氷武が消えて九日。
あれから毎日、チルノが湖近くで何かをしていた。
いつも通りそうしているチルノを、大妖精とルーミアがいつも通り見ている。
突如、二人の側にスキマが開かれ、そこから紫が現れた。
氷武が消えたからこそ、チルノのことを気遣っていた。
自分で魔界にやったのだが一応アフターケアぐらいはしている。
「なにやってるの?」
紫が大妖精に聞く。
隣りの大妖精は気配を察していたのか、驚くことなく答える。
「剣の練習らしく、氷武さんが先生なんだそうです」
「……どういうこと?」
疑問を口に出す紫。
困ったように笑って、大妖精は言う。
「記憶の中の氷武さんの剣を、真似て我流を組ませながらやるそうです」
「なるほどね……頑張ってるのね、あの子も」
「元々……チルノはどういう馬鹿みたいに突っ走る部分があるから」
ルーミアが静かに言うと、紫がチルノを見て頷いた。
その顔は、どことなく優しい。
その馬鹿を見守るにしてもやけに優しい。
「行動力のある馬鹿ほど恐ろしい生き物は居ないわね」
その瞬間、空から降ってくる者が居た。
緑色の髪をなびかせて現れたのは我らがゆうかりん。
チルノの前に降り立ち笑顔を見せた。
「チルノ……ずいぶん強くなってそうじゃない」
その笑顔は狂気的だ。
チルノが睨む。
氷武と戦ってからこうはなっていなかった。
「殺りあいましょう。また、可愛がってあげるわ」
傘を向けられたチルノが、溜息を吐いて氷の剣を構える。
背中に剣がつけられている。
緊迫感が周囲を支配した。
「七つも?」
氷とは別に、なにかわからないもので作られた剣がある。
腰横に大きめのブレイドが二つ。
腰後にダガーの柄だけが二つ。
背中にサーベルの柄が二つ。
そして、右腕に大きなソード。
ソードは右腕の手甲に装備されて、折りたたまれている。
「なるほど、そうね名前を付けるなら<セブンスソード>」
幽香が笑って言うと、チルノも笑う。
楽しそうな笑みを浮かべる二人。
「行くよ幽香」
「来なさいよ、サァ!!」
走り出す幽香。
顔を笑みのまま変えない幽香とそれに反して顔を真面目にするチルノ。
チルノが、折りたたまれていたブレードを展開、手甲に繋がれたソードは持つ必要なく腕を振ることで振れる。
ソードを振り下ろすと、幽香は両手で傘を持って振り上げた。
傘とソードが唾競り合いになる。
「力はまだまだねぇ!!」
力ではチルノが押される。
しかし、笑みを見せた。
まだまだ余裕と言わんばかりの表情だ。
「貴女が言ったセブンスソードは伊達じゃない!」
空いた左手を背中に回してサーベルの柄を持つ。
チルノの左手にあるその柄から、蒼い光の刃が現れた。
「
蒼い刃を持つそのビームサーベルを横に振る。
だが彼女も並の妖怪ではない、その反射神経をもってして幽香が背後に跳んだ。
ダメージも無いが、服の腹部分がかすかに切れていた。
「……チルノぉ」
お気に入りの服を傷つけられて、睨む。
しかし、いつかのようにチルノは怯えない。
強い瞳で幽香を睨み返す。
「本気で潰す!!」
走り出す幽香。
ソードを折りたたんで、サーベルを戻す。
次は腰後に装備された柄だけのダガーを一本づつ手に持つ。
「
ビームサーベルと同じような蒼い光の刃が現れ、ダガーの型を作る。
それを、チルノは投擲する。
二つのダガーが迫り、幽香は傘を振って弾く……だが、その判断は誤りだ。
目の前には、チルノ。
もう間に合わない。
チルノは腰横にある二つのブレイドに手をかける。
引き抜くと、左手のブレイドで幽香の傘を持つ右手に刺した。
血飛沫が上がり傘が落ちるが、チルノは気にせず次の行動に移る。
「はあぁっ!」
そして、右手のダガーで幽香の左肩を刺す。
叫び声など上げない。
痛みはあるのだろうが、それよりも憎悪の方が上だ。
「なんで、下等生物なんかに!」
「その考え方が……戦いを生む!」
妖怪と人しかり、妖精と人間しかり、妖怪と人間もまた同じだ。
ブレイドを幽香を刺したまま、ビームサーベルを取り出すし、切り裂いた。
縦と横、同時に切り裂いて服が散る。
さらに幽香を蹴って吹き飛ばすが、幽香はなおも地面に足をついてチルノを睨む。―――はずだった。
視線の先にはチルノは居ない。
幽香は気付いていないが、見ていた大妖精。ルーミア。紫の三人は唖然とした。
背後には、すでにチルノが居る。
幽香はまったく気付いていない。
「その歪み、このあたいが断ち切る!!」
ブレイドが、横に一閃される。
血が上がらないが、幽香の瞳が閉じられて倒れる。
チルノが息を吐くと、剣が全て消えた。
幽香に刺さっていた剣も、落ちた剣も、装備していた剣もだ。
「……良く頑張ったわね」
紫が、幽香をスキマに落とした。
驚いた表情を見せるチルノ。
「家に帰しただけよ、幽香なら一晩で傷も機嫌も治るしね」
ほっとした表情を見せる。
大妖精が、チルノに小走りで近づく。
「凄い強いね、チルノちゃん」
遠くからチルノを見て、ルーミアが呟く。
「妖精のレベルからかけ離れている……」
「同感ね」
紫とルーミアが話しているがあまり明るい表情とは言い難い。
まぁルーミアが明るい表情を見せることなんてそうそう無いことではあるが……。
一方。チルノと大妖精は明るい。
嬉しそうに話す大妖精。
「良かったね!」
「……私は、これで氷武の力になれるかな?」
「え?」
チルノは嬉しそうな顔をしていない。
どこか、寂しそうな顔だ。
「氷武っていつも一人で戦ってる。あたいは、氷武の力に、剣になりたいんだ」
そこで、紫が目の前に来る。
「認めましょう、貴女は絶対に氷武の剣になりえるわ」
妖怪賢者である紫に『妖怪賢者らしく』声をかけられて驚くチルノ。
そんなちるのを気にせず、彼女は話を続けた。
「私が楽しいことにしてあげる♪」
嬉しそうに、楽しそうに笑う紫。
どうなることやらと、大妖精は苦笑い。
ルーミアはどことなく呆れている。
「戦いなさい……貴女は貴女の戦いを」
そういわれると、力強く頷くチルノ。
「貴女は天雪氷武が氷剣<セブンソードのチルノ>」
七本の剣が再びチルノに装備される。
それはどこから手に入れたのか、どういう武器なのか、紫がそれを知るまでしばらくかかる。
チルノは、空を見上げる。
氷武に思いを馳せながら。
いつしかあの人の笑顔が見れるようにと、笑う。
「天雪氷武が氷剣<セブンソードのチルノ>」
その名を握り締め、噛み締め、チルノは頷く。
大妖精とルーミアは、そんな友人を微笑ましく見守った。
こうして、氷武のすべてが始まるのだ。
あとがき
お久しぶりです! まぁ閑話ということで文字数少ないですね(汗
でもこれにて私のチルノがとうとう降臨! セブンソードチルノ、アドベントではないけれど!
さぁて、そろそろ更新もしっかりしないとですね。
では、次回もお楽しみに♪