ソードアート・オンライン~インフィニット・グレイス・サーガ~   作:《白亜宮》@修行中

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第二頁

 ライトブルーのエフェクトライトが、淡く弧を描いて飛翔する。それに包まれた鈍色の刀身は、狙い違わず歩く植物を切り裂いた。

 

 《片手剣》ソードスキル、《ソニックリープ》。『音の速さで飛ぶ弧』を意味するというその名の通り、この剣技は非常に素早い一撃を放つ、汎用性の高い剣技だ。《片手剣》スキルの熟練度が低いうちから放てるため、序盤から終盤まで使える美味しい剣技と言える。

 

 繰り出したのはノエルだ。彼女の放ったその剣技は、惚れ惚れするほど美しい。さすがにβテスターほどなめらかな動きではないが、それでも自発的に体を動かすことによってソードスキルの威力をわずかに上げるシステム外スキル、《スキルブースト》はかなり巧いし、何より彼女の美貌と相まって、まるで戦乙女の様に見える。

 

 大上段から切り裂かれた敵……《リトルネペント》の残り少なくなっていたHPが、敢え無く0になる。リトルネペントは、おぞましい絶叫を上げながら無数のポリゴン片へと砕け散った。獲得経験値及び金額(コル)の表示が、ノエルとパーティを組んでいる俺の視界にも表示される。

 

 が、それを務めて無視。俺も獲物に向かって剣を振るう。

 

 装備しているのは初期装備の《スモールソード》。強化試行回数一回と、まさしく『初期装備』であるが、今俺達が挑戦しているクエスト……《森の秘薬》をクリアするまではこの剣が相棒だ。小柄ながらもきちんとした重みを感じさせるそれを握りしめて、一か月ぶりとなるソードスキルを発動。

 

 ペールブルーの燐光。高速で俺の剣が横凪に振るわれる。リトルネペントの弱点である、本体のウツボカズラ部分と、頭部から生えた植物部分の接合部――いわば『茎』を切り裂いたその剣技は、《片手剣》スキル取得と同時に使えるようになる三つの基本ソードスキルのうちの一つ、《ホリゾンタル》。

 

 水平、といういささかシンプルすぎると言ってもいい名前のソードスキルではあるが、同時に使えるようになる垂直切り剣技《バーチカル》と、斜め切り剣技《スラント》と併せて、多くの上位互換剣技を持つ重要な技だ。威力もそこそこある為、片手剣使いは初期の頃、これらを必殺技として戦術を立てるのが望ましい。

 

 Lv1の俺の攻撃力(ATK)では、残念ながら弱点を突いたと言っても、一撃で敵を殺せるわけではない。だがリトルネペントのHPは二割近く減り、のけぞりが発生した。ソードスキル発動終了と共に使用者を襲う《技御硬直時間(スキルディレイ)》が解けるのを待つまでは十分だと言える。

 

 果たして、俺の硬直が解けるのと、ネペントののけぞりが解けるのはほぼ同時だった。怒りの叫びと思しき「ふしゅるるるるっ!」と言った奇妙な音を立てながら、ネペントがその蔦を、まるで鞭の様にしならせて襲い掛かってくる。その先端の葉は短剣の様にとがっており、十分な殺傷力をうかがわせる。

 

「やばっ……!」

 

 あわてて回避。チッ、という軽い音と共にわずかな不快感。HPバーがほんの少しだけ左による。

 

 

 ――一歩、死に、近づいた。

 

 

「……ッ!!!」

 

 ぞくり、と、鋭い悪寒が俺の背中を駆け抜ける。体が冷えていく。恐怖が俺を支配する。立ち止まってはいけないと知っているはずなのに、死の恐怖の重圧で、体がうまく動かない。

 

 その隙を、いくら単純な設計をしているからと言っても攻撃性(アクティブ)モンスターのAIが見逃すわけがない。リトルネペントはその不気味な口を、心なしか笑みの形に変えながら、その蔦をしならせた。

 

 素早い動きでその蔦が俺を切り裂かんと迫る。俺のレベルは1、ネペントの基本レベルは3。さすがに一撃死とはいかずとも、何度も攻撃を食らえば危ない。

 

 だが体が動かない。どれだけ動け、動け、と念じても、俺の手足はSAOには存在し無い石化のデバフが掛かった様に固まったままだった。

 

 

「ラストさん!」

 

 そんな俺とネペントの間に、蒼銀のシルエットが割り込んだ。ノエルだ。彼女の片手剣が閃き、リトルネペントの蔦を半ばから斬り落とす。悲鳴を上げて後退するリトルネペントを追撃し、舞う様に戦うノエル。彼女が装備しているのは重金属鎧のはずなのに、その重さなど感じさせないかのように、ひらり、ひらりと、美しく。

 

 そうしてリトルネペントのHPは着実に削られていき……ついに0になった。

 

「ふぅ……大丈夫でしたか?」

「あ、ああ……悪い」

 

 心配そうな顔でこちらを見たノエルに、俺は歯切れ悪く答えた。「そうですか、よかった」と言ってほほ笑む彼女を見て、また言いようのない罪悪感が俺の胸中に湧きあがる。

 

 ――カッコわりぃ。

 

 内心で、不甲斐ない自分に毒づいた。

 

 この場で足手まといになっているのは、間違いなく俺だ。レベルは低いし、ダメージを受けると足が止まってしまう。先ほどからこんなことがすでに三回ほどある。その度にノエルに助けられていた。

 

 ――悔しいなぁ。

 

 そう、悔しい。俺と同年代の少女に助けられている、守られているというこの状況が。俺が憧れた物語の主人公たちは、こんな時恐怖を振り切って戦っていたはずだ。けれど俺にはそれができない。いつまでたっても不甲斐ないままだ。

 

「……ごめん。余計な手間かけさせて」

「何を言っているんですか。ラストさんは私の大切な仲間です。仲間が困っていたら助けるのは当然ですよ……あわてずに、ゆっくり行きましょう」

 

 微笑むノエル。実に良くできた人間だと思う。彼女の様な人の周りには、きっとたくさんの人が集まってくるのだろう。俺なんて、本当はいらないのかもしれない。結局《はじまりの街》で俺以外のプレイヤーがノエルに答えることは無かったが(《はじまりの街》出発が遅くなった理由はギリギリまで勧誘を続けていたからである)、それは俺の様なうすぎたない存在が隣にいたからであって、もし俺があそこで参加しなければ、もっと優秀な人材が一人や二人、いや、もしかしたら六人(フル)パーティを組むのに必要な残り五人がやって来たかもしれないのだ。

 

 でも。

 

「さぁ、続けましょう。先ほどの個体で100体目……運がよければ150体ほどで出現する確率が上がってくるそうですよ」

「ベータの頃はもうそろっと出てたんだけどな……よし、行こう」

 

 俺はノエルに、付いて行くと誓ったのだ。

 

 たとえ俺が、間違いなく不必要な存在だったとしても。

 

 

 

 ***

 

 

 

 クエスト、《森の秘薬》。

 

 《ホルンカ》の村の奥にある一軒家、そこに住むアガサという名の少女(名前はアルゴの攻略本に書いてあった)は、重い病気にかかっている。市販の薬を飲ませても一向に治らないため、《リトルネペントの胚珠》を煎じた万病に効く薬を使うしかない。依頼主は少女の母親。報酬は片手剣使い垂涎の強力アイテム、《アニールブレード》。

 

 難易度はさほどではないが、《胚珠》をドロップする《花付き》ネペントの出現率が恐ろしく低いため、ある意味では非常にシビアなクエストであるともいえる。ただし、クリアできればしばらく武器の新調は気にしなくていいし、今後の行動が非常に楽になる。

 

 故に片手剣使いは、このクエストの攻略を目指す。現在ではプレイヤー間で《アニールブレード》は四千コル…コルと言うのはこの世界の通貨の単位だ。SAOに課金機能は付いていない故正確なところは分からないが、β時代に承認プレイヤー達は1コル=1円の感覚で取引していた…近くで取引されているため、自力で入手した方が手間はかかるが安上がりだ。

 

 ゲーム開始から一か月が経過し、第一層が攻略されたことで、前線攻略に参加するプレイヤーと、《はじまりの街》に引きこもるプレイヤーの線引きがはっきりし始めた今、このクエストに挑むプレイヤーは少なくなっている。だがそれでも、大なり小なりこの世界でやっていこうと考えて(アルゴの攻略本片手に)《はじまりの街》を出たプレイヤーは、片手剣使いならほぼ間違いなくこのクエストを受けるし、今現在ソロプレイをやっている大馬鹿者の数は前線組では知らないが、最近冒険を始めたプレイヤーの中では多くない。否、ゼロと言ってもいい。

 

 故に一つの狩場に居るプレイヤーの人数が多くなり、狩場とPOPの取り合いが起こる。それを忌避して、俺とノエルは比較的プレイヤーが少ない早朝を狙ってクエストクリアを目指していたのだが――――

 

 それが、仇になってしまった。

 

「ふぇぇぇん! ごめんなさいっ、ごめんなさい……っ!」

「大丈夫ですから! 落ち着いてください!」

「クソっ……最悪、とまでは行かないが……思ったより数が多いな……!」

 

 現在俺の視界に映るものは大きく分けて三種類。

 

 一つは、恐慌して泣き叫ぶ、ツインテールの少女。武器は槍、年のころはナーヴギア年齢制限ギリギリの13歳ほどか。

 もう一つは、その少女をなだめるノエル。彼女にも焦りが見える。

 

 そして最後は――――だんだんとその姿を見せてきた、無数のリトルネペント達。

 

 これまでの経緯を簡単に説明すると、以下の通りになる。

 

 リトルネペントの乱獲を行っていた俺達は、森の中をさまよう一人のプレイヤーと出会った。件の槍使いの少女である。パーティーメンバーとはぐれてしまったという彼女を保護した俺とノエルは、彼女……プレイヤーネーム《アズサ》の仲間を探しがてら、彼女を加えた三人でネペントを狩っていた(彼女のパーティーメンバーにも片手剣使いがいて、そいつの為に《胚珠》を取りに来ていたのだという)。

 

 だがその最中、偶然アズサが《実付き》を発見、その種を割ってしまったのである。

 

 《花付き》と同程度、あるいはそれよりも低い出現率である《実付き》の方が先に出てきたのは運がいいのか悪いのかよく分からない事態ではあったが、とにかく今に限っては間違いなく悪い方向である。

 

 匂いに引き寄せられたネペント達が、大挙して押し寄せてきている。その数、目算で二十近く。俺達を包囲するように近づいて来ている。朝であるため夜行性のネペント共のPOP率が多少低下していることと、これまでの乱獲によって出現率が下がっていることが功を制していた。最悪の場合、百体近くが出現することになるからだ。そうなったらそれこそ何十レベルもあるプレイヤーでないと突破は難しい。だがそれでも、俺としてはもう少し少ないのを予想していたので、思ったよりも数が多くて悪態をついてしまった、というワケである。それ故アズサがもっと怖がってますます泣く、という悪循環なのだが。

 

 薄く紫掛かった、赤いカラーカーソルが見えてくる。SAOにおいて、正常なプレイヤーは緑色、犯罪者プレイヤーはオレンジ、NPCには黄色のカラーカーソルが与えられている。対してモンスターは赤なのだが、その表示方法は少々特殊だ。見ている側と、そのモンスターのレベル差があればあるほど、モンスターのカラーカーソルの色が暗くなっていくのだ。どれだけ殴られても死なないほどに弱い敵が相手なら、そのカーソルはほとんど白に近いペールピンク。自分と同レベルならピュアレッド。どうあがいても勝てない、絶望的な上位者が相手ならばほぼ黒にしか見えないダーククリムゾン。

 

 その基準に照らすと、Lv3であり俺よりも強いリトルネペントのカーソルは、少し黒味掛かって見えるわけである。

 

 話を戻そう。

 

 とにかく、どうにかしてこの状況を打破しなくてはならない。

 

「ラストさん、手立ては……!?」

「今考えてるッ!」

 

 非常に不味い事態ではある。俺のレベルは一つ上がって2だが、ネペント共の3には届かない。ノエルのレベルは4になり、アズサもレベル2だという。

 

 この場にいるプレイヤーは三人。恐慌状態にあるアズサは使い物にならないと考えて二人。いくらノエルがレベル的に上だとしても、正直に言ってかなり辛い。

 

 リトルネペントの様な、『眼が無いモンスター』と言うのには、実は《隠蔽》スキルがほとんど通用しない。故に姿を隠して逃げる、という手段は存在せず、無理やり突破しなければ逃げられない。

 

 たった一人で十体以上のモンスターをさばき切る自身は、残念ながら今の俺にはない。多分先ほどまでと同じように、ダメージを受けた瞬間に体がすくんで動かなくなるだろう。

 

 

 だが。

 

 

 今此処で、弱い俺が取れる手段は、一つしかないのだ。

 

「ノエル」

「は、はい」

「俺が血路を切り開く」

「そんな! 駄目です!」

 

 ノエルが悲鳴に近い叫びを上げた。

 

 俺が言ったことを要約すれば、こういうことだ。「俺が犠牲になるから、お前たちは逃げろ」、と。

 

 ノエルは俺のことを大切な仲間だと言ってくれた。ならばその期待に応えなければなるまい。

 

 幸いにして、俺が死んでもノエルの元には新しいプレイヤーが集ってくるだろう。お荷物な俺の出番は此処までで充分なのだ。

 

「大丈夫だ……最後に、君の役に立てるなら、構わない」

 

 そう、震える声で言い放って。

 

 

 俺は、リトルネペントの大群に向けて躍り掛かった。

 

「おぉおおおおッ!!」

 

 ソードスキルを発動させずに、できるだけ多くのネペントに攻撃を入れていく。ヘイトを稼いで、俺を注目(ターゲッティング)させるためだ。そうすれば、一時的にだがノエル達への注意が逸れる。ノエルは重装備級だが鎧は所詮《はじまりの街》のNPCメイド。さほど重くもない。アズサに至っては槍使いとは思えない軽装備だ。

 

 一撃でももらったら、多分俺は終わりだ。動けなくなって、そこを狙われてHPを食い尽くされる。ゲームオーバー、俺は死ぬ。

 

 だから、ダメージを喰らわなければいい。ひたすら避けて、ちまちまとネペント達を突いて行く。

 

 それだけのルーチンワークを、何度繰り返したことか。俺はふと、全てのネペントの視線が…奴らに目は無いものの…俺に集まったのを感じた。別にそう言う気配察知のスキルが在る訳ではない。いうなれば《第六感(ハイパーセンス)》とでも言うべきシステム外スキル。

 

「今だ! 逃げろ、ノエル!」

 

 俺はノエル達に向かって大きく叫んだ。彼女たちが離れていくのが見える。良かった、これで大丈夫だ。あとは、ひたすら時間稼ぎをするだけ。

 

 俺は自分がこの状況を打破できるとは思っていない。()()キリトみたいな本物のトッププレイヤーなら、同じ状況に立たされても、十体以上のリトルネペントを狩り尽くして生還しただろう。

 

 だが俺は奴ではない。奴の様な『主人公』ではないし、なることはできない。

 

 けれども、惚れた女が逃げる時間稼ぎをするくらい、俺みたいな奴にだってできるはずだ。

 

 

 リトルネペントの攻撃を避ける。回り込んで、弱点に向けて《ホリゾンタル》。悲鳴を上げて砕け散るネペントをしり目に、スキルディレイ解除と同時に左へ飛び、次のネペントを攻撃する。

 

「ふしゅるるるるっ!」

「ぐぅっ!」

 

 ネペントの吐き出した腐食液が、俺の剣に降りかかる。耐久の乏しいスモールソードは、それだけで大きく損傷した。

 

「やばっ……」

「しゅるるるるっ!」

 

 リトルネペント達が、一斉にその蔦を振りかざす。どうにかしてその攻撃を避けるが、しかし一体分を避けても、次の一体分がまだ待っている。

 

 いつかは、避けられなくなるのは自明の理。俺の身体に、遂にその刃が撃ち込まれた。

 

 HPが大きく削れる。死が、近づいた。

 

「――――ッッ!!!」

 

 体から力が抜ける。止まってしまう。

 

 ――ここまでか。

 

 短い人生だった。でも不思議と、後悔はしていなかった。

 

 だってノエルの役に立てたんだからな。あの聖女の英雄譚を、ほんのちょっとだけでも彩ることができたのが、少しうれしい。

 

 彼女はきっと、この先、アインクラッドを救う人に――――

 

 

「ラストさん!!」

 

 

 その声を聞いたとき、幻聴かと思った。だが視界に蒼銀の鎧を収めた瞬間、それが幻でないことを悟る。

 

「馬鹿ッ……逃げろって、言ったろうが……っ!」

「アズサさんのパーティの人たちが見つかりました。皆さんボロボロだったので、村まで連れて帰るのに時間がかかってしまって……来るのが遅れてすみませんでした!」

「違う! 君は……俺を見捨てて逃げればよかったんだ!」

 

 どうしてだ。

 

 どうして、俺なんかの所に戻ってきたんだ。君はこんなところで死んでいい存在じゃないだろう――――

 

 

 そんな俺の胸中を見透かしたかのように。ノエルは、太陽の様に微笑んで、言った。

 

「大切な仲間を、見捨てて行くくらいなら、そこで死んだ方がマシです。言ったじゃないですか。ラストさんは、私の、たった一人の大切な仲間なんですよ?」

 

 そして聖女は剣を抜き放つ。

 

 それはあのブロードソードではない。銀と黒の刀身の、シンプルなロングソード……間違いない、《アニールブレード》だ。

 

 だが何故。俺達は、まだ《リトルネペントの胚珠》を一つも手に入れていないはず――――

 

「アズサさんと、彼女の仲間たちが、胚珠を手に入れていました。お詫びに、と、譲って下さったのです」

 

 ノエルはそう説明する。彼女の持つ真新しいアニールブレードに光が灯る。ライトブルーのそれは、βテスト時代に良く見慣れた、あの剣技の物。

 

 高速の横凪斬撃。返す太刀で、もう一撃。

 

 《片手剣》二連撃ソードスキル、《ホリゾンタル・アーク》。スキル熟練度50から使えるようになる、初期ソードスキルの発展版だ。同時期に《バーチカル・アーク》の使用が可能になる。

 

 《片手剣》で初の連撃技だ。当然、敵の数が多いこの場では非常に有効。

 

 踊るように、聖なる姫勇者が剣を振るう。青い光がリトルネペント達を切り裂いて行く。一体、また一体と、ポリゴン片へと変わっていくリトルネペント。

 

 

 不意に、俺の心に再び罪悪感が沸いた。同時に、強い不甲斐なさを嘆く思いも。

 

 格好悪い。今、俺は猛烈に格好悪い。

 

 助けるはずだった人に助けられて、何もできないで這いつくばっている。これのどこが格好良いもんか。

 

 俺はノエルの仲間なのだ。いずれこの世界を引っ張っていくはずの彼女に恥じない、そんなプレイヤーにならなくてはならない。

 

 主人公じゃなくたっていい。この剣で、彼女を助けられたなら――――

 

 

 きっとそれって、格好いい。

 

「ぐ、ぅぅう……ッ!」

 

 固まった体を、無理やり動かす。震える足を、無理やり鎮める。

 

「お、ぉ、ぉ、おおおおおおッ!!」

 

 剣を振り上げ、構える。幸いその動きがシステムに検知され、ソードスキルが発動した。

 

 再び放たれた《ホリゾンタル》が、リトルネペントを切り裂いた。ネペントの悲鳴が響く。そのHPが0になって、ネペントは無数のポリゴン片へと化して爆散した。

 

 

 俺が、死の恐怖をほんの少しだけ乗り越えた瞬間だった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「お兄ちゃん、ありがとう」

 

 病床の少女・アガサの礼を受けて、俺は民家を後にした。腰にはアニールブレードが吊るされている。

 

 あの後、俺達は無事ネペント達を撃退することに成功した。その中に何と《花付き》が混じって居たため、俺達は二つ目の胚珠を入手、こうして二本目のアニールブレードを手に入れることに成功したわけである。戦いの最中でスモールソードは壊れてしまったが、この剣があればしばらくは大丈夫だろう。

 

 外に出ると、既にノエルが待っていた。蒼銀色の髪と真っ青な瞳が仮想の陽光を反射して、まるで宝石の様に、美しく光り輝いている。

 

「おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。ノエルのおかげだ」

「いいえ。私も助けられましたから」

 

 微笑むノエル。俺が今まで見てきたどんな女性よりも、多分彼女の笑顔が一番綺麗だ。

 

「ラストさん」

「お、おう」

 

 突然名前を呼ばれて、思わずどもりながら答える。

 

「これからも、私の仲間でいてくださいますか?」

「あ……」

 

 それは、第一層を超えて、第二層、第三層、そしていずれはアインクラッドの頂上まで、彼女と共に戦うかどうかの問いだった。

 

「いずれ私は、最前線で戦おうと思っています。追いつけるのはいつになるのか分かりません。ですが、きっとこの城を最前線で攻略する一員として、多くの人を救いたいと考えています。

 ラストさん……一緒に、来てくださいますか?」

 

 そんなふうに聞かれて。

 

 どう答えるかなんて、決まってるだろう。

 

「ああ。俺は君に付いて行こう、ノエル」




 長くなってしまった。 分割すればよかったかなぁ……そうすれば次の文のストックもできたのになぁ。

 そんなわけで覚悟を新たにしたラスト君。次回は体術スキル獲得の話にしようかな、とか思っています。ちょっと短くなるかな。もしかしたら明日投稿できないかもです。
 なお、今回登場したオリキャラのアズサちゃんですが、その内また出てくると思います。本作のロリ枠。

 感想・ダメだし・アドバイス等お待ちしております。

 それでは次回でまたお会いしましょう。
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