やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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今日予定なんて無いさ
だから書くしかないのさ


あとがき+α

 皆さん、こんにちは。後藤陸将です。

 

 これにて拙作『やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!』はひとまず完結となりました。

 

 「やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!」は元々エイプリルフール用に昨年からチマチマと暇を見つけては書いていたものの、1月にエイプリルフール作品をシティーハンターに鞍替えしたために放置していた作品でした。

 

 死蔵するのももったいないか、ということで多少手直しして公開しました。それで予想以上に評判がよかったのもあって書き続けてみたところ、自分自身もやりたい放題の展開にのめり込んでしまい、気がついたら完結していたという次第です。大怪獣バトルと自衛隊の総力戦をミリタリーチックに書いてみたいというのが元々自分の中に願望としてあったことも大きいと思います。

 

 ただ、この作品を執筆している最中に自分の中で一番大きかった想いは、本物のゴジラを暴れさせてやりたいという気持ちだったと思います。

 あくまで、自分個人の意見でしかありませんが、私はゴジラを描写する際に意識したのはゴジラはあくまで怪獣であるという点です。人間の意志など関係なく暴れ、壊し、殺す。他の力をまったく寄せ付けない圧倒的な力で蹂躙する。

 自然災害にも似た残酷であり決して克服できない超越者でもあるのが日本人にとっての怪獣であり、その始祖であり象徴たりえるのが、ゴジラだと考えています。荒神に近いものと言えば分かりやすいかもしれません。

 人間には絶対に迎合せず、多種とは基本的に敵対する。情など持たない。このあたりが人間との意志の疎通が可能であり、共存しようとするガメラやモスラとの決定的な差ではないでしょうか。故に、自分は基本的にゴジラに人間に対して親しみを持つような人格を持つべきではないというスタンスを取っています。

 勿論、南海の大決闘やゴジラアイランド等、歴代作品の中には自分の抱くゴジラ像に一致しないゴジラも少なからず存在しますし、自分もそれはそれとして受け入れていますが。

 ただしエメリッヒのマグロ。てめぇは駄目だ。私はお前をゴジラとしては完全に否定する。あくまでお前はリドサウルスの二番煎じだ。

 

 また、結果的にセブン苛めとなってしまいましたが……孤軍奮闘と苦戦が似合うウルトラマンだからしょうがない。許してください。元からメルトダウンENDしたかったから、チートラマンはルーラー候補から弾いてしまったのもありますが。

 構想中に最後までセブンとルーラーの座を争ったウルトラマンティガなら、選ばれていればひょっとしてグリッターティガになってゴジラを倒せたかもしれませんがね。グリッターになれば勝ち確定な反面、なれなければ負け確定ですが。

 

 尚、ガイガンはセイバーになれる怪獣が少なかったせいで仕方なく選ばれた不憫な子です。活躍とか描写の多さは基本的に筆者のお気に入り度の高さと比例しているという傾向にあるため、尚更描写も削られて……ガイガンスキーの方々、本当にごめんなさい。私はあの面子の中では、ガイガンとメガギラスには他の怪獣ほどに愛着がないんです。

 

 魔術師共は、世紀末をつくる舞台装置として下衆に徹していただきました。実際下衆ばっかだし、下衆な本性を発揮する場所が増えただけだからね。

 

 

 

 最後に、ここまで読み続けてくださった読者の皆様へ。

 およそ26万字の長丁場をお付き合い下さいました読者の皆様に厚く御礼申し上げます。皆様から頂いた多数の感想が、励みになりました。

 エピローグは当初、ゴジラメルトダウンの鋼の大地ENDの予定でした。しかし、様々な感想を頂き、読み進めていったことを通じて戦後に士郎君を正真正銘の正義の味方にしようというアイデアが浮かび、士郎がセブンになるというTRUEENDという道筋が見えてきてしまいました。

 TRUEENDからスピンオフとも言える『特命係長ロード・エルメロイⅡ世』というネタが浮かび、自分のなかでもおぼろげながら士郎やウェイバー君のその後の物語の構想を考えるようにもなりましたね。中々に面白そうな未来が見えて、楽しいです。

 ただ、反省すべき点としては、物語の展開が緩急おりまぜたものというよりは昇り降りが非常に激しく、ところどころ描写をせずに高速ですっ飛ばすジェットコースターのようなものになってしまったところだと思っています。思いつきで基本ノリと勢いで書いていた結果、自分の中でも整理しなければならないQ&Aとか設定補完が大量に必要になりましたし。

 

 そもそも、ネタに嵌って完結まで突っ走ってないで種ジパングやゴルゴやるべきだろという……

 

 まぁ、何だかんだでこの作品は一応完結です。完結までお付き合い下さった読者の皆様、本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――「完結」「いままでありがとうございました」といいつつのネタ予告。

 

 

 

 

 

 日本のとある田舎町に立てられた教会。部屋の中央に格子のついた窓のつけられた壁がある、普段は使われていない日の当たらないかび臭い部屋に二人の男がいた。この教会を管理していた先代の神父が亡くなってからは滅多に使われることがなくなった、懺悔のための部屋である。

 片方は、鍛え上げられた細身の肉体に赤いコートを羽織った長髪で年のころは30前後の男。そして、もう一人は、外見だけから判断するのならば40手前に見えないことも無いが、身に纏った雰囲気は見る人に対し、憔悴した老人のような印象を抱かせるボサボサの髪の男だった。

「……確かなのか?」

 黒いコートに身を包んだボサボサ髪の男が、壁を隔てた向こうに座る男に問いかける。

「電話で話した通りだが?」

 淡々とした調子で話す赤いコートの男に、黒いコートの男は苛立ちを顕にする。

「とぼけるな……説明してもらうぞ。『聖杯戦争』がまた始まるとは」

 

 

 

 黒いコートを纏った男の名は、衛宮切嗣。かつて、魔術師殺しと謳われた暗殺者で、第四次聖杯戦争を機に9年の沈黙を破って活動を再開した男である。

 

 それに対して、赤いコートを纏った男の名は、ロード・エルメロイⅡ世。またの名を、ウェイバー・ベルベットと言う時計塔最強(物理限定)の講師にして、怪獣絡みの事件を解決し、古代文明の魔術や超生物の生態組織などを回収する時計塔所属の特命係の長を務める男であった。

 

 

 

 ロード・エルメロイⅡ世は、葉巻を燻らせながら口を開いた。

「君も知っての通り、円蔵山の山中に隠されていたはずの大聖杯が無くなったのは5年前のことだ。当時の冬木市はまだ残留放射能の濃度が高く、まともな人間であれば立ち入ることは不可能な環境だった。いや、精確には立ち入れば確実に寿命が10年単位で削られる環境だったと言うべきか」

 死の大地と化した冬木市、円蔵山に謎の穴が空いていることに最初に気がついたのは今は亡き遠坂家先代当主、遠坂時臣だった。彼は時折冬木市の近くにまで赴き、立ち入り禁止区域となっている冬木の街に鳥やネコなどの使い魔を入れて廃墟となった街を眺めることがあった。

 何ゆえに廃墟となった街を見るために定期的に訪れていたのかは、時臣は最期まで娘にすら話す事はなかった。罪悪感からだったのか、戒めにしていたのか、もはやそれは誰にも分からないことである。

 そして、5年前。生前で最期に冬木市を訪れた時、使い魔にした野鳥の目から冬木を見て彼は円蔵山の異変に気がついた。それは、円蔵山の中腹にポッカリ空いた穴。5年の間幾度も冬木を訪れ、その廃墟を眼に焼き付けてきた彼が見間違えるはずがない。その穴は人為的につくられたものであり、それもここ数ヶ月の内に掘られたものであると彼は核心していた。

 その後、当時まだロード・エルメロイⅡ世に名を改めたばかりのウェイバーと、存命中だった璃正、そして切嗣に彼は円蔵山の異変について報告した。

 冬木市でも最上の霊地である円蔵山の地下にあった何かを、高濃度の放射能で汚染された立ち入り禁止地区に侵入し、巨大な穴まで掘って盗み出すなど、魔術師の仕業以外に考えられない。

 そして、冬木の最上の霊地に設置されるべき巨大な何か――となると、聖杯戦争の仕組みをしっている彼らならば容易に想像がつく。間違いなく、聖杯戦争の基幹を成す大規模魔術礼装、大聖杯がそこにあったはずだ。しかし、使い魔の視線で見た円蔵山に穿たれた穴の先には、巨大な洞窟があっただけで、大聖杯の姿はどこにもなかった。

 結論は言うまでもない。どこかの魔術師が、大聖杯を奪取したのである。

 璃正とウェイバー、そして切嗣は、それぞれの持ちうるあらゆるコネクションを駆使して奪取された大聖杯の行方を追った。璃正の死後は、遺言に従って綺礼も捜索に加わっている。もしも、再度聖杯戦争がどこかで引き起こされれば、冬木を、いや、世界を大混乱に陥れたあの災禍が繰り返される可能性がある以上、彼らにはこれを看過するつもりは毛頭なかった。

「私はこの5年、大聖杯を奪取しえる技術のある家を片っ端から調べて回っていた。具体的には、剛力のゴーレムを精密に遠隔操作する技術のある家、又は放射能に汚染されても簡単に使い棄てられるホムンクルスを大量に揃えられるほどに錬金術を修めている家、そして、放射能に汚染されても構わない魔術師を大量に都合できる権力を持つ家だ。そして、私が被疑者としてマークしていたある一族が、つい一週間前に君も知っているように()()を起こした」

「前置きはいい。さっさと要件に入ってくれ。僕が知りたいのは、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが冬木の聖杯を持っているのか、それだけだ」

 ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。衰退の一途にある魔術師達の一族や、権力闘争に敗れて没落した一族、魔術協会から爪弾きにあった一族等を掻き集めた集団『ユグドミレニア』一族の長にして、かつては王冠(グランド)にまで上り詰めた魔術師である。どちらかといえば、魔術師としての技量よりも、時計塔における政治的手腕の巧みさが知られており、八枚舌のダーニックという異名も持つ。

 そのダーニックが率いるユグドミレニア一族は、つい一週間前に魔術協会からの離反を宣言した。彼らは一族の本拠地であるルーマニアに魔術協会に代わる新しい魔術師の管理団体『魔術師連合』を立ち上げたのだ。

 さらに、彼らは独立宣言なる声明を発表し、その中で「我々は聖杯をもって、政治闘争にかまけていたばかりに魔術協会が実現できなかった偉業を達成し、魔術協会に代わって崇高なる魔術の行く末を導くものである」と述べている。

 切嗣がエルメロイⅡ世に態々連絡を取ったのも、その聖杯に関する真偽を確かめる為だった。

「すまないな。講師や慣れない交渉者のような仕事をしていたせいか、話の掴みにために前置きをするようになった」

 ロード・エルメロイⅡ世は、格子の下にある隙間ごしに一冊のファイルを切嗣によこした。切嗣が無言でそれを受け取りファイルを開けると、一ページ目には藍みがかった長髪を纏めた男の写真が挟まっていた。

「ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。ルーマニアのトゥリファスを抑えているユグドミレニア一族の長だ。6年前のことだが、ユグドミレニア一族はアインツベルンと何らかの取引を行っていたことが分かっている。アインツベルンの方は協会もほぼノータッチだから詳しいことは分からなかったが、ユグドミレニアの方はある程度の情報は集められた。赤の付箋が挟んであるページを見てくれ」

 切嗣は、エルメロイⅡ世の言葉に従って付箋の挟まったページを開く。

「なるほど、輸送船から洗い出したのか」

「円蔵山の大空洞の大きさからの推察だが、大聖杯はそれなりの大きさだったことは間違いない。空輸が可能な大きさではないし、国外に運び出すには海運しか方法はない。ユグドミレニアの5年前の金の動きを全て洗い出して、そこからユグドミレニアが支配しているペーパーカンパニーを探し出した。その一方で、5年前の冬木周辺の交通事情を全て調べて、不自然に道路規制が行われた場所を全て探し出し、そこを辿ってどの港に大聖杯が運び込まれたのかを調べ上げた。後は、両方向から手繰っていたら繋がった」

 エルメロイⅡ世は軽く言ったが、実際にはかなりの労力が費やされたことだろう。彼の聖杯――いや、怪獣災害に対する執念は凄まじいものであると改めて切嗣は実感した。

「結論を言えば、ユグドミレニアの謳い文句はブラフではない……やつらは九分九厘、冬木の大聖杯――第七百二十六号聖杯を手中にいれている」

 切嗣はそれだけが聞きたくて今日この場所に足を運んだ。逆に言えば、それだけ聞ければ十分だった。

「君がそう結論付けたのなら、そうなのだろう。それだけを聞きたかった」

 そう言うと、切嗣はファイルを手に席を立とうとした。しかし、席を立とうとした彼をエルメロイⅡ世は呼び止める。

「待ってくれ。私にはここからが本題なのだ。私も貴方の求めることを話したのだから、貴方も私の話ぐらいは聞いて欲しい」

 その言葉に切嗣は立ち止まり、部屋の壁に背を預けた。

「……手短に説明してくれ。もう前置きはいらない」

「分かった。つい先日のことだ。当然のことながら、2000年近い歴史を持つ魔術協会が、自分たちの面子に泥を塗る行為を許しておくはずがない。魔術協会はユグドミレニアの本拠地であるミレニア城砦にユグドミレニア討伐のために『狩猟』に特化した魔術師を送り込んだの。……だが、彼らは一人の生存者を残して全滅した」

「協会は一体、どれだけの部隊を送り込んだんだ?」

「貴方のような、戦闘を生業とする協会お抱えの魔術師を50人。生き残った一人も、魔術師としては再起不能の状態だ」

 切嗣はウェイバーの話を聞きながら、煙草に火をつけた。

「……それで?敵が予想以上に脅威だから、一人で先走るなとでもいいたいのかい?」

 エルメロイⅡ世は、切嗣の問に首を横に振った。

「違う。生き残った魔術師の脳内を洗浄している際に分かったことだが、ユグドミレニアの連中は、どうやら討伐部隊への迎撃に『サーヴァント』を当ててきたらしい」

 初めて切嗣の表情が変わった。能面のように無表情だった顔には、僅かにだが疑念と驚愕の表情が入り混じっていた。

「同行させていた使い魔が見たのは、蟹と蜘蛛を掛け合わせたような異形の生物の群れだったそうだ。城のいたるところから出現した悪魔の生物によって、ミレニア城砦に潜入した魔術師は成す術無く討ち取られていったらしい」

「どういうことだ?冬木の大聖杯は、サーヴァント召喚のために必要な魔力を60年かけて用意している。いくらトゥリファスが優れた霊地だったとして、霊脈から冬木での60年分に匹敵する魔力を5年で吸い上げることなんて不可能なはずだ。よしんば可能だったとしても、その地の霊脈は確実に枯れるぞ」

「その点についてだが、ファイルの青の付箋のページを開いてみてくれ」

 エルメロイⅡ世に促され、切嗣は青の付箋の挟まったページを開いた。

「ユグドミレニアが、この80年で引き入れた一族の中で、最初の30年間で与した一族を調べた。そうしたら、案の定存在した。土地の霊脈からマナを吸い上げ、それを貯蔵する礼装を研究していた魔術師が」

 どうやらその魔術師本人は、20年前に死亡しているらしいが、ダーニックがその研究の遺産を相続している可能性は極めて高い、とエルメロイⅡ世は判断していた。

「最初から聖杯を狙っていたのか、それとも、他の用途に利用するつもりだったのかは分からないが、ダーニックは最大で50年間霊脈からマナを吸い上げ続けていた可能性がある。その大量のマナを大聖杯に注いで起動させた……とすれば、僅か5年で大聖杯を起動させたとしても不思議ではないだろう?」

 筋は通っている。切嗣はそう思った。

「……なるほど、分かった。忠告感謝するよ」

「待ってくれ。この話にはまだ()()()があるんだ」

 壁から背を離そうとしていた切嗣をエルメロイⅡ世は呼び止めた。

「今回の聖杯戦争は、私達の知るそれとは大きくことなっている。なんせ、召喚可能なサーヴァントの数は前回のおよそ倍――14騎におよぶとのことだ」

「何……?」

「ユグドミレニア討伐部隊の唯一の生き残り――彼は、一族の長であるダーニックを討ち取ることは叶わなかったが、サーヴァントの迎撃網を潜り抜けて大聖杯を発見するに至った。そして、聖杯に備えられていた予備システムの起動に成功した」

「予備システム?一体どういうシステムなんだ?」

「端的に説明すれば、出来レースを回避する仕掛けだ。7騎のサーヴァントが同一の陣営に属して互いに争わないような場合に対し、対抗策として追加で7騎のサーヴァントの召喚を可能とする仕掛けが起動するように大聖杯は設定されているらしい。トゥリファスは冬木をも凌ぐ超一級品の霊地だ。サーヴァント14騎を召喚するだけの魔力を調達した場合、冬木ならば霊脈が枯れる可能性が高いが、トゥリファスならば霊脈が枯れずとも別に不思議ではない」

「そうか。ユグドミレニアは既に7騎のサーヴァントとその7人のマスターを一族の中で揃えたということか」

「そういうことだ。そして、魔術協会も7人のマスターを揃え、7騎のサーヴァントを召喚する権利を得ている。……そこでだ。単刀直入に言おう。貴方はサーヴァントを召喚し、マスターとして聖杯戦争に参戦するつもりはないか?」

 切嗣はエルメロイⅡ世の提案を聞き、眉をピクリと動かした。興味を惹けたことを確信しているのだろう。エルメロイⅡ世は淡々と説明を続けた。

「トゥリファスは彼らの本拠地だ。態々魔術協会に宣戦布告したも同然の宣言をしたのだから、トゥリファスには並大抵の魔術師ではどうにもならない周到な準備をしているに違いない。とはいえ、先に全滅した討伐部隊のメンバーを超える魔術師を7人も短期間で集めるというのも簡単な話ではない」

 名門の魔術師の中には、魔術師の技量だけならば先の全滅した討伐部隊のメンバーよりも上の者も少なからず存在する。しかし、前回の聖杯戦争では、時計塔が自信をもって送り出したマスターであるケイネスが帰らぬ人となり、魔術刻印の欠片すら回収することは叶わなかったという驚天動地の事態が発生した。

 当時、時計塔で神童とまで呼ばれていたケイネスですら還らぬ人となったとなれば、当時を知る魔術師が聖杯戦争で確実に生還できる見込みを持てないのも無理もない話であった。もしも、そんな彼らの中からマスターを選んだ場合、選ばれた魔術師は確実に魔術刻印の継承や補完を事前に済ませておこうとするだろう。しかし、魔術刻印の継承、補完の手配には時間がかかるため、下手をすれば聖杯戦争に間に合わない可能性も高い。

 また、勝者が手にするのは曲りなりにも根源に到達できる可能性を有した万能の願望器だ。権謀術数の入り乱れる時計塔の中では、マスター候補の枠を巡って水面下で激しい争いが行われる可能性が高い。魔術師間の権力闘争に巻き込まれて、聖杯戦争前に面倒なことになるかもしれないし、下手をすれば組織内の調停でかなりの時間を浪費するかもしれない。

「名門の魔術師を選定しているだけの暇はない。怪獣対策の専門家扱いされている私と、召喚科学科のご老体。そして降霊科学科の講師と相談した結果、それぞれ二人ずつマスター候補を用意するという話になった。残りの一人のマスターは、協会の正当性を示すために聖堂教会から派遣させることに決まっている」

「君は、僕をそのマスターとして推薦するつもりか?」

「貴方は、あの悲劇が繰り返されようとしている時に黙っていられる人間ではない。それが理解できるくらいには長い付き合いだ」

 切嗣は懐から取り出した携帯灰皿で煙草を揉み消しながら溜息をついた。

「分かった。マスターを引き受けよう。しかし、さっき君はこの件に噛んでいる君を含んだ三人の魔術師が二人ずつマスター候補を用意すると言った。そうすると、君の持つ残りの枠は君自身が埋めるのか?」

 エルメロイⅡ世は紫煙を吐き出しながら首を横に振った。

「……私自身は参戦しない。代わりに、弟子の一人である少女を推薦するつもりだ。私の教え子になってから一番日は浅いが、芯のしっかりとした『人間臭い』若者だな」

 ――――『生命は定められた時の中にこそあるべし』

 かつて、サーヴァント召喚の際に触媒にした石版に彫られた言葉は今も彼の心に、サーヴァントの言葉と共に刻まれている。

『死者の魂に、人間が手を触れてはいけない。サーヴァントは皆、死者です。私達、過去の存在は時の流れの中に葬られなければなりません。マスター、貴方も二度とサーヴァントを召喚しないでください。人間が、死者の魂を戦いの道具とすることは、大いなる過ちに他ならないのです』

 エルメロイⅡ世自身が参戦しないのは、かつて己のサーヴァントと結んだ誓いのためだった。切嗣も、彼とは短くはない付き合いだ。命をかけたやり取りに怯えて召喚を拒んでいるとは考えず、話を続けることにした。

「君が太鼓判を押すのなら、その弟子についてとやかく言うつもりはない。……それで、他のマスターは決まっているのか?」

「それについては、そのファイルの黄色の付箋のページに詳細を載せておいた」

 切嗣は黄色の付箋が挟んであるページを開き、そこに並んでいる魔術師の名前に目を通す。

結合した双子(ガムブラザーズ)銀蜥蜴(シルバーリザード)……それに、死霊魔術師の獅子劫界離か。なるほど、早々たる面々だ。それで、聖遺物の手配はどうなっているんだい?」

「聖遺物の手配は我々が既にすませてある。君には、これを渡そう」

 エルメロイⅡ世は、格子ごしに古ぼけた眼鏡のつるを差し出した。

「これは?」

 この時、初めてエルメロイⅡ世は彼の前で笑みを浮かべた。

「怪獣が相手ならば、数々の怪獣の生みの親になったお方に相手をしてもらうのが一番だろう」

 怪獣の、生みの親。そして、明らかに近代以降に作られた代物の触媒。切嗣の頭の中で点と線は一瞬で繋がった。そして、切嗣はエルメロイⅡ世の発想に驚嘆する。

「まさか……」

 

「そうだ。特撮の神様に御足労いただく」

 

 

 

Fate/FINAL WARS  近日執筆予定無し




特撮の神様なら、ゴジラにも勝てるよね!!

書かないけど。

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