首にナイフを突きつけられている氷武。
突きつけているのはもちろん夢子。
そして、前方には明らかに自分を疑っている神綺。
その空間張り巡らされる疑念と敵意と沈黙。
「貴方は何者ですか?」
それは、氷武自身にもわかっていない。
一番不安なのは彼だ。おそらく最愛であった人のことも、自分のことも忘れた。
過去への手がかりはただ一匹の兎。
「俺が聞きたい、俺が誰なのか、なぜ……俺の中に戦闘神がいるのか」
神綺は不思議そうな顔をしている。
「貴方は何を?」
「知らない記憶が頭に浮かぶんだよ……記憶というか、記録、あんなふうに戦闘神になった直後に意識を飛ばすと毎回見るんだよ、他の記録」
その目に、神綺は背筋を凍らせた。
天雪氷武の瞳でなく。
他の誰かの瞳だった。
いままでルイスの家で見たような彼の表情とは程遠い。
「貴方は敵では、ないと?」
「信じてくれないか?」
「それはできませんわ」
そう言うと、氷武に手を向ける神綺。
恐らく、消し飛ばされるだろう。
魔界神と呼ばれる程の力に氷武は対抗できるだろうか?
「あら、させませんわ」
目の前に、金髪の女が現れた。
随分久しぶりに見る影だ。
氷武は目を細めた。
「……紫ぃ」
「八雲、紫」
神綺も知っているのか、驚いた表情をしている。
八雲紫は面倒そうな表情で氷武を見た。
「あなた、なんでこんなことになってるのかしら?」
「半分お前のせいだよ、お前の」
扇子で口を隠す紫。
「笑うな」
「あら、せっかく隠したのに」
そう言って、クスクスと笑ってみせる。
それすらも絵になっていて、氷武には何もいえなかった。
夢子が紫を睨む。
「あら、魔界の神……失礼じゃない?」
「夢子ちゃん、コチラの方に紅茶を」
神綺が言うと、夢子は気に入らなさそうな顔をしながらも下がっていった。
ソファーに座る。もちろん氷武の隣りだ。
密着している。
神綺はそれも罠かと思いながら、向かいのソファに座った。
「もっと離れてくれ」
「膝の上に座らなかっただけましよ」
「それもそうだ」
僅かな時間だが慣れた夫婦漫才。
軽く話をしていると、夢子が紅茶を持ってきた。
三つをテーブルに置く。
「ところで、八雲紫。貴女はなぜここに?」
「氷武に伝える事があっただけよ」
「ん?」
当の本人が疑問を抱いた。
紫は楽しそうな顔をしている。
彼女がそんな顔をしているときは良いことがない故に、良い予感がしない。
「神の親衛隊が必要だと思うの」
「思わん」
一刀両断。
だが、彼女はまだ同じ顔をしている。
その顔が、彼には腹ただしく思えた。
「チルノ、彼女が一人目」
「ちっ、どうせんなことだろうと思ったよ」
「二人目以降は決まってないけど、決めるつもりよ?」
「チルノの意思は?」
嬉しそうに首を縦に振った。
その紫を見て、彼は深く溜息を吐いた。
「そうね、異名はこう『氷剣<セブンソード>』のチルノ」
「セブンソード?」
「まぁ戦えばわかるわ、そのうち帰ってきなさい」
驚くような顔をする氷武。
神綺も驚いているようだ。
二人が驚く理由なんて一つしかない。
「連れてかえらないのかしら?」
「えぇ、お灸を据えるって意味でここに飛ばしたんだもの…当然じゃない?」
少し咎めるような目をする紫。
舌打ちをして、ばつの悪そうな顔をする。
そして、スキマが開いた。
「じゃあね」
そう言って、スキマに消えた八雲紫。
それが気に入らないが、仕方ないと頷いた。
神綺が睨んでいることに気付いて、やれやれと首を振る。
「俺をどうしたい?」
「不安なんです、私の子供たちが貴方達に何かされたらと思うと……」
悲しそうな表情でそういう。
何も言い返せなくなる氷武。
自分の子を思う気持ちに、何か言うなど彼にはできなかった。
「しょうがねぇなぁ、こんな時、戦闘神が羨ましいぜ」
呟いて、彼のダメさを改めて思い知る。
デリカシーはあるのだろうか? というより、あれはなんなのだろうか?
疑問ばかりが浮かんできた。
「むぅ……」
悩む。神綺を放ったらかしにして考えにふけっている氷武。
神綺が涙目だ。それを見て夢子が少し焦りだす。
―――瞬間、廊下から音が聞こえてきた。
激しい音だ。
まるで戦闘でも行っているかのようだ。
瞬間。5発ものレーザーが扉を向こうから貫いた。
ピンク色のレーザーによってふちを破壊された扉がゆっくりと音を発てて倒れる。
そして、扉の向こうから現れた影。
悪魔の翼を生やした少女。
紅い髪。
そして強い瞳を持つ少女。
「こぁ……なんで」
先ほど氷武。否、戦闘神が渡したスナイパーライフルを持っている。
それでここまで来たのだろうか?
服がボロボロになっている。
「助けに来ました、氷武さん!」
夢子が、床を蹴った。
異常な瞬発力で、小悪魔へと突撃をしようとする。
「っ!」
目の前まで迫った夢子がナイフを振る。
なんとか背後に下がることに成功した小悪魔、だがかすかに服の胸元が切れた。
少しばかり表情をしかめて、彼女は夢子を視界にてロック。
「ぉっ」
思わず声を上げてしまった氷武はばれていないかと周りをチラッと見た。
なんとかばれていないようでホッとすると同時に小悪魔を見直す。
助けてやろうかどうか悩むが、やめた方がよさそうだ。
「っ、氷武さんを返してくださいっ!!」
悔しそうな表情をしている小悪魔。
こんな状況で、自分が全てを納めるなど野暮な事はしたくない。
それに、小悪魔の戦闘を見るのも楽しみだと思った。
「俺も、戦闘神に毒されたか?」
苦笑して、右腕を見た。
小悪魔が接近してくる夢子を蹴った。
転がって離れていく夢子。
「もらった……狙い撃つ!」
小悪魔がライフルのトリガーを引く。
レーザーが、夢子の眼前に迫る。
驚く神綺。だが、遅い。
彼はもっと早く反応した。
夢子の目の前に現れた彼の眼前で、ビームは弾かれるように粒子へと還元された。
彼の目は普通だ。
「これくらいなら、戦闘神にならなくてもできるか」
彼の周りに張られたピンク色の膜が消える。
そして、彼は小悪魔の前へと歩いていく。
「ありがとう……」
「いえ、ルイス様も待ってます」
キョトンとした表情を見せる。
「あいつもか?」
「はい、助けてもらってすまないと」
決して目の前に行けば彼女は言わないだろう。
理解して少し笑う。
彼は、神綺の方へと向き直る。
「俺には、帰るべき場所がある」
「ただし、私の子供に危害が及んだら……貴方を許しませんよ?」
「あぁ、わかった」
そう言って一礼。
小悪魔もだ。
「お騒がせしました」
「いえ、彼を取っちゃってごめんなさい…また今度ご招待しますわ」
そう言うと、小悪魔は頷いて部屋を出て行った。
氷武もその後へと付いていく。
「天雪氷武、何者なの?」
そう言って、すぐ夢子へと近づいていった。
歩きで、なんとか家へと帰って来た二人。
小悪魔は氷武の上着を羽織っている。途中で氷武が貸したのだ。
ボロボロの服で彼女を歩かせるのは忍びなかった。どうせそんな彼の考えだろう。
「ただいま帰りました!」
「……」
二人が家へと入る。
そして、リビングに向かうとルイスがソファに座っていた。
どっしりと座るルイス。
頭や腕に包帯を巻いているところを見ると、結構な怪我だったようだ。
「お帰り小悪魔、ところで」
立ち上がって、氷武を睨む。
やはり疑われている。氷武が出て行こうとしたとき、ルイスが言葉を続ける。
「貴方はお帰りって言わないの?」
それを言われて、キョトンとしてしまった。
ルイスが、顔を少し紅くする。
「言わないのかしらって、聞いてるのよ」
嬉しくなって、感極まる。
こみ上げてきそうな熱い何かを押しとどめて、ルイスを見る。
「ただいま」
「……最初からそう言えば良かったのよ」
そう言ってソファに行くルイス。
氷武に、小悪魔が言う。
「恥ずかしがってるだけですよ」
「小悪魔ぁ!」
「ひゃっ! ごめんなさい!」
嬉しくなって、氷武はルイスの頭を撫でる。
「きゃっ! なに!?」
「ありがとよ!」
そう言って、彼は地下図書館へと歩いていく。
小悪魔はルイスに紅茶を渡す。
「惚れました?」
「む、むきゅ〜!」
帽子を両手で掴んで顔を隠す。
悶えているルイスを見て、小悪魔はなぜか保護欲を駆り立てられた。
あとがき
みなさん、更新遅くて申し訳ありません!
とりあえず頑張ってますよ、作者は(汗
私としてももう少し早く更新しようとは思っているんですが……。
では、次回もお楽しみに♪