東方真戦譚~戦闘神、立つ~   作:超淑女

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第五話『戦闘神と英雄神』

 少し落ち着いた雰囲気。

 湖のふちで、英雄神、ルーミア、大妖精が立っていた。

 チルノは仰向けに寝かされている。

 そして、ルーミアと大妖精が英雄神の前へとやってきた。

 

「神力…どこの神?」

 

 ルーミアの言葉、それに対して英雄神は答える。

 

「ココ周辺の神だ。英雄神」

 

 そう言うと、あっと驚く大妖精。

 そして無表情ながらも、少し目を見開くルーミア。

 ルーミアが目を瞑って頭を下げる。

 大妖精も同じくだ。

 

「申し訳ありません」

 

「えっ、英雄神様だとは知らず!」

 

 まさかそれだけで頭を下げられるとは思わなかった。

 この地で英雄神と言うものはどれだけの意味があるのか?

 それは彼には理解しがたかったが、確かにすごい信仰のようだ。

 

「チルノちゃん、そんなこと知らなかっただけで…どうかお許しを!」

 

 大妖精が先ほどと違って怯えるように頭を下げている。

 首を横に振って笑う。

 

「いや、俺も挑発的だったし…だが、少し話したいことがあってな」

 

「話したいこと?」

 

 ルーミアが何かを探るような目を彼に向けた。

 そしてその瞬間、倒れていたチルノが声を漏らした。

 

「ぐっ…」

 

 目を開いて立ち上がろうとするチルノ。

 それに駆け寄ろうとする大妖精だが、チルノが睨む。

 大妖精は足を止めて下がる。

 

「おいおい、どうなってる…」

 

 そう、言葉を発するが―――チルノが彼のことを睨みつけた。

 

「お前っ!」

 

 チルノは立ち上がり、倒れかける。

 急いで駆け寄って支える大妖精。

 その瞬間チルノの表情が変わった。

 

「触るなよっ!」

 

 大妖精を跳ね除ける。

 逆に体勢を崩して倒れそうになった大妖精を英雄神が受け止めた。

 手を地について少し驚いているチルノ。

 

「チルノちゃん…」

 

「触るなっ…じゃないと」

 

 大妖精の腕が凍傷のように赤くなっている。

 納得する英雄神。

 やはり力を制御できないようだと……

 

「大丈夫か?」

 

「あっ、はい」

 

 大妖精は英雄神から離れて、一度お辞儀をした。

 そして、英雄神はチルノを見る。

 一歩一歩チルノに近づく。

 

 自分の肌が冷たくなるのが感じられた。

 

「寄るなよ…」

 

 押し出すように言ったのはチルノ。

 さて、どうするかな―――と思いながら止まる。

 

「なんで大妖精を押した」

 

「英雄神様、良いんです」

 

「良くないな」

 

 そう言って、彼はチルノと視線を交差させる。

 村にも連れて行かなきゃならない。

 だから、ここで説得だ。

 

「いいか、とりあえず村に行く為にも、お前には説教だ」

 

 そう言って、指を指す。

 チルノは相も変わらず彼を睨む。

 

「お前は妖精にしてはずいぶん力がありすぎる。それを言うとそこの大妖精もそうかもしれないが、大妖精は自分の力をしっかり理解してセーブしている」

 

「あたいは理解できてないっていうの?」

 

 英雄神の言葉に、苛立ちを覚えてか眼を鋭くする。

 

「その通りだ。考えても見ろ…触っただけで他人に怪我させやがって」

 

「触れる奴が悪いのよ」

 

 その瞬間、少し英雄神が舌打ちをした。

 少し怒っているのが目に見える。

 

「そりゃ間違いだ、チルノ。お前は自分の力をセーブできるようにするべきだ」

 

「余計なお世話よ!あたいが力をどうしようとあたいの勝手じゃない、なんでアンタなんかにそんなこと言われなきゃなんないのよ」

 

「お前、できないだけだろ」

 

 ビクッとするチルノ。

 怯えているのだろうか、なかなかそそる表情じゃないかと思った。

 しかし、自制しながらも、言葉を続ける。

 

「ん、おかしいな……できないんだろ?」

 

 追い詰める。

 チルノが自分の体を抱いて其の場に膝をつく。

 うつむいて―――呟くように言い始める。

 

「……わかってるなら聞かないでよ。あたいだって努力した…もちろん200年くらい前は他人を触れるようになった。自分から流れ出る冷気だって止められた。でも、時が経つごとに力が強くなってく…他人を守る為に戦ってもそれは同じ…それで、力を止められない。でも誰も頼れないのよあたいは…だって怪我するのもあたいじゃない誰か、だからあたいは他人との干渉はやめた……それなのに、どうして!」

 

 叫ぶ、泣く。

 大妖精は、唇をかんで悔しそうにしていた。

 ルーミアも、少し悲しんでいるように見える。

 

「どうして、二人は寄ってくる…」

 

 ルーミアと、大妖精。

 二人はチルノが他人との干渉をやめても一緒にいようと頑張ったのだろう。

 それでも、彼女は拒否した。

 

「だからさぁ、チルノ…お前は自分でセーブできるように力をつけろ」

 

 英雄神の言葉。

 泣きながら、嘆くチルノ。

 

「力をつけてどうするのよ。ここらへん一帯を雪景色にでもすれば良いの?」

 

「力の使い方を知れ…そうすれば冷気はおさえられるだろ」

 

「だから、そんなのっ」

 

「はなっから諦めんな馬鹿…失敗してもやりなおせ」

 

 彼の、東方をやっていた時の教訓である。

 なんど失敗してもやっていくうちに少しづつだが、前に進んでいく。

 そう、進んでいくのだ。

 

「長い期間辛いかもしれないけど、それを乗り越えたらもっと凄いことが待ってる。だから」

 

 チルノの傍で膝をつくと、頭を撫でる。

 そして、声を出しながら泣き出すチルノ。

 両手で涙をぬぐう。

 

 さらに、そっと抱きしめた。

 

「あっ、あんた!凍傷っ!」

 

「大丈夫さ…俺は神さまだからな」

 

 実際は冷たい。

 この程度じゃ凍傷にならないだろうが、冷たい。

 凍えてしまいそうだ。

 だが、この手を離すわけにも行かない。

 

 昔の現実世界で、数少ない戦った相手だからだろうか?

 そうじゃない。

 

 泣き顔がそそるから?

 そうじゃない。

 

 東方のキャラだから?

 そうじゃない!!

 

「もったいないなぁ、こんなに強い力あんだからもっと人間とか妖怪とか妖精のためになるだろう?」

 

 利益云々。ロマンチック云々。臭い台詞云々。

 あるだろうが、俺はこれしか彼女を説得する方法が思いつかなかった。

 他人のために自分を他人から引き離した。

 それほど他人を思える子なら、他人のために努力する。

 

 そんな安易な考え。

 しかし、それは最良の考えだ。

 

「あんたっ…なんなのよ。神様なのに…っばかじゃないの?妖精一体のために、体張って…」

 

「本当だな、俺六日後に神二人と対決するのに」

 

 そう言う彼を、チルノが笑う。

 泣きながら笑うその顔を見て、大妖精は安心したように微笑んだ。

 ルーミアも安心したようで、目が少し優しくなったような気がした。

 

「ルーミア…大ちゃん…あたいね」

 

 首を横に振る大妖精とルーミア。

 二人に頷くチルノ。

 強すぎる力が、憎い。

 

 だけど、この男はそんなことを無視して自分を抱きしめてくれた。

 初めての人。

 温もり。

 

 人里の上空を飛んで、人間を見たときには母親と子供が手を繋いで歩いているのを見ているとどうしようもなく悲しくなった。

 妖精たちが抱き合いながら喜んだりしているのを見て憎くなった。

 

 今ならわかる。

 抱きしめられると、温かい。

 解けていく。

 

 自分の周りを固めていた氷だ。

 

 彼は、チルノのことを抱きしめていた。

 

 

 

 何分経っただろう。

 

「良いか、チルノ…」

 

「うん」

 

 チルノから体を離す彼。

 服が少し凍っている。

 ぱりぱりと音をさせる服を見てチルノの表情が変わるが、彼が笑いかけた。

 

「一緒に、特訓するか…」

 

 そう言って笑った彼。

 しかし、チルノが驚愕しながら言った。

 

「あんたっ、神との決闘があるって…」

 

「関係あるか…目の前の妖精一体助けられないでどうする。こちとら、神だ」

 

 そう言って笑う彼に、チルノは俯く。

 そして、俯いて一言。

 

「馬鹿…」

 

「本当に馬鹿よねぇ」

 

 その声が、聞こえた。

 辺りを見回すが何も見えない。

 それらしい人物が見つからない。

 

 空間が裂けて、一人の女性が現れる。

 八雲紫。

 

「あなた、神との決闘はどうするの?」

 

「…あと六日以内にチルノをなんとかする」

 

「そこの氷精は馬鹿みたいに力だけが強いわ。そんなことするより特訓よ、今の貴方じゃ無理よ」

 

そう言う紫は心配そうな表情を見せた。

しかし、彼は紫の方を向いて、自信たっぷりの笑みで言った。

 

「信用してくれ…俺は負けない、それにチルノを助ける」

 

「この国や貴方の未来がかかってるのよ!」

 

そう、信仰が無くなる。

紫が知らないだろうが蓬莱の薬が作用しているので死なないかもしれないが、一生幽閉されたりもありえる。

だから、彼女は彼に近寄る害全てを取り除きたい。

 

 そんな時、チルノが言った。

 

「良いよ、神様のやる事の方が大事だよ。私、自分でなんとかしてみるよ」

 

 そういうチルノ。

 寂しそうでなく、自信のある笑みだった。

 安心する英雄神だが、ソッと紫の方を見る。

 

「…紫」

 

「一日5時間…それ以上は認めないわ」

 

 彼女もかなり譲歩したのだろう。

 5時間もあればかなりの、彼を鍛える特訓になったはずだ。

 

「ありがとう、紫」

 

「いいわよ…貴方、祀られる前からそんな性格だったわけ?」

 

「違うさ」

 

 そう、彼は違う。

 余裕がない一般人だったから、自分や家族のことばかりだった。

 まぁ、その家族も今は思い出せないのだが、彼は違った。

 

 こんなに他人に優しくなれなかったし、こんないい決断もできなかった。

 それも全て長年一緒に居た―――のおかげなのかも知れない。

 

「えっと、英雄神さま…」

 

 戸惑うように言う大妖精。

 気付いた彼は大妖精に近づく。

 

「あぁ、悪かったな色々と…できればお前達もチルノのこと支えてやってくれ」

 

「はい!」

 

 元気に返事をする大妖精。

 そして、頷くルーミア。

 そのルーミアを見て苦笑しながら近づく英雄神。

 

「妖精と仲良くする妖怪なんてめずらしいな」

 

「そうなのか?」

 

 あの彼女と少しばかり違う返答だ。

 新鮮さを感じ、次はチルノに近づいた。

 

「今から、謝りに行くぞ」

 

「うん…でも、一緒に来てよ」

 

 そう言うチルノ。

 彼が頭を撫でて紫の方を見る。

 

「スキマだ」

 

「まったく、便利屋じゃないのよ?」

 

 そう言って、空間を裂いた。

 その中に足を踏み入れる彼とチルノ。

 

「大ちゃん、ルーミア………また後で」

 

 そう言って入った。

 紫が二人を見て笑う。

 

「あんた達も大変だろうけど頑張って…それじゃあまた送り届けに来るわ」

 

 そう言った。

 本当に数分で済むのだからそれでいいのだろう。

 ルーミアと大妖精も安心したような顔をしていた。

 

 

 

 ある種の事故。

 その被害者の一人である少女の家の前へと、スキマを経由して英雄神、チルノ、紫の三人が立った。

 チルノが気まずそうにしているが、彼が戸を叩く。

 

 少しして先ほど見た少女の母親が現れた。

 

「英雄神さまっ!?」

 

「少しあの娘と話しをさせてくれ」

 

 どうぞ、と言った母親の言葉で、彼ら三人は家へと入った。

 居間にいる少女。

 そして、チルノを見てビクッと体を震わせた。

 

「チルノ」

 

 頷いて、英雄神の前に出る。

 そして頭を下げて言った。

 

「ごめんっ…なさい…あたいのせいで…」

 

 頭を下げるチルノを見て驚く少女。

 そして、顔を鬼のような形相にかえる母親。

 

 掴みかかろうとするが、英雄神たる彼が前に入った。

 

「やめろ、コレに関しては事故だ」

 

「あの子がやったと言っていました!英雄神様…悪を働く者を退治するのが神ではないのですか!」

 

「違うな」

 

 はっきりとそう言った。

 

「神(おれ)は領地の治安経済その他諸々を守る事が仕事だ。殺すことじゃない」

 

 そう言うと、母親は黙った。

 さすがに、これ以上英雄神に何かを言う事はできないからだ。

 

 そして、彼は少女の方を向いた。

 

「チルノを、この娘を許してやってくれないか?」

 

 そう言うと、少女は驚くような表情になった。

 そして、頷く。

 

「ありがとう。今度アイツをもう一回連れてくるからさ…そん時は友達になってやってくれ」

 

 笑みを浮かべて、頷く少女。

 

 英雄神は頷いて、紫を見る。

 すると三人の足元にはスキマが開いた。

 一瞬で消える三人。

 そこには、呆然とする母親と、嬉しそうにする少女が残された。

 

 

 

 湖へと帰って来た三人。

 チルノは、顔を赤く染めながらルーミアと大妖精を見る。

 

「その、ごめん」

 

「いいよ、チルノちゃん」

 

「うん…気にしないで」

 

 大妖精が笑顔で答えルーミアは無表情。

 しかしチルノは笑顔で頷いた。

 ルーミアをしっかりとわかっているのだろう。

 

 そして、その光景を嬉しそうに見る彼と、紫。

 

 紫が彼の服の袖を引っ張る。

 驚いたような顔で、彼は紫の顔を見る。

 

「訓練よ…く・ん・れ・ん!!」

 

 すげぇメンドくさい。

 なんてことを思いながらも、頷くほかないので、三人娘の元に向かう。

 英雄神に気づく三人。

 

「じゃ、俺はこれで帰るからさ…仲良くしてろよ?」

 

「うん!ありがとう…えっと、英雄神?」

 

 少し違和感を感じながら言うチルノに、彼が笑う。

 そして、チルノが不思議そうな顔をしていた。

 

「まぁまた明日来るから、お前も練習はしておけよ?」

 

「うん!!」

 

 いつの間にかスキマが開かれていた。

 紫がその中に入っていくのを見て、彼もその中に入る。

 

 その後、チルノは少し考えるような仕草をした後、頷いた。

 

 

 

 

 

 英雄神と紫が、自宅の前にやってきた。

 周りは森に囲まれている。

 そして、紫が彼を睨む。

 

「なんだよ…もう酒には騙されないぞ」

 

 反省している彼。

 そして、ガッカリする紫。

 

 少しして、わざとらしく咳をした。

 

「ゴホンっ…さて、ここで私と戦いましょうか」

 

 そう言った紫。

 キョトンとしている彼。

 この女はなんと言った?

 

 戦う?この大妖怪と?

 

「無理、死ぬぜ」

 

「貴方は自分の力を過小評価しすぎなのよ…行くわよ!」

 

 彼女から幾つモノ弾が放たれる。

 それは弾幕になって彼を襲った。

 舌打ちしながらも、その攻撃を避けていく。

 

「あら、やっぱり回避はいいわね。これ以降はルナティックよ!」

 

「馬鹿!クリアできるかよ!!」

 

 何百何千もの弾幕が迫る。

 その光景を見て、彼の目が光った。

 その瞬間、其の場にはおびただしいまでの殺気が溢れかえる。

 

「っ…これは…アナタなの?」

 

 紫が彼が彼であるかが、不安になった。

 なにか、いけないものを起こしてしまったのではないかと。

 英雄神は戦闘神へと変わる。

 

「フハハハハッ!我が世の春がきたあああぁぁぁっ!!」

 

 戦闘神は激しく叫ぶ。

 森が一気に揺れた。

 弾幕が彼の視界を覆う。

 

 もちろん紫からも彼が見えない。

 

「…実力を見間違えた、わけではないわよね」

 

 その瞬間、弾幕がかき消された。

 紫はあっけに取られていた。

 その光景は見たこともないほど綺麗だった。

 

 自分の弾幕が掻き消え粒子と消える。

 そして、金色(こんじき)の閃光が弾をかき消した。

 

「見せてもらおうか!妖怪賢者の力とやらを!」

 

 刃のようになったシャイニングフィンガーを振りながら、飛ぶ。

 紫が弾幕を張るが、切り裂いて。消滅させて。

 接近してくる。

 本能が恐怖を訴えかける。

 

「それで本気だったのでありますか?」

 

 いつの間にか、目の前に来ていた。

 輝く右腕を振り上げる。

 

 紫はとっさにスキマの中に入った。

 

 スキマの出口は彼の背後だ。

 そして、紫は至近距離で何百もの弾を彼に向けて撃つ。

 

「当たるわきゃねぇだろぉぉぉぉっ!!」

 

 そして、彼は残像すら残す速度で移動する。紫の横に……

 

 彼女が抱くのは驚愕と、恐怖。

 

「ハハハハハハハッ!これが実戦経験の差というやつか!?」

 

 紫に、左手が向けられる。

 真っ赤に光る左手。

 

「ゴッドフィンガーというやつだ!!」

 

 遠距離型のゴッドフィンガーはビームのように照射された。

 紫が目の前でスキマをつかいゴッドフィンガーを消す。

 そして、ゴッドフィンガーは戦闘神の背後から飛び出した。

 

「なにぃ!?」

 

 直撃。

 爆煙が上がった。

 紫は離れて肩で息をする。

 

 息が詰まるほどの戦闘。

 

 煙が晴れると、そこには彼が飛んでいた。

 

 傷は見られない。

 なぜ―――あの火力ならば気を失うくらいはしているはずだ。

 彼は、なんなのだろうか。

 

 戦闘神。

 

「フィールドバリアー!!あいにくこの体には多少の攻撃は通用せんのでな…優しく撃っていて正解だったよぉ…紫」

 

 悪寒を感じて、弾幕を再び張る。

 もう成功しないのは目に見えていた。

 スキマを最大利用しても意味がない。

 

 この戦い―――負ける。

 

 紫は戦慄した。

 

「行くぞぉ!シャイニングショットォ!!」

 

 光線のような弾が右手から放たれた。

 紫は舌打ちをして、手を前に出した。

 

「四重結界!」

 

 四層もの結界が前方に張られた。

 シャイニングショットは結界にぶつかってあっけなくかき消える。

 しかし、おかしい。

 

 この程度の技。

 

 ならば、ソレは罠。

 

「なるほど…これがお前の実力かぁ!」

 

 声は背後から、振り返った瞬間。

 彼の顔が前方に迫っていた。

 腹に、手が添えられる。

 

 あぁ、ここで死ぬ。

 

 そう思った瞬間、彼の顔つきが変わった。

 

「っ…ふぅ、危ない危ない…自重しないとな」

 

 彼が笑顔を見せた。

 いつも通りだ。

 紫は安心したと同時に、顔を赤くする。

 

「顔…近いわよ」

 

「ん、そうか…悪いな」

 

 そう言って離れる彼。

 先ほどと違い。優しい顔をしている。

 あれが戦闘神。

 

 見たこともない。

 あの姿。

 あの技。

 あの眼。

 

 どうやら、自分は彼の事が良く分かって居ないようだと笑う。

 すると、彼がキョトンとした。

 

「なんでもないわ。あなたが強くて驚いているの」

 

「…俺も、あそこまでできるとは思わなかった。知らない技も撃ったしな…射撃なんてほとんどできなかったはずだし、シールドまで」

 

 戦っている時の彼は彼ではないとでも言うのだろうか?

 いや、違う。

 彼の闘争本能、野心がむき出しになっている?

 

 それとも、右腕から溢れ出る妖気や左手から流れ出す神気に関係があるのだろうか?

 

「アナタといると…飽きないわ」

 

「飽きない?」

 

 そう聞いてきた。

 紫は微笑んで言う。

 

「いえ…幸せだわ」

 

 そう言って抱きついた。

 空中で体勢を崩しそうになるも、なんとか立ち直って、彼は至近距離にある紫に微笑みかけた。

 

「もう一回戦やるか?」

 

「私が遠慮しとくわ…眠いもの」

 

 そう言ってスキマを開く。

 スキマの向こうはどうやら自宅の中だ。

 そういえば“原作”でも睡眠が長かったと頷く。

 

「じゃあ、一緒に寝ましょうか」

 

「えっ、ちょっ!」

 

 そう言って、紫は彼の腕を引っ張ってスキマへと誘う。

 起きてからようやく、平和を実感できる。

 スキマに入る直前、彼はそっと笑みを浮かべた。

 

 

 

 




あとがき
とりあえずチルノとの話が一旦終了……って感じでした!
まだ全然進展がありませんがこれからじわじわと進んでいきますのでお楽しみに♪
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