中途半端な知識に頼った結果突っ込みどころしかないモノになった上に駆け足気味ですがそれでもよければ読んでやってください
文才欲しいなぁ・・・
「ハァ・・・ハッ・・・」
発砲音、爆発音、衝撃 発砲音、爆発音、衝撃
既にどれだけ時間がたっただろうか。数分かもしれないし、数時間かもしれない。だが、夕張にとっては既に1日中こうしているのでは無いかと思うような時間だった。
デタラメに右へ左へ真っ直ぐへ、とにかく砲撃に当たらないようにしながら逃げ続ける。どこへ向かっているかは自分でもわからないし、考える余裕もない。
「こちら軽巡夕張!現在深海棲艦からの攻撃を受けています!聞こえていたら応答してください!・・・誰かいないの!?」
ずっと呼び続けている無線に反応する声もなく、ただ耳障りな音だけが響いている。八つ当たりで無線機を投げ捨てようとする手を押さえながら後ろを見る。
追いかけてきているのは軽巡ト級、ヘ級が1隻ずつ、駆逐艦ニ級とハ級が1隻ずつの合計4隻。残りは全て比叡達のほうへ向かった。こんな攻撃能力を失った艦など放って、全てあっちに行ってくれれば良かったのに。そんな事を考えながらひたすらに無線機へ向かって呼びかけ続ける。
「こちら軽巡夕張!聞こえていたら至急救援を!!
誰かいないの!?誰でもいい・・・誰でもいいから・・・誰か、助けてよぉ!!!」
夕張の、生き残りたいという心からの叫び。その叫びは先程と同じく、誰にも聞かれず、虚しく消えていくと思われた。
『----ん?--』
「え・・・?」
だが、今回は違った。
小さく、ノイズと聞き間違えかねないほど小さくだが、無線機から誰かの音が聞こえた。
この事に信じられないと思うと同時に、生き残れるかもしれないという希望が沸いてくる。少なくとも無線を受けれる位置に、味方がいるのだ!
「誰か!こちら軽巡夕張!助けてください!!」
近くに落ちる砲弾の音に負けぬ様に、必死に相手に届くよう声を張り上げる。これが届かなければ、また一人沈められるのを待つだけの逃走劇が始まる。そんなのはもう嫌だった。
『コチ-----ゾク------ッチノ-----イ-----------トウ-----------クリカエ-----------』
「お願い、通じて!こちら軽巡夕張です!助けてください!!」
『よく聞こえ-----もう一回-----ちょうだ---!』
無線機から聞こえる声が先程よりもかなり大きくなった。あと少しで届く!一度息を吸い、これまでで一番大きな声を出す。
「こちら軽巡夕張!現在深海棲艦から攻撃を受けています!助けてください!!」
無線の相手から、息を呑むような音が響く。
『こちら雨霧雅、私の声は聞こえるかしら?』
「ッ!?・・・やっと、通じた・・・はい!聞こえます!!」
味方との連絡が取れた。その事に対する喜びがじんわりと夕張の中に広がり、涙が出そうになる。
『そう、良かったわ。早速だけど状況を教えて貰える?』
「了解です!えっと、本艦は早朝よr『手短に!』は、はい!現在敵艦、軽巡ト級、ヘ級、駆逐艦ニ級、ロ級の計4隻から追われ、攻撃を受けています!こちらは砲、魚雷発射管共に破損、航行には問題ありませんがこのままじゃ持ちません!」
『他の艦娘はどうしたの?流石に一人で動いていた訳ではないのでしょう?」
「・・・他の艦は・・・」
無線越しの言葉に、夕張の動きが鈍くなる。状況を知らない彼女からすれば、この質問はごく普通の物だろう。しかし、夕張はすぐに答えることが出来なかった。
味方からの発砲、近づく敵艦、自分を置いて逃げる味方。その時のことを思い出し、体が震える。
『・・・そう、なんとなく予想はついたわ。ごめんなさい、嫌な事を思い出させて』
「・・・いえ」
彼女の考えている事と、夕張の身に起きたことは恐らく違うだろう。だが夕張がその事に関して何も言いたくないのは事実なので、向こうの想像に任せておく。
『じゃあ、最後に貴方のいる位置を教えて頂戴。位置が分からないと助けにも行けないわ』
「あ、はい。場所は・・・」
そこまで言って、夕張は思った。ここはどこだ、と。
元々彼女はパニックになりながら必死に逃げてきたのである。今でこそ多少冷静さを取り戻しているが、それでもここに来るまでどう動いてきたかなど、思い出せるはずもない。どう動いてきたかが分からないという事は、ここがどこだかも当然分からない。
夕張の体温が下がっていく。これはまずい、折角無線が繋がったのに、これでは何の意味もない。何とかして自分の動きを思い出そうと必死に頭を働かせる。
それが良くなかった
「きゃぁぁああああああああああああ!!!!」
一人で逃げ始めてから一番の爆発音と衝撃。
考えることに必死になりすぎて、回避が甘くなった所に敵艦の砲撃が直撃したのである。
痛みと衝撃で体が前のめりに倒れかけるのを必死に堪える。軽くはないダメージを受けたが、まだ主機は生きている。その事にホッとするが、すぐに別の問題に気づき、表情が驚愕に染まる。
「無線機が・・・壊れた・・・?ちょっと!嘘でしょ!?」
今の砲撃で、よりにもよって無線機が壊れてしまったらしい。慌てて呼びかけるがノイズすら聞こえない。
折角友軍との連絡が取れ、助かるかも知れないと思ったらこれである。これでは主機が壊れたのと大差ない。無線の相手にはこちらの場所は伝わっておらず、その状態で無線機が壊されてしまった。それはつまり、もう救助がこないということになるのだから。
「こんな・・・こんなのって無いでしょ・・・!?っぅぅぅうううううううううううう!!!」
声にならない叫び声を上げながら、主機を限界まで回す。また、どうすればいいかも分からないままの逃走劇が始まった。
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『きゃぁぁああああああああああああ!!!!』
「っ!?何があったの!大丈夫!?」
凄まじい音と共に聞こえてきた悲鳴に驚き、声を張り上げる。しかし帰ってくるのはノイズばかりで、夕張の声も砲撃と思われる音も聞こえてこない。
「無事なら応答しなさい!・・・くっ」
ついには何も聞こえなくなってしまった通信機を切り、腰のベルトに戻す。振り返ってみれば、扶桑達が不安そうな表情でこちらを見つめていた。
「大尉・・・今のは・・・」
「皆も聞こえていたでしょう、深海棲艦からの攻撃を受けている友軍からの救援要請よ」
「なら早く助けにいかなきゃ!」
「でも、場所もわからないのにどうやって・・・」
睦月の言葉に、如月が表情を歪めながら言う。如月の言う事は最もで、夕張が位置を伝える前に通信は切れてしまっている。場所が分からなければ救援など行けるはずがない。
だが雅は夕張の場所に対して、心当たりというほどではないが思うところがあった。
「彼女の場所の割り出しは私が何とかします。駆逐艦睦月、如月両名は一度鎮守府へ戻り燃料の補給と実弾の装備を。大至急よ!」
「「りょ、了解!」」
雅の有無を言わせぬ様な鋭い声に2人は慌てて敬礼を返してから鎮守府に戻っていく。
その背を軽く見てから、制服のポケットから地図とペンを取り出す。
「大尉、場所の割り出しといってもどうするつもりですか?こちらには電探もありませんし、あの通信の様子だと闇雲に探している時間も・・・」
「そうですね・・・偵察機でも間に合うかどうか・・・」
地図を睨み付けながら何かを書きこんでいる雅に、残った扶桑と鳳翔が口を開く。それに対して雅は目だけを合わせながら口を開いた。
「2人の言う通り、あまり時間はないでしょうね。それこそ最初から場所が分かっていて、航空機を飛ばして間に合うかどうか。だけど通信では場所を聞くことが出来なかった」
「「・・・」」
「でも、あの通信で私はある程度彼女の場所を絞ることが出来たわ」
「「本当ですか!?」」
「ええ、本当よ。」
そういうと、一度手を止めて2人に向き直る。
「2人共、夕張からの通信で彼女がなんて言っていたか覚えているかしら?」
「通信で・・・?『深海棲艦から攻撃を受けています!助けてください!!』と」
扶桑が答えるが、それに対して首を横に振る。
「そこのもう少し後よ」
「もう少し後・・・?」
「確か・・・『やっと通じた』と言っていたような・・・」
扶桑の代わりに鳳翔が答える。そう、雅が言いたいところはそこである。
「正解よ。彼女は確かに、『やっと通じた』と言ったわ。
この事から、彼女は私達に通信が通じるよりも前からずっと通信を試みていたのではないかと考えたの。そして、ずっと通信を試みていたという事を裏返せば誰とも通信が繋がらなかったということになるわ。
ここでもう一つ質問よ、通信が繋がらない状況ってどんな時かしら?」
「通信が繋がらない・・・無線機の不調でしょうか?」
「まぁ、それもあるわね。けど、もっと根本的な答えがあるわ。それは通信を受ける相手がいない時よ。」
雅の言葉に、鳳翔と扶桑がはっとした表情になる。
「鳳翔の言うとおり、無線機の不調という可能性もあるわ。けど、私と話し始めてから通信が切れるまで、大したノイズも無かった。勿論最後のは除いてね?だから今回は不調で繋がらなかったという可能性はそこまで大きくないと思うの。そうなれば、残っている可能性は距離よ。この地図を見て頂戴」
先程雅が何かを書き込んでいた地図を2人に見せる。その地図には雅達がいる訓練海域を中心に、大きな円が描かれていた。
「この地図に描いた円の半径は、実際の距離に直すと200海里(370km)よ。これは私達が使っている無線機の通信可能距離と同じものなの。
予想の域は出ないけど、軽巡夕張はこの円の外から、内側へ入るように動いていたのだと思われるわ。」
「「なるほど・・・」」
2人は少し驚いたような顔をしながら頷いた。それを見てから雅は話を再開する。
「ただ、この円全てを探さなければいけないということもないわ。通信を受ける相手がいなかったという事を考えると、他の鎮守府の無線範囲は除外してもいいでしょう」
そう言いながら他の鎮守府の無線範囲を円として書き加え、自分たちの無線範囲の円に重なった部分にバツ印を付ける。
すると大きかった円の殆どにバツ印が付き、どことも重なっていない範囲は非常に小さくなった。
「凄い・・・!」
「これなら見つかるかも知れませんね」
2人の言葉を聴いて、雅は少し照れくさそうに笑った後、表情を引き締め指示を出す。
「これより捜索範囲の右端をA、左端をB、中心をXとします。
鳳翔はA地点・B地点を中心に零戦を索敵機として、扶桑はこことX地点の中間を中心として水偵を飛ばし、その後はこの場にて待機!X地点には私が行きます!」
[X地点には~]の所を聞いて扶桑と鳳翔がぎょっとした顔で雅を見る。それに対して彼女は、そんなに驚くような事だろうか?と思っていた。
「その・・・一人で行くのですか?」
「あまり艦載機の数も多くない以上は妥当だと思うわ。それに、私なら630kmは出せる」
そう言って雅は魔導エンジンの出力を上げ、準備を整える。雅の使う流星は彼女用に手が加えられており、普通の物より加速・最高速が共に向上している。当然それだけでは600kmも出せないが、雅の固有魔法[加減速の操作]により、機体が耐えられる範囲であれば最高速度を超えて加速することも出来るのである。
「他に質問は?」
「あ、いえ、ありません。了解です」
出力を上げたことによりやかましくなったエンジンの音に負けないように声を張り上げながら聞く。特に問題も無いようなので、今度は睦月達に無線で呼びかける。
「睦月ちゃん、如月ちゃん。予測範囲は割り出したわ。私は先行するから、補給が終わったら扶桑達に地図を見せてもらって、そこに書いてあるX地点に向かって頂戴。いいかしら?」
『『了解!』』
よし、と呟いて体の表面に展開している防風の為の薄いシールドを少し強化する。いい具合にエンジンも温まった、後は飛ぶだけ。
一度大きく息深呼吸をし、合図を出す。
「では・・・行動開始!全員、全力を尽くして頂戴!」
「「『『了解!!』』」」
溜めていたパワーを放出、後ろで鳳翔達が艦載機を発進させる声と音を聞きながら急上昇。ある程度高度を取ったところで体を水平にし、固有魔法も使いながら一気に加速した。
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そのまま飛行を続けて30分近くが経過した。通常よりも早い速度で飛んだ為、X地点まではもう少しという所まで来ており、夕張も動いている可能性が高い事を考えればそろそろ見つかってもおかしくはないだろう。
しかし、少なくとも今見えている範囲ではそれらしきモノは見えないし、航空機を飛ばしている鳳翔達からも発見したという連絡はない。
「ふむ・・・」
そろそろ速度よりも眼が必要になって来る頃かしら。そう考え、固有魔法の使用を中断する。それによって本来のスペック以上の速度を出していた流星は徐々に減速していく。ある程度速度が落ちた辺りで両足を前に突き出すようにし、その場で停止する。
あまり使いたくはないが、そうも言っていられないだろう。一度20mmを背中に掛けてから両目を閉じて集中し、頭の中で絵を描く。それは自分の使い魔である鷹の姿。絵が出来上がっていくのと共に、使い魔と私の繋がりが強くなっていくのを感じる。そして、絵を完成させ、ゆっくり眼を開く。眼に入った光景自体は変わらないが、見え方は全く違うモノになっていた。
今やった事は、使い魔と私の同調を強くするための儀式のようなものである。これによって私の目に鷹の力が加わり、今まではぼやけてしか見えなかった距離まではっきりと見えるようになる。更に、固有魔法に割いていた魔力をそのまま身体強化として目に充てると、より遠くまで、より細かく見えるようになった。これは、昔の私の同僚の固有魔法[魔眼]の真似事である。本物程ではないが、それでも10kmは軽く見ることが出来るだろう。欠点があるとすれば、とても眼が疲れる事と、魔法力の消費が激しい事だろうか。まぁ欠点についてはどうでもよろしい。
早速擬似魔眼で辺りを捜索し始める。さっきまでは見えなかった鳥の群れや、波の動きまでがはっきりと見える。しかし夕張の姿を発見することはできない。
「一体どこに・・・ん?」
再び前進を開始しながら視線を動かすと、何か丸くて白い物が視界の端に移る。そっちに視線を向けると、白い物は既に消えていたが、また同じような白い物が現れた。距離があるのか、擬似魔眼でもぼやけてしか見えないが、どこか不自然だと感じる。
鳥なら途中で消えるはずがないし、波なら丸いというのも不自然で、何よりあんなに目立たない。
「・・・まさか!」
私は擬似魔眼を維持したまま、白い物が見えた方へ体を向けた。
ーーー
通信が壊れてからも私はずっと逃げ続けていた。逃げ続けていれば相手が諦めてくれるかもしれないし、友軍が私を見つけてくれるかもしれないと思ったから。
しかしそれも限界だ。敵と私の距離はどんどん短くなっていき、それにつれて砲撃もかなり近くに落ちるようになってきた。度重なる被弾、至近弾のせいで艤装は半分以上が壊れ、服もボロボロ。こんな状態で直撃を貰ってしまえば、確実にやられるだろう。
「っづぅ・・・」
また近くに弾が落ちた。艤装が半壊している為、自動で行われていたバランスの調整が行われず、波と衝撃に煽られ倒れてしまいそうになる。何とか堪え、倒れることは避けたが、主機の調子がおかしい。出力が上がらず、速度がでない。
・・・恐らく今の衝撃でどこか故障してしまったのだろう。止まりこそしないが、あっという間に速度が落ちていき、敵との距離がさらに詰まる。
再び敵からの発砲。放たれた4組の砲弾は夕張を囲むように落ち、水柱を上げて夕張の動きを封じる。・・・夾叉弾、完全に狙いを付けられた。速度も上がらない以上、回避もできないだろう。
逃げる事を諦め、敵の方へ振り返る。
私が逃げるのを諦めたのを見てか、敵艦は不気味な笑みを更に強め、こちらに砲を向ける。それを見て私は振り返った事を後悔した。
最後に見るのがあんなのかぁ
深いため息を1つ吐いて、目を瞑る。
私、死ぬのかぁ。やっぱり痛いのかな、痛いのは嫌いだから出来れば楽にやって欲しいけど、無理だろうなぁ
目を瞑った後は、そんな現実逃避を始める。自分を殺すであろう砲を正面から見続ける勇気は私にはないし、現実逃避をしていれば、案外気づかない内に死ねるかもしれないという変な期待があったからだ。
やけに時間がゆっくりと感じられる。まだ撃たないのかなと思い始めていると、ようやく発砲音が響く。その音までもが今の私にはゆっくり聞こえる。よく聞くと、砲撃以外の何かの音も聞こえる気がするけど、まぁどうでもいいかな。どうせもう死ぬんだし。
そして体感で数秒後、私の前で爆発音が響いた。
.
..
...
・・・あれ?私の前?
私はいつまで待っても衝撃が来ない事と、爆発音が私の前で響いた事を疑問に感じ、薄っすらと目を開ける。そして目の前にあるモノを見て、私は言葉を失った。
尻まで伸びた黒い髪、白い海軍の制服、そして頭と臀部から伸びている鳥の翼と尻尾。足には戦闘機を2つに割った様な物を履いている女性が、こちらに背を向けるようにして立っていた。
彼女の体は水面から僅かに浮いており、左手を深海棲艦へ向け、大きなシールドを展開している。太陽の光がシールドを通して彼女を照らし、黒髪や装備を輝かせているのが今の私にはどこか幻想的に映っていて
「・・・天使?」
こんな間の抜けた声が出るのも仕方のない事ではないだろうか。そんな事を考えながら背中を見つめていると、その女性は顔だけをこちらに向けてくる。
「なんとか間に合ったみたいね、怪我はないかしら?」
「え?あ、その・・・あなたは・・・?」
まだ理解が追いついていない私は彼女の問いに答えることができず、反射的に自分が疑問に思った事を口から出してしまっていた。それに対して彼女は少し呆れた様な、それでいて優しい笑みを浮かべる。
「質問に質問で返すのはあまり感心しないわね。まぁ、今回は良しとしましょう。
・・・日本海軍所属、航空ウィッチの雨霧雅大尉です。貴艦からの救援要請を受け、参上しました。」
私が彼女の言葉を理解するのに、ほんの少し時間がかかった。頭の中できゅうえんという文字が何度も繰り返され、やっと救援の事だというのを理解する。その事を理解した途端、体の力が抜け、膝が震え始める。
助けに来てくれた、こんな仲間にも、運にも見捨てられるた私を。その事がどうしようもなく嬉しくて、泣いてしまいそうで、そんな顔を見せたくなくて顔を俯かせる。・・・訂正、既に涙が出ていた。
それを見たのか彼女は私の目の前まで移動し、手を私の頭に乗せ、ゆっくりと撫でてた。その手の暖かさと、優しい動きで更に涙が出てくる。
「遅くなってごめんなさいね。でも、もう大丈夫よ。」
そう言うと彼女は撫でるのをやめ、私の両肩を掴む。
「いい?この先に私の鎮守府の艦娘(子)達がいるわ、私が通ってきた時には何もいなかったから安全なはずよ。貴方はそこまで逃げなさい、動けるわね?」
「いや、その・・・」
「何か問題があるの?」
彼女の質問を聞いて、一度顔を上げて奥にいる深海棲艦を見る。
「さっき、主機がやられたのか速度が半分程度しか出なくて・・・とてもじゃないですけど振り切れないと思います・・・」
そう言って私はまた顔を俯かせた。折角助けに来てくれた彼女に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「なら、2倍時間を稼げばいいだけね」
「へ?」
そういっていつの間にか深海棲艦へと向き直っていた彼女は、背負っていた銃を手に移す。その目は先程の人物と同じ目とは思えないほど鋭く敵を睨み付けている。いや!それよりも
「ちょ、ちょっと待ってください!時間を稼ぐって・・・まさか一人で戦う気ですか!?」
「ええ、そうよ。敵に攻撃を仕掛けて、貴方が安全圏まで逃げる為の時間を稼ぎます」
「そんな、無茶ですよ!たった一人でなんて・・・」
彼女の実力がどれ程のモノかはわからないが、単純に数だけで言っても1対4 加えて、彼女は艦娘ではなく、航空ウィッチだ。
航空ウィッチを馬鹿にしている訳ではないが、深海棲艦相手には役不足である。切り札として爆装をしている者も多いが、それを使ってしまえば後はまともにダメージを与えることは出来ず、一方的に撃たれるだけになってしまうだろう。
故に彼女の提案は無謀だとしか考えられない。
「そうでもないわ。別に倒す為の戦いという訳ではないのだし、やり様はある。それに、こういうのは慣れているから」
「でも!」
「はっきり言うわ。数で不利な以上、ボロボロの貴方を守りながら逃げるのは厳しいの。これが一番確実よ」
「っ…」
彼女の突きつけた現実に頭が冷える。
確かに、今の私が居ても何もできる事はない。むしろ私を守るために、航空ウィッチの長所である機動力を殺すだけだろう。只でさえ救援に来てもらっているのに、これ以上迷惑をかけることはできない。
「・・・わかりました、私は先に撤退させてもらいます。時間稼ぎ、お任せます」
「ええ、任されました」
「絶対、無理はしないでくださいね!!」
そう叫んだ後、私は彼女が示した方へ向かって撤退を開始した。
---------
「絶対、無理はしないでくださいね!!」
無理はするな、か。さっきまでは自分の命が危なかったのに、他人の心配が出来るなんて。きっと彼女は優しい子なんでしょうね。
撤退を始めた彼女の背を見送りながら、そんな事を思う。彼女の優しさを無駄にしないためにも、頑張るとしよう。
そう決めて向き直ると同時に、私はエンジンの出力を上げて上昇する。そして少し高度を稼いだのを確認してから縦に大きく旋回、稼いだ高度を速度に変換しながら深海棲艦達に正面から突っ込む。当然深海棲艦達は私を撃ち落そうと対空機銃をばら撒き始めるが、動揺しているのか、密度も低ければ狙いも甘い。最初は照準すら追いついておらず、弾は私の通った跡を虚しく飛んでいく。照準が追いついた後も、体を左右に揺すれば敵の狙いはそれ以上に大きく動いて弾は変な方向へ飛んでいく。
そのまま1発も被弾せずに距離を詰める事に成功した私は、先頭にいる駆逐ハ級に20mmをばら撒く。そして引き金を引いたまま20mmを動かし、他の3隻にも弾を浴びせながら連中の上を通過する。そのまま少し進んだ辺りで再び上昇し、相手に与えたダメージを確認する。だが
「・・・やっぱり、この距離からだと抜けないわね」
20mmの弾では軽巡はもちろん、駆逐艦の表面装甲すら抜けなかったようで、まるでダメージになっていなかった。もう一往復、二往復と20mmでの掃射を食らわせるが、やはり効果はない。その事に舌打ちをしながら、残弾が少なくなった弾倉を交換するために距離を取る。
すると、今までその場に止まって弾幕を張っていた深海棲艦達がアクションを起こした。弾幕を撃つのを止め、前進を開始したのである。 その方向は、夕張が逃げた方。
「まさか、私を無視して夕張を追うつもり?」
弾倉を交換し終え、再び深海棲艦に向かっていくが、対空砲火どころか、こちらを見ようともしない。どうやら私の事を障害にならないと見なしたようだ。
「見くびられたモノね・・・それなら!」
一度20mmを背中に戻し、加速。そのまま軽巡の上を通過し、先行している駆逐艦2隻の真上につく。それでも迎撃どころか、回避動作すら取らない辺り完全に舐められている。
だけど、それもいつまで持つかしらね?
私は両手でベルトに付いている爆弾を2つずつ掴み取り、それを駆逐艦達に向けて思い切り放り投げる。その後に20mmを手に移してから私も急降下する。
投げた爆弾は4つの内1つはニ級に命中。致命傷には程遠いが、確かなダメージを与える。残りの3つはロ級の周りに落ちて小さな水柱を起こす。小さいと言っても駆逐艦の体程度の高さはあり、ロ級はそれにひるみ、その場に停止した。
降下中にそれを確認した私は目標をロ級に絞り、シールドを展開しながらロ級の目の前に発生した水柱に突っ込み、最短距離でロ級の目のようなモノの前に出る。そして私は20mmの銃身を思い切り目のようなモノに向けて突き出した。グチャリという嫌な音と共に銃身は目の様なモノに突き刺さるが、当然それだけでは済まさない。そのまま20mmの引き金を思い切り引く。
「-----------!?!!?」
弾が吐き出される度に肉を抉る様な音が響き、黒い液体が飛び散る。痛みからか、驚きからか、あるいは両方か、ロ級は悲鳴のようなモノを上げる。
これは私の経験則だが、深海棲艦にも弱点のような物は存在する。それは顔や目である。
一応生物だからなのか、その部分だけは体や武装に比べて極端に装甲が薄く、固体によっては航空ウィッチの攻撃でも被害を与える事ができる。
そして、今相手にしている固体は最弱の駆逐艦クラス。十分に被害を与える事は可能だ。
ロ級は堪らず暴れだし、私を振り払おうとする。それには無理に逆らわず、20mmを引き抜きながらロ級を蹴り飛ばし、バック転をするようにして離脱。そのままの加速してロ級の頭上を通りすぎ、奥にいる軽巡へ向かう。
しかしロ級の様子を見たせいか、軽巡2隻から対空弾幕が展開される。高度も速度も落ちていたので回避はできないと判断しシールドで受ける。弾幕が私を押す力と、私が留まろうとする力が拮抗し、体がその場で止まる。これを好機と見たのか、軽巡の主砲がこちらへ向けられ、そして火を噴いた。放たれた弾は、対空砲火のせいで身動きを取れなかった私へと真っ直ぐ飛んでくる。
それに対して私は、シールドの強度を上げ、その場に留まろうとする力を抜いた。すると、シールドに弾が当たるのと同時に私の体が斜め上へと弾き飛ばされる。私はそのままある程度離れるまで弾き飛ばされてから体勢を整える。
「っと・・・ありがとう!これはお礼よ、受け取りなさい!!」
結果、少し魔力は使ったが、普通に動くより遥かに早く距離を取ることができた。お返しに20mmでの掃射を行う。
ピンポイントでの攻撃ではないためダメージを与える事はできないのだが、それでも深海棲艦達は20mmから逃れるような動きを取る。
どうやら先程の攻撃はかなり堪えたらしい。既に深海棲艦には私を無視しようとする固体はいない。必死に私を撃ち落そうと弾幕を展開している。
こうなってしまえば後は簡単だった。
最初の方と同じように往復射撃を行い、たまにフェイントで降下を仕掛ける。それだけで敵は面白いくらいに反応し、ますます必死に私を落とそうとする。このループは私の20mmの弾が全て切れるまで続いた。
「そろそろ丁度いい頃合かしら」
最後の空になった弾倉を捨て、使えなくなった20mmを背中に戻す。敵は完全に私を落とす事に夢中になっている。恐らく夕張の事はもう頭にないだろう。時間も中々稼ぐ事が出来たし、これ以上付き合う必要もない。
「じゃあ最後に、少しだけ本気で行くわよ!」
そう叫ぶと同時に急降下を始める。目標はリーダー格と思われる軽巡ト級。
当然迎撃のための弾幕が飛んでくるが、全て強度を大きく上げたシールドで防ぎながら強引に突っ込む。エアブレーキを使って速度を調整しながら、ト級にぶつかるんじゃないかという程の距離まで近づき、左片方の爆弾倉から奥の手である800kg爆弾を落とす。それと同時に体を引き起こし、ニ級へ向かう。
すぐ後ろで轟音が響くのを聞きながら、爆弾のついているベルトを力ずくで外し、それをニ級に向けて放り投げた。ニ級の上を通り過ぎると同時に機体を180度ロールさせ、仰向けの体勢になりながら後方機銃を操作、ニ級の上に落ちた爆弾へ向けて発砲。弾は爆弾に命中し、爆発を起こしてニ級を飲み込む。それを一瞬だけ確認してから体をうつ伏せに戻し、そのまま戦場から離脱を開始する。
はっきりとは見ていないが、800kgを使ったト級の轟沈は確実。ニ級も良くて小破~大破。また、ロ級はダメージ自体は小さいが、目を潰した為に戦力としては役に立たないだろう。
これだけの被害を受けた艦隊が追撃をしてくる可能性は非常に低いだろうが、念を入れて大きく迂回をして戻るとしようか・・・
その後、大きく迂回をしてから夕張が進んでいるルートへと戻り、彼女と合流。扶桑と鳳翔に艦載機を戻し、先に鎮守府に戻るように伝えてから2人で後退を始めた。ちなみに夕張には凄く驚かれた。どうやったのかと聞かれたり、怪我がなくてよかったといった事を言われ続けたが、ここでは割愛。
途中で睦月達と合流した事以外に変わった事はなく、日が沈む頃には全員無事に鎮守府へとたどり着く事が出来た。全員に安心したような空気が漂い、夕張に至ってはその場で泣き出してしまう。だが、まだ全て終わっていない。酷ではあるが、彼女から詳しい話を聞かなくてはならない。
出迎えてくれた扶桑と鳳翔に工廠へと連れて行かれた夕張の背中を見ながら、そう思っていた。
---
夕張が落ち着くのを待ってから、私は全員を食堂へ集めた。夕張の服はボロボロだった為、撤退中に合流した際に貸した私の制服の上着を着ている。
「さて、少しは落ち着けたかしら?」
「はい・・・すいません、わざわざ待ってもらって・・・」
「気にしなくていいわ、全部とは言わないけど、少しは気持ちがわかるつもりだから」
そう言って、夕張の気持ちが少しでも落ち着くように笑顔を作る。それに釣られてか、夕張の顔にも少しだけ笑みが浮かんだ。
「それじゃあ、詳しい話を聞かせてもらえるかしら?まだ辛いとは思うし、個人的にはもう少し休ませてあげたいのだけれど・・・」
「大丈夫です。えっと、どこから話せばいいかな・・・」
「時間は幾らかけてもいいから、落ち着いてね」
「ありがとうございます。では」
そして夕張は、今回の事について話し始めた。
艦隊の編成、艦隊が受けていた任務、彼女の司令官について、自分たちが受けていた扱い、敵輸送部隊を発見して攻撃をしかけた事、敵の増援によって艦隊が危機に陥った事、危機を脱するために提督が自分にした事など、全てを。
「・・・」
「酷い・・・」
話を聞いていく内に、自分の眉間に皺が寄っていくのがわかった。人の醜さを全面に出したような内容に不愉快さとイラつきを覚える。恐らく扶桑達も同じ気持ちだろう、同情するような目を夕張に向けている。
夕張は話を進めるごとに目に見えて落ち込んでいき、話し終わる頃には机に突っ伏して再び泣き出してしまっていた。
「ありがとう、もういいわ。ごめんなさいね、辛い話をさせて・・・」
「えっぐ・・・ぐす・・・うわぁぁああぁぁああああああああああ!!!」
私は表情を戻してから夕張の席に近づき、中腰になって高さを合わせながらそっと頭を撫でる。すると夕張が一度顔を上げた後、思い切り抱きついてきた。顔を胸に押し付けるようにして埋め、泣き声が一際大きくなる。
「つらかった!こわかったよぉ!みん、な、なかっまだとおも・・・なん、でわたし・・・わたしぃぃいいいいい!!!」
「よしよし・・・もう大丈夫、大丈夫なのよ・・・」
それに対して、私も彼女をそっと抱きしめるように手を回し、背中を撫でた。少しでも彼女の感じている辛さが和らぐように。
すると、それを見ていた睦月が口を開いた。
「ねぇ・・・大尉さん、夕張さんの事、どうにかできないかな・・・?」
何が、とは聞くまでもない。
今回私たちは、他の鎮守府に所属する艦娘を助けた。普通なら元の鎮守府に連絡を取り、彼女を帰さなくてはいけない。
だが、今回の夕張の話は、世間に知られれば、一般人からの海軍へのイメージを一気に悪化させかねない。その為、確実に夕張は口封じされるだろう。解体処置をした後に監禁か、激戦区へ送られるか、はたまたもっと酷い目にあうか、どう転んでも夕張のその後は真っ暗だ。
除隊するというのもあるが、そうやってただの一般人になってしまえば、それこそ軍という後ろ盾がなくなるので、命に関わるような事を平然としてくるだろう。下手すれば口封じよりも悲惨な目にあう可能性もある。
黙って家へ帰す事も考えられるが、艦娘としての顔が知られている夕張が気づかれずに過ごすというのも難しいだろう。
睦月がここまで考えているかはわからないが。
・・・ふむ、少し意地悪な聞き方になるけど・・・
「夕張、貴方はどうしたい?」
「グズ・・・わ、私、ですか?」
夕張は私の胸元で上目遣いに私を見る。その顔が涙でぐしゃぐしゃだったので、手で軽く拭ってから両肩に手を置く。
「普通に考えれば、この後貴方を所属している鎮守府に送らなければならないのだけど」
「・・・っ」
その言葉に、夕張の体がビクリと震える。
「その反応だと、やっぱり戻りたくないみたいね」
「・・・・・・はい」
「そうなると、さっき言った通り、貴方がどうしたいかって話になるわ。軍を抜けるとか、匿って貰える場所を探すとか、色々あるけれど」
「ま、待ってください。そんな、まだ私・・・」
私がいくつかの案を上げようとすると、夕張が慌てたように声を上げる。まぁ当然だろう、混乱している彼女がそんな事まで考えれるとは思っていない。
「私も今回の出撃理由等の報告書の提出義務もあるし、貴方を救助したことを隠し続ける事は不可能よ。自分がどうしたいかはキチンと考える必要があるわ」
「・・・」
そういうと、彼女は黙ってしまった。そのまま下を向こうとする彼女の顔を、肩にかけていた手を頬に動かして抑える。
「別に、具体的にどうしたいかを言えとまでは言わないわ。ただ1つだけ質問させて欲しいの、いいわね?」
「は、はい」
私の有無を言わせぬ言い方に、夕張は頷く。
「貴方は艦娘をやめたい?続けたい?」
この質問に対し、夕張は目を見開く。それから少し考えるような素振りを見せて、口を開いた。
「私、艦娘になる前は、学校でも全然目立たなくて・・・どこかで変わりたいとは思っていたんですけど、出来なくて・・・でも、そんな時に私、艦娘としての適正があるって言われたんです。
私は、自分を変えるならこれしかないって思って、艦娘に志願しました。親や学校からは離されちゃって、不安だったんですけど、仲のいい人も出来て、自分が役に立ててるっていう実感も出来て、嬉しかったんです。今回、酷い目に会いましたけど、それでも、私が変わるきっかけになってくれた艦娘を、私はやめたくないって思えるんです。」
「・・・成る程」
思った以上に、彼女の深いモノを知ることが出来た。これは信頼してもらっているという事でいいのかしら。
なら、それに答えなきゃね。
「わかったわ、ありがとう。十分すぎる答えよ。
・・・扶桑、悪いのだけれど、今日の晩御飯は貴方が作って頂戴。
鳳翔、書類を作るわ、手伝って。」
夕張から体をそっと離し、扉に手をかけながら指示を出す。
「え?あ、はい。了解しました」
「了解です。今回の報告書ですか?」
「それもあるけど、メインは違うわね」
「あら、ではメインは何を?」
私は振り返り、パチリとウィンクを決める。
「ちょっとした、サプライズよ」
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翌日、夕張が所属していた鎮守府と上層部に1つの書類が届けられた。その書類には要約すると
『私は九頭谷少佐と協議を行い、今後の[お互いの為]、戦力強化として軽巡夕張を譲り受けました。その事をこの書類により報告致します。-雨霧雅大尉-』
といった事が書かれていた。
その日、夕張が所属していた鎮守府からは九頭谷少佐の怒りに震える声が響いたとか響かなかったとか。
というわけで夕張救助回でした。ついでにクズい提督にも名前がついたよ!やったね!・・・なんかもう色々とごめんなさいorz
史実の装備の情報や、実際の距離等に頼りすぎてもうまくかけませんね。今度からは開き直ってアニメ艦これみたいにメタァな感じでやってみますか。ウェーク島から日が暮れるまでに帰ってこれるレベルの自由さならご都合主義もやりやすい(確信
モチベがうまく保てないので評価・感想等を貰えるととても喜びます。よかったら書いてやってください。