彼女、八雲紫は昼にもなりかねない時間に目を覚ました。
自分の家だと気づいてあたりを見まわす。
自分が布団で寝ているのがわかる。
一緒に寝ているのは、彼。
愛しくて、永遠と目覚めないかと思っていた彼。
でも、この際どうでも良い。
彼が自分を愛してくれた。
だが、自分も卑怯な事をしてしまったと、後悔の念にかられる。
深い深い溜息を吐いた。
~~~~~一日前
英雄神。
彼は紫と抱き合った後、共に丘の上に居た。
村全てを見渡せる丘。
「これが、貴方の作った街よ」
そう言葉を発したのは紫。
背後にある山を見た。
これも、英雄神である彼が長年の信仰を糧に生み出したのだという。
「俺は意思が無かった」
「貴方は何千万年もかけて、信仰をこの地にわけあたえていた。それゆえに自然が豊かになり、山や川や湖や森を作り出した」
そんなこと、何も知らなかった。
そう、一つもだ。
彼は無意識の内に―――の帰る場所を守っていた。
「ここの地形がこうなるのは、貴方の力がなければ何万年先になることか」
英雄神は頷いて村を見た。
そして、薄笑いして紫を見た。
「ここに手を出さないでくれありがとな」
「いつからかしら、貴方が大切な人と思えるようになってからは…嫌われたくなくてしょうがなかったから」
つくづく紫は彼のことを愛しているらしい。
冷めたように言ったが、顔は紅潮している。
あまりに印象が違ったために、少し驚きながらも喜んでいる。
自分のことを好きなヒトが、ここにいる。
それだけで救われる。
信仰がある。
村人たちは自分を慕っている。
だが、自分を神以外と思うものが居ない。
神以上でも以下でもない。
自分の復活を待ち望んだ人間がいるわけでもない。そのはずだった。
だが、一人でも自分を待ってくれていた者がいるというのは心地が良かった。
「ありがとう。紫…」
そう言うと、紫は扇子を出して顔を隠す。
どういう顔をしているのか、想像しながらも紫の傍に寄った。
そして、口を開く。
「さて、お前は帰らなくて大丈夫か?」
「私の家、近くにあるの…一人で住むには広すぎるんだけど」
あぁなるほどな、と理解した。
自惚れているわけではないが、ここまでくればわかる。
だから、英雄神は口に出した。
「お前の所に行って…良いか?」
その言葉を聞いた瞬間、紫が英雄神に抱きついた。
力いっぱい抱きしめると、ギュウッと彼の胸周りが閉まる。
「ちょっと苦しいな」
「私の方が苦しかったもの」
笑顔でいながらも彼は内心、相当熱くなっていた。
あの八雲紫がデレているというだけで、だいぶ動揺している。
「近くって、どこだ?」
「山の中」
なかなか、遠くは無いか。
飛べるのだから早いものだ。
しかし、紫が彼からはなれて手を握る。
引いていく紫と引かれる彼。
「歩くのか?」
「えぇ、嫌かしら…私は貴方となら歩きたいわ…どこまでもね」
手を引かれながらも、彼は嬉しそうだった。
彼は紫に引かれ、共に歩いていった。
家について、酒だけを飲んでいた。
現人神のような存在である彼。
そして大妖である彼女。
普通の食事はあろうがなかろうが、彼と彼女にとってはどうでも良い。
「このお酒…良いでしょ?」
かれこれ数時間も飲み続けている。
元々の世界でも得意でなかった酒を飲み続ける彼と、彼女。
彼の顔はもう酒で完全に出来上がっていた。
紫の方も少し酔っているのか赤い。
「んでお前はあそこで俺に戦わせようとしたんだか!」
「好きな男が他の女と話していて良いようには思わないわね?」
そう言って彼に寄りかかる紫。
もうほとんど頭が正常では無い彼。
紫が微笑して、彼を押し倒す。
彼は畳の上に大の字になっていた。
その上にまたがる紫。
「え…りん?」
彼は、誰かの名前を言った。
それがなんなのかはわからないが、女の感がそいつをどうにかしろと言っていた。
紫は英雄神である彼の、ワイシャツのボタンを外す。
彼の適度に筋肉のついた胸板と腹がさらされる。
「私は紫よ?」
「あぁ、悪かった紫」
彼は上体を起こして紫を抱きしめた。
彼女は理解していた。彼が現在正気では無いと。
それでも、黙って彼女は彼に抱かれる。
理由は、後戻りさせないため。
愛に餓えていた彼女と愛を忘れた彼。
一夜が、ハジマリ、そして終わる。
そして、現在。
紫が、となりで寝ていた彼の頬を撫でる。
「私は卑怯かしら?」
そう言うと、彼が起きた。
そして、笑顔を見せた。
「おはよう」
戦闘神とも呼ばれる彼は、一瞬で紫の顔を赤く染めた。
妖怪賢者と呼ばれたスキマ妖怪の姿はそこには無い。
服を着る。
そして家を出た二人は、村に向かった。
村に下りた英雄神は村人達に崇められた。
しかし、彼は『俺のことはともかく自分の仕事や役目に戻ってくれ』と言った。
神としてはダメだと思うが、村の経済のためには正解だ。
紫は少し離れて彼を見ていた。
そして村人たちが去った後。
ようやく彼の傍へと行った彼女は彼に微笑んで見せた。
「貴方も大変ね」
「これからの方が大変だがな」
そう、神二人と戦うのだ。
1対1対1の戦いだが、彼が不利なのかもしれない。
そう思いながら歩いていると、一人の少女が泣きながら歩いてきた。
歳は6、8歳ぐらいだろう。
「ん、どうした?」
英雄神は少女に駆け寄って頭を撫でた。
少女は泣きながら彼に訴えかけた。
「手がぁ」
泣きながら手を差し出す少女。
所々赤く腫れているのがわかる。
「凍傷か」
一人心当たりがあるが、この時代に生まれているのか?
そう思いながら、紫を手招きした。
「どうしたの?」
「凍傷だ、治してやれそうか?」
「効く薬がたしか」
スキマに手を入れて出すと、一つの塗り薬を握っていた。
効きそうな薬で安心する。
少女の母親らしき女性が走って来た。
「私の子は!」
「お母さん!」
「あぁ、大丈夫凍傷だ。薬を塗ればすぐ治る」
そう言う彼を見て、母親は安心して頭を下げた。
「ありがとうございます英雄神さま!」
「大丈夫だが、少し。これはどうしたんだ?」
優しい笑顔を浮かべて問う。
「湖の方で、変な女の子に触ろうとしたら」
笑顔で頷いて頭を撫でた。
そして紫の肩を叩いて一言。
「後は頼んだ。俺にはやることがあるんで」
彼は空を飛んで行ってしまった。
不満そうに口をゆがめる紫が、少女の前にかがんだ。
「さっ、薬を塗りましょう?」
なるべく人間に見えるように、精一杯の笑顔で紫は少女の手を取った。
空を飛んでいると、湖が見える。
本能の赴くままにここに来た。
やはりなんらかの能力なのだろうか、彼の本能は確実に当たった。
「湖、見えた」
確認して、岸に下りる。
歩いてきた一人の少女。
水色の髪と、蒼い服を着た少女。
氷の翼を6枚持った。
自分の見た昔の記憶と違う。
姿はあれよりも大人。
17くらいだろう。顔もそれなりの年齢で胸も膨らんでいた。
その姿はまさに氷の結晶。
『冷気を操る程度の能力』
「あたいに何か用?」
口調は同じように見えて、少し冷たい。
なぜだろうと考える。
「さっき俺の村の女の子にケガをさせただろう」
「…だからなに?」
「謝れ…向こうに行って頭を下げろ」
そう言った英雄神。
少女は英雄神を睨む。
「あたいに触ってかってにケガして、それで…なんであたいが謝るのよ」
そういう少女。
強気で言う。
「自分の力も制御できない中途半端妖精が…だちの妖精だってケガさせてるだろ、その力じゃな」
英雄神たる彼は理解できていた。
少女の力は大きすぎる。
そのせいで妖精だって、妖怪だって近寄るものは寒さで凍傷やらなんやら。
どちらにしろ、この場でやりあうのは避けれないようだ。
「黙れっ!」
逆鱗に触れたのか―――いきなり少女が踏み出した。
一歩。たったそれだけで少女は英雄神の前へとやってきていた。
「アイシクルアッパー!」
少女の右拳が英雄神の顎に直撃した。
堅い氷で強化された拳の衝撃で、空に浮く英雄神。
少女が手を向ける。
「フリーズランス!」
人間以外の何か―――早い話が妖怪と判断したのだろう。
殺傷力の強い攻撃。
氷の槍が英雄神に放たれる。
しかし、英雄神が即座に空中で体制を立て直して氷の槍に左手を出す。
そう、妖力の宿った右手ではなく左手を出した。
氷の槍は、左手にぶつかると先端から消滅していった。
蒸発したように水が霧状になる。
「ハハハハハハ!貴様ぁ、良くやる。どうやらただの馬鹿じゃないようだな!」
英雄神は、戦闘神になった。
力のないはずの左手に力が宿っている理由は、なんなのだろう。
しかし、彼はそんなことを考えてはいない。
戦闘神の心にあるのは、戦いだけだ。
「ミストフリーズ!」
「はははっ!笑わせるなぁ!!」
霧のような絶対零度の風がふぶく。
しかし、それが直撃することは無い。
「シャイニングフィンガーぁ!」
光の刃が右手から伸びる。
それで霧を切り裂いた。
しかし、実体が無い霧には意味があるのか。
「いけっ!」
少女が手を動かすと、霧が操られるように集って戦闘神を襲う。
霧に包まれれば、体を氷で固められる。
そして地に落ち砕けるのが運命だろう。
「甘いんだよぉ!!」
左手が発光。
赤く輝く。
真っ赤な左腕を霧に振るう。
「ゴッドフィンガー!!」
赤い炎を宿したそれを振るうと、霧が一瞬で蒸発した。
無駄なことだった。
戦闘神たる男を殺そうとなど。
「貴様ぁ!面白いぞぉっ…名前はなんと言う?」
少女が、飛び上がって戦闘神と目を合わせる。
「あたいはチルノ…チルノ・フリースト」
名乗る少女、チルノ。
やはりそうだった。
自分が自然を動かしすぎたせいで正史が狂ってしまったようだ。
だが自分が正史に戻してやろう。
そう、後に思った
笑う戦闘神。
「フハハハハッ!!いい名前だな…遊んでやる。来いよぉ!!」
チルノが両手を戦闘神に向けた。
彼女の鋭い眼光が、闘争心を貫く。
「パーフェクトアイス!!」
氷の槍が何百、何千と襲う。
戦闘神は笑って、赤く光る左手を振るった。
「このゴッドフィンガー凄いよぉ!!さすがシャイニングのお兄さん!!」
消え去る氷の槍。
しかし、それだけでは足りない。
だから右手を光らせる。
「シャイニングフィンガーぁぁっ!」
光る両手をふるう。
氷の槍が砕け、蒸発する。
楽しそうな戦闘神と、必死に攻撃をするチルノ。
そして、氷の槍が止まった。
「終わりかぁっ!!氷精(チルノ)ぉ!!」
「馴れ馴れしいんだぁ!!」
戦闘神の叫びに、叫びで返す。
笑う男と怒る少女。
「楽しいだろぉ!チルノぉ!!」
「楽しいわけないだろぉ!」
チルノの手に、氷の爪が装備される。
飛んで接近する。
そして、両手の爪で左右から戦闘神を倒そうとするが―――とめられた。
「なっ、んで」
右手と左手で、チルノの両腕を押さえている。
爪と発光する腕がぶつかっている。
「シャイニングフィンガー!!」
右手の光が、ソードとなってチルノの腕を弾く。
そして蹴り飛ばされるチルノ。
もちろん蹴ったのは戦闘神で、地に落ち転がる。
衝撃が和らぐと、即座に体制をたてなおした。
上空にいる戦闘神を見ると、左手を構えていた。
真っ赤に燃える左腕がこちらにむけられている。
「一度消えて反省しろぉ妖精(チルノ)ぉ!ゴッドフィンガーッである!!」
赤い閃光が光線のようにチルノに奔った。
しかし、それは直前でかき消される。
漆黒の何かによって、チルノは守られた。
戦闘神から見れば、謎だった。
突如あらわれた黒い渦がゴッドフィンガー(遠距離仕様)を吸収したようにも見えたからだ。
そして、黒い渦が消えると、そこにはチルノと同じくらいの歳の少女がいた。
長い金髪。
赤い瞳。
『闇を操る程度の能力』
英雄神の中ではその少女の正体が思い浮かんでいる。
「ルーミア…」
「チルノ大丈夫?」
どうやら彼女、ルーミアも大人のようだ。
力が封印される前と考えても良いのだろうか。
そして、ルーミアと戦闘神の視線が交差する。
戦闘神が地に降り立った。
そしてもう一人。妖精が降り立った。
チルノの隣りでチルノをいたわるようにしている。
「…大ちゃん」
大妖精と言うことで良いのだろうか?と彼女は疑問に思う。
彼女もだいぶ大人になっているようで、サイドポニーが長い。
冷静になってきた英雄神は、いろいろと考案してみる。
チルノ、ルーミア、大妖精を見比べた。
胸が大ちゃん―――なんてことはまったく考えて居ない。
事実だとかそんなものはどうでも良い。
ただ、他の妖精や妖怪の比にならないほど強力な三人が問題だ。
「さて、話し合いにしよう」
戦闘神ではなく、英雄神はそう言った。
その声と同時にチルノは意識を飛ばした。
大妖精が寝かせる。
キツイ瞳で英雄神を睨む大妖精。
そして何も思っていないかのような表情で、見るのはルーミア。
この現状を理解する必要やなにやらもある。
英雄神が思うことはなんとか穏便に済まそうということだけである。
自分の中の闘争本能をこれほど憎んだ事は無い。
彼は後にそう語っていた。
あとがき
とりあえずようやくチルノと出会えました!
チルノはこの物語のキーキャラなので、大事ですよぉ!
まだまだ続きますが頑張りますよ♪
では次回をお楽しみに♪
感想お待ちしてます!