IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

77 / 87
十六話

「お前を頂く!」

「君を止める!」

 俺達は前へと進み、初手から近接戦に突入しようとしていた。エムの狙いはわからないが、近接用のショートブレードを握っている。格闘で勝てる見込みがあるのかも知れない。

 策があろうと、こちらとしては好都合だ。勝手に近寄ってきてくれるなら追っ掛けずに済む。

 

「バンシィ!」

 バンシィの名を力強く叫ぶとワンオフが発動した。

 

「何っ!?」

 手の届く間合いで金色に輝く球状のサイコフィールドが展開され、エムの動きがピタリと停止する。

 

「油断したな!」

 

「クソッ! 動けっ!」

 

「終わり!」

 無手の方にリムーバーを呼び、身動きがとれないエムの体に押し付ける。すると、エムのISが強制解除された。

 

剥離剤(リムーバー )だと!? 小型化に成功していたのか!?」

 ISが消え去ったため、飛行能力を失い生身になったエムが海へと落下していく。

 アームド・アーマーDE以外の全武装を収納してから、エムへと片腕を伸ばして抱き留める。

 

「勝負あったな」

 

「くっ……私の、負けだ……!」

 悔しさを隠し切れてないが、思いの外あっさりと敗北を認めるエム。罠でも仕掛けてあるのかと勘ぐってしまいそうだ。

 エムは抵抗する素振りを見せない。もしかして、本当に何も無いのだろうか? そうだとしたら肩透かしにもほどがある。

 

「エム、君の顔って……」

 気付けば、ずっとバイザーで隠れ続けていたエムの顔を初めて目にした。その顔立ちは織斑先生に凄く似ている。織斑先生が変な薬を飲んで体が縮んだ状態がエム。そう言われれば信じても不思議じゃないくらい酷似していた。アポトキシン飲んだ?

 

「……姉さんに似てる、か?」

 

「姉さん? もしかして双子だったり?」

 

「双子じゃない。年が離れた妹だ」

 

「じゃあ、一夏は兄? 弟?」

 

「家族は私と姉さんだけだ」

 

「あ、はい」

 織斑先生を姉さんと言い、一夏の存在は認めてないらしい。事情が複雑そうなので触れずに流しておこう。

 

「さて、勝者の権利だ。織斑姉弟を狙うのはやめてもらう。それと色々聞かせてもらうぞ。いいよな?」

 

「……私は自他共に認める悪人だが、一握りのプライドぐらいは持ち合わせている。始末してきた外道な連中の仲間入りはごめんだ。だから大人しく従おう」

 

「そりゃ助かる。と、その前に……」

 空いている手に注射器を取り出し、エムに差し出す。

 

「使ってくれ」

 

「……いいのか?」

 

「望まない所もある賭けに勝ったのに話してる最中に死なれたら困るからな。トラブルに巻き込まれたのは問題あるけど済んだ話だ。けど、別の問題を放置してトラウマを作りたくない。具体的に死体の処理。海にドボンと落とすのも罰当たりだし、どこかの島に埋めるのも嫌だ」

 

「……なるほど。わかった」

 納得したのか笑みを浮かべて頷いたエムが注射器を受け取る。俺は注射器が打ちやすいように両腕でエムの体を抱きかかえた。

 

「それと私の名前はマドカだ。そう呼べ」

 

「マドカね、覚えた」

 マドカは注射器を握り締め、反対の腕に押し付ける。痛みがあったのか、一瞬だけ眉をひそめた。

 

「どう? 効いてる感じする?」

 

「……体の内側が燃えるように熱くて痛い」

 マドカは表情を動かさず、淡々と自身の変化を打ち明ける。

 

「だ、大丈夫か!? 辛いなら、どこか横になれる場所を探すぞ!?」

 

「慌てるな。このぐらいの痛み、あの連中とおさらば出来るなら屁でもないさ」

 

「それならいいんだけど……」

 

「という事はだ。首輪が外れたんだから組織は私が逃亡したと判断する」

 

「お、おう?」

 

「つまり、私に帰る場所が無くなった。二度と帰りたく無いが」

 

「うん?」

 

「約束は守ってもらうぞ」

 

「あーあー……それが狙いか」

 俺が見過ごさないと判断したマドカは、あの条件を急遽取り付けたんだろう。だから問答無用で強引に押し進めた。ある意味罠に引っ掛かった状態だ。

 

「俺に今後の面倒を見ろって?」

 

「そうだ」

 

「悪いけど数日しか無理だぞ?」

 

「……何故だ?」

 

「うーん…………簡単に説明すると、この世界の住人じゃないんだよ、俺って」

 隠さず正直に話す。誤魔化すのも限度があるし、今なら暴れられても容易に取り押さえられる。もう一回戦やっちゃう?

 

「……は?」

 

「おかしいと思わない? 一夏が二人、男が三人いるのに」

 

「……そういえば」

 今気付いたといったリアクションをとるマドカ。気付いてなかったのか。情報が無いのに接近戦を仕掛けてきた所を鑑みると、意外と抜けているのかも知れない。

 

「だからマドカの面倒は見れない。今日明日は何とかなっても、数日したらこの世界から消えるからな。だから拒否したんだぞ」

 

「……お前、潔く負けを認めた私より最低だな」

 

「ごめんなさい」

 元はと言えばマドカが悪い。俺は悪くねぇ! が、謝るのは道理だろう。

 

「ま、いいさ。肥溜めみたいな組織から抜け出せたんだ。それで全てチャラにしてやる」

 

「マド神様!」

 

「崇めなくていい。だが、今後の私をどうするかお前に考えてもらう。早速狙っていた寄生先が無くなったからな」

 

「寄生先て……まずマドカ自身はどうしたい?」

 

「少なくとも、あんな世界から手を引きたいな。好んで足を突っ込んでたと思うか?」

 

「何か事情があったんだろ? マドカを見てれば察せる。ただ、今から一般的な生活に戻れないだろうね。粛清されそうだし」

 

「私の顔は組織の人間しか知らないから、そいつらが出てこなければ問題無い」

 

「それ、絶対出てくるでしょ。そうならないよう山奥に住むとかは? それなら周囲の人間を巻き込まず、大事にはならないぞ」

 

「今から一人で静かに暮らせと?」

 

「寂しいんですかい?」

 俺なら絶対に耐えられない。前回で実証済みだ。

 

「感情以前に、自給自足の準備が済んでない。一朝一夕に出来るとでも思ってるのか?」

 

「あー、今からじゃ間に合わんな。じゃあ、顔を知ってる組織の人間皆殺しにしたらどう?」

 

「ははっ、お前みたいな奴から皆殺しって単語が出るとは思ってなかったよ」

 俺の発言にマドカは愉快そうに笑った。どや、ワイルドやろ?

 

「で、そいつらが死んで悲しむ人っている?」

 

「あの連中は既に死人だ。殺しても存在が明るみに出る可能性は、再び世界がひっくり返ってもありえない。それだけ深く闇に入り込んでいる人間だ」

 

「よし、殺っちゃえ。最後に引導を渡して足を洗おうぜ」

 

「最初に手を引きたいと言ったはずだが? アジトは知っているが、もう一度踏み入れたくない。命令だからやっただけで、自分の意志と手を使って連中の血を浴びるのはごめんだね」

 

「そっかー。じゃ、放置しよう」

 先に潰しておくと後腐れ無いんだが、本人が嫌だと言っているし無理強いは出来ない。ただ、どうしても不安だ。

 

「そうしてくれ」

 

「……少し話が戻るけど、一件だけマドカが住めそうな所がある」

 

「どんな場所だ?」

 

「山中だけど街が近めで、電気、水道、ガス完備。コンクリートに囲まれた部屋で広くないけど複数。そんな感じ」

 

「……実物を見ないと判断出来ないが、聞いてる限り悪くなさそうだ」

 

「よっしゃ、通信入れて確認するから待ってろ。薬を作った張本人だから、心配しなくても大丈夫だ」

 

「そいつは何者だ? ナノマシン用の中和剤は自分達でも作れなかった代物だと、奴らはこぼしていた。それを可能とする人間は……」

 

「篠ノ之束」

 俺はドヤ顔で名を教える。俺の顔はマドカに見えないけど。

 

「……あれがか? 前々から評判を耳にしていたが、一個人を自発的に救おうとする人間とは思えないんだが」

 

「実はバナージと同じで篠ノ之束が二人いるんだよねぇ」

 

「またか!? 一体どうなっているんだこの世界は!?」

 

「知らんがな。俺も聞きたいわ」

 マドカとの話が一段落して、俺は束さんに通信を入れる。お、ジャミング消えてんじゃーん。

 

『はいさーい! 患者さんはどうなったかな?』

 呼び出すと、束さんは数秒で応答した。

 

「捕まえましたよ」

 

『やったぁ! 狙い通り美少女ゲットだぜ! このまま持ち帰ってメーデーメーデー愛でようぜー!』

 先刻の俺と同じ考えをしている束さん。

 

「これって後の事も考えた上での行動ですよね?」

 

『そだよー。じゃなきゃ、薬なんて作らないよ』

 

「目的は何です?」

 

『いやぁ、だって可哀想じゃん? 家庭内の事情は詳しく調べてないけど、織斑千冬似の人間が裏社会で生きてたら助けたくなるでしょ? 更に劣悪な環境で生活してると知れば保護したくなるでしょう?』

 

「あー」

 

『格の違いを見せつけてやる意味も含めて助けてみた』

 博士の方は知らないと思うから意味が無さそう。

 

『ま、表には出せない存在だから隠れててもらうけどね。シーラボに』

 

「それ化粧品メーカーや」

 

『いいツッコミだ。マイラボね、マイラボ。どうせしばらく使わないだろうし、人の住まない家は朽ちるのが早いって言うからね。彼女はちょうどいい人材なのだよ』

 

「要は管理してくれと」

 

『うん、正解』

 

「悪用しないと信じてるんですね」

 

『ボロ出せば自分が危うくなるから、やらないと思うよ? ま、強制はしないさ。行きたい場所があるなら好きにさせる。可愛い子には旅をさせよってね』

 

「既に旅して身内を恨むぐらいボロボロなんですが」

 

『知ら管』

 諸行無常。

 

「それで、これからどう動けばいいですか?」

 

『とりあえず、彼女には夜まで隠れてもらって、それから私が会ってラボに連れてくよ。私は外部の人間で旅館に泊まれないからさ。新鮮な刺身食べたかったなー、かんりょのシースー』

 残念ながら食事に寿司は出ないのです。

 

「了解です。では、また後ほど」

 

『あいよー』

 通信が切れた。束さんとのやり取りはいつだって楽しい。

 

「束さんが今夜会おうだって」

 

「構わない。最低限の寝床があれば、死の呪縛から解放された私に文句は無いよ」

 

「そうか。マドカは織斑千冬に会いたい?」

 

「別に。今更顔を合わせてもどうにもならん。同じく、織斑一夏に対してもだ」

 

「やけにさっぱりしてるな。二人を殺したかったんじゃ?」

 

「……過酷な環境では憎悪や殺意などの負の感情が一番糧になるって、お前は知ってるか? あの組織の一員じゃ無かったら、実は嫉妬の一つ二つで済んだのさ」

 

「よくわからんが、相当込み入った家庭なんだな」

 

「話す気は無いぞ」

 

「興味無いね」

 

「それはそれで腹立つ」

 

「どうしろと」

 

「ま、気が向いたら教えてやる」

 

「わかった。明日までにお願いね」

 

「待て、性急すぎるぞ」

 

「だって早くしないと元の世界に帰っちゃうから」

 

「あぁ、その件か」

 

「話すならイマ」

 

「……やめておく。身内の恥を会ったばかりの他人にさらけ出すほど、前後不覚に陥っちゃいない」

 

「そうかー。今後は何したい?」

 

「さぁな、休暇なんてもらったのは所属してから初めてだ。余暇の過ごし方なんて知らん」

 

「マジか。そんなにブラックだったの?」

 

「存在共々真っ黒だったよ。年中無休で毎日大量の任務や依頼が舞い込むけど、一銭の給料も入ってこない。衣食住と揃っていても、贅沢品や自分が欲しい物は支給されない。食事だって消しゴムみたいなレーションばかりで、部屋は独房に近くてトイレも風呂も丸見えだ。プライベートとは無縁な生活さ」

 

「oh……そりゃ、どこかに恨みを向けなきゃ日々をやってけんな」

 

「だから反抗的な態度を見せないよう年増とレズに怒りを向けず、わかりやすい身内に向けたんだ。実際に恨む口実があるから、何とかやっていけた」

 年増とレズ?

 

「苦労してるんだな」

 

「安い同情はよせ。この感情は私だけの物だ」

 

「誰も奪わないって。いらん」

 

「蔑ろにされるのも癪だな」

 

「面倒な奴やな」

 

「私をこんな風にした苦情は姉さんに言え」

 

「じゃあ、お宅の妹さんがこんな事を仰ってたって織斑先生に言っとくね」

 

「やめろ。話すな。私の存在が傍にあると姉さんが知れば、会いたいと必ず言ってくるはずだ。そして実際に現れれば、私は自分が抑えられなくなる」

 

「そこまで会いたくない?」

 

「顔も見たくない。だから和解させようとか変な考えは捨ててくれ。組織から解放されたとはいえ、何年も抱き続けた感情は本物だ。嘘にはならないし、帳消しにも出来ない」

 

「わかった。黙っておくよ」

 しばらくそっとしておくのが一番だ。タブーとして記憶しとこう。

 

「んじゃ、今から置いてきちゃった二人に合流する訳だが……マドカ、君のISってどうなってる?」

 

「剥離剤はISを強制的に待機形態に戻す装置であって、破壊する兵器じゃない。ちゃんと起動するよ」

 マドカが俺の腕から逃れ、海へと落下する瞬間にISを起動させると、さっきと寸分違わない機体が出現した。個人的にはあまりかっこよくない機体だ。

 

「ほらな」

 

「確認した。それじゃ、しばらくどこかに隠れてくれ。嫌なら逃げても構わない」

 

「バカか貴様。大事な寝床をみすみす逃すつもりは無い」

 

「わかった。俺は戻るよ。識別コードを登録しといたから、何かあったら通信をくれ」

 

「ああ」

 首を縦に振ったマドカを見てから脇を通りすぎて、楯無さんと簪の下へ飛ぶ。エネルギーは減ってしまったが、戦闘は十分可能な残量だ。

 数分間飛行を続けると、二人が指定座標から動かず佇んでいたのを発見。持ち場を離れてなかったみたいだ。

 

「へい、ただいま」

 

「夕!」

「夕君!」

 俺の姿を見た二人が駆け寄ってくる時、楯無さんが本名で呼んでき事に気付く。もしかして余裕が無かったのだろうか?

 

「俺が連れ去られた以外、変化とかありました?」

 

「もう、こっちは気が気じゃなかったのよ! 今の今まで通信は出来ないし、分断工作かもと思って捜しにいく訳にもいかなくて!」

 平然としている俺に向かって、楯無さんはぷんぷんと怒っている。

 

「この通り大丈夫ですよ。何とか追い払えました」

 

「見た事無い機体だったけど、あれは何だったの?」

 楯無さんがおこだからか、代わりに冷静な簪が敵の正体を尋ねてきた。

 

「わからん。とりあえず襲われたから迎撃しただけで、特に何も無かったよ」

 

「あれはきっと、イギリス本国で何者かに強奪されたサイレント・ゼフィルスね。という事は……」

 怒りが治まった楯無さんが機体の名称を教えてくれた。貴重なISを盗むなんて、マドカはんは悪いやっちゃで。大方組織の命令だろうけど。

 

「俺が狙われた理由は何でしょうか? 色々と試みたんですけど、応答は無くて終始無言でした。ちょびっとでも喋ってくれれば少しは引き出せたかも知れないのになー……」

 嘘八百だ。目的も正体も判明している。ただ俺とバナージの情報をどこで知ったのかは未確認だった。学園にスパイとか潜り込んでそう。

 

「判断材料が少なすぎて私にもわからないわ」

 

「ですよねー。それでは、無事に帰ってきたので作戦に戻りましょう。まだ仕留めてないですよね?」

 

「通信回線が開かないから状況が……あれ、通じてる……」

 

「……ホントだ」

 首を傾げる楯無さんと簪を余所に、俺は空を見上げて通信がくるのを待った。

 

 

 

 

 待機してから数十分が経ち、銀の福音の鎮圧に成功とA班から連絡が入り、B班の俺達は旅館へと戻る。

 浜辺に帰ってくるとA班の面子と織斑先生達が待っており、遠くで教員の方々が担架に人を乗せて運んでいるのが見えた。担架に横たわっているのは、きっと銀の福音の搭乗者だろう。

 ISを解除して先に出来ていたA班の列に加わる。

 

「三人も帰ってきたか。これで全員揃ったな。良くやった、お前達」

 

「皆さんが無事で、本当に良かったです」

 織斑先生と山田先生が出迎えてくれた。

 

「疲れているだろうが、少し時間をくれ。今後の予定を伝える。これから我々は事後処理を行うため、午後からの試験は全て中止だ。生徒全員は自室で大人しくしていろ。後、他人の部屋に行くのは禁止だ」

 

『えーっ!?』

 A班の女子全員が驚いて叫んだ。織斑先生の言う事におかしい所はありませぬが。

 

「どうして行ってはダメなんですか!? 授業がキャンセルであれば自由時間と同じでは!?」

 珍しく箒が織斑先生に抗議を行った。普段なら、いの一番で反発するタイプじゃないので、きっと戦闘時の興奮状態が続いているのだろう。

 

「自習と同じだ。出歩かなければ何をしても咎めないと、私は言っている。余計な問題を起こしてほしくないんだ。身に覚えが無いとは言わせないぞ」

 

「……あちらの説得が長くなりそうなので、織斑君達は先に戻ってもらって構いません。今日はお疲れ様でした」

 織斑先生がトラブルメーカーの面々に釘を打つ最中、男の俺達と更識姉妹は山田先生から帰ってもいいと許可が出る。

 

「わかりました。山田先生も頑張って下さい」

 一夏が返事をした。

 

「はい! ありがとうございます!」

 早速問題を起こすA班女子を残し、俺達は旅館へと歩き始めた。まずは更衣室に向かい、ISスーツを着替えよう。

 更衣室の前に到着すると、男女で分かれて更衣室に入る。ISスーツから浴衣に着替え、外に出て簪と楯無さんを待つ。二人が着替え終わったら自室まで一緒に移動。部屋の前に到着したら二人とは別れて室内へと入る。

 

「あぁー……」

「うぅー……」

 着いて早々一夏は畳に寝そべり、バナージは座布団に座るが体をテーブルに突っ伏した。二人の呻き声がゾンビみたいだ。相当疲れているらしい。

 

「お疲れさん、二人共。銀の福音と戦ってみた感想は?」

 俺は部屋に備え付けてあるポットを使用し、動けそうにない二人にお茶を出す。

 

「銀の福音はユニコーンや紅椿ほど速くなかったけど、それでも触れるのに苦戦したな。あの弾幕が濃いから近付けないんだ」

 

「そんなに凄かったの?」

 

「移動しながらエネルギー弾が矢継ぎ早に降ってきて、回避するのもシールドで防ぐのも面倒だった」

 

「ふんふん」

 

「とりあえず最初は、射撃で徐々にシールドエネルギーを削る作戦だったんだけど、何か見えたのか一夏が突貫して銀の福音に一太刀浴びせた」

 

「ほうほう。やるじゃないか」

 

「易々とやってのけたから、俺達いらないんじゃないかって誰もが思い始めてさ、しばらく一夏の援護に徹したんだ」

 

「それで?」

 

「銀の福音の進行ルートを俺達の射撃でコントロールして、一夏が零落白夜で弾を消しながら攻撃を当てる。それが数回続いた」

 

「大活躍じゃないですか、一夏さん。どうやったんですか?」

 寝っ転がる一夏に話し掛ける。

 

「……前にリディ達と訓練したの覚えてるか?」

 

「やったっけ?」

 

「ほら、俺とシャルの二人がタッグを組むきっかけになった時の訓練」

 

「……そういえばあったね」

 覚えてはいるが、細かな部分は記憶に無い。

 

「銀の福音見てたら思い出して、もしかしたらって思ったら体が勝手に動いた」

 

「なるほど」

 

「皆が銀の福音のルートを絞ってくれたのも手伝って、最低限の攻撃を切り払って進むと届いたってだけだ。俺だけの力じゃない」

 

「謙遜しなくていい。今日の立役者は間違いなく一夏だ。多数決でもとるか? 満場一致で一夏が選ばれるぞ」

 

「は、恥ずかしいからあまり言わないでくれ……」

 

「その思い切りの良さは、俺には無い歴とした一夏の武器だ。果敢に切り込んでいく姿はかっこよかったぞ。我が軍の英雄様ー!」

 

「ここまで褒めちぎられるとくすぐったいな……」

 一夏は寝たまま座布団を引っ張り出してから、顔を埋めた。どうやら褒められる事に慣れてないらしい。おい、先生。流石に飴もあげなよ。

 

「そして俺達は銀の福音の進行を無事に阻止したんだ」

 

「へぇ」

 

「白式の機動力じゃ銀の福音に追い付けなくて、一回一回お膳立てしたから時間が掛かったけどな」

 

「ほー」

 

「あのさ、さっきからリディさんの返事が生返事にしか聞こえないんだけど」

 

「いやいや、聞いてる聞いてる! 普通に頷いてるだけだってば!」

 今までの話はちゃんと耳に入れていたが、確かに指摘されると生返事に聞こえてしまう。

 

「MVPが一夏って把握したよ」

 夏休み返上にならなくて済んだ事もわかった。

 

「一夏が倒しちゃったから、リディさんの方は暇だったろ?」

 

「いや、何か知らん機体に襲われた」

 

「……大丈夫だったのか?」

 

「怪我してない俺が証拠だ。まぁ、ここから出ていけされて一対一になったけどね」

 

「敵の目的は?」

 

「威力偵察じゃないかな? ほら、バンシィって学園じゃ珍しい全身装甲(フルスキン)だし」

 実際はバナージの情報が欲しかっただけだ。

 

「確かにユニコーンとバンシィは見慣れないもんな」

 

「撃退したから無事な訳だ」

 正確に言えば無力化してお持ち帰りした。今頃マドカは何をしているんだろうか。

 

「そういえばさ、一夏って姉以外に兄やら弟とかほしいと思った事ある?」

 

「ん、突然何だ?」

 クールダウンが終了した一夏が座布団から顔を上げる。

 

「少し気になってね」

 マドカの存在が出てきたから、一夏の兄弟に対する考えに興味があり質問した。

 

「んー……考えた事無いけど、確実に言えるのは千冬姉より家事が上手そうって所」

 どうやら一夏は潜在的に家事が手伝える兄弟がほしいみたいだ。マドカは育ってきた環境を考えれば無理だろう。やったね、一夏! 負担が増えるよ! 会えないが。

 

「後は一緒に千冬姉の世話したら楽しそうだなって」

 

「そ、そうか……」

 結局、一夏は千冬姉至上主義だった。二人で暮らしてきたのだから納得出来るけど、ちょっと度が過ぎている気もしなくはない。境遇故に、致し方無しだ。

 

「リディさんや、俺にも聞いてくれないのかい?」

 

「言いたいの?」

 

「うん」

 

「俺で我慢しなさい」

 

「ハルトオオオオオ!」

 

「んで、どっちがほしいの?」

 

「妹」

 即答だった。

 

「理由は?」

 

「姉は一人で十分だから」

 

「よしんば双子の姉だとしたら?」

 

「妹がいい」

 

「五反田さん家のサンドバッグ見ても?」

 

「あ、やっぱいらない」

 即撤回した。サンドバッグは羨ましくないらしい。誰だって嫌だろう。俺だって嫌だ。

 五反田家で思い出したが、蘭ちゃんが弾に接する態度が現在どういう風になっているのか気になった。今度帰ったら弾に聞こう。

 

「リディさんはどうなんだ? 兄弟ほしいか?」

 

「んー、俺は兄とか姉より弟か妹かなー? 末っ子から脱却してみたい気もする」

 別に末っ子的な立場が嫌な訳じゃなく、単に自分より年下なら純粋に甘えさせたいと思うからだ。

 

「母性が溢れそう。あぁ、だから髪を伸ばしてるのか。似合ってるぜ」

 

「父性ちゃうんかい。それと髪は趣味だよ」

 話をしていると部屋の扉の向こうから声が掛かる。誰だろうと首を傾げていると扉が開いた。この旅館の女将さんだ。食事を持ってきたとの事。

 寝そべっていた一夏が起き上がってテーブル前に移動する最中、そういえば俺達は昼飯を食べてなかったと思い出す。ついさっきまで作戦行動中だったから全く気付かなかった。今は帰ってきたばかりで空腹よりも先に疲労が目立つからだろう。

 部屋に入室した女将さんと仲居さんが料理の乗った食膳を運んでいると、空きっ腹を刺激するいい香りが漂ってきた。匂いを嗅いでいるだけで、急激に胃が空っぽだと訴え始める。

 テーブルの上に彩り豊かな料理が並べられていく。そして料理を運び終わった女将さん達は退出。朝食の時と献立は変わっているが、さかな、さかな、さかなと魚が一杯だ。頭が良くなりそう。

 定位置に座る俺達は早速いただきますと声を合わせて、少し遅めの昼食を開始した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。