やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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空から恐怖の大魔王が降りてきた

 時臣は、教会の璃正との話し合いが終わってすぐに召喚を開始した。当然、その召喚に際しては如何なる不備も存在しなかった。しかし、結果的に言えば彼はサーヴァントを召喚した時点で失敗していた。

 彼は、自身が召喚した黄金のサーヴァントの前で金縛りにあっていたのである。

(ばかな……こんなことが……)

 時臣は狼狽するが、彼の意志と身体は分離されているため、その狼狽が彼の顔に出ることはない。彼の顔は内心の狼狽にも関わらず、全くの無表情だった。

 時臣は数分前のことを思い出す。そのサーヴァントの瞳が紅く輝いた瞬間、時臣は全ての意志を剥奪され、令呪を使って自分のサーヴァントを御することすらできなくなってしまっていた。抵抗の意志が奪われた彼の身体は、ただそのサーヴァントに服従することを是とした。

 そう、召喚してすぐにマスターとサーヴァントという主従関係は完全に逆転し、サーヴァントがマスターを操る関係となったのである。サーヴァントの意志に基づいてマスターが魔力を供給し、令呪でサポートする。そこに、マスターたる時臣の意志は一切関わらない。

(このサーヴァントにそんな力があったのか!?それに、姿形も伝承のそれとは全く違う!!)

 恐竜を絶滅させ、危険を感じた地球からの救援要請を受けた死徒二十七祖第三位、「タイプ・ムーン」の月落としをも破り返り討ちにした最強の怪獣を召喚すれば、聖杯戦争の勝利は間違いなしと意気込んでいた時臣であったが、彼は一つ、大きな思い違いをしていたのである。

 彼の召喚した怪獣(サーヴァント)――宇宙超怪獣キングギドラ(アーチャー)は、彼が考えていたよりも遥かに強力な大怪獣だったのだ。

 時臣はこの触媒を使用すれば一億三千万年前に朱い月のブリュンスタッドをも破った一億三千万年前の当時のキングギドラを呼べると信じていたのだが、そもそも一億三千万年前のキングギドラは未だ成長期であり、成体ではなかったのである。

 原則、聖杯戦争で召喚される英霊は肉体的に全盛期の姿にて召喚されるため、キングギドラも一億三千万年前の姿ではなく、さらに進化して身体は大きく逞しく、多彩な技を覚え金色のボディを手に入れた全盛期の姿で呼ばれたのである。

 そして、この頃のキングギドラは単純な戦闘能力以外にもいくつかの能力を手に入れていた。それが、キングギドラのスキル「催眠術」である。キングギドラの全盛期の姿も能力も知らない時臣にはこのスキルの存在を知る由もなく、結果彼は無防備にもキングギドラの前に出てしまった。現代の魔術師に抵抗できるようなレベルの催眠術ではなかったため、時臣は当然それに陥落し、キングギドラの傀儡となってしまったのである。

 

 そして、傀儡を通じて聖杯戦争の事情を知ったキングギドラはすぐさま行動に移った。遠坂邸を覆う巨大なドームを一瞬で構築したキングギドラはその後飛翔したのである。

「な……なんだアレは!?」

「龍だ!!金の龍がいる!!」

 スペースゴジラという特大の怪異を前に冬木を離れようとする人々でごった返している冬木の県道の上空を通過するキングギドラ。上空を通過する怪獣の姿を見た人々はパニックになり、県道は大混乱に陥った。そしてそれと同時に、眼下にいた子供達の姿が瞬時に掻き消え、子供をつれて必死に避難していた親たちが悲鳴をあげる。

 当然のことながら、60mの巨体で飛翔すれば眼下の市民達だけではなく未遠川の向こう側で勢力を拡大中のスペースゴジラ(キャスター)もその存在に気がついて迎撃を開始する。スペースゴジラの星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)が次々と放たれ、キングギドラはそれを紙一重で回避する。

 回避しきれずに何度か攻撃を喰らうが、持ち前の高い耐久で持ちこたえながらただキングギドラは深山町の上空を幾度も旋回し続けた。しかもキングギドラは幾度も攻撃を喰らっているのにも関わらず、一度も反撃をせず、とにかく深山町を旋回することを急いでいた。

 その6つの瞳には怒りの気炎が湧き立っており、キングギドラにとって反撃もせずに逃げ回ったことは不本意極まりないことだった。しかし、キングギドラはただ本能に従って暴れまわる低能な怪獣とは一味違う。

 キングギドラはスペースゴジラの力量と、スペースゴジラがあの陣地内では強大なステータス補正を受けていることを瞬時に看破し、それに対抗できるだけの準備を整えることが先決であると判断したのである。

 キングギドラとて闇雲に飛び回っていたわけではない。キングギドラが飛翔したコースの下にいた子供達は一人の例外なく遠坂邸を覆う巨大なドーム、王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)に転送されていたのだ。深山町に住む殆どの子供を転送させたことを確認したキングギドラは、スペースゴジラの攻撃を掻い潜りながら遠坂邸まで後退する。

 そして、キングギドラは誰にも邪魔されることなく食事(魂喰い)を始めた。遠坂邸のドームの中にいた子供達は全身から生体エキスが抜き取られる苦痛に耐え切れずに泣き叫び、必死に親の助けを呼び続ける。

 一億三千万年前は、獲物に噛み付いて口から直接生体エキスを吸収することしかできなかったが、今のキングギドラはこの王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)の中に閉じ込めた獲物からドームを通して生体エキスを徴収する力があるのだ。

 子供達に苦痛を与えている張本人であるキングギドラは王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)の中が阿鼻叫喚の嵐となっていることなど全く気にしていない。キングギドラにとっては、彼らから生体エネルギーを搾り出してあのスペースゴジラに対抗できるだけの魔力を自分の身体に充填できればよかったからである。

 

 

 

「こちら、ディアボロ1、目標地点に到達した!!」

『コントロールよりディアボロ1。状況を報告されたし』

 そのころ、災害派遣要請と未確認飛行物体の現出を受けて緊急発進(スクランブル)した築地基地所属の二機のF-15J戦闘機が冬木市上空に到着して眼下の惨状を確認していた。

「……コントロール。できれば俺が正気かは問わないでくれ。眼下には二体の怪獣がいる。未遠川を挟んで東側は結晶のような物体に覆われており、その中央部に全長50mほどのゴジラに類似した形態の巨大生物を確認した。西側には三本の首を持った金色のドラゴンがいる。こっちも大きさは50~60mってところだ」

 ディアボロ1、仰木一等空尉は眼下の状況をそのままにコントロールに伝えた。状況があまりにも狂っていたため、中途半端に思考が停止することもなく彼はありのままの状況を把握できるほどに冷静でいられた。ただ、報告をしている彼自身にも未だに眼下の光景が信じられないところがある。

『ディアボロ2よりディアボロ1。どうします?このまま手を出して、光の巨人が出てくる前のかませ犬でもやりますか?』

 ここに到達する数分前に交わした笑えない話のネタを繰り返してくるあたり、ディアボロ2、小林三等空尉もまた少し混乱しているらしい。

「……ディアボロ1よりコントロール。指示を乞う。交戦許可は下りるのか?」

 とりあえず、内心では殆ど期待してはいないが、交戦許可が出るのかについてコントロールに問いかける。

『交戦許可は出てザザ……アボロ1、ディアボ…………引き続き冬木……ザザ待機し、情報収ザザ……当たれ』

「ディアボロ1、了解…………聞いての通りだディアボロ2。交戦許可は当分おりそうにない」

『かませ犬で…………て、野次馬…………。ザザ……解です』

 この時、眼下を眺めつつも視界の端に計器を写し続けていた仰木は気がついた。計器の針が異常な動きをしており、さらにはディスプレイにも不具合が生じ始めていることに。先ほどまでの無線機の奇妙なほど大きな雑音、そして計器の異常。二つの現象から導き出される答えはなんらかの電子的な攻撃あるいは機体そのものの不具合だ。

 仰木がその答えにたどり着いたのと機体のシステムが全てダウンするのは全くの同時だった。しかし、コントロール不能になったF-15Jの操縦桿を必死に握りながら仰木はどうにかして市街地への墜落だけはさけようともがく。

「まずい……ディアボロ1よりコントロール!!システムダウン!!操縦不能!!」

 仰木がもがいているうちに、機体はどんどん高度を下げ、未遠川の水面に近づいていく。その水面には命からがら新都から脱出しようと必死で泳ぐ市民の姿が見える。

「畜生!!頼む!!!せめて新都の方に墜ちてくれ!!」

 仰木はとにかく機体の体制を立て直そうとする。今脱出すれば自分の命が助かることは理解しているが、自分の命はともかく市民の命を危険に晒すことだけは仰木には認められなかった。

 彼の必死に操縦もむなしく機体は眼下に見える避難民たちにグングンと近づいていく。

「神様でも仏様でも構わん!!頼む、この機体を墜とさないでくれ!!」

 脳裏によぎる最悪の未来を避けようと仰木は最後の瞬間まで粘る。そして、その粘りが奇跡を呼んだ。

 眼下の水面まで後40m。そこで仰木の機体は何かによって制動をかけられたのだ。だが、墜落は止められても一度に制動をかけられた仰木の肉体にはかなりの負荷がかけられていた。だが、そのすさまじい衝撃によって意識を失う瞬間、仰木は自身の機体を抱える赤と銀の巨人の姿をコックピット越しに見た。

「……光の…………巨人」

 その言葉を最後に仰木は意識を完全に失った。

 

 

 スペースゴジラは目の前に突如顕れた新たなサーヴァントを睨みつける。それに対しサーヴァントは、先ほどギリギリでキャッチしたF-15を静かに地面に降ろしてから身構えてファインティングポーズをとった。

 

「デュワッ!!」

 

 地球を愛する正義の使者、ウルトラセブン、ここに推参。

 

 

 

 

 

 

《サーヴァント情報が更新されました》

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス:アーチャー

 

マスター:遠坂時臣

 

真名:キングギドラ

 

性別:不明

 

身長:60m/体重:50000t

 

属性:秩序・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:B

耐久:A

敏捷:A

魔力:A

幸運:D

宝具:A+

 

 

クラス別能力

 

対魔力:D

 

一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する

魔力避けアミュレット程度の対魔力

 

 

単独行動:A

 

マスター不在でも行動できる

ただし、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要

 

 

保有スキル

 

恐怖の大魔王:A

 

星の生態系の殲滅者に与えられるスキル

繁栄している生物種又は星の意思の代弁者との戦闘時に自分に有利な補正がかかる

つまり、対人間あるいはアルティメット・ワンに限定して絶対的な優位性を持つ

反面、絶対数が少ない神の血を引くものなどに対しては劣位に立つ

 

 

催眠術:B

 

対象者を自己の傀儡とする催眠術を使える

 

 

宝具

 

宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)

 

ランク:A~A+

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

キングギドラ最大の武器である、3本の首から吐き出す光線

3本の首から放たれる光線を束ねればA+の威力になる

 

 

王者の輝光結界(ギドラ・オーラ)

 

ランク:A

種別・対人(自身)

レンジ:0

最大捕捉:1人

 

キングギドラが常時身に纏っているバリア

Bランク以下の攻撃を無効化し、Aランク以上の宝具の威力も若干弱体化させる

 

 

王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)

ランク:B

種別:対軍宝具

レンジ:10~40

最大捕捉:600人

 

発動時に任意の対象をドーム内に転移させて発動する

ドーム状の結界の内部に入った人間を消化し、その生命エキスを魔力へと還元して使用者が吸収する

ドームに穴を開けるにはBランク相当の宝具の力が必要

 

 

《捕捉》

見た目、能力共にモスラ3に登場するキングギドラ、通称グランドギドラ。

一億3千万年前に地球に飛来した際には、白亜紀型キングギドラ(通称ヤングギドラ)でありながらも地球からのSOSを受けて駆けつけたタイプ・ムーンを返り討ちにしたらしい。

時臣が触媒にした化石は、タイプムーンの攻撃で剥がれ落ちたヤングギドラの鱗の化石。




同じ黄金のサーヴァントでもこっちは時臣を文字通り傀儡にしてしまうおっかないやつでした。結局、トッキーのやることなすことは裏目にでます。

そして、ついにセブンが登場です!!


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