第四次聖杯戦争の参加者の一人、ウェイバー・ベルベットは円蔵山の山中に鶏の血で召喚陣を刻み、サーヴァント召喚の儀式を行っていた。
彼が石を積み上げて造った簡易の祭壇の上には、自身の師であるケイネスから盗みだした3cm四方の小さな石版が祀られている。
時計搭の資料倉庫に潜ってその石版の裏に記されている解読不明な文字の調査を1週間にわたって続けたウェイバーは、それが南洋の孤島、インファント島の古代文明で使用されていた文字だということを突き止めていた。
その文字の解読までは時計搭の資料でも不可能であったが、ウェイバーは資料探しの最中にインファント島に伝わるある伝説の存在に辿りついた。それが、インファント島を守護する巨大蛾の存在である。
そして、石版の表に刻まれている紋章が、その巨大蛾を象徴するものであることを突き止めた。この触媒は、インファント島の巨大蛾を召喚するための触媒だと判断したウェイバーは予想外の大当たりの触媒の存在に思わず舞い上がった。
この大怪獣を使役して聖杯戦争で実力を示せば、あの忌々しいケイネスも、自身の考え方が間違っていたと認めざるを得ないだろう。魔術師は血筋ではなく創意工夫でその優劣が決まるのだと、苦虫を噛み潰したような表情で認めるケイネスの表情を想像して笑みを浮かべながら、ウェイバーは召喚の呪文を紡ぐ。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」
召喚の呪文が完成すると同時に、ウェイバーは自身の肉体からありったけの魔力が吸い上げられる感覚を感じた。そして、ウェイバーから吸い上げられた魔力に呼応して召喚陣は光を増していく。召喚陣から弾ける風が周囲の塵を巻き上げ、光を反射してヴェールのように輝く。
そして、光ははじけ、山中の一画を一際眩しい閃光が覆った。
「よし!!手ごたえあり!!さぁ、その姿を見せてみろ、僕のサーヴァント!!インファント島の守護神よ!!」
閃光が収まったとき、ウェイバーは自身の召喚が成功したことを確信していた。手順にも抜かりはなく、召喚のための魔力も吸い上げられた。召喚陣もそれに呼応して正常に作動していた。これで失敗するはずがないと考えていたからである。
サーヴァントの召喚に成功すれば、全長数十メートルの巨大蛾が自身のサーヴァントとして現れるはずだ。
しかし、目の前に存在しているはずの巨大蛾の姿はどこにも見えない。空を見上げ、その姿を探すが、空は雲ひとつない綺麗な月夜だ。全長数十メートルの巨大蛾の姿を見失うはずがない。
「何で?どうしてだ?まさか、召喚に不備が……」
慌ててウェイバーは召喚陣を確認する。まさか、基礎中の基礎である陣の書き方にミスがあったとしたら間抜けどころの話ではない。しかし、召喚陣に不備は見られない。召喚の呪文を失敗しているとも考えられない。だとすれば、一体何が原因なのか。ウェイバーは頭を抱えて召喚の手順を見直す。
「召喚陣に不備はない……詠唱は完璧だった…………触媒、も、あのケイネスのやつだし……それにパスも繋がっているのを感じるし……ああ、もう!!一体何が問題だったんだぁ!?」
その時、頭をかきむしるウェイバーの耳に凛とした声が響いた。
「サーヴァント、ライダー。召喚に従い参上しました。貴方が私のマスターですか?」
「え?」
確かに、聞こえた。女性の声だ。しかし、周囲には人の姿は見えない。前も、後ろも、右も左も上も。人影などなかった。
「でかい図体しているクセに、随分と視野が狭いんだね、人間ってやつは」
さらに、別の女の声が聞こえてくる。先ほどの女性の声よりも荒っぽい声だ。
「下を向いてください。ここです、ここ」
ウェイバーはまさかと思いつつ。下を向く。そして、目の前の光景に驚愕した。
「やっと気がついたのか、鈍間だね、ガキ」
「ベルベラ。そんなこと言わない。この子が私たちのマスターなんだから」
「でも、ロラ……何か少し抜けてる気がするよ、この子」
そこにいたのは3人の女性だった。しかし、ウェイバーが驚いた点は自身のサーヴァントが女性達であったことではない。彼女たちの身長にウェイバーは驚いたのだ。彼女達の身長は、目測だが10cmと少し。日ごろからチビだの小さいだのと揶揄されてきたウェイバーよりも彼女達ははるかに小さかったのである。
そしてそれだけではない。サーヴァントを召喚したことでマスターとなったウェイバーの目には、サーヴァントのステータスというものが見えるようになる。しかし、彼が見たそのサーヴァントのステータスは凄まじく偏っていた。幸運、魔力、宝具を除いた全ての値が最底辺のE-だったのである。
彼は召喚された小人とその規格外なほど貧弱なステータスという二重の衝撃で少しパニックになっていた。
「ちょ……ちょっとまて!?お前達は一体何なんだ!?」
「何なんだって……アンタが召喚したサーヴァントだよ。何か文句あんのかい?」
先ほど別の女性にベルベラと呼ばれていた黒い服を身に纏った女性がウェイバーを睨みつける。その鋭い眼光に思わずウェイバーは怯んでしまう。
「ベルベラ。そんなカリカリしないで」
ベルベラと呼ばれた女性を窘めて二人の女性が前に出る。
「始めまして、マスター。私たちはインファント島に住んでいたエリアス族の末裔です。私は三姉妹の次女、ロラと言います。こちらが長女のベルベラ」
「私は三女のモルといいます」
どうやら、ロラとモルと名乗った二人の女性はベルベラという女性よりは話が通じるようだ。ベルベラにビビッていたウェイバーは少しほっとする。
「あ、いや……どうも…………じゃなくて!!その、わ、私はこの聖遺物を触媒にサーヴァントを召喚したはずだ!!この聖遺物は、巨大蛾の縁のものだったのにどうして君達が!?」
そう言ってウェイバーは祭壇の上に祀っていた石版を回収し、彼女達に見せる。その石版を見た途端、長女のベルベラの表情が変わった。
「こいつは……なるほどね。だからアタシ達が呼び出されたってわけか」
ベルベラは一人納得したような表情を浮かべ、ウェイバーに顔を向けた。
「この石版はエリアス族の記したものさ。だからアタシ達が呼ばれたってわけだ。分かったかい、ガキ」
散々な言いようにムッときたウェイバーは、反論する。
「さっきからガキだの鈍間だのと言っているが、お前はどうなんだよ!!威張ってばかりだが、本当にサーヴァントとして戦えるのか?そんなステータスで!!」
だが、ウェイバーの挑発にもベルベラはどこふく風といった様子だ。
「見る目がないね、人間は。アタシたちはあんたらが繁栄する前から高度な文明を気づいていた種族なんだよ。人間の尺度でアタシ達を測るな」
そう吐き捨てると、ベルベラはウェイバーのリュックサックの上に腰掛ける。
「ホラ、人間。さっさとアタシを運びな!!このアタシを人間のために働かせようってんだ。だったらお前もそれ相応に働きな!!」
その物凄く偉そうな態度にウェイバーは一瞬、誰がマスターか分からせてやろうかという衝動に駆られて右手の令呪に視線を落す。だが、彼はそれは首を振り、
「ごめんなさい、マスター。ベルベラは人間が大嫌いなんです」
「人間を、地球のガンだと思っているみたい」
申し訳なさそうな表情で謝るロラとモルの姿を見て、ウェイバーは僅かに溜飲を下げる。
「いいよ。そういう気性なら仕方がない。だけど、一つだけ確認させてくれ。君達は本当に戦えるのか?」
ウェイバーの質問に、ロラとモルは笑顔を浮かべて同時に答えた。
「「私達に戦闘能力はありませんが、私達にはモスラがついています。モスラは負けません」」
その後、ウェイバーは自身の肩に座るロラとモルから話を聞き、自身の願っていた巨大蛾がサーヴァントではなく宝具であることを知った。そして、その宝具が使い物になるまで、つまりは後最低3日は敵サーヴァントと遭遇すれば打つ手がないという現実に頭を抱えることになる。
《サーヴァントのステータスが更新されました》
クラス:ライダー
マスター:ウェイバー・ベルベット
真名:ロラ/モル/ベルベラ
性別:女性
身長:12cm/体重:―g
属性:秩序・善
パラメーター
筋力:E-
耐久:E-
敏捷:E-
魔力:A
幸運:A+
宝具:Ex
クラス別能力
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない
騎乗:A
騎乗の才能
獣であるならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる
ただし、竜種は該当しない
彼女達の身長の関係で、実際に乗りこなせる獣はかなり限られる
保有スキル
動物会話:A
言葉を持たない動物との意思疎通が可能
動物側の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらないはずなのだが、彼女達は彼らの感じたものを共感することでほぼ完全なコミュニケーションを行うことができる
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避
宝具
ランク:A
種別:対人(自身)宝具
レンジ:―
エリアス3姉妹で一体のサーヴァントとして換算されて召喚されるため、ロラ・モル・ベルベラという3人のサーヴァントとして現界する
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ランク:E~Ex
種別:対軍宝具
レンジ:2~150
最大捕捉:100人
エリアス三姉妹が呼び寄せるインファント島の守護神
ただし、エリアス三姉妹が召喚された直後は幼虫の状態でしか呼び寄せることができない
召喚から2日目で繭をつくり、3日で羽化、5日目にモスラがニライ・カナイの秘宝によって進化し、7日目に最終形態に進化する
日を追うごとにパラメーターが上昇し、7日目には強力無比な宝具となる
ランク:E
モスラの幼虫を呼び出す
武器は虹色に輝く強粘性の糸と磁場を利用して腹部から放つエネルギーのみ
皮膚を構成するプリズム状の組織で光を調節して周囲の景色に擬態する能力を持つ
移動速度が遅く、それでいて巨大なために戦闘能力は極めて低い
繭をつくれば、Cランク以下の宝具は受け付けないぐらいには防御力が上昇する
ランク:B
モスラが一万年の大地の英知を授かり、羽化した姿
額から放つレーザーや鱗粉で形成したプリズムレンズによって超高熱の光を照射するなどの多彩な技を使用可能
分身を多数造り出すことが可能で、エリアス三姉妹は本体のモスラを召喚せずともこの分身のみを召喚することもできる
ランク:A
モスラがニライ・カナイの秘宝「命の水」によって進化した姿
姿形はグリーンモスラとあまり変わらないが、瞳は緑から蒼になり、翼は緑を基調にした模様から蒼を多く含む虹色に変わった
水を盾にしたり、全身を発光させてビームを放つなどの技が使える
また、水中戦に適応した水中モード、過去へのタイムスリップができる光速モードへの変身ができるようになったために戦略の幅も広がっている
ただし、過去にタイムスリップした場合には現代に帰還することはできない
ランク:Ex
モスラが原始モスラ達の作った繭の中で一億三千万年も眠った末に復活し、進化した究極の姿
全身を鎧のような甲殻で覆っているため、防御力は非常に高くBランク以下の宝具の攻撃を一切受け付けない
全身をフラッシュエネルギーで覆って突撃すれば、Exランク相当の威力の体当たりになる
ビーム等の技も全て強化されており、Aランク相当の威力になっている
《捕捉》
平成モスラ三部作に登場した小美人、エリアス三姉妹
宝具としてモスラが召喚可能だが、彼女たちの素の能力は下の下どころではなく下下下の下
モスラが羽化する3日までは、大抵の魔術師ならば(ウェイバーには無理だが)一蹴できるほどの弱小さ
モスラがサーヴァントだと思った?
その裏をかいてサーヴァントはエリアス3姉妹でした!!
まぁ、乗り物がライダーのクラスにはなれないしね