東方真戦譚~戦闘神、立つ~   作:超淑女

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第十二話『純粋に戦いを楽しむ者』

 魔界。

 あの日からざっと十日ほど経った。

 ルイスはもはや氷武を警戒などしていない。

 しっかりと信頼されている氷武は、今日も朝からコーヒーを入れた。

 正直な話、男を女所帯に受け入れること自体若干なりとも不安をいだくものなのだろうけれど彼女には確信がある。氷武には女を襲うような度胸はないと……。

 そしてそんな度胸のない氷武は本の整理を小悪魔と共にこなすが、ルイスの本を読む量は早くそれが終わることなど無い。

 昼に休憩。

 

「だぁ~疲れた!!」

 

 氷武が図書館に備え付けられたソファに座る。

 それを見て苦笑しながら、小悪魔が紅茶を持ってやって来た。

 

「どうぞ」

 

「あんがとな~」

 

 小悪魔が淹れた紅茶を受け取って、一口飲む。

 ふと、氷武が眼を細めた。

 ティーカップから口を離す。

 

「あれ、お味になにか?」

 

「いや」

 

 なんとなく理解できた。

 内にいる戦闘神が出てこようとしている。

 こういう時は大体———。

 

「ルイスは?」

 

「まだ来ませんね、お昼時はすぐ来ますのに」

 

 熱い紅茶を飲み干す。

 小悪魔が驚いた。唖然としている。

 そして氷武は、立ち上がると瞳を細くして小悪魔を見る。

 

「……行くぞ」

 

 戸惑いながらも頷く小悪魔。

 そして、階段を登りながら氷武が口を開く。

 

「……喉痛熱い」

 

「ですよね」

 

 小悪魔は笑いながらも、彼の後を着いていった。

 

 

 

 家を出て、街の大通りに立つ。

 小悪魔は人通りの少なさに背筋が凍るような感覚がした。

 そして前方にいる一人の人間。

 

「っ!?」

 

 遥前方に、一人の人間が居た。

 ルイス・ノーレッジ。現在の、小悪魔と氷武の主人である。

 一人で何百もの妖怪を抑えている。

 なぜ魔界に妖怪がいるのかわからないが、走り出す。

 小悪魔と氷武。

 ルイスに弾幕の一つが直撃して、地を転がる。

 すぐに駆け寄り、小悪魔がルイスを支える。

 辛そうに口を開くのはルイス。

 

「なっ、なんで出てきたのよ。私一人で十分だったのに」

 

 そう言って笑うルイスを見て、氷武が怒りを抑える。

 怒りを抑えなければ戦闘神になる。

 ここで信頼を失うわけにはいかない。

 

「ここは任せとけ、俺がなんとかする」

 

 戦闘神を出さないように、冷静に歩き出す。

 目の前に広がる妖怪の群れ。

 その瞬間。いくつものビジョンが頭をよぎる。頭の中にも同じような光景が浮かぶ。

 ここよりも近未来的な町並みの中を、妖怪の大群がやってくる記憶。

 その前に女性が立っている。

 

「え、えい……!? があああアアァッ!」

 

 頭の中を蛇がのたうちまわるような光景。

 いくつもの光景。いくたもの物語が流れる。

 世界や過去や未来の光景すらも浮かぶ。

 しかし、その光景のどこにも自分は居なかった。

 自分がいるのは過去の光景のみ。

 

「っ……」

 

 そして、止まる。

 叫び声も止まる。

 氷武が、止まった。

 

 ルイスも小悪魔も前方の氷武を驚いたように見ている。

 

 突然―――氷武が立ち上がる。

 

「ふはははははっ! 我が世の春がきたあああああぁぁぁぁっ!!」

 

 叫び。

 笑い。

 楽しんでいる。

 狂気の姿に、驚愕が止むことはない。

 

「貴様らぁ! 戦争を楽しんでやる!!」

 

 氷武が飛び上がる。

 妖怪たちが弾幕を張る。

 一体一体の弾数はたかがしれているが、千体近い敵の弾幕は密度が濃い。

 しかし、氷武は笑っている。

 

「そうだ! そうでなければ意義がない! 存在する意味もぉ!!」

 

 左手に、紅い光が宿った。

 彼の攻撃。

 

「爆熱……ゴッドフィンガァァァッ!!」

 

 紅い光が弾幕を逆に飲み込む。

 そして妖怪軍の一部を蒸発させた。

 空中から放ったゴッドフィンガーは地すらも蒸発させている。驚愕し、怯える妖怪たち。

 だが数体の妖怪が放った弾幕は、上空で爆発を起こす。

 爆煙の中から落ちてくる。爆発に巻き込まれた氷武の、陣羽織のような上着。

 妖怪たちが笑い出すが、同時に特徴あるあの声が響く。

 

「ふははははっ! 何を笑っている?」

 

 そんな声に妖怪たちが気付いた時は、すでに遅い。

 妖怪軍の後方で、居合いの構えをしている氷武。

 氷武は顔に笑みを浮かべていない。

 そして、睨む。

 

「必要ないのだ、魔界にとって……貴様たちは!」

 

 刀を抜いて、切り抜ける。

 神力と妖力を込めた刀の刃は、数十メートルにまで伸びている。

 そして、妖怪たちが気付いた時には、氷武は先の爆煙の下にいた。

 刃に付いた血を振って落とすと、妖怪たちはバラバラに切り裂かれる。

 落ちてきた上着に腕を通して、着用した。

 周りに有象無象といる妖怪を睨む。

 

「さぁっ! 闘争本能の赴くままにぃぃ!!」

 

 走り出すと同時に、二本の刀を取り出す。

 神力と妖力を込めた二刃で切り裂く。

 舞う血飛沫。

 しかし、氷武は笑いながら敵を切り裂く。

 

「シネェッ!!」

 

 二本の刃をしまう。

 楽しんでいるのだ、彼は。

 

「シャイニングフィンガー!!」

 

 黄金の右手で敵を消し飛ばした。

 

「ゴッドフィンガー!!」

 

 真紅の左手が敵を蒸発させた。

 

「フハハハハハッ!」

 

 二つの腕が敵を蹴散らしていく。

 妖怪たちは逃げていくが、氷武の背後を取った敵がいた。

 

「GAAAAA!!」

 

 背後からの声が聞こえながらも、氷武は笑っている。

 その瞬間、特徴的な音と共に背後の妖怪が弾き飛ばされる。

 弾き飛ばしたのは、小悪魔。

 遠くから弾を放ったようだった。

 何日か前にルイスに聞いた。

 彼女の弾は、数は少ないが収束率と弾速と正確度は完璧らしい。

 

「フハハハハッ、楽しいじゃないか……良い物をやろう!!」

 

 氷武が飛行した。

 小悪魔の前に浮遊している。

 氷武の背中から、緑。青。赤。何色もの粒子の翅(はね)が現れた。

 その翅は蝶のようにも見える。

 氷武の手に一つの物が現れた。

 ワープしたように出現したそれを、背中を向けたまま小悪魔にわたす。

 

「わわっ!」

 

 驚きながらもそれを受け取ると、驚く。

 それは、未来で言うスナイパーライフル。

 しかし、些か違うように見える。

 

「それを使え! お前には丁度良い……俺が、小生が貴様にそれをやる」

 

 小悪魔が驚きながらも、頷く。

 背中を向けていた氷武が振り向く。

 翅がなびいて、小悪魔はその幻想的な光景に目を奪われた。

 それは小悪魔の背後にいたルイスも同じだ。

 

「小悪魔ぁ! 狙い撃て!」

 

 そう言って、地に降り立つ氷武。

 彼は振り向いて妖怪の大群に走り出す。

 それと同時に、小悪魔は頷いて体勢を低くする。

 そしてスナイパーライフルを構えて、決意を込めた表情を見せる。

 

「小悪魔……目標を狙い撃つ!」

 

 トリガーを引くと同時に、ピンク色の細いレーザーが妖怪を貫いた。

 連射性がきくモードにしてトリガーを引き続ける。

 そうすることで、氷武の横や背後から襲う敵を狙い撃つ。

 

 

 

 氷武が敵を右手と左手で消す。

 圧倒的な力により、減っていく敵。

 背後からの敵も小悪魔が処理する。

 

「行くぞぉ!」

 

 氷武の背後の次元が避ける。

 6つのパーツ。

 いつぞや神奈子相手に使った武装だ。

 

「ホワイトファングである!!」

 

 それらの機械の一つが、ビームを射出して敵を撃つ。

 どんどんと敵が消えていく。

 その内、敵の大ボスらしき女が見えた。

 

「貴様が大将かぁ!!」

 

「何者だ!」

 

 女が叫ぶ、だが怒りを込めた表情で女の首を左手で掴む。

 6枚の翼を持った敵。

 

「小生のセリフだ!」

 

 怒りと殺気を込めた言葉を放つ。

 女は怯える。あきらかに今までの妖怪と違うのにも関わらず、戦闘神の前では所詮有象無象と変わらない。

 戦闘神の前では同じ神が相手でも変わらないのだから当然。

 

「ウリエル、だ」

 

「そうか、だから、なんだ?」

 

 左手でウリエルの腹を掴んで持ち上げる。

 そして、右手が輝いた。

 

「シャイニングフィンガーである!!」

 

 爆発。

 ウリエルと呼ばれた女の体が中に跳んだ。

 だが、空中で体勢を整えて逃げようとする。

 氷武が追わない。

 

 その瞬間、小悪魔が走る。

 そしてウリエルの下にしゃがんで、上空にスナイパーライフルを構える。

 

「一気に本丸を、狙い撃つ!!」

 

 トリガーが引かれると同時に、レーザーがウリエルと呼ばれた女を貫いた。

 ウリエルは光の粒子となって散った。

 小悪魔が立ち上がって構えを解くと氷武の方を見る。

 

「っ!?」

 

 そこには、倒れている氷武。

 何があったのかはわからない。

 あの性格もわからないが、ルイスを守るのを手伝ってくれたのは確かだ。

 小悪魔が駆け寄った瞬間。

 氷武の周りは鎧を着た兵士に囲まれた。

 

「えっ?」

 

「ここは私に任せてくれないかしら?」

 

 そんな聞き慣れた声と共に、空から神綺が降りてきた。

 完全に氷武を疑っているようだ。

 確かに今までの性格などが偽りだとしたら……とは思う小悪魔であるが、それでもルイスを助けたのは氷武だ。

 

「助けてくれたんですよ、氷武さんは、大丈夫ですから!」

 

「保障がないわ、酷いようにはしない……当分の間身柄を預かるだけよ」

 

 神綺がそう言うと、兵たちは氷武を抱えて連れて行ってしまった。

 小悪魔が、唖然としていた。

 氷武を連れた兵が見えなくなった頃に、スナイパーライフルから手を離して、膝をつく。

 

「そ、んな」

 

 彼のことを思い。

 彼が守った街を見た。

 まだ頭が追いつかない。

 

 涙を流す。

 その時は彼が見えなくなってから数十分。

 

「氷武さぁぁぁぁん!!」

 

 この異変の真相もわからないまま、この異変から街を守った者が連れて行かれた。

 

 

 

 ふと、男は目を覚ました。

 彼は、目の前の現実を真っ直ぐに直視した。

 頭で断片的にある情報を整理して、とりあえず聞いてみる。

 

「……ここはどこだ?」

 

「私の部屋です」

 

 神綺が目の前にいた。

 そこは、いつぞや来た部屋。

 

「夢子ちゃん」

 

 神綺が呟く、同時にナイフが首に添えられた。

 夢子が背後にいる。

 四面楚歌。

 

「真相を話してもらいます」

 

「良いだろう、全部話してやるよ」

 

 そう言って彼は笑った。

 自分で、恐怖をやせ我慢しながらも彼は笑った。

 あくまでも、見かけだけでも彼は余裕を見せなければならないと思ったのだ。

 

 




あとがき

今回はだいぶ短かったですね(汗
でも近いうちに次話は更新する予定なので!
ルイスと小悪魔に戦闘神のことがバレた氷武はどうなってしまうのか!? 次回もお楽しみに♪

次回をお楽しみに♪
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