やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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時間があるうちに書けるだけ書いとこうと思いまして、少し執筆のペースを上げてみました。
久々なのでまだ中々ペースが上がりませんが……
とりあえず、かっこいい自衛隊のターンその一です


百里の無頼

『この時間は予定を変更して、緊急報道番組をお届けしています。現在。若狭湾並びに××県冬木市に合計5体の巨大生物が出現したという情報が入っております。若狭湾の原子力発電所は現在、怪獣の攻撃を受けたため電力供給ができない状態にあり、関西地区では各地で停電が発生している模様です。また、未確認情報ではありますが、美浜原発を襲った怪獣はゴジラであるとの報告も入っています』

 茨城県小美玉市百里・与沢にある航空自衛隊百里基地、ブリーフィングルームに設置されたテレビの前には出撃命令を待つパイロットたちが張り付いていた。

「……まさか、俺たちが生きている内に怪獣様を拝むことになるとは思わなかったなぁ、栗」

「ここ四半世紀はカメーバぐらいしかでてこなかったからな」

 『ファントム無頼』としてその名を航空自衛隊に轟かすパイロット、神田鉄雄一等空尉とナビゲーター、栗原宏美一等空尉のコンビもほかのブリーフィングルームの片隅でコーヒーを啜っていた。

『官房長官が間もなく、緊急の記者発表を行うとのことですが……首相官邸と繋がりましたか?』

 テレビの画面が切り替わり、女子アナウンサーの姿の代わりに白髪頭の老人の姿が映し出される。

『え~、複数体の怪獣が我が国に上陸する公算が大きくなったため、政府は先ほどの閣議で自衛隊に出動を要請しました。怪獣の侵攻による危険性と、自衛隊の作戦行動への協力の意味において、指定各地域の住民の皆様には、行政職員の指示に従い、速やかに避難して頂きたい所存でございます』

「自衛隊に出動命令か……栗、俺たちの出番もあるのかね?」

「俺たちのF-4EJ改なら80式空対艦誘導弾(ASM-1)も搭載できるし、近接航空支援に駆り出されることもあるかもしれないな」

 そう言うと、栗原はブリーフィングルームの隅で項垂れている一人の男に視線を移した。男の顔は青ざめ、写真を持つ手は小刻みに震えていた。

「西川の機体も確か……」

「ああ。アイツの機体も二ヶ月前にF-4EJ改に改装された。百里では俺たちとアイツの機体を含めて3機がF-4EJ改に更新されてるな。百里から部隊が出撃するとなると、まず間違いなく俺たちとあいつらの出番になる」

Fー4EJ(ファントム)なら空対空ミサイル(AAM)が通用する飛行怪獣――モスラやバランじゃなきゃ相手にできなかったな。しかも、そんな飛行怪獣なら小松のF-15があるからわざわざ百里から空戦性能に劣るFー4EJ(ファントム)を引っ張り出すことはなかっただろうに」

 対怪獣攻撃に適した機体に乗る西川二等空尉は、ファントム無頼のコンビと並んでこの基地で出撃の可能性が最も高い人物だった。数年前に娘が生まれ、昨年には念願だった第二子、それも息子が生まれたことは神田も知っている。

 子供を残して戦場に出ることに恐怖を隠せないのだろう。かつて、長女が生まれた時には危険な任務への恐怖から判断力などが著しく低下したこともあった彼のことだ。

 怪獣攻撃というかつて自衛隊が累々たる死者を出した脅威へと立ち向かうことになったことで、家族を残して死ぬことへの恐怖がぶり返したのだろうと神田は考えながらも、視線だけは再度官房長官の顔が映し出されたテレビに移した。

『現在判明している情報によりますと、我が国に現れた怪獣の中で過去に出現が確認されているものは2体。まず、1体は1961年に南洋の孤島、インファント島から襲来し、東京に上陸した後にロリシカ国に飛び立った巨大蛾モスラと判明しております。そして、もう1体は……』

 ここで、画面の中央に映し出されている官房長官が一瞬息を呑んだ。そして、決心したかのように険しい顔を浮かべながら口を開いた。

『……もう1体の怪獣は、1954年に初めて我が国に上陸し、東京を中心に甚大なる被害を及ぼした怪獣、『ゴジラ』であると確認されました』

 記者会見会場にどよめきが起きた。記者たちも未確認情報としてゴジラ復活の報は耳にしていたが、それが公式に確認されたとなるとやはり動揺は隠せなかったらしい。

『この度のゴジラを含む複数の怪獣の襲来は、我が国の基本的生存権の重大な危機と認め、また、憲法9条のもとにおいて許容されている自衛権を発動するにあたっての条件、すなわち、わが国に対する急迫不正の侵害である事、他に適当な手段がない事、必要最小限度の実力行使に留める事、以上の3つを満たしていると判断して、政府は先ほど、『対怪獣邀撃法』に則り陸・海・空全自衛隊に出動を要請しました』

 官房長官は手元の書類を纏め、一礼して会場を後にする。それと同時に画面が切り替わり、テレビ局のスタジオと女子アナウンサーの姿が映し出された。

『防衛出動の発令に伴い、自衛隊の部隊の移動、任務遂行上必要な物資の輸送が優先されます。それに伴い西日本を中心に各地の国道、高速道路で交通規制が行われています。東名高速、名神高速、北陸自動車道並びに山陽自動車道、山陰自動車道は全面通行止め、また……』

「ゴジラにモスラ、それに加えて正体不明の怪獣数体か……怪獣総進撃とでも言わんばかりの大盤振る舞いだな」

 神田はらしくないほどに顔を引き攣らせていた。

「それか大怪獣総攻撃、怪獣大戦争と言ったところか。神様ってのがいて、そいつがこんな演目を書いてるっていうなら性根が悪すぎると思わんかね、栗」

「聖書の中では悪魔が10人ほどしか殺していないのに、神様は最低でも240万は殺しているんだ。もしも神ってやつがいるとしたら、どうせそういうもんなんだよ」

 栗原も相方と同様に引き攣った笑みを浮かべる。そして彼が空になっていることも気づかずにコーヒーの入っていた紙コップを傾けたその時、百里基地の基地内アナウンス用スピーカーから第7航空団の副司令、矢瀬の声が聞こえてきた

『神田一尉、栗原一尉!!両名は速やかに司令室に出頭せよ!!繰り返す、神田一尉、栗原一尉の両名は速やかに司令室に出頭せよ!!』

 そのアナウンスを聞いた二人の顔は瞬時に引き攣った顔から緊張で引き締まった顔へと変貌していた。

 

 

 

 神田と栗原の二人は駆け足で司令室へと向かい、扉の前にいた矢瀬に促されて扉を開ける。

「失礼します」

 日本が大災害に見舞われているこのタイミングで司令室に呼び出されることが何を意味しているのか、それが分からないほど愚かな二人ではない。普段のおちゃらけた空気はどこへいったのか、素晴らしい敬礼をして入室した。

「おお、すまんな、急に呼び出したりして」

 司令室に入った二人を出迎えたのは、かつての静浜の音速男の異名をとっていたとは思えないほどにたるんだ達磨のような体型をしたちょび髭の男だった。中東の某王国の前国王にして首相だった男にそっくりなこの男こそ、第7航空団司令兼百里基地司令、太田空将補である。

「さて……こんな時に百里、いや、空自一の問題児もといエースを呼び出したんだから、用件は察しがついとるな?」

 太田にとってはエースというよりも問題児の印象の方が強い二人であるが、腕が確かであることは認めていた。

「司令が自分たちを指名して呼び出す時は、『俺たちにしかできないこと』をやらせる時ですよね」

「国家存亡の危機に呼び出されれば、神田だってどんな命令が来るかは予想できるはずですよ」

 太田とも長い付き合いのある二人は、太田の態度から彼が部下を命を落す可能性が極めて高い実戦に送り出しながらも自分が安全な後方に留まることに対して心苦しさを覚えていることをおぼろげながら察していた。

 だから右手を下ろした二人は、敢えて先ほどまでとは一転して普段と同じ態度で太田に接する。少しでも普段どおりに振舞って司令の不安を取り除いてやりたいという親を想う子のような心で。

「うむ……そうだな、なら早速説明に入ろう」

 だが、子が親の心が分かるように、親にも子の心は分かる。太田は神田たちの心遣いを理解しつつ、話を続けた。

「こちらは、防衛省技術研究本部(技本)の竹田君だ」

「竹田です。よろしくお願いします」

 太田に紹介された竹田という男は、如何にも技術者といった矢瀬副司令よりも痩せて見える眼鏡の似合う人物だった。

「上からのご指名でな……お前達には特殊兵器を抱えて冬木にまで飛んでもらうことになった。竹田君には、後ほどその特殊兵器の説明をしてもらうために来てもらっている」

「俺たちを名指しですか?……おい、栗よ。俺たちそんなにお偉方に名前を知られてたり、恨みを買ったりしたかい?」

「吹流しを折り過ぎたか?それとも、霞ヶ関に突っ込みかけた一件か?後はアメリカでやらかしたやつか……心当たりがありすぎるな」

「お前ら!!心当たりとなる問題行動が多すぎるぞ!!普段からもう少し慎まんか!!」

 普段彼らの問題行動の尻拭いをしている太田が吼える。

「問題行動については今更だがな、今回はそっちは関係ない。現在対怪獣攻撃の指揮を執っている特殊戦略作戦室の、黒木特佐からのご指名だそうだ」

「黒木の指名ですか!?」

「知ってるのか?」

 神田の問いに栗原は記憶を辿るように答えた。

「防衛大を首席で卒業したエリートでな、俺が千歳にいた頃に何度か顔を合わせる機会があったんだ。お前も噂ぐらいは聞いたことあるんじゃないか?例のヤングエリート集団のトップだぞ?」

「ああ、あのヤングエリートの……しかし、どうしてその特佐殿が自分たちなんかを指名したんです?」

「ワシもそれが気になって尋ねたよ」

 太田は溜息をついた。その溜息には問題行動の多い部下に対する嘆きと部下を戦場に送り出す悲哀が混ざっており、彼の複雑な心情を吐露しているようだった。

「ほら、前にアメリカに研修にいったとき、お前達はF-4でF-15を撃墜判定したことがあったろう。その実力を買われてのご指名とのことだ」

 以前、神田と栗原の二人はアメリカに研修に行った際にドッグファイトのみの演習とはいえ、F-4一機でF-15六機に撃墜判定を下したことがある。その時の武勇伝は自衛隊内に広がっていたのである。

「なるほど……だから我々をご指名ってことですか。それで、任務っていうのは?」

 太田は手元の二枚の書類を神田と栗原に一枚ずつ手渡す。

「概要は以下の通りだ。二分やるから目を通してみろ」

 二人は手渡された書類に視線を移す。そして、視線を下に移していくごとに次第に彼らの表情は険しいものになっていく。

「こりゃあまた……」

「中々にデンジャラスな任務ですね」

「……そうだ。お前達には、ミサイルをゴジラの口にぶちまけてもらわねばならん。やってくれるか?」

 その書類に書かれていたミッションは、『弾頭にカドミウムを搭載した対艦ミサイルを抱えたF-4EJ改でミサイルや砲弾が飛び交う戦場に突入し、怪獣たちの攻撃を避けながらゴジラの口内に対艦ミサイルを叩き込む』という空前絶後のものであった。

「しかし、カドミウムってあれでしょ、ほら、イタタタ病とかの……」

「イタイイタイ病だ、神田。それで、どうしてゴジラにカドミウムなんか飲ませるんです?ゴジラに毒が効くとでも言うんですか?」

 栗原の問いに、竹田が答える。

「ゴジラの体内では常に核反応が起こっており、ゴジラはそのエネルギーで活動していると考えられています。そして、原子炉の制御材にも使われるカドミウムをゴジラに投与することで、ゴジラの体内の核反応を制御することが狙いです。まぁ、カドミウムの毒性で死んでくれるのであればそれに越したことはないのですが、それはあまり期待していません」

「なるほどな、ゴジラの活動に必要とするエネルギーを生み出せないようにして、ゴジラを酸欠にしてしまえってことか」

「概ねその通りです、栗原一尉」

「なるほど……作戦の主旨は理解できる。だが、まだ問題がある。どうやってカドミウムをゴジラに摂取させるというんだ?はっきり言うが、80式空対艦誘導弾(ASM-1)をゴジラのお口にぶち込むってのは俺たちにも九分九厘できないからな」

 ただでさえ重い対艦ミサイルを搭載すればF-4EJの動きが鈍ることは言うまでもない。その上、対艦ミサイルを口内にお見舞いするとなると、また難易度が跳ね上がる。現在の空対艦ミサイル(ASM)の精度であればミサイルを所定の場所に命中させることだけならば楽勝であるが、小回りのきく生物のよく動く頭部を狙い、口の中にミサイルが入り込む角度で叩き込むとなると話は別だ。

 しかも、現在唯一F-4EJ改に搭載可能な国産空対艦ミサイル、80式空対艦誘導弾(ASM-1)は終末誘導をアクティブレーダーホーミングで行うため、怪獣の動きを予想して口の中にミサイルを叩き込むように突入させるとなると、成功率は宝くじの一等を当てる可能性よりも低くなるだろう。

「もしもミサイルが外れれば、俺たちが護るべき国土に猛毒のカドミウムをばら撒くことになる。当たらんミサイル抱えて死地に飛び込んで、無駄死にした上で国土を汚染する任務に就くぐらいなら、俺は命令を拒否させてもらうぜ。懲戒免職になろうが、刑務所行きになろうが、銃殺になろうがその方が遥かにマシだ」

「俺も栗と同じだ。そうなったら俺もついてくぜ」

 二人の凄みのある視線を向けられ、技術者でしかない竹田は思わず半歩後ずさってしまう。だが、そこに太田が助け舟を出した。

「まぁまぁ、そう短絡的に考えるな二人とも。さっき言っただろう?彼がここに来たのは、特殊兵器の説明のためだと。カドミウムの弾頭の説明のためだけに来たわけではないんだ」

 太田のとりなしに、神田たちも身体から立ち昇っていた凄みを押さえる。

「すまんかったね、竹田君。続けてくれ」

「え、ええ」

 竹田は小さく咳払いをして、話を再開した。

「対ゴジラ兵器としてカドミウム弾の使用が検討された際に、当然カドミウム弾の投射手段についても様々な意見が出されました。そして、我々は70年代からそのための兵器の開発に勤しんできました。そして、我々が現時点で出せる答えがこのミサイルなのです」

 竹田は持参していいた鞄から3組の書類の束を取り出し、神田と栗原に一部ずつ手渡し、自身も一部を手に持って説明を始めた。

「詳しくはその書類に書いてありますが、今は掻い摘んで説明させていただきます。今回、カドミウムを弾頭に搭載したミサイルは試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)です。80式空対艦誘導弾(ASM-1)を改造したミサイルで、最大の特徴は、終末誘導が手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)のミサイルであることです。

「終末誘導が手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)のミサイルだと……防衛省技術研究本部(技本)は正気か?」

 栗原が手元の書類を捲りながら顔を顰める。

 手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)のミサイルは、ミサイルを人間が目視しながら手元のリモートコントローラーで操作するため、操縦者にはかなりの練度が求められる。さらに、ミサイルを目視しながら操作する必要があるため、ミサイルを発射する母機が標的にかなり接近しなければならない。

 命中精度を操作者の技量の依存する上、人間の判断力や視力にも限界があるため、遠距離だとほとんど当たらない欠点から、ミサイルの操作をコンピューターにさせる半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)の普及に伴い姿を消した旧式の誘導方式である。

 古くはナチス・ドイツの誘導爆弾フリッツXにも使われていた古めかしい誘導方式を今更持ち出した防衛省防衛省技術研究本部(技本)の正気を栗原が疑ったのも無理もないことである。

「勿論、現代の技術を盛り込んで改良を加えてあります。F-4なら視認しながらついてけますし、画像誘導装置も搭載してますから、あくまで手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)は補助用です。技術者としては悔しいものがありますが、生物という不規則な動きをする標的に精確にミサイルを当てるとなると、最後は人の『勘』でも頼りにするぐらいが必要だという結論に至ってしまうんです」

 日本の技術者達が今持てる技術の限界。それが、このミサイルだと竹田は言う。

「後10年あれば、もっと対艦攻撃性能に優れた機体と完全にコンピューターでゴジラの口まで誘導できるミサイルが配備できたはずなんです。……お二人の技量しか、その10年の技術的な差を埋めることができないんです」

「……なるほどな、それでコンピューター顔負けの誘導技術を持つナビゲーターと、ミサイルを至近距離まで運べる技術と怪獣の真正面に突っ込める度胸を併せ持つパイロットに白羽の矢を立てたわけか。確かに、そんな無茶苦茶な任務(ミッション・インポッシブル)がぶっつけ本番でやれるやつは日本に俺たちしかいねぇな」

 不敵な笑みを浮かべる神田に、栗原も乗っかった。

「やるかい?神田」

「俺らがやらないで誰がやるってんだよ、栗」

 

 

 二人は黙って拳をぶつけ合った。それだけで彼らには全てが通じていた。




今回は、あの不朽の名作「ファントム無頼」から
神田鉄雄二等空尉、栗原宏美二等空尉、太田司令、矢瀬副司令を出してみました。
元々ネタで書いてる作品なので、許してください。

F-4EJ改でカドミウム弾ぶち込もうと考えたのですが、そんな狂った技ができそうなパイロットはエリア88の腕っこきか彼らしかいないので彼らの出番となりました。

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