第十話『魔界』
俺、天雪氷武は眼を見開いた。
目の前の神綺と名乗った女。
そう、東方プロジェクトのキャラだということは覚えている。
そして魔界神であるということも。
ただ生憎、情報量が少ない。
「神綺、か」
「貴方は名乗らないのかしら?」
そんな質問に、静かに笑う氷武。
「……天雪氷武だ」
名を聞いて満足したのか、頷く神綺。
勝てる気がしないわけじゃないのは確かだ。
ただ、できれば戦闘は避けたい。
魔界で魔界神を敵に回すのがどれだけ無謀か考えないわけじゃないからだ。
「魔界を荒らしに来たのかしら、あなたは」
真っ二つになって死んでいる化け物を見て、そう言った。
「ぃや、襲われそうになったんですよ」
機嫌を悪くするわけにもいかない。
早々に退散したい。
しかし、そうは行かないようだった。
「どうやってきたのですか?」
「スキマを通って」
「…八雲、紫?」
おや、神綺は紫を知っているようだ。
これは便利と考えて頷く。
良いことにすぐ帰れそうだ。
「あぁ、知っているならはや―――」
「神綺さまぁ!!」
メイドが一人走って来た。
PADじゃない方だ。
そう言うとなにか殺気を感じる。
気のせいなのに安心して、神綺にもう一度目を向けた。
「夢子ちゃん」
「私がお守りいたします!」
メイドからナイフが、飛んできた。
これもPAD長の呪いなのだろうか。
「っ!」
避けるが、服の腕部分がすっぱりと切れた。
危ねぇ、下手をすれば腕がさっくりだ。
メイドこと夢子をにらみつけた。
旧作はほとんど知らない俺だ。
特にキャラに思い入れもないので、心情的には簡単に始末できるだろう。
でもできることなら―――手を出した無くないのは確かだ。
「やるのか、そこのメイド」
メイドを睨み付けると、神綺が驚いたような顔をした。
神綺の視線でメイドを心配していることがわかった。
「夢子ちゃん、大丈夫?」
「はい、お任せください。あのような得体のしれない敵一人!」
「八雲紫の関係者、実力拝見させていただきますわ」
神綺が飛び上がり距離を取っていく。
俺は、もちろん夢子と一騎打ちになるだろう。
倒すか殺すかをしなければ、どうにもならないのが眼に見えている。
「行きます!!」
直後、大量のナイフが飛んできた。
だが、俺には当たらない。
避けて行きながら、しっかりと敵を捉える。
「サーベル!」
刃の無い刀を取り出し、二刀流の構えを取った。
そして、紅い刃を出現させる。
夢子は少し驚いているようだった。
「ハハハッ、どうしたぁ!」
二本の刀を振ると、ナイフは次々と落ちていく。
だが、夢子はナイフを投げ続ける。
あのナイフは減らないのか?
ならば、仕掛ける!!
俺は飛び上がった。
満月が、俺の背後から照らす。
そして、二本の刀を懐にしまい、最高速でナイフを避けながら夢子へと飛ぶ。
「っ!?」
夢子は驚いているようだが、遅い。
俺の右腕が輝く。
「ユニヴァースっ!!」
腕から電気のようなものが溢れる。
夢子の周りに膜を張った。
「Iフィールドバリアーで金縛りにする!!」
「っこれは!?」
動けない夢子が焦っているようだ。
チルノと戦ったばかりだから、ダメージが残っていて体中が痛む。
そして俺はもう一度飛びあがる。
「行くぞぉ!!」
片手で、刀を出した。
柄から、紅い刃が伸びる。
「勝負あったな…!」
―――斬撃。
俺の、たった一度の斬撃が、勝負を決した。
仰向けに倒れる夢子。
殺しはしない。
もちろん理由は山ほどあるが、第一神綺を敵に回すのはあまり喜ばしいことじゃない。
俺は静かに地上に立つ。
「終わったぞ」
刀をしまう。
神綺がスッと降りてきた。
敵意が、ないわけじゃなさそうだ。
殺気が伝わってくる。
「…夢子ちゃんを斬ったわね」
「事情くらい聞いてくれても良いんじゃ?」
俺に否があるとは思えない。
それに、コイツは試していた。
「俺を、試したんだからこれくらいは」
神綺が、少し考えるような仕草を見る。
こう見るとただの少女にも見えて、可愛らしいななんて思う。
「八雲紫の命令で、魔界をどうにかしようとしに来たんじゃ?」
「それは無いな、下手に世界に干渉するのは好きくない」
世界に干渉するのは好きくない―――なんてのは、まぁ嘘だけど。
嘘でもそう言っておけばとりあえずはましだろう。
「本当?」
心が痛むが、頷く。
「良かったぁ」
そう言うと、神綺がほっとした顔になった。
先ほどまでとは別人のように純粋な少女の顔だった。
夢子の傍まで言って起こそうと揺すっている。
起きないからか、少し焦ったようだ。
先ほどと違いすぎて、なんか調子が狂う。
「私の家にでもどう?」
「ん~是非も無し」
俺は、夢子をおぶる。
少し驚いているようすの神綺だが、すぐに意図を理解してくれたようだ。
「俺が運んでいくから、先を飛んでくれ」
頷く神綺。
どうやら良いらしい。
先を飛ぶ神綺。
俺は夢子を落とさないように後に続く。
「神綺か、騙されやすそうな性格なこった」
「なにか言った?」
「いや、なにも」
神綺の後を飛びながら、家とやらに向かった。
飛行中に見た地上は、西洋の街のようだった。
どうやらここは少しばかり進んだ場所のようだ。
少なからず、俺の村よりは進んでいる。
神綺の家の前についた。
家らしい。
俺の考えが正しければ、コイツは家というより屋敷だ。
「どうぞ」
神綺の後を追って、屋敷へと入る。
大きな屋敷のわりに人の気配が無い。
不自然であり不気味でもある。
「こっち」
神綺に誘われて、後を追っていく。
大きな扉を開くと、部屋があった。
「ここに寝かせてあげて」
言われた通り、ベッドの上に寝かせる。
ソファに座るように促されたので、頷いてソファに座った。
向かいのソファに神綺が座る。
「ところで、行く場所はある?」
「いやぁ…特には、もとの世界には帰れない?」
神綺が少し困ったような顔。
なにを困っているのか、不安になりながらも聞いてみた。
「どういうことだ?」
「いや、少し現界と魔界の狭間を作る結界が大変なことになってて…サリエル。私の友人が今必死になって調整してくれているんだ」
なるほど、と頷く。
ならば結界が修復するまではこっちで生活が必要だ。
困ったことになりそうである。
「家使う?」
神綺の言う事はありがたい。
しかし、なんだか申し訳ない。
それに夢子が起きた後が面倒なことになりそうだ。
「いや、なんとかしてみる。それより魔界のことを教えてくれ」
「それだけでいいなら」
そう言って神綺は微笑する。
彼女が、説明を始めた。
俺は静かにその話を聞く。
住み込みの仕事を探す。
そう言って出て行こうとすると、神綺が声をかけてきた。
夢子が起きる前に出て行きたいのだが、と思い背後を向く。
「仕事、聞いてみようか?私は皆のお母さんだからきっと聞き入れてくれるよ」
超魅力的なことを言われた。
しかし、負けるわけにはいかないので首を横に振る。
「さすがに悪い…自分で探すさ、ありがとう」
そう言って早歩き。
それはもう、むしろ途中から飛んだ。
魔界。
まぁ、現界とほとんど変わらない。
システムとかも似たようなものだ。
「さて」
街へと降り立った。
少し目立つが、元々容姿からして目立つので気にせず仕事を探す。
「仕事仕事〜♪」
気分良く探しに行く。
―――さぁ、仕事探しの開幕だ! 自慢じゃないが俺の学歴は中々悪くない。
―――結果? 聞くな!!
一つ話しをしよう。あれは一時間前……いや、5時間前だったかもしれない。
レストランで面接中だ。
「人間?」
「はい、人間です」
ちなみに学歴はまったく意味をなさないことに気づいた。
「そんな人間で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
問題ないと答える。人間より全然使える人間だ。
「…特技は?」
「読書です」
その瞬間、店を蹴り出された。
「面接でなぁ、読書や掃除って言う時というのはなぁ、無一文のニートが甘ったれていうセリフなんだよぉぉぉ!!」
そして、今にいたる。
夕暮れの公園でブランコに座っている。
なんか、こんな光景を昔見て指をさして笑った記憶がある。
あの時のおじさん、ゴメンよ。
「でも、特技ったって……ここの時代でも本を読むのが限界だ。本を読む仕事だったらいくらでもやるのに」
「今の言葉は本当?」
声がした。
顔をあげると、そこには一人の少女が居る。
開いた口が塞がらなかった。
そこに居たのは紫髪の少女。
「……パチュリー?」
「誰よ」
紫色の髪をした少女は、むすっとした顔で俺を見てくる。
即座に謝る俺。
少女の顔が緩む。
「まぁ良いわ、今の本を読む仕事ならいくらでもやるのね?」
俺の良く知っている少女―――に似ている少女に頷く。
「私の家で本の整理と読むの、やってくれないかしら」
「マジで?」
マジという言葉がわからなかったのか、首を横に傾ける。
おっと、少しテンションが上がってきた。
「給料は?」
「出すわ。もちろん高めにするし、住み込み兼三食、しかも間食付きっていうのはどう?」
静かにガッツポーズをする俺。
少し引き気味の少女。
だが俺はそんなことも気にせず一礼。
「是非働かしてくれ。俺は天雪氷武、君は?」
「私はルイス・ノーレッジ、貴方の上司よ」
こうして、魔界での俺の住む場所が決まった。
彼女はノーレッジ。
俺の未来に深く関わる人物。
そして、やがて俺の大事な人になる女だ。
あとがき
お待たせして申し訳ないです。
ほかの小説やらなんやら、構っていればいつの間にやら時いろいろと……。
そしてスランプ入り気味だったりなんだったりと、ともかく!
こうして魔界編開始です。
お楽しみいただけたならなによりで、次回をお楽しみに♪