IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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十三話

 今日は全ての試合が中止となったが、明日から再開して一回戦だけは行うとの事。トーナメント形式という事で忘れそうになるが、実際はデータの収集が目的なので、不参加は認められないのは以前と変わらずだ。

 大会が中止という訳なので、俺達は明日から女装をしなくてもよくなった。すぐに終わるとはいえ、二人分の化粧は手間だ。世の女性達は毎日やるんだから、その点はちょっとだけ尊敬する。

 

「いやー、それにしても今日のリディ少尉は凄くかっこよかったわ」

 食堂で食後の休憩中、対面に座った楯無さんが試合の感想を述べた。

 

「よく見えなかったけど」

 

「適当ですね」

 

「あの速さを肉眼で捉えろと言われても、流石の生徒会長もお手上げよ」

 

「楯無さんが?」

 

「学園最強と言えども、人間のスペックは越えてないわ。もちろん生身でもそれなりに動けるつもりよ。けれど、あくまでISを使った上での実力なの」

 

「まぁ、そうですよね」

 

「なぁに? さいつよのお姉さんに期待しちゃう感じ?」

 

「はい」

 

「これでも花盛りの乙女。わかる?」

 

「候補生じゃなくて代表ですよね? それでもですか?」

 

「過剰な期待を寄せられてお姉さん困っちゃうわ。悪くはないんだけどね」

 楯無さんは困りながらも笑う。生徒会長で国の代表という二つの肩書きを持っていて、これで期待しない方が難しい。

 

「あ、いい事思い付いた! じゃあ、今度お姉さんと戦ってみよっか。もし私がリディ少尉より弱かったら、歴代初の男性生徒会長になれるかも?」

 

「実際に戦った方が手っ取り早いのはわかりますけど、何故負けを視野に入れてるんですか?」

 

「あー、実力見誤ったわー。想定外だったわー、なんて事もありえるでしょう?」

 

「仕事を押し付けたいだけですよね?」

 

「あら、バレちゃった」

 

「そもそも、いつまでいれるかわかりませんから無理ですって」

 

「それもそうね。あー、でも思ったのだけど、リディ少尉は帰れなかった時の事って考えてるの?」

 

「……怖い事言いますね。でも、もしそうなった時は助けて下さい。詰んでるので」

 今の俺は一度帰れたから、二度目の今回も帰れると楽観視している。事前に予兆とか表れてくれたらわかりやすいんだが。経験者のバナージと束さんに一度聞いてみた方がいいかも。

 

「お姉さんの旦那様になってくれるなら、約束して進ぜよう」

 

「俺のどこがいいんです?」

 

「だってリディ少尉安牌なんだもん」

 

「安牌言うな」

 まぁ、どこの馬の骨ともわからない奴と結婚するより、人となりを知る俺を選ぶ気持ちはわからなくはない。

 

「楯無さんは卒業したら大学行きますよね?」

 

「ええ、今の所はその予定よ」

 

「狙うは一流?」

 

「実家の意向次第だけど、きっとそうなるわね」

 

「そこで素敵な殿方を捕まえればいいじゃないですか。楯無さんなら選り取り見取りですよ。あの子キープしとこ、みたいな?」

 

「……何だか頭固そうなイメージがして、ちょっと遠慮したいかな。顔を合わせてると肩こっちゃいそう」

 

「固定観念に捕らわれすぎですよ。今時瓶底眼鏡な人なんて見つかりませんて」

 逆に女慣れしてなくて狙い目かも知れない。自分好みに染め上げる育成ゲームみたいに。

 

「でもー」

 

「まだまだ時間はあるんで頑張って下さい。応援してます」

 

「応援するぐらいなら結婚して!」

 

「じゃ、撤回します」

 

「私の事情を知ってるなら結婚して!」

 

「婚活おばさんみたいになってますよ」

 

「まだ十代! 私の心が傷物にされたので、責任とって結婚しなさい」

 

「もう婚活おばけじゃないですか。結婚結婚言ってると、必死すぎて痛々しいです。しかも十代で」

 

「じゃあ、婚約して」

 

「言葉選びの問題じゃないです」

 

「簪ちゃんはどんな相手がタイプなの?」

 楯無さんは矛先を強引に変える。

 

「……趣味が合う人」

 

「あらあら、それなら目の前のリディ少尉がぴったりじゃなーい?」

 

「ごめん、簪。今まで黙ってたんだけど、実は俺ってダークヒーローが好きなんだ」

 

「……分かり合えない」

 

「あら。じゃあ、お姉ちゃんが貰ってもいい?」

 

「せっかく話題を逸らしたのに自分から戻すんですか」

 

「冗談冗談」

 楯無さん笑って冗談だと誤魔化した。

 

「ま、帰れなかった時は婚約でもしましょうか」

 

「ん? 今何でもって」

 

「言ってないです。幻聴ですよ」

 三人だけだが、夕食後の会話は盛り上がった。主に俺と楯無さんが話していたが。

 

 

 食後の休憩をするために、俺は更識姉妹と一旦別れて自室に戻ろうとすると、部屋の前に男二人と男装女子一人と山田先生がいた。

 

「あ、マーセナス君! ちょうど良かったです! 今日はいいニュースがあるんですよ!」

 山田先生が俺を見つけると元気よく声を掛けてきた。喜びを抑えられないのか、肩が少し弾んでいる。視線を合わせてはいるが、視界の隅っこで胸が軽く揺れたからわかってしまった。その内クーパー靭帯が切れたりしないか、ちょっと心配だ。セクハラになるから面と向かって言えないけど。

 

「何です?」

 

「では、揃ったので皆さんに発表します! 何とですね……今日は大浴場が解禁になりました!」

 

「ほ、本当ですか!? やったぜ!」

 一夏が笑顔でガッツポーズした。凄く嬉しそうだ。俺は別に嬉しくないから、個人的にいいニュースじゃない。

 

「ボイラーの点検中で本来なら女子が使えない日なんですが、今回は特別にという事で許可を貰えました! という訳なので、今日は湯船に浸かって体を休めて下さいね!」

 

「ありがとうございます! 山田先生! 俺、この学園に来て良かったです!」

 感極まった一夏は、山田先生の手を取り礼を言った。成人女性にボデータッチは意図しなくてもセクハラです。後、学園に来たから疲れてる訳で、来なかったらお家や銭湯で自由に入れるんだから、そこを間違えないように。

 

「あ、そんな! ダメですよ……こんな所で……」

 山田先生は優しく注意するが満更でもない様子。寧ろ、本望だと言わんばかりの抵抗の無さ。おい、教師。

 バナージは笑って二人を見ている。反対にシャルルはムスッとしていた。こら、男の子がそんな顔しちゃダメでしょ。ホモかよ。

 二人のやり取りが気に入らないシャルルは、迷う事無く一夏の膝裏に蹴り込む。狙い所にシャルルの機嫌の悪さが表れている。

 

「いっ……うわぁっ!?」

 押すように強く蹴られた一夏は後ろにバランスを崩す。外国のドラマや映画で、特殊部隊とかが同じような動きをしていた気がする。

 

「あっ!?」

 一夏はさっきから山田先生の手を掴んでいたので、離してないという事は引っ張られる。つまり重なるように二人は一緒に倒れた。

 

「す、すみまっ……!?」

 倒れ込み即座に謝ろうとした一夏だが、山田先生の顔を見た瞬間に硬直。顔が一瞬で真っ赤に染まった。この距離なら致し方無し。

 

「あ、織斑君の体ってこんなに逞しいんですね……」

 途中で謝罪を中断したとはいえ、山田先生は一夏の顔を見つめながらうっとりと呟いている。これは初めて男の体に触れて酔ってますね。

 見つめ合う二人を睨み続けるシャルルは、更にむくれて不機嫌になっていく。これが負のスパイラルか。

 

「へい、シャルルァ!」

 

「うん?」

 俺はシャルルの名前を強く呼び上げて振り向かせると、隙のある額に思いっ切りデコピンをかました。成敗!

 

「いったー!?」

 

「おう、シャルルァさんや。この状況どないしてくれんの?」

 

「だ、だって一夏が!」

 片手で額を押さえるシャルルが倒れている二人を指差す。俺はその動きに従うと、ちょうどバナージが救出作業を行って二人を助け起こしていた所を見た。よかった……壁に手をついて爆笑するバナージ君はいなかったんだね。

 起き上がった一夏と山田先生は、顔を赤らめたまま互いに無言で視線を合わさないでいる。あらま、初々しい。

 

「むー」

 気まずい空気が一夏と山田先生の間に流れる中、シャルロットは膨れっ面を更に膨らませてほっぺがぱんぱんな状態だ。ハムスターかな?

 

「あー、先生。ちょっといいですか?」

 

「は、はい! 何でしょうか、マーセナス君」

 

「俺はやめときますね。疲れてるんで、とっととシャワー浴びて寝たいんですよ」

 疲れてるのは事実だが、実際は眠たくない。この場の流れを変えるための方便だ。

 

「いえ、疲れているからこそ、湯船に浸かって疲労回復に努めて下さい! その方が絶対にいいです!」

 

「そうだぞ、リディ! せっかく大浴場が使えるんだから一緒に入ろうぜ!」

 持ち直した一夏が山田先生の援護射撃を始める。さっきまでの雰囲気は微塵も無くなった……が、今度は別の意味で面倒な事態に進んだ。

 

「はよ、シャワー浴びて気持ち良くすやぁしたいんじゃ。今回は堪忍してーや」

 

「バナージも何か言ってくれ! 皆で背中を洗いっこしよう!」

 この一夏の発言に、山田先生とシャルルが頬を染めた。え、もしかして腐ってんの? ホモが嫌いな女はいないからね、ちかたないね。

 

「俺もパス。リディさんと同じで大浴場まで向かう気力があまり……」

 

「そんなバナージまで……」

 一夏はノゾミガタタレターと言わんばかりに落胆した。裸がそんなに好きかぁぁぁぁぁっ!

 

「……無理に勧めるのも良くありませんね。わかりました。じゃあ、マーセナス君とリンクス君は次回という事で」

 

「すみません、山田先生。せっかく用意してもらったのに」

 俺は山田先生に向かって頭を下げると、バナージも一緒になって頭を下げた。

 

「いえいえ、こればかりは強制する訳にいきませんから。今回は急だったのもあると思いますし。次回は是非堪能して下さいね!」

 

「はい。では、これで失礼します」

 もう一度山田先生に頭を下げる。

 

「一夏とシャルルはゆっくりしておいで。次回のために、大浴場がどんなもんか感想を聞かせてちょうだい」

 

「出たら話すけど、次は絶対だぞ!?」

 

「山田先生から聞いたよ。またな」

 俺はバナージの背中を押しながら自室へと入り、扉を閉める。三人の気配が無くなる頃を見計らい、俺はバナージに問う。

 

「普通断るよね?」

 

「うん、断る。シャルルがいるからな。除け者にしたい訳じゃないけどさ」

 

「だよね。俺はそもそも苦手だから、人がいるなら入らないけど」

 背中をぐいぐい押して、バナージを部屋の中央へと進ませる。

 

「さて、バナージはシャワーの順番どっちがいい?」

 

「俺は別にどっちでもいいぞ。リディさんは?」

 

「じゃ、先入らせてもらう」

 

「寝るなよ」

 

「立ったまま寝られるほど器用じゃないから」

 着替えとタオルを準備して、俺は脱衣所へと向かった。今日の入浴時間は長くなりそうだ。

 

 

 

 

 次の日の朝、教室で各々の生徒が喋っていると織斑先生と山田先生が入ってきた。立って友人とお喋りしていた生徒は自分の席に急いで座る。

 教壇に立つ山田先生が憂鬱そうな表情を隠さず、表に出していた。隣にいる織斑先生も何だか面倒そうな表情をしている。

 何かあったのだろうかと考えていると、俺はある事に気付く。そういえば、今朝からシャルルを見掛けてないと。だから何だと言われたらそれまでだが。

 

「えー……今日は皆さんに転校生を紹介します、というかしてました……?」

 

「山田先生……」

 織斑先生が山田先生に優しく声を掛けた。すんごい慈悲深い表情をしておられる。珍しい。

 

「あ、ごめんなさい。では、入って下さい……」

 山田先生が弱々しく呼ぶと、戸が開く。姿を現したのは、お馴染みフランスの代表候補生シャルル・デュノア。だが、昨日までとは違った制服を着ている。喉仏を隠すために制服の中に着ていたタートルネックは無くなり、ズボンはスカートに変わって生足だ。色白だからレフ板みたいになってて眩しい。

 堂々とした振る舞いで教壇の前に立ち、シャルルは笑顔で席に座る生徒達を見渡す。普段は騒がしい一組の生徒が静かだ。俺があの場に立つなら萎縮している。

 

「自己紹介をお願いします……」

 

「シャルロット・デュノアです。改めて、今日からよろしくお願いします」

 

「実はデュノア君ではなく、デュノアさんでした……」

 

『………………』

 このクラスの生徒達は、このまま黙っていられるほど我慢強くはない。嵐の前の静けさとはこの事か。

 俺はショックウェーブに備えるため、机に顔を伏せて耳と目を塞ぎ口を開ける。スタングレネードとフラッシュバンの違いって何だろう?

 そして数秒経ってから地響きが起きた。塞いだはずの耳から生徒達の絶叫が聞こえ、机と椅子からビリビリとした振動が体に伝わる。これは一種の音響兵器だろう。

 しばらくして机や椅子の揺れが収まり、俺は顔を上げる。すると、いつもの制服を着たラウラが腕を組んで一夏の前に立っている。前に見た。

 

「な、何か用か……?」

 一見不機嫌そうに見える無表情で不動なラウラに、一夏は尋ねた。今まではそれなりに予測は出来たが、これは予想もつかない。

 

「時よ、止まれ。君は誰よりも美しいから」

 

「……へ? どうい――――」

 訳のわからない言葉を問い質そうとした一夏だが、言葉を続ける前に唇を塞がれた。ラウラの唇によって。

 一連の流れを見守っていたクラスの連中は、ラウラの突然の行動に絶句。事の成り行きを静かに注視していた教師の二人も固まった。

 顎クイからの流れるようなキスは、惚れ惚れするほど鮮やかなテクニックだ。他人だから感心して見ていられるが、俺がされたらキャパがオーバーして泣いちゃうね。あれ……キスされて泣くのって、大抵女性側がよく起こす反応じゃ……?

 

「――――これからお前は生涯私の伴侶だ。異論は認めん」

 

「……ぶはっ!」

 前の席に座るバナージが吹き出した。ラウラに前口上を仕込んだ犯人が判明。SHRが終了したらバナージから詳細を聞こう。どうしてこうなったのかと。

 

「なん、ひ、人前で何と破廉恥な行為を!?」

 セシリアさんが立ち上がり、机と椅子の両方に足を乗せた。腕のみ部分展開を行って狙撃銃のスターライトmkⅢを、二人に向ける。はい、反省文。

 その様は似合ってはいるが、淑女が机を踏み付けるとか完全にアウトだ。そこはお立ち台じゃありません。とっくの昔にバブルは弾けたんだよ。

 

「そ、そうだよ! セシリアじゃないけど、それは無いんじゃないかな?」

 こめかみに青筋を立てているシャルロットも、部分展開してアサルトライフルのヴェントを構えた。はい、あなたも反省文。

 

「ふん……」

 やはりバナージと一夏以外には素っ気ない。

 

「デュノアの自己紹介が済んだのなら、いい加減座れガキ共」

 再起動した織斑先生が出席簿でシャルロットの後頭部を叩く。次に織斑先生は出席簿を投擲して、角がラウラの後頭部にヒット。それが跳ね返ってセシリアさんの頭に角が当たった。三人は痛みで頭を抱える。後半の二人は特に痛そう。

 最後に勢いが無くなった出席簿は落下。床に落ちる前に俺がスライディングで回収し、黒子のように素早く移動して織斑先生に渡した。

 

「すまんな。えー、忘れてはいないだろうが、つい先日中止となった一回戦を今日から再開していく。指定された日時が今日の生徒はアリーナへ、それ以外の生徒は通常の授業を行う」

 織斑先生がお知らせを話す最中に俺は席に戻ると、先ほど叩かれた三人も大人しく席に着席している。頭を未だに押さえてる最中。真面目にしてれば叩かれる事は無かったのに……と、カミーユ理論を心の中で君達に送ろう。

 突発的な出来事に見舞われたが、SHRは織斑先生の手によって無事終わりを迎えた。さすブリュ。

 

 

 

 

 問題は起こったが、全生徒が一試合を済ませると休日に入った。今度は臨海学校が始まる。この休日で一年生はこぞって水着と旅支度を行うだろう。特に水着は気合いを入れて。

 今日は日曜だが、まだ俺達は帰らずにいる。なので、そのまま臨海学校にお供するつもりだ。寝て起きて元の世界に戻っていたら笑えないが。

 

「おはよう、バナージ。今少しだけいいか?」

 朝に俺とバナージが自室で鞄を整理していると、部屋にラウラが尋ねてきた。今まで視界に入る者全てに噛み付きそうだったラウラだが、今や飼い慣らされた犬のように大人しい。

 

「おはよう、ラウラ。構わないけど、何かあったか?」

 今回は旅行用の鞄が既にあるので、荷物を取り出せば新しく購入しなくてもいい。水着などは買わなきゃダメだが。

 

「実は、一夏を買い物に誘おうとした訳だが、どういう風に誘えばいいか迷ってしまってな。そのアドバイスをもらいにきた」

 

「普通に誘えばいいと思うぞ」

 

「……何てだ?」

 

「いや、だから普通にだ」

 

「私にはその普通がわからないんだ……」

 

「あっ……」

 俺は手を動かしたまま、扉を挟んでいる二人の話に耳を傾けていると、ラウラの言葉を察したバナージは声を詰まらせる。何だこの空気。聞いてるこっちが居た堪れないわ。

 

「あー、うん。一夏に直接会って、一緒に買い物行きたいと言えばいい。それだけで意志は十分示せる」

 

「……もし断られたらどうすれば?」

 

「断る事は無いんじゃないか? 今日準備出来なきゃ明日に間に合わないし」

 

「……そうか。そうだな。やってみる。礼を言う」

 

「ああ、頑張れ」

 会話を終えるとラウラは一夏の所へと向かった。最近のバナージは、ラウラを見る目が我が子のそれに似ている気がする。子供いないけど。父性に目覚めたのだろうか。

 

「……子供っていいよな」

 

「ロリコンでも拗らせたか大佐」

 

「私は大尉だ」

 

「中の人変わってませんが」

 

「訳知り顔で人の中へずけずけと入り込む……君は実に不快な人間だ」

 

「その声で大佐っぽく言われても」

 

「懺悔の用意はできているか!」

 

「合ってるけど違う。でも怒っているのはわかった」

 

「いやさ、ラウラって軍隊という特殊な環境で育っただろ? その状態で日本に来たから常識とかあまり知らないんだ。だから色々と聞かれてさ。それが純真無垢な子供の姿を彷彿とさせて、可愛くて仕方無いんだよ。最近はクラスメイトとも話せるようになったし、これからもっと打ち解けていく姿を想像すると楽しみで楽しみで」

 だらしない表情でバナージはラウラについて長々と語る。あー、これは子供が出来たら親バカになるタイプですわ。その片鱗が早速見えている。しかも何気に子供扱いとか失礼に値しそう。

 

「そう」

 

「素っ気無いなぁ」

 

「この話題をどう膨らませろと?」

 

「リディさんは子供欲しいと思わないのか?」

 

「まだ高一だから考えた事無い」

 それを考えるとなると、元の世界の鈴と楯無さんとの関係をどうするか真っ先に頭に浮かんでしまう。なので、未来の事は知らない。

 

「ははーん。さては、二人の事だな?」

 

「何故バレたし」

 

「こうなったらお前達が俺の翼だエンドに持ち込もう」

 

「普通に最低じゃないか。アニメは終わっても現実は続いていくんやで?」

 

「リディさんなら許されるだろ」

 

「何で?」

 

「坊ちゃまでIS動かせるから」

 

「立場とか出てくると、生々しくなってくからやめろ」

 

「俺が最初の可能性で一筋。リディさんは新たな可能性で二筋。これでどうだ?」

 

「どうだじゃねぇよ。どう言い繕おうとも最低だから」

 

「デュノア家を見てみろよ」

 

「最低じゃん」

 

「返す言葉もございません」

 

「立場的に世継ぎが必要で許されるのはわかるけど、子供が可哀相だから俺は嫌だ」

 

「ほう、それは実体験からのお言葉で?」

 

「いやぁ、一人っ子の俺には関係無いよ?」

 

「両親がいるだけマシだろォ!」

 

「ごめんなさい」

 

「一体何やってるんだろうな……」

 

「おやおや、パパとママに会いたいのかい?」

 

「今更現れても自分の親とは思えないな。親だと名乗られても実感が無いっていうか」

 

「実感ねぇ」

 

「例えばだけど、実はリディさんに兄弟がいました」

 

「親の頬を右ストレートで殴る。主に、兄弟を今まで放置したから」

 

「あー、怒りと悲しみでバイオレンスにいっちゃうのか。俺の例えが悪かったわ。簡単に説明するとだな……弾が死んだ」

 

「うん、葬式に出たとしても実感が湧かないな。後でちゃんとごめんなさいしろよ」

 

「おう、今度何か作ってやる」

 

「で?」

 

「そう、他人としか感じられないんだ。あまり覚えてないのもあって」

 

「なるほど」

 先ほどまで明るかった話題が進んでいくと、段々暗くなってしんみりしてきた。

 

「まぁ、たまにはネガティブな話も楽しいけど、今は明日の臨海学校の事を考えよう。もう一度海で遊んで実弾撃てるんだぞ? わくわくしてこないか?」

 

「新武器無いからつまんない」

 

「ユニコーンは完成してるじゃん」

 

「アンチェインドが欲しいんじゃー」

 

「それは新武器というか新形態だな。形だけならあるんじゃない?」

 

「寺生まれのTさんみたいに破ァ! したらISの機能を停止とか出来たらいいのに」

 

「おい、零落白夜を忘れてやるなよ。あっちは攻撃だけど」

 

「エネルギーの消費がなー……バンシィのアームド・アーマーXCくれない? 零落白夜より、俺はもっとビームマグナムが撃ちたいんだよ!」

 持ってかれたら、多分この先俺が勝つ事は無いだろう。拒否せねば。

 

「やだよ」

 

「けち」

 

「けちで構わん。あ、それよりそろそろ時間だ。急ぐぞ」

 時計を見ると待ち合わせの時間まで猶予は無かった。これから俺とバナージは簪と一緒に、臨海学校に必要な物を揃えるために買い物へ行く予定だ。

 

「うい」

 俺達は私服に着替え、走らず急いで集合場所へと向かった。

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