やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

44 / 46
ネタです。
多分続きませんので、導入部だけです

レオなウェイバー君を主人公ポジにしてみました。


特命係長ロードエルメロイⅡ世 《大怪獣空中決戦》

200×年、6月5日 日本 長崎沖

 

 

 

 ロード・エルメロイⅡ世――本名、ウェイバー・ベルベットは、お世辞にも綺麗とは言いがたいおんぼろ漁船に乗って波に揺られていた。海は時化ており、船は上下左右前後に激しく揺れるが、激しい揺れの中でも彼は特に酔っている様子は見せない。寧ろ、どこか清清しい笑顔を浮かべているようにも見えないこともない。

 その理由が、彼の視界の端っこで浮き沈みしている二つの金髪の頭であった。魔術で強化しないと見えないほど離れた場所で浮き沈みしているバカ二人。いつも五月蠅い彼らがいないというだけで少し清々する。

 時折「救援を乞う」や「窮地にあり」などといった符丁の魔力パルスを感じるが、とりあえず無視だ。これも、あのバカ二人への修行。6月の海で高々10kmの遠泳だ。2月の海で往復20km遠泳をやらされた自分の時に比べれば感謝の涙が出るほどにやさしいものではないか。

「あそこが、姫神島です!!」

 タクシー代わりに乗せてもらった漁船の船長が、前方の島影を指差した。

「しかしぃ、あの島で見つかったっていうのは、そんなに珍しい鳥なんですか?一昨日も、仲間の漁師が姫神島に学者先生を運んだって言ってましたけど、まさかはるばるイギリスの大学から先生が来るなんてねぇ」

「さて、現物を見てみないことにはなんともいえません」

 ――できれば、()の専門外であることを祈るが。まったく、時計搭も人使いが荒い。一週間前はビシュメル、今度は謎の鳥か。たまには休みぐらい与えてほしいものだ。

 彼は、本音を胸の中にしまって小さな島を見据えていた。

 

 

 

 ロード・エルメロイⅡ世……英国の有名大学に何故か籍だけ残している窓際教授で、怪獣がらみの事件が起こる度に英国の利益のために世界中に派遣されるしがない超過労働パシリ学者。しかし、それは彼の表の顔に過ぎない。

 彼には、時計搭所属の特命係として怪獣絡みの事件を解決し、古代文明の魔術や超生物の生態組織などを回収するという、もう一つの顔があった!!

 

 特命係長ロードエルメロイⅡ世!!

 

 

 

「教授!!助けて!!鮫、鮫がいますぅ!?」

「エルメロイ先生!!船から血を撒くのやめてぇぇ!?鮫が寄ってきますからぁ!!」

 遠くから、助けを求めるバカとアホの悲鳴が聞こえる。どうやら、彼らは声を魔術で拡声しているらしい。相変わらず無駄に器用なことだ。

「ん?何か聞こえなかったか?」

 船長が訝しげな表情を浮かべるが、ウェイバーはあっけらかんとした口調で言った。

「いえ、気のせいでしょう。海鳥の鳴き声か何かではないでしょうかね?」

 悲鳴なんて聞こえなかったし、鞄の隅からはみ出ている血の滲んだビニール袋なんて知らないとばかりに彼は平然としていた。

 

「ジョ○ズなんて聞いてないですって!!ジュラ○ックパークじゃないんですか!?せめてインディ・ジョ○ンズにして下さい!!」

「ス○ルバーグ作品ならいいってわけじゃないだろう、フラットォォ!?」

 

 バカでアホの悲鳴なんて、聞こえない聞こえない。ウェイバーは潮騒の音色に聞き入っていた。

 

 

 

 

200×年、6月8日 日本 五島列島 姫神島

 

 

「なんじゃこりゃあ……」

 長崎県警の大迫力警部補は、目の前の惨状を見て絶句した。家屋は、まるで巨大な腕でも振り下ろされたかのように壁面と屋根が削られており、周囲の樹木も凄まじい力が叩きつけられたかのようにへし折られている。

 しかも、人の気配がまったく感じられない。周囲には悪臭も漂っている。

「この島には、何人くらいの人がいたんですか?」

 同行していた猛禽類の繁殖が専門の鳥類学者、長峰真弓が大迫に尋ねた。

「全部で6世帯17人。加えて平田教授の調査隊と、漁港で聞いたイギリスから来たっちゅう学者さんです」

「それが全員、鳥のせいで姿を消したと?」

「考えにくいこつは事実ですが……」

 長峰は改めて、破壊された家屋を検分する。暴風や地震で倒壊したにしては、あまりにも破壊の範囲が限定的すぎるように思えてならなかった。

「ありえません、そんなことが可能な鳥は……」

 そこまで口にしたとき、長峰の脳裏に数年前平田がゼミの学生であった自分に見せてくれたファイルの存在が頭を過ぎった。確か、先生が友人を通じて入手したというそのファイルには――

「そげんこつができる鳥に、心当たりが?」

 急に黙りこんだ長峰に大迫が尋ねる。

「……そんなことができるのは、()()と人間だけです」

 長崎出身の大迫の脳裏に過ぎったのは、かつて九州全土を恐怖のどん底に叩き込んだ空の大怪獣の姿。

「ま、まさか……」

 大迫の表情の変化から、長峰は彼が自分の出した仮説に到達したことを察して静かに頷いた。

「空の大怪獣ラドン、それか火山怪鳥バードン、あるいはそれに類する新種の鳥型怪獣……私の知る限り、こんなことができる()はそれぐらいです」

 大迫の顔が一気に青ざめた。

「自衛隊の協力を要請して下さい。最悪の場合、とんでもないことになるかもしれない……」

 長峰の言葉を聞いた大迫は、慌てて自分たちを運んできた県警のヘリコプターに駆け込んだ。

 

 

 

 長峰は、その後自衛隊と連絡を取った大迫に島の山中の捜索を申し出た。半壊した民家の中から、鳥の未消化物の塊――ペリットにも似た白い悪臭を放つ塊が発見され、そこから恩師、平田教授の愛用していた万年筆や眼鏡が見つかったことが、彼女を捜索に駆り立てていた。

 もしも、平田教授が言っていた「鳥」とやらがこの集落を襲撃し、平田教授を喰らった犯人(犯獣?犯鳥?どちらでもいいのだが)であり、まだこの島に潜んでいるというのなら、この眼で恩師の仇の姿を見たかったからだ。また、彼女もまた鳥類学者であり、危険な存在であることは理解していても、新種の可能性が高い「鳥」に対して知的好奇心を抱かずにはいられなかった。

 大迫は自衛隊が来るまで捜索は待つべきだと進言したが、もしも相手が怪獣であるならば、一刻も早く確認するべきだという長峰の主張の前に折れざるを得なかった。元々大迫には長峰を止める権利はないし、警察官として女性を一人怪獣が潜んでいるかもしれない山中に送り出すことも容認できなかったからである。

 しかし、捜索は難航した。6月になり、青々と繁った草木は彼らの視界を遮り、針路としている小さな沢の周りを覆っている。

 足場の岩には苔も生えており、大迫や随伴の警察官たちの革靴では、フィールドワーク用のブーツを履いた長峰と違って上り下りするのも一苦労だ。昨日の朝まで雨が降っていたこともあって、湿度も高い。気温の6月の上旬にしては高く、山の中は蒸し暑く不快な環境だった。蒸し暑い環境下で山道を捜索することは、スーツや制服に身を包んだ大迫らにとって過酷なものと言っても過言ではなかった。

 昼すぎから捜索を始めて、早数時間が立つ。辺りも次第に暗くなりはじめていた。

「な……長峰さぁん。出直しませんか?もう日も暮れます。もう降りないと、夜の山道を降りることになりますよ」

 長峰は大迫の懇願にも似た提案に眉を顰めた。ここまで来たのだ。仇がすぐそこにいるのであれば、どうしても仇の姿をこの眼で見なければ気がすまない。さらに前に進もうとしたその時、彼女は木々の合間を飛ぶ蝙蝠を見てハッとした表情を浮かべ、立ち止まった。

「……ひょっとすると、あの「鳥」は夜行性なのかもしれない」

 鳥は夜になるとものが見えなくなることから夜盲症のことを鳥目などとも言うが、実際のところ、全ての鳥がそうだというわけではない。フクロウやヨタカなど、夜行性の肉食鳥は少なくないのだ。島からの最後の通信があったのも三日前の夜だったと大迫は言っていたから、その鳥が夜間に活動している可能性は大きい。

「だったら、なおのこと出直した方がよかですよ。こちらには、碌な準備もない。熊や猪ならともかく、流石に怪獣相手にワシらの拳銃が通用するとは考えられません。まして、暗闇で襲われでもしたら、こちらは相手の姿を見ることすらできません」

 大迫の主張に理があることは、長峰とて理解できないわけではない。だが、鳥類学者としての意地も棄てきれない。

「でも、せめて一目……」

 その時、耳を劈くようなおぞましい声が山に響いた。その声に恐怖を覚えた長峰たちは思わず身体を屈める。次いで、身体を屈めた彼女の耳に慣れ親しんだ音が聞こえてきた。それは、鳥の羽が羽ばたく音だった。しかし、その音の大きさは、長峰が聞いたことがないほどに大きかった。

「長峰さん、後ろ!?」

 振り向いた彼女の目に映ったのは、中生代に生息していた翼竜にも似たフォルムで、羽毛がない鳥だった。大きく口を開けた怪獣の口内には、鋭い牙がいくつも並んで見える。そして、その牙が向けられているのは、自分だった。高速で降下する鳥の姿に足が竦んで動けない。

 しかし、やけに視界ははっきりしており、迫ってくる鳥の特徴がはっきり見える。飛翔することを優先した肉つきの悪い身体に、広い視野を得られる眼のつき方、そして化石で見た肉食恐竜のような歯並び。

 どの特徴も、過去に確認された鳥型怪獣、バードンとは著しくかけ離れた姿だ。一方でラドンには近いといえば近いのだが、この怪獣はラドンに比べてかなり細身だ。加えて、頭部の骨格も大分異なっている。

 走馬灯のようなゆったりとした時の流れの中で、翼を広げて減速した鳥の影に覆われた彼女は自分の運命を悟った。ああ、自分は平田先生と同じように、この怪物に喰われて死ぬのだと――――

 

「ハアァァ!!」

 

 その時、長峰の左手の斜面の上から新たな影が飛び出してきた。凄まじい速さで飛び出した影は、そのまま鳥の首へと突き刺さった。影と激突して吹き飛ばされた鳥は、絶叫を上げながら木々に叩きつけられる。

 激突の衝撃で地面が揺れる中、長峰は見事な着地を決めた先ほどの影の正体を知る。

 それは、男だった。身長180cm以上はある長身で、長髪の男。彼が、あの鳥に飛び蹴りを食らわせて撃墜したのだ。

「貴方は、一体……」

「自己紹介は後だ、下がっていろ」

 長峰の問いかけを一蹴した男は、先ほど撃墜された鳥のもとに駆け出す。男の駆け出した先に視線を向けると、木々に凄まじい速さで叩きつけられたはずの鳥は既に起き上がっていた。

 大きさは、およそ3mくらいといったところだとうか。皮膜らしきものは無残に裂け、身体のあちこちから真っ赤な血潮が吹きだしているというのに、鳥の闘志には些かの衰えも感じられない。寧ろ、手負いとなったことで一層恐ろしさを増した狂気が表情に顕れているように感じる。しかし、手負いの虎と言わんばかりの狂気を発する鳥に、男はグローブを嵌めただけの状態で立ち向かうつもりだ。

 怒り狂った鳥は男の首元に喰らいつかんと突進する。それに対し、男は中国拳法にも似た構えを取って応じる。

「ヤアァ!!」

 男は、鳥の牙が男の身体を捕らえんとしたその瞬間身体の軸をずらして重力に身体を委ねて身を屈めた。目標を失って空を切った鳥の真下を取った男は、地面を全力で蹴って身体を浮かす。

 そして、左足を大きく後ろにそらせた男は、身体を捻り、回転による遠心力を上乗せして一気に左足を振り上げた。狙いは、鳥の首、皮下脂肪や筋肉も薄い頚椎部。芸術的なほどに美しい弧を描いた男の左足は、鳥の頚椎に寸分違わず直撃する。頚椎を渾身の一撃で蹴り砕かれた鳥は、まるで女性の悲鳴のような悲痛な叫びをあげて崩れ落ちた。

 しかし、まだ鳥には息があった。凄まじい速度で木々に叩きつけられ、骨も少なからず折れ、皮膚もいたるところが避けて出血多量。加えて頚椎を蹴り砕かれたというのにまだ生きている鳥の常軌を逸した生命力に、長峰は戦慄する。

 まだ鳥に息があることに気がついた男は、懐からナイフを取り出して鳥の頭に突き刺した。苦悶を孕んだ声で鳴く鳥に、何度も何度もナイフを突き刺していると、次第に鳥の声は小さくなる。そして、弱弱しい声すら出せなくなった鳥は、ついに息絶えた。

 鳥が息絶えたことを確認すると、男はナイフを懐にしまってこちらに歩み寄ってきた。

「怪我は?」

 アングロサクソン系と思われる若い男だ。どうやら日本語の会話にも問題はないらしい。

「いえ。大丈夫です。それで、貴方は……」

「私は、イギリスの――」

 しかし、彼が口を開こうとした時、沢の先から若い――少年のような声がそれを遮った。

「教授~!!待って下さいよぉ~!!」

「置いてかないで下さい、エルメロイ先生!!」

 声の主は金の短髪に青い瞳の少年、それに少しカールした金髪の整った顔をした少年だった。少年達は、慌てた様子で男に駆け寄る。それを見た男は、溜息をついて再度口を開いた。

「……私はイギリスの大学教授をしているウェイバー・ベルベットだ。事情があって、学内ではエルメロイ教授を名乗っている。こちらのカールのアホが、私のゼミの学生、スヴィン・グラシュエート。短髪のバカが、同じくフラット・エスカルドス」

「先生、酷くないですか?せめて二言以上で紹介してください!!」

「バカでアホなフラット・エスカルドスだ」

 フラットの抗議を一蹴したウェイバーは、話を続けた。

「手短に説明しよう。我々は、数日前にこの島に入った。珍しい鳥の雛が見つかったという話を聞いてな。しかし、当然のことながら先に到着した平田教授らからはいい顔をされなかった。仕方なく彼らが雛を見つけた場所の近場を散策していたら――!?」

 その時、エルメロイと名乗った男は何かに気づいたかのように上空を見上げて警戒態勢を取った。その直後、彼らを強烈な風が襲った。そして、立っているのがやっとの風の中で長峰の目ははっきりと捉えた。彼らの上空を通過した、複数の翼を広げた巨大な影の姿を。

「二日前の夜に、奴等は現れた。奴等の数は、私達が知っているだけで5体……いや、今一匹仕留めたから、残りは4体だ。そして、奴等は人間を餌とする、恐ろしく成長が早く獰猛な生物だ」

 ウェイバーの言葉を聞いた長峰は顔を青ざめ、大迫に迫った。

「今すぐアレを追いましょう!!」

「なんば言うとっとですか!!アレが犯人なら、おいたちの仕事じゃなか……自衛隊に任せないかん!!」

 必死に顔を振って怯えている大迫に対し、長峰は一層強い口調で迫る。

「教授の話が本当なら、あの鳥は餌をとるために飛んだんです!!」

「動いたら、おいたちが餌にされてしまう!!」

「あの鳥が海を越えたら、まだまだ被害は広がりますよ!!」

 大迫も、民間人の被害が想定されるとなれば自分だけ尻尾を巻いて逃げることはできない。覚悟を決め、警官隊と共に港に戻ろうとする。

「教授も同行して下さい!!道中で、分かるだけのことを話してもらいます」

 ウェイバーが返事をする前に、長峰は彼を引っ張っていった。

 ウェイバーは拒否権はないといわんばかりの強引さに苦笑を浮かべるが、民間人の被害を救うために智恵を貸すことに元々依存はない。二人の弟子も引き連れて、長峰らと共にヘリコプターの待つ島唯一の港へと足を向けた。




特命係長ロードエルメロイⅡ世爆☆誕
大丈夫、こんな愉悦してたって多分続かないから。

平成ガメラ三部作の第一作の最初の舞台、姫神島にウェイバー君が介入します。
多分、この後なんやかんやでギャオス対策に関わっていくと思います。
まぁ、この世界は怪獣に容赦しないんで、ガメラが上陸する前にギャオスは空自に駆逐されると思いますけどww

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。