ゴジラの背中をアイスラッガーで斬りつけるセブン。そして、鎧クロスヒートレーザーで援護するモスラ。ゴジラに対して彼らは再度攻勢に出つつあった。ゴジラも尾を後ろに大きく振り回してセブンたちを振り払わんとするが、尾が振り上げられると同時にセブンは距離を取り、尾の一撃を回避していた。
セブンたちが距離を取ったことで、ゴジラもゆっくりと立ち上がる。相変わらずその目には闘志と憎悪の炎が灯っていた。
アイスラッガーを頭部に戻したセブンは、ゴジラに近接格闘戦を挑む。ゴジラはその指に生えている鋭い爪をセブンに振り下ろす。セブンはゴジラの腕の部分に自らの腕をぶつけることで爪を止め、さらにローキックをゴジラの足に叩き込んで離脱する。
ゴジラのパワーはキングジョー並かそれ以上だ。ゴジラとがっぷり四つに組んだとしても、圧倒的なパワーの差によって劣勢に立たされるであろうことは目に見えている。反面、スピードはセブンがこれまで戦ってきた侵略者たちと比べても遅い部類に入るだろう。
そのため、セブンの基本戦略は隙ができるゴジラの大振りな一撃を回避してのカウンター、そして離脱を繰り返すことになる。数々の宇宙人や怪獣と戦ってきたセブンにはゴジラの一撃を正確に見切り反撃に出ることもさほど難しいことではなかった。さらに、モスラが度々ゴジラの目を集中的にビームで攻撃し、怯んだ隙に拳を叩きこむなどという戦術も取っていた。
ゴジラの爪が空を裂き、尾が大地を抉り、牙が迫る。幾度も迫り来る凶器を回避し、セブンの拳がゴジラの胸に突き刺さり、脚が腹に叩き込まれる。攻撃を掠らせることが精一杯のゴジラと、何度拳と脚を打ち込んでも全く堪えていない相手にひたすら打撃を打ち込むセブン。2体はただそれを繰り返す。
そして、ゴジラに叩き込まれた拳の数が20を超えたころ、セブンはゴジラの動きがどこか鈍くなっていることに気がついた。首に手刀を叩き込んでから離脱し、距離を取ってセブンはゴジラを観察する。
距離をとってよく観察したことで、セブンの疑念は確信へと変わった。ゴジラの足元は完走したマラソンランナーのようにおぼつかなく、一挙手一投足が緩慢だ。先ほどまでの打撃も次第に手ごたえが強くなっていたし、ゴジラの呼吸も荒い。よく見ると、モスラの鎧クロスヒートレーザーが撃ちこまれた箇所が僅かに爛れたままになっている。
そしてなにより、目に見えてステータスが低下していた。間違いなく、ゴジラはなんらかの理由で動きが鈍っており、再生能力も低下している。
――いけるかもしれない。
おそらく、先ほど自衛隊の戦闘機がゴジラの口の中に撃ちこんだミサイルの影響だろう。あれだけの腕があるパイロットは、ウルトラ警備隊時代にもお目にかかったことがなかった。 ゴジラの熱線を回避し、あれだけの至近距離からミサイルを放ち、その上ミサイルをゴジラの口という難しい目標に見事命中させた凄腕の戦闘機パイロットたちにセブンは感謝の念を抱いた。
セブンは知る由もないことだが、ゴジラの口の中にファントム無頼がぶち込んだミサイルの弾頭には、カドミウムがぎっしり搭載されていた。
カドミウムは腎機能に障害を発生させて骨を侵す作用のある人体にとって有害な金属だ。日本では高度経済成長期に富山県で発生した日本4大公害病の一つ、イタイイタイ病の原因となった物質でもある。ただ、その一方でカドミウムには中性子を吸収する性質もあるため、原子炉の制御材としても利用されている。
ゴジラの心臓部は原子炉のような働きをしているという仮説に基づき、カドミウムをゴジラに投与することでゴジラの心臓の活動を抑えようと自衛隊は考えたのだ。
冬木に現れたゴジラはサーヴァントではあるが、サーヴァントは英霊の分霊であるため、基本的に生前の弱点も引き継いでいる。
例えば、クー・フーリンであれば犬の肉を食べれば弱体化するし、宝具『
生前『カドミウム』と『低温』、そして『抗核エネルギーバクテリア』がゴジラの活動を停止させうる弱点だった。サーヴァントになっても引き継がれていたその弱点を突かれ、ゴジラは立っているのがやっとになるまでに弱体化していた。
セブンは地球人たちの献身に感謝し、決着をつけるために新たなる宝具『
――ゴジラの身体を押さえるんだ!!
セブンの最も頼りにする仲間達、『
最初にゴジラに取り付いたのは
しかし、いくら衰えたとはいえゴジラもそう簡単に取り押さえられたりはしなかった。ゴジラは尾を振り回して左足にしがみつく
モスラの胴を
ゴジラが
背後にしがみついた
セブンは『
ゴジラは背に光を灯し、口内に満ちた光を全身の細胞で解放する。身体中から放たれた強烈なエネルギーの波動はゴジラにしがみついていた3体の怪獣を同時に引き剥がすことに成功する。
しかし、ゴジラが拘束を解かれた時にはセブンは左腕を胸に水平にあてて宝具の発射体勢を整えていた。同時に額のビームランプが輝き、エネルギーが充填されていく。
「
セブンが宝具を解放しようとしていることを察したゴジラも、即座に顔をセブンに向けた上で背びれを発光させ、
「
ビームランプから放たれた緑の閃光は、吸い込まれるようにゴジラの口に飛び込んだ。そして、ゴジラの喉を貫通した緑の閃光はそのままうなじから飛び出した。ゴジラは苦悶の声をあげながら
ゴジラの顔は真っ直ぐセブンの方を向いており、宝具を放ったばかりのセブンはすぐに動ける状態ではない。この距離ではまず
しかし、
内から皮膚を削り、周囲の肉を抉り、傷口を焼く熱線による激痛にゴジラは悲鳴のような声をあげる。
カドミウムによって活動を制御され、再生能力も低下した上でゴジラの身体の中で炸裂した
――もう一押しだ!!
ゴジラがもう限界に近いことを察したセブンは、アイスラッガーを手に持ちゴジラに突撃する。もはや、ゴジラには自身よりも素早いセブンの攻撃に対応できるだけの余力はなかった。
セブンはゴジラの前でアイスラッガーを渾身の力を籠めて振り下ろす。袈裟斬りにされたゴジラには、肩から左脇腹に繋がる一閃の傷を刻まれていた。
ゴジラはセブンによって刻まれた傷口から血を噴出しながら大地にゆっくりと倒れていった。
――怪獣王、ゴジラがついに地に伏した。
地に倒れ伏すゴジラの姿。それは人々に歓喜をもって迎えられた。
対艦ミサイルを撃ちつくした海上の護衛艦隊の各艦で歓喜の声があがり、艦橋のクルーの間でも笑みが零れる。
燃え盛る炎の中に倒れるゴジラを目の当たりにした地上部隊の自衛官達は、生き延びることができたことに安堵し、傍らの友と抱き合って勝利の喜びを分かち合う。
先ほどまでは次々と伝えられる損害報告によって混乱し、悲壮な雰囲気が漂っていた司令部も、今は歓喜の渦に巻き込まれている。作戦中は常に鉄面皮を貼り付けていた黒木の顔にも、僅かな笑みが浮かんでいた。
「ふざけるな……終わり、だと?」
――しかし、歓喜の渦中にあるはずのこの冬木の地で一人だけ、怒りと憎悪を滾らせている男がいた。
「ふざけるな、貴様達がいなければ全て上手くいっていたはずなんだ……」
男にとっては、ゴジラが倒れ伏す光景は絶対にあってはならないものであり、否定されるべき光景であった。
「俺は貴様等を許さない……薄汚い魔術師共が!!貴様等が勝つなんてことは絶対に許さない!!」
歯を剥いた男は、怨嗟の声を吐き出しながら右腕を空に掲げた。
「殺してやる……俺の手で、臓硯も、時臣も……お前たちには俺が報いを与えてやる!!与えなければならないんだ!!」
男――
「ヒトデナシどもは、一人残らず、俺の手で殺す!!殺しつくす!!」
雁夜は時臣への、臓硯への、彼の全てを狂わせた魔術に対する憎悪と殺意を籠めて叫んだ。
「全ての力をもってヤツらを殺せ!!
――令呪の消滅と同時に、冬木に赤き怪獣王が降臨した。
今、真の絶望が目覚めた。
これからがゴジラの全力です。