朝。いつもとは違う表情の英雄神こと氷武。
氷武は八雲家の戸を開いて外に出た。
共に家を出る紫。
「……一応、これ昨日の話しの」
紫がスキマから何かを取り出す。
「ん、なんだ?」
その手にあったのは、刀の柄だった。それを二つ。
刃がついていないところを見て、少しなんだかわからなかった。
そこで、ようやく昨日の話しを思い出した。
「あぁ、武器?」
「そう、ぶっつけ本番で使うのはあまり良くないかもしれないけれど、無いよりは良いでしょう」
そう言う彼女に頷いた氷武。
「あぁ、ありがとな」
それを受け取って、懐にしまう。
なるべく使わないと思うし、使いかたすらもわからない。
この戦いが終わったら練習でもしようと頷いて、踵を返した。
「じゃぁ、行って来る」
「えぇ……早く帰ってきてね」
頷いて、飛び上がる。
なるべく戦闘神にはならないようにと心に決めて、村の上空へと飛んだ。
村の上空に着くと、下の方に村人やチルノたちが見える。
それを見て笑うと、遠くから幽香が軽く手を振っていた。
怒っていないかと思い安心した。
「負けるわけには行かないかな」
強い力を感じて、その方向を見る。
洩矢諏訪子が現れた。
会うのは二回目で、お互いがお互いを観察しあう。
「諏訪の神、か」
「現人神、信仰で神へとのし上がった人間。生まれたのはいつ?」
見かけと反対で、大人の雰囲気をかもし出す諏訪子。
それに、冷静さをなんとか保って反応する。
「さぁ、何万年か何千万年か? お前たちが思っているよりもずっと昔から神だった」
その言葉は事実だが、諏訪子にはふざけているように聞こえた。
英雄神や戦闘神なんて聞いたこともない名前だ。
一部地方の神が偉そうに、と思いながら余裕の表情を見せる。
「暇そうで結構」
そういう声と共に、神奈子が現れた。
余裕の表情を見せているその姿に、戦慄しながらも冷静を装う。
「さて、開始の合図は」
「……私はどうでも良いが、諏訪のお前は?」
「私もどうでも良いんだけど」
三柱の間に沈黙が走る。
その瞬間、氷武が一枚のコインを取り出す。
この時代には珍しいそれを親指で弾いた。
それが地に落ちるまでの数秒。
氷武にはずっと長い時間に感じた。
―――それが地に落ちた瞬間、神奈子と諏訪子が動く。
自分が動くより早く、動いた二人が弾幕を生成。
視界一杯を覆う弾幕。
弾幕に関しては格が違った。
「シャイニング―――フィンガー!!」
なんとか右手に刃を出して、自らを襲うそれを消滅させる。
それと同時に移動、まずは神奈子の方だ。
「はぁっ!!」
近づき、その身を切ろうとしたが、その前に殺気を感じて下へと急降下する。
自分が居た場所にレーザーが奔った。
少し掠り、上着の裾が焼かれる。
「グレイズっ!!」
叫ぶと、即刻体制を整えた
レーザーを撃った諏訪子の元に飛ぶ。
「その程度の信仰じゃ力がイマイチだね!」
諏訪子は笑いながら言って、レーザーを放つ。
それをギリギリで回避しながら、至近距離まで移動しようとしたが、別方向からレーザーが放たれた。
眼前を走ったレーザーを止まることで回避。諏訪子の方にも飛んでいったらしい。
「戦闘神を出すぞ! ちくしょうめ……っ」
悪態をつく。
神奈子と諏訪子。
二人の力を見れば自分は地の底。
ただ、それは神力の話しだ。
氷武には、妖力がある。
「……行くぞっ!」
懐から刃の無い刀を出す。
右手と左手に一つずつ持つ
もはや刀とも呼べないそれを、持つと、諏訪子と神奈子はそれを見ている。
自らの予想が当たっていればと、右手の柄に妖力を込めた―――柄から赤い刃が伸びる。
扱い方がわからなかったはずなのにも関わらず、彼はそれをやってのけた。
「……我が盟友に預けられし武器の威力、とくと拝見させてもらう!!」
左手の柄に神力を込めると、赤い刃がそちらにも現れる。
二刀を持つ“戦闘神”と呼ばれた神。
諏訪子と神奈子は、その姿に背筋が凍る感覚を覚えた。
「行くぞっ!!」
先ほどよりも高速で、神奈子の前方に移動して、二つの刀を振るう。
背後に下がることでなんとか避けることに成功した神奈子。
戦闘神は動揺することは無い。
「純粋に戦いを望む!」
そう言った直後、真横からのレーザーが氷武を襲う。
しかし、顔色一つ変えずに、そのレーザーを切り裂く。
正面から切り裂かれたレーザーは真っ二つになった。
「俺が神であったのをこれほど嬉しく思うことは無い!!」
まるで先ほどと違うように飛ぶ。
諏訪子の前方まで移動して、刀を振る。
体を捻って避けようとする諏訪子だが、スカートが僅かに切れた。
「ふっ……やるな!!」
笑う氷武。
刀の刃を消すと、柄を懐にしまった。
無手になった氷武。
「では―――見せてやろう! これが俺の力というものだ……はあああぁぁぁぁっ!!」
飛んで、二人から距離を離す。
今は先に、氷武のやろうとしてることを見る方が先なのか、二人が攻撃をしあわない。
彼の背中から、粒子が溢れる。その粒子がカタチを作った。
蝶のような翅が一瞬だけ展開され、消える。
「ビッグキャノンである!!」
氷武の背後から、超巨大なレーザーが二人に向かって放たれた。
それは真っ直ぐ二人に向へと迸る。
それへの驚愕と共に、避ける。
「あうっ!」
だが規格外の極太レーザー、それに諏訪子が巻き込まれた。
レーザーが消えると諏訪子がボロボロの状態で飛んでいる。
だが、まだ戦えると正面を見た瞬間、そこに悪夢を見た。
「諏訪子っ!」
敵である神奈子が叫ぶ。
目の前には氷武。
刀を二つ、上段に構えている。
「……今日の俺は」
負けたと核心した。
「神すら凌駕する存在だっ!!」
二つの輝く刃が一つへと融合する。
そして、それは振り下ろされ―――。
地上へと落ちる諏訪子。
気絶しているのだろう。
落ちていく彼女を、地上でチルノが受け止めた。
諏訪子を切り裂いて、彼は再び柄を懐にしまう。
呆然としている神奈子が額に汗を浮かべる。
「ほう、今だ無傷に近いな」
雰囲気が変わる。
それは、諏訪子を斬った時ではなく、先ほどのレーザーを撃った時だ。
震える手を押さえつけて、笑う。
「ふん、一対一とは良い……大和の元に伏せてやる」
そして、神奈子は氷武に手を向けた。
「エクスパンデッド・オンバシラ!」
八ものオンバシラが、氷武を襲う。
だが彼は、笑いながらそれを瞳に映した。
彼は左手を輝かせる。
「この天雪氷武が引導を渡してくれる!!」
赤く輝く右手を構えた。
神の力をそこに込めて、空を殴る。
「ゴッドフィンガー!!」
放たれたそれは、オンバシラを3本ほど消し飛ばす。
それだけでは足りない、5本のオンバシラが残っている。
しかし、彼は余裕の表情だ。
「面白いものを見せてやる、ホワイトファング!!」
次元を切り裂くように現れる。
六つの機械的な飛行物体。
白銀に輝くそれは人の腕ほどの大きさがある。
刃のようになっている三つ。
先端が丸くなっている二つ。
そして少し大きな丸に近い一つ。
それらが飛び、オンバシラの前方に出た。
ホワイトファングと呼ばれたそれの先端に、力が溜まるのを感じる。
「ファングだよ!!」
六つのホワイトファングから弾が放たれる。
それはオンバシラに直撃して爆発を生む。
オンバシラはバラバラになって地に落ちていく。
爆煙が漂う中、神奈子が驚愕で言葉を出せないでいた。
爆煙の中から、三つの影。
それは刃を持ったホワイトファングだった。
神奈子はそれに弾幕を放つが、小さな身で軽々と避けられた。
その瞬間、体に衝撃を感じる。
「なっ、これはっ!!?」
脇腹に、先端が丸いホワイトファングが当たっていた。
そして大きなホワイトファングが頭の上に設置される。
「大和の神」
「っ戦闘神!!」
「それで本気だったのでありますか?」
笑っている氷武。
この余裕は、先ほどまでは感じなかった余裕はなんなのだろう。
神奈子は、なんとなく理解した。
「お前は、力に飲まれてるだけだ!」
そういった神奈子。
しかし、氷武が高笑いを始める。
そして、神奈子を見て口を開く。
「否、断じて否だ!」
その瞬間、神奈子の体に電撃が奔った。
それは拘束されている神奈子にとって拷問のようなものだ。
「ぐあぁぁぁあぁぁぁっ!!」
「ほぅ、ホワイトファングの語るサイコミュ的な精神波の流れ、強力で良いじゃないか!」
そう言ったが、神奈子には聞こえているのだろうか?
地から見ているチルノが、驚いた顔をしている。
やりすぎ。そう言いたいのだろうが、無理だ。
“今の”彼に口出しできるものは居ない。
「あああぁぁぁっ!」
神奈子の叫び声にも彼は眉ひとつ変えなかった。
突然電撃が止まると、氷武が神奈子の体を支える。
「……」
ホワイトファングが消えた。
くた、と垂れる神奈子の体。
支えたまま地上に降りる。
村は歓声で包まれていた。
「やっちまったな、歴史が改変しかねない」
正気に戻った彼は、器用に神奈子を支えながら上着を脱いだ。
上着を地に敷いて、その上に神奈子を寝かせた。
「氷武!」
チルノが、諏訪子を抱えて走って来た。
何か言いたそうにしている。
それを理解して頷く。
「わかってる。あんなことしなくても良かった」
しかし、しないと勝てない。
刀の柄を持った状態を保てれば話しは別なのだが、と少し考えるような仕草を見せる。
とりあえず、神奈子を抱える。
「行くぞ、湖まで飛ぶ」
そう言うと、チルノが頷いた。
二人は喜んでいる村人たちを置いて湖へと飛んでいく。
湖についてすぐ、諏訪子が目を覚ました。
怪我はそれほど無く、負けたことを落ち込んでいるぐらいだ。
それから数十分して、神奈子が目を覚ます。
少し話しをして、現状を理解した。
「……私たちの国はお前のものか」
神奈子が落ち込んでいる。
だが、氷武が手を振る。
「いや、俺は国とか興味ないから、普通に村を維持していてくれれば構わん」
「どういうことだ?」
それもそうなる。
神としては信仰を増やすという思考になって、領地を増やしたがるはずなのだから。
だが、目の前の神はいらないと言っている。
「だから、領地を攻められたくないだけだ。後はそっちで勝手にやってくれ」
むすっとしている諏訪子を指差す。
神奈子が氷武を見ている。
それに、溜息をついた。
「たくっ、良いって言ってるだろ!」
「っ……あぁ」
少し怯えている。
申し訳なさ過ぎると、氷武が頭を抱える。
そして、せめて自分の知っている通りにしようと言う。
「じゃあ、諏訪の国を大和の国が制圧な?」
「えっ!」
声を上げるのは諏訪子。
氷武が困ったような表情で言う。
「しょうがないだろ、俺が勝ったんだしやりたい放題する資格がある」
「あう~」
諏訪子が恨めしそうに氷武を見る。
それに苦笑しながら、神奈子の方を見た。
「ま、仲良くしろよ。行くぞチルノ」
そう言って歩いていった。
呆然としている神奈子と、今にも駄々をこね暴れまわりそうな諏訪子。
二人が湖に残された。
彼が何を考えているか、二人にはまったくわからない。
二人、氷武とチルノが森の中を歩いていた。
上空を見上げると、飛んでいく諏訪子と神奈子の姿が見えて、笑う。
特に怒っているような顔も嫌悪しているような風にも見えない。
「なんで、あの二人の国をもらわなかったの?」
「しょうがねぇって、俺の力じゃない」
少し、沈黙がある。
わかっている。右腕の力なのかはわからないが、それが自分の力では無い。
だから、あの二人に国をもらってもやっていける気がしないのだ。
「でも、しょうがない」
「それでも、俺は戦っているぞ……純粋に戦いを楽しんでいる」
「でもその力は、人のために戦える」
その言葉に、フッと笑みがこぼれる。
自分の知っているチルノとは違うが、チルノに励まされ、少しばかり楽になった。
そして、空を飛ぶ。
追うように空に舞いあがるチルノ。
遠くから、ルーミアと大妖精、幽香が飛んでくるのが見えた。
五人が上空を飛んでいる。
そういえば、と幽香が思い出したように氷武を睨んだ。
「ていうか、なんで昨日言ってくれなかったの、今日から修行じゃ遅いじゃない!」
「それは違う、お前が走っていったせいで言えなかっただけだ。俺は悪くないぞ!」
少し悔しそうにしている幽香。
本当に悔しいのだろう。
「それに、なにさっきの攻撃……ああいう趣味なの?」
それを言われ、少し止まる氷武。
さすがにそこは意識していたようで、落ち込んでいる。
「うぅっ」
どんよりとした空気。
それに追い討ちをかけるように、幽香が言葉を続ける。
やはりSの精神があるのだろう。
「それにあんな幼女を切るなんて最低ね、本当に」
「うごぉ、俺が悪かった! 勘弁してくれ!」
そう言って頭を押さえている。
笑いながら、幽香が高らかにしていた。
それを見て苦笑するチルノと大妖精。
「こいつは幼女趣味の変態よ」
言う幽香と、言われる氷武、
どんどん落ち込んでいくのがわかる。
「うっ……なぜこうなったし」
「そーなのかー」
もうどうしようもないくらい落ち込んでいる氷武。
「言われたくないなら、彼女の一人でも作ったら?」
そう言った瞬間、空気が凍りついた。
これは酷い。と氷武が落ち込む。
紫はいるが、自分の力じゃない。
せめて女の一人ぐらい惚れさせてみたいものだ。
「無理だよなぁ」
「無理ではないでしょう、素材は良いんだから」
その言葉に、確かに素材は悪くないと頷く。
昔の世界の自分ならともかく、この自分は正直良い男だ。
だが如何せん中身が悪い。
自分は正直恋愛経験だって少ない。
まともだったのは――――――とぐらいだ。
また頭にノイズが走る。
氷武がふと頭痛に頭を押さえた。
「どうしたの氷武」
心配してそう聞くチルノに、片手で大丈夫だと伝える。
少し頭を振った。
「ふう……さて、幽香もだいぶ柔らかくなったな?」
話題を変えると、幽香はそうかしら?と言う。
チルノもルーミアも大妖精も頷く。
それで少し恥ずかしくなったのか、ほんのり頬を染めた。
「なんか気恥ずかしいわね」
「恥ずかしがってる幽香可愛いぜ?」
氷武がそう言うと、幽香は変わらず赤い顔をする。
だが違うのは傘の先端をむけられているという所だ。
両手を上げてまいったのポーズをする氷武。
傘を下ろしてもらうと、氷武は言わないようにしようと誓った。
「さて、帰るかな? 今日は疲れたし」
ノイズが先ほどからまた発せられている。
顔をしかめるチルノは、氷武の不調に気づいているのだろう。
「ん、それじゃあな!」
元気そうに言うと氷武は飛んで行く。
チルノが手を伸ばそうとするが、すぐに下ろす。
「大丈夫かな……」
「どうしたの?」
なんでもない。と言うとチルノが全員に笑顔を見せる。
そして話を始めると幽香もその話を聞く。
なんだかんだ言って四人共仲良くなったのは確かだ。
幽香が丸くなったというのも、間違いではない。
家に帰ると、氷武は頭を押さえて座る。
何かが思い出せそうで思い出せない。
もうすぐで出てきそうだ。
―――もうすぐで……
そして一つの名前が出てきた。
彼の心が変わっていく。
過去の記憶の一つ。
それは、彼の運命を分岐する記憶。
あとがき
一章が終わりって感じですかね?
とりあえずこれから始まります!
いろんなキャラクターたちが関わって行きます。
えっ、東方本編なんて先の先ですよ?
では、楽しんでいただけたら幸いです♪