IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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こちら四話連続投稿の二話目になります


最終章
一話


「あ、おはよー。夕」

 朝になり目覚めたら我が家の自室に、半袖ミニスカメイド服を着たシャルがいた。不健全な格好ですな。

 ハッピーニューイヤーとか言って年越して不貞寝したら無事に戻ってきた。年越しという若干のトラウマが発生したため、遊ぶ気分じゃないと大人しくしてたら、夏休みに突入し寮生活から自宅へ。おうちサイコー。

 

「人の部屋で何してるん? ノックしましょうよ」

 

「夕が起きなかったのが悪いんだよ?」

 

「俺のせいですかそうですか。それは悪かったけど、男の部屋に入るのはいくない」

 

「恥ずかしい物でもあるの?」

 心底、不思議だとシャルの表情は語る。

 

「単純に恥ずかしいから」

 本音は恥ずかしくないけど、寝起きで説明する面倒が勝った。寝起きで鈴や楯無さんと顔を合わせるんだから慣れっ子。

 

「じゃあ、いいよね?」

 

「だから良くねぇって。雇い主の言う事がわからないんスか?」

 

「はい、パワハラ」

 勝てない。こんなんパワハラハラスメントですやん。

 

「シャルルン! 姫で遊んでないで朝食を作れ! 遅いぞ!」

 扉を勢いよくバーンして入ってきたのは、シャルと同じバイト仲間であるメイド服を着たラウラだった。扉怖るる。

 

「あ、ごめんごめん。今やるよー」

 

「もたもたしてないで駆け足だ! そして廊下は走るな!」

 

「はーい」

 シャルはラウラの指示に従い部屋を出ていった。

 

「助かったよ、ラウラ君。君をシャルロット君の上司に任命しといた甲斐があるというものだ」

 エアメガネをクイクイさせながらラウラを褒める。

 

「では是非とも、日給から時給に変更を。ボディガードとハウスキーパーの二つは楽じゃないのです」

 

「時給を最低賃金にしてシャルが良いって言ったなら変えますよ」

 

「くっ……金を人質にシャルロックで脅迫とは卑怯な!」

 

「真面目な話、現状で下手なバイトより破格じゃない? 相場とかは知らんけど」

 二人の日給は五千円で三食宿付き、家賃光熱費は全て無料。食材などの購入費も一定額が支給され、その他諸々の特典も多数だ。ちなみに念の為、しっかりとした契約を結んでおり全て親任せだ。何かあっても俺じゃ責任とれないからね。

 

「そうだな。この世で一番楽な労働といっても過言じゃない。正に天国だ。ありがとう、姫」

 

「ええんやで」

 こんなんでも貴重な男ではあるから、セキュリティーはなんぼあっても困らない。例え俺が不死者で、ちょっとやそっとじゃ死ななくても痛いのは嫌だし。俺は何で今、不死に例えたんだろうか。

 

「さて、今日は何をする? たまには外出でもするか?」

 

「起きたばっかで何も決めてないけど、熱いから外へは行かんぞ?」

 暑いんじゃなくて熱いのがポイント。太陽に焼かれたくない、ヴァンパイアの気持ちが嫌でも理解した。

 

「そうか。まあ、好きにするといい。もし出掛けるなら、私かシャルロットに必ず声をかけるように」

 

「ういー」

 

「それじゃ私は引き続き巡回してくるとしよう。飯が出来たら呼びにくる」

 

「あ、ちょい待ち。いつもの頼む」

 出ていこうとしたラウラを呼び止めながら準備する。

 

「今日は私か。構わん」

 スマホのカメラアプリを起動して、ラウラと身を寄せ合ってパシャリ。そしてDMで弾君に写真を送った。夏休みに入ってからラウラとシャル、または両方がいる写真を弾に見せる嫌がらせ的な遊びをしている。反応が面白いんスわ。

 

「ご苦労。下がってよいぞ」

 用が済んだラウラは部屋から出ていった。

 

「……今日は何すっかなぁ」

 だらだらしてるだけで食事が出てくるし、何より家に一人じゃないから寂しくないし遊び相手もいる。夏休み最強!

 すっかり堕落してしまった今、夏休み明けが怖い。だって自分で何かするの絶対ダルいから。夏休み終わり辺りからリハビリのために自分で動くとしよう。動け、このポンコツが!

 

「課題でもやっとくか……」

 高一になって初めての夏休みは小中と比較すると、自由研究だの工作だの面倒な提出物がないから非常に気が楽だ。その代わり量が多いけど、ひたすら書くだけなのでヨシ!

 ベッドから抜け出し、机の前に座ってノートを開く。そして、やろうとした瞬間に気付く。

 

「朝食まだやん」

 今から始めても食事で中断され、大して進まないだろうから中止。断じて、やりたくなくて逃避をしたわけじゃない。

 ベッドに寝っ転がってスマホで暇潰そうとしたら、弾君から返事が来た。ナイスタイミング。

 

『俺も美少女とキャッキャウフフしたい人生だった……』

 最初の頃は呪詛を綴ってたのに耐性が出来たからか、羨望の言葉が返ってきた。

 

『全くしょうがないなぁ、だん太君は』

 

『ユキえもん!?』

 

『はい、プライベートビーチで七泊八日の旅〜。来る?』

 そう送信したら、一瞬で通話が飛んできた。

 

『リアリー!?』

 

「うっそー」

 

『嘘かよ! チクショウ、騙された!』

 

「うっそー」

 

『どっちなんだよ』

 

「計画の途中で確定してないだけ」

 まだまだ企画の段階で、発起人は意外や意外、束さんだ。使う機会が皆無な有給と給料を消化したいらしく、真っ先に俺へと連絡してきた。嬉しいけど箒より俺でいいのかよ。

 

『逆に俺が行っても大丈夫か……?』

 

「二人ぐらい増えた所で誤差だよ誤差」

 

『……ん? 二人って事は蘭も行っていいのか?』

 

「もちのロン。ここで蘭ちゃんを誘わなかったら弾が一生恨まれるからな」

 

『おお、ありがてぇ……! いつぐらいに決まって、いつぐらいに話せばいいんだ?』

 

「月末には全部決まるだろうから、そん時に教えればいいんじゃないかな。日にちは八月半ばで、国内か海外で悩み中」

 

『プライベートビーチっていうと海外しかないイメージがあるんだが、日本にもあるのか?』

 

「日本だとプライベートビーチ風だな。日本の海は公共の場だからね」

 

『なるほどな』

 

「今は国内と海外で迷ってるけど、そもそもキャンプもありなんじゃないかと。どう思う?」

 

『キャンプか。そっちも捨てがたいな。うわ、楽しみすぎて今日から寝れねぇわ』

 

「態度で蘭ちゃんにバレそう」

 

『ばっきゃろー。俺がそんなヘマすると思うか?』

 

「弾がどうこうじゃなくて女の勘の方が強いんだよ」

 

『ありうる』

 

「まぁ、具体的な内容は伝えず旅行があるかもって言っとくのも手の一つ」

 

『よし、それでいく』

 

「おけ。で、話を戻すけど弾ならどこ行きたい?」

 

『そうだなぁ……やっぱ海じゃねぇか?』

 

「水着か」

 

『なぜバレた!?』

 弾は普段から俺達に彼女が欲しいと、所構わずこぼす。そんな考えなど、お見通しだ。

 

「現実的に考えて夏は彼女作りに向かんぞ?」

 

『夏は開放的になるらしいじゃん。彼女作りの時期にピッタリだろ』

 

「それは単純に肌の露出で開放感があるだけで錯覚だ。冬の方が寒さを感じて人肌が恋しくなりやすく、クリスマス、正月、バレンタインデー、ホワイトデーと夏より恋愛関係の季節限定イベントが多い。クリスマス前やバレンタインなんか、特に彼女作りたくなるだろう?」

 

『…………………………確かに』

 長めの沈黙の後、俺の話に納得して頷く弾。

 

「それに水着はリスクもあるんだぞ? 特に弾君は異性に慣れてないから、必ず目が顔より下に向く。女子はそういう視線に敏感だって耳にした事ない?」

 

『え!? チラ見でもバレてんの!?』

 

「100%バレてる。人と話す時に目以外を見たら、目が合わないじゃろ?」

 

『ああ。人と会話する時に目を見ない奴もいるからわかる。そうか……今まで、つい見てたやつも本人に気づかれてたのか』

 

「まー、人によりけりかな。招待しようとしている人達なら、モデルとかで慣れてるかもだから未知数ではある」

 

『これからは自制して気を付ける』

 

「がんばえー」

 特殊な訓練でもしなきゃ無理だろうな。

 

『じゃあ俺は、海水浴からキャンプをおすすめするぜ』

 

「落ち着けブラザー」

 弾の言葉に一つ思い付いた事がある。

 

『妹以外に兄弟はいないんだが?』

 

「海とキャンプを合わせた海キャンなんてよかばい?」

 

『ありよりのありありアリーヴェデルチでありけり』

 

「そうか。じゃ、楽しみにしといてくれ」

 

『うっす。あ、今日暇なら遊ばね? 一夏の野郎、彼女が出来てから付き合い悪くってさ。かなり暇なんだよ』

 

「んー………………いいよ」

 誘いを断りまくるのも良くないし、たまには他の誰かと遊ぶとしよう。ちなみにだが、シャルとラウラと毎晩ゲームで遊んでいる。

 

『よっしゃ! そうこなくちゃ! 昼前に連絡する』

 

「あいよ。では、また後で」

 

『うーす』

 通話を切ってスマホを脇に置く。

 

「皆で旅行か。初耳だな」

 

「うお!? びっくりしたぁ!」

 誰もいないと思って気を抜いていたから、ラウラに話しかけられた驚きでベッドから跳ね起きた。

 

「いつからいたんだ?」

 

「少し前だ。具体的には水着がどうとか」

 

「あぁ、その辺りね。朝食ができたのか?」

 

「そろそろだ。早くしないとシャルロットが全てを食い尽くしてしまうぞ」

 

「そんな食いしん坊なキャラじゃないだろ」

 ラウラと一緒に部屋を出て、洗面所で別れてパパっと日課を済ます。

 洗面所出たらリビングへ行き、キッチン近くのテーブルの定位置に各々座った。

 今日のメニューは、数種類のパンに色んな味の各種ジャム。そしてマーガリンとバター。

 

「今日もパンですか」

 

「何か文句でも?」

 

「いやいや、単純な感想だよ。マジで何の含みもない」

 ご飯派ではあるが、美味しい料理が自動で提供されて不満なんてあるわけない。

 

「よろしい」

 料理を並べ終えたシャルが着席する。

 

『いただきます』

 三人で手を合わせて食事を開始した。

 

「二人に質問なんだけど、旅行するなら海外と国内どっちがいい?」

 

「旅行? ボクなら国内かなぁ。行ってみたいところあるし」

 

「私もだな。具体的な場所は思い浮かばないが」

 

「参考にさせていただきます」

 

「じゃあ新しい水着を買わないとだね」

 

「ん? あぁ、なるほど」

 シャルは水着を新調したいらしい。目的地を知らないのに水着という選択肢が出てくるのは、夏だからだろうか。

 

「予定日は決まってるの?」

 

「八月の半ばとしか決まってない。二人は予定大丈夫そう?」

 

「問題ない。きっと暇だろう」

 

「ボクも大丈夫だよ。もし被ってても無理矢理でも調整してみせるから」

 

「OK」

 頓挫しないよう、しっかり準備しておこう。

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