新都が結晶塔に覆われていたころ、切嗣は仮のアジトを放棄して未遠川を予め準備しておいたボートで脱出しようとしていた。しかし、未遠川は新都から命からがらの脱出を試みて必死で泳ぐ避難民で溢れている。
「ねぇ、切嗣。この後どうするの?人が川に溢れていて、これじゃあボートが使えないわ」
「問題ないよ。このまま突っ切ればいい」
アイリスフィールに問いかけられた切嗣は、躊躇なく決断した。彼の命令を受け、助手の久宇舞弥がボートを始動させる。
「そ、それじゃあ、この川を泳いでいる人たちはどうするの?」
アイリスフィールは慌てて自身の夫に尋ねるが、それに対する夫の答えは残虐なほどにそっけない回答だった。
「無視する。優先すべきは聖杯戦争の勝利だ。僕らが勝てば彼らの犠牲も報われる恒久的世界平和が実現できるんだ」
「発進します」
舞弥が船のエンジンを始動させ、船はゆっくりと川岸を離れていく。当然、この死地からの脱出航に現れた救世主だ。溺れるものは藁をも掴むというが、それが藁ではなく救助艇だったなら、尚のこと彼らがそれを掴もうとしない理由は存在しない。
「おい!!助けてくれ!!」
「子供がいるの!!お願い、乗せていって!!」
「く、くるな!!轢かないでくれ!!」
川を泳ぐ避難民の叫びを無視し、子だけでも救うように懇願する母親の声から逃げ、障害となるものは容赦なく轢いて船は進む。自身に浴びせられる怨嗟の声に顔を顰めながらも、アイリスフィールは耳と目を塞ぐことはなかった。彼らを彼女達の怨嗟の声を自身の魂に刻み付けるのが最低限の礼儀であると心得ていたからである。
だが、切嗣たちの逃避行は川の中央でストップする。突如、船に凄まじい衝撃が叩きつけられ、エンジンからも何かを巻き込んだかのような金属音が聞こえてきたのである。
「舞弥!!」
切嗣の一声で舞弥はエンジンを即座に止め、キャレコ短機関銃を構えながら船尾に向かう。
こんなところでエンジンを止めた船に、川を渡ろうとする避難民が殺到しない理由がなく、当然彼女にもそれを排除しない理由はなかったからである。しかし、スクリューに避難民か何かが絡まったのだろうと考えた切嗣たちの考えは、全く的外れのものだった。
船尾に近づいた舞弥は、薄暗い月夜の中で水面下に潜むものに気がつかず、
即座に退避し、舞弥は冷静にその昆虫に発砲する。だが、その昆虫の堅い表皮には9mmパラベラム弾は全く歯が立たない。銃器が通用しないと悟った舞弥は戦術を転換し、懐に隠していた手榴弾のピンを抜いて投げつけた。
船にダメージを与えないように昆虫の左側面に向けて投げつけられた手榴弾は、昆虫の至近距離で起爆してその爆風で昆虫を水中に叩き落した。だが、まだ脅威が去ったわけではない。
「舞弥!!上だ!!」
切嗣の言葉に反応し、舞弥は水面下に叩き落された昆虫を確認することなくその視線を上方に移した。そこには、巨大な蜻蛉が5、6匹ほど飛行している。キャレコを拾った舞弥はそれに一掃射するが、こちらも先ほどの昆虫ほどではなくともそこそこに堅い表皮を持ち合わせているらしく9mmパラベラム弾では体勢を崩すぐらいの効果しかもたない。
その様子を見ていた切嗣は内心で舌打ちをする。敵は蟲であり、敵のサーヴァントもしくはその宝具である可能性が高い。しかもどうやら、空中を旋回する蜻蛉と水面下に潜む昆虫は同じ主の命令のもとで動いているらしい。
船の上空を蜻蛉に、水面下を別の昆虫に取り囲まれた切嗣は決断を迫られる。水中と空中からの挟み撃ちとなれば、もはや逃げ場はない。現状を打開する手立ては一つ。聖杯戦争の原則であるサーヴァントにはサーヴァントを当てることのみだ。
現在、切嗣はサーヴァントを冬木港の海中で待機させている。下手に随伴すれば霊体化していても他のサーヴァントを刺激する危険性があると判断したからだ。切嗣は空間転移で自身のサーヴァントを呼び出すことを選んだ。神秘の隠匿などを気にしている余裕は彼にはなかった。
「令呪を以って命じる!!セイバー、来い!!」
避難民で溢れ変える川の上に風が吹き荒れ、人々がは風が引き起こす波にのまれて流されていく。そして、その風と波の渦の中心にレザースーツのようなシャープな印象を受ける巨大怪獣が姿を顕した。
切嗣はセイバーが駆けつけたことを確認すると、身体強化を自身にかけてアイリスフィールを抱えながらセイバーの背中を登った。そしてセイバーの肩でアイリスフィールを降ろした彼は近くの突起にロープを結びつけ、その先端を垂らして船上の舞弥を回収する。
未遠川の対岸、土手の上ではこの襲撃の下手人たる言峰綺礼がサーヴァントに乗って船から脱出する衛宮切嗣の様子を観察していた。綺礼が用意した空と海からの包囲から脱出されたものの、綺礼は包囲を破られたからといって長年捜し求めた答えを諦めるような人間ではなかった。彼は衛宮切嗣に対する備えも既に準備していた。
魔術師の思考回路であれば、脱出者で溢れかえっている川にサーヴァントを令呪で転移させるなどということはまず考えないだろう。相当追い詰められなければそのような決断は普通しない。だが、この男、魔術師殺しの衛宮に限って言えばそのような常識は通用しないということを言峰綺礼は理解していた。
そう、これは衛宮切嗣を確実に余人の邪魔の入らない場所へと誘い込むためのしかけなのだ。被災者で溢れかえった夜の冬木は、ある意味昼よりも賑わっている状況であり、そんな状況下で衛宮切嗣と接触する機会はまず得られないが、一箇所だけ例外がある。それが、災禍の中心である戦場だ。
「令呪を以って命じる。アサシンよ、
綺礼は令呪の魔力で
そして、未遠川の中央部から姿を現した禍々しい巨大な蜻蛉の頭に綺礼はメガニューラによって運ばれた。全ては、衛宮切嗣から答えを聞き出すために綺礼が用意した策だった。
――さぁ、貴様の得た答えを聞かせろ、衛宮切嗣。誰の邪魔も入らない天空の戦場で。
綺礼は自身の顔が僅かに歪み、悦を感じていることに気がつかずにいた。
「切嗣!!下よ!!下を見て!!」
その時、アイリスフィールの声で切嗣は眼下を見下ろした。そこにいたのは、彼が本能的に宿敵と定めた一人の男の姿。声が聞こえないほどに離れているはずなのに、切嗣には眼下の巨大な蜻蛉の上に立つその男の言葉が聞こえた気がした。
「こうして顔を合わせるのは初めてになるな、衛宮切嗣」
「……言峰、綺礼!!」
戦場と化しつつある未遠川の上空で、魔術師殺しは宿敵と初めて顔を合わせた。
《サーヴァントのステータスが更新されました》
クラス:セイバー
マスター:衛宮切嗣
真名:ガイガン
性別:不明
身長:65m/体重:25000t
属性:混沌・悪
パラメーター
筋力:B
耐久:B
敏捷:A
魔力:B
幸運:D
宝具:A
クラス別能力
対魔力:B
魔術発動における詠唱が3節以下のものを無効化する
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけることは難しい
保有スキル
加虐体質:A
戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる
これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう
攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下し、無意識のうちに逃走率も下がってしまう
自分の武器で死んでしまうなんてうっかりもおきるかもしれない
気配遮断:A
機能停止時に限定し、サーヴァントとしての気配を断つことができる
宝具
ランク:A
種別:対人宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:2人
両腕部の巨大チェーンソー
表面を鮫の牙のような刃が高速で動いているため、非常に切れ味がいい
殆ど力をいれずとも物体を両断することができる
ランク:B
種別:対人宝具
レンジ:1
最大捕捉:1人
腹部の巨大回転鋸
超近接戦闘でしか効果はないが、切れ味は非常によい
ランク:B
種別:対人宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:2人
胸部から射出される手裏剣のように回転する刃
自動的に標的を追尾する機能を持つが、本体にあたらないように回避しようとする機能はついていないため、自爆の可能性もある
《捕捉》
身長、体重は昭和のガイガン(初代)であるが、見た目はGFWに登場するガイガン(2代目)改。
飛翔能力も有し、三次元的な戦いも可能である。
ただし、セイバーのクラスに収まっている影響で拡散光線ギガリューム・クラスターが使用不可になっている。
怪獣呼べば聖杯戦争なんて楽勝、冬木の被害なんて知ったことじゃないね!なんて思って召喚したものの、実は戦闘能力的には参加サーヴァント中では真ん中という悲劇
サーヴァントとしての戦闘力ではメガギラスとドベ争い
そのくせメガヌロンとメガニューラを繁殖させる能力を持つアサシンに比べて特筆する特殊能力はなし
などという取り得のないサーヴァントでした。
弱くはないんだけど、如何せん中ボスクラスなもんで、ラスボスが集うこの聖杯戦争では荷が重かったみたいです