毎日毎日食っちゃ寝を繰り返し、束さんと密に連絡を取り合って旅行のスケジュールが決まり、また食って寝て遊んでいたら早当日。国内で七泊八日の楽しいロングバケーションの始まりだ。
ちなみに弾と蘭ちゃんは前日に俺の家で泊まった。俺達と一緒に行動した方が楽だろうからと、シャルからの提案だ。果たして、本当にそうだろうか? まぁ、先に顔合わせしておけば自己紹介の手間が少し省けるっちゃ省ける。
そうして俺達五人は朝早くから集合場所のIS学園に向かい、借りてきたバスの前に立つ千冬さんに挨拶し、荷物を預けて搭乗した。
しばらく席に座っていると人が集まってきた。この場は全員合わせて十六人。俺、一夏、箒、セシリアさん、シャル、ラウラ、鈴、簪さん、楯無さん、蘭ちゃん、千冬さん、束さん、だだんだんだ弾君。
それと、俺は会話した記憶がほぼない布仏姉妹と山田先生だ。旅行の人数なんて、移動面さえクリアすればなんぼおってもええですからね。
実は一人だけ目的地に先行してもらっているので、正確には十七人だが。
全員集まり、バスは千冬さんの運転で出発した。千冬さんが免許を取得していたお陰で、ドライバー分の代金が浮いたけど微々たるもん。具体的に、今回の旅行費用より安い。
移動中のバス内はガヤガヤと騒がしい。俺は一番後ろの席に座っており、両隣に鈴と楯無さんだ。楯無さんの横には簪さんで、更識姉妹の前に布仏姉妹だ。
一夏は箒と隣同士で、俺の両脇は埋まってるので、必然的に初対面ばかりの弾は孤立……かと思いきや、実際はそうはならず弾は蘭ちゃんと一緒に俺と鈴の座る側に座っている。
蘭ちゃんの気遣いに弾君は泣いた。全員ほぼ初対面ばかりで、異性への耐性皆無な弾は、知り合い以外誰と座っても地獄。主に弾の緊張で。蘭ちゃんが隣で助かったね。
雑談したりスマホを使ったゲームで俺の周りにいる面子で遊んでいると、サービスかパーキングのどちらか不明だが、駐車場に停まり一回目の休憩。いつの間にか高速に乗っていたみたい。
昼過ぎに目的地へ到着する予定なので、長旅に備えて各々でグループを作りつつ一様にバスから降りた。示し合わせなくても自然と男三人になる。
「…………なぁ、聞いてほしい事があるんだがいいか?」
遠慮がちに弾が話を切り出す。
「周囲が女子だらけで気まずいとか?」
一夏が弾の思ってそうな内容を口した。情報がなさすぎて推理のしようがない。
「違う! いや、それもあるんだが……その…………えっとな………………」
「早よ言え。休憩時間は長くないんやで」
もじもじしだした弾に催促する俺。おじいちゃん、たった今トイレ行ったばかりでしょ。
「ひ……ひ、一目惚れしたかもしんねぇ……」
「モテたいがためにギター始めた弾君に春がキター!」
「今は夏ぅ! 俺は一夏だぜ?」
「人の相談を茶化すな!」
「一夏と俺に話すって事は、相談したいんだろ? 誰よ?」
今んとこ、箒、鈴、シャル、ラウラ、蘭ちゃんは除外だ。大人組も外れそう。そうなると、必然的に残りの人が候補になる。人数が多くて絞りきれない。一体、誰なんだろうか?
「い、言えない……」
「教えてくれなきゃアドバイス出来ないんだぜ?」
幼馴染が彼女という参考にならない人間が何か言ってらぁ。
「待ちたまえ、一夏君。人には人の乳酸菌……じゃなく歩くペースは人それぞれだ」
エア眼鏡をクイクイククイクイと小刻みに動かす。こういう場面に備えて、伊達眼鏡買っといても良さそう。
「しばらく気持ちを温めるのが吉。本当に好きになっていたら、四六時中頭から離れない」
「俺が箒の事を常に想ってるみたいなもんか」
「アクシオ!」
「私の名を呼ばれた気がしたが、何か用か?」
一夏の箒違いやないかーいって、ツッコミを待ったら道具じゃなく本人が徒歩で来た。箒の手にはお菓子やジュースの入った袋。いっぱい食べるね。
「おっと、そこにいるのは確か五反田さん家の弾さんだったか。改めて私は篠ノ之箒だ。天才の方の篠ノ之と覚えてほしい」
「あ、俺は五反田弾……です。妹の蘭と被るんで、俺の事は気軽に弾って呼んでください」
最低限の自己紹介は出発前の車内でやっておいたが、一回だけじゃ覚えきれなくても不思議じゃない。
「私も気軽にモッピーっと呼んでほしい。ブレッド君」
「マイスイートハニーモッピー、それパンや。弾はブレットだ」
「ん!? まちがったかな…」
天才といえばアミバ様。箒はアミバ様だった……?
「よろしくな、モッピー」
「うむ。よろしく、弾」
弾が素直に呼んだんだから、そこは箒もブレットって呼んでやれよ。バレットでも可。星の悲鳴が聞こえるかもしれない。
「それで、希少な男子三人で何の話をしてたんだ?」
「俺達、男だけの秘密だぜ! なぁ?」
俺と弾に同意を得ようとする一夏。そりゃあ言わずもがな。
「それはデリケートな問題ですか?」
「はい」
「それは集まっているメンバーに関係してますか?」
「はい」
「それはえっっっっっどい事ですか!?」
「恋人同士でアキネーターやめろ。箒、これ以上は深入りするんじゃあないよ」
「何だ、つまらん。仕方ない、篠ノ之箒は天才みたいに去るぜ」
そうして箒は、あっさりバスに向かって行った。トッポみたいに最初から最後までアホたっぷりな言動でやんした。
「お前ら三人、漫才コンビで食ってけるな」
「トリオだぞ」
こうして弾の相手はうやむやになった。弾の反応で相手が誰かわかるかもしれないから問題ない。
出発時間となり、全員バスへと戻って発進。皆、お菓子なりジュースを買い込んでいた。一応、長旅になると伝えてあるから腹が減っても途中で降りれません。昼食は着いてからとなります。
またしばらく高速を走っていると、時間的にそろそろ近くなってきた。誤差はあるが許容範囲だ。今の内に束さんに連絡をしてもらおう。
そこから更に待つと大きな貸別荘に到着する。贅沢な一棟借りで、大人数でも余裕で泊まれるところを選んだ。そしてバーベキューと海水浴の両方が楽しめる場所でもある。束さんの給料的に余裕とはいえ莫大な費用が恐ろしい。
駐車場にバスを停めると、次は部屋割りを決める。一部を除いて。
もちろん、除外されたのは男三人の俺達だ。一夏と箒を同じ部屋に放り込む? どんだけ清い交際でも保護者達はNGを出す。一夏と箒は納得してはいたが、残念さが隠せてなかった。普通に通る訳ないだろ。
ワイワイガヤガヤと話し合い、部屋が決まれば各々荷物を置きに向かった。
荷物を部屋に届けたら、バーベキューの時間だ。これからあーだこーだあたふたと作業しなくても、準備は既に完了している。
という訳で、再度集まり一行を外へと案内。バーベキュー専用の広場へ連れてくる。
既に何個かのテーブルに椅子の分だけ紙皿や紙コップ、箸と調味料などがあった。
バーベキューコンロで肉などを調理中の人物が背中を向けている。彼女が十七人目のメンバーだ。ほぼ雑用係で彼女は休暇というより職務中に近い。
彼女を皆に紹介する。本名を織斑マドカ。今はラフな格好でサングラスをかけ、麦わら帽子をかぶっていた。念には念を入れ髪型を変えてマユと偽名を名乗る。不審者感が半端ない。
しっかりと向こうの記憶も覚えている。こっちだと海外にいたらしいが、束さんとのコンタクトに成功し日本へ来て、俺の親の会社で匿われつつ束さんの秘書兼開発兼テスターとして働いていたらしい。就職が早い。年齢と学歴はコネでパスしてそう。
紹介を済ませ、適当な席に座ったらバーベキューの始まりだ。お腹は程よく空いていたので肉やご飯、野菜が滅茶苦茶美味い。素材か腕か両方かは、悲しい事に俺の舌じゃ感じ取れない。
そこそこ長く食事を楽しみ、休憩を挟んでからバラバラで海へと繰り出す。もうちょびっとだけ休みたかったが、鈴と楯無さんに誘われたので仕方無し。
プライベートビーチ風な所を選んだから、俺達以外の人間はおらず人目を気にしなくてもいい。ナンパなどのトラブルに遭遇する可能性もゼロ。俺の彼女なんでー、とかベタな台詞を言わなくてもいいから快適や。
食後だから、運動はせずビーチパラソルを立てて折りたたみ式のビーチチェアで休む。もちろん俺達は水着だ。常連のラッシュガードも装備済み。
海で定番イベントの一つ、サンオイル塗りを二人に所望されたと思ったら、マッサージオイルだったので順番に塗りたくって、危険部位以外をモミモミしたり強めに押すと、二人はレジャーシートの上でうつ伏せで寝た。安らかに。
そういえば、弾の相手は未だ謎のまま。今日だけで当てるのは無理か。一週間の内にボロを出してもらいたい。
チェアで休憩していると、海に来る人が徐々に増えてきた。まあ、海が近くにあって一回は堪能しないともったいない。
小一時間ほどしたら準備体操して、浮き輪に座って孤独に海を漂う。普段ならやらんが、たまにはいいだろう。時間もいっぱいあるし。今しか出来ない事を目一杯楽しもう。
更に時間が経過して海から帰ってくると、一人を除いた面子が全員ビーチに集った。手伝える事がないかバーベキューのスペースに行く。
並んでるクーラーボックスに氷と飲み物を入れてるマドカを発見。
「手伝おうか?」
「私の仕事だ。遠慮しろ」
「そうですか」
周りに俺達二人しかいないから、いつもと同じ調子で会話を始める。実は顔を見たのは今日が初めてだ。束さんと計画中にマドカを回収した知らされただけで、会った事はなかった。
「流石に休憩時間はあるやろ?」
「あるぞ。何だ、私を海に誘ってるのか?」
「せっかく引きこもりから解放されたんだから、海でくつろいだら?」
「仕事が終わったら考えてもいい」
「終わるのは?」
「片付けは済んだから、この仕事と夜の準備が完了したら」
「んじゃ、人手がいるな。それを運べばいいのか?」
「ここに並んでるクーラーボックスを海にいる人に届けてほしい。酒だけは表に書いておくから間違えるなよ」
「OK」
四個中、一個だけクーラーボックスにガムテの上からペンで酒と書いてあるのと、何も書かれてないのを持ち、両肩にぶら下げて配達を開始した。
「お届け物でーす」
「夕か」
「夕君やっほー」
「はい、どもー」
大きいビーチパラソルの下にビーチチェアを三つ並べて座る千冬さんと束さんに山田先生。大人組も水着姿だ。おしゃれ重視の水着で、運動向きには見えない。
「こちら、お酒になりまーす」
「何が欲しいか、よくわかってるじゃないか」
「私が用意しました。ぶい」
「いたれりつくせりですねー。ありがとうございます、博士。白雪君も運んでくれて、ありがとうございます」
「いえいえ、楽しんでくださいねー。それではー」
酒用のクーラーボックスを置いて次の配達先へ。今度は一組の女子グループだ。ここには一組の他に簪さんと布仏さんの姉の方、弾に蘭ちゃんがいた。
逆にいないのは一夏と箒だ。二人は波打ち際を並んで歩いていた。今歩いてきた方向へと首を向けると、大人組は酒盛りをしてる。地獄を見た。
「へーい、お兄さーん、ひとりー? ボク達と一緒に遊ばなーい?」
えっちらおっちらクーラーボックスを運んでいると、水着を着たシャルにナンパされた。ノリが軟派だ。
ここは一部以外はビーチボールで遊んでる集団だ。その一部は簪さん、布仏姉、セシリアさん。
「えー……どうしよっかなー……」
「重そうな荷物だね。ボクが持つよ」
「わー、ありがとー」
シャルにクーラーボックスを渡す。
「あっ、おもっ!」
「やる事あるから、また後でなー」
「はーい」
シャル達と別れ、マドカの所へ戻ってくる。本人は仕事を終えたのか椅子に座ってくつろいでいた。
「終わったぞー」
「ご苦労。残りの一個は自由に飲め」
「余った一個は?」
「私のだ。これぐらいは許されてるからな」
「なるほど。そんじゃ、ごゆっくりー」
クーラーボックスを鈴ちゃんさんと楯無さんのいる場所へ持っていく。二人は起きていた。
クーラーボックスを置いて、中身を取り出し二人に渡す。
「少ししたら遊ぼうか」
「本当? やったー」
「何をしようかしら? 夕君は何かある?」
「とりあえず軽く海で遊んでから、向こうのグループに加わりましょう」
簡単な計画を立て、ジュースを飲み切った俺達は遊び始めた。
うぇーい、といった風に皆ではっちゃけてたら日が傾いてきた。片付けをしてビーチから引き上げる。交代で休んだりしてたら思ったより時間がたっていた。あっという間だ。
各自、シャワーを浴びて水着から普通の部屋着姿になる。軽い雑談をしてバーベキュースペースへと足を運ぶ。
夜ご飯となり、またバーベキューだ。今日から毎日肉を焼こうぜ。俺からしたら、これ以上の贅沢はない。
ご飯が終わると解散。部屋へと帰る。こんなの覚えちまったら、普通の人間に戻れなくなっちまう。
修学旅行でもないので消灯時間なんてものはなく、夜ふかしし放題だ。それでも早めに寝るのをおすすめする。理由は朝食のメニューが魚介らしく、起きてこなければ残ってない可能性がある。ちなみにマドカの手伝いをしながら聞いてきた。
何も言わずとも自然と俺達の部屋へと人が集まってきて、それぞれ固まってパーティーゲームしたりトランプしたりボードゲームをひとしきり遊んだ。一部の人と大人組はいない。
日付が変わった事に気付き、寝るために解散。予想通り、一夏だけ朝食を食いそびれた。お前、俺と弾より早く寝てたやろがい。ま、ええか。