IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

9 / 87
九話

 俺と箒は暗闇の中で、束さんに抱きしめられていた。首から手を離し、見えないその手をどこかに移動させた。

 ちょっと、私の尻揉まないで。将来垂れちゃったらどうすんのよ。なんか、その時にちょっと柔らかい感触が、俺の胸の辺りにあった。

 

「おい、姉さん! 私の尻を揉むな! 時と場所を選べ!」

 箒も同じ事をされていたみたいだ。でもその口振りだと、他の場所ならいいって事? この姉妹に一体なにが?

 

「いやぁ、久々に揉む二人のお尻はいいもんだねぇ」

 

「俺は揉まれた事一回もないです」

 寂しさでどうにかなっちゃったの?

 

「知ってる。とにかく、今はこうさせて」

 尻を揉まないならいいんだが。

 

「クンクン。あぁ~二人の匂いが変わらないんじゃ~」

 いつの間に匂いを嗅いだのか。いや、密着してる今かな。

 しかし、今は明かりが欲しい。いいかげん電気のスイッチを。

 

「姉さん……私は明かりがオン派なんだ」

 何の話?

 

「大好きな妹の頼みだ。わかったよ」

 束さんがそう言った後、部屋が明るくなった。

 束さんの姿は……見えにくいな。抱きつかれてるもん。後、俺と箒はまだ肩を掴みあっていたから俺が離すと、真似るように箒も離した。箒に掴まれていた肩が痛いわ。

 

「今日は二人に完成したISを持ってきたんだ。んーにゃ、正確に言えばこの会社に居着いてるから、二人を待ってた……かな?」

 

「なんだ……近くにいたのか。連絡してくれればいいのに……」

 箒が束さんに文句を付ける。そりゃ言いますわな。

 後、この会社に住んでいるのか。まぁ、居心地は悪くないんじゃないかな? 俺もよく泊まった事があったし。一夏達と遊ばなかった日はね。

 

「ごめんね、箒ちゃん。連絡取れなくて。いっくんに一回だけメールもしてごめんね。でも、ここの会社の人達に迷惑をかけたくなかったんだ」

 

「なん……だと……!?」

 未だ抱かれている箒がかなり驚愕しているが、正直俺もびっくらこいた。昔、人を石ころ帽子にしていた束さんが、ここまでチェンジしていたとは。

 

「嘘じゃないよ! 昔の私とはもう違うもん! さらばグッバイ昔の束さん! 歓迎しようウェルカム新しい束さん!」

 

「それが本当なら、俺はすごく嬉しいです」

 昔は皆と一緒に、束さんの性格を矯正していた。彼女だけ視点や思考が別領域へと進み、このままでは将来、束さんは人じゃなくなってしまうと思ったからだ。そうなった時、きっと歩みを止める事がない彼女は、更に世界を置き去りにするだろう。

 俺は子供だったから、そんな考えは持っていなかったし、よくわからなかったけど、それでもただ、ひたすら彼女に立ち向かった。こうして成長した今は理由がわかる。どこか悲しみを秘める、自分がなにも見えてない彼女。だから俺はひたすら彼女に立ち向かった。無視され否定され拒絶されようとも。

 それから束さんと仲良くなったある時、誰にも理由を告げずに、俺達の前から束さんは忽然と消えた。だが、久々に再会した束さんは、偽物と疑っても仕方がないレベルまで到達していた。誰だこの人。

 

「うん。人間は楽しいね。夕君、箒ちゃん。今では興味が尽きないよ。科学は数式が絶対不変の真理。だけど、人の心はパズルのピースじゃない。だからこの世界の誰よりも、頭が優れている束さんは人間を知る事にしたのだ。おかげで人の心や感情は、こういう風なんだって少しは理解出来たよ。今の私はまるで、赤ん坊みたいだね。色々と吸収出来るって意味で」

 積み重なった孤独感が、彼女の会話の長さに表れている気がする。いや、ただ箒に似ているだけなのかも知れない。姉妹だから。

 

「昔は乱暴してごめんね。箒ちゃんに夕君。特に夕君にはごめんなさいしなきゃね。あんなに小さくて、泣きながらも私に立ち向かうとか、まるで束さんの世界を破壊するディケイドだよ。おのれディケイドォォォォォ!」

 

「夕ェ……お前は世界の破壊者だったのか。最低だな。このゴミ屑め」

 束さんには謝られたが、箒からは罵られた。なんでやっ!

 

「束さんはなにも悪くない。箒は今喋った事を一夏に伝えときますねー」

 

「くっ……姑息な手を……」

 

「束さんは傷物にしちゃった夕君を、責任を持って嫁に迎えるね。うへへ、結婚して楽しい日々を過ごしてから、夕君と一緒に宇宙(そら)を目指すんだー」

 いや、多分普通に目指すと思います。だって、宇宙(そら)はめちゃくちゃすごいんやで? 地球がミジンコサイズになるぐらい宇宙(そら)は広すぎる。あと、何億何十億と惑星がたくさんあっても本当にすっかすかだし。太陽なんて小さすぎる。あのグレンラガンすら及ばないレベルで。グレンラガンって、大きさはかなりあったみたいけど、どれぐらいだっけ?

 

「なっ!? 私のATMを勝手に持ってくな!」

 束さんはまだいい方だが、箒は完全に金の事しか頭にない。金額は膨大で高いんだろうけど、安い女やで箒ちゃん。

 

「そんな事はどうでもいい! そろそろ離してくれませんかね?」

 出会った時からずっと抱きつかれている。抱きしめられるのは好きだからいいけどね。抱きしめるのも好きよ? 俺、今度弾達に会ったらハグハグしてやるんだ。

 

「おっと、ずっとこのままだったね。失礼仕った」

 束さんが俺と箒をやっと解放してくれた。そして彼女の姿をコノメニウーして驚いた。あの頃はまだ少女だった束さんは、今では大人の女性に成長している。そりゃ何年も俺は会ってないし。しかし、なるほど。俺の胸辺りに柔らかく当たっていたのはあれか。こういう品のない事は言いたくないが、束さんと箒は完全に血筋だ。いや、元々品とか気にしてないけど。

 束さんの服装が、不思議の国のアリスに似ていて、似合っていると思う。

 

「いやー、束さんはかなりの期間アンダーグラウンド生活だったから、知り合いと遭遇する事が全くなくて、インスタントなラボ生活中は、寂しく独り言を言いまくったよー。人と会った時に、デュフフって咄嗟に口に出さないように練習したのだ。たまに街に繰り出して、ゲームやったり美味しいもの食べたりしたよ。あ、もちろんこの格好じゃなくて、帽子を被って髪を後ろでまとめて、Gパンにパーカーをちゃんと着てね。意外と似合うんだよ、束さん。今度見せてあげるね。クールな感じだから鼻血出さないように注意」

 本当に話が長いな。束さんは話が長くて人に口を出させなくて、箒は人の話を聞かずに暴走する。やっぱり、姉妹だから似てるなと再確認。どちらの話にも耳を傾けていても、この二人の喋る言葉は聞いていて超楽しい。BGMにしたいくらいだ。だから後で話聞かせて。

 

「あ、束さんはダメだねぇ。ついつい話が長くなっちゃうよ。まだまだ喋り足りないけど、そろそろ本題に入ろうか」

 束さんは一つのデスクの上に腰を据えた。乗っていいのだろうか? いや、俺は別に構わないけど。

 俺と箒はそれぞれ近くの椅子を引っ張ってきて、束さんの正面に座った。椅子が若干低いので、レバーで調節。

 

「ごほん。えー、今日二人を集めた理由は、二人のISが完成したからです。箒ちゃんのはオリジナルで、夕君の機体も一応オリジナルだけど、装備や能力はロボアニメを参考にして、作中の兵器などを再現してみました。私の技術がどこまで通用するか試したかったし、科学者は知的好奇心を満たしたい生き物だからね。やるしかないよ。話変わっちゃったね。さっきの続きだけど、どこを見てもISばかりで、他のロボアニメや、ロボ系のゲームが隅に追いやられて、ISで埋め尽くされてつまんないんだもん。後、創作だろうと人の心理の過程と結果がわかりやすくて勉強になるし

。あ、現実と区別はついてるから大丈夫だよ。束さんは天才だから、二度と間違った道も進まないのです。皆がいるしね。ごほん。だから夕君の機体は再現した武器などが積んであるの。この会社は大きくて、テレビCMも放送しているから、それに出してもらってこんなのありますよー、こんな事が出来ますよーと、宣伝出来るし。後は、IS以外にロボが作られて、男も扱える物を出していきたい。コアは私の方で基本ONOFF出来るけど、女性のみの条件が束さんにもわからないから困ってるんだよねー。うん。過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ。って全裸さんがアニメで言ってた。いや、人々の生活の軸をポッキリ折ったんだから、気に病めよ。娯楽や食事っていいよね。たくさんあって、この世界を変えた天才でも把握仕切れないからね。だからそんな私は夕君と出会えて幸せ者だよ! だって、君に出会わなかったら、父親に母親、箒ちゃんやちーちゃん達、周囲の人々に腫れ物扱いされて、孤高を気取って理解されない人生だっただろうからね。もし夕君という、皆との話し合いをするきっかけがなくて、そして人に無関心なままの私だったら、人を越えた存在とか抜かしていたのがありありと想像出来るよ! 私は物申したい! お前一人が世界の全てを変えても、人がいなければ世界はそう簡単に回らないんだってね! 相手がいなきゃ、天才は天才ではなく、ただの普通の人に成り下がる。比較対象がいないから。でも、もしかしたらそいつは本当に全知全能なのかも知れない。だけど、人間を越えようとしても概念や世の真理にはなれず、人に興味がない奴は人しら作らず、ただ終わりを迎える。誰にも評価されない人生だね。それをよしとしそう。だから、もしそんな自分に出会ったら、教えるしかない。人って意外と面白いって」

 話の勢いに飲まれていたので、長々と黙って耳にしていたが、機体の話から何故かIFの自分に腹を立ててる話に移った。これまでに、どれだけ鬱憤が溜まっていたのかがわかる。しかも一部分は箒と同じ事を言っていた。やっぱ姉妹だわ。

 

「ちなみに過去のバカな束さんは、誰にも見向きされないからと言って、ISをすぐに使って白騎士事件を起こしました。ISのスペックを計算して、ミサイルを破壊出来る分だけ撃ち込みました。それは現行だった兵器を遥かに凌駕しちゃった。癇癪を起こしちゃってバカだよねー。浅はかだよねー。天才の癖に。感情を処理出来ん奴は、ゴミだと教えたはずだがな。プークスクス。でも宇宙用って普通にずーっと発表し続けていたら………うーん……うん、やっぱり同じ結果に終わったと思うけど、その意図を汲んでくれた人がいるかも知れないのにね。力を示したんだから、力しか伝わんないよ。コミュ症かよ」

 たまにボソッと吐くセリフが、辛辣というか毒舌?

 

「でも……どうしてこんな事に……これも全部、篠ノ之束って奴が悪いんだ。くそっ! どうして女性にしか動かせないんだ! シンジ君帰っちゃうだろ! もしかして……ISのコアって性別があるとしたら男? これなら女の子にしか動かせない訳だ。うん。いや、禿げ散らかしたオッサンとかセクハラ野郎だったら気持ち悪いだろ! また髪の話……。つまり、いっくんと夕君のコアは……あっ……そんな訳ないだろ! 男が男に乗るとかすごく気持ち悪いよ! だからコアは女の子と考えよう! そうすれば、見た目は綺麗になる! 真相はわからない! コアに意志があるのは確認済みだけど、うーん……天才でもどれが正解かわからないや。一番有力な仮説はあるけど、確かめようがないし……下手すればコア側からシャットダウンされそう。ネットワークで情報が伝わり、一番最初のコア同様に全機体が停止しちゃうかもかも。ここからは私でも触れない領域だなぁ。昔の私は、なんでわかりにくいものを作ったのか……」

 束さんが一人で勝手に暴走を始めた。ここも箒と一緒だったんだな。俺も初日の朝はこんなんだったなぁ。多少だけど、落ち着いた。同性の一夏に会えたからな! 俺と一夏はズッ友だょ。鈴ちゃんもズッ友だょ。

 

「……ん……姉さんも大変だな」

 声に反応して横をハミルトン、箒が目を擦ったったっぽい。今、退屈過ぎて寝てた? 涎の跡があるっぽいぽい。

 

「うっ……ふぅ……スッキリしたし、今度は本当にちゃんと説明するね」

 束さんがデスクから腰を上げて床に立ち上がり、しゃがんで足元を手で軽く叩く。その時に俺達も起立した。

 なにをしているのか声をかけようとしたら、なんか隠し通路が出てきた。束そこから出たのか。どうりで停電からのラグがあまりないはずだ。

 

「ここから地下に行くよー」

 束さんが梯子を使って先に行き、俺は最後に行くつもりで、入口から少し下がった。

 

「夕から行け。私は最後でいい。上見たら一万の罰金な。繰り返す事に倍になっていく」

 

「どんだけ金が欲しいんだよ! 自分から安売りすんな!」

 

「金の前では私はプライドを捨てる。さぁ! ここは任せて先に行け!」

 

「お前が先だよ!」

 

「じゃあ、いいや。金をくれ」

 手を差し出して、手の平を見せてきた。

 

「やらないよ。とっとと行くんだよ」

 

「ちっ。守銭奴め」

 そう吐き捨てて箒は下りていった。金の話ばかりだな。いつからそんな子に育ったのか。

 

「ふふ」

 思わず軽く笑ってしまった。やっぱり馬鹿話はいいな。

 そして俺も下りた 。

 

 

 結構深い場所まで下り、まだ続くのかと思った時に、ちょうど地下に着いた。室内を見てみると、モニターなどの機器がたくさんあるラボっぽい部屋だった。地下だからコンクリートばかりだ。意外と広め。

 確か、許可貰ってるんだよな? 束さんがここにいるって事は。

 

「束さん。ちょっといいですか?」

 

「なーにー?」

 束さんは俺に背中を向けて、立ったままキーボードでなにかを入力している。なにか準備をしてるんだろう。

 箒は束さんの隣で、後ろしか見えないが腕を組んでいるみたい。多分、箒が見つめているのは、この部屋のガラス越しの向こう側にある広い空間。

 

「本当に許可はあるんですよね?」

 一応念のためだ。疑惑が生まれてきた。

 

「ちゃんとあるよー。気になるなら、夕君の両親に聞いてみたら? 今外国に行っていないから、すぐに連絡しても出れないと思うけど」

 

「わかりました。ごめんなさい。疑ってしまって」

 やっぱり破天荒なイメージが少しあるから、ちょっと心配だった。

 

「いいよー。それだけの罪を作ったからねー」

 明るい口調で返事をしてくれたから、気分を損ねた様子はない。いや、本当にすみません。

 

「よし! 私も姉さんと一緒にここに住むぞ!」

 お前はなにを言っているんだ。

 

「ダメだよー、箒ちゃん。学校には通わなきゃ」

 

「まさか姉さんにそう返されるとは……」

 さっきの話をちゃんと聞いていたら、わかりそうなもんだが。あ、これブーメランだわ。

 

「はい。準備出来たよ。まずは箒ちゃんから。あのスーツを着てきて」

 束さんがまだ背を向けながらも、指を差した。俺はその方向を見る。

 そこにはテーブルがあり、テーブルの上にスーツが綺麗に折り畳まれていた。やっぱり水着っぽい。というか、水着の方がマシ。

 

「姉さん。サイズは?」

 

「大丈夫。教えてもらったから」

 いつ誰に?

「私の後ろに一つ部屋があるでしょ? そこで着替えてきて」

 箒はその場から移動してスーツを手に取り、部屋に入っていった。

 

「俺のはどこですか?」

 

「もう預かってるよ。向こうの部屋にあるから、箒ちゃんみたいに着替えてきてね」

 箒が入っていった部屋と違う部屋があり、俺はその部屋へと足を踏み入れた。

 この部屋は明るくてゴミ一つない和室だ。荷物も全く散らかってない。広さは八畳ぐらいあり、畳まれた布団が奥の方の隅に。部屋の中央のテーブルがある。そのテーブルの上に、黒のスーツが置いてあった。

 しかしちょっと待って。スーツの縁に黄色ラインが……入って……ない。青色だわ。

 つーか、一夏のISの一部分を青と言ったけど、このスーツの色見て気付いた。あれどちらかというと、青に近い紺じゃね? 光って明るく見えたんかな? 青い機体あっただろ? セシリアさんのだろうけど、あれを青って言うんだよ。俺のバカ。どうでもいいか。

 

 上半身用を手に持って広げてみる。袖の部分は、一夏より長めで関節を覆っている。肘と手の中間辺りか。一夏みたいに腹は出てない。お腹を冷やして痛くなるとヤバいからね。そんな配慮を勝手に捏造。

 下は一夏と同じ関節より下の丈。関係ないけど、ISを装着する時は足をズボッてするイメージ。

 

 そして気になった事が一つ。上半身はシャツを脱ぐだろう。だが、下半身は? パンツどうするの? えっ? まさか直に? は? これってクッソ恥ずかしいんだが? 例え誰にも見られなかったとしてもだ。だから皆やったね! 俺の赤い顔が見えるぞ! 誰得だよっ!

 そしてスーツを手に持ったまま部屋を出た。

 

「束さぁん!」

 

「んー? 履いたままでいいんじゃない?」

 俺は束さんの背中を見ながら、適当そうな返答を聞いた。名前呼んだだけで用件がわかるとかすごいな

 

「はい。試します」

 部屋に戻り、制服とジャージを脱ぐ。次はシャツ。最後にハーフパンツ。これで下半身パンツ姿になった。

 とりあえず、下から履いてみる。

 

「うおっ? あまり伸縮しないから……キッツ……水泳選手の水着じゃないんだから」

 まぁ、パイロットスーツだと思えば……いや、あれ中にシャツとか着れるから。一緒にしないで。

 

「……とりあえず、履けた」

 パンツの形が見えないか、気になって確認するが大丈夫だ。見えてない。ま、誰かに言われたらそん時はそん時だ。俺は悪くない。束さんが全部悪いんだ。

 次は上半身だ。頭と両手だけを通す。

 

「痛い痛い痛い髪の毛巻き込まれたちょちょちょ禿げる禿げるっ!」

 くそっ! 後ろ髪ごっそり抜けたら、訴えてやるっ!

 そう苦戦しながらも、なんとか上下共に着れた。もう俺、休んでもいいよね?

 

 とりあえず脱いだ服は畳み、部屋の隅っこに置いとく。これ終わった後、着れるんだよな? そのまま向こうに行けって言われないよな? 大丈夫だよな?

 不安になりながらも、部屋から出ると箒がISスーツを着ていた。だから俺は言うんだ!

 

「待たせたな!」

 

「とんでもねぇ待ってたんだ」

 その返しは予想外だった。箒のスーツは全体的に白で、所々の縁に赤が入ってる。これはNT-Dを発動したのかな?

 

「二人共着替えたみたいだし、訓練場に入ろー! あ、箒ちゃんはこれ持っていって」

 束さんの指示に従い、俺は先に移動した。

 かなり広い。学園のアリーナ以上じゃない? 天井も高くて奥行きもあって。

 朝の特撮で見たあの場所に似ている。四作目の最終回辺りと、十作目の夢の対決。アクセルとクロックアップの。確か。ここは柱ないけど。

 

『はーい! 左右に分けて置いてあるからねー!右が夕君ので左が箒ちゃん。箒ちゃんは勝手にやっててねー。夕君は私が教えるよ』

 おー、なんか実験とかそれっぽい雰囲気だ。

 隣を見ると箒が既にいた。

 

「頑張れよ。夕」

 

「あい。箒もね」

 俺達は拳をあわせてから、左右に待機するISに近付いた。

 

 そして俺の目の前には、今までたくさん触れてきたISがある。多分だが。全体的に変わりすぎだし、装備はこんなごてごてしてなかったから。確か打鉄に似た形だったから、その時と比べると一目瞭然。装備はあの作品類の武装。再現すごい。

 しかし、このISはこんなに黒くなっちゃってさ。うん、黒だよ……真っ黒! どこにも他の色が見当たらない。単色とか珍しいんじゃない?

 

 後、冗談だとは全く思わなかったけど、俺はこの機体を見てから、CMで本気に宣伝するつもりだと理解した。そのせいか、他のISよりも少しスマートだ。機体のモデル的にも。

 でもな? このままじゃ顔、肩から肘の間、腹部、太ももが隠せないんだ。これは全身に装甲を付けて覆ってくれないと超ダサい。これでは中途半端な擬人化だ。俺は顔を出すのが嫌なんじゃない。ダサいのが嫌だけなんだ。宇宙(そら)に行く機体にも、搭乗者を物理的に守れる方がいいよね、絶対。だから後で束さんに言っておこう。

 

『じゃあ、早速ISを起動してみよー!』

 束さんから指示があり、俺は優しく機体に手を添える。

 瞬間、視界が白くなった。何の光!? とか言ってる内に光が収まる。

 

「うおっ!? なんだこの不思議な感じ……まるで全天周囲モニターみたいだなぁ。正面見ながら背後も見れるとは……すごい特殊な感覚……これがニュータイプか……」

 しかもいきなり体に装着されたし。足ズボがなかった……。

 

『それはISのハイパーセンサーだよ。説明はー……うん、後で資料を渡すよ』

 説明されるより動いて慣れたいから、後でいいかな。

 

『とりあえず、三十分そのまま操縦していてね』

 ん? 長くね? いや、色々やっていればそうでもないか。

 

「はい。わかりました」

 

『あ、言い忘れてたけど、夕君の要望に応えたのは束さんだよー! その武装達は、他国に情報を渡したりするものもあるからねー!』

 あ、そうなの。束さんすごいな。やっぱり、こうなってくると上手く扱えるか心配だが。

 

「よろしくお願いします」

 

『さてさて、夕君のISはなにをモデルにしているか、わかるかな?』

 

「はい。多分バンシィですよね? アームド・アーマーDEだけですが、それを背負ってるから、リディ仕様のバンシィ・ノルン」

 俺の機体は何故バンシィなのだろうか? 一夏のISが白いから、それで俺は黒? うん。そういうの嫌いじゃない。今までごめんね、リディさん。今までバカにして。でもちゃんとアシスト時のBMを当ててくれ。

 

『はい、当たり! じゃあ、どの武器も使い方はわかるだろうから、何も言わないよ。とりあえず動いてみよう!』

 動けという指示だ。束さんの言う通りに一歩踏み出す。初めの一歩の感想は、なんか足が伸びた変な感覚。竹馬みたいな感じ?

 

『まぁ、最初はそんなもんだね。これから慣れていけばいいよ』

 

「はい」

 うん。早く慣れてなんとかしたいな。

 

 

 

 

 最初の頃は危ない足取りだったが、今は普通に歩けるようになった。どのぐらいの時間が経ったかわからないけど。

 歩くのを止めて立ち止まり、今度は手の感覚を慣らす。うん。これはマジックアームを使っている感じだ。確かに指を動かせば、機体の指も同じ動きをしてくれていたけど。なんだか不思議な感じ。皆すごいな……俺はなかなか慣れそうにない気がする。もっと練習が必要だ。まだ始めたばかりでなに言ってんのって思うけどさ。

 

 今度はゆっくり走り出してみた。走ってみた感想は、なんかひょこひょこしてたな。ぎこちないというか、明らかにISでの足の動かし方に慣れてない。歩幅を理解してないのかな。

 これからまだまだ覚える事があるとか辛すぎて泣けてくる……。挫けそう……。

 でも、そんな時は! 両腕に装着されている白い盾一つをISの手で撫でる。俺の大好きなシールドファンネルだ。あ、ちょっと元気出てきた。俺、頑張るよ。シールドファンネルは本当なら三枚あるんだけど、装備の関係の事情で一枚お留守番。ごめんよ。背中のアームド・アーマーも補助ブースターとして必要だから……。

 

『そろそろ空を飛んでみようか』

 束さんから次の指示が下った。人間には無理でしょ……と思ったが、ISって空飛べるんだよな。地上の動きになかなか慣れず、下ばかりを見つめていたのに気付いた。俺、へこみ過ぎィ。

 

「どうやればいいんですか?」

 これは質問するしかない。普通人は飛べません。

 

『んー……』

 束さんは悩みだした。そりゃ、俺の頭にあわせるんだもの。時間がかかっても仕方ない。

 

『自分のISを信じればいいんじゃないかな?』

 なんというシンプルさ。

 

「わかりました。やってみます」

 深呼吸を一回。

 

(頼む。力を貸してくれ)

 心の中でISに語りかける。

 

 

「………………」

 少し待ってもなにも起こらない。どういう事なの……?

 

『もしかして機体側に全部頼っちゃった?』

 あー……俺の方が飛ぼうとしないからか?

 

「はい」

 

『そっか。じゃあ、今度は自分は飛べるって思ってみて』

 

「わかりました」

 束さんからの助言を生かすために、俺は意識する。

 

(俺はお前と一緒に飛んでみたい)

 自身の意志と、言葉を伝えた瞬間、俺は地面から離れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。