IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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十一話

 ラウラが鈴とセシリアさんを挑発して、戦闘をした日から特に問題無く大会当日の月曜を迎えた。

 が、朝になってある問題に気付いた俺達。

 

「どうしましょう、バナージさん?」

 

「女装しましょうか、リディさんや」

 

「嫌どす。ムダ毛処理してない」

 

「プロ意識高い」

 俺達はベッドに座りながら向かい合って、学園内をどう移動するのか相談中だ。

 今日はバナージが早く起床したので、朝食まで時間は十分。いつもと同じ時間なら慌てただろう。

 

「やった方が移動とか楽だぞ?」

 

「言いたい事はわかってるさ。外部の人の目に付かないようにしようって意味でしょ?」

 

「そうだ。木を隠すなら森の中。人を隠すなら人混みの中。俺達が女子になるなら偽装は完璧だ」

 

「一理ある」

 女子用の制服を着ていれば、簡単に紛れ込めて移動も楽になるだろう。別に嫌な訳じゃない。ただ、今から用意するとなると圧倒的に時間が足りないと思う。それが心配なだけだ。頑張って用意したけど、時間が足らずに頓挫とか目も当てられない。

 

「でも制服は一着しかないんじゃ?」

 

「予備も含めると二着だ」

 

「うん、数はわかった。束さんの所までどうやって取りに行くんだ? 制服は置いてきたんだろ?」

 

「こんな事もあろうかと!」

 バナージが足元に置いてあった鞄の中から、女子用の制服が二着取り出した。

 

「どうして盗んだんだ!? 言え!」

 

「これは自前や!」

 

「知ってるよ。というか、持ってきてたのか」

 

「何かの拍子で必要になるかもと考えて、念のため鞄に入れといた。ちなみに束さんが暇潰しに作ってくれたんだ」

 

「へー、やりそう」

 

「俺とリディさんのサイズはあまり変わらないから、どちらでも着れると思う。問題はスカートの長さだ。膝上と膝下……どっちがいい?」

 二着分のスカートを持っているバナージ。年頃の男子が女子のスカートを両手に持つとか、光景が健全じゃなくてちょっと引く。

 

「膝下」

 

「奇遇だな。俺も膝下だ」

 

『………………』

 被ったという事は、これは勝負をしなければならない。

 バナージが二着のスカートをベッドの上に置いた。

 

『最初はグー! じゃんけんぽん!』

 俺はチョキを出し、バナージがパーを出した。

 

「いよぉし!」

「くっそ……」

 もし他人が今の俺達を見たら変態だと疑うだろう。ある意味その反応は正解だ。だって、趣味に昇華してない女装って変態じゃん。

 

「じゃ、俺は膝下で」

 

「あーあ、膝上かぁ……」

 

「除毛クリームの出番ですな。持ってる?」

 

「もちろんですとも」

 バナージが鞄から除毛クリームを取り出す。

 

「あ……パッチテストしてねぇや。次に化粧道具は?」

 

「用意してありますとも」

 鞄から小さいポーチが二つ出てきた。二つもあるのか。

 

「よし、俺は化粧道具を確認する! バナージは風呂場にゴー!」

 

「イエッサー!」

 除毛クリームとその道具にタオルを持ったバナージは脱衣所へと入っていった。

 

「さてさて、中身を拝見」

 一つのポーチを手に取って中を確認。化粧下地、コンシーラー、ファンデ、チーク、ピューラー、アイシャドウ、アイライナー、アイブロウ、マスカラ、リップと一通り揃っている。中にはあんまり使われてなく、新品同然の道具もあった。

 もう片方の中身を見ると全てが新品だ。これは二つある理由を気にしちゃいけないかも知れない。

 鞄を移動させて自分の横に置いてから中身を見ると、白のハイソックスと黒のオーバーニーソックスが登場。俺の基本カラーは黒なので、黒のニーソだな。白はバナージのカラーなので押し付けてやる。

 サイズを確かめるためにジャージのズボンの片方を、限界まで上げてからニーソを足に通す。すると、問題無く膝上も覆ってくれた。

 

「あっ、締め付け具合が気持ち良くて癖になりそう……はっ!?」

 決して見えてはいけない新たな扉が見えてしまった。バナージ……俺わかったよ。どうやら俺は締め付けられるのが好みらしい。何というか……安堵を覚えてしまう。

 次は制服も着て確かめてみようと、ニーソと上下のジャージを脱いだ後に制服を着てみた。どこもキツく感じない。

 今度は髪型だ。普段の髪型は単純に後ろを結うだけだが、ガラッと印象を変えるために今回は変えるとしよう。

 

 俺は髪を解いた後、後ろの髪を纏めてから全ての毛先を前に持っていき、形を維持するためにゴムで縛る。サイドダウンの完成だ。

 鞄に入ってた鏡を手に取り遠ざけ、制服が入るように覗くと顔以外は別の人が鏡に映っていた。

 

「……誰だこいつ」

 思わず率直な感想が声に出た。髪型と女子用の制服を着ただけで、こうまで変わっちゃうのか。これでメイクを施したら完全な別人になれるだろう。

 最近披露する場が無かった仕込まれた技能を使い、除毛作業を終えたバナージにお見せするとしよう。

 

 

 時間が経ち、除毛を終えたバナージが脱衣所から出てきた。

 

「バナージ! この姿どうよ?」

 

「リディさん!?」

 立っている俺を見たバナージが驚愕で道具一式を落とした。

 

「凄いぞ! 全くの別人じゃないか! 咄嗟にお姉様って呼びたくなっちゃうけど、声を聞くとげんなりするから減点。出直しな」

 

「やっぱ声か……」

 

「黙っていれば美人とはこの事だな、うん」

 それ意味が違う……んじゃないかな。

 

「んじゃ、どうすっかな……女声とか出せんぞ……」

 今から時間一杯練習した所で、到底間に合うとは思えない。そもそも一朝一夕で身に付くものじゃないだろう。

 

「俺がどうやって声を出したか知りたいか?」

 

「教えて」

 

「ボイチェンだ」

 

「裏声じゃないだと……!?」

 

「天地がひっくり返っても無理だろ」

 

「そりゃそうか。一夏をバナージと呼ぶ理由の一つだもんね」

 もし似てなかったら、俺達はガンダムを好きなだけで染まる事は無かったのかも知れない。

 

「ちょっと待ってろ」

 落とした道具を拾ったバナージは、鞄の中に仕舞ってから白と黒の二つの小さい機器を取り出した。

 

「これがそのボイチェンで、黒い方がリディさん。俺の白い方はミヒロ少尉の音声データで、黒のそれは束さんの音声データが入ってる」

 バナージが黒いのを投げてきたので受け取る。角度を変えて観察してみると、映画などでよく見る小さなインカムだとわかった。声がマイクに届くのか不安になる小ささだ。

 

「いくらこれが小さくても、外から見たら丸分かりじゃない?」

 

「髪の毛で隠す」

 

「出来なくはない」

 

「スイッチはここだ」

 バナージはインカムにスイッチを入れると、一部分が赤く光った。

 俺も真似してインカムのスイッチをオンにしたら、同じく一部分が金色に発光。明らかにバンシィを意識してる。もう、こういう時を見越して用意したとしか思えない。

 

「まずはリディさんの音声を登録する所から始めよう」

 やり方をバナージから教わり、実際に操作しながら覚えていく。特に複雑な操作は無いので簡単だ。ボタンを長押しすると光が点滅して登録が開始され、登録が終わると点滅しなくなる。それだけだ。

 

「とりあえず身に着けて喋ってればいいんだよな?」

 

「ああ。電子音が鳴ると完了の合図だ。後は喋れば勝手に変換される」

 

「わかった」

 金の光が点滅しているのを確認してから耳に装着。悪くないフィット感だ。それにイヤホン特有の外部の音を遮断していない。塞いでいるはずなのに、違和感無く聞こえている。補聴器とかこんな感じなのだろうか?

 

「そういえばメイク落としってある? 一回落としたい」

 

「もちろん用意してある。ほれ」

 バナージからクレンジングシートをもらう。

 

「肌に一番ダメージあるやつやん。これは新商品で肌に優しいやつみたいだけど」

 

「え? 束さんはへーきへーきって言ってたけど、シートはダメなのか?」

 

「一見手軽に見えるけど、一般的なクレンジングシートは肌との摩擦や防腐剤が入ってて意外と危険なんだぞ。オイルも相当だけど、シートよりはいい程度だ。俺達は毎日メイクする訳じゃないから、気にするほどじゃないけどさ」

 パッチテストを行わずにファンデを使用している時点で、肌を気にするのは無意味だ。

 

「へー」

 

「化粧というのは洋服と一緒でお洒落の一……って、俺は何で講釈を垂れようとしているのか……」

 

「男の敵め!」

 

「否定したいけど出来そうにない」

 どこでこんな風になってしまったのだろうか。あぁ、中学ぐらいだから一夏のせいだわ。

 

「大体お前のせいじゃん」

 

「すまんかった。許せ」

 

「許す。とっとと落としてくるわ」

 俺は脱衣所へと向かう。クレンジングシートは洗顔の必要もあるからだ。化粧落としたら即終わりじゃない。

 

「ここでやらないのか?」

 

「顔も洗ってさっぱりしときたい。クレンジングシートの落とし穴でもあるからね」

 

「いってらっしゃい」

 

「おう、いってきます」

 クレンジングシートを手に持って脱衣所に入る。女装したままだけど、濡れないように上着だけ脱げば別にいいか。

 髪を一纏めにしてから上を脱ぎ、俺は鏡と向かい合った。見せてもらおうか、新商品のクレンジングシートの性能とやらを。

 

 

 

 

 洗顔の後、女装に必要な諸々を準備してから、俺とバナージはいつもの制服でそれぞれのパートナーと共に朝食を済ませる。その後一旦部屋に戻ってきた。パートナーとは暫しのお別れ。

 各個人のベッドに座って休憩していると、扉がノックされた。

 

「俺が行ってくるから、バナージは服とか隠しておいてちょうだい」

 

「任せろ」

 バナージに頼んだ俺は扉へと近付いてドアを開ける。制服姿の楯無さんがいた。

 

「おはよう、リディ少尉」

 

「おはようございます、楯無さん。何かあったんですか?」

 

「今日から大会が開催されるでしょ? それで二人はどうするのかなーと思って」

 

「もちろんトーナメントに出ますよ」

 一応生徒なので義務は発生する……はずだ。多分。あれ、何か自然と大会に出るつもりだったが、これって出られないのでは?

 

「あ、もしかして俺達は出ちゃダメとか……?」

 

「今朝の生徒会と職員会議で議題にすら挙がらなかったから、そこら辺は問題無いわ。二人がこの学園に馴染んでる証拠よ」

 それはそれでどうなんだろうかと疑問に思うが、何も無いなら安心だ。

 

「よかった……」

 

「で、これから一週間。二人はどうやって過ごすの?」

 

「とりあえず入って下さい。説明しますから」

 

「お邪魔しまーす」

 楯無さんを部屋に入れる。

 

「おはよう、バナージ君」

 

「はい、おはようございます」

 頼んでおいた片付けを済ませたバナージは、楯無さんに挨拶をした。

 

「説明しますね。一言で済んじゃいますけど」

 

「わくわく」

 

「今日から一週間、俺達は女装します」

 

「ホント!? バナージ君のは前に見たから、リディ少尉の姿が見たい!」

 予想通りの反応だ。食いついてくれると信じてた。

 

「でも、制服や化粧品はあるの?」

 

「用意してあります。バナージ、鞄から出して」

 

「はいはい」

 鞄に仕舞った制服と道具セットをもう一度取り出して、楯無さんに見せるバナージ。

 

「どこから盗んだの?」

 

「盗んでませんよ!」

 

「わかってるわかってる。非合法なルートで買ったんでしょ?」

 

「俺を犯罪者に仕立て上げないと気が済まないんですか!?」

 

「ちょっとした冗談だって」

 

「わかってますけど……全く……」

 バナージから制服と道具セットを受け取り、俺は脱衣所に入った。

 まずはジャージを脱いで、ISスーツに着替える。その上から専用の黒いブラと黒のショーツを装着。顔の汗を抑えるため、特にブラの方をきつく締める。

 

「やだな、こんな格好……」

 とんでもなく間抜けな姿が鏡に映った。これを誰かに見られたりしたら自殺しちゃう。角張ったものに頭をぶつけたり、ビームマグナムで頭を吹き飛ばしたり、ビットで体の全てを消滅させたくなるレベル。

 こんな状態から早く抜け出そうと、ニーソとスパッツを穿いてワイシャツを着る。ペチコート付きで膝が見えない程度の長さのスカートを身に着けてから、上の制服を羽織った。一年生用の青いリボンも忘れずに結ぶ。これでさっきより普通だ。

 スイッチをオンにしたボイチェンを装備して、髪型をサイドダウンに変更。紫のカラコンを入れて軽くメイクを行う。

 

「あーあーあー」

 メイクを終えたら発声練習。ボイチェンは問題無く束さんの低音ボイスへと変換してくれる。

 鏡を見ながら喉仏が見にくいよう顎を可能な限り引いて、姿勢を正して準備完了だ。

 今の俺はどこからどう見ても女子生徒になっている……と思う。自分の基準がズレている可能性もあるので、ちょっと自信が無い。客観的な評価を頂こう。

 歩幅も意識して脱衣所から出た俺は、バナージと会話する楯無さんに声を掛けた。

 

「お待たせしました」

 

「!?」

 俺のベッドに座ってバナージと向かい合っていた楯無さんが、声を出さずに飛び退いた。

 

「だっ、誰……?」

 

「マーセナスです」

 

「う、嘘でしょっ!?」

 信じられないといった表情の楯無さん。その反応が見たかった。

 

「これがわたしのポテンシャルです! 大半は化粧のお陰ですけどねぇ!」

 

「だとしても凄いわ! 上から下までじっくり眺めても、リディ少尉の要素が一欠片も見当たらない!」

 強烈な視線を全身に受け、女性っぽく腕を抱いて身を軽く捩る。こんな感じだろうか?

 

『おー!』

 バナージと楯無さんから拍手を貰った。この仕草が正解みたいだ。

 

「ねぇねぇ、一緒に写真撮らせて!」

 

「構いませんよ。記念ですか?」

 

「うん! これは後生大事に残しておくべきよ!」

 

「では、簪も呼んだらどうです? その間にバナージの準備を終わらせておきますから」

 

「いい案ね! 呼んでくるわ!」

 

「はい」

 興奮している楯無さんは慌ただしく部屋を出ていった。あまり急がれてもバナージのメイクが間に合わないので、程々の速度にお願いしたい。行ったからもう頼めないけど。

 

「バナージも着替えてきな」

 

「そうする」

 制服セットを持ってバナージは脱衣所に入っていった。何しようか。特にやる事が見つからない。

 

「……そうだ」

 今の姿を改めて確認するために、俺は近くに置いてある鞄から鏡を取り出して顔を映す。現在の雰囲気を表すとすれば、お嬢様学校に通う少し抜けてそうなお姉様的な感じか。やはり自分だけじゃ、バイアスがかかって評価を下しにくい。

 鏡を机に置いて適当にポーズを作ってみる。かわいい。中の人を考えるとすげーキモイけど。これって言わぬが花というやつ?

 

「終わったぞー」

 

「早いね。まだ五分も経ってないんだけど」

 

「二度目だからな」

 女装姿のバナージが登場。既にボイチェンも使用中で、女性らしい声になっている。後は目元を重点的に化粧すれば、少しは姉に似た顔立ちを誤魔化せるだろう。

 

「変な所は無いか?」

 体を動かしながら、バナージは異常の有無を尋ねてきた。

 

「確認するからちょっと待て」

 

「うい」

 制服の乱れや不自然な点を探すが、特に見当たらない。今回は胸もあって、しっかりと女子になっている。

 

「ばっちり。どこからどう見ても女子生徒だ」

 

「確認サンキュー」

 声の高低を除けば、まるで束さんとミヒロ少尉が会話しているみたいだ。何だろう……不思議な感じ。

 

「ついでに髪型も変えようか。こっちに背中向けて」

 ウィッグのゴムを一旦解き、少し考える。どんな髪型がいいだろうか。

 

「特に考えも無く解いたけど、何かリクエストはある?」

 

「……別に無いな」

 

「うーん……とりあえず髪は後回しにするか。なら、先に化粧するからベッドに座って」

 バナージがベッドに座り、俺は化粧道具を準備。

 

「はーい、目を閉じてじっとしてて。何かあったら手を上げて下さーい」

 無言で頷くバナージに化粧をやり始め、一つずつ順番に行っていくと数分で全てが終了。

 

「メイクってこんなに早く終わるのか?」

 

「大掛かりじゃなければすぐさ。ほれ、鏡だ」

 俺は鏡を渡した後、化粧道具を片付け始める。

 鏡を受け取ったバナージは、覗き込んでから声を上げた。

 

「おー! 千冬姉に似てない」

 

「顔のパーツで目の部分が一番変えやすいんだ」

 

「確かに。ちょっと化粧しただけで全然違うんだな」

 

「そこは腕の見せ所ってやつよ」

 

「中学の頃そんな頻繁に化粧してあげてたっけ?」

 

「忘れてるかも知れないけど、俺って四月末まで普通の高校に通ってたんだぜ? 話の流れで中学の頃に遡った結果、化粧やってほしいと頼まれてな。しかも授業の合間の休み時間にだ。自然と速さも身に付くさ」

 

「普通の高校生活は羨ましいけど、せがまれるのは羨ましくない」

 

「異性だから顔が自然と近付くしでやりにくいから困った。慣れちゃえばどうって事ないけど」

 嫌じゃなかったが、ここぞとばかりに愚痴っていくスタイル。でも、その経験があって今女装の役に立っているという事実がある。人生って不思議。

 会話しながら片付けを終えた所で扉がノックされた。楯無さんが簪を呼んできたのだろう。

 

「今度は俺が行く」

 

「頼む」

 俺は応対を任せると、バナージは扉に向かっていった。しかし、その声で一人称の俺は似合わない。さっき自分も俺と呼んでしまったから、人の事を強く言えないけど。

 ベッドに座って大人しく待つと、バナージを先頭に楯無さんと簪が部屋に入ってきた。

 

「おはよう、簪」

 

「…………夕?」

 簪は首を傾げて確かめるように名を呼ぶ。俺だとわからないらしい。

 

「朝食の時と声や姿が違うけど、中身は同じだ」

 

「綺麗……になったね」

 褒め言葉だと理解出来るが、素直に受け取るべきか悩む。

 

「……見違えただろ?」

 

「うん。たまに夕の所作が女の子みたいに見えたから、きっと今の姿は天職」

 

「ん? 何だって? 俺ってカマっぽいの?」

 女性らしく振る舞った覚えは無いが、簪からはそう見えていたらしい。バナージと楯無さんも頷いている。え?

 

「えー……」

 女装して才覚が表れたんじゃなく、元々備わっていたという新事実が発覚。

 

「何で今まで教えてくれへんかったんや……」

 

『似合ってたから』

 三人は口を揃えた。

 

「いやいやいやいや、似合う似合わないじゃないから。もっと早く……」

 

「常日頃からじゃなくて、ほんのたまにだった。だから大丈夫」

 

「そう言われてもなぁ……」

 

「まぁまぁ、それより写真撮りましょ。時間は有限よ」

 楯無さんがカメラを取り出す。すっきりしないが、俺達は写真撮影を開始した。

 

 

 

 

 気持ちを切り換えて写真撮影を行っていると、登校時間となった。授業は無いがSHRはあるので、三人で教室へと向かう。楯無さんとは途中で別れた。

 一組の教室前で簪とおさらば。ここからが本番だ。

 引き戸に手を添えて深呼吸。少し、というか結構緊張している。教室内はいつも通り騒がしい。いや、今日はトーナメント初日という事も手伝って、一段と賑やかかも知れない。

 俺達は顔を見合わせて頷き、扉を開けた。

 

「ごきげんよう」

「ごきげんよー!」

 教室の中へと入り、俺とバナージは挨拶。クラスメイト達の話し声が一斉に停止した。多分だが、内心誰だこの二人と思っているはず。逆の立場なら俺も同じ事を考える。

 静寂の中、俺達二人はそれぞれの席に座った。ほら、突っ込み所が出来たんだから来いよ。織斑先生と山田先生が来るまで、俺はこのままでもいいんだが?

 

「……クラス間違えてませんか?」

 クラスメイトの一人が敬語で話し掛けてきた。もしかして怖いのだろうか? 見知らぬ人が教室に入ってきて、何食わぬ顔で他人の席に座っている……確かにちょっと怖いな。

 いじめるのも良くないので、ボイチェンをオフにする。

 

「おはよう」

 

「その声はもしかして……り、リディ君!?」

 

「短い付き合いだけど、クラスメイトの顔もわからないなんて悲しいなぁ……」

 

「だって……ねぇ?」

 周囲の生徒達に確認するように話す。周りの生徒も首を上下に激しく振っている。その様はヘドバンに近い。

 

「悪かった、軽い冗談だ。いやさ、今日からトーナメントじゃん? でさ、賓客から見て一夏とシャルルの二人以外に、男子用の制服着てる人間がいたらおかしいじゃない? そこで女装な訳ですよ。そうすれば学園内をほぼ制限無く移動出来るから、偽装してるの」

 謝罪してから理由を説明する。これで伝わるだろう。

 理解した生徒達は俺の所へ集まってきた。

 

「そのメイクって誰がやったの!?」

「それどこの化粧品!?」

「うへへ、姉ちゃんの下着は何色かな?」

「燃料ありがとう! 私頑張るよ!」

「……お姉様って呼んでいいですか?」

「リボン解けちゃった……直して!」

「いつまで女装するの!? これからずっと!?」

「胸とかお尻触りたい!」

 順番に答えようと考えていたけど、矢継ぎ早に質問されて一人一人に返答するのは難しそうだ。

 

「順番に答えるから落ち着いて。後、お触りは厳禁だ」

 先生達が来るまでおもちゃの時間は続いた。

 

 

 クラスメイトの質問に答えていると、織斑先生と山田先生の二人が教室に入ってきた。

 

「いつにも増して今日は騒がしいな。大会だからって浮か……」

 喋りながら教壇に向かう織斑先生の視界に、バナージが入った途端に言葉を止めて目をぱちくりさせる。

 

「おはようございます、織斑先生。リンクスです。今日から大会が終わるまで、万が一人目に触れても問題無い格好します」

 

「……大丈夫か?」

 その心配の仕方は頭という単語が入りそう。

 

「正気です。その方がいいですよね?」

 

「……お前がいいなら私達側は何も問題無いんだが……って、マーセナスの方もか……」

 教壇に立った織斑先生と俺の視線が合う。

 

「……えー、これよりSHRを始める。全員席に着け」

 織斑先生が指示を下すと、立っていた生徒は自分の席へと戻って着席していく。

 

「本日より一週間、学年別個人トーナメントが開催される」

 どうやら俺達に関して触らない方向に決めたみたいだ。誰だってそうする。俺だってそうする。

 

「無様な負けは許さん。全力を出し切って勝ち上がれ」

 

『はい!』

 俺は返事をしながら、初戦から出場しないよう祈った。

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