「ああ、大事な友達だ」
一夏はギャラクシーさんを真っ直ぐ見つめながら問いに答えた。正直フェネクスの姿で人間的な動作はしたくないが、一夏の後押しをするために俺は頷く。
「嘘は……なさそうですね」
「実際に俺が助けを求めたら来てくれただろ? それがその証拠だ」
「……そういえば、先ほど何か言ってましたね。落ちてる最中で、よく聞こえませんでしたが」
腕を組んだギャラクシーさんは、さっきの場面を思い返しているみたいだ。
「なぁ、ところでバンシィはどうしたんだ?」
何か一夏が話かけてきたんだが? おい、今の俺は喋れんぞ。いや、別に声だけじゃなく素顔すら見せても構わんのだが、なるべくなら知られずにいたい。だって説明が面倒だもん。
「……そっか。今は声出せないのか」
「喋ると何か不都合でもあるんですか?」
「あー……うん」
無言でいたら一夏が察してくれた。流石の鈍感さんでも、俺の立場に気付いたらしい。いや、鈍感なのは恋愛関係だけか……?
「でも、半年前くらい学園に通ってたぞ」
そうでもなかった。
「半年前……ネットの何かで見かけたような……?」
「あ、純白なISと漆黒のISが綺麗とかってファニールに聞いたかも?」
フェネクスを見るためか、俺の周囲をぐるぐるしていたオニール氏が声を上げる。
「そう、その黒いISの中の人が不死鳥の中にいるんだ」
「おぉ! そうだったんだ!」
「学園の生徒なんですか?」
「うーん……学園の生徒というか別の同じ学園の生徒というか……」
ギャラクシーさんの質問に一夏は要領を得ない説明をする。一夏の言葉はわかる人にはわかるが、知らない人からしたら意味不明だろう。俺自身も、この世界じゃ意味不明な存在だし。いや、元の世界でもある意味わけわからん存在か。
「とりあえず、皆には秘密にしてもらえると助かる。だよな?」
一夏が話しながら俺を見てきたので相槌を打つ。大体パーフェクトや一夏さん。
「……助けていただいた恩もありますし、今は黙っておきましょう。ですが、いずれ納得のいく説明をお願いします」
「わかった、ファニールにも内緒にしとくね」
俺は二人に対して会釈する。
「そんなわけで、俺の仕事も終わったし今日のところは帰るわ。そんじゃな、一夏。また来るよ」
もう少し残りたかったが、このまま居続けると喋りそうになるので、本日は引き上げようと判断した俺は、一夏に声をかけてステルスを発動しながら上昇を開始する。
「おいっ! 最後に特大の爆弾落として行くなっ!」
一夏の叫びを無視しつつ、俺はIS学園から素早く離脱した。欲を言えば、
文字通りの超特急で現在のマイホームへと到着した。ステルスがあるとはいえ、夜空を飛んだらどうなるのか気になる。流星みたいになってたら誤魔化しやすいんだが。それはそれで目立つか。
「その辺どうなんスかマドカさん」
「まずは内容を言え」
「ステルス使用した夜のフェネクスって目立つんかなって」
俺は温かい部屋で服を着替えながら、椅子に座ってタブレットを弄るマドカに尋ねる。
「いくらステルス状態でも、スラスターの光だけは誤魔化せないだろうな」
「あら、そうなの。そんじゃ夜は可能な限り出歩かないようにするわ」
「目立ちたくなければ大人しくしとけ」
目立ちたくないか。
「……そういえば世界中で不死鳥が出没してるって耳にしたんだが、心当たりある?」
「私だな」
「やっぱりか。何故に?」
「イマージュ・オリジスの種類を現地で確認したり、フェネクスと私のデータを実戦で収集しただけだ。あと暇潰しも兼ねてな」
「なるほど。わかりました」
別に変な部分はないっぽい。もしあってもマドカなら大丈夫だろう。俺よりは器用に立ち回れると信じてる。
「お前から見て何か不味かったか?」
「いんや、フェネクスの知名度に驚いただけ」
「ならいい。それより、ほら」
テーブルの上に待機形態のバンシィが乗せられた。
「あんがと。気は済んだか?」
「十分にな。但し、トランザムのシステム周りは非常にデリケートだ。可能なら置いてった張本人に見せるまで封印しろ」
「あ、トランザム使えるんか」
トランザムが発動出来るなら、一夏のユニコーン攻略も楽勝になりそう。今までの弱い自分とは、お別れをした!
「それならトランザムバーストや、まさかまさかの量子化や量子テレポートもやっちゃえたり!?」
「現時点で使ったらどうなるか私は知らないからな」
「はい、使いません」
量子化とか再構築に失敗して消滅とかありそうで洒落にならん。量子テレポートも使えたら凄く便利だが座標指定やら諸々が難しそうだ。
トランザムレベルはマドカならやってのけそうだが、せめて束さんのチェックが入るまでは禁止にしよう。でも、何となくフワっと成功しそうな気もする。もし三つが実現するなら夢が広がりんぐ。
「とりあえずソードビットをカチャカチャして我慢します」
「お前ならわかってるだろうが、トランザムなどは絶対に使うなよ。もし失敗していなくなられたらトラウマもんだぞ」
「やらんやらん。ノリと勢いで生きてる部分も自覚してるけど、死亡する可能性があるのに使うのはド阿呆だ。つまり死なない僕は天才だ」
よくよく考えたら、正体不明なイマージュ・オリジスとの戦闘は命懸けだ。皆が普通にしてるから危機感が無かったけど、言うまでもなく実戦で下手すりゃ死ぬ。うわ、こわ。
「頭のいい僕は、お外が怖いんで今日から引きこもります。データ収集なんてクソ食らえだぁ!」
「もし今からイマージュ・オリジスが現れたら?」
「そりゃ愚問だ。行く一択。参戦するかは成り行きを見て決めるが」
あくまで誰かがビンチになったらだ。そら、友人達が必死に戦ってるのを無視するのは嫌だし後悔する。でも相対するのは普通に怖い。
「はー、気付かなきゃ良かった……」
「襲ってくる前に心構えが出来ていいんじゃないか」
「まーね。ただ、俺が行って役に立てるかどうか心配になってきた」
ただでさえ元の世界に帰れなかったショックでダメージ受けてんのに、戦場に出て恐怖心を堪えて立ち向かえって何気に酷くない? 世界が俺に優しくないわ。
「ん? 待てよ、もしかして……」
「どうした? 心配事でも増えたか?」
「あぁ、今し方増えた。俺の世界でも冬辺りにイマージュ・オリジス来るんかなって」
懸念はそれだ。もし降ってきたら地獄過ぎるだろ。後生だから学園物から戦闘物にジャンルを変えないでほしい。ISはスポーツなんだ! 誰が何を言おうともスポーツなんだ!
「その日が来るまでわからないだろうな」
「えぇ……毎年毎年怯えなきゃならんのか。忘れてぇ……」
「まぁ、待て。こっちで襲ってきた原因が判明すれば、戻ってから事前に防ぐ事も可能なんじゃないか?」
「
「絶対に違うと思うぞ。あいつら、ISだけに攻撃を仕掛けてくるからな。兵器を作れる知性があるなら交渉はなくとも、宣戦布告の一つや二つくらいすると考えるが」
「確かに。色々と謎だなー」
「十中八九、IS絡みの問題だと私は睨んでいる」
「それなら博士が何かやったんやろなぁ。万に1つ俺が間違っても絶対に頭を下げんが」
大体の元凶が博士だから、今更一つ二つ程度の問題が増えても気にしてないだろう。
「ま、わからない事は話すだけ無駄だ。それより今日の晩飯は何がいい?」
「とりあえず育ち盛りなので肉が食べたい」
「わかった、下拵えしてくる」
椅子から立ち上がったマドカは台所に向かったから、唯一の話し相手がいなくなり暇になってしまった。
俺はマドカのいた位置と反対側の椅子に座って、いつものPCを借りる。そこで、ふと気が付く。
「簪に会ってないや」
すっかり目的の一つを忘れてしまっていた。これも全て織斑一夏って奴の仕業だ。今頃、一夏はヴィシュヌさんと仲良く話せてるだろうか。すぐ普通の関係にとはいかないかも知れないが、それなりにやっていれば手助けした甲斐があるというものだ。
さて、どういう風に簪と会えばいいか考えよう。簪が一人になるタイミングは多分ISの整備か寮にいる時だが、どちらも俺が行くには密かに侵入するしかない。人通りや人目がゼロならやるが、時間帯的に無理だ。生徒達が寝静まった深夜に寮へ行ったとしても、見回りの教師や飲み物を買いに来た生徒と遭遇する可能性も大いにある。確実性が無い事は、流石に出来ない。
「……今日明日に帰る訳じゃないだろうし後回しでいいか」
きっと猶予は約一ヶ月。その間に良いアイディアも浮かぶだろう。そして、今度こそ自分の世界へと帰れるように祈っとこう。そうして俺は考えをやめ、PCを使って暇潰しを開始した。
食事と風呂を済まして、後は寝るだけとなる。布団を借りて別の部屋に移動しようとしたら、マドカに暖房の無い部屋で寝るなと怒られてしまった。一理あると頷き、大人しくマドカの隣で横になった。もちろん布団は別々だ。
さて、今なら集中して色々な事を考えられるだろう。考えると言っても、もし帰れなかった場合の話だけだが。その時は、周囲の人達に全力で助けを求めよう。この世界で俺が逃げられる場所はなく、生きていくには誰かに頼るしかない。
ずっとここにいられるなら、それが一番良くて楽だ。が、そんなの関係ないと俺の存在を嫌がらせで暴露しそうな奴が一人だけ存在する。一回でも間近で顔合わせしちゃったし、知らない内に情報が筒抜けな場合もありえそうなのだ。
無視して過ごすには不可能なレベルで目をつけられてしまった。例え俺が何もしなくても、奴は問答無用でロックオンしてきただろう。一夏以外でISを動かせる存在自体が許せないはずだから。
「……起きてるか?」
「どした?」
とある人物に対して思考を巡らせていると、マドカが声をかけてきた。
「眠る前に今後の過ごし方を聞こうと思ってな」
「前に言わなかったっけ?」
そんな記憶がないようなあるような。
「いいから教えろ」
「う〜ん……そうだなぁ」
今の所は一ヶ月後に帰れると信じて、その間は何をしようか。まずイマージュ・オリジスと戦闘、次に簪や楯無さんと会ったり一夏に会ったりと思い浮かぶが、これ以上は出てきそうにない。
「戦闘したり友達に会いに行くぐらいしか思い付かない」
「そうか」
「あ、そういえば少し前から気になってたんだけど、一夏や織斑先生に会ったりするつもりはないの?」
「例えば私が密かに会いに行ったとして、私と二人に何のメリットがあると思う?」
「……姉弟はマドカの生存を知り、マドカは今の自分の気持ちにケリがついたりとか?」
「そんなもんは、とっくの昔に捨て去ったよ。今更どうこうしようと思わない」
「そっかー……」
俺なりにマドカの窮屈な状態を改善したい気持ちがあるけど、方法がわからない。誰かを頼るにしても、この世界じゃ難しそうだ。ほぼ唯一、俺を知ってて何とか出来そうな楯無さんに投げるのもありかもだが、忙しそうだし可能な限り負担をかけたくはない。最終手段になるだろう。
もし、マドカを俺のいる世界に連れて帰れるなら色々な選択肢が一気に並ぶ。俺の家で過ごしてもらってもいいし、職場で束さんと仕事してもらってもいい。何とかして持ち帰れないだろうか。
いや、待て。その前に元の世界のマドカは存在しているんだろうか? 束さんが過去にヤバい組織を潰したと聞いたような気がするが、マドカに関する情報は聞かされなかった。マドカのマの字も知らない俺に教える意味はないが、一夏と千冬さんになら話すだろう。でも二人から、隠し事のような素振りは見受けられなかった。特に一夏なら妹が出来たって喜びそうだし。
「急に黙ってどうした?」
「俺のいた世界のマドカは何してるんだろうか気になって」
「それは判断しかねる。だが、死んでる可能性もあるだろうな。私だって死にかけた事は一度や二度の程度じゃ済まない。こうして自由に生きていられるのは降って湧いた奇跡みたいなものだ。違う私が夕や彼女みたいな存在に出会わなければ、確実に救われることはない」
「そうだよねぇ。束さんが密かに助けてる可能性に賭けるしかないか」
「前から思ってたが随分お人好しなんだな」
「常識で収まる範囲の人間なら、手段があるのに見捨てるのは逆に難しいと思うぞ。俺だけが特別じゃない」
困っている人がいたら手助けしたいと考えるのは、割と普通に近い感性なはず。
「……実際に助けられた者の意見を言わせてもらうと、お前は十分に特別なんだがな」
「実行した俺より用意した束さんに感謝しなよ。手柄を横取りしたみたいなもんだし」
「どうだろうな。あれが助けに来ていたら、胡散臭すぎて素直に受け入れられなかっただろう」
「そうか」
マドカが言うなら、そういう事にしておこう。納得出来ないからと、無理矢理に反論するほど理解し難いわけでもない。
会話をしていると、そろそろ眠たくなってきた。ここでは学生の身分はないので、明日は遅くまで寝れそうだ。といっても、朝食で起こされそうな気もするが。
「寝るわ」
「ああ、ゆっくり休め」
「おやすみー」
さて、明日は何をしようか。そんな取り留めない考えを抱いて、俺は夢の世界へと誘われた。