彼女、大和の神の一柱である八坂神奈子は驚愕した。
目の前の石碑を吹き飛ばそうとした。
それは良い―――だが、弾がかき消された。
それもまだ良い。
今は石碑が壊れて中から出てきたものが問題だ。
神力がある。
それは、ここで祀られていたからだろう。
「誰だ?」
彼はそう、言葉を発した。
神奈子には、それが合図となった。
「っ!」
弾が彼の体に直撃した。
爆煙が上がる。
神奈子はなぜこんなに焦っているかわからなかった。
先ほど一緒に居たこの地の男は居なくなったようだ。
逃げたのか?
煙が晴れると、そこには彼が立っている。
英雄神と彫られた石碑から出てきた青年は、生きていた。
俺が起きた瞬間、闘えると本能に言われた。
叫んだ瞬間弾が俺に直撃した。
なぜだろうか、たしかに痛い血も出ていない。
神力、というものが宿っているのだ。
本能でわかる。
俺は死なない。
あの日から何百年経った?
ダメだ、なんにもわからない。
俺の腕の中にいたはずのウドンゲが居ない。
それにアイツは、―――はどうなった?
ん、―――って誰だ?
名前は、名前はなんだ!?
しかし、今は、目の前の敵をどうにかしろ。
そう本能にささやかれた。
「っなにものだ!」
「逆に聞いてやる何者だ」
女は背中に綱をつけている。
横綱か?
「御柱!」
柱が俺の頭上に落ちてくる。
この程度のもの、どうにかならないと思ったか。
「シャイニングフィンガー!!」
右手を上げる。
そして、輝く右手が柱を消滅させた。
「フハハハハハハハァッ!!」
俺は笑った。
男の名前はなんだ?。
性は、―――だったり―――だったりする。
しかし彼は知らない。
自分の名前すらもだ。
「もう一度聞いてやる。何者だぁ!」
「八坂神奈子、大和の神の一柱だ」
笑う男。
それに、ひるむ神奈子。
「いくぞぉ!」
走りだした男、神奈子はそれに反応して弾幕を張る。
しかし弾すべてにぶつかりながら走ってくる男。
まったく恐れが無いと言った様子のその姿。
初めて、敵に抱いた感情。
恐怖。
神奈子は初めて敵に恐怖を感じた。
「はははぁっ!戦うと元気になるなぁ…捕まえたぞ!」
左手で、神奈子の首を掴んだ。
神奈子は男の左手を両手で掴んだ。
だが、振りほどけない。
「侵略の花火だよ!」
神奈子の体を上に持ち上げて、左手に力を込める。
苦しそうに呻く大和の神。
直後、男はハッとしたように顔を変えた。
「八坂、神奈子?」
男は、ゆっくりと神奈子を地に下ろした。
神奈子は怯えて、地に尻をついて怯えだす。
そして、深呼吸をする。
「えっと、八坂…神奈子様と?」
変貌して、目つきが変わった男。
一目見ると、それはそこらへんにいる優男の目と同じく声だ。
「っ…ぁぁ」
それでも直、怯えながら首を縦に振る神奈子。
なぜか、男の記憶にはあった。
東方という作品。
自分は未来から過去へと飛ばされた。
幻想郷ができる前の地球へと。
過去や今まであったことが納得できた。
しかし、一人思い出せない。
―――という。彼女が思い出せなかった。
ノイズがかかったような声と姿。
そして自分の名前。
記憶のどこを探っても見つからなかった。
酷い頭痛が彼を襲う。
「っぐぅぅぉぉぉおおおおおおお!!」
そして、叫びだす。
戦闘神に戻るか戻らないかの瀬戸際で叫ぶ。
その気迫に負けて、かの大和の国の一柱である神奈子が瞳一杯に涙を溜めて怯えだした。
ダメだ、勝てない。
「うぁっ!」
なんとか逃げようとした。
だが、飛び立とうとした瞬間、足が掴まれた。
掴んだのは、もちろん男。
「…ちょっと、待ってくれ!」
先ほどと同じように優しい瞳だった。
案外そして、頼むように言った。
神奈子はすっかり、怯えない。
安心できる奴なのかもしれないと思って、地に降りる。
そして、男は頭痛が治ったのか、頭を少し叩いている。
「頭痛てぇ」
「だ、大丈夫か?」
敵であったはずの男だが、一応心配はしておこう。
コイツを殺すよりコイツを軍門に入れてほうが有利だ。
御柱を破壊する程の力があるのだから。
「ったく、頭に一気に情報詰め込むな」
「お前は一体なにを?」
そして、男は神奈子を見た。
真っ直ぐとした瞳。
「して大和の神。俺は今ここで英雄神、そして戦闘神として祀られているのだが…どうする?」
こいつは、真っ直ぐな相手だ。
戦う以外に選択肢は無いのだろうか、しかし下手なことを言って怒らせると、怯えるのは自分。
ここは上手く頭脳戦で切り抜けよう。
「私と手を組まないか、見たところ新参の神か?」
そうだ、これで引き吊り込めれば上々の戦力。
直後、男の相貌が輝いた。
二つの瞳が光を奔らせている。
「そんな悪党商法にくっついていくと思うなよ。あえて言ってやると俺はこの地で、1億年以上前から英雄だった…八坂神奈子、ココには手を出すな…」
そう言った。
男の眼光に、神奈子は動けない。
今のままじゃ勝てないと悟る。
仲間を連れてくるか?
無駄死にが増えるのが目に見えている。
「わ、わかった…一緒に下の町に下りないか、村で村人を監視してる奴らを撤退させる」
気迫に負けて撤退を余儀なくされた。
そして、男は神奈子に向けて手を差し出す。
「ん?」
「ほら、一緒に降りるんだろ…少しだけどよろしくしたいしな」
無言で頷いて、<英雄神>の手を取る。
軽い握手だ。
彼の心にはこれしかなかったが。
―――やった!本物の神奈子様と握手だ!
英雄神と神奈子は丘を飛んで降りる。
町の中央に降りると、武装した男たちが現れた。
少しばかり英雄神を警戒しているふしがあるが、神奈子が急いで怒鳴った。
「彼は敵ではない!」
男たちは急いで武器を下ろす。
そして、神奈子の元で跪いた。
頷く神奈子が、集ってきた村人に言う。
「ここで祀られていた神、英雄神を起こし私たちは交渉の道を選んだ。撤退!」
大人しく負けと宣言することなく、全員を混乱させるわけにもいかないので一時中断の道を選ぶ。
村人たちは驚いたような顔をして英雄神を見る。
後の時代になれば普通であろう。
ワイシャツとジーンズ。それも彼らにとっては神聖なものに見えた。
「交渉?」
「そういうことにしておけ」
睨まれただけで勝てないと思った。
などとは口が裂けてもいえないからこうで良いのだ。
それを聞くと、武装していた男の一人が村人の少女を人質に取った。
「神奈子様が負けようと、次の大和の柱がきてくださる!」
男は狼狽していた。
15くらいの少女は木の剣をつきつけられて怯えている。
神奈子がやめさせようとしたが、おそらく“負け犬”である自分が言っても意味がないのを理解した。
「…貴様ぁ」
気付いたときは、遅かった。
彼は既に<戦闘神>へと変わっていたからだ。
村人たちは次々に口にした。
「英雄神様がお怒りになられた!」
「戦闘神へと!畏怖の象徴へとなられた!!」
その名の通り、そのプレッシャーだけで押しつぶされかねない。
それは正に戦闘神。
戦うためだけに生まれた神。
「しゃらくさいわぁっ!」
大声を上げた。
そして、神奈子とその部下、村人には見えた。
少女を人質にした男の背後に忍び寄る死神が。
だが、死神よりも早く忍び寄ったものが居た。
死神が急行に乗ってたならアレは特急。
死神が新幹線ならばアレは飛行機。
死神がジェット機ならばアレはロケット。
どういうモノにしろ、アレの方が早かった。
「あらよっと!」
人質を取っていた男が、倒れた。
そして、倒れた男の背後には、一人の少女。否。幼女が居た。
戦闘神には見覚えがあった。
目玉のついた帽子。
そして金髪。
「諏訪子!」
神奈子がその名を呼んだ。
頷く諏訪子が戦闘神を見る。
この場に、三人の神が同時に存在した。
ミシャグジ様を統括する諏訪の国の神<諏訪子>
大国日本を築かんとする大和の国の神<神奈子>
自らの村の民を守らんとする小さな村の神<戦闘神>
「どうする?やはりお互いの兵力で戦い合うのが筋だろう」
そう言った神奈子。突然の態度の豹変に、少しばかり苛立つ戦闘神。
戦闘神が暴れだせば、敵とはいえ諏訪子と協力して戦闘神を倒せるだろうという考え。
それゆえに大きな態度を示した。
「待てよ、そんなことをしたらお前達が圧倒的に有利だろ?」
そういう戦闘神いや、英雄神。冷静な判断だ。
英雄神は言った。
しかし、そんなことを知った二人ではない。
「お前が潰されるのが運命だったんだろうな」
「諦めてよね」
神奈子と諏訪子に言われる。
だが、彼は表情一つ変えない。
「俺だったら自らの国の民を殺す真似はしない。お前達が100万の兵をここにぶつけようと、俺は民一人戦闘には出さず、俺が戦う。誰が相手であってもだ」
彼の神力が増した。
神奈子の兵が、彼を心の中で信仰し始めた証拠だ。
あせりで握りこぶしが汗ばんでくるのがわかった神奈子。
そして、諏訪子。
「だから、決着は俺たち三人でつけよう」
その言葉に、驚愕するのは村人たちだけでない。
そこにいる面々全てだ。
そして、村人たちは感動していた。
「(なにこの空間)」
思っても言えない事、それでも英雄神は堂々と宣言した。
「どうした、多大な信仰を受けているお前達が村一つの信仰しか受けていない俺に勝てないと?」
空間に亀裂が走った。
神奈子は先ほど、彼を恐れていた事など忘れている。
諏訪子は彼の実力を知らない。
彼は一億年以上生きている。
長寿で言えば神の中でもトップに入る。
「さぁ、どうする!」
「その話し乗った」
「私も乗ったよ」
上から、英雄神が問い。
神奈子がその作戦に賛成。
諏訪子も同じく賛成した。
村人達と大和の兵は確実に英雄神だけを信仰してしまっているが、神奈子にとってこの程度の人数の信仰が減った程度でどうなのだろう。
たいしたことは無いだろう。
もうこの大陸のほとんどを制圧してしまっている大和にとっては。
そして、この戦争がいつ終わろうかとしていた時、おぞましいほどの殺気が空間を包んだ。
カツカツと歩いてく音。
そして、鼻歌。
「ごきげんよう、楽しい話しをしているのね」
そこには、一人の妖怪が佇んでいた。
なんで、コイツが来た。
その殺気を受けても、動けるのは俺たち神。
全員目を逸らせなければ気絶もできないでいる。
推測だが最強の妖怪。
『境界を操る程度の能力』を持つ。
彼女の服装は、六十四卦の萃と書かれた服。(永夜抄、萃夢想仕様)
なぜだ、この状況では超厄介。
「八雲、紫…」
「あら、ご存知だったのね…英雄神、いえ戦闘神」
俺の名前まで知っているのか、さすが賢者と呼ばれる女。
やはり侮れない。
この女は一体なにをしにきたのだろう。
「いやね、私はあなた達の戦いが見たいだけよ」
心を読みやがった。
俺には絶対に勝てない。
今の俺には、絶対。
しかし、八雲紫が俺を見ることは無い。
「だからね、早く戦って欲しいの…」
「煽るじゃねえか、どういうことだ?」
コイツには遠慮はいらない。
なぜなら“俺たち”が戦うのを楽しみにしてるのだから……
「諏訪子、神奈子いつにする?」
「七日後」
神奈子が宣言した。
丁度一週間ってところか、それなら俺にとっても丁度良い。
諏訪子も納得のようだ。
納得いっていないのが一人いるがな。
「つまらない」
八雲紫だ。
アイツはいつか説教してやる。
強くなったら。
「これにて失礼するよ。これ以上アイツを見ていると不愉快だ…」
飛んで帰っていく神奈子。
そして、それを敬礼してみている元大和兵。
信仰が増えた。上々上々。
「なんだか、初めて会った気がしない。また七日後だね」
そう言って飛んでいく諏訪子。
こちらは初めから一人なので良しとしよう。
そして、神は居なくなった。
その途端村人たちと兵が押し寄せてきた。
「うおぉ!」
周りを囲まれる。
ついでにお祈りされる。
そして俺は正直照れる。
「あぁ〜!と、とりあえず大和の兵たちの武器を没収して、寝床を用意してやってくれ!」
そう言うと、元大和兵の皆様から、ひれ伏された。
さすが俺、讃えよ我を山を湖よ〜♪ってか?
村人たちは数十分かけて、俺の前から去っていった。
「で、八雲紫…お前のことだが———
「英雄神」
———はい?」
あろう事か人が喋ろうとしている最中に話しやがった。
とりあえず聞いておこう。
「なんだ?」
「私と契りなさい」
殴ろうか、蹴ろうか、はたまたシャイニングフィンガーか。
いろいろな考えをめぐらせて行くうちに、理解し始めた。
「どうしてだ。興味本意なら帰れ…腹が立つだけだ」
本気で、イラッとした。
こいつが俺をなんだと思っているのか知らないが、契れだと?
俺がそんな人間(カミ)に見えるか、おちょくりやがって。
「違うわ」
「今日始めてあって、いきなりそんなこと」
「違う!」
少し大きい声。
村は、二人だけの空間な気がしてしまった。
俺の命令通り、村人たちはここから離れた宿屋で元大和兵、現民を歓迎しているのだろう。
静かな村に、俺と紫。
静かに歩を進める紫。
あぁ、なんだかおかしな展開になってきた。
そして、二人の距離は1mほどだ。
「私はずっと貴方を見てきた。昔、あそこの石碑を見て…」
待て待て待て、ついていけない。
頼むから落ち着いてくれよ。
「<英雄神>がどんな人か見てみたくなった。それから、いろんな場所に行っても一日に一度は貴方を見に行きたくて…まだ見ぬ貴方が待ち遠しくて」
やめろ。
そんな思わせぶりな言葉で俺を惑わすな。
俺は―――の―――だ!
「待ち遠しいって、なんでだ」
「私もわからない。それでもずっと待ってたの、村人の話しを盗み聞きして…戦闘神とも呼ばれることを知って」
顔を紅潮させて、瞳一杯に涙を溜めて言う。
さすが、現実。
動画とかとはわけが違う。
だって、こんな紫、見たことなくて―――それをなんとかするのも俺一人の力で、道を選ばなきゃいけなくてさ。
こんな辛いものだなんて知らなかった。
現実。
「貴方を叩き潰して私がここの村人を食い尽くしてやろうと思ったの―――でも、貴方がどんな人(神)かって想像した瞬間、理解したの…私、貴方に」
あぁ、駄目だ。
記憶の中の彼女を抱きしめられなくなる。
今にも消えてしまう。
「恋」
やめろ、八雲紫。
「してるんだって」
終わった。
俺は、これで●●を心の底から迎えることはできない。
なぜなら、俺の胸元に彼女がいたから。
「ゆか…り」
胸元にいる女の名前を呼んだ。
嗚咽が聞こえる。
あぁ、どうしようかね?
「あい、たかったの…あなたっ…に」
嗚咽をこらえているのがわかる。
彼女何万年またせたのだろう。
桁が違うかもしれない。
しかし、俺は久しぶりに、自分を愛してくれる女を胸に抱きとめた気がした。
「紫…」
「お願い。私を、見て」
唇が重なった。
紫の両手が俺の頭を押さえる。
軟体生物のような舌が俺の口内に侵入する。
俺の舌と紫の舌が絡み合う。
さて、どうしたものか。
何分経ったか、はたまた何十分か。
俺たちが顔を離しても、銀色の糸が二人の舌を繋いだ。
「恋してるわ…名前も知らない貴方に」
そう言う紫が、もう一度唇を重ねてきた。
いつまで続くのか、いつ終わるのか、できれば終わって欲しくないと思った。
いつの間にか、俺の意思はほとんど朦朧としたまま、時は過ぎた。
あとがき
第二部ってとこですかね。
では、次回をお楽しみに!
感想お待ちしてます♪