりました!」

 ISを装着したまま敬礼を行うラウラは、きびきびした動作で理由を説く。

 

「続けろ」

 

「祖国の脅威になり得ない、と断じます」

 

「私は個人的な感想を知りたいんじゃない」

 ちゃんと答えたのに、これ理不尽じゃね? それとも元凶だと勘付いたから、ちょっとだけいびった?

 

「はっ! 申し訳ありません!」

 

「まあ、いいさ。ボーデヴィッヒは今後私達教師の許可無く、他者との戦闘を禁ずる。以後、パートナーであるリンクスとの連携を深めろ」

 

「……それは命令でしょうか?」

 不満がラウラの表情と言葉に表れている。あ、これはこのままだと言う通りにしないな。俺にはわかるんだ。

 

「命令でなければ、お前は従わないと? そんなに不服なのか?」

 

「……いえ、了解しました」

 

「もし大会まで問題を起こさなかった暁には、私直々にまたお前指導してやる。マンツーマンは嫌か?」

 

「いえ! 了解しました!」

 数秒前のラウラと同じ言葉なのに覇気の違いが目に見える。見事な飴と鞭だ。俺も少し頑張ったので飴ちゃん下さいな。

 

「よし、下がれ」

 

「はっ! 失礼します!」

 返事をしたラウラがISを解除して去っていく。当然バナージも後に続いた。

 

『頑張れよ、民間人』

 

『あー……鬱になるぅ……』

 俺は通信でバナージにエールを贈ると、返答は暗かった。ラウラ厳しそうだもんな。でもこれは狂犬にリードを繋いでなかった飼い主の責任です。

 

「凰、オルコット。お前達は制服に着替えた後、生徒指導室に来い。山羊が羨ましくなるほど反省文をたっぷり書かせてやる。どうだ、嬉しいだろ?」

 346プロのPが素敵な笑顔と褒めてアイドルになりませんかと、スカウトしそうなぐらい今の織斑先生はいい笑みを見せている。何で鈴とセシリアさんが相手だと、こんなに生き生きとするのか不思議だ。

 二人の内心は鬼! 悪魔! 千冬! と思ってそう。俺は織斑先生が平時なのにジョークを言うのかと衝撃を受けた。

 

『は、はい……』

 二人の表情が絶望に満ちている。イエスだね、その顔。実際は微塵も思っちゃいない。大変そうだ。

 

「今から二十分だけやる。行け」

 

「はい……」

「了解です……」

 鈴とセシリアさんはISを解除し、肩を落としながら更衣室へと向かった。手伝える事は何も無いが頑張れ。

 俺はISを待機形態に戻す。まだ訓練する前だというのに、もう精神的な疲労が溜まっている。今日の訓練はモウヤメヨウヨ、簪。

 

「何があったか詳しく聞かせてくれ。この場にいたマーセナスならわかるだろう?」

 今まで真剣な顔付きだった織斑先生が、腕組みをやめて困り顔になった。珍しい表情だ。

 

「ラウラが二人を挑発したのが発端みたいです」

 

「何てだ?」

 

「……身内でもあまり聞かせられる言葉じゃないですが、言った方がいいですかね?」

 

「頼む」

 

「……ラウラが一夏を種馬と呼んだ結果、二人が激おこになって争ったみたいです」

 憚られる単語を俺は意を決して声に出す。自分が割って入ったのは事実だが、何故無関係な俺がこんなところで辱めを受けなきゃいかんのか。絶対に許さんぞぉ!

 

「……………………そうか。全く、どこでそんな言葉を覚えてきたのやら……」

 織斑先生は長い沈黙の後、静かに頷き嘆いた。フルメタやハートマン軍曹とかをリスペクトしてるんじゃないですかね? 知らんけど。

 

「あぁ、そうだ。マーセナスと更識に感謝する。お前達のお陰で、大事にならず内々で済んだ。騒ぎがあった事実は防ぎようが無いがな」

 

「いえいえ、当然の事をしたまでです。あのまま放っておくと、誰にとっても迷惑でしたし」

 

「それにだ。今の二人ではラウラに勝てん」

 

「ですね……」

 冷静なラウラに怒り心頭の鈴とセシリアでは、ラウラの方が有利になる。

 

「二人が実力のある代表候補生とはいえ、ラウラは私が直接教えた現役の軍人だ。一対多や多対多などの集団戦に慣れているラウラ。各個人に能力自体はあるが連携不足で不慣れな凰とオルコット。これだけでも勝敗は目に見えている」

 

「なるほど。織斑先生さえよろしければ、もう少し詳しく聞きたいです」

 

「歩きながらになるが、それでも構わないか? 私が遅れては示しがつかんからな」

 

「あっ、ちょっとだけ待って下さい。簪と相談します」

 このまま織斑先生と一緒に歩くと途中で別れる事になるが、アリーナを出てしまう。今から訓練をするとしたら、これからの時間がロスになる。

 

「滅多に無いチャンスだから、俺は今日の訓練は中止にして織斑先生の話を聞きたい。簪はどう?」

 

「夕と同じで私も知りたい」

 

「なら、そうしよう。ありがとう」

 

「決まったようだな。ついてこい」

 織斑先生が踵を返して歩き始めたので、俺達は後を追って肩を並べた。

 

「さて、二人が勝てない理由だな?」

 

「はい」

 

「三人の武装の説明は必要か?」

 

「大丈夫です」

 

「私もです」

 

「まずシュヴァルツェア・レーゲンにはAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)がある。ラウラは停止結界と呼んでるが」

 

「ISが飛んだり慣性を制御するPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を、任意に操作して触れた物を停止する技、ですよね?」

 

「正解だ。勉強熱心で感心するぞ」

 ラウラ本人から聞いた事なので、これはカンニングみたいなものだ。褒められるような努力はしてない。

 

「AICは触れれば止まる。つまり、接近戦主体の機体からしたら天敵な訳だ。織斑の白式と凰の甲龍がそれに該当する。ユニコーンとバンシィはどうだ?」

 

「ユニコーンとバンシィも接近戦は出来ますが、相手の得意分野に付き合わないです」

 

「当然だな。一応甲龍にも射撃武器の龍砲はあるが、オルコットのブルー・ティアーズと組むとなれば、自然と前衛後衛と役割が分かれて凰が前衛だ。今から別の可能性の話をしよう。前後に分けず二人で射撃に専念もありだが、弾幕が薄くて制圧力に欠ける。ここでオルコットがビットを使うとどうなる?」

 

「……セシリアさんがビットを使うなら、足を止めないといけません。その間、無防備になると思います」

 

「そうだな。ラウラにも射撃武器があり、オルコットがただの的になるだけだ。では、ビットを使わず移動しながら攻撃をしたとしよう。射撃武装が足りず、ラウラは簡単に回避出来る。凰が前に出ないのなら、ラウラはオルコットに接近戦を必ず仕掛ける。その理由は?」

 

「格闘の選択肢が少ない、セシリアさんから潰すのは常套手段だからです。前衛がいて初めて、セシリアさんが自由に動けますから」

 

「となると、近付いてくるラウラにオルコットをぶつける馬鹿はいないだろう。凰が前に出るしかない。ここで凰が前衛という部分まで話が戻る。これで前衛と後衛が分かれた。オルコットが狙われないようにするには、凰がラウラに接近戦を仕掛けて止める」

 

「ラウラのAICが発動出来る距離ですね」

 

「だが、凰は律儀に付き合う必要は無い。何故だ?」

 

「……双天牙月の攻撃がAICで止められるなら、ギリギリの距離を保って後ろに行かせないようにするのが最適だと思います。そうすればセシリアさんのビットも使えるようになりますし。ただラウラにも他の武装はあるので、圧倒的優位になり得ません」

 

「……この話、お前に必要か?」

 

「是非とも!」

 貴重な機会だもの。

 

「ま、いいだろう。今はこれぐらいしか返せないからな」

 

「ありがとうございます!」

 

「お前が言った通り、ここから二人の弱点が表れる。役割を分けるという事は、それはどんなに小さくてもチームだ。一人なら出来ない動きでも、数が増えればそれだけ選べる選択肢が広がる。手段が増える分、当然やる事も増えるがな。凰とオルコットはそれを把握してない状態だ」

 そこに箒が混じって喧嘩ばかりしてるもんな。いざ戦闘となると、ある程度は合わせられるだろう。けど、普段通りに動けないはずだ。

 

「その点、お前達二人はどうなんだ?」

 

「明日大会が開いても大丈夫なぐらい問題無いです。いつでもやれますよ。な?」

 

「はい。私達は負けないです」

 

「随分と自信満々だな」

 

「そりゃもう作戦は色々と考えてますし、操作技術などは他の人達と比べると劣りますが、機体性能はトップレベルで武器は揃ってますから。バナージ以外には絶対負けられません」

 

「何だ、リンクスが苦手なのか?」

 

「動きはある程度読めますが、零落白夜だけは当たれば一発なので」

 

「あぁ、そういう事か。確かにな」

 納得した織斑先生が小さく笑う。

 

「そういえば織斑先生が現役だった頃、雪片のみでどう戦ってたんですか? ミヒロ少尉は心理戦を仕掛けろと言って、相手を煽るアドバイスしかしてくれないので、有益になりそうな話を聞いた事が無いんですよ」

 ミヒロ少尉は実力と煽りで勝ってきたが、目の前の織斑先生は相手を煽るような事はしないだろう。つまり完全に実力だけで勝利を掴んできた訳だ。

 

「……そっちの私はそんな事していたのか」

 

「はい。卑劣な人なんです」

 

「……それもありと言えばありだが……私の場合は、ただ近付いて斬るだけだったな」

 あっ、この人も近寄って斬るだけで勝っちゃう人なのか。質問しといて何だけど、これはこれで異次元過ぎて参考に出来無いな。

 

「他は相手の挙動や癖、ISの性能と武装の特性、そこから導き出される弱点などを見極める」

 

「おぉ! そういう話が聞きたかったんです!」

 

「短時間で」

 

「無理です」

 そこまで思考を割ける余裕が無い。一対一なら特にだ。でも今回は簪がいるから分析を任せて、俺は戦いに集中出来る。

 こう考えると、指揮官とかって大変なんだな。味方と敵の情報全てを逐一読み取らなくちゃいけないのだから。

 

「ゆっくりやってるとエネルギーが切れるから、自然と身に付いた技能だ。やろうと思えば、お前でも出来るさ」

 

「すみません、参考に出来るほどの地力が俺には無いんです。皆と違って五月から始めましたし」

 

「それでも、まだ動かし始めたばかりだろ? 自分から可能性を捨てるな」

 ナチュラルに可能性という単語が出てきて、嬉しくなった。

 

「今私が教えられるのはこれぐらいだ。他に知りたい事があれば、夜に私の部屋に来い。相手をしてやる」

 やだ、凄く魅惑的。いけない香りがしてきちゃう。ミヒロ少尉が同じセリフを言っても、全然こんな風には感じないのにな。おつまみ作らされるからかな?

 

「その時はお手柔らかにお願いします」

 

「ああ」

 織斑先生が頷い所で、ちょうど更衣室が見えた。

 

「ここでお別れだ。またな」

 

「はい、ありがとうございました!」

 こちらに背中を向けて離れていく織斑先生に向かって、俺は頭を下げて感謝の言葉を述べた。

 

「あ……ごめん、簪。俺ばっかり話しちゃってて……」

 

「ううん、気にしてない。私にとっても有意義な時間だったから」

 

「……そう言ってくれて助かるよ」

 自分ばかり話していたのに気付きへこんだが、簪の言葉で少し気が楽になった。

 

「さて、制服に着替えたら食堂で何か食べようぜ。精神的に疲れちまったよ」

 

「いいけど、奢り?」

 

「お詫びとして奢ろう」

 

「わかった。行く」

 最近の俺って、何かしら簪に奢っている気がする。これが段階を踏まえると、キャバ嬢に貢ぐおっさんみたいになるのか。俺がこの学園で簪をナンバーワンにしてやるぜ。

 

「おう。んじゃ、一旦解散という事で」

 俺と簪は更衣室で別れて制服に着替えてから集合。その後、食堂に向かった。

 

 

 食堂に着くと意外と席が埋まっていた。放課後でも人がいるんだな。でも人数が二人なら場所を選ばず余裕で座れる。

 

「どこに座る?」

 

「あそこにしよう」

 簪に聞かれ、俺は窓際の席を指差す。あの場所なら周りに他の生徒達の姿は無いので、何も気にせずゆっくり過ごせそうだ。

 

「簪は先に席で待っててくれ。俺が持ってくるよ。何が食べたい?」

 

「甘いものが食べたいからアイス。セットで」

 

「アイスセットね。了解」

 俺は返事をして、メニューを見てから決めようと考え歩き始める。もし色々と迷った場合は、胃袋の状態を見極めながら頼む事にしよう。お昼みたいに慌てる必要も無いし。

 

 

 自分のパフェと簪のアイスセットを、それぞれのトレーに乗せて席まで運ぶと、一人増えていた。

 

「こんにちは、楯無さん。サボタージュですか?」

 

「失礼ね。休憩中だから糖分補給しにきたのよ。簡単な書類でも何十枚と睨めっこしてると、自分の知る言語が途端に解読不能になったりしてくるの。あれ? この文字何て読むの……? って」

 簪の隣に座る楯無さんは理由を話してくれた。

 

「それ凄くヤバい状態だと思うんですけど」

 

「だから一旦休憩にして甘い物を探していたらここに。ほら、二人って一緒にいると甘い雰囲気してるじゃない?」

 

「楯無さんはカブトムシか何かですか?」

 

「あら、否定しないのね」

 

「いつも一緒にいれば、そう見られても当然ですから。実際の所、どう思われているのか知りませんけど」

 トレーをテーブルに置いてから座り、アイスセットとスプーンを簪の前に差し出す。

 

「聞きたい?」

 

「知ってるんですか?」

 

「自然と耳に入ってくるのよ。で、どう?」

 楯無さんはにっこりとした笑みで俺に尋ねる。何を言われているのかわからなくて、ちょっと怖いがここは聞くしかないだろう。今後の振る舞いを正すチャンスでもあるからだ。どうにもならない可能性もあるけど。

 

「お願いします」

 

「お礼はそのパフェで」

 

「これですか?」

 

「うん。それが今食べたい」

 

「じゃあ、やめときます」

 

「そんなー」

 

「冗談です。どうぞ」

 トレーを動かして楯無さんの前に移動させる。高いメニューじゃないからまた注文すればいい。

 

「やったー! こほん。まずは――」

 喜んだ後、咳払いをして言葉を溜める。何を言われるかわからないが覚悟しておこう。

 

「――手が早い」

 

「あぁ、やっぱり……」

 開口一番、言われていてもおかしくない言葉が出てきてしまった。俺と簪の繋がりを知る人は片手で数えられるほど少ない。そしてIS学園は女子校だ。だから変に察してしまうのも無理からぬ事だ。

 

「それに、ほら」

 

「あー、昨日プレゼントしたやつですね。似合ってますよ」

 楯無さんは片側の髪を掻き上げて、イヤーカフスを見せてきた。

 

「ありがとう。これをクラスメイトに自慢した結果がそれ」

 

「原因の一部はあなたじゃないですか」

 

「他人行儀な呼び方しないで。悲しくなっちゃう」

 

「既に呼んでます」

 

「話が脱線しそうだから戻すわ」

 

「へい」

 

「次は、異性の話題についていくために、努力を惜しまない女好き」

 

「特別な努力はしてないです。特別女好きでもないです」

 

「実は女好きを隠れ蓑にしたホモ」

 この学園に限らず、どこもかしこもホモの話題好きすぎだろ。何が何でもホモにしたい鉄の意志を感じる。奪われた貞操は奪い返す!

 

「ホモと呼ばれるくらいなら女好きでいいです。はい」

 

「バイ」

 

「俺、女の子が超大好きッス! 楯無さん、結婚しよ!」

 

「お断りします」

 

「知ってた」

 

「女子力高い」

 

「……どこがです?」

 

「髪が長いのに綺麗でサラサラしてる所」

 

「確かに維持するのは大変ですが、それを女子力とは言わない」

 女子力というのは、一夏とバナージみたいな人の事を言う。いや、それは家事力か。

 

「最近の流行に詳しくて化粧品も詳しい。果ては下着まで網羅している。実は女装してるとの噂」

 

「どちらでも女装した事ないんですけど……」

 バナージはこの世界で何回もやっているから、女装が趣味というのはバナージの方だろう。楽しんでるし。

 

「やれば絶対似合うって」

 

「後押ししなくていいです」

 でも機会があったらやってみたい気もする。

 

「大体こんな感じね」

 

「そうですか……」

 俺は顔を伏せた。覚悟はしていたつもりだ。していたつもりだけど、知ると予想以上にキツい。こんなんじゃ俺、この世界にいたくなくなっちまうよ。もし元の世界でもこんな風に思われていたら、帰る場所が無くなってしまう。

 いや、逆に考えるんだ。帰る場所すら消してしまえばいい、と。やっぱりアースノイドは屑で、コロニーを地球に落としたジオンは間違ってなかった……! 宇宙こそ我らの国! ジークジオン!

 

「死にてぇ……」

 

「女の子って噂が燃料でもあるから、リディ少尉は恰好の的ね。事実もあるからそれが余計に信憑性を増したりと」

 嘘の中に真実を混ぜるとかいう話に似ている。何て巧妙な手口だ。

 

「……話が聞けてよかったです。ありがとうございます」

 

「そう……? そんな風には見えないけれど……ねぇ?」

 

「うん」

 優しい嘘と残酷な真実。優しさが嘘であるならば、俺は真実を知りたい。真実を選ぶ人間は俺だけじゃないはずだ。例えるなら、怖いもの見たさでホラー映画を観てしまうとか。

 

「まぁ、ダメージもありますけど、ちゃんとその分の価値があります」

 面を上げて二人に視線を向ける。

 

「なので、今から二人は俺に近付かないで下さい。女人禁制です」

 

『ホモ』

 姉妹揃って同じ言葉が飛び出てきた。

 

「じゃあ、女の子になりたいので制服貸して下さい」

 

『変態』

 だろうね。

 

「ま、特に被害は無いですし、我慢しますよ」

 

「そう、頑張ってね」

 一旦話に区切りが出来たので、楯無さんがパフェを頬張り始める。

 

「ういっす」

 今日から立ち回りに気を付けよう。俺は心の中でそう誓った。

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