やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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お久しぶりです。この一ヶ月リアルがかつてないほどに忙しく、執筆の時間が取れませんでした。
今は一時的に落ち着いていますが、十月の半ばからもまた忙しくなりそうなので、それまでにもう1,2回は更新したいと思うのですがどうなることやら……


緊急怪獣速報

 市内を未遠川と垂直に薙いだ熱線は、切嗣と綺礼が対峙していた冬木市民会館の近くに着弾していた。ゴジラは野生の直感でそこに自分たちの敵となるサーヴァントがいることを看破して熱線を放ったのである。

 二人は熱線の着弾の衝撃と熱波に晒されるはずだったが、切嗣は咄嗟に令呪を用いてガイガンに自分と妻の盾になるように命じた為、辛うじて熱線の余波を食らうことは免れた。

 代行者としての豊富な戦闘経験を持つ綺礼も、熱線の余波から我が身を庇うために動いた。令呪を行使し、自身のサーヴァント及びその下僕を自身の前に転移させ、彼らを束ねることで自身の盾とした。

 残る全てのメガニューラ及びメガヌロンを盾としたことが仇となり熱線の余波を浴びたメガニューラの八割は撃墜され、残る個体も翅を損傷したりしてほとんどが戦力とならなくなってしまった。元から耐久力が貧弱なメガニューラでは、A+ランクの対城宝具の余波でも十分に致命傷足りうるものだったのである。

 尤も、撃墜されたメガニューラの中にアサシンの本体がいたので、どのみちこの時点でアサシンは脱落、残るメガニューラ及びメガヌロンも消滅は免れなかったのであるが。

 ただ、綺礼もここで自分のサーヴァントを使い捨てにすることは覚悟の上での令呪の行使だった。彼にとっては聖杯よりも己の求める答えの方が重要だったため、サーヴァントを、聖杯への道を失うことに対する躊躇は全く無かった。

 さらに、事態は動く。この場で唯一姿を現しているサーヴァントであるガイガンが、先ほどの熱線を放ったサーヴァント――ゴジラの目にとまったのだ。ゴジラはガイガンを本能的に敵と認定し、戦いを挑んできたのである。

 ガイガンは、迫り来る敵に対して迎撃する構えを取った。マスターたる切嗣からの命令はなかったが、命令を受けている暇はないと判断したのだ。ガイガンは飛翔してゴジラへと一直線に接近した。

 接近するガイガンへのカウンター狙いでゴジラは尾を振り回した。遠心力と尾の重量が加算された痛烈な一撃がガイガンに迫るも、ガイガンは咄嗟に伏せることで尾による一撃を回避、さらにすれ違いざまに両腕の命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)で斬りつけて離脱した。

 ゴジラは自身の強靭な肌をも裂く命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)に斬りつけられて血を流すも、傷を負った脇腹を一瞥することもなくガイガンに向き直った。そして、前にも増して強い殺意をガイガンに向けて吼えた。

 その咆哮の中に籠められた殺意に、ガイガンは思わずたじろぐ。サーボーグ怪獣であるガイガンには生物としての本能などは殆ど残っていないはずだったが、怪獣王の咆哮はガイガンの機械に埋め尽くされたはずの生物的な本能を揺さぶった。

 生物としての己を失ってからこれまで一度も味わってこなかった『本能的恐怖』。それは、脳から置き換えられた機械では処理できない未知の感覚だった。

 

 ――拙い。

 衛宮切嗣は先ほどよりもさらに悪化した状況に歯噛みする。セイバーは突然襲い掛かってきた他のサーヴァントとの交戦を余儀なくされ、こちらはサーヴァントをマスター殺しに使えない状態だ。さらに先ほどの熱線の余波の影響で周囲には瓦礫が散乱し、障害物が転がっている上に足場も悪くなって射撃に不利な状況となっている。

 さらに、アイリスフィールの容態も悪化している。おそらく、先ほどの攻撃で言峰綺礼のサーヴァントが脱落したのだろう。周囲の蜻蛉の消失と同時にその魂を取り込んだアイリスフィールは人間としての機能を失い、人間の外郭を消失して器への変身を遂げていた。

 器は助手の舞弥に持たせているが、言峰綺礼に狙われているこの状態で器の安全を確保しながら逃げることはまず不可能と言ってもいい。舞弥を囮にして自分が器を持って逃げるといっても、言峰から逃げられるかは五分五分、いや、四分六分といったところだろう。しかも、逃げ切れなかった場合、器も守りながら戦うというハンデを背負えば勝機は0に等しい。

 先ほどまで周囲を包囲していた言峰綺礼のサーヴァントが脱落したことは不幸中の幸いだが、その幸いも焼け石に水といったところである。つまるところ、切嗣は未だに絶体絶命の窮地を脱してはいなかった。

 しかし、どうやら衛宮切嗣はギリギリのところで幸運の女神に振り向いてもらえたらしい。

『そこまでだ!!裁定者(ルーラー)の権限において、君達に一時休戦を命じる!!』

 突如頭の中に直接響いてきた男の声。そして同時に、切嗣の前に赤を纏った人影が舞い降りた。

『私は第四次聖杯戦争において裁定者(ルーラー)のクラスで現界したサーヴァントだ。非常事態につき、君達にはバーサーカー討伐に参加してもらう!!』

 『裁定者(ルーラー)』を名乗る目の前の男が人を超越した存在であることは切嗣たちには一目で分かった。脇にダウンしている少年と老年の神父――監督役の言峰璃正を抱えていることがいささか気になったが、それ以上に切嗣の注意をひきつけたのは男が名乗った『裁定者(ルーラー)』というクラスだった。

『私は聖杯から召喚された8番目のサーヴァントだ。聖杯戦争が非常に特殊な形式で、結果が未知数なために人の手の及ばぬ裁定者が聖杯から必要とされた場合と、聖杯戦争によって世界に歪みが出る場合に聖杯戦争に召喚される。今回の場合、後者の理由で呼ばれた』

「アサシンのマスター、そしてセイバーのマスターよ。ひとまずは聖杯戦争は中断だ。戦闘行動を中止し、バーサーカー討伐に協力せよ。裁定者(ルーラー)がこの聖杯戦争における最上位の権限を持つという暫定的なルール変更に監督役である私も同意している」

 グロッキー状態の少年に対し、老いを感じさせないほどに矍鑠とした態度で璃正は口を開いた。

『監督役からこのように正式に『裁定』を私は任されている。二人とも休戦には従ってもらわねばならない』

 切嗣は思案する。監督役も認めているし、マスターとしての能力でこのサーヴァントが『裁定者(ルーラー)』に間違いないことも分かっている。そして、その容貌は間違いなく子供の頃に憧れたテレビ画面の向こう側のヒーロー、『ウルトラセブン』だ。

 創作の存在がどうして聖杯戦争に、それも『裁定者(ルーラー)』のクラスで参加しているのかは分からないが、本物だとすれば彼は切嗣の本来の戦い方に枷を嵌めてくる可能性がたかい。標的を周囲を巻き込んで爆殺したり、毒殺することはできなくなるだろう。

 そして、バーサーカー討伐を拒否したら間違いなくペナルティを下すだろう。正直言って共同戦線を張って消耗することは避けたいところだが、問題は『裁定者(ルーラー)』がどこまでの権限を有しているかだ。

『尚、私の隣にいる彼は参戦を既に了承している……しかしだ。あのバーサーカーはサーヴァントの1体や2体で打倒できるサーヴァントではない。君達のサーヴァントの協力も欲しい。君達が渋るというのであれば、私は裁定者の特権として聖杯戦争に参加しているサーヴァントに対して絶対命令権たる令呪を行使できるが、できれば自発的に君達には戦ってほしいのだよ。尚、バーサーカー討伐後には監督役から新たに令呪を参戦した全員に配布する。これでも不服かい?』

 メリットとデメリットを天秤にかけている切嗣の心中はお見通しだといわんばかりにルーラー――ウルトラセブンが告げたペナルティを聞いた切嗣は内心で少し焦りを覚える。全サーヴァントに行使可能な令呪を持っているというのは厄介だ。

 各陣営に対して間接的な影響力しか行使できない聖堂教会の監督役と違って直接的な強制力を持っているとなると、監督役のことなどほとんど気にしていない切嗣とて気にしないわけにはいかなかった。しかも、戦略上のジョーカーとなりうる令呪が配布されるとなれば尚更だ。

 また、そもそも彼のサーヴァントはバーサーカーと交戦中だ。バーサーカーはセイバーが一対一で勝てる相手だとは思えないし、ここでこちらの頭数が増えるというのも悪い提案ではない。

「……分かった。僕は裁定者(ルーラー)の提案に同意しよう」

 切嗣は内心の葛藤を隠しつつ、表面上は無表情のままルーラーの提案を受け入れた。

 だがその一方、言峰はまるで興味がないといった様子で、ルーラーの提案を拒絶する。既に、この男の頭の中では聖杯戦争のことなど瑣事にすぎないらしい。

「ルーラーといったな、そこのサーヴァント。私は今、聖杯戦争に構っている暇はない。私の用件が済むまでは黙っていてもらおう」

「綺礼!」

 そっけない態度をとる綺礼に対し、彼の父親でもある璃正が説得を試みる。

「お前が何故衛宮切嗣に執着するのかは知らないが、今は非常時だ。個人的な心情としては、衛宮切嗣と雌雄を決したいお前の気持ちを汲んでやりたいが、かといってあのサーヴァントの暴走を横目に私闘をしてもらっては困る。あの怪獣を打ち倒すには、残存する全サーヴァントの助力が不可欠だと聖堂教会は判断したのだ。既に、聖堂教会と魔術協会の両スタッフが奔走しているが、それでもこの事態は手に余る……頼む、綺礼」

 正直言って、父からの説得を受けてもなお、ここで衛宮切嗣との決戦をお預けされることは綺礼からすれば不服極まりない提案だった。だが、ふと綺礼は思う。自分に対してはこの二十数年の人生で、誰よりも真摯に向き合ってくれたのは父だった。

 何れ親不孝にも自分の畜生以下の本性を曝露せねばならない相手だ。それを曝露する日までは、璃正の前では今までと同じ姿を見せていた方がいいだろう。義理というわけではない。ただ、何れ父と襟を開いて話し合うその時まで、自分の本性を悟らせない方がそれを曝露したときの対応が興味深いものになると考えたからである。

「分かりました、父上……ですが、次に衛宮切嗣と雌雄を決するときが来たならば、裁定者(ルーラー)は介入しないという確約をこの場でいただきたい」

『今回のように聖杯戦争のルールをどちらかが大幅に逸脱しない限りは介入しない。それは、私が確約しよう。……それでいいかね」

「承知した」

 といっても、綺礼にできることなど多くはない。栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)を失った今、再度アサシンに卵を生ませても、新しいメガヌロンが孵化するまで数日、さらに栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)に成長させるのにも令呪一画が必要となる。この場で彼に出来ることは、精々メガニューラたちに命じてバーサーカーのエネルギーを吸収させることしかないのだ。

『ではウェイバー君、そしてライダー。君達も頼むぞ!!』

 綺礼と切嗣が納得してくれたところでルーラーはこう言い残して目の前で腕をクロスさせた。

『デュワ!!』

 クロスした腕を解くと同時にルーラーは巨大化し、戦場へと飛び立った。それに続くように、メガニューラの群れが飛び立っていく。

「うえぇ……気持ち悪い……」

「何言ってんだい、このバカ!!そこのジーさんだってピンピンしてんだから、もう少しシャキっとしな!!」

 その一方、超高速で飛ぶルーラーに抱えられていたウェイバーは未だにグロッキー状態だ。その情けなさから相変わらずベルベラからこき下ろされている。

「マスター、急がないと駄目よ。このままあの怪獣を放ってはおけない!!」

 モルもウェイバーを急かす。事態の深刻さは理解しているウェイバーは狂った三半規管に鞭を打ちながら立ち上がり、ライダーに命令を下す。

「おぇえ……ライダー、モスラを向かわせて、上空からルーラーを援護するんだ」

「分かりました、一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)!!お願い!!」

 他のサーヴァントには遅れるも、甲高い鳴き声を発しながら鎧モスラも飛び立った。

 

 

 

「カッカッカ……愉快じゃのう」

 冬木市上空を旋回する使い魔が見た景色を共有した臓硯の第一声がこれだった。

 燃え盛る街、地面を多い尽くす瓦礫の山、そこかしこに放置された無残な屍体。そして、人智を超越した巨大な影がそこにある。

 南洋の孤島からやってきた平和の守護者、巨大蛾モスラ。3億年前の地球上を支配した巨大蜻蛉の群れ。1億2000万年前に地球に飛来したサイボーグ怪獣。そして、光の国からやってきた光点観測員。

 眼下ではこの星の歴史の中でも指折りの強者たちが原水爆が生んだこの星最強の生物候補筆頭、生ける災悪の権化、怪獣王ゴジラを包囲している。

「ふむ……聖杯も欲しいが、この戦いも中々見られるものではない。これを見逃すのは惜しいのぉ」

 そして、臓硯は背後で蠢く影に振り返る。

「そうは思わんか、アサシンよ」

 臓硯の蟲に集られて身動きのできなくなった1体のメガニューラを興味深そうに見つめながら臓硯は邪悪な笑みを浮かべた。




ゴジラ地上波放送までに間に合って本当によかったです

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